僕とSHUFFLEと召喚獣   作:京勇樹

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少女の思い

明久達、近衛部隊が反対派を殲滅して十数分後

 

桜は自室で宿題をやっていたが、明久のことがどうしても気になっていた

 

「アキくん……大丈夫かなぁ……」

 

魔王からローラー作戦を行っていると聞いてから、嫌な胸騒ぎがしていた

 

そしてシャーペンを置いた時、大きな物音がベランダから聞こえた

 

「な、なに……?」

 

桜は不安になり、ベランダの方のカーテンを少し開けた

 

そこに見えたのは……

 

「隊長! しっかりしてください!」

 

「意識をしっかり持ってください、隊長!」

 

焦った様子の瑠璃とフリージア

 

そして、二人に支えられて右腕が肘から無くなっていた明久だった

 

「アキくん!?」

 

その姿の明久を見て、思わず桜はベランダのドアを開けた

 

「桜さん!?」

 

「そうか……ここは八重さんの!」

 

瑠璃とフリージアは桜が現れたことに驚くが、桜はそんな二人を無視して

 

「なにがあったんですか!?」

 

と明久に駆け寄った

 

「……ローラー作戦で、敵と交戦していたんですが……ヤケになった敵がS級危険魔道具を使って、自爆攻撃をしようとしたのを、明久隊長が庇ってくれたんです……」

 

「瑠璃!」

 

作戦で起きたことを瑠璃が喋ると、フリージアが諫めるように声を上げた

 

「見られたからには、隠すことは無理です」

 

「っ……そうだけど……!」

 

瑠璃の正論に、フリージアは口を噤んだ

 

「傷口は魔力で塞ぎましたが、長くは保ちません……」

 

「そんな……」

 

続いた瑠璃の説明を聞いて、桜は明久の傷口に目を向けた

 

「なんとかならないんですか!?」

 

「神界の方に、医療魔法のスペシャリストが居ます。ですが、そこまで保つかは……」

 

瑠璃のその言葉を聞いて、桜は明久の顔を見た

 

息が荒く顔も蒼白になっており、何よりも辛そうだった

 

(私がちゃんと、魔法の練習をしてたら……っ!)

 

桜はそう思うと、拳を握りしめた

 

実を言うと、桜の魔力量はかなり多い

 

幼なじみメンバーの中では、随一と言っても過言ではなかった

 

だが、魔法よりも人形職人になりたいという夢を優先し、魔法の練習をしていなかったのだ

 

しかも、回復魔法の適性値が非常に高かったのも覚えている

 

まさに今、その魔法を使いたい状況だったが、夢を優先したために、それも叶わない

 

「アキくんを助けたいのに……私には、何も出来ないの!?」

 

桜は無力感に苛まれ、思わず声を上げた

 

まさにその時、稟の家の前の明久が借りているアパートの一室

 

明久の机の引き出しの隙間から、光が漏れていた

 

数瞬後、突如として引き出しが弾けるように開き、中から発光体が空中に浮かび上がった

 

その発光体は数秒間ほど浮かんでいると、まさしく光の速度で窓を突き破ってどこかへと飛んでいった

 

場所は戻り、桜が声を張り上げたことに二人は驚きつつ、口を噤んでいた

 

その時、どこからともなく飛んできた発光体が桜の前で止まった

 

「え……なに、これ?」

 

目の前の発光体が分からず、桜は疑問の声を上げた

 

瑠璃とフリージアも何が起きているのか分からず、呆然としていた

 

すると、発光体がゆっくりと降り始めたので、桜は思わず両手で受け止めた

 

桜が両手で受け止めると、光はゆっくりと収まった

 

桜の両手の中にあったのは、一つのペンダントだった

 

女神を彷彿させる装飾が施された、金属製のペンダントだった

 

だが桜は、その金属製のペンダントから不思議と暖かさを感じた

 

「これって……」

 

桜がペンダントに見入っていると、桜の両手の中のペンダントを見た二人は目を見開き

 

「それは、アフロディーテ!?」

 

「なんでここに!?」

 

と驚いていた

 

「アフロディーテ?」

 

桜が首を傾げると、いち早く立ち直った瑠璃が

 

「桜さん、隊長を治してください」

 

と告げた

 

「え!? 私がですか!?」

 

桜が驚いていると、フリージアが

 

「アフロディーテは特級魔道具でして、能力は完全回復です」

 

「完全回復!?」

 

「ええ……前使用者が亡くなって、神王陛下が預かっていたんですが、中々適合者が現れなかったんです」

 

「まさか、飛んでくるとは思いませんでしたが……」

 

桜の驚愕にフリージアと瑠璃は、そう言った

 

二人は知らなかったが、特級魔道具の中には意思を持つ魔道具もあった

 

そして、このアフロディーテがその一つであった

 

明久はそれを神王から聞いていたので、引き出しの中に閉まっておいたのである

 

「どうか、お願いします……」

 

瑠璃が頭を下げると、桜は決意の籠もった目で明久を見つめて

 

「わかりました。私が、アキくんを治します」

 

と宣言した

 

桜の言葉を聞いて、二人は嬉しそうにした

 

「それでは、使い方ですが……」

 

とフリージアが説明しようとしたら、桜は首を振って

 

「大丈夫です。わかります」

 

と言うと、アフロディーテを首に掛けて、明久を抱き締めた

 

(アキくん……アキくん……! アキくん!!)

 

桜は明久を抱き締めると、明久を強く思った

 

するとアフロディーテが光り輝き、桜と明久を包み込んだ

 

その光りは暖かく、桜は安心感を覚えた

 

まるで、母親の腕の中に居るようだった

 

数秒後、光が収まると、明久の右腕は治っていた

 

「凄い……っ!」

 

「こんな速さで治るなんて!」

 

瑠璃とフリージアは、回復の速さに驚いていたが、桜は疲れで壁に背中を預けていた

 

しかも、桜の額には大粒の汗も浮かんでいた

 

「凄い……疲れた……」

 

「恐らく、魔力もほとんど残ってないでしょう……捕まってください」

 

桜の言葉を聞いて、瑠璃が桜を立たせようとした

 

その時

 

「俺が支えよう」

 

という言葉が聞こえた

 

「隊長!」

 

「もう、平気なんですか?」

 

フリージアが問い掛けると、明久は頷いて

 

「心配を掛けたな……」

 

と言うと、桜に視線を向けて

 

「桜、ありがとうな」

 

と言いながら、桜をお姫様抱っこして抱えあげた

 

「アキくん! 私、重いよ!?」

 

桜が焦った様子で言うが,明久は首を振って

 

「軽い軽い……本当にありがとうな、桜ちゃん」

 

と言って、桜をゆっくりとベッドに下ろした

 

そして明久は、身を翻すとベランダに出て

 

「じゃあね……また明日」

 

と言うと、一瞬でその姿を消した

 

桜は数秒間ほど明日が居た場所を見つめていると、思い出したように窓を閉めた

 

そして、へたり込むと

 

「良かった……アキくんが治って、良かったよぅ……」

 

と安心感からか、涙を流した

 

なぜ、使い方を知らない筈なのに治せたのか

 

桜が受け止めた時、頭の中に使い方が流れ込んできたのだ

 

だから、桜はアフロディーテを使えたのである

 

まさしく、愛の為せる技だろう

 

そして桜は、首に掛かっていたアフロディーテを外すと、机の上に置いて

 

「明日返そう」

 

と言うと、着替えを持って部屋から出ていったのだった


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