「く……っ! だがここでへこたれるわけにはいかない……我々人類の未来のためにも……マリオのためにも!」
ジョージが吼える。波紋の呼吸を振り絞る。生み出された波紋は彼の全身を覆い、
これを見て驚いたのはワムウだ。
「なんと……! これほどの波紋を練り上げることができる人間がこの時代に!」
ジョージがまとった波紋の輝きは、ワムウですら初めて見るほどの量だったのだ。あまりにも膨大な波紋が体内に収まりきらず、可視化されたエネルギーとして吹き上がる様子は尋常ではない。
しかしワムウが驚いたのは、わずかな間だけだった。
「……二千年前の波紋戦士たちは、いずれも同じようなセリフを吐いて我々に挑んだものだ……。『腕の一本や二本や眼が見えぬぐらいでへこたれるか』『よくも友の命を奪ってくれたな』と……だが!」
彼はすぐさまニヤリと笑うと、喜びを隠すことなく声を上げる。
「貴様はその手のセリフを吐くだけのことはある、正真正銘の猛者のようだ! ならばこのワムウ、全身全霊で応えねば勇者への礼を失するというもの!」
ワムウが身構える。もはやこの先、どのような技であろうと、細工であろうと、一切を見逃すまいとする態度で。
「改めて名乗ろう! 我が名はワムウ! 貴様の名をお聞かせ願おう!」
「……ジョージ! ジョージ・ジョースターッ! だッッ!!」
ワムウに応じながら、ジョージが地面を蹴る。
その速度は、先ほどよりも明らかに上がっていた。膨大な量の波紋によって、身体能力が増幅しているのだ。アルフィーが見たら、界王拳とか言うに違いない。
「はあッ!」
「ぬぅん!」
二人の拳が交錯する。ただのパンチが並みの
ワムウの拳もまた普通ではなく、風を纏ったものだった。身体の管から放たれた風をまとった、重く鋭い拳。砲弾のごとく放たれたそれは、人間に向けるには過剰なもの。
それらが、お互いに叩き込まれた。生物がぶつかるにはあまりにも派手で激しい音を響かせて、両者はかみ合わない磁石のように弾けて離れる。
「ぐううぅぅっ!」
「ちいいぃぃっ!」
当然、その瞬間は凄まじい衝撃が生まれる。ジョージの身体は血を噴き出しながら吹き飛び、地面に転がった。
一方、波紋を腹に受けたワムウは吹き飛びこそしなかったものの、たたらを踏んで数歩分後退させられる。
そのさなか、ワムウは驚いていた。攻撃を受けたことにではない。
つまりワムウは、ただ直接攻撃を当てただけでも反撃を受けることになる。それを恐れる彼ではないが、けれどもかつてない逆境であることは間違いなかった。
「ぐぬ……っ、く、喰らえ……! 波紋リーフカッター!」
そして、ジョージが挫けることもなかった。彼は地面を転がりながら、周囲の落ち葉を拾って波紋を通していた。
既に木から離れているため青葉に比べれば波紋の通りはよくないが、そこは量でカバーだ。そうして刃物と化した数枚の落ち葉を、勢いよく投擲した。転がっていた勢いを利用して起き上がりながらだ。
対するワムウは、これを身体の管から風を放つことで蹴散らす。
それと同時に、風を片腕に纏わせ先ほどと同様に身体の後ろへ引き絞った。
「風神閃!」
再び放たれた横一文字の真空波。これを見て、ジョージは一瞬だけ四つ足の獣となった。跳躍することなく前へ出るために、身をかがめてその状態で駆け出したのだ。
かくして風をかいくぐった彼は、その瞬間にかすかな違和感を覚えながらもワムウに攻撃をしかける。
手にはかがんで四つ足となった一瞬のうちに拾った枝。これもまた波紋によって強化されており、さながらレイピアのようにしなってワムウの喉を狙う。
「ふっ! はあ!」
だがワムウは、上半身だけを横にスライドさせることでこれを回避した。
さらに、スライドした上半身を元の位置に戻す勢いを利用して、ジョージの頬に強烈な肘打ちを見舞う。
「ぶぐっ!?」
「むう……!」
ジョージは見事に一撃を受けまた吹っ飛んだが、ワムウの表情は優れない。
やはり、攻撃をただ当てただけで波紋が返ってくる。ダメージと言うには細やかだが、それでもあまり何度も受けていては確実に不利になるほどの量。ましてやジョージに諦める気配はなく、完全に意識を落とすか、命そのものを奪うまでとまることはないだろう。そこまで行くまでに少しでも手間取れば、あるいは……。
とはいえ、ワムウにはただ殴る蹴る以外にも取れる選択肢はいくつもある。
「はッ!」
吹っ飛んだジョージに向けて、再びの真空波。と同時に地面を蹴り、真空波に追随する。
そうしながらも、真空波を連続して放っていくワムウ。弾幕のように重なったそれらは、ジョージがどう動いても数発は当たるだろう絶妙な位置に散らばっている。
おまけに、トリとしてワムウ本人が控えている。ジョージにしてみれば、風の弾幕を仮に回避できたとしてもすぐにワムウに追撃される形だ。
「こ……こ、だあァァーーッ!」
そんな中でジョージが取った選択は、なんと突撃であった。回避するような足さばきを見せながらも、臆することなく真空波の弾幕へ突っ込んだのである。
これにはワムウも驚く……ことはなく、感心したように笑っていた。
ワムウには、ジョージの意図がわかっていた。すなわち、この弾幕には穴がある、ということに。
「せりゃあァァッ!!」
ジョージは手にした枝を、やはりレイピアのように扱う。その過程で数発の真空波を受けたが……しかし彼の身体が切り裂かれることはほとんどなく、ほとんどは突風程度に揺さぶられただけ。
彼はそのまま、あまり勢いを落とすことなく枝の先をワムウに合わせてきた。
「やるな! この短時間で我が風神閃の仕組みを理解したか!」
応じながら、ワムウは裏拳でレイピアをいなす。やはり波紋がじわりと侵入してきたが、それは無視。いなした勢いのままジョージに膝を合わせ、攻撃を逸らされ泳いでいる彼の腹に一撃を加えた。
しかしジョージもさるもの。向かってきた膝に肘をぶち当て、最低限のダメージでしのぎ切った。この肘はもちろん、
そうして二人は交錯した。当初とは立ち位置を入れ替えた両者は、改めて向かい合う。
だが、どちらが優勢であるかは火を見るより明らかだ。負傷はあれどワムウはいまだ余裕を見せているが、ジョージは既に満身創痍。傍目にはわからないが、内臓や骨にもダメージが入っており、身体からは血が滴る様はどうみても重傷患者だ。
「貴様の風神閃とやら……一秒にも満たないわずかな時間だが、それでも『溜める』時間が必要なのだろう? その量に応じて、威力やスピードが変わる……そういうことだな!」
けれども、ジョージの心は折れていなかった。重傷ながらも、むしろ戦意はよりみなぎっている。全身を覆う波紋の輝きも、当初こそ減りはしたが健在だ。
その彼の指摘に、ワムウは満足げに頷いた。
そう、先ほどの真空波の弾幕を受けて、ジョージがバラバラにならなかったのはそのためだ。
彼は二度目の攻撃が、一度目のそれより威力が弱いことを回避しながら感じ取っていたのだ。それが彼の覚えた違和感だった。そうして弾幕を見た瞬間、その違和感の正体を察したのである。察して、威力の弱いものだけを選んで当たりながら前に出たのだ。
「だが……それを理解したとて、コンマ何秒の世界の差を認識することは人間には困難。あの一瞬で、よくぞそこまでこなしたものだ。見事だ!」
しかし、ワムウが言う通り。察したところで、普通の人間がどうこうできることではない。
ゆえにこそ、ワムウはジョージのなしたことを素直に称賛するのだ。これをあの一瞬で、咄嗟にやってのけた人間は、かつてローマの時代にもいなかったのだから。
とはいえ、それがわかったところで戦況が有利になるわけではない。それをどう今後に生かすかが大事だが……ワムウが待つはずもない。
「ならば、次はこうしてみるとしよう!」
「……ッ!?」
後ろに跳んだワムウが拾い上げたものを見て、ジョージは息を呑んだ。
「どうやら貴様を殴ると波紋が返ってくるようなのでな。俺も工夫せねばならん……ふふふ、戦いの最中に試行錯誤を強いられるなど、何千年ぶりだ? 俺は嬉しいぞ!」
ワムウが手にし、槍や棍のような形で構えたもの。
それはやや細身ながらも、間違いなく、切り倒されたばかりの木であった。
「ぬぅぅん!!」
ワムウはそれを。
思いっきり、勢いよく振り抜いた。
瞬間、突風が吹き荒れる。ただ振り抜いただけではなく、風の
ジョージは身をかがめて影響を最小限にしようと努めたが、いかんともしがたかった。一秒ほど耐えはしたが、結局こらえきれずに地面を転がされてしまう。
「くううぅぅ……っ! くっ……!」
そんな中でも、少しでも早く復帰するべく身体を動かすジョージ。やがて吹き飛ぶ勢いを利用して身を起こして、着地した。
が……彼が見ることができたのは、雑木林の惨状だけであった。
「な……!?」
目の前から、ワムウの姿が消えていた。烈風を巻き起こすと同時に、早くも次の行動に移っていたのだ。
横からワムウが迫ってくる。ジョージは構えを万全にしつつ、これを迎え撃つべく前に出……ようとして。
横に長い影が差してきたのを察して、慌てて身を引いた。
「ぬうぅぅ……っ!」
空から、木が降ってきたのだ。それは先ほど、ワムウが振るった木だ。しかけると同時に、上からの攻撃に利用したのだ。
ワムウがその木を再び手に取ることはなかったが、落ちたそれを蹴り飛ばしてジョージへの攻撃には使った。横に長い、しかも地面を這うように、されど猛スピードで転がってきた木を、ジョージは跳ぶ以外に回避できなかった。
そしてその状態は、もはやワムウにとってただの的でしかない。
「風神閃!」
後ろに引き絞られた腕が、一気に前へ出て交差する。
すると先ほどの弾幕のどれよりも苛烈な真空波が巻き起こり、ジョージを襲う。
「うおおおおぉぉぉぉーーっ!!」
それでも、黙って攻撃を受けるという選択肢はありえない。
ジョージは懐から、植物油に浸されたロープを取り出していた。焦ることなく、しかし大急ぎで展開されたそれに波紋を通し、振るう。
鞭と化したロープが空気を切って、宙を踊った。そうして、ロープは直前にワムウが蹴り飛ばした木のわずかな出っ張りに巻き付く。
と同時に腕の力を込め、木を手繰り寄せる……が、いまだに転がり続けている木を引き寄せることはかなわず、ジョージの身体は逆に木のほうへ引き寄せられていく。
そうしてかろうじて、彼はワムウの攻撃から逃げきったのだ。ワムウの攻撃の勢いが、彼を危険地帯から離脱させたのだ。
「そうするしかなかろうな!」
しかし、ワムウの攻撃はまだ終わっていない。彼はそれすらも読んでいた。
後ろ半身に集中して表出させた管から、猛烈な勢いで風を噴射したワムウ。そのまま地面を蹴れば、彼はジェット機さながらの加速を実現。あっという間もなく、ジョージの隣までたどり着いてしまう。
「な!?」
並ばれたジョージの明晰な頭脳と観察眼は、ここまでワムウが行った一連の行動をほぼ正確に察していた。
察してはいたが……ここからワムウの攻撃をかわすことは、もはや不可能だった。
普通に押されてるように見えるし実際その通りだけど、ワムウと真正面から殴り合えてる時点で人類を相当超越してる件。
もちろん素の力じゃなくて、種も仕掛けもあるんですけどもね。