ありふれちゃいけない職業で世界最強   作:キャッチ&リリース

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第15話ハウリア姉妹の心情とハルツィナ樹海

七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱える【ハルツィナ樹海】を前方に見据えて、総司達が魔力駆動車で牽引する大型馬車二台と数十頭の馬が、それなりに早いペースで平原を進んでいた。

 

魔力駆動車には、総司達以外にも二輪には前にアヴローラが、後ろにレナが乗っていて、四輪には、運転席の総司の膝の上にユエが、助手席に香織が、後部座席にシアが乗っている。当初、シア達には馬車に乗るように言ったのだが、断固として魔力駆動車に乗る旨を主張し言う事を聞かなかった。ユエが何度叩き出しても、ゾンビのように起き上がりヒシッとしがみつくので、遂にユエの方が根負けしたという事情があったりする。レナに関しては、アヴローラが何もしない為そのまま乗っている。

 

シア達としては、初めて出会った''同類,,である二人と、もっと色々話がしたいようだった。ハジメにしがみつき上機嫌な様子のレナ。果たして、レナが気に入ったのは二輪の座席かハジメの後ろか……場合によっては手足をふん縛って引きずってやる!とアヴローラは内心決意していた。

 

若干不機嫌そうなアヴローラと上機嫌なレナに挟まれたハジメは、四輪を走らせつつ遠くを見ながらボーとしていた。

 

そんなハジメにアヴローラが声をかける。

 

「……ハジメ、どうして二人で戦ったの?」

「ん?」

 

アヴローラが言っているのは帝国兵との戦いのことだ。あの時、魔法を使おうとしたアヴローラ達を制止して、ハジメは総司と二人で戦うことを選んだ。アヴローラ達が参加しようがすまいが結果は〝瞬殺〟以外には有り得なかっただろうが、どうも帝国兵を倒した後のハジメは物思いに耽っているような気がして、アヴローラとしては気になったのだ。

 

「ん~、まぁ、ちょっと確かめたいことがあってな……」

「……確かめたいこと?」

 

アヴローラが疑問顔で聞き返す。レナも肩越しに興味深そうな眼差しを向けている。

 

「ああ、それはな……」

 

話し始めたハジメの理由を要約するとこういうことだ。

 

ハジメがアヴローラを制止して、自分で帝国兵全部を相手取った一つ目の理由は〝実験〟である。万一に備えて全員頭部を狙っておいたが、実は、鎧部分にも撃ち込んでいたりする。なぜそんな事をしたかというと、人間と相対する度にレールガンを放っていたのでは完全にオーバーキルであり、街中などでは何処までも貫通してしまい危なっかしくて使えない。暴漢を木っ端微塵にするのは何の問題もないが、背後の民家を突き破って団欒中の家族を皆殺し!とか、完全に外道すら通り越した狂人である。ハジメとて、何の関係もない人々を無差別に殺す殺人鬼になるつもりは毛頭ない。なので、どの程度の炸薬量が適切か実地で計る必要があったのである。実験の甲斐あって結果は上々。威力の微調整にも具体的な見当がついた。

 

もう一つの理由は、自分が殺人に躊躇いを覚えないか確かめるということだ。すっかり変わってしまったハジメだが、人殺しの経験は未だなかった。それ故に、殺す前も殺した後も動揺せずにいられるか試したのである。結果は、〝特に何も感じない〟だった。やはり、敵であれば容赦なく殺すという価値観は強固に染み付いているようである。

 

「とまぁ、初の人殺しだったわけだが、特に何も感じなかったから、随分と変わったもんだと、ちょっと感傷に浸ってたんだよ……」

「……そう……大丈夫?」

「ああ、何の問題もない。これが今の俺だし、これからもちゃんと戦えるってことを確認できて良かったさ」

 

あれだけ容赦なかったハジメが、実は初めて人を殺したという事実に内心驚くレナ。同時に、ハジメの僅かな変化に気がついたアヴローラの洞察力(おそらくハジメ限定)に感心する。そして、改めて、自分はハジメやアヴローラのことを何も知らないのだなぁと少し寂しい気持ちなった。

 

「ねえ、ねえ!ハジメとアヴローラちゃんのこと、教えてくれない?」

「?俺達のことは話したろ?」

「いえ、能力とかそいうことではなくて、なぜ、奈落?という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、お二人自身のことが知りたいのよ」

「……聞いてどうするの?」

「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけ。……私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけたから。小さい時はそれがすごく嫌で……もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれたし、今は、自分を嫌ってはいないけど……それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして……だから、私、嬉しかったのよ。貴方達に出会って、私達みたいな存在は他にもいるのだと知って、二人じゃない、はみだし者なんかじゃないって思えて……勝手ながら、そ、その、な、仲間みたいに思えて……だから、その、もっと貴方達のことを知りたいというか……何というか……」

 

レナは話の途中で恥ずかしくなってきたのか、次第に小声になってハジメの背に隠れるように身を縮こまらせた。出会った当初も、そう言えば随分嬉しそうにしていたと、ハジメとアヴローラは思い出し、レナの様子に何とも言えない表情をする。あの時は、アヴローラの複雑な心情により有耶無耶になった挙句、すぐハウリア達を襲う魔物と戦闘になったので、谷底でも魔法が使える理由など簡単なことしか話していなかった。きっと、レナは、ずっと気になっていたのだろう。

 

確かに、この世界で、魔物と同じ体質を持った人など受け入れがたい存在だろう。仲間意識を感じてしまうのも無理はない。かと言って、ハジメやアヴローラの側が、レナに対して直ちに仲間意識を持つわけではない。が……樹海に到着するまで、まだ少し時間がかかる。特段隠すことでもないので、暇つぶしにいいだろうと、ハジメとアヴローラはこれまでの経緯を語り始めた。

 

結果……。

 

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎるぅ~、ハジメもアヴローラちゃんもがわいぞうにぃ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないわよぉ〜!」

 

号泣した。滂沱の涙を流しながら「私は、甘ちゃんだわぁ」とか「もう、弱音は吐かないからぁ」と呟いている。そして、さり気なく、ハジメの外套で顔を拭いている。どうやら、自分は大変な境遇だと思っていたら、ハジメとアヴローラが自分以上に大変な思いをしていたことを知り、不幸顔していた自分が情けなくなったらしい。

 

しばらくメソメソしていたレナだが、突如、決然とした表情でガバッと顔を上げると拳を握り元気よく宣言した。

 

「ハジメ!アヴローラちゃん!私、決めたわ!貴方達の旅に着いていく!これからは、このレナ・ハウリアが陰に日向に貴方達を助けて上げるわ!遠慮なんて必要ないわよ!私達はたった三人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

勝手に盛り上がっているレナに、ハジメとアヴローラが実に冷めた視線を送る。

 

「現在進行形で守られている脆弱ウサギが何言ってんだ? 完全に足でまといだろうが」

「……さり気なく『仲間みたい』から『仲間』に格上げしている……厚皮ウサギ」

「ついでに言えば俺達は二人で旅をしているわけじゃない。あと三人いるだろ」

「な、何て冷たい目で見るのよ……心にヒビが入りそう……というかいい加減、ちゃんと名前を呼んでよぉ」

 

意気込みに反して、冷めた反応を返され若干動揺するレナ。そんな彼女に追い討ちがかかる。

 

「……お前、単純に旅の仲間が欲しいだけだろう?」

「!?」

 

ハジメの言葉に、レナの体がビクッと跳ねる。

 

「一族の安全が一先ず確保できたら、お前、アイツ等から離れる気なんだろ?そこにうまい具合に''同類,,の俺らが現れたから、これ幸いに一緒に行くってか?そんな珍しい髪色の兎人族なんて、一人旅出来るとは思えないしな」

「……いや、それは、それだけでは……私は本当に貴方達を……」

 

図星だったのか、しどろもどろになるレナ。実は、レナは既に決意していた。何としてでもハジメの協力を得て一族の安全を確保したら、自らは家族の元を離れると。自分がいる限り、一族は常に危険にさらされる。今回も多くの家族を失った。次は、本当に全滅するかもしれない。それだけは、レナには耐えられそうになかった。もちろん、その考えが一族の意に反する、ある意味裏切りとも言える行為だとは分かっている。だが''それでも,,と決めたのだ。

 

最悪、一人でも旅に出るつもりだったが、それでは心配性の家族は追ってくる可能性が高い。しかし、圧倒的強者であるハジメ達に恩返しも含めて着いて行くと言えば、割りかし容易に一族を説得できて離れられると考えたのだ。見た目の言動に反してレナは、今この瞬間も''必死,,なのである。

 

もちろん、レナ自身がハジメとアヴローラに強い興味を惹かれているというのも事実だ。ハジメの言う通り〝同類〟であるハジメ達に、シアは理屈を超えた強い仲間意識を感じていた。一族のことも考えると、まさに、シアにとってハジメ達との出会いは〝運命的〟だったのだ。

 

「別に、責めているわけじゃない。だがな、変な期待はするな。俺達の目的は七大迷宮の攻略なんだ。おそらく、奈落と同じで本当の迷宮の奥は化物揃いだ。お前じゃ瞬殺されて終わりだよ。だから、同行を許すつもりは毛頭ない」

「……」

 

ハジメの全く容赦ない言葉にシアは落ち込んだように黙り込んでしまった。ハジメもアヴローラも特に気にした様子がないあたりが、更に追い討ちをかける。

 

レナは、それからの道中、大人しく二輪の座席に座りながら、何かを考え込むように難しい表情をしていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

それから数時間して、遂に一行は【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。

 

「それでは、総司殿に香織殿、ユエ殿。それにハジメ殿、アヴローラ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。お二人を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

カムが、総司達に対して樹海での注意と行き先の確認をする。カムが言った〝大樹〟とは、【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大な一本樹木で、亜人達には〝大樹ウーア・アルト〟と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づくものはいないらしい。峡谷脱出時にカムから聞いた話だ。

 

当初、総司とハジメは【ハルツィナ樹海】そのものが大迷宮かと思っていたのだが、よく考えれば、それなら奈落の底の魔物と同レベルの魔物が彷徨いている魔境ということになり、とても亜人達が住める場所ではなくなってしまう。なので、【オルクス大迷宮】のように真の迷宮の入口が何処かにあるのだろうと推測した。そして、カムから聞いた〝大樹〟が怪しいと踏んだのである。

 

カムは、総司達の言葉に頷くと、周囲の兎人族に合図をしてハジメ達の周りを固めた。

 

「総司殿、ハジメ殿、できる限り気配は消してもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

「ああ、承知している。俺もユエも香織も、ある程度、隠密行動はできるから大丈夫だ」

「こちらも同じだ」

 

総司達は、そう言うと〝気配遮断〟を使う。香織達も、奈落で培った方法で気配を薄くした。

 

「ッ!? これは、また……総司殿、できればユエ殿くらいにしてもらえますかな?」

「ん? ……こんなもんか?」

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!」

 

元々、兎人族は全体的にスペックが低い分、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に秀でている。地上にいながら、奈落で鍛えたユエと同レベルと言えば、その優秀さが分かるだろうか。達人級といえる。しかし、総司の〝気配遮断〟は更にその上を行く。普通の場所なら、一度認識すればそうそう見失うことはないが、樹海の中では、兎人族の索敵能力を以てしても見失いかねないハイレベルなものだった。

 

カムは、人間族でありながら自分達の唯一の強みを凌駕され、もはや苦笑いだ。隣では、何故か香織が自慢げに胸を張っている。シア達は、どこか複雑そうだった。総司の言う実力差を改めて示されたせいだろう。

 

「それでは、行きましょうか」

 

カムの号令と共に準備を整えた一行は、カムとシアを先頭に樹海へと踏み込んだ。

 

しばらく、道ならぬ道を突き進む。直ぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくる。しかし、カムの足取りに迷いは全くなかった。現在位置も方角も完全に把握しているようだ。理由は分かっていないが、亜人族は、亜人族であるというだけで、樹海の中でも正確に現在地も方角も把握できるらしい。

 

順調に進んでいると、突然カム達が立止り、周囲を警戒し始めた。魔物の気配だ。当然、総司達も感知している。どうやら複数匹の魔物に囲まれているようだ。樹海に入るに当たって、総司が貸し与えたナイフ類を構える兎人族達。彼等は本来なら、その優秀な隠密能力で逃走を図るのだそうだが、今回はそういうわけには行かない。皆、一様に緊張の表情を浮かべている。

 

と、突然総司が左手を素早く水平に振った。微かに、パシュという射出音が連続で響く。

 

直後、

 

ドサッ、ドサッ、ドサッ

「「「キィイイイ!?」」」

 

三つの何かが倒れる音と、悲鳴が聞こえた。そして、慌てたように霧をかき分けて、腕を四本生やした体長六十センチ程の猿が三匹踊りかかってきた。

 

内、一匹に向けてユエが手をかざし、一言囁くように呟く。

 

「〝風刃〟」

 

魔法名と共に風の刃が高速で飛び出し、空中にある猿を何の抵抗も許さずに上下に分断する。その猿は悲鳴も上げられずにドシャと音を立てて地に落ちた。

 

残り二匹は二手に分かれた。一匹は近くの子供に、もう一匹はシアに向かって鋭い爪の生えた四本の腕を振るおうとする。シアも子供も、突然のことに思わず硬直し身動きが取れない。咄嗟に、近くの大人が庇おうとするが……無用の心配だった。

 

再度、総司が左腕を振ると、パシュ! という音と共にシアと子供へと迫っていた猿の頭部に十センチ程の針が無数に突き刺さって絶命させたからだ。

 

総司が使ったのは鎌鼬である。手の内を晒したくないのと剣を抜く必要を感じなかったという理由ではあるが、十分に人の域を超越している技であるのでシアは驚きながらお礼をのべた。

 

「あ、ありがとうございます、総司さん」

「お兄ちゃん、ありがと!」

 

シアと子供(男の子)が窮地を救われ礼を言う。総司は気にするなと手をひらひらと振った。男の子の総司を見る目はキラキラだ。シアは、突然の危機に硬直するしかなかった自分にガックリと肩を落とした。

 

その様子に、カムは苦笑いする。総司から促されて、先導を再開した。

 

その後も、ちょくちょく魔物に襲われたが、総司とユエが静かに片付けていく。樹海の魔物は、一般的には相当厄介なものとして認識されているのだが、何の問題もなかった。

 

しかし、樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれ、総司達は歩みを止める。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。

 

そして、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。シアに至っては、その顔を青ざめさせている。

 

総司達も相手の正体に気がつき、面倒そうな表情になった。

 

その相手の正体は……。

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。

清水くんは助ける?

  • 助ける
  • 助けない
  • 寧ろ最凶化
  • ラーメン食べたい
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