――知らぬ間に成長したではないか。
アルフィーが向けてきた目を見て、カーズは一瞬、素直にそう思った。
人を殺すたびに憔悴し、何かあるたびに自分やエシディシに怯えていた小娘とは思えない目だったのだ。
今も間違いなく怯え、軽い一押しでもあれば屈してしまいそうな有様ではあるが。
しかしそこにあったのは間違いなく、
だが、だからこそ。
それを見抜いたからこそ、カーズは理解する。そこにいるのは柱の女アルフィーではなく、人類種の守護者アルフィーであると。
ゆえにこそ、
「ならば、
だから、そう告げるまでの時間の
かくして、
***
カーズ様の腕から生えた刃が、一直線にわたしの首を狙って来る。一般人ならまず間違いなく対処できないスピード。それでもわたしなら一応回避できるくらいには、まだ手が抜かれている攻撃だ。
けれど、これを回避するわけにはいかない。
なぜって、カーズ様のことだ。わたしがこれを避けたら、その勢いのままわたしの後ろにいる子たちから手にかけていくはずだもの。
カーズ様にしてみれば、彼らとわたしはその程度のものだ
だからまずわたしがすべきことは、彼らを一人残らず避難させることだ。それができるまでは、カーズ様との戦いに専念することはできない。
……まあ、それがもう初っ端から難易度が高いんだけどね。カーズ様の攻撃をなんとかしつつ、戦闘力のないメンツを避難させろって、相当だよこれは。
だけど……不思議なことに、カーズ様が殺気に闘意を乗せた瞬間、わたしの身体から震えは消えていた。
ただ殺すというだけじゃあなくて、
あるいは単純に、わたしが本番に強い……いや、これはないかな。うん。きっと開き直ったんだと思う。もうどうにでもなーれの心境なんだろう。
ともあれ、そういうわけでわたしは意外なことに、わりと平常心に近い状態でカーズ様を迎え撃つことができた。
それでわたしが選んだ対応は、
「
同じく腕から刃を出し、正面から受け止めることだった。
「ム!」
ただし、わたしのそれはカーズ様のと違って不出来だ。大きさも小さいし、素の筋力にも差がある。
だからこそ、わたしは最初から刃の機構を稼働させて出した。すなわち、刃部分……サメの歯のような微小で鋭い爪で構成された刃部分を高速で動かし、光を放つほどに走らせて、だ。
ゆえに、見様見真似の
カーズ様の戦闘力の源泉は、やっぱりこの刃。これを少しでも折ることができたら、戦いはわたし有利に傾く! ……はずだ。
「ふん」
「っぐぇ!?」
だけどカーズ様は引っ掛からず、刃での攻撃を寸前でとめると同時に蹴りを放ってきた。
カーズ様の刃を受け止めることに気を配っていたわたしはそれをかわせず、モロに鳩尾に喰らってしまう。まったく遠慮のない一撃に、吐き気がこみ上げてくる。
直前までの行動を普通にキャンセルしてさらっと違うことしてくるとか、相変わらずの動体視力と身体能力だよ……!
でもこれでいい。護衛対象がある中で、カーズ様と真っ向勝負をしようなんて思っていなかった。
だからわたしは、カーズ様の攻撃を受けて距離を取ることまで織り込んでいたのだ!
「【スターシップ】!」
吹き飛びながらもスタンドを出して、タイミングを見計らったわたしは後ろに向けて星の意匠が施された矢を放つ。
直後に弓だけを消し、さらには刃を出していないほうの腕を伸ばして床を
「えぇいっ!」
さらに、足を伸ばしてカーズ様の肘を蹴り上げる。わたしの身体能力じゃあ大ダメージを与えることはできないけど、彼の攻撃を逸らす程度の威力は出せる。
こうしてわずかに泳いだ彼の身体に向けて、
その【スターシップ】は連続で子供たちを貫いていき、スタンド空間に送り続けている。もちろん手動だ。
これに加えて六本の矢を同時に放つのはなかなかにしんどい。何せ、スタンド空間への転送を行ったあとも矢をさらに動かして連続収納を行う技は、最近になって身に着けたものだ。並列思考だけでもしんどいんだけど、慣れてない分余計に難しいし疲れるんだよね。
それでも身に着けた甲斐は、使うだけのことは、間違いなくあった。これにて無事、第一段階はクリア。ここからは戦闘に専念できる。
「【コンフィデンス】!」
そして、【コンフィデンス】を放ったのは至近距離だ。これだけ近ければ、わたしの矢による攻撃は軌道を操作する必要はない! 威力も十分!
「……むう!」
全力で放ったわたしの矢は、カーズ様の胸に殺到する。ワンチャンと思って股間を狙ったんだけど、これは外されたみたいだ。さすがに柱の一族でも金的は警戒するらしい。
……カーズ様はスタンドが見えないはずなんだけどな。……見えてないんですよね?
「少しはやるようになったではないか」
おまけに、矢は三本は直撃したはずだったんだけどな。それでもカーズ様は倒れたり床を転がったりすることはなく、数メートルほど後ろに後退しただけだった。
うーん、理不尽の権化。相変わらず生き物として無茶苦茶だよなぁ……。
「…………」
ここからどう攻めようか……と考えながら、腰を落として身構える。その状態で、如意転変の
わたしの
普段は変装に使うことがもっぱらのこれは、けれどそれだけの技じゃあない。これがあるからこそ、わたしはカーズ様の
「ほう……それはワムウの」
「
わたしが再現したのは、体内から外へ伸びる管。そう、ワムウが
そしてわたしも、
もちろんその威力や速度はワムウには遠く及ばない。さらに言うなら、カーズ様はこの技のことをよく見知っているから、ここから飛び込んできたカーズ様にサマソする戦法が通じるはずもない。
だけどそれは承知の上。この管を用意した最大の目的は、
「ふん! 片腹痛いわ!」
案の定、カーズ様は正面から突っ込んできた。わたしにできる最大威力で攻撃したはずなんだけど、カーズ様の身体には一筋赤いラインが走っただけで蹴散らされてしまった。
その傷も、わたしに肉薄したときには既に癒えている。わたしが言うのもなんだけど、この体質は敵に回すとあまりにも厄介だ!
「死ねい!」
「嫌ですっ!」
逆袈裟に振るわれた刃を、わたしは横に跳んで回避する。
だけどカーズ様の攻撃は初撃よりも断然鋭く、後先考えない勢いで動かないと回避できないものだった。おかげでわたしの身体はバランスを崩し、スキを思いっきりさらしてしまう。
カーズ様がそれを見逃すはずもなく、無駄のない動きで体勢を入れ替えながら斬撃のような蹴りが飛んできた。
わたしはこれを、管から空気を放つことで、瞬間的に空中を横に
そう、これこそ回避のための風の
これは、この一点だけは、見様見真似なわたしが唯一ワムウに勝る点。この技を使うことで、わたしは巨人退治もかくやな立体機動を空中で実行できる!
空気抵抗の少ない身体からは目を背ける! 知らないそんなの!
ともかくそうして空中で体勢をばっちり整えたわたしは、再び矢をつがえ……ようとしたところで、空振ったはずのカーズ様の足からギャアアアンと刃が出現し、距離を詰めてきた。
「……ッ!」
回避したはずの攻撃が、わたしの腕を切り裂いた。現れた刃によって、蹴りは文字通りの斬撃になったのだ。
血が滴る。だけど切れ味が鋭すぎるからか、痛みはそこまで感じない。さっきの鳩尾アタックのほうがよっぽど痛かったほどだ。これなら我慢できるぞ。
ダメージを受けたことには変わりなくて、出していた管は消えてしまったし、出せた矢は三本だったけど。これだって至近距離だ、有効打にはなるはず! 管はすぐに出せば……。
「
「い……っ!?」
だけどカーズ様は、足から伸ばした刃を今度は収納する動きを利用して、わたしの腕を挟み込んで拘束してきた!
刃はまるでトラバサミのようにガッチリわたしの腕を挟んでいて、絶対に離さないという強い意思すら感じる。
こ、この状態、
「ふん!」
「いぎッ!?」
拘束されていたせいで、矢はあさってのほうへ飛んでしまう。直後に、わたしの腕は切断というよりも無理やり引きちぎられ、おまけに凄まじい威力の裏拳によってわたしは派手に吹き飛ばされた。
大量の血飛沫が周りに飛び散る。そんな中、床を転がるわたしと、空中でくるくると回るわたしの腕。
「う……く、くう!」
痛みにうめきながらもわたしはその腕に、無駄に終わりかけた矢を向かわせる。三本の矢は重力に囚われたばかりの腕を突き刺し、勢いそのままにわたしの下まで誘導してくれた。
「むん!」
「あ゛――っぶなぁ!?」
転がる中、矢に運ばれてきた腕をキャッチ。それと同時に向かって来たカーズ様の、床を砕きながらの激しい蹴りを今まさに生やし直した管の空中機動で回避する。
しながら腕の患部をくっつけて、身体能力のゴリ押しで癒合させた。
そうしてバラバラになった床板が降り注ぐ中、傷口を押さえながら乱れた息を整える。そのままカーズ様なら一歩で詰められる程度の距離を置いて、わたしたちは睨み合った。
ガンガンに痛覚が身の危険を訴えてきてるんだけどね! かといって、ここから逃げるわけにはいかない。
……正確に言えば、【スターシップ】の操縦があれば逃げることはたぶんできる。カーズ様にとって、【スターシップ】はまだただの収納能力って認識だろうし。ダイナマイトも念のため持ち込んでるから、ここに生き埋めにしちゃえば逃げるだけならできるはず。
だけどわたしの離反とルベルクラクという大規模な敵対組織を知られてしまった以上、カーズ様には取れる手段なんていくらでもある。何せ勝てばよかろうなのだの人だし。
ならばもういっそ、ここでカーズ様は倒すしかない。
まああれだよ、「別に倒してしまっても構わんのだろう?」ってやつだよ。フラグってのは言いっこなしだ。それくらいの気概がないと、カーズ様を倒すどころか伯爵が
「器用な真似をする。相変わらず逃げることだけは上手いな」
「あ、りがとう、ございます……」
カーズ様の言葉に思わずふへっと笑みが漏れる。こんな状況で出た誉め言葉なんて、百パー嫌味だろうにね。
でも昔から戦闘ではいいとこなしだったわたしは、この件で褒めてもらうことってほとんどなかったからなぁ……。嫌味でも、ちょっと嬉しい。
「だがそれだけだ」
「くぅ……!」
カーズ様が距離を一気に詰めてきた。同時に、腕の刃が閃く。
彼の刃は、ただの剣じゃあない。身体の一部が刃状になったものだ。だからこそ、ただの剣では到底できない複雑な剣閃を奔らせることができる。瞬きをするほどの短時間に、何重にも連なった斬撃がわたしを襲う。
少しでも気を抜いたら、バラバラにされるだろう攻撃。だけどそんな中でも、わたしは少し懐かしい気分を覚えていた。だって、昔……まだ一族が無事だった頃、こうやってカーズ様から稽古を受けていたもの。
あの頃に比べればカーズ様の動きは洗練されて、鋭くなっているけど……基本は同じだ。見たことのある攻撃だ。
だからこそ、わたしはなんとか致命傷を避け続けることができた。身体にはいくつも小さな裂傷が生まれていくけれど、その程度のキズはすぐに癒えていく。
そして、わたしだって。
わたしだって、あの頃よりは成長しているんだ!
「たあーっ!」
「……!」
猛烈な攻撃のわずかな隙間を縫って、わたしはスタンドで攻撃を加える。矢を使ってじゃあない。弓の鳥打部分でもって、殴りつけたのだ。
わたしのイメージがそうさせるのか、この攻撃は打撃ではなく斬撃になる。もちろんこれだって致命傷にはならないし、なんだったら多少でも戦闘に支障をきたすほどのキズすら与えられない。それだってあっという間に治っていく有様だ。
だけどそれでいい。わたしが狙ったのは、カーズ様じゃあなくてカーズ様の腕から伸びる刃だから!
ガギン、と鈍い金属音が響く。カーズ様の刃が折れた音だ。くるくると回転しながら、刃が離れた床に突き刺さる。
「ぐ、うぅ……!」
けれど、そこに達成感なんてほとんどなかった。
なぜなら、わたしの身体の前面に、斜めに交差する大きな刀傷が大量に刻まれていたから。
「お前のやることなどお見通しだ」
カーズ様の肋骨が飛び出して、わたしを斬りつけていた。
これは、
「あぐ、く……っ!」
前面に大量の血が溢れる。
寸前で攻撃の起こりに気がついて、後ろに飛んだから即死には至らなかったけど……!
「ふん!」
もちろんそれでカーズ様がとまるはずなんてなく。情け容赦のない追撃がわたしを襲った。
後ろに飛んだ状態だったから、この勢いのままさらに後ろに飛ぼうと思っていたけれど。来た追撃は、足から刃を出しながら伸ばして鞭のようにしならせるもので……要するに、追撃はわたしの背中に直撃した。
「が……は……っ」
刃が、わたしの背中から胸にかけて貫通する。傷口から、さらには口からの血が出た。
「ふん、他愛ない。所詮猿真似……この私どころか、ワムウの足元にも及ばん」
「う……う……」
わたしを刺した状態でもう片足をとめて、カーズ様は片足立ちのままでわたしを掲げて見せた。
痛い。死ぬほど痛い。ただでさえ刃が刺さってるのに、その状態で吊られてるから重力がわたしの身体を苛んでいる。
「……ま、だ……!」
だけど、まだだ。この程度で、この身体は戦闘不能になったりしない。致命傷を与えられない限りは、戦い続けられる。
わたしは生まれて初めて、戦闘方面でこの身体に感謝する。人間だったら、とっくに死んでいただろうから。
まさか、戦えることに感謝する日が来るなんて思わなかったぞ!
「ほう……まだやるつもりか? だが無駄だ……ここからお前がやりそうなことなど子供でも分かる」
「いぎ……っ!」
わたしを刺している刃を折ろうと腕を動かした瞬間、その腕を刎ね飛ばされた。
せっかくくっついたばかりだっていうのに、ぼどりと床に落ちる腕。
「う、あ……」
それをわたしは、青ざめた顔で見送るしかできなかった。
「無駄だと言っただろう」
カーズ様がせせら笑う。
「お前はこれから死ぬのだ」
そうしてカーズ様は、無慈悲に宣告した。
すごくヤバいってところで話を切ったけど、昨日の後書きでカーズ戦が終わるまで連続投稿するって書いちゃってるので、ここで終わるはずがないのは丸わかりな件。
昨日はもう少し考えてから投稿すべきだったかもしれない。