化け物の俺は彼女たちと人間になりたい   作:ゼルクニル

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個人的な理由でかなり期間が空いてしまいました…申し訳ありません。
やっぱり最終回にするのは無理だったので2つに分けます。
ただ…クソ長くなりました。1万文字行きました…ですがぶった切りはしないです…長くてすんません


それでは…長い長い最終回前半、どうぞ。


第45話 得て与える特別休暇 前半

 朝日が差し込み暖かな病室で目が覚めた俺は体の変化に気づいた

 ベッドで横になりながら手足を上下左右に動かし、最後に体を起こした。すると自力で起き上がれたのだ…

 そして腕を見ると刺さっていた輸血パックと点滴の管が外されていたので、ようやく貧血が治ったという事を理解した

 片目の器具は付けたままだが…これで外に出れると思いベットから降りようと横を向くと、パイプ椅子の上に一枚の置き手紙とデジタル時計がある

 

<9:00までそこで待つように!>

 

 時計を見ると8:50を表して点滅している…

 ならば待っていようと思い、俺はなんとなく鼻歌を歌い始めた

 ベットから足だけ下ろしメトロノームのようにリズムをとる。

 

「~♪」

 

 ただただ鼻歌を歌っているだけだというのに…何故か気分が良くなる…自然とギターやドラムの音が聞こえてくる…なんでも良いから楽器を弾きたい…

 そんな事を考えた頃には鼻歌で一曲歌い終わり、また別の歌を歌い出す。そんな事を自然と繰り返していく…

 

 そんな中…ふと時計を見ると時刻は9:16を表していた。

 しかし誰かが来る気配は一向に無い…

 日の光が眩しく、ベットのカーテンをすり抜け光が病室に差し込み…その光によって俺は気づいた。

 俺のベットの横に…カーテンが閉まったベットが1つ増えている事。そして日の光によってその中に居る誰かの影がカーテンに映っている…

 

 影を見ると寝ているのではなく、ベットに座る状態のように見えるので起きているのが分かる。思い切ってカーテンを開けた

 

 

「……彩?何してるんだ?」

「えっ、いや、それは~」

 

 

 カーテンを開けると、そこに居たのは彩だった。余程驚いたのか質問するとオドオドしている…

 

 

「というか何故ここに居るんだ」

「れい君が勝手に出て行かないように見張ってた!」

「……いつから?」

「うーん…7時くらいかな?」

「起きてたのか?」

「……寝ちゃってた」

「起きたのは?」

「……ちょっと…前」

 

 

 最初は自信満々に答えていた彩だったが、徐々に声が弱々しくなっていった…

 見張っていたのに寝たのか…。意味無いじゃないか…。

 

 

「それで…何か用か?」

「あ、そうだった…れい君は…」

 

 

 

 

 

「今日一日!私たちのお願いを聞いてもらいます!」

「……はい?」

 

 

 意味が分からず聞き返してしまった。

 いや…分からない。いきなり彩は何を言い出すのかと思いきや……今日一日?要求を呑め?しかも私【達】?何がどういう意味なのか本当に理解できない

 

 戸惑いを隠せない俺に対し、彩は笑顔でこちらを向いている。だが目は真剣なのが見て取れる…

 

 

「……理由は?」

「れい君にリフレッシュしてもらいたいの!」

「リフ…レッシュ?息抜きの事か…何故?」

「れい君には…色々辛い思いをさせちゃったから…今日は私たちと一緒に、れい君もお休みって事!」

「それ位…何とも無い」

「でもれい君は私たちとの約束破ったよね?」

「なっ……」

 

 

 痛い所を突いてくるな…

 だが…負傷したのが俺だけだったとはいえ、今回は彼女たちも色々と思うところがあるのだろうし…現に約束は約束、破ったからにはそれなりの処罰を受けるべきだ。

 それに今日は平日…彩の言い回しだと学校から既に休みの許可を得ているという事になる。

 ならば…仕方ない……

 

 

「……分かった」

「ホント!?」

「無茶ぶりじゃなければな」

 

 

 約束をした後に、彩は唸りながら何を言うかを考え始めた。そういうものは予め考えておくのもではないのかと思いながらも、俺は彩が唸るのを止めるまで待った

 

 少し待つと唸り声が止まった

 

 

「決まったか?」

「うんっ!」

「それで?どうすればいい?」

「まず!ココに座って!」

 

 

 彩が居るベットの横をポンポンと叩きながらそう言われたので、俺はベットの横に腰掛けた。何をする気なのだろうかと思っていると、ベットの上に居る彩は、座りながら俺の後ろに座り…俺の頭を撫で始めた。

 普段…俺は偶に髪を整える為ブラシを使用するが…それ以上に心地よい感覚だ…

 

 

「前は…私が撫でられてたの…覚えてる?」

「ああ」

「その時言ってくれたよね?ちゃんと向き合ってるって…」

「言ったな…だが…何故今それを?」

 

 

 そう聞くと彩は撫でるのを止め、ベットの逆方向から降りた。

 

 

「コッチに来て」

 

 

 今度は俺が寝ていたベットに来いと言う……疑問ではあるが今は特に考えず、俺は指示に従った

 

 

「また座って」

「ああ…」

 

 

 本当に意味が分からないのだが…そう思いながらも俺は彩と共に、再びベットに腰掛けた

 お互いに何かを言うわけも無く…ただ沈黙が部屋を支配する…

 しばらくすると、彩はこちらを向き何か言いたそうな表情を浮かべたので、俺は彩の方を向いた

 

 

「…向いてばっかり…じゃない?」

「え?」

「れい君は…今どこを見てるの?」

「…」

 

 

 今どこを見ているのか。それは俺にも分からない…。

 前でも後ろでもない。俺には…何も無いのだ…良いものなど何も無い…。

 忘れたい、思い出したくも無い事しか無い…

 

 

「……横になって」

「…何?」

「さっきみたいに寝て」

「あ、ああ……」

 

 

 次から次へと…今度は先ほどと同じように寝る態勢、つまりは普通にベットで横になった。

 彩はその隣に座ると俺に毛布を掛け、俺の隣で横になった。

 言うところの添い寝状態である。

 

 何がしたいのかよく分からないが、とりあえず寝にくいようだったので枕を譲った。お互いの息が顔に当たる程近くなった所で、また彩が口を開いた

 

 

「……辛いよ」

「え?」

「れい君は…私には見えない所を見てるんでしょ?」

「……かもな」

「どうして…?なんで…?なんで……違う所を見てるの?私は…れい君と…同じ所を見たいよ…」

「…何故?」

「れい君はすぐに私の前に行っちゃう…ようやく追いつけるって思うと…今度は傷ついて後ろに行っちゃう…。いつまで経っても…私はれい君と同じ所に居ないの…」

「…それが俺の生きる道だ。俺はその道に進むしかない…」

「そんなのおかしいよ…そんなに向き合わないといけないの?それはれい君が本当に通らないと行けない道なの?」

 

 

 泣きながら言う彩を見て、俺は申し訳ないと思ったが…

 同時に、それは仕方ない事なのだと思った。

 彩はファンが多く居るアイドルであり、俺は一般人。それも血に塗れた人間もどき…。どう足掻こうとそこは変わらない…同じ場所を、ましてや俺の見た景色を彩に見せるわけにはいかない。

 

 

「最後」

「なんだ?」

「最後に…目を閉じて…」

 

 

 指示されるがまま、俺は目を閉じた。

 もぞもぞと動く音が聞こえた後、彩の呼吸の音が全て聞こえるようになり…また頭を撫でられたと思いきや、同時に指を絡め手を握られる感覚を覚えた。

 

 

「れい君…」

「なんだ?」

「もし…れい君がもう無理って思ったら…今みたいに私の手を握って。その時は…私の道を一緒に歩こうよ」

「そんなことしたら…彩が後悔するぞ」

「それでもいいよ。れい君が傷つかなくて良いのなら…」

 

 

 分からない…何故そこまで肩入れする?

 今はこうして接せるだろう…だがいずれは…またあの時と同じ事になるだろう…

 

 …寝起きだというのにもかかわらず眠気が再び俺を襲い始めた。意識を保とうとするも視界は徐々に薄れ、体は睡眠を欲し始めた。

 そろそろ撫でるのを止めてくれと言っても聞かず、睡魔に抗う俺を…彩は撫で続ける…

 

 

「……眠い…止めてくれ…」

「嫌。眠たいなら寝てもいいよ?」

「………20分で…起こして…くれ」

「うん。お休み、れい君」

「あぁ……」

 

 

 結局、睡魔に負けた俺は彩に撫でられたまま…短い眠りについた

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「……zzz」

「寝ちゃった…」

 

 

 少し待つと、目の前の彼は…小さないびきをかきながらぐっすり寝てしまった…

 横に置いてある時計のアラームをセットして置いた。

 

 

「これでまた寝ちゃっても起こせる…よね?」

 

「…」

 

「(何しちゃってるの私っ!!///)」

 

 

 添い寝している事への恥ずかしさが今になって込み上げてきた…心臓がうるさくて…自分の顔を触ると熱い。でも…彼を撫でるのを止めたくない。彼の髪は思っていた以上にサラサラで…フワフワで…手放したくない程触り心地が良い

 

 

「れい君…ゴメンね?私、嘘ついちゃった」

 

 

 私は朝に来たって言ったけど…ホントはずっと居たんだよ?昨日からずっと…同じ部屋にね。

 もちろん勝手に出て行かないように見張ってた。けど…本当はね?もし何かあったらすぐに人を呼べるようにって。病院の人達と相談して、他にも色々無理なお願いを通して貰ったんだよ?

 

 

「無理しすぎだよ…もうっ…」

 

 

 れい君は…全然寝てなかった。

 この部屋は他の病室より少し広くって、少し大きなテーブルが1つあってその上にはたくさんのノートと紙が置いてある。ノートの表紙にはPastel*Paletteって書いてあって……他のノートにもafterglowやRoseliaって書いてある。彼が寝た後に読むと、練習時間や改善点、と色んな事が書いてあった。

 

 当然…私たちのことも書いてあった。その時1番気になったのはやっぱり…私のこと。

 ペラペラとページをめくると私の名前を見つけた。

 

 他のみんなと比べると…私のページ……多い…

 そんなに…ダメなのかな…。そう思って、最後の行を読んだ

 

 

 ー改善点は山ほどある、だが彼女なりに変わろうとしている傾向が見られる。なら俺は、その努力を1つたりとも無駄にさせないように指導しなければいけない、そして彼女との約束を守らなければならない。

 彼女をアイドルにする。それが約束であり、俺の仕事だからな。ー

 

 

「ちゃんと覚えていてくれたんだね」

 

 

 ちゃんと見てくれてた。私なりの努力がちゃんと伝わっていた。

 努力は当たり前のことだけど、改めて私の努力を見ていることを知ると嬉しい。

 

 

「(れい君にとって…私って…何?)」

 

 

 色々と気になることはあるけど…やっぱりそういうことも気になっちゃう。

 れい君は何というか…大人っぽい雰囲気がする…私の方が年上なのになんかズルいな~。でもそこが…れい君のカッコイイところだと思うけどね。

 

 そもそも私ってどういう風に見えてるのかな?私はれい君のこと頼れる後輩だって思ってるから、ちゃんと先輩として見て欲しいけど…今の私じゃ無理かな…。

 

 本当に辛くなったら……私を頼ってくれるかな…?またさっきみたいに手を握ってくれるかな…

 

 

 色々と気にしている私の前で、れい君はずっと寝てる。

 

 

「(…寝てるよね?)」

 

 

 撫でるのを止めて、私はれい君に少しずつ近づいて…体をピッタリ引っ付けると体温を体で感じる温かい。彼の体に顔を埋めて息をすると、いい香りがする。

 

 ずっとこうしていたい…

 

 けれど時間はあっという間に過ぎて…この時間を満喫した時には、アラームが鳴ってしまった…

 

 残念だと思いながら、目を開けた彼に聞く

 

 

「ちゃんと休めた?」

 

「……ああ、ありがとな」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「……ああ。ありがとな」

 

 

 体に掛かった毛布を除け体を起こす

 予想以上に寝付けたので久しぶりの睡眠をとったという感覚に少し満足した。寝ているときかなり温かかったが…日の光のせいだったのだろうか?

 

 

「久ぶりに…休んだって気がするな」

「ええっもう!?ま、まだみんなが色々…」

「ああ…そうだったな。悪かった」

 

 

 私【達】と言っていたしな…ということは他の4人も休みの許可を得ているのか?本当に大丈夫なのかそれは…まぁ今更そんなこと言っても何も変わらないのだがな。

 

 ベットから降り体を少し動かすと普段よりは鈍いがそれなりに動ける。

 

 

「どう?1人で歩ける?」

「問題ないな」

「じゃあ次に行こっ!」

「ああ」

 

 

 今度は外のようなので置いてあった運動靴を履き、彩と共に外へ向かった。途中で次は誰なのか聞いたが…内緒だと言われ答えなかったり、暇つぶしに歌っていた鼻歌が良かっただとかいう話をし続けた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に来たのは病院の外にある庭だ。この病院の庭は異常な程広く、リハビリ用の場所やテニスコートも完備されている…病院にあるテニスコートに需要があるのかは分からないがな。

 

 しばらく歩くと木々が生い茂る場所に着き、そこにはイヴと日菜が居た

 

 

「も~遅いよ彩ちゃん!零くん!」

「アヤさんレイさん!お待ちしてました!」

「悪かった。これでも早く来たほうだ」

 

 

 しかし…ここで一体何をしようというのだろうか。木々はあるがそれ以外には…ハッキリ言って何も無いのだから【森林浴】というものをするのだろうか?

 

 

「それで今度はどっちが?」

「まずは私です!」

 

 

 どちらが先か聞くとイヴが挙手をしたと同時に木刀を握った。

 一体何をしようというのか…

 

 

「私からのお願いは、鍛錬で鍛えてもらう事です!」

「鍛錬?」

「そうです!」

 

 

 気合いが十分なのは見て分かる。だが修行で鍛えるとは具体的に何をすれば良いのだろうか。基礎的な部分の指導などで良いのならばいいのだが…

 

 断る理由も無いため俺はとりあえず基礎である構えや振り方を一通り見させて貰った。やはり一通りの基礎は出来ている…これ以上に鍛える必要は無いと思えるのだが…その意見にイヴは納得がいかないようだ

 

 

「というか…何故イヴはそこまで鍛錬にこだわるんだ?何度も言うが基礎的な部分は普通にできているぞ?」

「それではダメなんです!」

「……何故だ?」

「それでは私が目指すブシドーにはまだ遠いんです!」

 

 

 武士道…いつもイヴが言っているいわば信念を言い表す言葉だ。

 確かに俺なら基礎以上の指導を行える、だが…正直いい気がしないのだ。過度な力にウンザリしていた時期がある俺にはな…。戦う術など彼女たちに不要だろ…

 

 だがイヴは怯まない。芯が強いのはよく分かっているからな

 

 ならば…

 

 

「いいだろう…鍛えてやるよ」

「本当ですか!」

 

 

 

「ただし!今から行う試験で俺を認めさせられたらな」

「えっ?試験…ですか?」

「ああ。俺にも教えるべきかそうじゃないかを見極める権利くらいあるだろ?」

「見極め…」

「ああその…誤解はするなよ?イヴが駄目だとかそういうことではない。ただな…その…色々あったからな…こういうことを教えるときは試験的な事をするように決めてるんだ。すまないな…勝手で…」

「いえ!確かにそれは大事なことです!」

 

 

 試験…まぁ言いようによっては、【やれるならやってみろ】と挑発にも取れるたとえだが…そうとは取られなかったようだ。現に一度似たような事があったからな、その時は諦めて貰ったが…

 

 

「さて試験内容だが、今から5分以内に……俺に打ち込んでこい」

「「「…ええっ!?」」」

 

 

 試験内容はとても簡単に聞こえるような内容だろうが…俺が試験をするんだぞ?簡単なわけ無いだろ…

 

 

「待ってよれい君!」

「そうだよ!ちょっと落ち着こうよ!」

「…ああそうか…言葉足らずだった。別に当てなくていいぞ?そうだな……ここまでこれれば合格だ」

 

 

 そう言いながら足で地面に線を引いた。……俺とイヴの距離は10メートル程、走ればすぐに終わる距離だからな。見ただけだとこれは本当に試験なのかと疑うだろう。

 ついでに、彩と日菜には俺の後ろに立つように指示を出した。2人とも何をするのだろうかという目を向けていたがこれも準備なのだ。

 

 

「さてと、彩が合図した瞬間からスタートだからな?準備しとけよ?」

「はいっ!」

 

 

 さて…イヴは理解しているのだろうか…

 

 

「じゃあ…始め!」

 

 

 彩の合図と同時にイヴは走り出す。まぁ…普通ならそうするだろうな。間違っていない判断であり行動だ、だが……【ただ、それだけ】ならこの試験では無意味だぞ。

 

 ましてや……俺が相手ならな……

 

 

「っ!!!???」

 

 

 突然イヴは止まった。気合いに満ちた顔は一気に青ざめ足は子鹿のように小さく震え始めた。急変したイヴに対して何が起きたのか理解が追いつかない2人は心配した。だが俺は止めない。

 

 ここで俺は今何をしているのだろうかと思うだろう。俺はただ仁王立ちしているだけだ。変えたのはただ1つ、目つきだ。

 右目だけでイヴを睨んでいる。ただそれだけのことだがその目にどの様な感情を乗せるかで目は大きく変わる。今俺が向けているのは……【怒り】。無論彼女たちへの怒りでは無い。それでも怒りは怒りだ。

 しかし全力では無く、10で表すなら3だ。それでも十分だ…人を怯ませるにはな。

 

 

 

 

 

 その時イヴは……今までで感じたことの無い程の恐怖と威圧感を覚えた。

 異常なほどの威圧感は全身の動きを止めた。完全に蛇に睨まれた蛙の状態ある…

 それでもイヴは動こうとする。しかし……

 

「(動きません…)」

 

 どれだけ足掻こうと体は動かない。その事を自覚しイヴが取った行動、それは……

 

「参り…ました…」

 

 勝てない事を自覚し負けを認める。つまり身を引いたのだ…

 

 

 

 

 

 イヴは負けを認め、試験は終わった。イヴと2人で話したいという理由で彩と日菜には席を外して貰い、俺とイヴはテニスコート近くのベンチに座った。誰も居ないコートを背に、俺は口を開いた

 

 

「さてと…イヴ」

「はい…」

 

 

 明らかに元気が無いイヴは未だに小さく震えている…悪いことをした…

 だがそれでも、それだけする必要があったのだ。そしてその結果は…

 

 

「……合格だ」

「えっ?……合格ですか?」

「合格じゃ駄目か?」

「ですが私は…負けてしまいました」

「イヴ……この試験は勝ち負けは全く関係ないぞ」

 

 

 この試験に勝敗など必要ない。現に勝ち負けがあるとしたらそれは負けろといっているようなものだろう。何故か?入院中とはいえ俺に勝てるはず無いだろ…余裕とは行かないにしろ素手で一撃だ。

 

 

「それに勝敗で言えば…イヴは勝ったぞ」

「そんなことないです!…私は…逃げました…」

 

 

 逃げる。言い方にも悪意があるような言葉だな。だが確かにそうだな…逃げるという行為を馬鹿にする者は数多く居る。だがその者達は言わせて貰えば3流でしかない。

 一体何故そのような言われ方をしなければならないのだろうか…それでもイヴにとっては精神的に来るものがあるのだろう…

 先ずはその考えをどうにかしよう

 

 

「逃げる行為はそんなに悪いことか?」

「当然のです!ブシとは相手に背を向けないんです!それがブシドーです!」

「だったら俺は武士道は歩んでいないな」

「そんな事無いです!」

「だが逃げてはいけないのが武士道なんだろ?」

「レイさんは逃げてないじゃないですか!常に勇敢に戦っていました!」

「……それは間違いだな」

「えっ?」

 

 

 逃げずに、か。それこそ大きな間違いなのかもしれない、いや大きな間違いだ。策の内に逃走は常に頭に入れていた。時には失敗し死にかけた事など数え切れない程だ…その時俺は仲間と逃げた。車両に乗り込み無理矢理にでもアクセル全開でな。

 過去の話はそこまでにして…

 

 

「【常に勇敢に】それは無理だ。俺は逃げるときは逃げる主義だからな。大体逃げるのは間違いっていう思考は止めた方が良いぞ」

「ですが…」

「イヴは戦い負け勝負に勝ったぞ」

「勝った……私がですか?」

「大体逃げるなってのが間違いだと俺は思うのだが…。戦略的撤退って聞いたことあるか?イヴは正にそれだろ」

 

 

 そもそも……俺は勇敢では無い。言うならただの蛮勇だ。

 

 イヴの試験をしていて思い出したことがある。それは思い出したくも無い数年前、ある時期は白人戦が多くその時期俺は日本刀を主としていた。そして俺は……その刀で【山】を作った。何の山か、それは想像に任せるが想像はしない方が良い……だが強いて言うなら一面を赤く染めないと出来ない山だ。

 その時期は夜叉という呼ばれ方もしたが、結局化け物に戻った…

 

 

 そして今…その景色が頭の中で蘇ってきた。鮮明に写るその忌まわしき景色を見るうちに、椅子にもたれている上半身は徐々に下に向き始め…最終的に足に肘を置き体を支える姿勢へと変わった。だが目線は股を通り抜け地面を見る……気づけば前を向けない……そんな状態で俺はまた口を開いた

 

 

「……俺はそんな立派な人間じゃない」

 

「っ!?」

 

「勇敢、立派、何処がだ?俺のはただの暴力でしかない。……何故試験をしたか分かるか?有り余った力や能力、技術は恐ろしいからだ。イヴだって分かるはずだ…俺の異常さは。イヴは俺にだって良くしてくれてる、だからすぐに教えてやりたいと思った。だが…同時に嫌だった」

 

「何が…ですか?」

 

「力ってのは要らないんだよ…普通で良い。イヴの意思は芯がある。だったらもう十分じゃないか…俺は今まで多くの人を見てきた。その多くは……小さな力を得た途端、異常な強さを求めてイカれる奴らばかり…俺は嫌だ…イヴにもそんな風に…なってほしくない…」

 

「レイさん…」

 

「勝手で悪いが…諦めてくれないか?…大丈夫だろ……また何かあったら俺がまた……」

 

 

 守ってやる。そう言おうとした時横からトンと叩かれた。下を向き続け重たくなった頭を横に向けると、俺は顔を伏せたイヴに叩かれた事を理解した。その後はポカポカと力の無い拳で殴られ続け…徐々に上がるイヴの顔は涙で濡れていた

 

 

「レイさんのバカっ!ケチっ!分からず屋!」ポカポカ

 

「イヴ?」

 

「なんで…何で分からないんですか!?私が鍛錬をお願いしたのは…もうレイさんに傷ついて欲しくないからですっ!!私がレイさんを超えて!今度は私がレイさんを守りたいからです!!……私はレイさんに3何度も救われました…何度も私の前に立って…何度も守ってくれました!だから今度は私が!私のブシドーでレイさんを守りたいんですっ!なのに…なんでそんなこと言うんですか…」ボロボロ

 

「…」

 

 

 何故だ…何故…そこまでして俺を救おうとする…?

 もう分かったはずだろ?俺は幾ら傷ついても死なない…そこまで気負う必要など…

 だが…イヴはそれでも、例え嘘だったとしてもそこまで言ってくれたのだ…ならば…

 

 泣き止んだイヴの目を見て俺は口を開いた

 

 

「イヴ…悪かった。だったら最後に教えてくれ…本当にイヴは…異常にならないか?」

「なりませんっ!だから私は…レイさんに弟子入りしたいです!」

「弟子入りか…」

「駄目…ですか?」

「いや。約束だからな。今日からイヴを弟子にする」

「本当ですか?約束ですよ?」

「ああ。約束する」

 

「ではレイさん!…いえ師匠!よろしくお願いします!」

「ああ。改めてよろしくな。イヴ」

 

 

 こうして俺は、涙を拭い満面の笑みを浮かべ俺を師匠と呼ぶこの少女、若宮イヴを弟子にした。俺を超えるかどうかは分からないが…彼女が満足出来る程の実力は付けてやろうと決めた

 

 

「と言っても…鍛錬は俺は退院してからな?」

「はいっ!お待ちしています!師匠!」

「鍛錬以外は普通に呼んでくれ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから彩と日菜の2人と合流し、再び木々が生い茂る先ほどの場所へと戻ってきた

 

 

「やっとあたしの番だよ零くん!」

「待たせたな…それで?日菜の願いってのは何なんだ?」

「あたしのお願いはね~コレ!」

 

 

 そう言って日菜は俺にアコースティックギター、【アコギ】を手渡した。まぁ…何を言われるのかはこれで大体察しが付くが一応聞いておこう

 

 

「どうしろと?」

「弾き語りしてみてよ!」

「いきなり難易度上がったな」

「だって零くんの歌ってるところ全然見たこと無いもん!」

 

 

 確かに俺は人前であまり歌わない。今まで数回あった程度だ…

 曲のレパートリが少ないという理由はもあるが…アコギにおいては話がまた別だ…そしてその理由が…

 

 

「だが俺…アコギは洋楽しか出来ないぞ」

 

 

 そう…アコギで出来るのは歌詞が英語のものばかり、なので歌ったとしても歌詞が分からないと言われて終わりなのだ。それに…選曲の年代が古いのでウケが悪いだろうからな…

 

 

「いいからいいから!とにかく歌ってみてよ!」

「れい君の歌…気になる!」

「ぜひ聞かせてください!」

 

 

 日菜に続き、彩とイヴも聞かせてくれと頼んでくる…ならもう良いだろうと俺は近くにあった椅子に座りチューニングを済ませ、弦に指を掛ける。

 

 

「先ずは……Country Load」

 

 

 足でリズムを取り、弾き語りを始めた。

 音は緩く鮮やかに、歌声はギターの音を邪魔しないよう意識をしながら弾いて歌う。風で揺れる木々の音はアコギだけのむなしい今の1曲によく絡み合う…

 

 

「……Soldier's Eyes」

 

 

 久しぶりに弾いたアコギの感覚を忘れないように続けてもう一曲。先程の曲は有名だが、この曲の知名度はかなり低い。マニアックな曲だから仕方ないのだが…それでもこの曲は何故か印象に残ってしまう。

 歌うというよりは、語るという感覚を意識して歌った…

 

 

「とまぁこんな感じだが…」

「凄いよ零くん!スッゴく、るんってしたよ!」

「2人は?」

「とっても良かったよ!」

「はい!とても素晴らしい演奏でした!」

「そうか…気に入ったのなら何よりだ」

 

 

 

「次は……っ!」

 

 

 続けて歌い出そうとした時、痛みが引いたと思っていた顔の傷がチクリと痛んだ。ただ弾き語りしていただけだというのに…。傷を器具の上から押さえるが痛みはすぐに引いた。

 

 

「レイさん大丈夫ですか!?」

「…問題ない」

「無理はしないでね?」

「ああ…分かっている」

 

 

 アコギを椅子に置き一度立とうとすると、傷を押さえ心配になったのか彩とイヴは俺に駆け寄り肩を貸そうとする。だが自力で立てるので自力で立ち2人の間に立った。

 しかし…日菜はただ弾き語りして欲しかっただけだと言っていたが…他ににも理由がある気がする…聞いてみるか

 

 

「なぁ日菜?」

「ん?なに?」

「何故弾き語りをして欲しいと言ったんだ?ただ弾き語りを聴きたいなら退院後でも良かったんじゃないか?」

 

 

「それはね~。零くんにるん!てして欲しかったからだよ!」

 

「どういうことだ?」

 

「零くんって変わってる、あたしと全然違うのが面白いんだよ!特に練習の時の零くんってスッゴくるん!ってしてるんだよ。でも今の零くんを見てると…ズキッってする。だから…あたしはこうしてもらったら、またるん!ってしてくれるかなって思ったの」

 

 

 最初は明るかった日菜の表情は少しだけ曇り…日菜はあまり見せない【悩んだ】という表情をしている。彼女は独特な思考を持っているが、彼女は彼女なりに考えてくれていたようだ…

 

 

「……今の俺はどうだ?」

「ちょっとだけるん!って感じだよ!」

「…そうか」

 

 

 日菜の表現は難しいが…恐らく少し良い感じ。ということなのだろうか…

 あまり彼女たちを心配させたくは無い…日菜から見て少し良い感じなのなら、少しはリフレッシュさせて貰ったということなのだろうな…

 

 

「ありがとな。日菜」

「も~お礼はまだでしょ?まだ千聖ちゃんと麻弥ちゃんが待ってるんだから!ほら行くよ~っ!!」

「ま、待ってくれ!」

 

 

 お礼はまだ早いと俺の腕を掴み走る日菜と、引っ張られながら走る俺

 

 

「待ってください!ヒナさーん!」

「ちょっと待ってよ!置いてかないで~っ!」

 

 

 それを追いかける彩とイヴ

 

 

 

 向けられる慣れない心配と彼女たちの優しさ。その他にも、今日感じた様々なものは…今までに無かったものだと少しだけ分かったような気がした。

 それがただの勘違いなのかは分からない。だがそれでも、俺が人間として生き始めたのだと少しだけ確信を持ったような気がする…

 

 

 後半に続く…

 




☆10藤井 悠さん、shrヒロさん
☆8 鬼縞龍二さん ありがとうございます!!

それでは次回!今度こそ最終回!

それではまた、気長にお待ちください…

【改めて】次回のシリアスは?

  • afterglow
  • ハローハッピーワールド
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