鉄の意志を5ミリくらいは引き継げればいいなっていう男の話   作:藤涙

27 / 29
text26:Rising hope

 

「あった!!! 上へ登れる…!!! 行くぞ!!!」

「…!! これが中層か?!」「知るか!! とにかく先へ!」

 

ヒーロー科の3人の男子生徒が、上へと繋がる上り坂を目の前にして喜色満面───とはいかないものの、表情は一気に明るくなった。

下層にいた蟻達は3人の中の1人、電気系の個性持ちが対処した。さすがのクロオオアリとヒアリも通電には弱かったようで、しばらく動けずに痺れたままだ。

 

中層に登る道はわかりやすく、「ここから先、中層(ニコちゃんマーク)」と立て看板がある。ふざけてるのか、いやいつもふざけてる感じの先生が考案してたわ、と眉根を寄せた。

 

「おい、もうちょっと慎重に進んだほうが良くないか…?!」

「そうだよ、中層は下層とはまた違った種類の蟻がいるんだろ」

「…!! いや、モタモタしてると他の奴らにも追いつかれちまう。中層もさっさと駆け抜けちまえば…!!」

 

ちらりと覗いた中層は、巨大な空間だった。地中の虚、というか。迷路とは言い難いただの空間。上にあるスタジアムを支えるためかたくさんの柱がたっている。蟻は疎らに放たれており 、確かに───駆け抜けてしまえば、上層に行けそうだった。

 

「……行こう!!! こんなところで立ち止まるわけにはいかない!!!」

「……うん!!!」

 

3人は意を決して、中層に飛び出した。

下層は湿り気のある土の茶色の空間だったが、中層は硬い岩の灰色の空間。比較的走りやすく有難い───もちろん先生達がこの程度で終わらせるとは思っていないけど。

 

慎重に、でも素早く。ぼんやりと薄明かりの奥に見える「ここから先、上層(ニコちゃんマーク)」と書かれている看板を目指す。

その時────、

 

《キシャ?》

 

「「「?!」」」

 

下層で嫌という程聞いた鳴き声がした事で3人は思わず足を止めた。視線の先ではうさぎ大、飴色の美しい色をした蟻が1匹、首を傾げるようにしてこちらを見上げている。

 

「ど、どうする?」

「どうするってお前…やるしかねえだろ…」

「いやそうなんだけどさ、下の階層のがめちゃくちゃ怖かったせいで、なんか、めちゃくちゃ可愛く見えるって言うか…」

「目を覚ませバカお前」

 

キシャキシャ? と触覚を震わせる蟻に、目が据わっている生徒が手を伸ばす。その手を叩いたリーダー格の電気系の個性持ちは、その身に青いプラズマを走らせた。

 

「何もしてきてねえのに悪いけど、先に進むためにやらせてもらう。ほら、人形持って離れてろ」

「う、うん」「そんなぁ〜」

「うるさい!」

 

手のひらの上で雷を転がす。指の合間に流れる電流が近くの小石を砕き、その威力を物語った。確かにキシャキシャと鳴く蟻は可愛く見えるが、背に腹はかえられない。せめてスタンガンより少し強い程度の電圧にしよう───と、飴色の蟻に手を伸ばした。

 

青いプラズマが、蟻の目に写る。

 

「─────なぁッ?!」

「!!」「へ?」

 

青い電気は蟻の体を通過し、そのまま他2人の生徒へと───つまり3体の赤ちゃん人形へと襲いかかる。

バチバチと音と眩い光を放ったスパークで、2人は気絶。そしてもちろん…………

 

「「「おぎゃあああぁぁぁ!!!」」」

 

「なん、で……」

 

いつの間にか周りを取り囲んでいた飴色の蟻に埋もれながら、雷の個性を持つ生徒は気が遠くなっていくのを感じた。

 

《キシャキシャ!》

 

 

 

 

 

 

「────ヒゲナガアメイロアリ」

 

別名クレイジーアント。「家畜から電気機器にいたるまで何でも好む」と言われる蟻だ。住宅や変圧器だけでなく、ノートパソコンやスマートホンの中にまで侵入できる。足が長く素早い。

彼ら最大の特徴は、電気を好むということだ。遺伝子操作により強化されたのは「耐電性」と「通電性」。電気を好み配線を食いちぎる彼らにはもちろん、電子機器を破壊する方向に活躍してもらっている。

 

「おっとー!! 中層に到達した3人が早々に脱落してったな……残り38人」

「……この競技で必要なのは、“冷静な判断能力”。そして、“手に抱いた命を、確実に守り抜く”ことだ。冷静に迷路の道を進み、守るべき命を守り抜け、雛共」

 

第3競技には16人必要なので、あと22人は落とさねばならない。落とさねばならないのだが………

 

「(16人残るのだろうか、これは)」

 

実況席の椅子の背もたれに寄りかかって脚を組む茶ノ丸に、ハウンドドッグは呆れ目を送った。頬杖を付きながらニヤつくその様はまさにヴィランのよう───ろくなことを考えていなさそうだ。

 

そんな時に、彼の手元にあったスマホが震えた。着信画面を見るつもりはなかったが、ハウンドドッグの恵まれた動体視力がそれを追ってしまう。「母」からだ。茶ノ丸は一瞬ちらりとそれを見るも、それだけ。

 

「……いいのか?」

「ええよ。たぶん、お茶子のことやろ。今仕事中やし、終わったらかけ直す」

 

ひとしきり鳴り終わったスマホが、再度震えた。これはたぶんメール。なんなんだ一体…と眉を寄せた。

チカチカと瞬くように通知を鳴らすスマホがやけに気になったものの、今は仕事中だ。後ろ髪を引っ張られるような気分になりながら、ポケットに突っ込んだ茶ノ丸だった。

 

◆◆◆

 

地鳴りのような音がする。

視界も嗅覚も当てにならないのなら、残るのは聴覚だ。地面は震えている。遠くから、何やら叫び声が聞こえ、それがだんだん近づいてくるというのだから、さっさと中層に上がってしまおうというのが2人の意見だった。

 

「…でも、2人じゃ心許ないよ? 自分でも言うのもなんだけど、私、まったく役にたたないし」

「うーーん…」

 

声響の言葉に、波動は考え込む。先程の実況で中層に上がった生徒が早々に脱落した、というのを聞いたばかりだ。確かに、身体や素養、精神力共に声響は波動と比べものにならないくらい脆いのだろう。蟻を見てか、それともこの環境のせいか、最初の方の走りでは脳のリミッターが外れたのかもしれない。少し時間が経過した今では、足が震えている。

でも────彼女の個性は違う。

 

蟻に見つからないよう、息を潜めて移動していた最中、2人はお互いの個性についての情報交換を行っていた。

 

波動ねじれの個性は“波動”。自身の活力をエネルギーにして衝撃波を放つ。デメリットして何故かねじ曲がる為速度が出ない。チャージして溜めたエネルギーを放出すれば、相応の威力にはなる。

 

声響あのねの個性は“愛の言葉”。言葉に説得力を持たせることができる、常時発動型の声の個性。無機物には効かない。やろうと思ってやっているわけではないため、相手にどの程度効いているのかわからない。動物に効くのかも不明。

「そりゃあ説得力を持たせるだけっぽいんだから、犬に“お手”って言ってお手したからと言って私の個性が効いたのか、それともその犬自身がお手を知っていたからお手したのか。わからなくない?」とは声響談だ。

 

「(つまりは“思考誘導”の個性ってこと? どうだろう、蟻さんに効くのかな…?)」

 

常時発動型、というのなら、これまで波動は声響に思考誘導されていたことになる……自覚はない。いや、()()()()()()()()()、恐ろしいのか??

波動はむぅ、と眉を寄せる。

 

思えば声響はこれまで何かを断定するような言葉を放っていない。先程のように相手の思考に影響があるかないかギリギリのラインで───曖昧な言葉で応えてくれる。

気を使わせてしまったのかもしれない。そう思うと申し訳ないと思う。“声”の個性を持つ彼女が、今まで声を出せなかったのだ。どれだけ察しが悪くても、何かあるんだろうなというのはなんとなくわかった。

 

「ねえねえ、つまりあのねちゃんの個性は、ある程度相手に知性があれば効くんだよね?」

「私からは確かめようがないけど、たぶんそう。あくまで“説得力を持たせる”だけなの。相手がそれに従うかは相手次第。

 

例えば回転して飛んでいくボールがあるとして、私は少し指で触れてそのボールが飛んでいく軌道を逸らすだけ。ボールがどこに着地するかはわからないの」

 

お互い自覚症状がほぼ無い思考誘導の個性。恐ろしいものだ。

 

「……あのねちゃんって、ヒーローになるつもりはないの? その個性、すごく役に立つよ!」

「えっ?! え、うん、ヒーローはいいかな。見るくらいがちょうどいいって言うか……あっヒーローを馬鹿にしたつもりはなくて、私はベストジーニストが好き…!! あれ、なんか違う…」

「あははっ、そっか!! それはしょうがないなあ」

 

小さな声で噴き出すように笑って、真剣な顔に戻る。

 

「……その個性、蟻さんにも効くかな?」

「……さっきは“来ないで”って言ったのに来たよ」

「もしかしたら発動条件があるのかも。あのねちゃんもわかってないこと、多いんだよね? たとえば、理由付けが必要なのかも! 来ないで、ってだけじゃなくて、最もらしい理由が。説得力を持たせるために!」

 

戸惑うように視線を彷徨わせる声響に、波動は畳み掛ける。やってみないとわからないのなら、やってみる価値はある。

 

「蟻さんの知能は犬くらいはあるって、アント先生が言ってた」

「でも確か、普段命令を出すのにBluetoothイヤホンからやってるんじゃなかったっけ?」

「うん、EMP通信デバイスっていうんだって。蟻さんの、嗅覚中枢を刺激して指示を出しているんだとか」

 

物理の授業で2人とも、彼が蟻を操るところを見たことがある。机にあったのは温かい紅茶が入ったカップと、角砂糖が2個。それに3匹の蟻。茶ノ丸はとんとんとイヤホンを叩くと、蟻達は角砂糖を担いで動き出す。ソーサーを越え、縁にまで担ぎ上げ、ぽいと落とす。蟻達のその動きには感動したものの、その後「飲む?」と差し出されたのはいただけない。少しは女心を察して欲しい。

 

「……やってみようあのねちゃん!」

「う、うん…! やってみるよ、ねじれちゃん!」

 

少女ふたり、友情は美しきかな。

手と手を取り合い、決意を新たにしていると───

 

「うわああああああぁぁぁ??!! ちょっとちょっと、早くどいて!!! そこ!!! ふたり!!!」

「……ッ、!!! 波動さん?!? あと、えーっと声響さん!!! 逃げろ!!!」

 

「えっ、えっ、よく聞こえない。なになに??? 通形と天喰くんだ……」

「…? なんだろう………………え??」

 

地響きは強くなってきた。

気になれた声と、何か太鼓を叩くような複数の音が響いて、ふたりは首を傾げた。

死に物狂いで走ってくる彼らの後ろ、何か赤色の波のようなものが見えて、思わず目を凝らす。

 

「「…………………………きゃああああああああああああぁぁぁ!!!」」

「早く!!!!!」「赤ちゃん全員ぐずってるよ!!!」

「大丈夫まだ泣いてないまだ泣いてない…!!!」

 

波動と声響は天喰と通形と───ヒアリの群れに追われて再度駆け出していく。どれほど長い間追われていたのだろうか、天喰と通形は汗でべっとりだ。

 

「な、な、な、なんでー?!」

「う、ウソでしょ通形!! なんで連れてきちゃったの?!」

「わからないッ!!!」

「サムズアップをするなミリオ……!!」

 

荒い息遣いと蟻の足音と悲鳴だけが響き渡る。

合流した4人の生徒は、第三階層で未だ鬼ごっこ。

 

競技開始から15分。

ヒアリの行軍はまだまだ続く。

 

 

 

 

 




たぶんこの競技が1番イージーモードなのはミッドナイトあたりじゃないだろうか。
心操くんはどうかなあ…蟻による。ホークスも機動力と手数の多さで単独撃破は可能。

【追記】ここから不定期更新になりますー!
半月ぐらいかな、で10万字強なのですげー書いてるーって感じしますね(語彙)
体育祭編はちょっと長いのでお付き合いいただければ。戦闘シーン書きてえなって思うんですけど、教師サイドで書くと書く時限られるなって気づいたのが最近……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。