ありふれちゃいけない職業で世界最強   作:キャッチ&リリース

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第9話反逆者の住処、総司卒業する

あの戦いの後、強烈な睡魔に襲われ眠りについた総司は香織達に迷宮内の何処かに運ばれていた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

総司は、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。これは、そうベッドの感触である。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、総司のまどろむ意識は混乱する。

 

(何だ? ここは迷宮のはずじゃ……何でベッドに……)

 

まだ覚醒しきらない意識のまま手探りをしようとする。しかし、手はその意思に反して動かない。というか、ベッドとは違う柔らかな感触に包まれて動かせないのだ。手の平も温かで柔らかな何かに挟まれているようだ。

 

(何だこれ?)

 

ボーとしながら、総司は手をムニムニと動かす。手を挟み込んでいる弾力があるスベスベの何かは総司の手の動きに合わせてぷにぷにとした感触を伝えてくる。何だかクセになりそうな感触につい夢中で触っていると……

 

「……ぁん……」

「……ぅん……んぁ……」

(!?)

 

何やら艶かしい喘ぎ声が聞こえた。その瞬間、まどろんでいた総司の意識は一気に覚醒する。

 

慌てて体を起こすと、総司は自分が本当にベッドで寝ていることに気がついた。純白のシーツに豪奢ごうしゃな天蓋付きの高級感溢れるベッドである。場所は、吹き抜けのテラスのような場所で一段高い石畳の上にいるようだ。爽やかな風が天蓋と総司の頬を撫でる。周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれている。建物が併設されたパルテノン神殿の中央にベッドがあるといえばイメージできるだろうか? 空間全体が久しく見なかった暖かな光で満たされている。

 

さっきまで暗い迷宮の中で死闘を演じていたはずなのに、と総司は混乱する。

 

(どこだ、ここは……まさかあの世とか言うんじゃないだろうな……)

 

どこか荘厳さすら感じさせる場所に、総司の脳裏に不吉な考えが過ぎるが、その考えは両隣から聞こえた艶かしい声に中断された。

 

「……んぁ……総司……ぁう……」

「……ぁん………総ちゃん……んぅ……」

「!?」

 

総司は慌ててシーツを捲ると隣には一糸纏わない香織とユエが総司の両手に抱きつきながら眠っていた。そして、今更ながらに気がつくが総司自身も素っ裸だった。

 

「なるほど……これが朝チュンってやつか……ってそうじゃない!」

 

混乱して思わず阿呆な事をいい自分でツッコミを入れる総司。若干、虚しくなりながら香織とユエを起こす。

 

「香織、起きてくれ。ユエも」

「んぅ~……」

「ん〜……」

 

声をかけるが愚図るようにイヤイヤをしながら丸くなるユエと、総司の左腕をその豊満な胸に挟み込み肩付近に頬擦りをする香織。ついでに総司の右手はユエの太ももに挟まれており、丸くなったことで危険な場所に接近しつつある。

 

「ぐっ……まさか本当にあの世……天国なのか?」

 

更に阿呆な事を言いながら、総司は何とか手を抜こうと動かす。が、その度に……。

 

「……んぅ~……んっ……」

「………ぁん……っんぅ……」

 

と実に艶かしく喘ぐ香織とユエ。

 

「頼むから起きてくれぇ……」

「んぅ……ん、ふぁ〜〜。………お、おはよう、総ちゃん///」

 

総司の言葉に反応するように香織が起きた。しかしユエは中々目を覚まさず、尚もユエの危ない位置に右手がある為動かすことが出来ない総司はどうしたものかと考えていた。

 

「ぐぅ、落ち着け俺。いくら年上といえど、見た目はちみっこ。動揺するなどありえない! 俺は断じてロリコンではない!」

 

 総司は、表情に変態紳士か否かの瀬戸際だと戦慄の表情を浮かべながら自分に言い聞かせる。右手を引き抜くことは諦めて、総司は何とか呼び掛けで起こそうと声をかけるが一向に起きる気配はなかった。

 

 その内、段々と苛立ってきた総司。ただでさえ状況を飲み込めず混乱しているというのに何をのんびり寝ていやがるのかと額に青筋を浮かべる。

 

 そして、イライラが頂点に達し……。

 

「手を離してくれ香織」

「えっ?……うん」

 

そして…………。

 

「いい加減に起きやがれ! この天然エロ吸血姫!」

 

 〝纏雷〟を発動した。バリバリと右手に放電が走る。

 

「!? アババババババアバババ」

 

 ビクンビクンしながら感電するユエ。総司が解放すると、ピクピクと体を震わせながら、ようやく目を開いた。

 

「……総司?」

「ああ、総司だ。たくっ、こっちは状況が飲み込めてないってのに何時までも幸せそうに寝やがって」

「総司!」

「!?」

 

 目を覚ましたユエは茫洋とした目で総司を見ると、次の瞬間にはカッと目を見開き総司に飛びついた。もちろん素っ裸で。動揺する総司。

 

 しかし、ユエが総司の首筋に顔を埋めながら、ぐすっと鼻を鳴らしていることに気が付くと、仕方ないなと苦笑いして頭を撫でた。

 

「わるい、随分心配かけたみたいだな」

「んっ……心配した……」

「本当だよ、総ちゃん………」

 

しばらくしがみついたまま離れそうになかったし、倒れた後面倒を見てくれたのはユエなので気が済むまでこうしていようと、総司は優しくユエの頭を撫で続けた。例えその隣に般若が居ようとも………。

 

それからしばらくして、ようやくユエが落ち着いたので、総司は事情を尋ねた。ちなみに、香織とユエにはしっかりシーツを纏わせている。

 

「それで、あれから何があった? ここはどこなんだ?」

「あの後は………」

 

香織曰く、あの後、ぶっ倒れた総司の傍で同じく魔力枯渇でフラフラのユエが寄り添っていると、突然、扉が独りでに開いたのだそうだ。すわっ新手か! と警戒したもののいつまでたっても特になにもなく、時間経過で少し回復したユエが確認しに扉の奥へ入った。

 

 《全て遠き理想郷》があるとは言え、総司が倒れたことに変わりはなく、強靭な肉体が一命を取り留めているが、灼熱地獄による火傷のダメージがいつ神水を上回るかわからない。そんな状態で新手でも現れたら一巻の終わりだ。そのため、確かめずにはいられなかったのだ。

 

 そして、踏み込んだ扉の奥は、

 

「……反逆者の住処」

 

中は広大な空間に住み心地の良さそうな住居があったというのだ。そのあと、危険がないことを確認して、ベッドルームを確認したユエは、総司を背負ってベッドに寝かせ看病していたのだという。神結晶から最近めっきり量が少なくなった神水を抽出し、総司に飲ませ続けた。

 

遂に灼熱地獄のダメージに神水の効果が勝ったのか、通常通りの回復を見せたところで、ユエも力尽きたという。

 

「……なるほど、そいつは世話になったな。ありがとな、香織、ユエ」

「んっ!」

「ふふっ!」

 

総司が感謝の言葉を伝えると、香織達は心底嬉しそうに瞳を輝かせる。ユエは無表情ではあるが、その分瞳は雄弁だ。

 

「ところで……何故、俺は裸なんだ?」

 

総司が気になっていたことを聞く。リアル朝チュンは勘弁だった。別に香織達が嫌いという訳ではないのだが……ほら、心の準備とかね? と誰にともなく内心ブツブツ呟く総司。

 

「あはは……ほら、総ちゃん戦闘服のまま倒れ込んでいたから…………てへ☆」

「……汚れてたから……綺麗にした……」

「……なぜ、舌なめずりする。そして、何故に誤魔化そうとする」

 

香織は総司の質問に、言い訳を言って可愛らしく舌を出して誤魔化そうとし、ユエは、吸血行為の後のような妖艶な笑みを浮かべ、ペロリと唇を舐めた。何となくブルリと体が震えた総司。

 

「それで、どうしてユエが隣で寝てたんだ? しかも……裸で……」

「……ふふ……」

「…………………へぇ、そっかぁ、ユエちゃんとしたんだぁ〜。しちゃったんだぁ〜。ねぇ、総ちゃん?」

「まて、何だその笑いは! 何かしたのか! っていうか舌なめずりするな!それと、香織さん?今すぐその般若さんをしまってくれませんかねえ!」

 

激しく問い詰める総司だが、ユエはただ、妖艶な眼差しで総司を見つめるだけで何も答えなかった。香織は、目の笑っていない笑みを浮かべ、背後からスタ○ドよろしく般若が顔を出していた。

 

しばらく問い詰めていた総司だが、楽しそうな表情で一向に答えないユエに、色々と諦めて反逆者の住処を探索することにした。ほんとうは香織が怖かっただけだが…………。ユエがどこから見つけてきたのか上質な服を持ってくる。男物の服だ。反逆者は男だったのだろう。それを着込むと総司は体の調子を確かめ、問題ないと判断し装備も整える。一応、何かしらの仕掛けがあるかもしれないので念のためだ。

 

後ろで同じく着込んでいた香織とユエも準備が完了したようなので振り返る総司。香織は今まで着ていた戦闘装束で、ユエは、

 

……何故かカッターシャツ一枚だった。

 

「ユエ……狙ってるのか?」

「? ……サイズ合わない」

 

まぁ、確かに男物のサイズなんて身長が百四十センチしかないユエには合わないだろう。しかし、それなりの膨らみが覗く胸元やスラリと伸びた真っ白な脚線が、ユエの纏う雰囲気のせいか見た目の幼さに反して何とも扇情的で、総司としては正直目のやり場に困るのだった。

 

「……天然なら、それはそれで恐ろしいな……」

 

狙っているのか、天然なのか分からないが、いずれにしろ色々な意味で恐ろしいユエだった。

 

 

 

ハジメ達と合流しベッドルームから出た総司は、周囲の光景に圧倒され呆然とした。

 

まず、目に入ったのは太陽だ。もちろんここは地下迷宮であり本物ではない。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じないため、思わず〝太陽〟と称したのである。

 

「……夜になると月みたいになる」

「うん、綺麗だったよ。あの時総ちゃんが告白してくれた時のことを思い出すくらいにはね」

「マジか……」

「すげえな……」

 

次に、注目するのは耳に心地良い水の音。扉の奥のこの部屋はちょっとした球場くらいの大きさがあるのだが、その部屋の奥の壁は一面が滝になっていた。天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。滝の傍特有のマイナスイオン溢れる清涼な風が心地いい。よく見れば魚も泳いでいるようだ。もしかすると地上の川から魚も一緒に流れ込んでいるのかもしれない。

 

川から少し離れたところには大きな畑もあるようである。今は何も植えられていないようだが……その周囲に広がっているのは、もしかしなくても家畜小屋である。動物の気配はしないのだが、水、魚、肉、野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。

 

総司達は川や畑とは逆方向、ベッドルームに隣接した建築物の方へ歩を勧めた。建築したというより岩壁をそのまま加工して住居にした感じだ。

 

「少し調べたけど、開かない部屋も多かったよ。何かが隠されているのかもしれないね」

「それに俺の錬成も受け付けなかったからな」

「………んっ」

「そうか……お前等、油断せずに行くぞ」

「ん……」

 

石造りの住居は全体的に白く石灰のような手触りだ。全体的に清潔感があり、エントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。薄暗いところに長くいた総司達には少し眩しいくらいだ。どうやら3階建てらしく、上まで吹き抜けになっている。

 

取り敢えず一階から見て回る。暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。どれも長年放置されていたような気配はない。人の気配は感じないのだが……言ってみれば旅行から帰った時の家の様と言えばわかるだろうか。しばらく人が使っていなかったんだなとわかる、あの空気だ。まるで、人は住んでいないが管理維持だけはしているみたいな……。

 

総司達は、より警戒しながら進む。更に奥へ行くと再び外に出た。そこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。彫刻の隣には魔法陣が刻まれている。試しに魔力を注いでみると、ライオンモドキの口から勢いよく温水が飛び出した。どこの世界でも水を吐くのはライオンというのがお約束らしい。

 

「まんま、風呂だな。こりゃいいや。何ヶ月ぶりの風呂だか」

「確かにな。どれだけ待ちわびたことか」

 

思わず頬を緩める総司とハジメ。最初の頃は余裕もなく体の汚れなど気にしていなかっただが、余裕ができると全身のカユミが気になり、大層な魔法陣を書いて水を出し体を拭くくらいのことはしていた。

 

しかし、総司達も日本人だ。例に漏れず風呂は大好き人間である。安全確認が終わったら堪能しようと頬を緩めてしまうのは仕方ないことだろう。

 

 そんなハジメを見てユエが一言、

 

「……入る? 一緒に……」

「総ちゃん………いいよ……///」

「……一人でのんびりさせて?」

「むぅ……」

「ダメッ!一緒に入るの!」

 

素足でパシャパシャと温水を蹴るユエと顔を赤らめながらおずおずと言う香織の姿に、一緒に入ったらくつろぎとは無縁になるだろうと断る総司。ユエは唇が尖らせて不満顔をしたが、香織は一緒に入ると言い張って無理やり入り、そして…………。

 

「ちょ!!それはアカン、まじアカン!いや、ちょっ、どこ握ってっ!?」

「大丈夫だよ総ちゃん。私も……その……初めてだから………///」

「……んっ、私も……初めて……」

「待って!ヤメッ!アッーーーーーー!?」

 

………この日総司は、童貞を卒業することとなった。

 

その隣ではハジメとアヴローラも同じようなことをしていたがきっちりと断っていた。

 

それから、2階で書斎や工房らしき部屋を発見した。しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開けることはできなかった。仕方なく諦め、探索を続ける。

 

5人は3階の奥の部屋に向かった。3階は一部屋しかないようだ。奥の扉を開けると、そこには直径7、8メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。いっそ一つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様である。

 

しかし、それよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。人影は骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。薄汚れた印象はなく、お化け屋敷などにあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。

 

その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……

 

「ちょっと怖いね……」

「……怪しい……どうする?」

「……我、何か感じる」

 

香織はともかく、ユエとアヴローラもこの骸に疑問を抱いたようだ。おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようである。

 

「まぁ、地上への道を調べるには、この部屋がカギなんだろうしな。俺達のの錬成も受け付けない書庫と工房の封印……調べるしかないだろう。香織とユエは待っててくれ。何かあったら頼む。」

「アヴローラもこいつ等と一緒にいてくれ」

「ん……気を付けて」

「行ってらっしゃい」

「……我、待ってる……」

 

総司達はそう言うと、魔法陣へ向けて踏み出した。そして、総司とハジメが魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 

まぶしさに目を閉じる総司とハジメ。直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。

 

やがて光が収まり、目を開けた総司達の目の前には、黒衣の青年が立っていた。




何か無理矢理すぎるかも知れませんが、総司くんは晴れて大人な男へと進化しました!
羨ましい、リア充など滅べばいいのだ!

次回、ありふれちゃいけない職業で世界最強、【旅立ちの日】byユエ

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