鉄の意志を5ミリくらいは引き継げればいいなっていう男の話   作:藤涙

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text24:Plus ultra!!とか言っとけば大抵の事はなんとかなるんやで

 

 

 

「…………………」

「おーほっほっほっほ!!! 普通科のお嬢さん、運がよろしかったのね!! ただでさえ難易度の高い3年の競技でギリギリ…!! 運良く…!! 最下位通過できるなんて…!!!」

「ねえねえ、美々美ちゃん。怖がってるよー?」

「気安く呼ばないでちょうだい波動ねじれ!!!」

 

ひえ〜〜〜、と言いたいのをとりあえず堪えた。目の前ではものすごく派手な女性と、水色の綺麗な髪をした女の子が(一方的に)言い争っている。

声を出そうと思って、やはりつっかえる。もしかしたら先程みたいな思いきりがいいところじゃないと出ないのかも。そう思うと残念だったが、出るとわかっただけでも進歩だ。

 

「ねえねえ、名前はなんていうの? 普通科の子なんだよね? 声出ないの? フシギ! ───じゃあお絵描きしてお話しよ!」

「こらこら波動さん…」

 

派手な女性はサポート科の絢爛崎美々美さん。水色の髪の女の子はヒーロー科の波動ねじれさんと言うらしい。これまでだったら自己紹介されても少し視線をさ迷わせて、ちょっとだけ頭を下げるだけですませていたのだが、これからの声響は違う。ホワイトボードに「声響あのね」と書いて、深々と頭を下げた。よろしくね、と口パクで言ってみたりしている。

 

ここは生徒の待機部屋だ。

第1競技を勝ち抜いた42人の生徒達が一同に集められている。やはりというか、当然ヒーロー科がほとんどで、サポート科や普通科の生徒は絢爛崎と声響のみ。

過ごし方はいろいろで、今集まっている通形、波動、天喰、絢爛崎、声響のように談笑してリラックスしている人もいれば、目を瞑って瞑想している人もいる。

 

「次はなんの競技なのかな。波動さんは何か噂でも聞いた?」

「うーん、3年生担当の先生が、13号先生にパワーローダー先生、スナイプ先生とハウンドドッグ先生……あとアント先生でしょー? このメンバーでやりそうなこと…」

「……?」

通形の問いに波動が眉根を寄せて考え込む。意味がわからず呆ける声響に、絢爛崎が「そんなことも知らないんですの?」と呆れながら教えてくれた。

 

「毎年、第1競技と第3競技は変わりませんの。第1競技は年毎に難易度の違う障害物競走。第3競技は16名のガチバトルトーナメント。毎年第2競技だけは───その年の担当教師達がお決めになられますわ」

「……」

 

なるほど、とよくわかっていないながらも頷く。

つまり─────どういうことなんだろう。

 

少しだけ首を傾げた声響に気づいたのか、こちらに目を一切向けない男の子───天喰環が口を開いた。

 

「例えば俺達は───期末試験とか、授業の度に各先生達と模擬戦をして、ある程度はその先生が何ができて何ができないのかを把握している。今言われた先生の中には地形そのものを変えてしまえる個性や、大軍を操る手段を持っていることも知ってる。次の競技までに15分かかるのは、それだけフィールドを変えるのに手間取る競技ってこと…つまり───」

「ある程度競技の予測ができるってことだね!」

 

白い壁に向かい合いながらボソボソと説明してくれる天喰に、元気よく通形が言葉を被せた。天喰の考察に、本当の意味でなるほど…と頷く。

 

確かにパワーローダー先生がフィールドを準備し、13号先生や他の先生達が細工をするなら、それはそれは大変なことになるだろう。

言うなれば凝る人間が多いのだ。サポート科担当パワーローダー先生しかり、USJをひとりで管理する13号先生しかり、そして────

 

「しかも今年はアント先生がいるもんねぇ」

「ああ、嵌め殺しされる…」

「噂通りの先生ですの?」

「まあ、ある程度は…」

「あれ? 美々美ちゃんって物理履修してたじゃん。1年生の頃」

「だから気安く呼ぶなと…!! ───まあ、先生として見せる顔と、ヒーローとして見せる顔。彼、違うタイプでしょう? 私は先生としての顔しか知りませんわ」

 

絢爛崎の言葉に、ヒーロー科の3人は「あ〜」と納得したような表情で頷いた。

どうやら話題は関西弁の物理教師のことらしく、全員微妙そうな顔で悩ましそうに唸った。

 

「どうなのかな…なんていうか、性格が悪い?」

「いや、性格は悪くない。悪いのは意地」

「理詰めで追い込んでこない? やっぱり頭が回るっていうか、それでいて思い切りがよくて…」

 

「???」

 

ヒーロー科の3人は、アントマンの恐ろしさを知っている。

どんな競技に魔改造されているんだろう───。と、3人揃って溜息を吐くのだった。

 

◆◆◆

 

「───さあ皆、お待ちかねー! お待たせ致しました第2競技はっじまっるでー!」

「…」

 

きっかり15分後。

第1競技を勝ち抜いた生徒達をフィールド内に出し、茶ノ丸はテンション高く叫んだ。

 

パワーローダー先生と13号先生がなぜか息を荒らげて四つん這いになっているが、フィールドに不可解な様子はない。砂色の土埃が風に吹かれて舞うばかり。

生徒達は意外そうに眉をあげていたり、逆に怪しむものもいる。

 

「第2競技は───13号がなんか死んどるから俺から説明するなー!!───名付けて“迷路の中を行け! チキチキ赤ちゃんおんぶレース” !!! 高性能赤ちゃん人形を抱えて泣かさないように走り抜けろーってやつやな!!」

 

「待って迷路って何」「迷路……?」

「迷路なんてどこに…」「チキチキ?」「古…」

 

スタッフが抱えてきた人数分の人形と抱っこひもを受け取り、生徒達は頭にはてなマークを飛ばす。

赤ちゃん人形はとてもリアルだ。重さは3キロほどで身長も同じくらい。瞼も開くタイプのものらしく、今はすやすやと眠っている。

 

「そ、それでは───ッ!!

ルール説明は……、僕から……ゲホッ」

 

「「「(なぜかものすごく疲れている…)」」」

 

荒い息を吐きつつ立ち上がる13号。フィールド建設で何があったというのだろう。

 

「……ふぅ。この第2競技は赤ちゃん人形を抱えながら迷路を突破する、という内容になっています。赤ちゃんにはご機嫌・ぐずり・大泣きモードがあり、揺れや衝撃に反応します───大泣きモードになってしまったらその時点で失格。赤ちゃんの機嫌を保ち、そして守りながら、脱出目指して駆け上がる勝ち抜き戦です」

 

生徒達はその説明を聞いて、抱っこ紐で赤ちゃんをおんぶしたり抱えたりして固定する。なるほど、お玉レースの赤ちゃんバージョンだ。

 

赤ちゃんを抱えながら、通形は眉を上げた。パワーローダー先生は掘削ヒーローで、13号先生の個性は「ブラックホール」。この2人が疲れ果てるほど、一体何掘って何を吸い込んだというのか。

砂埃が舞い、通形の目に入る。

 

「あの、13号先生。それで、迷路というのは一体───?」

「ああそれは、」

 

質問した生徒は、3年B組の男子生徒だ。通形は片手で目を擦りながら彼を凝視する。なぜだかだんだん、彼の背が縮んでいってるような───?!

 

13号先生は宇宙服の中でニコリと微笑む。

解説席で茶ノ丸がニヤリと悪役顔負けで口の端を上げた。

 

「───自分で確かめてみたらいいかと」

 

「「「……………?!」」」

 

砂埃が舞う。

いや違う、縮んでいってるのではない。()()()()()()()()。このフィールドの土壌は砂だ。サラサラと細かく乾いたそれに、生徒達はもう既に足首まで沈んでいる。

 

悲鳴をあげる暇無く、42人の生徒達は砂の中に引きずり込まれた。

 

後に残されたのは、ざわめく観客と風に舞う砂埃のみ、である。

 

 

「────きゃぁ!!!」

「────ッ!!!」

 

砂の中の幾多の通り道。たまたま横にいたからか手と手を取り合い、同じ場所を滑り抜けてきた少女達はドスンと大きな声をたてて止まった。

砂埃が舞う。ゲホゲホと吸い込んだ砂を吐き出し、砂が目が入って涙が出る。

 

「だ、大丈夫? あのねちゃん…」

「(……!!!)」

 

波動の問いかけに必死で声響は頷いた。だいぶおしりが痛いが、あうあうとぐずりモードになった赤ちゃん人形をあやさなければならない。

 

落ちた先は洞窟、のようだった。壁は粘土質の土でできており、床は柔らかな森にあるようなそれ。ふかふかで柔らかい。

 

クラス1個分はありそうな土の部屋、道は落ちてきた真上のものと、左右にひとつずつ。

 

「わぁ〜〜、素敵! これが“迷路”かぁ」

 

立ち上がってくるくると見渡しながら、波動が歌うように言う。湿ったような土の臭いも、地中の暗がりもまるで気にならないようだった。

その余裕そうな様子に、声響は少し安心する。

 

迷路ということは、とりあえず脱出すればいいのだ。声響は立ち上がる。

ここが何を意味するのかはわからないが───フィールドの地下ということは間違いない。上を目指せばいい。

 

「さて、突然落ちた先は真っ暗闇の土の中。3年生の皆ーーー??? 生きてるーーー???」

 

地中を貫いて関西弁の物理教師の声。

面白がっているようなそんな声に、波動の眉が寄る。

 

「さーて、ここは3年生専用の()()()。イージーモードなんて許さんで? ────ということで帰り道封鎖!」

 

盛り上がるように落ちてきた穴が埋まっていく。茶ノ丸の口上とともにどこからかキシキシと鳴き声のようなものが聞こえてきて、声響は思わず短く悲鳴を出す。

 

「…あ、声、出る…!」

「よかった! あのねちゃんってさ、個性どんなの? 精神操作系かなって、さっきの見て思ったんだけど!」

「え…? えと、声に説得力を乗せれる…。自分の言葉を相手に信じ込ませることができる…かな…?」

 

「───ここは地下の迷宮。5種の蟻が争う()()()()

 

キシキシキシ、と鳴き声は近くなる。

次の瞬間、遠い場所でつんざくような悲鳴が聞こえてきて、2人は体を強ばらせた。

 

「ねえねえ、あのねちゃん。この個性、アレにも効く……?」

「……??」

 

「さあ矮小(ちい)さな人間達? 地下50mから生存競争に打ち勝ってみせろ───Plus ultra!!」

 

黒い穴の向こう。キシキシキシと鳴き声とともに、黒光りする巨大な頭と触覚が見えた。大きい、と波動が頬を噛む。特別サイズだ、しかも全員雌。遺伝子強化された、複数で群れを作る“女王蟻”。

 

全長はひと1人分。それが5匹這ってきて───目が合う。

 

《─────ッ!!!》

 

「走るよあのねちゃん!!!」

「う、う、う、う………うわあああああ!!!」

 

日本語でクロオオアリ、もしくは大工アリ。

英語ではCamponotus pennsylvanicus(カンポノータス・ペンシルバニカス)。大きな翅をもつその蟻の群れが、踵を返して走る2人を追いかけんと羽を広げて飛び立った─────!!!

 




180cm〜200cm(翅の全長は除く)に巨大化されたクロオオアリ、かなりホラー。しかもそれが5匹単位で群れを為している、怖い。キシキシ。

パワーローダー先生「地下50mまで…掘ったぞ…はあ…無理…」
13号先生「掘り出された土…吸い込みました…ふぅ…辛い…」
アントマン先生「5種類の遺伝子操作された蟻、てきとーに巨大化させて放り込んでみました! いえーい!」

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