ありふれちゃいけない職業で世界最強 作:キャッチ&リリース
ライセン大峡谷に悲鳴と怒号が木霊する。
ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めている。あちこちの岩陰からウサミミだけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところか。
そんな怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、奈落の底でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。姿は俗に言うワイバーンというやつが一番近いだろう。体長は三~五メートル程で、鋭い爪と牙、モーニングスターのように先端が膨らみ刺がついている長い尻尾を持っている。
「ハ、ハイベリア……」
後部座席にいるシアの震える声が聞こえた。あのワイバーンモドキは''ハイベリア,,というらしい。ハイベリアは全部で六匹はいる。兎人族の上空を旋回しながら獲物の品定めでもしているようだ。
そのハイベリア二匹が遂に行動を起こした。大きな岩と岩の間に隠れていた兎人族の下へ急降下すると空中で一回転し遠心力のたっぷり乗った尻尾で岩を殴りつけた。轟音と共に岩が粉砕され、兎人族が悲鳴と共に這い出してくる。
ハイベリアは「待ってました」と言わんばかりに、その顎門を開き無力な獲物を喰らおうとする。狙われたのは二人の兎人族。ハイベリアの一撃で腰が抜けたのか動けない小さな子供に男性の兎人族が覆いかぶさって庇おうとしている。
周りの兎人族がその様子を見て瞳に絶望を浮かべた。誰もが次の瞬間には二人の家族が無残にもハイベリアの餌になるところを想像しただろう。しかし、それは有り得ない。
なぜなら、ここには彼等を守ると契約した、奈落の底より這い出た化物と数多ある騎士を統べる王がいるのだから…。
ドパンッ!!ドパンッ!!
ギューーン!!
峡谷に二発の乾いた破裂音と何かが高速で動く風切り音が響くと同時に三条の閃光が虚空を走る。その内の一発が、今まさに二人の兎人族に喰らいつこうとしていたハイベリアの眉間を狙い違わず貫いた。頭部を爆散させ、蹲る二人の兎人族の脇を勢いよく土埃を巻き上げながら滑り、轟音を立てながら停止する。
同時に、後方で凄まじい咆哮が響いた。呆然とする暇もなく、そちらに視線を転じる兎人族が見たものは、片方の腕が千切れて大量の血を吹き出しながらのたうち回るハイベリアの姿。すぐ近くには腰を抜かしたようにへたり込む兎人族の姿がある。おそらく、先のハイベリアに注目している間に、そちらでもハイベリアの襲撃を受けていたのだろう。二発の弾丸の内、もう一発は、突撃するハイベリアの片腕を撃ち抜いたようだ。バランスを崩したハイベリアが地に落ちて、激痛に暴れているのである。
「な、何が……」
先程、子供を庇っていた男の兎人族が呆然としながら、目の前の頭部を砕かれ絶命したハイベリアと、後方でのたうち回っているハイベリアを交互に見ながら呟いた。
すると、更に発砲音が聞こえ、のたうち回っていたハイベリアを幾条もの閃光が貫いていく。胴体をぐちゃぐちゃに粉砕されたハイベリアが、最後に一度甲高い咆哮を上げるとズズンッと地響きを立てながら崩れ落ち動かなくなった。
上空のハイベリア達が仲間の死に激怒したのか一斉に咆哮を上げる。それに身を竦ませる兎人族達の優秀な耳に、今まで一度も聞いたことのない異音が聞こえた。キィィイイイという甲高い蒸気が噴出するような音だ。今度は何事かと音の聞こえる方へ視線を向けた兎人族達の目に飛び込んできたのは、見たこともない黒い乗り物に乗って、高速でこちらに向かてってくる三人の人影と大きな鉄の塊の様なものに乗る四人の人影。
その内の二人は見覚えがありすぎる。今朝方、突如姿を消し、ついさっきまで一族総出で探していた女の子達。一族が陥っている今の状況に、酷く心を痛めて責任を感じていたようで、普段の元気の良さがなりを潜め、思いつめた表情をしていた。何か無茶をするのではと、心配していた矢先の失踪だ。つい、慎重さを忘れて捜索しハイベリアに見つかってしまった。彼女を見つける前に、一族の全滅も覚悟していたのだが……。
その彼女が黒い乗り物の後ろで立ち上がり手をブンブンと振っている。その表情に普段の明るさが見て取れた。信じられない思いで彼女を見つめる兎人族。
「お待たせ〜!」
「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」
その聞きなれた声音に、これは現実だと理解したのか兎人族が一斉に彼女の名を呼んだ。
「「「「「「「「「「シア、レナ!?」」」」」」」」」」
ハジメは、魔力駆動二輪を高速で走らせながらイラッとした表情をしていた。仲間の無事を確認した直後、レナは喜びのあまり後部座席に立ち上がりブンブンと手を振りだした。それ自体は別にいいのだが、高速で走る二輪から転落しないように、レナは全体重をハジメに預けて体を固定しており、小刻みに飛び跳ねる度に頭上から重量級の凶器巨乳がのっしのっしとハジメ頭部に衝撃を与えているのである。そのせいで照準がずれ、二匹目のハイベリアを一撃で仕留められなかった。
ハジメは、未だぴょこぴょこと飛び跳ね地味に妨害してくるレナの服を鷲掴みにする。それに気がついたレナが疑問顔でハジメを見た。ハジメは前方を向いているため表情は見えないが、何となく不穏な空気を察したレナが恐る恐る尋ねた。
「あ、あの、ハジメ?どうしたの?なぜ、服を掴むの?」
「…戦闘を妨害するくらい元気なら働かせてやろうと思ってな」
「は、働くって……な、何をするのよ?」
「なに、ちょっと飢えた魔物の前にカッ飛ぶだけの簡単なお仕事だ」
「!?ちょ、何言って、あっ、持ち上げないでぇ~、振りかぶらないでぇ~」
焦りの表情を表にしてジタバタもがくレナだが、筋力一万超のハジメに敵うはずもなくあっさり持ち上げられる。
ハジメは片手でハンドルを操作すると二輪をドリフトさせ、その遠心力も利用して問答無用に、上空を旋回するハイベリア達へ向けてレナをぶん投げた。
「逝ってこい!残念ウサギ!」
「いやぁあああーー!!」
物凄い勢いで空を飛ぶウサミミ少女。レナの悲鳴が峡谷に木霊する。有り得ない光景に兎人族達が「レナ~!」と叫び声を上げながら目を剥き、ハイベリアも自分達に向かって泣きながらぶっ飛んでくる獲物に度肝を抜かれているのか、レナが眼前を通り過ぎても硬直したまま上空を見上げているだけだった。
そして、その隙を逃すハジメではない。滞空するハイベリア等いい的である。銃声が四発鳴り響き、放たれた弾丸が寸分のズレもなくハイベリア達の顎を砕き貫通して、そのまま頭部を粉砕した。
断末魔の悲鳴を上げる暇すらなく、力を失って地に落ちていくハイベリア。シアを襲っていた双頭のティラノモドキ〝ダイヘドア〟と同等以上に、この谷底では危険で厄介な魔物として知られている彼等が、何の抵抗もできずに瞬殺された。有り得べからざる光景に、硬直する兎人族達。
そんな彼等の耳に上空から聞きなれた少女の悲鳴が降ってくる。
「あぁあああ~、たずけでぇ~、ハジメ〜!」
慌ててレナの落下地点に駆けつけようとする兎人族達を追い抜いたハジメが、ちょうど落下してきたレナを見事にキャッチして、二輪をドリフトさせながら停止した。そして、抱えたレナをペイッと捨てる。
「あふんっ!うぅ~、私の扱いがあんまりよ!待遇の改善を要求するわ。私もアヴローラちゃんみたいに大事にされたいのよぉ〜!」
しくしくと泣きながら抗議の声を上げるレナ。レナは、ハジメに対して恋愛感情を持っているわけではない。ただ、絶望の淵にあって〝見えた〟希望であるハジメをレナは不思議と信頼していた。全くもって容赦のない性格をしているが、交わした約束を違えることはないだろうと。しかも、ハジメはレナと同じ体質である。''同じ,,というのは、それだけで親しみを覚えるものだ。そして、そのハジメは、やはり''同じ,,であるアヴローラを大事にしている。この短時間でも明確にわかるくらいに。正直、レナは二人の関係が羨ましかった。それ故に、''自分も,,と願ってしまうのだ。
投擲とキャッチの衝撃で更にボロボロになった衣服を申し訳程度に纏い、足を崩してシクシク泣くレナの姿は実に哀れを誘った。流石に、やり過ぎた……とは思わず鬱陶しそうなハジメは宝物庫から予備のコートを取り出し、レナの頭からかけてやった。これ以上、傍でめそめそされたくなかったのだ。反省の色が全くない。
しかし、それでもレナは嬉しかったようである。突然に頭からかけられたものにキョトンとするものの、それがコートだとわかるとにへらっと笑い、いそいそとコートを着込む。アヴローラとお揃いの白を基調とした青みがかったコートだ。アヴローラがハジメとのペアルックを画策した時の逸品である。
「も、もう! ハジメったら素直じゃないわねぇ~、アヴローラちゃんとお揃いだなんて……お、俺の女アピールですかぁ? ダメよぉ~、私、そんな軽い女じゃないから、もっと、こう段階を踏んでぇ~」
モジモジしながらコートの端を掴みイヤンイヤンしているレナ。それに再びイラッと来たハジメは無言でドンナーを抜き、レナの額目掛けて発砲した。
「はきゅん!」
弾丸は炸薬量を減らし先端をゴム状の柔らかい魔物の革でコーティングしてある非致死性弾だ。ただ、それなりの威力はあるので、衝撃で仰け反り仰向けに倒れると、地面をゴロゴロとのたうち回るレナ。「頭がぁ~頭がぁ~」と悲鳴を上げている。だが、流石の耐久力で直ぐに起き上がると猛然と抗議を始めた。きゃんきゃん吠えるレナを適当にあしらっていると後方にいた総司の車からシア総司達が出てきたのと同じタイミングで兎人族がわらわらと集まってきた。
「シア!レナ!無事だったのか!」
「父様!」
真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。はっきりいってウサミミのおっさんとか誰得である。シュールな光景に微妙な気分になっていると、その間に、シア達と父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互の無事を喜んだ後、総司達の方へ向き直った。
「ハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアとレナの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシア達のみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」
そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。
「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ? それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」
シア達の存在で忘れそうになるが、亜人族は被差別種族である。実際、峡谷に追い詰められたのも人間族のせいだ。にもかかわらず、同じ人間族であるハジメに頭を下げ、しかもハジメの助力を受け入れるという。それしか方法がないとは言え、あまりにあっさりしているというか、嫌悪感のようなものが全く見えないことに疑問を抱くハジメ。
カムは、それに苦笑いで返した。
「レナが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」
その言葉にハジメは感心半分呆れ半分だった。一人の女の子のために一族ごと故郷を出て行くくらいだから情の深い一族だとは思っていたが、初対面の人間族相手にあっさり信頼を向けるとは警戒心が薄すぎる。というか人がいいにも程があるというものだろう。
「えへへ、大丈夫よ、父様。ハジメは、女の子に対して容赦ないし、対価がないと動かないし、人を平気で囮にするような酷い人だけど、約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです! ちゃんと私達を守ってくれるわ!」
「はっはっは、そうかそうか。つまり照れ屋な人なんだな。それなら安心だ」
レナとカムの言葉に周りの兎人族達も「なるほど、照れ屋なのか」と生暖かい眼差しでハジメを見ながら、うんうんと頷いている。
ハジメは額に青筋を浮かべドンナーを抜きかけるが、意外なところから追撃がかかる。
「……ん、ハジメは(ベッドの上では)照れ屋」
「アヴローラ!?」
まさかの口撃に口元を引きつらせるハジメだったが、何時までもグズグズしていては魔物が集まってきて面倒になるので、堪えて出発を促した。
一行は、ライセン大峡谷の出口目指して歩を進めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ウサミミ四十二人をぞろぞろ引き連れて峡谷を行く。
当然、数多の魔物が絶好の獲物だとこぞって襲ってくるのだが、ただの一匹もそれが成功したものはいなかった。例外なく、兎人族に触れることすら叶わず、接近した時点で閃光が飛び頭部を粉砕されるからである。
剣を振れば一筋の線が描かれ、乾いた破裂音と共に閃光が走り、気がつけばライセン大峡谷の凶悪な魔物が為すすべなく絶命していく光景に、兎人族達は唖然として、次いで、それを成し遂げている人物である総司とハジメに対して畏敬の念を向けていた。
もっとも、小さな子供達は総じて、そのつぶらな瞳をキラキラさせて圧倒的な力を振るう総司とハジメをヒーローだとでも言うように見つめている。
「ふふふ、総司さん。チビッコ達が見つめていますよ~手でも振ってあげたらどうですか?」
「ハジメも、モテモテねぇ〜」
子供に純粋な眼差しを向けられて若干居心地が悪そうなハジメに、レナが実にウザイ表情で「うりうり~」とちょっかいを掛ける。
額に青筋を浮かべたハジメは、取り敢えず無言で発砲した。
ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!
「あわわわわわわわっ!?」
ゴム弾が足元を連続して通過し、奇怪なタップダンスのようにワタワタと回避するレナ。総司はシアに対してちょくちょく魔法を放ちながらやってくる魔物(食料)を切り捨て続けた。道中何度も見られた光景に、シア達の父カムは苦笑いを、ユエと香織、そしてアヴローラは呆れを乗せた眼差しを向ける。
「はっはっは、シア達は随分と総司殿達を気に入ったのだな。そんなに懐いて……シア達ももうそんな年頃か。父様は少し寂しいよ。だが、総司殿達なら安心か……」
すぐ傍で娘が未だに銃撃されているのに、気にした様子もなく目尻に涙を貯めて娘の門出を祝う父親のような表情をしているカム。周りの兎人族達も「たすけてぇ~」と悲鳴を上げるシア達に生暖かい眼差しを向けている。
「いや、お前等。この状況見て出てくる感想がそれか?」
「……話にならんな」
「……ズレてる」
「………?」
「ぷっ!……ふふっ……」
ユエの言う通り、どうやら兎人族は少し常識的にズレているというか、天然が入っている種族らしい。それが兎人族全体なのかハウリアの一族だけなのかは分からないが。
そうこうしている内に、一行は遂にライセン大峡谷から脱出できる場所にたどり着いた。総司達が''遠見,,で見る限り、中々に立派な階段がある。岸壁に沿って壁を削って作ったのであろう階段は、五十メートルほど進む度に反対側に折り返すタイプのようだ。階段のある岸壁の先には樹海も薄らと見える。ライセン大峡谷の出口から、徒歩で半日くらいの場所が樹海になっているようだ。
総司が何となしに遠くを見ていると、シアが不安そうに話しかけてきた。
「帝国兵はまだいるでしょか?」
「ん? どうだろうな。もう全滅したと諦めて帰ってる可能性も高いが……」
「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら……総司さん……どうするのですか?」
「? どうするって何が?」
質問の意図がわからず首を傾げる総司に、意を決したようにシアが尋ねる。周囲の兎人族も聞きウサミミを立てているようだ。
「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵……人間族です。総司さんと同じ。……敵対できますか?」
「シア。お前、未来が見えていたんじゃないのか?」
「はい、見ました。帝国兵と相対する総司さんを……」
「だったら……何が疑問なんだ?」
「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」
シアの言葉に周りの兎人族達も神妙な顔付きで総司を見ている。小さな子供達はよく分からないとった顔をしながらも不穏な空気を察してか大人達と総司を交互に忙しなく見ている。
しかし、総司は、そんなシリアスな雰囲気などまるで気にした様子もなくあっさり言ってのけた。
「それがどうかしたのか?」
「えっ?」
疑問顔を浮かべるシアに総司は特に気負った様子もなく世間話でもするように話を続けた。
「だから、人間族と敵対することが何か問題なのかって言ってるんだ」
「そ、それは、だって同族じゃないですか……」
「お前らだって、同族に追い出されてるじゃねぇか」
「それは、まぁ、そうなんですが……」
「大体、根本が間違っている」
「根本?」
さらに首を捻るシア。周りの兎人族も疑問顔だ。
「いいか? 俺は、お前等が樹海探索に便利だから雇った。んで、それまで死なれちゃ困るから守っているだけ。断じて、お前等に同情してとか、義侠心に駆られて助けているわけじゃない。まして、今後ずっと守ってやるつもりなんて毛頭ない。忘れたわけじゃないだろう?」
「うっ、はい……覚えてます……」
「だから、樹海案内の仕事が終わるまでは守る。自分のためにな。それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間族だろうが関係ない。道を阻むものは敵、敵は潰す。それだけのことだ」
「な、なるほど……」
「第一不殺を貫くなんて器用なことは出来んのでな」
何とも総司らしい考えに、苦笑いしながら納得するシア。''未来視,,で帝国と相対する総司を見たといっても、未来というものは絶対ではないから実際はどうなるか分からない。見えた未来の確度は高いが、万一、帝国側につかれては今度こそ死より辛い奴隷生活が待っている。表には出さないが''自分のせいで,,という負い目があるシアは、どうしても確認せずにはいられなかったのだ。
「はっはっは、分かりやすくていいですな。樹海の案内はお任せくだされ」
カムが快活に笑う。下手に正義感を持ち出されるよりもギブ&テイクな関係の方が信用に値したのだろう。その表情に含むところは全くなかった。
一行は、階段に差し掛かった。総司とハジメを先頭に順調に登っていく。帝国兵からの逃亡を含めて、ほとんど飲まず食わずだったはずの兎人族だが、その足取りは軽かった。亜人族が魔力を持たない代わりに身体能力が高いというのは嘘ではないようだ。
そして、遂に階段を上りきり、総司達はライセン大峡谷からの脱出を果たす。
登りきった崖の上、そこには……。
「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」
三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、総司達を見るなり驚いた表情を見せた。
だが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した。
「小隊長!白髪の兎人もいますよ!隊長が欲しがってましたよね?」
「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」
「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」
「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」
「ひゃっほ~、流石、小隊長!話がわかる!」
帝国兵は、兎人族達を完全に獲物としてしか見ていないのか戦闘態勢をとる事もなく、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。兎人族は、その視線にただ怯えて震えるばかりだ。
帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、ようやく総司達の存在に気がついた。
「あぁ?お前誰だ?兎人族……じゃあねぇよな?」
総司は、帝国兵の態度から素通りは無理だろうなと思いながら、一応会話に応じる。
「ああ、人間だ」
「はぁ~?なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ?しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か?情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」
勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子で、そう総司とハジメに命令した。
当然、総司とハジメが従うはずもない。
「断る」
「……今、何て言った?」
「断ると言ったんだ。こいつらは今は俺のもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」
聞き間違いかと問い返し、返って来たのは不遜な物言い。小隊長の額に青筋が浮かぶ。
「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」
「十全に理解している。あんたらに頭が悪いとは誰も言われたくないだろうな」
総司の言葉にスっと表情を消す小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気でハジメを睨んでいる。その時、小隊長が、剣呑な雰囲気に背中を押されたのか、総司の後ろから出てきた香織とユエに気がついた。方や美しい容姿である上に纏う雰囲気に艶があり、そのことからか、えもいわれぬ魅力を放っている美女と、方や幼い容姿でありながらも纏う雰囲気に艶があり、そのギャップからか、えもいわれぬ妖艶さを放っている美貌の少女に一瞬呆けるものの、総司の服の裾をギュッと握っていることからよほど近しい存在なのだろうと当たりをつけ、再び下碑た笑みを浮かべた。
「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃん達えらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」
その言葉に総司は眉をピクリと動かし、ユエは無表情に、香織は誰でも分かるほど嫌悪感を丸出しにしている。目の前の男が存在すること自体が許せないと言わんばかり、ユエが右手を掲げようとした。
だが、それを制止する総司。訝しそうなユエを尻目に総司が最後の言葉をかける。
「つまり敵ってことでいいよな?」
「あぁ!?まだ状況が理解できてねぇのか!てめぇは、震えながら許しをこッ!?」
ヒュンッ!!
想像した通りに総司が怯えないことに苛立ちを表にして怒鳴る小隊長だったが、その言葉が最後まで言い切られることはなかった。なぜなら、一回の風切り音と共に、その頭部が首から下と分かたれたからだ。綺麗に切り落とされた頭部と、ソレが繋がっていた部分からおびただしい量の血を噴き出させ、そのまま後ろに倒れる。
何が起きたのかも分からず、呆然と倒れた小隊長を見る兵士達に追い打ちが掛けられた。
ドパァァンッ!
一発しか聞こえなかった銃声は、同時に、六人の帝国兵の頭部を吹き飛ばした。実際には六発撃ったのだが、ハジメの射撃速度が早すぎて射撃音が一発分しか聞こえなかったのだ。
突然、小隊長を含め仲間の頭部が弾け飛ぶという異常事態に兵士達が半ばパニックになりながらも、武器を総司達に向ける。過程はわからなくても原因はわかっているが故の、中々に迅速な行動だ。人格面は褒められたものではないが、流石は帝国兵。実力は本物らしい。
早速、帝国兵の前衛が飛び出し、後衛が詠唱を開始する。だが、その後衛組の足元に二つの何かがコロンと転がってきた。黒い筒状の物体と、緑色の球体だ。何だこれ?と詠唱を中断せずに注視する後衛達だったが、次の瞬間には物言わぬ骸と化した。
ドガァンッ!!
ゴォォッ!!
黒い物体、燃焼粉を詰め込んだ''手榴弾,,と、緑色の球体、この世界では用いられていない科学技術を詰め込んだ''プラズマグレネード,,が爆発したからだ。しかも前者はご丁寧に金属片が仕込まれた〝破片手榴弾〟である。地球のものと比べても威力が段違いの自慢の逸品。燃焼石という異世界の不思議鉱物がなければ、ここまでの威力のものは作れなかっただろう。後者は空想上の産物とまで言われる、実現すれば世界最強のグレネードになると言われるものだ。総司の''創造,,がなければ作れなかっただろう。
この一撃で、密集していた十人程の帝国兵が即死するか、手足を吹き飛ばされるか、内臓を粉砕されて絶命し、さらに七人程が巻き込まれ苦痛に呻き声を上げた。
背後からの爆風に、思わずたたらを踏む突撃中の前衛七人。何事かと、背後を振り向いてしまった六人は、直後、他の仲間と同様に頭部を撃ち抜かれて崩れ落ちた。血飛沫が舞い、それを頭から被った生き残りの一人の兵士が、力を失ったように、その場にへたり込む。無理もない。ほんの一瞬で、仲間が殲滅されたのである。彼等は決して弱い部隊ではない。むしろ、上位に勘定しても文句が出ないくらいには精鋭だ。それ故に、その兵士は悪い夢でも見ているのでは? と呆然としながら視線を彷徨わせた。
そんな彼の耳に、これだけの惨劇を作り出した者が発するとは思えないほど飄々とした声が聞こえた。
「うん、やっぱり、人間相手だったら宝具は使わなくても良さそうだな」
兵士がビクッと体を震わせて怯えをたっぷり含んだ瞳をハジメに向けた。総司はエクスカリバーを鞘へとしまい、P-90で肩をトントンと叩きながら、ゆっくりと兵士に歩み寄る。黒いコートを靡かせて死を振り撒き歩み寄るその姿は、さながら死神だ。少なくとも生き残りの兵士には、そうとしか見えなかった。
「ひぃ、く、来るなぁ!い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か!助けてくれ!」
命乞いをしながら這いずるように後退る兵士。その顔は恐怖に歪み、股間からは液体が漏れてしまっている。総司は、冷めた目でそれを見下ろし、おもむろに銃口を兵士の背後に向けると連続して発砲した。
「ひぃ!」
兵士が身を竦めるが、その体に衝撃はない。総司が撃ったのは、手榴弾で重傷を負っていた背後の兵士達だからだ。それに気が付いたのか、生き残りの兵士が恐る恐る背後を振り返り、今度こそ隊が全滅したことを眼前の惨状を持って悟った。
振り返ったまま硬直している兵士の頭にゴリッと銃口が押し当てられる。再び、ビクッと体を震わせた兵士は、醜く歪んだ顔で再び命乞いを始めた。
「た、頼む!殺さないでくれ!な、何でもするから! 頼む!」
「そうか?なら、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが……全部、帝国に移送済みか?」
総司が質問したのは、百人以上居たはずの兎人族の移送にはそれなりに時間がかかるだろうから、まだ近くにいて道中でかち合うようなら序でに助けてもいいと思ったからだ。帝国まで移送済みなら、わざわざ助けに行くつもりは毛頭なかったが。
「……は、話せば殺さないか?」
「お前、自分が条件を付けられる立場にあると思ってんのか?別に、どうしても欲しい情報じゃあないんだ。今すぐ逝くか?」
「ま、待ってくれ!話す!話すから!……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」
''人数を絞った,,それは、つまり老人など売れそうにない兎人族は殺したということだろう。兵士の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族達。総司は、その様子をチラッとだけ見やる。直ぐに視線を兵士に戻すともう用はないと瞳に殺意を宿した。
「待て!待ってくれ!他にも何でも話すから!帝国のでも何でも!だから!」
総司の殺意に気がついた兵士が再び必死に命乞いする。しかし、その返答は……
ドパンッ!
一発の銃弾だった。
息を呑む兎人族達。あまりに容赦のない総司の行動に完全に引いているようである。その瞳には若干の恐怖が宿っていた。それはシアも同じだったのか、おずおずと総司に尋ねた。
「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」
はぁ?という呆れを多分に含んだ視線を向ける総司に「うっ」と唸るシア。自分達の同胞を殺し、奴隷にしようとした相手にも慈悲を持つようで、兎人族とはとことん温厚というか平和主義らしい。総司が言葉を発しようとしたが、その機先を制するようにユエが反論した。
「……一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎ」
「そ、それは……」
「……そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目を総司に向けるのはお門違い」
「……」
ユエは静かに怒っているようだ。守られておきながら、総司に向ける視線に負の感情を宿すなど許さないと言わんばかりである。当然といえば当然なので、兎人族達もバツ悪そうな表情をしている。
「まあ、それ以上に香織の四肢を切るとか、犯してから奴隷商に売り飛ばすとか言った時点でギルティだから」
総司は香織に対する発言(ユエも)に切れていた様だ。
「ふむ、総司殿、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」
「総司さん、すみません」
シアとカムが代表して謝罪するが、総司は気にしてないという様に手をヒラヒラと振るだけだった。
総司は、無傷の馬車や馬のところへ行き、兎人族達を手招きする。樹海まで徒歩で半日くらいかかりそうなので、せっかくの馬と馬車を有効活用しようというわけだ。魔力駆動四輪を《王の財宝》から取り出し馬車に連結させる。馬に乗る者と分けて一行は樹海へと進路をとった。
無残な帝国兵の死体はユエが風の魔法で吹き飛ばし谷底に落とした。後にはただ、彼等が零した血だまりだけが残された。
清水くんは助ける?
-
助ける
-
助けない
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寧ろ最凶化
-
ラーメン食べたい