僕とSHUFFLEと召喚獣   作:京勇樹

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キキョウの思い

裏シアことキキョウに名前が与えられた翌日

キキョウは、明久が入院している病室の前でウロウロしていた

ユーストマから、明久が提案したことを聞いたからである

 

「どうしよう……顔を合わせづらい……」

 

とキキョウが呟いた

その時

 

「あれ、シアちゃん?」

 

と声が掛けられて、キキョウは振り向いた

そこに居たのは、花束を持った桜だった

 

「あ、すいません。友人に似てたものですから、間違えてしまいました」

 

雰囲気で違うと察したのか、桜は苦笑いを浮かべながらそう言った

すると、キキョウは

 

「いや、ある意味間違ってないよ。アタシはキキョウだけど、体はシアのだから」

 

と言った

 

「どういうことですか?」

 

桜が問い掛けると、キキョウは簡単に説明した

それを聞いて、桜は

 

「なかなか、複雑なんですね」

 

と言った

そして、少しすると

 

「それで、なんでアキ君の部屋の前で?」

 

と首を傾げた

桜のその言葉を聞いて、キキョウはピクリと体を震わせた

桜が明久のことを好いていることは、シアの体を通して知っている

それゆえに、明久を傷つけたことがいたたまれない気持ちが強くなった

その時

 

「何してるんだ」

 

と二人の目的の人物の声が聞こえた

二人が視線を向けると、車椅子に乗った明久が膝の上にビニール袋を乗せた状態で、二人を見ていた

 

「アキ君、大丈夫なの?」

 

「これ位ならば、問題ない……寝たきりだと、体も鈍る」

 

桜からの問い掛けに、明久はそう言いながら病室のドアを開けた

そして、中に入りながら

 

「キキョウ様、帰らないでください」

 

と体を翻していたキキョウを呼び止めた

明久に呼び止められて、キキョウはビクリと震えた

そして、最後にゆっくりと病室に入った

その間に桜は、持ってきた花束を花瓶に活けた

そして、キキョウは桜の隣の椅子に座った

それから少しすると

 

「キキョウ様、シア様に怒られてませんか?」

 

と明久が問い掛けた

その言葉の意味が分からないのか、桜は首を傾げた

すると、キキョウが

 

「うん、怒られてる……凄い怒られてる……」

 

と辛そうに答えた

 

「えっと、どういうこと?」

 

桜が問い掛けると、明久が

 

「シア様とキキョウ様は、二人で一つの体を使っている。そして、片方が表に出ていてももう片方は意識があるんだ」

 

と説明を始めた

そして、キキョウを見ながら

 

「今のキキョウ様は、さながら耳元でメガホンを使って怒られているのと同じなんだ」

 

と言った

それを聞いて、桜もようやく察したらしい

うわあ、という表情でキキョウを見た

桜も、シアの説教の力強さをよく知っている

特に、声量はかなりのものになる

それだと言うのに、耳元でメガホンを使って怒られているという状態を想像して、驚いたらしい

そんな桜に気付かず、キキョウは

 

「謝る、謝るから……だから落ち着いて、シア……お願いだから」

 

と必死な様子で呟いていた

そして少しして落ち着いたらしく、顔を上げて

 

「明久……ごめんなさい」

 

と頭を下げた

すると、明久は

 

「大丈夫ですよ、キキョウ様……あれが、俺の仕事ですから」

 

と返答した

その直後

 

「だからって、明久君は傷付き過ぎ!」

 

とシアが出てきて、怒った

 

「あの時、左脇腹が抉れてて、出血だって危険域だったんだよ!? 私が出てなかったら、死んでたかもしれないのに……」

 

そう言ったシアの目には、涙が溢れた

その怪我の規模は知らなかったのか、桜は驚いていた

すると明久は

 

「しかし、俺が盾にならなければ、稟が死んでいました……それだけは、させたらいけない……俺の任務もですが、シア様やネリネ様が泣く……それに何より、稟と楓ちゃんの約束が守れなくなる」

 

と言った

 

「それに、簡単には死なないさ……あの個性的過ぎる近衛部隊を、誰が纏められようか……」

 

明久のその言葉に、シアは一瞬顔をしかめた

合同近衛部隊

今では最精鋭と知られているが、編成された当初は個性が強すぎて通常の部隊運営が難しいとされた人員やハーフばかりが集められたのだ

それは、人族を見下す古い世代の魔族や神族の仕業だった

しかし、明久は僅か一ヶ月程でそれらを纏めあげた

それだけでなく、最精鋭部隊と呼ばれる程にした

これをユーストマとフォーベシィは高く評価していた

 

「それに……まだ、大事なことを思い出していない」

 

明久のその言葉に、桜は

 

「アキ君……」

 

と呟いた

明久が言ったのは、桜との約束のことだった

今回の負傷で、明久はまた記憶を少し取り戻していた

それ故か、明久の言葉使いが少し柔らかくなっていた

すると、キキョウが

 

「明久のおかげで、アタシは名前を貰えた……それに、ようやく自分の体を得られる……」

 

と言った

それを聞いて、明久と桜がキキョウに視線を向けると

 

「だから明久……アタシを、明久の傍に居させて」

 

と言った

よく見れば、キキョウの顔は僅かに赤くなっている

意図に気付いたのか、明久が

 

「俺……ですか」

 

「うん……明久のおかげで、アタシは居場所を手に入れた……だから、明久の傍に居たいの」

 

明久の問い掛けに、キキョウは真剣な表情でそう言った

どうやら、本気らしい

 

「今はまだ、返事はいい……待ってるから」

 

キキョウはそう言うと、病室から去った

それを見送り、桜が

 

「アキ君……どんどん出世するね」

 

と呟いた

それを聞いて明久は

 

「あまり出世するのは、面倒なんだがな」

 

と言った

余談だが、部屋でしばらくキキョウがジタバタしているのが目撃されたという


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