僕とSHUFFLEと召喚獣   作:京勇樹

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お待たせしました
シリアスです


慟哭

明久がフィールドから出た時

 

「あなたは……あなたは、この学校に居てはいけないんですよ、吉井君!」

 

姫路が突如として、そう大声を出した

 

「あなたが居たら、楓ちゃんが笑わなくなるんですよ!」

 

姫路がそう喚くと、明久は視線を姫路に向けて

 

「どういう意味かな?」

 

「あなたは、楓ちゃんと稟くんの親を殺……」

 

明久からの問い掛けに、姫路が答えようとした時

 

「「お前は……黙ってろ!!」」

 

稟と興平の二人が、姫路を殴り飛ばした

 

「あぐっ……!」

 

二人に殴られた姫路は、勢いよく倒れた

 

「お前ら、何をしている!」

 

「西村は黙ってろ!!」

 

「これは俺達の問題なんだよ!」

 

二人が殴り飛ばしたのを見て、西村が二人を捕まえようとしたが、二人は西村を突き飛ばした

 

「お前に……お前に、明久を非難する資格なんざねぇんだよ!」

 

「俺達から……俺達から、あの優しかった明久を奪ったお前にはな!!」

 

稟と興平の二人は涙混じりに、そう告げた

 

「つっちー、どういうことだ?」

 

稟の言葉が気になった紅女史が、稟に問い掛けた

 

その問い掛けに、稟が答えようとした時

 

「それには、俺様達が答えますよ。紅女史」

 

そう言いながら、樹が紅女史に近づいた

 

「緑葉……」

 

「麻弓、康太」

 

紅女史が樹を見ると、樹は頷きながら二人を呼んだ

 

呼ばれた二人は樹に近づくと、それぞれUSBメモリーを差し出した

 

「さすがに、二日間ではあまり分からなかったのですよ」

 

「……すまない」

 

二人は謝るが、樹は受け取りながら首を振り

 

「気にしない気にしない」

 

と言ってから、高橋女史に顔を向けて

 

「高橋女史、パソコン借りますね」

 

と言った

 

すると、高橋女史はパソコンを樹に差し出した

 

そして、視線を稟に向けて

 

「稟、俺様が説明するな」

 

真剣な表情でそう告げると、二つのUSBメモリーをパソコンに差し込んだ

 

「ことの始まりは、今から八年前だ」

 

樹はそう言いながら、パソコンを操作した

 

すると、モニターに新聞の切り抜きが表示された

 

その新聞に表示されている年号は、樹の言うとおりに八年前だった

 

その新聞には

 

『悲劇、旅行帰りに起きた悲惨な交通事故』

 

という、見出し

 

「交通事故? それがつっちー達と、どう関係するんだ?」

 

紅女史が問い掛けると、樹はパソコンを操作しながら

 

「この被害者の名前を見てください」

 

と言って、新聞の一部を拡大させた

 

そこには

 

土見 紫苑

 

土見 (けやき)

 

芙蓉 紅葉

 

という、三つの名前

 

「な!? 芙蓉とつっちーの家族か!?」

 

紅女史が驚いていると、倒れていた姫路が

 

「そうです……そして、土見くんと楓ちゃんの家族を奪う原因が吉井君なんですよ!」

 

と声を張り上げた

 

「どういうことだ、姫路?」

 

姫路の言葉を聞いて、紅女史は眉をひそめた

 

「旅行に行った楓のお母さんや土見くんのご両親に、嘘を言って、事故を起こさせたんですよ!」

 

姫路がそう叫ぶと、教室内はざわめいた

 

「おいおい……マジかよ……」

 

「だったら、あいつは確かに人殺しじゃねぇか!」

 

「失せろ! この人殺しが!!」

 

姫路の話を聞いて、Fクラスの男子達が喚き出した

 

だが

 

「てめぇらは黙ってろ!!」

 

「なにも知らないくせに、喚くんじゃねえ!」

 

騒ぎ出したFクラス男子達に、稟と興平は睨みながら叫んだ

 

「事実じゃないですか! だから、楓ちゃんは吉井君をあんなに傷つけたんじゃないですか!」

 

姫路がそう叫ぶと、稟が反論しようとした

 

だが

 

その姫路を、桜が叩いた

 

「あなたに……あなたに、何が分かるんですか……」

 

桜は涙をこらえながら、語り出した

 

「あなたも、明久君の幼なじみなのに……なんで……なんで、明久君を信じてあげなかったんですか!」

 

桜は泣きながら叫んだ

 

「どういうことですか?」

 

姫路が問い掛けるが、誰も答えなかった

 

すると、樹が

 

「そして、次に起きたのが……これ」

 

そう言いながら、パソコンを再び操作した

 

そして、モニターに表示されたのは

 

『小学六年生の男の子、行方不明』

 

という見出し

 

それはまさしく、五年前の記事だった

 

「待って……この日って……」

 

「私達が明久君を保護した日付……」

 

シアとネリネは、新聞に記載されてる日付を見て呆然としていた

 

「この事件に関して、俺様達は稟達が通ってた小学校の関係者に色々と聞き込みをしたんだ」

 

「そしたら、とても興味深いことがわかったのですよ」

 

「……それは、吉井が三年間に渡って、学校中の全学年の全学生から虐められていたという事実」

 

麻弓と康太の話を聞いて、紅女史は目を見開いた

 

「吉井が……虐められていただと?」

 

紅女史が呟くように言うと、樹は頷き

 

「そう……そして、その先頭に立っていたのが……楓ちゃん」

 

そう言いながら、視線を楓に向けた

 

名前を呼ばれた楓は、辛そうにしながら俯いた

 

「そして、最も傷つけていたのが……そこに居る姫路さんなのですよ」

 

麻弓はそう言いながら、姫路を指差した

 

「……だが、そんな吉井を守っていたのは、土見と皇興平」

 

「結局……守れなかったがな」

 

「俺達が弱かったから……」

 

康太の話を聞いて、稟と興平は悔しそうに拳を握った

 

二人の言葉を聞いて、樹は数瞬程俯くと

 

「そして、その事件の重要参考人が一人上がったが……結局、逮捕はされなかった」

 

「理由は、証拠が少なかったのと……対象が幼かったから」

 

樹に続けて、麻弓はそう告げた

 

「……そうだろ? 姫路」

 

康太がそう言うと、姫路は頷き

 

「ええ、そうです……楓ちゃんの笑顔のために……私が吉井君を突き落としたんですよ!」

 

と、声高に叫んだ

 

すると、シアとネリネが一歩前に出て

 

「……突き落とした? その程度では、済まないはずです!」

 

「あたし達が明久くんを保護した時は、明久くんは左目が潰れてて、後頭部からは出血してた!」

 

ネリネとシアがそう言うと、明久が突如として額に手を当てて呻いた

 

この時、明久の脳裏には、五年前のその時のことがフラッシュバックした

 

「ああ……思い出した……そうだった……」

 

明久がそう呟くと、稟達の視線が明久に集中した

 

「明久? まさか、お前……」

 

稟が問い掛けると、明久は頷き

 

「ほんの少しだけど、思い出したよ……俺はあの日に姫路さんに呼び出されて、あの山に行ったんだ……」

 

そう言いながら、ゆっくりと視線を姫路に向けた

 

「そして待ってたら……いきなり後頭部を殴られて、振り向いたら、左目に激痛が走ったんだ……そして、左目を抑えながら見たら、姫路さんが……両手で石を持ってた……」

 

それは、初めて明らかにされた、事件の詳細

 

「そして、俺が痛みに止まっていたら、姫路さんは石を捨てて……俺を、崖に突き落とした」

 

明久がそう言うと、一堂の視線が姫路に集中した

 

すると姫路は、握り締めていた拳を開いて

 

「そうですよ……私が吉井君を突き落としたんですよ! それの何が悪いんですか! 吉井君は人殺しなんですよ!? その人殺しを突き落とすのが、そんなに悪いんですか!?」

 

姫路が声高に叫ぶと、稟達が拳を握って

 

「てめぇは……!」

 

「自分が犯罪を犯してるってのに、罪悪感すらないのかよ!」

 

稟と興平が詰問するが、姫路は悪びれる様子もなく

 

「私は楓ちゃんの笑顔を守っただけです!」

 

と宣言した

 

姫路のその言葉に、稟が何かを言おうとしたら

 

「はい、そこまで。姫路さん、君は一つ大きな勘違いしている」

 

樹が稟を制止して、姫路を指差した

 

「勘違い?」

 

姫路が首を傾げると、樹はパソコンを操作しながら

 

「そう……八年前の事故の犠牲者はね、三人だけではなかったんだ」

 

樹がそう言うと、モニターに表示されたのは

 

吉井 蓮華(れんげ)

 

吉井 紅蓮(ぐれん)

 

吉井 玲

 

の三つの名前

 

「吉井だと!?」

 

「明久くんの御家族……」

 

「この時にですか……」

 

新たに表示された名前を見て、紅女史、ネリネ、シアの三人は目を見開いた

 

「吉井君の家族も……同じ事故で?」

 

姫路は知らなかったのか、目を見開いていた

 

「そうだよ……お前は知ろうとしなかったけどな、明久の家族も死んでるんだよ……」

 

「楓が紅葉さんが亡くなったから、無気力になっていた……」

 

稟がその先を言おうとしたら

 

「……私が生きるために……明久くんが、嘘をついたんです……」

 

楓は絞り出すように、涙声で喋りだした

 

「私は昔、お母さんっ子だったので、お母さんが死んじゃっだことで絶望しちゃって……生きる希望が無くなってた……」

 

「そんな楓を生かすために……俺が憎まれ役を演じようとしたんだ……」

 

「だけど、明久くんが稟くんと幹夫さんの話を聞いてて……先に行動を起こしたの……」

 

「明久はな……稟と楓の約束……〈ずっと一緒に居る〉って約束を守らせるために、憎しみを自身に向けさせた……」

 

「明久は常々、『稟と楓ちゃんが笑顔で居られるなら、僕は傷ついても構いません』って言ってました……」

 

楓から始まり、桜、稟、興平、智代が次々と語り出した

 

「俺は泣きたかったよ……明久は傷ついても笑顔で居たけど、何回も病院にも行った」

 

「中には、痕が一生残る傷もあった……」

 

「俺達が守っても、これが限界だった……」

 

「私達には、見守ることしか出来なかった……」

 

「だからせめて、明久君と一緒にずっと居ようって思ってた……」

 

「それを……お前が……」

 

興平はそう言いながら、姫路を睨んだ

 

そして、姫路が呆然としていると

 

「はい、そこまで」

 

「彼女の処遇は、俺達が決めよう」

 

ドアが開いて、魔王と神王が入ってきた

 

こうして、一つの事件に終止符が打たれる


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