僕とSHUFFLEと召喚獣   作:京勇樹

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桜の決意

帰還した明久とデイジーの二人は、衰弱から軽く入院することが決まった

そして明久は、ベッドからボーっと空を見上げながら

 

「本当、どうしようかな……」

 

と呟いた

どういう理由かは分からないが、明久は記憶が全て戻った

それにより、忘れていた桜との約束も思い出した

しかし

 

「もう、約束が果たせない状況じゃないか……」

 

桜との約束

それは、《いつか、二人でお店を開こう》だった

明久は家庭の事情で、昔から料理が得意だった

そして桜は、人形作りが好きだった

だから二人で、人形も売る喫茶店でも開こう

と約束していたのだ

それは、子供の他愛ない約束かもしれない

しかしそれは、大事な約束だ

だが今の状況は、それを不可能にしている

今の明久は、近衛の総隊長だ

そして今の近衛の隊員達は、全員して

 

『明久以外の隊長を認めないし、従わない』

 

と断言している

もし隊長を辞めたら、どうなるかは一目瞭然だ

明久はどうすればいいのか分からず、頭を抱えて唸り始めた

その時だった

ドアがノックされて

 

『アキ君、入っていい?』

 

と思っている少女

桜の声が聞こえた

桜の声を聞いて、明久は一瞬体をビクッと震わせてから

 

「どうぞ」

 

と入室を促した

すると、ドアが開いて

 

「アキ君。調子はどう?」

 

と桜は入るなり、そう問い掛けた

その問い掛けに対して、明久は

 

「衰弱してるとは言っても、問題ない範囲だよ」

 

と返答した

それを聞いた桜は、安心した様子で

 

「良かった」

 

と言って、ベッド近くの椅子に座った

その後、二人して暫く黙ってしまった

明久は気まずさから

そして桜は、何やら思案している様子だった

どれほど経ったか

明久が

 

「あのね、桜ちゃん……約束、思い出したよ」

 

と言った

それを聞いた桜が顔を上げると、明久が

 

「でも、ごめん……今の僕じゃあ、約束を守れそうにないんだ……」

 

と言って、頭を下げた

すると、桜が

 

「うん、分かってるよ、アキ君」

 

と言って、明久の頭を抱き締めた

そして、優しい声音で

 

「アキ君は、文字どおり頑張ってきたからね……楓ちゃんや稟君の時から、ずっと……」

 

と言った

その言葉に明久が黙っていると、桜が涙声で

 

「アキ君が居なくなった時……私……後悔したの……なんで、楓ちゃんにもっと早く本当のことを言わなかったのかって……知ってたのに……」

 

と言った

それを聞いて、明久は何も言えなかった

確かに、桜は稟と興平、智代から話を聞いていた

それで、明久を止めようとしたこともあった

だがそれを、明久が止めたのだ

 

《必要悪だから》

 

小学生が自身を必要悪として、一人の少女の生きる理由になる

どれほど、悩んだだろうか

どれほどの覚悟だっただろうか

だが、それは

 

「アキ君……アキ君が傷付いたら、私達だって辛いの」

 

自己犠牲に他ならない

そして、人によってはただの偽善とバカにするだろう

しかし、時には必要になることもある諸刃の剣なのだ

 

「だからね、アキ君……私に……私達に支えさせて」

 

「私……達?」

 

桜の言葉の意味に明久が気付く前に、桜は立ち上がって

 

「それじゃあ、今日は帰るね」

 

と言って、桜は病室から去った

明久はそれを見送り

 

「まさか……ねぇ」

 

と呟くことしか出来なかった


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