化け物の俺は彼女たちと人間になりたい   作:ゼルクニル

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ええー…遅くなって申し訳ないです…
今後はここまで遅くならないように……努力はします(白目

なんか前より長くなって1万超えた…

では、第二章最終話どうぞ。


第46話 得て与える特別休暇 後半

『時間は20分だ』

 

 

 そう言って刑務官は出て行き扉を閉めた。俺とその男の前には声を通すための穴が開いたガラスが1枚。ガラスの向こうに居る男の顔に生気は無く、薄い光を放つ瞳でこちらを見る

 

 

『…どうして来たんだ?』

 

 

 どうして来た? というかそもそも此処は何処なのか。

 突然だが、俺は今…近藤と共に刑務所に来ている。聞きたいことは分かるので簡単に説明すと、日菜に引っ張られていた途中に近藤と出会い用事があるから一旦来いと言われ連れてこられたのが此処だった。

 まぁ遅かれ早かれ此処に来るつもりでは居たいたので良かったのだがな。

 

 

「どうして? お前のせいで俺はこうなったんだぞ。分かってるのか? お前のせいで、あいつらがどれだけ苦労したのかが……説教は止めよう。聞きたいことがあるからだ」

 

『聞きたい…こと?』

 

「そうだ。何故お前はあの時、こうするしかないと言ったんだ?」

 

 

 この男の行動には疑問が多かった。あの暴力団との関係は【借金した奴と金を貸した奴】だ。だがコイツは借金を踏み倒した…その結果、暴力団からパスパレを連れてくれば借金は無かったことにしてやるという提案。だがこの男はその提案を曖昧にし、拒否し続けた…

 おかしいと思わないか? 借金を踏み倒すような奴が、借金を無効にする提案を拒否したんだぞ? だとすれば何かしらの理由があったはず…それが知りたいのだ

 だがこの男は質問に答えない…いや、言えないのかもしれないな…

 

 

「質問を変えようか。何故、借金をした?」

 

『……それは…』

 

 

『彼女たちの…為だったんだ…』

 

 

 両手で頭を抱え泣きながらそう答えるこの男は、途切れ途切れだが事情を話し始めた。

 どうやらこの男…彼女たちの為にライブステージを用意しようと金を集めるものの上手くいかず、他の仕事を重ね資金を集めるも…仕事のうちの1つで客に難癖を付けられ金をむしり取られるという不幸に見舞われ、あがきに足掻いた結果がこのような事態を招いたのだという…

 事情は分かったが…実はもう一つだけ気になることがある

 

 

「聞きたいことがまだある……お前は…アテフリについて何も思わなかったのか?」

 

『そんな訳ないじゃないか! みんなあれだけの練習をしていたんだぞ!?』

 

「だが彩から聞いた。お前はその責任を取れとクビにされたんだろ?」

 

 

 

 

『……られたんだ

 

「何だと?」

 

 

『はめられたんだよっ!!』

 

 

 椅子が倒れる程、男は勢いよく立ち上がりそう叫んだ。

 

 

「はめられた? 一体どういうことだ?」

 

 

 その後男の話が長くなった為、話をまとめるとこうだ。

 

 ある日のこと…社長は一時期出張で事務所を空けるため社長の代理となる奴が来た。そしてソイツの要望は常に無茶苦茶で…今になって思うとソイツの言動は、明らかにうちの事務所に大博打をさせるような提案ばかりだったが…男も当時のスタッフ達も仕方が無いと思い従い続けた

 ソイツは大手から来た奴だという噂が広まってたので、下手をすれば当時小さかった事務所すぐに潰されると思った為その時点で反論しようとは思わなかった…

 そしてソイツが来て数日経ったある日…この男は突如として辞職を迫られた。理由は『仕事の複数持ち』何も罪には取れないこの事実を社長代理の権限によって犯罪にも近い事実に書き換え、強制退職となった…

 

 

『その後だ…あの野郎が……俺をはめたんだって気づいたのはな』

 

「何故その時点で気づいたんだ?」

 

『あの野郎は……社長が戻ってくる前日に姿を消したんだ。跡形も無くな…』

 

「……因みに…ソイツはどの大手から来た奴だった?」

 

 

『確か……〇〇プロダクションだった』

 

「……あんたもはめられた()()か」

 

 

 その名前をまた聞く羽目になるとは…覚えているか? この名を名乗る男を俺は知っている……あの男だ。知らない者の為に分かりやすく説明すると……【Roseliaを騙し、俺に叩きのめされた奴】だ

 あの男…相当のやり手だったのか…まぁ今は檻の中だがな

 

 

『まさか野郎を知ってるのか!?』

 

「知らないなら教えてやる。今は此処じゃない別の刑務所の中に居るぞ」

 

『そう…なのか? 本当か?』

 

「嘘だと思うなら後で聞いてみろ」

 

 

 俺が言うんだから事実に決まっているだろ…俺が刑務所に放り込んだようなものだからな

 

 

『じゃあアイツは!?』

 

「……何? だからさっき言ったじゃないか。その大手を…」

 

『ソイツじゃない! 後もう1人いただろ!?』

 

 

 この言葉は、ずっと俺の横で会話を聞いていた近藤と俺を驚かせるには十分すぎるものだった。

 

「そんな奴は知らない。何者なんだ?」

 

『ソイツが何者だったのかは分からない。姿さえ全く見たことが無いからな…ただ、何度か社長室で社長代理がソイツに電話しているのを聞いたことがあるんだ。口調的に電話していた相手の方が上の立場の人間のようだったが…』

 

 

 謎が1つ減ったと思ったが…また新たな謎が生まれてしまった。かつて…大手を名乗るあの詐欺師は、友希那たちにこんな事を言っていたそうだ…【そうしろと頼まれた】とな。雇い主について聞こうとはしたが…駄目だった。まさかその男が雇い主だったのか? 分からない…

 

 

「事情は分かった、だが話を戻させて貰う。……仕方ないと言った理由は?」

 

 

 あれだけ聞いたのにまだ聞くのかと思っただろ? ああ聞くとも当然だ。どんな理由があろうと刃物を向けた時点で俺を挑発したという事実は変わらない。仕方が無いという一言で人を殺す可能性を生んだことはどう考えようと許さない…

 

 

『……金が無くて…どうする事もできなくて…だからといって彼女たちを売るような事はできなかった…』

 

「それで?」

 

『あの暴力団に……良い仕事があると言われた。邪魔な奴を殺せって…そうしたら…借金を減らしてやるって…』

 

 

 明らかに利用されていたな。だがその時期…この男は精神的に相当な負担が掛かり、正常な判断が出来ていない状態だっただろう…。それにこの男もあの詐欺師に騙された被害者だ。

 

 するとこちら側の扉から刑務官が面会の時間が終わりに近づいてきたという報告をしに来た。聞くこともないので俺は近藤と共に帰ることにした

 

 

「……聞きたいことは全て聞いた。協力感謝する」

 

『なぁ待ってくれ! ……最後に…』

 

「なんだ?」

 

『……君のおかげで彼女たちの演奏を聴けた。ありがとう』

 

 

 ガラス越しに頭を下げる男に対して、俺は呆れたような声で答えた

 

 

「…俺のおかげじゃない」

 

『そんなことは_』

 

「お前が、彼女たちは練習するべきだと判断し彼女たちの為に身を削った。その結果はこのような最悪の結果となってしまった…だがな。お前の努力があったからこそ、彼女たちは…少なくとも彩はそれに答えようと頑張っていたその結果がお前が聞いた演奏だ。あんたの仕事は俺が引き継ぐ……後は任せろ」

 

『……よろしく…お願いします』

 

 

 男の最後が一言を言った後、男に一礼され面会は終わりを告げた。一礼を終え頭を上げた際に見えたこの男の顔は、刑務所の中だというのにもかかわらず…悔いは無いという目をしていたように見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刑務所を去り、今は近藤の車両で病院へと戻っている。助手席は荷物が置かれ俺は後ろの席で窓の外を見ていた。歩道行く人々を眺め、今までの惨劇は何だったのだろうと思い返す……現実とはいつだろうと何処だろうと悲惨なものだというのに…

 

 窓の外の景色に飽きたので、横切る車両の音を聞きながらフロントガラスに写る景色を見る。暇なのだと分かってはいるが暇を潰す物が無いので、今できることと言えばこういったことしか無いのだ…

 

 

「そう言えば新聞読んだか?」

 

「読んでいないが…何故だ?」

 

 

 運転している近藤はバックミラーで俺と目線を合わせそう言った。普通はニュースじゃないのかと思われるだろうが当然ニュースも見て、その上で新聞も読むようにしているのだ。どちらかでも良いとは思うが…何せ病室にはテレビが無いので今は新聞で情報収集している。

 

 俺が新聞を読んでいないと知った近藤は、助手席の荷物の中から新聞を取り出し俺に放り渡した。渡された新聞の記事には先日の一件について書かれている。幸いにも俺についての情報は出てこそいないが…嗅ぎ回られるのは時間の問題だと確信し、俺は頭を抱えた

 

 

「まぁ、考えようによっては宣伝効果があるな! 心配すんな。お前の顔は載ってないし、俺からもそれ以上の詮索は止めるように言っておくからさ!」

 

「ああ…頼む…」

 

 

 ようやく安定した生活を手にできると思っていたが…こうなるから記者やマスコミは嫌いだ。

 

 

「こういった生活に少しは慣れたか?」

 

「…まだ分からない。何もかもな」

 

 

 思い返せば…良くも悪くも濃い日々だった。彼女たちとの出会いは唐突に起きたと思ったら今度は女子学園共学化の試験入学者となり学生となった。これで平和に…と思ったのも束の間、また事件に巻き込まれ…そして今回もまたこの有り様である。

 この様な生活が普通では無いことは常識が無い俺にも分かる。だが今回の一件は終わったことを考えれば…しばらくは平和を味わえるだろう。

 

 

「しっかしなぁ〜まさかお前にモテ期が来るとはな〜」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもない」

 

 

 一体何を言っていたのだろうか。気にはなるが今はそんなことよりも他に気になることがある……有り過ぎる。正体が分からない人物が関わっていた事件に巻き込まれたのは偶然なのだろうか……いや、あまり深く考えないで置こう。

 

 今後の心配を止めた俺は車両に乗った時から気になっていた事を聞くことにした

 

 

「今回の一件についてはいろいろ聞けたか?」

 

「とりあえず資料は貰った……ほらよ」

 

「投げるなよ…」

 

 

 新聞同様にこちらに事件の内容をまとめた資料を投げ渡された。直接聞ければ一番だがそうはいかない、俺は()()()()()一般人だからな…一般人の学生と、紛争から帰国した英雄とでは得られる情報の信用性と質量が違うのは明らかだからな。長々と書かれた文章を目で読んでいく…流石は警察。内容は細かく書かれている…病院に着くまで読むとしよう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 資料を隅々まで読み終わったところで車両が止まり、窓の外は見慣れてしまった景色が広がっている。俺だけ車両から降り、窓から顔を出した近藤に資料を返すと【また後でな】と言って何処かに言ってしまった…そしてまた。なのか…今度はタイミングが良い時に来て貰いたいものだな

 さて…彼女たちは何処に居るのだろうか…。病院の入り口から病室までの道はかなり近いが、彼女たちを探すため結構な遠回りをして戻ることにした。しかしその道中で会うことは無く…意味をなさない遠回りを終え病室へと戻ってきた

 

 

「遅かったじゃない」

 

「待ってましたよ。零さん」

 

「……居た」

 

 

 病室のドアを開けると、そこには待ちくたびれていたという表情を浮かべる千聖と麻弥が椅子に座って待っていた。余計なことを考えずに初めから病室に戻っていれば良かったのだと思いながらも軽く謝罪をして話を進めた

 

 

「それで…2人の要望は?」

 

「それなんだけど…2人で1つにしてもいいかしら?」

 

「ああ。構わない」

 

「それは良かったです。では零さん。どうぞこちらへ」

 

 

 そう言って麻弥は病室のテーブルの前に椅子を置き、座れるように椅子を引いた。何をするのかと思いながらも俺は指示に従い椅子に座る。

 ……そういえば俺のノートは何処に行ったのだろうか。朝はこのテーブルの上にまとめて置いてあったのだが…辺りを見渡すとベットの上にまとめて置かれていた。

 それからしばらく待つと、病室にもかかわらず背後からハーブの香りが広がり始めた。一体2人は何をしているのだろうかと振り返ると、カップをとポットを乗せたトレーをこちらに運ぶ千聖の姿が。

 

 

「何処からお湯を持ってきたんだ?」

 

「何処って…電動ケトルがあるじゃない」

 

「そうなのか? 知らなかった…テレビは無いのにケトルはあるのか……というか麻弥は何をしているんだ?」

 

「ちょっと捜し物を…ありました!」

 

 

 千聖の後ろでずっとカバンを漁っていた麻弥は、包装紙に包まれた箱を取り出しこちらに来た

 

 

「それで…これは…」

 

「色々あって落ち着く暇が無かったでしょう? だから今からお茶でもどうかと思って」

 

「本当はジブンも皆さんと同じように何かしたかったんですが…あまり良い案が思いつかなかったので千聖さんにご一緒させて貰いました。ですので、ジブンはお菓子を」

 

「そういうことか。確かに…こういう時間は欲しかった」

 

「そう? 良かったわ」

 

 

 テーブルの上にカップと菓子を広げ、2人と顔を合わせるようにテーブルを囲むように座った。カップを手に取り香りを嗅ぐとハーブの爽やかな香りが全身に染みる。そのまま口に含み、喉を鳴らして飲み込むと全身が温まる。……こう落ち着いて紅茶を飲むのは初めてなのでは無いだろうか。

 

 しばらく紅茶を楽しむとカップをテーブルに置き、千聖が口を開いた

 

 

「それで……さっきは何処に行っていたの?」

 

「…」

 

「いえその…答えられないのなら良いのよ? 単純な興味で…」

 

「………元マネージャーに会ってきた」

 

「「!?」」

 

 

 言うかどうか悩んだが…一応言っておくべきだと判断し、俺は2人に今回の一件について話し始めた

 

 

「少し重い話になるが…聞くか?」

 

「…ええ。聞くわ」

 

「ジブンも…今回の一件について知っておきたいです…」

 

「いきなりだが…元マネージャーはしばらく刑務所の中だ。理由は暴力団の一件に関わったからだと…だがあくまでも関与というだけで、あの男自身が何かしたわけでは無いので2、3年で出られるらしい」

 

「そう…」

 

「…」

 

「次にあの男共だが…どうやら全ても始まりだったあの脅迫状もあの男共の仕業らしい……もはや言うまでも無く有罪。罰金と懲役刑だが…もうあの男共を見ることも無いだろう。因みにあのステージでの練習の際、俺に発砲した男も同罪となった」

 

「あの時は本当に…」

 

「ジブン達が…」

 

「もういいんだ。現に生きているのだからな…」

 

 

 やはり今話すべき内容では無かっただろうか。だが遅かれ早かれこういった話をしなければならないのだから結果的には良かったはずだ…

 ……いや…本当にそうなのだろうか…。本当は違うのでは……いや…だが…

 

 自分の発言は正しかったのかと疑問を思ったのは初めての感覚だった。いつもならそうなのだと…決して発言に自信があるわけでは無いがそれが一番正しい判断なのだと思っていた。

 だが…今は前とは違う。相手は大人でも無ければ敵でも無い……ただの学生だ。当然俺も学生だが…そうじゃない。彼女たちと俺の違い…それは普通か、そうじゃないか。

 

 俺は…普通じゃない…。

 

 

「……何だろうな」

 

 

 またいつぞやのように…俺は考えもなしに口を開いた

 

 

「零?」

 

「分からない……結局…俺は何がしたんだろうな…」

 

「その…零さんは悩んでるんですか?」

 

「悩む……悩んでるんだろうか…それさえもが分からない…」

 

 

 カップの中で回る紅茶のように思考がまとまらず…精神が小さく波を打ち、回る。

 

 

「ただ…分からないんだ…。結局俺は…何なんだ?」

 

 

 それしか言えなかった。彼女たちのように夢があるわけでも無い、元マネージャーのように誰かの為に身を削ったわけでも無い。今までだってそうだった…何もかもを奪い、狂わせた奴らへの復讐心。それが俺の生きようとした意味だった…

 だが今、奴らはもう居ない。だから平和を求めて…普通の人間になる為に…普通に生きてきた彼女たちを知るためマネージャーとなった。だが…

 

 

「最近思う…俺は…マネージャーと名乗って良いのだろうか…」

 

「何を…言ってるの?」

 

「元マネージャーに別れを言った後…あの男は、悔いのないと言わんばかりの目をしてい

た。…あれが、人の為に身を削った人間の目なんだろうな…」

 

「でしたら零さんだって!」

 

 

 違う。俺は…意味が違うのだ。

 あの男は、自分の意思で身を削った。だが俺は…それしか出来ないから身を削った。

 それは自分の意思だと言えるのだろうか。それは所謂【やることが無かったからやった】というだけなのではないのだろうか…

 

 

「分からない…俺は……何がしたいんだろうか…」

 

 

 病室は沈黙に包まれ、外は徐々に日が沈む…俺は自分の発言を最後に、冷えてしまった紅茶を飲み干した。すると千聖の電話が鳴ったと思えば、呼ばれたのでと部屋を出ていき…麻弥と2人だけになってしまった

 

 

「すまない…折角用意してくれたのだというのに…」

 

「いえ、良いんですよ? 言ったら楽になることもありますから」

 

 

 謝罪をすると麻弥は優しくそう言い、席をずらして俺の横に来た

 

 

「……ジブンも、分からないです」

 

「…何がだ?」

 

「今のジブンがですよ。……ジブンは、アイドルってこう…キラキラしたもので…ジブンみたいなのが慣れるとは思ってませんでした。そもそも、千聖さんがジブンをスカウトしたので、今こうしてアイドルとして活動出来るんですけど…」

 

「…それで……何が分からないんだ?」

 

「ジブンは…何故アイドルをしているんでしょうか」

 

「……どういう事だ?」

 

「最初の頃、本当は出来ない、無理だって思ってたんです。ですが今でもジブンはアイドルとして活動しています。つまりはですね?」

 

 

「ジブンが意識していなくても、無意識のうちにジブンで決めた何かが、今のジブンを突き動かしてるんじゃないかって事です!」

 

 

 麻弥の言葉を聞いた時、何かがハッキリと見えたような感覚を覚えた。今まで感じたことのない光が薄っすらと差したような気がしたのだ。弱く、細いが…今の状態を楽にするには十分な光が…

 

 

「どうでしょうか…その、ただそう思ったっていう…決して面白い話ではないですけど…」

 

「いや…十分な話だったぞ。その…何となくだが、少しだけ…考えがまとまった」

 

「本当ですか!? 良かったです!」

 

 

 先程まで暗い顔をしていた麻弥だったが、今は笑顔でそう答えた

 まだ俺は分からないことだらけだ。だが…焦る必要は無い。時間はまだまだあるのだ、これから見つけられるだろう…

 

 

「……色々抱え込んでませんか?」

 

「何故そう思う?」

 

 

 突然そう聞かれ、俺はいつも通りの返しをする。すると麻弥は立ち上がり俺のノートのうちの1冊を手に戻ってくるとノートを開きページをめくり続けると麻弥は途中で止め口を開いた

 

 

「零さんは練習が終わると、いつもこのノートに何か書いてたのは知ってましたが…驚きました。偶にジブンもメモを取ったりはしますがそれ以上です…」

 

「仕事を請け負った以上はそれ位は出来るようにしておくべきだと思ったからだ」

 

 

 請け負った以上はそれに見合うだけの事をしなければならない。そう思い、俺は独学で最低限の知識は身につけたつもりだ。だがそれでも…経験の差が埋まらないのは分かっていた。せめて無理にでも合わせられるようにと思い俺は…ノートに記録を付けることにしたのだ…

 

 

「……無理に…合わせてませんか?」

 

「…合わせていたな」

 

「彩さんから聞きましたよ? 零さんの演奏する姿が…楽しそうに見えたって言ってました」

 

「楽しそう…か……楽しんでいたかも、俺には分からない…」

 

「零さん。ジブンは…零さんには、零さんの知らない…零さんだけの良いものがあると思うんです。その…偉そうには言えませんが…一応ジブンは先輩ですから。何かあったら、協力して欲しいことがありましたら…是非ジブンを頼ってください」

 

 

 出しゃばっていたのだろうかと自分に聞くが…それさえもが分からなくなった。そもそも…何かを勘違いしていたんだろうか、そうとも思い始めた…

 ここまで言われるのは……いつぶりだろうか。未だに俺は全てを背負って生きようとしている事を今改めて理解した。それでは駄目なのだ。俺は変わると決めたのだから……

 だがそれでも…

 

 

「…やはり分からない」

 

「そう…ですか…」

 

「だが…これから理解していけば……良いよな?」

 

「!。……そうですよ。これから理解していけば大丈夫です!」

 

「だから…その…なんだ……何かあったら…頼ってもいいだろうか」

 

「はいっ!。ただ……無理をしない範囲でですよ?」

 

「当然だ」

 

 

 そうだ…もう今は違う。

 分からない事は聞けばいい、たったそれだけのことだ。未だに俺の神経は昔のままだが…それでも、これから変わっていけば良い。

 俺の()()はこれからなのだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 麻弥との会話を終え…俺は麻弥の案内によって、今日一日の締めくくりがあるという場所へと案内された。

 しかしそこは何度も利用した会議室だった。麻弥の案内に従い扉を開けるとそこには先程出て行った千聖と、何故か社長と世話になっている医者(ドクター)が居た。

 どういうことなのかと聞こうと後ろに居た麻弥の方を見るが既に居ない。どうすることも出来ず、俺はこの場に居る者達に素直に聞いた

 

 

「これはどういう集まりなのだろうか?」

 

『その説明は私から…先ずは零くん。医療器具の調子はどうかね?』

 

「…傷は痛まないので早く外したいです」

 

『やはりそうか…では、今から医療器具(ソレ)を外そう』

 

 

 ようやく外せると思いながら俺は医者(ドクター)の側に行き背を向け、器具を外してもらった。後頭部で金具が外れる音がすると同時に顔の左側が軽くなる…外して貰うまで閉じていた目を開けると数日ぶりに両目で見える景色が広がる。

 

 置かれていた鏡を見ると…やはり傷は深く残っている。今まで隠し続けた傷跡に更なる深手の傷…仮にまた隠そうと思ったとしてもここまで深いものはもう隠せない。だが俺は…もう隠さない。現に彼女たちは、この顔でも良いと言ってくれたのだ……変わる為にも…俺はこの傷をさらけ出してこれから過ごしていく

 そうは決めたが…やはりこの顔は…今後の事を考えると…

 

 

「……失明するよりはマシだな」

 

「零…」

 

「零くん…本当に…」

 

「別に責めているわけではありませんよ。もう終わったことですかr「それじゃ駄目なのよっ!」…千聖?」

 

「…ごめんなさい。取り乱してしまったわ」

 

 

 突然の出来事に流石の俺も少し驚いた。いつもと同じ受け答えをしていた途端に、千聖が強くそう言った。その後すぐに冷静さを取り戻し…次に社長が口を開いた

 

 

「零くん…私は、いや。私たちは君に返せない程の恩がある。私は社長でありながら…学生である君をこのような事態に招いてしまった…本当に申し訳なかった!」

 

「ですから…」

 

「だから零くん! 最後に頼みたい…私の我儘を聞いてはもらえないだろうか」

 

 

 不要だと言った謝罪頭を下げてまでをした社長。そして今度は我儘を聞いて欲しいという……もはや理解が追いつかない。

 だがそんな状況でも1つだけ理解できることがある。今の社長は……今まで以上に本気だということだ…。その目は…その頼みに対しての強い思いが伝わる程の真っ直ぐだ…。

 

 

「…分かりました」

 

「ありがとう零くん。ただ申し訳ない…少しだけ準備がいるんだ……待っていてくれないか?」

 

「はぁ…分かりました」

 

 

 そう言うと、社長と医者(ドクター)は部屋を出て行ってしまい…俺と千聖の2人だけになってしまった…

 何を話せば良いのか分からず、近くにある鏡で自分の顔を再び確かめる。改めて自分の顔を見ると…よくもここまで顔に付けたものだと思えてしまう。額と頬には刃傷が使い込まれたまな板のように幾つもの傷がある自分の顔を見て………久しぶりに、本当に大丈夫なのだろうかと心配になった

 

 

「零?大丈夫なの?」

 

「……分から、いや…………大丈夫ではない…か」

 

 

 ついさっきまで変わっていけば良いと言っていた自分に対して…物事に対してここまで不安になるようなことは今まで無かった。これが普通の人間なのだろうか…それとも、ただ自分が弱いだけなのだろうか…我ながら情けないと思った

 

 

「今日一日色々として貰って…本当にありがとう」

 

「お礼なんていいのよ。私たちがそうしたかっただけだから…」

 

「………面倒だと思わないのか?」

 

 

 感謝の言葉の後に面倒だったかと聞くのは場違いな発言。それくらいは理解している。だが…それでも俺は問いたい。何故ここまでしてくれるのかを…

 

 立ち話を止める為パイプ椅子を引っ張り出し座り、俺の前に居た千聖も同じく椅子に座った

 

 

「当たり前のことを理解していない、約束は果たさない俺は…面倒くさいだろ」

 

「確かにそうね…」

 

「だったら何故……そこまで心配するんだ…?」

 

 

「貴方が…大切な人だからよ」

 

「俺が?」

 

 

 千聖の言葉に耳を疑った。ロクな事が無かった俺の今までのうちに…そのようなことを言われたのは一体いつだっただろうか、そもそもそのようなことを言われたことはあるのだろうか…ただの聞き違いなのではとさえ思った。

 そんな事を考えている間にも、千聖は話し続ける…

 

 

「確かに貴方は…面倒な人よ」

 

「だろうな…」

 

 

 分かりきっていた事だが…やはりそうだった、結局俺はそんなものなのだ。

 一体何を期待したのだろうかと思いながら目線を下に向ける。……得るものなど無い。常に下、血に塗れる生活という底辺の底辺を生きた俺は…そこから上になど行けるのだろうかと思い、自分に呆れ、目を閉じ火を消す時のような強いため息を一瞬吐いた

 

 だが次に目を開いた時には…状況が理解できなかった。目線を左側に向けると千聖の横顔と後ろ姿が見え、首には腕が回されていた。何をしているのかと聞く前に千聖はその状態のまま話を続けた

 

 

「けれど貴方は私たちを救ってくれた。何度も…何度も」

 

「それは当たり前の事だろ…」

 

「零…貴方の行動は【当たり前の事】で済ませてはいけないわよ…。そんな安い言葉で…終わらせないで…」

 

「千聖?」

 

「貴方は…どうして自分を大切にしないの!? いつだって無理をして! 目の前で倒れて!……それを見る私の身にもなって……」

 

「何故そこまで心配するんだ…」

 

「貴方は、本当の私を理解してくれたのよ…今度は私が貴方の理解者になりたい。例え無理だったとしても…いつでも私は貴方の味方…それはみんなも同じなのよ…だから、私たちを信じて…お願い…」ボロボロ

 

 

 顔は見えないが…声は震え、首にまわされた腕の力は強く、首に温かな雫がポツポツと当たる…

 俺にとって当たり前の事で怒り、泣き、更には信じて欲しいと言う。何もかもが初めての感覚だった。彼女たちは…こんな俺のために一日色々なことをしてくれたというのに、俺は彼女たちを…完全に信用していなかった…

 

 

「……申し訳なかった」

 

「ホントよ……バカ…」

 

 

 空いた右手で千聖の頭を撫でて謝罪をする。謝罪しようとも仕切れない俺の唯一の償い…遅いだろうが、もう一度…人を信じてみよう。ここまでしてくれたのだ…きっと……前とは違うだろう…

 その後俺は、離れない千聖が離れるまで頭を撫で続けた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しだけ時間が経つと、千聖は自然と離れていき…最初のように椅子に座った後話を続けた。

 

 

「私たちは貴方に救われた。最後に…社長の我儘を聞いてくれてありがとう」

 

「聞きたかったんだが…社長の我儘とは何なんだ?」

 

「それは言えないわ。ただ強いて言うなら……貴方にとってとても良いことよ」

 

 

 笑みを浮かべてそう言う千聖とは裏腹に、俺はますます分からなくなっていた…

 一体何なのだろうかと考えていると、部屋の扉が開き…社長と医者(ドクター)、後何故か、彩、日菜、麻弥、イヴの4人も入ってきた。

 

 

「……何度も聞くが、何なんだ?」

 

「零くん。君は此処に居るパスパレの5人を命を賭けて守った。その事に改めてお礼を言う、ありがとう」

 

「それはもう聞きましたよ?それでその…我儘とは?」

 

「私は君に返せない程の、命の恩が出来た。だからせめて……君の生きる手助けがしたい。君のため、そして君と共に居たいと願うパスパレの為に────」

 

 

「っ!?」

 

 社長の我儘は……俺が得ても良いのかと思える程の提案だった…

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、医者(ドクター)の診察を最後に受け、俺は無事に退院を認められた。

 顔に巻かれた包帯を一部取り、鏡を見ると顔が映る。顎を軽く動かすと問題なく動くかせる事を確認し、再び包帯を巻いた

 

「どうかね?顔の調子は、問題なく()()かな?」

 

「信じられませんよ…本当に感謝します」

 

「構わないさ…退院おめでとう。今度こそ入院しないでくれたまえ」

 

「はい」

 

 

 そして俺は、ようやく退院した。前回のように空は青く、温かな風が髪を揺らす。そして外にはパスパレの5人が待っていてくれた。声を掛ける前に気づいた日菜がこちらに駆け寄り、他の4人も同じく駆け寄ってきた。

 

 

「待たせたか?」

 

「そんなことないよ!今来たところだよ!」

 

「そうか?」

 

「そうよ。それより……どうかしら…顔の調子は」

 

 

「……感謝しきれないくらいだ」

 

「「「「「本当(ですか)!?」」」」」

 

「本当にありがとう…」

 

 

 遠回しに感謝を伝えると彼女たちは満面の笑みで、彩に関しては泣きながら喜んだ。本当に感謝しかない、そう思いながら…俺は彼女たちの前で包帯を外した…

 

 

 

 

「顔の傷を()()()()()()()

 

 

 そう。社長の我儘というのは、顔の傷を消す手術を受けて欲しいというものだった。そのような手術があるという事さえ知らなかったのでその言葉を聞いたときは本当に驚いた、無論願っても無い事だったのでご厚意に甘えさせて貰った。

 だが俺は…あえて傷をいくつか残した。それは戒めの証であり、過去を忘れないためである。他にも理由はあるが…他は大した理由でもない

 

 結果今は、今回の【左側の額から頬までの刃傷】と獣に付けられたような感じに残した【右頬の傷3本】だけとなった。

 

 

「かなりいい感じだと俺は思うのだが…どうだろうか」

 

「うん!いい感じだよ!」

 

「そうね。男らしいと思うわ」

 

「ハクが付きました!」

 

「るんっ♪て感じだよ!」

 

「はいっ!バッチリです!」

 

 

 その後、病院から少しだけの間彼女たちと共に家路についたが彼女たちは仕事があるため途中で別れ…1人家路を辿った

 

 

 彼女たちと別れた後、数日ぶりに自宅であるマンションへと戻った。鍵を開け扉を開くと久しぶりに見慣れた光景を見てようやく終わったんだと実感できる。

 荷物をテーブルに乗せ、ソファーに身を投げ横になると日の暖かな光が全身を包み睡魔を誘う。目を閉じ、この安らぎに身を任せようとした…途端にテーブルの上にあるスマホが鳴り響き睡魔を追い払った。誰なんだと思いながら画面を見ると近藤の文字が表示され、少しの苛立ちを覚えならが電話に出た

 

 

「…なんだ」

 

〈いやー悪い!急な用事で会いにいけなくなってな〜。言おうと思ってたことだけ言っておこうと思ってな〉

 

「そういえばそんなこと言っていたな。で?」

 

〈アイツらのうちの何人かが、仕事の都合でしばらくそっちら辺に住むことになったらしいからタイミングが合えば会うかもなって話だ〉

 

「そうか。分かった」

 

〈おう!じゃまた会おうぜ!〉

 

 

 その言葉を最後に近藤の声は消え、画面はホームへと戻った。アイツらが近くに住むのか…ならば、しばらくは揉め事も無さそうだ、あったとしても頼ればどうにでもなるだろう…

 

 睡魔を少し追い払った俺はテーブルにスマホを置き、倒した身体を無理矢理起こしキッチンで眠気覚ましに紅茶を入れた。紅茶は千聖が用意してくれた物で、余った残りを帰りに貰ったのだ。

 

 

「(暫くは…何事も無く学校生活を遅れると良いのだがな…)」

 

 

 明日、いや…今後に期待をするなど人生で初めてなのではないだろうか。明日が来るかも分からなかった俺に明日について考えられる精神的余裕が生まれた…ようやく、人としての()()を…何も無かった感情に、少しだけ彩りを得たような気がした…。

 

 

 

 

 彩りは化け物を人へと変え始める…

 

 (カラ)の心が色彩に染まる日は…来るのだろうか…

 

 

色無き心に彩りを  完

 

 

 

第三章へと続く…




☆10 Ciruku/Rekiさん
☆9 マーボー神父さん
☆8 ユウキ、さん
☆1 Dixie to armsさん 評価ありがとうございました。

☆1は、まぁ仕方が無いです…今後頑張って行きます…


次回からは第三章、内容は緩く行かせて貰います。
後は初期の話を再投稿を予定しているので、第三章はそちらと平行しての投稿となります…(予定なので書き直さないかも…)


それではまた、次回を気長にお待ちください…

【改めて】次回のシリアスは?

  • afterglow
  • ハローハッピーワールド
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