鉄の意志を5ミリくらいは引き継げればいいなっていう男の話   作:藤涙

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text7:イタリア人だってかわい子ちゃんを見れば「天使」だって讃えるじゃん俺の感性間違ってない

 

 

入学式の次の日、茶ノ丸は今学期最初の物理の授業を行っていた。時間は4時間目、1年生相手の授業である。

選択授業は移動式、教科書貸出制なので、人数分の教科書を用意して物理用の教室に入る。

 

「(おお、意外と多い?)」

 

雄英高校では物理、化学、音楽、美術が選択科目だ。ただでさえレベルが高く、どれも専門学科で勉強量も多いのに、期末に試験のある物理と化学は不人気……のはずなのだが。

4人がけのテーブルが8個、つまり32席あるうちに30人きちっと座っている。

 

「(普通科の生徒が去年よりも多い、な? サポート科の子ォが多いのは例年通りとして、ヒーロー科が2番目に多いのか。経営科が1番少ない、うんここも例年通り)」

 

わかりやすく数えると普通科3名、経営科2名、サポート科13名、ヒーロー科12名。ちょうど定員30名である。

知ってる顔は多々。

 

ヒーロー科A組からは緑谷、飯田、八百万、耳郎、蛙吹、麗日。全体的に女子が多め。

 

ヒーロー科B組からは物間、庄田、淡雪、拳藤、小大、角取。こちらも女子が多い。

 

「(おーすご、なんか感動、1年がこんなにいるの感動した。なんでやろ…あ、去年センパイがヒーロー科1年の半分吹っ飛ばしたからや…)」

 

「先生?」

 

教室の引き戸を開けて、そのまま。遠くを見るように固まった茶ノ丸に、耐えかねて八百万が控えめに声をかけた。

心配そうに見てくれる一部生徒に「や、ごめん。なんでもないわ〜」と笑いつつ、茶ノ丸は教壇に立つ。

 

「いやいや、なんていうか、1年生こんなに物理来てくれたんやな〜ってびっくりしてもて。ええん? 大丈夫? 期末のテスト増えるんやで? ちょっと感動やわ〜、ほんまにええの?」

 

マシンガントークを始めた茶ノ丸に、生徒たちは戸惑いながら頷いている。

うーん、プレゼントマイクから聞いとったけどちょっと反応悪いかも? いや、ノせられない自分が悪いか。

 

「さァ、とりあえず自己紹介から始めましょか。

麗日茶ノ丸いいます。ヒーロー名はアントマン! 気軽にアント先生って呼んでな。個性は…」

 

そこで少し止めて、実演したほうがわかりやすいかと考え直す。両手に着けている白手袋を噛んで外し、一番前の席にいたB組の小大にシャープペンシルを貸してもらう。

 

「わかりやすく言うと、“右手で触れればものを小さく、左手で触れればものを大きく”する個性や。こんな風にな」

 

シャープペンシルを右手左手でポンポンと行き来させると、シャープペンシルは爪楊枝のような小ささから鉄パイプぐらいの大きさに変化する。

 

「これは生身の生物にも適応できる。もちろん自分にも」

 

右手で自分の体をタッチ。特徴的な音───金属を擦り合わせる様な音がして、茶ノ丸の姿が消えた。小大がびっくりして目をまんまるくしながらキョロキョロしているのに少し笑う。実質目の前にいるのだが、少し行儀が悪いが机の上に。蟻の大きさだからわからない子は多い。机を足でトントンと叩いて音を出す。

 

「まあ、こんなところや。やってた仕事は災害地に救助物資小さくして届けたり、災害現場で土砂崩れに巻き込まれた人探したり、まあいろいろ」

「あの、先生」

「なんや、小大」

 

瞳をキラキラさせた小大が手をまっすぐ上げる。大人しそうな女のコだ。というか美少女。黒髪のボブヘアで、周りの空気がシンと静まっているような独特な雰囲気を持っている。

 

「体を大きくする、のは、見せてくれないんですか?」

「見たいん?」

「ん」

 

表情は変わらないが、期待をするような目線に困ってしまう。

 

「大きくなるのはええんやけど、吐くけどええ?」

「いいで…」

 

「「「ダメです」」」

 

小大が返事を言い切る前に、他のB組の面々が遮った。入学二日目にして交わされるチームワークに驚きだ。すごい、彼らはいいチームになるのかもしれない。

 

「あっはは、いやぁ、大きくなれるのはなれるんやけど、なった後に内臓がちょっと…な。こればっかりはこの歳になってもダメやったんや…」

 

そう言って笑って、教室を見渡す。

まあぼかしたが体の負荷が半端ないのだ。Mt.レディめちゃ羨ましい。

 

「物理とは“()()()()()()”を識る学問です。なぜ林檎は大地に落ちるのか、石を水に投げた時になぜ波紋が広がるのか、なぜ相澤先生からアイアンクローを受けると頭蓋が軋むように痛むのか…そういうこと考えてくってちゅーやつやな!」

「あの、最後は違うのでは…?」

 

したり顔でそう言う茶ノ丸に、八百万が控えめに、それはそれは微妙な顔をして問いかける。

やっと反応(ツッコミ)を返してくれた生徒に心が浮つく。

 

「数学って、物理って、まあなんか数字がごちゃごちゃしとって小難しいって思ってたりするやろ? もしかしたら君らは、4教科の中で一番マシかも思て取ったのかもしれんけど…。

 

数学は“言葉”や。世界中の人とやり取りできる言語って実は、英語でも漢字でもないんやで。数字や。んでもって数学は宇宙人とも会話ができる。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

スライド式の黒板に一年間でやっていく方程式を書いていく。

最初は力学から。そして電磁気、波動、熱、原子へ。

 

一部は呆気に取られるように、一部はなにを当たり前のことをと不遜に、一部は瞳をキラキラと輝かせて。

 

「さて、この一年間。世界をさらに識れる授業にしてみせます! 期待しとってー!」

「は、はい!」「ケロ、期待してるわ」「してまーす!」

「はーい、いい返事ありがとー! ということで…残りの時間は物理で必要な初歩的な計算についてのテストするでー!」

「えっ」「この流れで?!」

「プリント配るで出来たら持っておいで。それでは開始ー!」

 

 

教室中に、カリカリとペンを動かす音が響く。茶ノ丸は頬杖をついた指で頬をトントンと叩くと薄く微笑んだ。

 

「(この音、結構好きやなぁ…いや、やっぱ教師って天職かもしれんわ。なってよかったー)」

 

難しい顔をしてうんうんと唸っている生徒を見て片眉を上げる。偏差値がかなり高い雄英に合格してきた子達だから、基本問題では生易しいかなと考えて8問目から10問目は中学の知識で解けるもののかなり難しい応用問題にしたのだが、思った通り悪戦苦闘してくれているようでなによりである。

レベル的には1問目から7問目が解けていれば上々なので、時間になったら回収しようと考えていると───

 

「できました」

 

「はえ?」

 

椅子を引いて立ち上がった八百万に、茶ノ丸はぱちくりと瞬きをした。八百万百(やおよろずもも)───出身は掘須磨大附属中学。雄英には推薦枠で入学した生徒だ。個性は創造。先日の体力テストでは一位だった。

 

「ん、もうできたん? 見せて見せて」

「ええ───この第8から第10問、少々悪質では? 下手をすれば大学レベルです」

「って言ってる割には全問正解やん?」

「ありがとうございます。常に下学上達。一意専心に励まねばトップヒーローになどなれませんので!」

「真面目やねぇ、もうちょい肩の力抜いてもええんちゃう?」

 

採点をして目を見張る。出来もそうだが、美しい文字だ。採点結果を書き出し、彼女へ返す。

黒髪に黒い瞳、纏めあげたポニーテール、模範的な大和撫子といった体の八百万の顔が少し怒っているように見えるのは問題を難しくしたという負い目があるからか。

 

その後三人くらい──どれもサポート科の子だった──が採点を求めに来たが、その他はチャイムが鳴ってタイムアップとなった。

集めたプリントを拝見すると大部分が8問目で止まっており、何名かは9問目まで到達できている。ふふ、と心の中でほくそ笑んだ。

 

疲れた顔をしている生徒たちが続々と教室から出て行ったのを見送り、茶ノ丸はきょとんと首を傾げた。

 

「んー、A組の皆、お昼ご飯行かんくてええの? 午後からオールマイト先生の授業やし、ちゃんと食べといた方がええんやない?」

「えーーっと」「あはは…」「ケロ」

 

なぜか残っている6人に、眉を上げる。A組の皆、なのでもちろんお茶子もいる。今日も可愛い、いや違うそういうのを考えたいわけじゃなく。

なんだろうこの感じ。緑谷と耳郎が困り顔でこちらを見ている、なんなんだコレ。

 

「あの、アント…先生?」

「うん? どうしたんお───麗日」

 

よくどもらなかった!!! 偉いぞ茶ノ丸!!!

 

えっかわいい───────!!! 可愛さがカンストしている。

178cm(俺)と、156cm(お茶子)、合計22cmの身長差のおかげで茶ノ丸の心臓がヤバい。潰されそう。いやもう潰れてる。死にそう。死ぬわ。

やめろお茶子、その上目遣いは俺に効く…!!!

すごい今俺は全てを投げ出して妹のためになんだって買ってあげたい。どんな借金でも背負ってやる。何を買おう……お城とか?? フェラーリ? なにがいい???

零れ落ちそうなほど大きな丸い瞳は昔のままだ。りんごのような赤い頬は最高にキュート&ラブリーだし、小さな口はさくらんぼのようにチャーミングだ。えっかわいい。最高にかわいいのでは??? 世界から愛されてる。世界が嫉妬するレベルで可愛い。どんな神話の美神も彼女の可愛さの前では塵同然。いつか歌詞を聞いて笑った曲を思い出す。世界中が君のことを嫌っても僕だけは君の味方。茶ノ丸はそんな心地だ。いやお茶子のことを嫌う世界なんていらないけど……。

 

ここまでの思考、わずか2秒。顔は微笑を湛えたままだったので、恐ろしい男である。

 

「えっと、先生、あの、」

「…………うん? あ、ちょっと待って」

 

お茶子が続きを言おうとした瞬間、茶ノ丸のポケットから軽快な音楽が鳴り出す。スマホへの着信だ。人によって着信音を変えているので、この曲はミッドナイトだな……と内心舌打ちをかましながら、とりあえず出る。

 

「はい、アントです〜〜。なんです? 急に。今ちょっと………へ? 会議? 今から?」

「…」「…」「…」

「あ〜〜〜……はい。ダッシュで。はい。今から行きます」

 

電話を切った茶ノ丸は、申し訳なさそうにお茶子を見る。

 

「すまん、麗日。えっと、急ぎではない?」

「う、うん…大丈夫、また今度でも、大丈夫です」

「そかそか、なら……どうしようかな。放課後か、無理やったら明日で」

 

そのまま荷物を掻き集めて、茶ノ丸は教室から飛びだした。

教室に残されたのは、しょんぼりと眉を下げたお茶子と、微妙な顔をしたそのクラスメイトのみである。

 

 

 

 




わーいお気に入り50突破(激遅)

筆者ガチガチの文系なので理系を書くのは難しいな…。物理の知識は高校物理基礎のノート引っ張り出したり、わかりやすい高校物理の部屋(https://wakariyasui.sakura.ne.jp)さんを参考にさせていただいています。ちなみに私が物理履修してた頃のテストの採点は赤点ギリギリでした。

物理履修生の普通科の子に心操くんがいますし、サポート科の一人に発目ちゃんがいます。
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