時は少し戻り、明久と桜の二人が行った後、近い場所で稟と楓の二人が明久達と同じように地図を見ていた
その二人目掛けて、一体の着ぐるみが物凄い勢いで駆けてきて、その手には釘が何本も打ち込まれたバット
いわゆる、釘バットが握られていた
そして、稟達まで残り数メートル程になって、その着ぐるみ
島田は釘バットを振り上げて、攻撃態勢に入った
その時、横合いから一陣の金色の風が疾った
そして、その風が通り過ぎる瞬間だった
「神剣一刀流、初の太刀……紫電!」
その人物、瑠璃=マツリは握っていた魔力刀をまさに光の速度で振るった
そして、着ぐるみを着ていた島田は数秒後にうつ伏せに倒れた
瑠璃はそれを確認すると、魔力刀を懐にしまい、襟元のピンマイクに何かをボソボソと呟いた
その直後、瑠璃と島田の下に魔法陣が展開して、二人の姿は消えた
次の瞬間には、瑠璃と島田の姿は薄暗い場所に有った
そして、瑠璃は転がっている島田に視線を向けると
「まったく……学習しませんね。明久隊長が居ないからといって、我々まで居ない訳がないでしょう」
と溜め息混じりに言うと、部下に命じて奥のゴミ捨て場へと運ばせた
これで、しばらくは島田は動けないだろう
そう判断するが、瑠璃はピンマイクに向かって
「まだ油断しないように。他にも、Fクラスの男子達が居る筈です。警戒態勢は厳に」
と告げると、自身も身を翻して走り出した
その頃稟達は、コーヒーカップの方へと向かっていた
「そういえばさ、こうして遊園地に来るのって久し振りだよな」
と稟が言うと、楓は少し考え込んでから
「そうですね……最低でも、十年振り位ですね」
と答えた
元々、稟と楓の家はそれほど裕福ではなかったし、如月グランドパークが出来るまでは、近場に遊園地などなく、行くとしたら某ネズミーランド位しかなかったのだ
しかも八年前のあの事故以来、どこにも遊びには行っていなかった
特に、五年前に明久が居なくなって、その二年後に真実を知ってからは尚更だった
楓は罪悪感で押し潰されそうになり、稟はそんな楓を支えるので必死だった
「そんじゃま、久し振りの遊園地を楽しみますか」
「はい!」
稟の言葉を聞いて、楓は満面の笑みを浮かべながら歩いていった
場面は変わり、明久達の方
明久達は件の
「此度は、我が社のアルバイトが大変ご迷惑をお掛けしました……」
「大丈夫です。今回の事は、全面的にあのバカ共が悪い。それに、俺も物を幾つか壊してしまった」
責任者が深々と頭を下げていると、明久は警察の犯人護送用のバスにFクラス男子達が次々と乗り込んでいた
「その分はこちらで、補修させてもらおう」
明久がそう言うと、責任者は慌てた様子で
「滅相もございません! 此度は全面的にこちらの落ち度です! 彼らをバイトとして雇った我々に!」
と言うが、明久は微笑みながら
「そうだとしても、物を壊したのはこちらだ。それは詫びよう。申し訳ない」
「お客様……」
明久が頭を下げると、責任者は感銘した様子で呟いた
そして明久は携帯を取り出すと、どこかに連絡してからしまって
「大体、二十分もしたら神界の修復部隊が到着しますので、案内を頼みます」
と言った
すると、責任者は深く腰を折って
「ありがとうございます。案内は手配しておきます」
と答えた
「それでは、俺達はこれにて」
明久がそう言って、案内されたバックヤードから去ろうとした時だった
「お待ちください」
と責任者が呼び止めた
「何でしょうか?」
明久が首を傾げていると、責任者が懐から二つのラミネート加工が施されたカードを取り出して
「当遊園地の無期限フリーパスでございます。これを入り口で見せていただければ、最優先にてご案内させていただきます」
と告げながら、明久達に差し出した
「よろしいのですか?」
明久が問い掛けると、責任者は頷いて
「お客様のお心遣いに感銘致しました……どうぞ、お受け取りください」
と言った
それを聞いて、明久と桜は顔を見合わせてから
「それでは」
「ありがたく貰います」
と受け取った
明久達が受け取ると、責任者は近くに居た係員の一人に視線を向けて
「こちらのお客様方のご案内を」
と命じた
「はい!」
命じられた係員は返事をすると、明久と桜に頭を下げてから
「お客様方、こちらです」
と案内を始めた
その係員について行くと、責任者が深々と頭を下げながら
「どうぞ、ごゆっくりとお楽しみくださいませ」
と告げた
それを背に聞きながら、明久達は係員の案内について行って
まだ、始まったばかりである