「困ったときは『冬優子ちゃん』を訪ねるっすよ」another   作:はちコウP

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森キノコさんの漫画を読む!

続きが読みたい!

ていうかプロット思い浮かんだ!書きたい!

書き始める

ハッ!?作者様の許可取らねば!

思いの丈をDMして就寝

翌朝、続きがupされていたのを見る

ダメだ、こっちのが先を見たい……と意気消沈

作者様に再DM、この話は無かったことに……

どうせ俺なんか……

作者様「書いても構いませんよ」

喜び勇んで書き連ねている←今ココ

こんな経緯で書き始めました。
アレンジし過ぎて最早別物となっておりますが、お楽しみいただければ幸いです。

読んだ後は作者様の漫画を10倍読んで下さい。是非に!


「困ったときは『冬優子ちゃん』を訪ねるっすよ」another 【前編】

 ひしゃくを放り入れた桶に水を汲む。

 半分くらい水が入った所で桶を持って、私は墓地に向けて歩き出した。

 八月の半ば、今日も陽射しがキツイ。相変わらず今年の夏も日本は猛暑続きの気候。天気予報で今日の最高気温は三十度と言っていた。なので今日は比較的過ごしやすくはある。小さなこの子を連れて歩くには、特に都合が良かった。

 だが、暑いものは暑いのに変わり無い。額から流れる汗を軽く手で拭う。

 そして目的の墓前に着いた私は、墓石周りを軽く掃除して桶の水をかけていく。

 枯れ始めていたお供えの花を新しいのと交換し、蝋燭に火を灯して線香を添えた。

「まったく。死んでまでふゆに世話かけさせんじゃないわよ、ほんっとうに」

 私は芹沢家と刻まれた墓石に向かって語り掛けた。

 

 ストレイライトが解散して数年―――あさひが死んだ

 最後まで自由過ぎる生き方だった。

 そしてアイツは死んだ後もなお……私に特大の迷惑を残していった。

 

「ホラ、アンタも手くらい合わせなさい。ママのお墓よ」

 傍らに立つ、あさひによく似た子供に私は声をかけた。

 

 

【数ヶ月前】

 

《数々の奇跡と偉業を打ち立てた伝説のアイドル、芹沢あさひさんが亡くなって―――周忌。本日はその軌跡の全てを振り返ると共に》

《283プロダクションより、三人組アイドルユニット〔ストレイライト〕のセンターとして華々しくデビューしたあさひさんは》

《そして数々の伝説の中でも一際異彩を放っているのが》

《ひと時のブランクを経て帰って来た彼女は、更に目覚ましい》

 垂れ流していたテレビの音声が耳障りになってきた。一人がけのソファーに座っていた私はリモコンを操作して電源を切る。

 窓から見える夜景はいつもと変わらず。その変わらない無機質な煌びやかさが今の私には心地よかった。

 どうしてか。……ゆらゆらとリズムに合わせるように揺れないからだ。

 テーブルの上に置いてある缶ビールを手に取り口をつける。

「空……」

 すっかり中身が無くなっていた事にも気づかないくらい酔いが回っていたみたいだ。

 テーブルの上、辺りの床には空き缶とゴミが散らばっている。

 だが、それでもなお飲み足りないと感じる私は冷蔵庫へと向かおうとし

「……今のが最後だっんだわ」

 部屋の酒が底を尽きた事を思い出して、財布とマスクを手に取った。

 

「ぁりがとうっしたー」

 やる気の感じられない店員の声を背に受けて、私はビニール袋片手にコンビニを出る。

 最早私の日常の一コマと化したその光景に、かつてアイドルとして名を馳せた黛冬優子の面影は無い。

 未だ芸能界には身を置いているが、町を歩いていて声をかけられることなんて殆どない。もういちいちマスクなんて付けなくてもいいのかもしれない。だけども習慣と化したコレを未だに私はやっている。

 そして時々思わず振り返ってしまう。あの日々を…… 

 

「……いたっ!」

 いつの間にかマンションの入口に辿り着いていた私は、オートロックの自動ドアに額をぶつけてしまった。ボーッとしていたみたい。

 いくら酔いが覚めていないとはいえ酷過ぎる。……はぁ、と溜息をついて

「っと……家の鍵……」

 オートロックを解除するのに必要な家の鍵を取り出す為にポケットに手を入れようとした。

「……子供?」

 その時私は、マンション入口から少し離れた壁際に、小さな子供が膝を抱えてうずくまっているのを見つけた。

 その子の顔は、被ったフードに隠れてよく見えない。隣には小さなリュックがちょこんと置かれている。

 どうしてこんな時間に子供が?部屋に入れなくて困ってるのかしら?

 などと考えつつ、私はその子に近づいて声をかけた。

「ねえあなた」

 呼びかけるとピクリと子供が反応した。俯いていた顔が私の方に向けて少し上向く。

「こんな時間にどうしたの?パパとママは―――」

 子供が被っていたフードをゆっくりと外した。すると……

 

[冬優子ちゃん!]

 頭に浮かんだのは懐かしい生意気な声と無邪気な憎たらしい笑顔。

 最っ悪に空気が読めなくって、好き勝手に動き回ってやりたい放題。それでいて最っ高のパフォーマンスができる才能と実力と集中力、それらを武器にどこまでも高みに上り詰めていく、人を惹きつける魅力を持ったアイドル。

 私と同じユニットのメンバーで、ずっと背中を負い続けたアイドル……

 

「…………あさひ?」

 芹沢あさひに瓜二つの顔がそこにあった。

 

 

 

「ちょっとココで待ってなさい。すぐ終わるから絶対に動くんじゃないわよ」

 自室の玄関に子供を立たせたまま、私は早足でリビングへ。

 大急ぎでゴミ袋を取り出し、散らかったゴミを片っ端から放り込む。

 分別?そんな細かい事は後回し!手当たり次第にかき集めたゴミで膨れ上がった袋を部屋の隅に追いやって

「もういいわよ、入ってきなさい」

 玄関に向けて声をかけた。

 ドタドタという足音と共に入ってきた子供は

「すご~い!広い!冬優子ちゃんの家すご~い!」

 と大声を出しながらリビングを走り回る。

「あ~~っ!うっさい!静かにしないと放り出すわよ!」

「は~い!」

 子供は手を大きく上げて返事をすると、ボスンと音を立てて勢いよくソファーに座った。だけど落ち着きがないのは相変わらずで、座ったまましきりに体を揺すっている。

 はぁ……何なのよ。と心の中で呟いて私は額に手を当てる。

 頭が痛い……

 

 玄関で出会ったあさひに似た子は、私の顔を見るなり

「冬優子ちゃん!冬優子ちゃんだ!わ~い!冬優子ちゃん!」

 大声で叫びながら飛び跳ねだしたのだ。

「ちょ、ちょっと。静かにしなさい」

「わ~い!冬優子ちゃん!冬優子ちゃん!」 

「だから、静かにしなさい!」

 しーっ!と指を立てて言うけど効果無し。

 夜の静けさに、あさひによく似た甲高い声が響き渡る。

「もーーーっ!!」

「冬優――モゴっ――!ん―!ん―!」

 手で口を塞いでリュックごと子供を抱え上げると、私は急いでオートロックを解除して自分の部屋に駆けていったのだった。

 思い返してみると私のした事は、完全に誘拐犯のそれだった。

 人に見つかったら言い逃れなんて100%できない。

 そうしてしまう程に私は動揺・混乱してたのだ。

 

「それで、アンタ。何で私の……」

 ニコニコとした顔で私を見上げる子供に問いかけようとしたその時。

 グ~~~

 と間の抜けた音がした。

「…………お腹すいた」

「は?」

 

 もうっ!何でふゆがこんな事しなくちゃなんないのよ!

 と心の中で叫んで、イライラしながら冷蔵庫を開ける。

 中を見渡す。目ぼしい食材は……ない。酒が占有していたスペースがぽっかりと空いていて、あとはドレッシングとかソースみたいな調味料がちらほらとあるだけ。我ながら情けない。

 続いて冷凍庫を開ける。そこにはかろうじて子供に出せそうな食べ物があった。

「アンタ食べれない物とか、アレルギー……いや、食べちゃいけないって言われてる物とかある?」

 キッチンから子供の方を見る。子供は力なく首を横に振っていた。さっきまでの元気がウソみたいに口を閉じて俯いてる。

 朝から何も食べていないからって、いきなりあの調子になるってどういう事!?子供って意味わかんない!

 ますます苛立つ気持ちをどうにか深呼吸で落ち着ける。とにかく何か食べさせないと話を聞くどころじゃない。

 私は冷蔵庫から冷凍のうどんを取り出して調理を始めた。とは言っても具材なんて何もない。作れるのは汁と麺だけのかけうどんだ。

 

「ほら、食べなさい。熱いから、火傷するんじゃないわよ」

「いただきま~~す!」

 私が作ったうどんを念入りにフーフーしながら子供は食べる。

 箸は満足に使えないみたいだからフォークを持たせた。

「どう?美味しい?」

「うん。普通だよ」

「なっ!?」

 思わず手に力が入った。ひっぱたいてやろうか!

 市販のつゆと冷凍うどんで作った物だから特別美味しいわけじゃないのは自分でもわかってる。

それでも、だからといってその言い草は何!?何となくでも空気を読む事は出来ないの!?

 子供だから気遣いなんて出来なくて当たり前なのだが、カチンとくる時はくるものだ。

 何度目かの苛立ちを、再び深呼吸で落ち着かせる。

 冷静に、冷静になるのよ冬優子。いや、ふゆ。相手は子供。相手が子供なら……

「それじゃあ、そろそろあなたの事をふゆに教えてくれないかな?」

 長年培ったコレの出番。引きつる頬を無理やり動かしてのアイドルスマイル。

 ていうか、初対面の時にどうしてこうしなかったのだか。

 きっとこの子があさひに似ていたせいで、いつもの調子が出てしまった。そうに違いない。なんて思いつつ子供を見ていると

「わたしには、えっと……犬さん!……ちがった。猫さん!にならないでいいよ」

「……へ?」

 言われた事の意味が分からなくて数秒黙る。

 脳が理解して私の引きつり笑顔は壊れる。

「何でふゆのコレ知ってるのよ!?」

 衝撃に思わず声が荒げる。

「えっとね……そう!」

 子供は椅子を跳ぶように降りると、ソファーの上に置いたリュックの所に。そしてガサゴソと中をあさって、取り出した物を私に差し出した。

「何これ、手紙?」

「困ったときは冬優子ちゃんを訪ねるッスよ。って!」

「アンタそれって!?」

 驚愕する私なんてお構いなしに、子供は椅子に座って再びうどんを食べだした。

 私は慌てて便箋を開いて、中の手紙を取り出して読み始めた。

 一度読み終えた。理解できない。

 もう一度読んだ。書いてある事の意味はわかった。でも頭がそれを受け入れない。

 更にもう一度読み返した。手が震えだす。背中にスーッと汗がつたう感覚が走った。

「やっぱりアンタは!」

 手紙から目を離して、私は子供の方を見る。

「……スゥ……スゥ……」

 うどんを食べ終えた子供は、テーブルに突っ伏して寝息をたてていた。

「……ちょっと……なに寝てんのよ!起きなさいっての!」

 声をかけても体を揺すっても、子供は眠ったままだった。

「―――――っ!ったく!!」

 スマホを取り出した私は大急ぎで電話をかける。相手はもちろん

「ちょっとアンタ!ふゆの家まで来なさい!何が何でも今すぐに!!」

 プロデューサーだ。

 

 

 

「それで、ちゃんと説明してくれるんでしょうね」

 数分前に血相を変えて部屋に飛び込んできたプロデューサーを、手紙を片手に腕組しながら見下ろす私。

 子供は寝室のベッドに寝かせてある。あの様子なら朝まで起きないだろう。

 おかげで思う存分話が出来るというものよ。多分あの子に聞くよりずっと早く正確に。

「あ、ああ。勿論だ」

 正座させられながらそう答えた男は「どこから話せば」「あの事から……」「いや、しかし」などとブツブツ呟いている。

「はぁ……いいわ、ふゆが質問するからアンタはそれに答えて」

「……わかったよ」

 聞きたい事は山ほどあるけれど、まず聞くべきは

「あの子の母親はあさひ?」

 99%分かりきっているけどコレしかない。

「そうだ」

「……やっぱり。……で、父親は?……まさかアンタなんて言うんじゃないでしょうね」

「違う違う!俺じゃない!というか事情はわかってるんじゃないのか?その手紙で」

「重要な事は何もわからないわよ!この手紙じゃ!勝手な事ばかり書き散らして!」

 私は怒りに任せて手紙をテーブルに叩きつける。

「そ、そうか。わかった。とにかく話すと長くなる。落ち着いて最後まで聞いてくれ」

 そう前置きしたプロデューサーが話し始めた事の顛末は、私の予想の遥か斜め上をいっていた。

 

「―――これが全てだ」

「………………」

「冬優子?」

「アンタ酔っぱらってる?」

「何を言ってるんだ?シラフに決まってるだろう」

「そっかあ。じゃあ酔ってるのはふゆの方か。すっかり酔いは覚めたと思ったのにね。やっぱり深酒は良くないわ。とりあえずお水飲んで寝るから。おやすみなさい」

「お、おい冬優子。気持ちはわかるが本当の話なんだ」

「信じられるかっての!三流ドラマのスタッフも鼻で笑うわよこんな話!!」

 私が聞かされた話はこうだ。

 ある時あさひは行き倒れの旅人、いわゆるバックパッカーとかいうのを助けて家に連れ込んだらしい。面白そう、ワクワクするというだけの理由で。

 当時一人暮らしをしていたあさひは、その男を一人で看病し、やがて意気投合。旅の話、出会った様々な国の人々のや出来事を、来る日も来る日も聞いて盛り上がること一ヶ月。そのうち男と良い雰囲気になり体の関係に。

 間もなく男は再度旅に出て、残されたのはその子を身ごもったあさひだけ。

 男は携帯電話も持って無かったらしく、連絡先も行先もわからない。住所なんて言わずもがな。分かるのは男が日本人とどこかの国のハーフだという事と、本当かどうかもわからない名前だけ。

 こともあろうにあさひは、そんな男の子供を産むと言ったのだ。親はもちろん事情を知ったプロデューサーも大反対。私だってその場にいたら絶対に反対した。

 でもあさひは譲らなかった。「この子に罪は無いッスから」とお腹をさすって……

 その様子にプロデューサーらは遂に折れ、幾つかの条件を出してそれを守れるならば、と産むのを許可したらしい。

 その条件は、身体に負担が出始める前にアイドル活動を休止する、この件は決して公にしない。そして生まれてきた子供に対して、あさひは母親でなく親戚のお姉さんとして接し、時が来るまでは真実を話さない。この三つだった。

 思い返してみれば、確かに何年か前にあさひは過労の療養と称して休んでいた。

 そして条件を呑んだあさひは活動休止後、有栖川夏葉のツテで某財閥の系列である海外の病院に入院。そこで子供を産んだ。

 暫くして子供は日本国内の養護施設に預けられる。あさひの親からも遠ざけておく事でマスコミなどに感づかれないように対策したらしい。

 私や事務所のメンバーも全く気が付かなかった位だ。この策は万全だったと言えるだろう。それ以上にあさひの立ち振る舞いが完璧だったのかもしれない。まんまと出し抜かれた感じがして腹が立つけど。

 そして施設にいたはずのこの子が、どういうわけか家出をし、連絡を聞いて必死に捜索していたプロデューサーに私が電話をかけて今に至る。というわけ。

「…………はぁ」

「どうだ、落ち着いたか?」

 数分経ってようやく頭の整理がついた。

「多少は……それにしても、よくあさひは納得したわね条件呑むのを」

「最後までゴネにゴネまくってたけどな」

「あさひも成長したものね。昔だったら絶対に最後までゴネ通したわよ」

「かもな」

 プロデューサーが苦笑する。その顔は少し嬉しそうに見えた。

「それで、どうしてこの子は家出なんてしたのよ」

「どうやら施設の子達とケンカしてしまったらしくてな」

「ふ~ん、そう。子供ならそういう事もあるでしょうね」

「だな。それじゃあ明日の朝、あの子が目を覚ましたら施設に送り届けるよ」

「そうしてちょうだい。まったく、いい迷惑だったわ」

「すまなかったな。冬優子が保護してくれてて本当に助かった。それじゃあまた明日」

「待ちなさい」

「ん?」

「もう遅いから泊っていきなさい」

「え?……いや、気を使ってくれなくても」

「勘違いしないで。朝起きてあのウルサイのと二人っきりになるのがゴメンだからよ。そしてあんたが寝るのは廊下。毛布とクッションくらいは貸したげるから」

「うわぁ、ヒドイなあ」

「文句があるならフローリングに雑魚寝」

「申し訳ございません!謹んでお受けします」

 そんなこんなで慌ただしかった夜は終わり、明日には全て元通り。静かになって清々する。と思っていたけれど、話はそう上手くいくわけもなく。

 

 

 

【翌朝】

 

「ヤダ!冬優子ちゃんと一緒にいる!」

「は?」

 何を言っているの、この子供は?

「わがまま言っちゃダメだぞ。冬優子お姉さんが困っちゃうだろ?」

「ヤダ!帰らない!一緒にいる!」

「ちょ、ちょっと!離れなさいよ」

 足にしがみつく子を引き離そうとするけど、ガッシリと掴んで全然離さない。この小さな体のどこにそんな力があるってのよ。

 三十分以上やり取りが続いた結果……

 私は今、あさひの子供と一緒にプロデューサーの車の中にいる。

 仕方がないので今日は私がプロデューサーの仕事に付き添って、頃合いを見て引き離し子供を施設に連れ戻そうという作戦だ。

 どうしてこんな事になったのか、後部座席で溜息をつく私の隣であさひの子は窓の外の光景を見て大はしゃぎしていた。

「悪いな、突き合わせちゃって」

「謝罪の言葉は聞き飽きたわ。それより後で頭痛薬買ってきて」

「わかったよ」

 

 そうして私達はレッスンスタジオに到着した。

 今日のプロデューサーの最初の仕事は、新人アイドルのレッスン指導だ。

 283プロもあの頃に比べ格段に規模は大きくなり、事務所のスタッフも増えている。

 にもかかわらず、アイツは相も変わらず全てのアイドルの指導を小まめにやっていた。少しはゆっくりすべきなんでしょうけど、自分のこだわりとかで続けているらしい。

 私とあさひの子供は広々としたレッスン場の片隅で、プロデューサーが新人アイドル達を指導している様子を眺めていた。

 プロデューサーと相談を済ませたアイドル達は、CDラジカセから流れる曲とトレーナーの手拍子に従ってダンスを始めた。

 その出来栄えは……新人としてはまあまあ、といったところかしら。

 何気なしに新人の様子を見ていた私の視界の端で、チラチラと動く何かがあった。

 見るとダンスする新人の子達の手ぶりを、あさひの子供がマネしていた。

「やっぱりアンタもああいうのに興味あるのね」

 小声で言うと

「うん!アタシもアイドルになりたいの!あさひちゃんみたいに!だから毎日あさひちゃんの、すとられれーとのお歌とダンスを見て」

「ストレイライト」

「えっと、ストレーライイトのお歌とダンス練習してるの」

「…………そう」

「でも……」

 途端にあさひの子は表情を曇らせ俯いた。

「でも、何なのよ?」

「みんなが、お前みたいなのがアイドルになれるわけない、って言うの。昨日もそうだったの。だから……」

 それで施設を飛び出して私の所へ来たというわけか。私はそう理解した。

 手紙にはひらがなで、大まかに言うと、困った時は私を頼るようにといった内容の事が書かれており、地図が同封されていた。

 それを頼りにこの子はやってきた、というわけだ。

「……ちょっと来なさい」

 私はあさひの子を連れて部屋を後にした。

 そして向かった先は小さなレッスン場。

 さっきまでいた部屋と比べると半分以下の広さ。個人レッスンなどで主に使われる所だ。

 私は鍵と一緒に借りてきた、CDラジカセを床に置く。

「それじゃあやるわよ」

「何?」

「歌とダンスをよ。いつも練習してるんでしょ?私が見てあげるっての。だからやってみなさい。……あ~え~っと……」

 そこで私は重要な事に気が付いた。

「……あんた名前は?」

 そう。この子の名前を私は知らない。

 昨夜から慌ただしく状況に流されるばっかりで、すっかり聞きそびれてしまっていた。そもそもプロデューサーだって名前を言わないし、手紙にも名前は書かれていなかった。

 だから仕方が無かったのよ。うん、私は悪くない。

「ユメ!」

「……夢?」

「うん!あたしの名前はユメ!」

「そう、ユメね。ま、悪くない名前ね。それじゃあユメ、ここで踊ってみなさい。アンタの実力見てあげるから」

「うん!」

 弾むように言ったユメは、フード付きの上着を脱ぎすてるとポーズをとった。

 それは、ストレイライトの三人で歌ったあの曲の……

 私はCDラジカセのスイッチを入れ、その曲を流した。

 

 ほんの気紛れだった。ユメの話を聞いて何となく「見たい」と思ってしまった。

 もしかしたら二度と目にする事は出来ないと思っていたソレを、再び目の当たりに出来るんじゃないかって、淡い思いが芽生えてしまって……

 

 曲のイントロが流れた瞬間。ユメの纏う空気が変わったような気がした。

 カッと見開かれた目。それは昔幾度となく見た、パフォーマンスに本気で相対するアイツの瞳。それによく似ていて。

「……あさひ」

 私が呟くと同時に、リズムを刻むユメの身体が大きく動き出した。

 

 




本作における簡易キャラ設定

黛冬優子
年齢はアラサーに差しかかった頃合い
ストレイライト解散後の現在は歌手、タレント業をメインで活動する。
しかしながらストレイライト全盛期に比べ仕事は激減している。
世間の需要に加え本人のモチベーション低下も要因となっている。
歳を重ねたせいもあり、自称や言動、立ち振る舞いも昔とは若干変化している。


夕凪ユメ
芹沢あさひの遺児
あさひの容姿、活動力、良くも悪くも素直な性格を引き継いだ子供。
芹沢姓を名乗れないので住んでいる児童養護施設『夕凪院』から夕凪姓をもらって名乗っている。
時期が来たらあさひの親に引き取られる予定。
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