Fate/Grand Order ケモ耳少女と救済物語 作:騎士見習い
黄金に輝く一つのリンゴを彼女は持っていた。
――それは神々が食する果実。如何なる人間の理性をも蕩かす味と、不死の効能を約束する禁断の果実。これを使われれば、いかなる人間も足を止める。その果実を手に取り、食したくなる。それは条件反射、熱いものを手にしたときに離れようとするのと同じくらい、肉体に刻みつけられた代物だ。
俺は一度、触れさせてくれ、と頼んだが断られた。アーチャーのクラスである彼女は人間の心にも敏感なのか、リンゴを仕舞いながら言葉を続けた。
『かつてこれを使われて、私は足を止めた。徒競走の途中で、我を忘れて止めてしまった。その後のことなど、思い出したくもない。だからこれは私が持つ。汝にはやらん。・・・・・・お前には、こんなもの必要ないからな。そうだろう?』
☆
マスター候補の一人として招集されたことに胸の高鳴りが止まらなかった。ましてや、世界を救う、という使命があるのだ。ただの魔術師として普通の日常を送り続けていた俺には刺激ある日々を送る絶好のチャンスである。
そんな期待を胸に、いくつもの訓練を乗り越えてきたが、その現実は叶うことがなかった。
システムの暴走、反対派のテロ行為、誰かの思惑、と遠のく意識の中で考えられる全ての可能性を考えた。これも非日常の一つの形だと言い聞かせて受け入れ始める。足の指先からだんだんと感覚が消え、あっという間に首から下の感覚が消えた。最後に一目、なにかを見たいと思い、目を開くと激痛が走る。目の前に太陽があるかのように眼球が灼けるように熱く、今にも眼球が破裂しそうな膨張感。
『ようやく、彼女との約束を果たせるわ』
最後の最後に全てを包み込むような慈悲に満ちた声が聞こえた。言葉の意味など理解する力もなく、俺の意識は消えた。
☆
一人の少女が獣のように森を駆け巡る。華奢な見た目とは裏腹に弓から放たれる矢は外れることなく獲物に突き刺さる。一言で表すなら彼女は女神のようだった。
光を感じる。目を開け、最初に確認したのは自分の身体だった。目で見える範囲に外傷はなく、先程までの出来事は夢なのではと疑問が湧いた。
「今の方が夢であってほしいね」
周りは瓦礫の山。ところどころで火災が発生しており、人の気配一つ感じない。それだけなら良かったが運が悪くスケルトンの集団が向かってきていた。魔術的な反応もなく、どういう仕組みで動いてるのか分からなかったが今は思考よりも身体を動かすのが先決。
一筋の紅い雷撃を放つ。魔術耐性がないらしくスケルトンは焦げ臭さを出しながら砕けた。だが、多勢に無勢であり、たちまち囲まれてしまう絶体絶命の状態に陥る。
今から槍や剣で滅多刺しにされると思うと嫌気がするが最大限の抵抗ぐらいはしようじゃないか。
雷撃に火球と魔力が続く限り放ち続けるが何十体目かを倒し魔力が底をついた。体調が万全ではない中で良くやった方だろう。肩で息をしながら、どうにか魔力を掻き集めようとするが視界が揺らぎ膝をつく。死への実感を感じ、生への渇望が身体を奮い立たせる。突然、あの時のように眼球が熱くなる。視界は赤く染まり、心臓の鼓動はものすごい早さで脈打つ。
『ここで死ぬぐらいなら私に、その命を託せ』
まるで元々知っていたかのように言葉が頭に流れ込む。誰かに植え付けられたような記憶。
それを唱える
「――告げる。
汝の身は我が下に、我が運命は汝の天穹の弓に。
聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ――」
「――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者――」
「――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――」
誰かを包むように周囲に強い風が吹く。1秒も満たない一瞬の出来事だが人影が見える。
手には身の丈ほどの弓を持ち、緑色と
「──汝がマスターか?よろしく頼む。」
鋭い目つきとは裏腹に優しい声音で発せられる言葉。声が出ず、ただ頷くことしかできなかった。それを答えだと受け取った彼女は一瞬にしてスケルトンの集団を射抜く。英霊というのは人知を超えた存在だと聞いていたが、ここまでとは思わなかった。まさに英霊と呼ばれるに相応しい存在である。
「とりあえずはこんなものだろう。名乗り遅れたな、我が名はアーチャー。汝のサーヴァントだ」
何事もなかったかのように振る舞うアーチャーと名乗る英霊。あまりにも情報量が多く処理が追いつかないが、ゆっくりと口を開く。
「弓野結弦。ただの魔術師」
「ふっ、その目を見てただの魔術師とは面白い冗談だな。確認してみると良い」
そう言われ、魔術によって発生した水面を鏡のように使う。何度も目をこする。だが刺青のように描かれている右目の刻印と左目の魔法陣。
「なんだよ、これ……」
「右目の刻印は令呪だろうな。左目の魔法陣は……時が来たら教えよう」
知ってるのかよ、と軽い悪態をつく。こんな形で令呪が刻印され、しかも眼球となると魔術回路的に大丈夫なのだろうかの疑問が残るが一先ずは生きていることに感謝をしよう。左目についてはキャパオーバーのため今は触れないようにしよう。今のところ魔力が足りない以外の問題はない。この足りない魔力を回復するべく、アタランテが葬ったスケルトンの元へ行き、骨のカケラを口に含み飲み込む。ガリゴリと嫌な食感を感じながら不味い食事を摂る。
「ほう。
「半分は生まれつき。もう半分は……察してくれ。この体質のせいで、あまり良い思いをしてこなかったからな。それにだ、俺のことばかりじゃなくてアンタのことも教えてくれよ」
「それもそうだな。まぁ私のことは一介の狩人と思ってくれて構わない。真名の方は明かすに値する価値があると判断したら、明かそう」
真名というのは英霊の弱点に繋がるため、そう易々と明かすものではない、と事前に訓練中に説明されたことを思い出す。
ある程度は魔力も回復し、次第に力が湧いてくる。またスケルトンの群れに襲われる可能性も考え、同じ場所に留まるのは危険だと判断し、立ち上がる。
「悪いが、このよく分からない場所から脱出できるまで力を貸してくれ、アーチャー」
アーチャーに救われた命は無駄にしない。全力で生き抜く覚悟を決めて手を差し伸べる。どうやら握手をするような人間には見えていなかったらしく少し驚いた顔をしていたが、すぐに顔が綻び、握ってくれる。
「こちらこそよろしく頼むマスター。この弓で汝のために邪を射抜くことを約束しよう」
☆
かの王は、
この出会いは偶然か必然か。
神の悪戯か天啓か。
この不思議な出会いから始まる物語の続きを読みたくなった。