「困ったときは『冬優子ちゃん』を訪ねるっすよ」another   作:はちコウP

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「困ったときは『冬優子ちゃん』を訪ねるっすよ」Another【エンディング】

【Never End A.S’s Legend】

 

「……う、ん……んっ……う~ん」

「起きたか?」

「……ええ」

「丁度いいタイミングだ。もうすぐ着くぞ」

「そう。もうすぐなのね」

「…………」

「…………」

「嬉しそうだな」

「……そうね。あの子の、今までで一番の大舞台だもの」

「おっ、やけに素直だな。ちょっとは声を大きくして言い返してくるかと思ったんだけどな」

「もうそんな歳じゃないわよ。お生憎さま」

「ははっ。それもそうか」

 

 

 

「凄いな。外で見た時もそうだけど、スタッフルーム側までファンの熱気が伝わってくる。色々な現場を経験してきたけど、ここまでのレベルなのは数える程しか無いな」

「あの子が283プロをここまで盛り立てたんだもの。これくらいでなきゃ困るわ」

「あっ!来た来た!お~~い!」

「あら、愛依じゃない。随分と早いのね」

「うん!ウチの子も出る最高の晴れ舞台じゃん?昨日の夜から落ち着かなくってさ。家にいても何にも手につかないから朝一で来ちゃった」

「ははは。愛依らしいな」

「おお。みんな揃って楽しそうじゃないか」

「ご無沙汰してます社長!……じゃなかった、天井会長」

「おいおい、しっかりしてくれ。今はお前が社長なんだからな」

「まったくだわ。いつまでもそんなんだから所属アイドル達に舐められるのよ」

「そんな事ないだろ。みんなとフレンドリーにコミュニケーションをとっているのがわからないのか?」

「それが舐められてるっていうの。威厳が足りないのよ。ったく」

「…………ふ~ゆ~こ~ちゃんっ!」

「きゃあっ!ってユメいつの間に。コラ!後ろから抱き付くんじゃないわよ!」

「だって、久しぶりなんだもん。ちょっとは甘えさせてよ。緊張をほぐすために~」

「やめなさいったら!緊張だなんてどの口が……それと冬優子ちゃんって呼ぶのはよしなさいって言ってるでしょ!」

「じゃあ、冬優子ママ?」

「違うでしょ!副社長よ!アンタはもう少し自分の立場ってのをわきまえなさい!」

「は~い、わかりました……副社長」

「まったく。母親に似て好き放題なんだから……。でユメ、準備は万端なんでしょうね?」

「もちろん!みんなのコンディションも万全!舞台もあったまってるよ!」

「流石だな。お前たちの作る283プロ創立記念ファン大感謝祭の大舞台、期待しているからな!」

「はい!社長!」

「あっ!いた!プロデューサー!」

「プロデューサーさーん!」

「ユメちゃ~ん!」

「おー。どうしたの?なんかあった?」

「なんかあった?じゃないよ!スタッフさんが探してたんだ!」

「全員で立つステージ用の衣装が数枚足りないみたいなんです。業者さんの手違いらしくて」

「どうしよう、ユメちゃんプロデューサー!?」

「うわ~そりゃヤバいね。急いで何とかしよう!」

「大丈夫かユメ?俺達も何か手伝おうか?」

「いや、平気だよ社長。今は283のスタッフもいっぱいいるし、手は足りてる。わたし達で何とかなるよ。…………ふぅ。それじゃあ!気合入れるっすかね!」

「おっ!出た!ユメちゃんPの本気モード!」

「じゃあ三人は戻って自分のチェック続けてて。他のみんなにもそう伝えて」

「おう!」「はい!」「うん!」

「……もしもし?衣装の納品トラブル発生っす。取りに行ける人は?うん、うん。じゃあお願いっす。と、次は。もしもし、音響さん?ちょっとトラブル。だからセットリストの変更お願いするっす。五番目と八番目の曲を入れ替え。トークの順番も―――」

「行ってしまったな。大丈夫かな?」

「当然、大丈夫に決まってるわよ。あさひが産んで、ふゆが教育して、アンタがプロデュース技術を叩きこんだ。心配する必要なんて無いわよ」

「そうか。そうだよな」

「じゃあ、ウチらは観客として思いっきり楽しませてもらおうじゃん」

「ああ、では皆で行くとしよう」

「はい会長。そういえば、はづきさんは一緒じゃなかったんですか?」

「彼女は手配した差し入れを受け取ってから来るらしくてな。開演には間に合うと思うが」

 

 話しながら歩いていく三人の背中。

 その後ろで私は足を止めて、ハンドバッグからよれよれになった便箋に入った手紙、一枚の写真を取り出して思いにふける。

 

 結論を言ってしまえば、ユメはトップアイドルになれなかった。

 あれから十数年。あの子は必死に努力した。現役時代のストレイライトの誰でも、それだけは絶対に敵わないくらいに。

 99%の努力を誰よりもやり尽した。しかし、それでも埋まらない1%の才能の壁を彼女は乗り越えられなかった。

 W.I.N.G準決勝最下位敗退。それがアイドルとしてのユメの限界だった。

 そんな中で幸運であった事と言えば、ユメはありのままの自分を評価してもらえていたという事だろうか。“芹沢あさひの娘”という色眼鏡で見られないで。

 事務所や事情を知る者達は、ユメがあさひの子供だというのは隠し通した。とはいえ彼女の容姿はあさひにそっくり。ユメとあさひに関する噂は自然と発生した。

 しかしながら大方の人間の評価は「芹沢あさひの娘があんなハズはない」というものだった。皮肉にもユメのアイドルとしての才能の無さが、その素性を隠し通す後押しとなったのだ。

 そしてW.I.N.G敗退後間もなく、ユメのアイドル人生は幕を閉じた。

 私があさひの墓前でした誓いは果たすことができなかった。

 だが、全てはここから始まった。

 

 ユメの才能はアイドルプロデューサーとして開花したのだ。

 育成や指導といったプロデュース業はもとより、作詞作曲、ダンスの振り付け案の作成、スタイリング、舞台の総合演出まで手掛けるマルチプロデューサーとして、ユメはその名を世に轟かせていった。

 ユメにはあさひから受け継がれた才能が確かにあったのだ。

 その片鱗は私も感じ取っていた。

 以前私はユメがアレンジした歌と踊りを自分でやってみたことがある。

 信じられなかった。

 ユメのアレンジを取り入れて行ったパフォーマンスは、その質が一段も二段も向上したのだった。

 幼いながらもそんなモノを思いつく彼女の資質に私は戦慄したものだ。

 もちろんユメ自身にもそれが出来るようにしようと、私は幾度となく指導をした。

 だがユメは、それを自らの身体で表現する力には恵まれなかった。現実は厳しかった。

 だから、他者を通じてそれを形にする事が出来るプロデュース業は、ユメにとっての天職といえた。

 

 私は手にしたあさひの写真を見つめ、語り掛ける。 

「あさひ。アンタの子供立派になったわ。約束果たせなかったけど、出来る限りの事はしたつもりよ。アンタに似て空気の読めない子だったから、それが出来るように叩きこむの本当に苦労したわ。まったく、アイドルとしての技術よりもそっちの方が一番役に立ってるって、何だか癪だわ。おかげ様で今まで大きなトラブルを起こしちゃいないけど、見ていてヒヤヒヤする時があるのは相変わらずよ」

「お~い冬優子。どうかしたのか?」

 先の方で振り返った元プロデューサー、現283プロ社長が声をかけてきた。

「何でもない。今行くわ。……じゃあ、一緒に行くわよあさひ。アンタの娘が作る最高の舞台を目に焼き付けにね!」

 手紙と写真をバッグに仕舞い込んで私は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

【Letters】

 

ゆめちゃんへ

 

 このおてがみよんでるってことは、なにかこまっちゃったのかな?

 しってるおとなのひとも、おともだちもいないところでまいごになっちゃった?

 びょうきになったり、けがしたりして、つらくてかなしくなっちゃった?

 それともだれかとけんかして、いえでしちゃった?

 そんなゆめちゃんに、いいことおしえてあげる。

 

 (こま)った(とき)は「冬優子(ふゆこ)ちゃん」を(たず)ねるっすよ!

 

 きっとゆめちゃんのこと、たすけてくれるはずだからね。

 ちずと、でんわばんごう、いっしょにいれておくから、それつかってふゆこちゃんにあいにいってね。

 ふゆこちゃんにあったら、このおてがみわたしてあげてね。

 

 それじゃあ冬優子ちゃん、よろしくっす。

 

                           She is my daughter

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬優子ちゃんへ

 

 1枚目の手紙は読んでくれたっすか?

 まだなら読んでおいてほしいっす。

 読んだっすか?なら続けて読んでほしいっす。

 1枚目の手紙に書いてある通りこの手紙を持ってきた子はわたしの娘っす。

 ちょっと理由があってわたしが母親だってのは秘密にしてるっす。

 その子がこの手紙とか最初の手紙の意味が全部わかるようになるころには話せるようにしたいと思ってるっす。

 あ、このやり方ミステリー映画でやってたのを参考にしてみたんすけど、うまくできてるっすかね?バレてないっすかね?

 そうだ、わたしの娘の名前なんすけど、優愛(ゆめ)ちゃんって名前っす。

 大好きな冬優子ちゃんと愛依ちゃんから一文字ずつ使わせてもらったっすよ。

 わたしの子供に冬優子ちゃんと愛依ちゃんの名前が入ってるって何かワクワクしないっすか!?スゴくてムテキっぽくて、超スゴイ子になっちゃいそうな気がしないっすか!?

 あ、それで何でこんな手紙を書いたかってことなんすけど、もう知ってると思うっすけど、わたし病気にかかっちゃったっんすよ。

 今の医学では直せない病気、ってお医者さんが言ってたっす。入院して薬を使って、ずっとおとなしくしてれば進行を遅らせられて、あと10年は生きられるってお医者さんから聞いたっす。その間に新しい治りょう法ができるかもしれないからそれを待つのがいいって。

 でもわたしはそんなのイヤっす。ずっと10年も寝たきりなんてつまらないし、10年たつ前に退屈でわたしは死んじゃうっすよ!

 だからわたしは今まで通りやりたいこと、おもしろいことを精いっぱいやって生きていこうって決めたっす。

 楽しんで生きていたほうが長生きできそうだし、その間に治りょう法ができたらラッキーっすからね。

 ホントは1年くらいしか生きられないって言われてたんすけど、それから2年くらい生きてるっす。意外と何とかなるもんすね。

 でも、本当に何かあった時に思いを伝えられていないのはイヤっすから、手紙を書いておこうと思ったっす。あ、死ぬ気は無いっすから、そこは勘違いしないでほしいっす。

 それで誰に書こうかって思った時に、イチバン最初に浮かんだのが冬優子ちゃんだったっすよ。

 冬優子ちゃんは強くて、優しくて、わたしたちの面倒をよく見てくれて、頼れる大好きな友達っすから。

 いざという時は優愛のことをお願いしたいっす。

 わたしは何とかしてあげたくても優愛に簡単に会えないし、会いに行けないっすから。

 だから優愛が困ってたら力になってあげてほしいっす。

 もしもくだらないことで冬優子ちゃんのところに行ってたらその時はごめんなさいっす。わたしをいつもみたいに怒ってくれていいっすから。

 ホントはもっといっぱい書きたいんすけど、この紙もう書けるところが少ないからこれで終わりにするっす。

 わたしが何で優愛を産んだのかとかはプロデューサーが大体知ってるっすから、気になったら聞いて下さいっす。

 それじゃあ、また今度っす。

 

 




 この話はこれでおしまいです。
 これは後編から分岐したエンディングの一つ。
 この結末に冬優子と優愛は、挫折と苦悩と喜びと、父親との出会いと和解と別離と、ファンとの触れ合いや敏腕記者や悪徳記者との接触など、様々な出来事を経て辿り着きました。
 しかし優愛があさひのようにトップアイドルとなるような、あなただけのtrue endを想像するのもまた自由であります。
 
 ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。
 そして素晴らしい元ネタ漫画を生みだし、下地とした作品を書くことを許可して下さった森キノコ先生に最大の感謝を。ありがとうございました。
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