直後、わたしとカーズ様を取り巻く周囲の景色が一変した。
薄暗い地下の礼拝堂から、昼の室内程度の明るさが保たれた書斎のような空間へ。
そう、ここはわたしの世界。わたしのスタンドが作り出す、星の船。
カーズ様の刃を折ろうとしたのはブラフだ。青ざめてたのは、単に血の気の問題。つまりガチだったとも言うけど、ともあれ。
わたしは大げさに刃を狙う一方で、もう片方の手でスタンドを出していたのだ。弓のほうじゃあない。矢だ。
そして選んだ矢はご覧の通り、【スターシップ】。星が刻まれた矢を取り出して、自らの太ももに突き刺し今に至る。
「む!?」
「【スターシップ】! カーズ様を外へ!」
そうして直後、わたしの意思によってカーズ様だけを外へ
……【スターシップ】は、矢で刺したものとそれが触れているものをスタンド空間に収納する能力。重さやサイズの上限に引っ掛かったものはついてこないけど、それでもカーズ様と接触していたわたしを収納すれば、カーズ様だってついてくる。
だけど、この空間はまさにわたしの世界。
まあ生き物から内臓だけとか、首だけを切り離すのはできないから、攻撃には使えないんだけどね。
それに例外もある。今回の状況でもしもわたしが人間だった場合、カーズ様の刃がわたしの身体と同化していただろうから、カーズ様だけ取り出すってのはたぶんできなかったんじゃあないかな。そういう意味では、今だけは同族で本当によかったと思う。
「はーっ、はーっ、あ、っぶなかった……!」
「アルフィー様!」
カーズ様が消えたことで、わたしはぼとんと床に落ちた。そこに、避難させていた子供たちが血相を変えて群がってくる(なおサチさんたちはサンタナのサポートのために別行動中)。
彼らの動きを残った手で制しながら立ち上がり、わたしは壁に立てかけてあったものを迷わず手に取った。
子供たちの気持ちは嬉しいけど、まだだ。まだ終わってない。伯爵からの合図はまだ来てないんだ。それまでは、なんとかカーズ様を釘付けにしておかないといけない。可能なら倒してしまいたい。
そしてそれができる可能性があるのは、わたしだけだから……!
「……お待たせ。出番だよ、
だからわたしは、
この四年間、ほぼ肌身離さず持ち歩いていた
『ようやくか! 待ちわびたぜーッ!!』
なぜって、
わたしが戦う意志を持って呼びかければ、
「えやああぁぁーーッ!!」
「ぬうッ!?」
外へ出ながら、刀を抜きながら、二人で力を合わせての居合切りをカーズ様に放つ!
そうしながらわたしは空気を後ろに勢いよく噴射して、ジェットさながらに空中を移動。カーズ様とすれ違い、同時に腕の断面から血管を複数伸ばして落ちていた腕を回収した。
「せい! やぁーーッ!!」
さらに槍状にした足を床に突き刺し、そこを軸に高速スピン。回転する勢いのままに刀を振るい、そこから風神閃を連続して飛ばす。刀と回転の勢いが加わったことで、先ほどより威力も速さも数も増した真空波がカーズ様の動きをけん制する!
「ふー……っ」
「貴様……」
「ふ、ふふふふふ……まだですよ、カーズ様……わたし、まだやれます……!」
イラついた顔でわたしを睨んだカーズ様に、わたしは口角を上げながら応じる。冷や汗と脂汗はそのままだから、どう見てもやせ我慢だろうけど。
ああそれでも、なんだか不思議な気分だ。あのカーズ様が、今まで絶対にわたしには向けなかった表情を向けている。取るに足らない雑魚が相手なら、絶対にしないだろう怒りの顔。それがなんとも言えない。
……いや、これは不意を衝いて気分がいいとか、勝ち目が見えたから大丈夫だとか、そういうイキった感情じゃあない。そもそもここまでの二撃は、カーズ様へのダメージにはなってないもの。
じゃあなんだって聞かれれば、うまく言えない。
でもあえて言うなら……そうだな。まるで、
「……武器を手にしたところで、貴様ごときに何ができる?」
「カーズ様こそ、人間をなめないでくださいよ……この刀は、人間が造った世界最高の刀なんですからね!」
そうこうしているうちに、腕が癒合した。これで十全に神狼姫を振るうことができる。
「ふん……所詮はただの金属武器。だがまあ、一万六千年は共に過ごしたよしみだ。試したいというのならば試させてやろうではないか」
「そう言えるのも今のうちですよ……行きます!」
あえて宣言して、わたしは前へ出る。
今までなら絶対にできなかった行動。新しい要素を見たカーズ様が、何はともあれ様子見を選択したからこそできる。
……だけじゃあない。
なぜなら、
「
「……ッ!?」
このときのために用意していた、わたしの切り札の一つなのだから!
***
「裁け――【神狼姫】!」
解号は告げられた。
その事実に、彼は――否、彼女は。生まれ変わったスタンド【アヌビス神】は歓喜する。
いや、この表現は正しくない。
そう、両者は既に表裏一体。冥刀・神狼姫は【アヌビス神】であり、【アヌビス神】は冥刀・神狼姫なのだ。
けれども、変わらぬものもある。
あらゆるものを斬る。
あらゆるものを超越する、最強の剣。
それこそが、彼女を最初に鍛えたキャラバン・サライの望んだもの。
生まれ変わってもなお、託されたその想いが潰えることはなく。ゆえに彼女は、世界最強の生物を斬る機会に歓喜した。
かくして現れたのは、狼頭はそのままに、豊満な獣身の美女へと
赤い宝玉と、黄金によって彩られた夜着のごとき衣装を漆黒の身に纏い、局部などは黄金のアンクのみが守るという扇情的な姿。それらを惜しげもなくさらしながらも、彼女は意に介することなくアルフィーと意識をリンクさせた。
すると彼女の身体はアルフィーのそれと重なり、併せて本体……冥刀・神狼姫の姿も変化する。
巨匠最後の弟子が鍛え直した刀身は、大きさやデザインこそは変わらずとも、スタンド像同様の漆黒へ。
やはり匠の手で整えられた柄は、包帯を思わせる白い布で覆われ二重に保護された。
カーバンクルを思わせる紋様を施されていた鍔は、やはりスタンド同様の黒い毛並みに包まれたが……テーマとも言うべきカーバンクルの姿は消えることなく、赤く煌めいて毛並みの中に残留した。
「……ッ!?」
その物理法則を無視した変化に、さしものカーズも息を呑む。
そうだ、それでいい。神狼姫は、【アヌビス神】は、牙をむき出しにして好戦的に笑う。
『今から俺たちは――神を斬る!』
***
「でやあ!」
神狼姫を戦闘形態(最初見たとき思ったけど、これって斬魄刀では?)に移行させたわたしは、そこに宿るスタンド【アヌビス神】の影響を受けて身体のキレや刀剣に関わるスキルが向上している。
おかげで移動中に急激に速度を増したわたしの身体は、あっという間にカーズ様まで到達。そして力と技がしっかりかみ合った神速の斬撃をお見舞いすることに成功する。
「ぐぬ……っ!」
カーズ様が、思わずといった様子でうめいた。彼の胸に、深々と刀傷が刻まれたのだ。遂に、カーズ様に明確なダメージを与えたぞ!
だけどもちろん、それで手を緩めるはずなんてなく。わたしたちは容赦なく攻撃を続行する。
人間ではあり得ない肉体可動域を持つわたしが、人体の構造を無視できる剣術を操る【アヌビス神】の補佐を受けて行う攻撃は、変幻自在の剛剣だ。
おまけに日本でも有数の鍛冶師が鍛え直した神狼姫の切れ味は、柱の一族すら難なく切り裂くほどの恐ろしい仕上がりになっている。ひとたび触れればカーズ様と言えどひとたまりもなく、怒涛の攻撃によってどんどんキズを負っていく。
先ほどまでとは逆の展開だ。わたしたちが刀を振るい、カーズ様は回避に専念。けれどかわしきることはできず、キズが増えていく。
一見すると、わたしたちが押している。けれど、焦っているのはわたしのほうだという確信があった。
何せカーズ様、初撃以外すべての攻撃をちゃんとさばいている。そもそも無傷ではない程度のキズは、柱の一族にしてみればないも同然。おまけに種族柄、ありえない挙動で攻撃を回避することができるわけだから、ありえない方向からの攻撃にも普通に対処できるんだけど……。
なんといってもこの人、見てから動けているんだよなぁ! どんな動体視力をしているんだか!
そして学習能力が高いカーズ様のことだ。初見だからこそのアドバンテージを失った瞬間、わたしは再び劣勢を強いられるだろう。だからその前になんとかしたい……!
「むん!」
「……っ!」
ほらなぁ!
今、攻撃直前の一瞬に柄を握る軸となるほうの腕を軽く押し出され、攻撃そのものをキャンセルされた。と同時に、腕の刃が横一文字に襲ってきた!
誰が鍛えたわけでもないのに、カーズ様の刃もまた神狼姫に劣らぬ切れ味の代物だ。そして神狼姫は金属の武器だけど、切れ味に特化した刀。攻撃を受ける形の防御に向いたものじゃあない。
仕方なしにわたしは横に跳ぶ。同時に管からの空気噴射を組み合わせて床を蹴り、さらにカーズ様が振り抜いた腕を土台にして回転しながらの再跳躍。
空中でくるりと縦に回って、カーズ様の後頭部に刃を向ける……が。
「それはわかっていたぞ!」
意外ッ! それは髪の毛ッ!
「ぐっふ……!」
「何……!?」
そしてその瞬間、後ろ向きのハイキックが伸びてきて鳩尾に一撃をもらう。ちょっと吐いた。
けど直前、確かに頭に一撃を入れたぞ! 布も髪の毛もすり抜けて、間違いなく一太刀浴びせた!
そう、【アヌビス神】の物質を透過して攻撃する能力は失われていない。だからこその攻撃だった。
そしてこの能力を利用して、神狼姫は絡め取られることなくわたしの手の中のまま。鳩尾への一撃の対価としては、それなりの駆け引きになったんじゃあないだろうか。
「貴様ァ……やってくれたな……!」
怒りの表情を浮かべたカーズ様が、猛然と向かってくる。後ろ向きに動きながら、途中で首、上半身、下半身の順番で百八十度回転させるという、ホラー映画も真っ青な方向転換をしつつ。
そうしてクロスチョップ(片方は刃つき)がわたしを襲う。
直前、カーズ様の顔に血が滴り流れている様が見えた。あれはすぐに治るような軽傷ではないだろう。だけど、治癒にそこまでの時間がかかるほどのものでもないのも間違いないはず。まったく、とかく柱の一族同士の戦いは不毛だ。
だけどわたしだって、負けるつもりでここにいるわけじゃあない。相手の手数が多いなら、こっちだって増やせばいいだけのこと。
そう、わたしは何も神狼姫だけで戦っているわけじゃあない。わたしにはわたしのスタンドがある!
というわけで、少し後ろに下がりながら【コンフィデンス】を出す。左右に三本ずつと、別口で一本の計七本。全力全開の矢を同時に放ち、クロスチョップを挟み込む形で矢を突き立てる! ダメージにならないのはわかってるけど、こうすれば衝撃が伝わって、攻撃の打点がズレるという寸法!
そしてわたしは攻撃の体を半ば失ったクロスチョップを蹴って着地、体勢を整える。
「相変わらずちょこまかと……!」
そこに襲い掛かる、カーズ様の攻撃。神狼姫を出す直前にされたのと同じような、複雑かつ猛然とした、隙間のない斬撃が次々に襲ってくる。たまに
カーズ様の刃は、身体の一部だ。刀剣を扱う場合にどうしても必要な、刃の向きを合わせたり振り払ったあとに引き戻すといった動作を最小限に抑えることができる。
なぜって、身体の一部であれば自在に動かせるのが柱の一族。腕から飛び出た刃は、上下左右、自在に動くわけで……これをさばくのは不可能だ。
「【コンフィデンス】プラス【アヌビス神】……ッ!」
普通なら。だけど今のカーズ様には、片腕にしか刃がない。あばらからくる
そして何より、今わたしにはなんとかできそうな技がある。右手に神狼姫、左手に【コンフィデンス】の弓を手にして、これに対応するのだ!
【アヌビス神】の思考リンクを駆使しての、【シルバーチャリオッツ】+【アヌビス神】達人二刀流の再現だ。これによって手数を稼いで一つ一つの斬撃をさばいていく! そう、弓は斬撃武器……!
「ふん! 我が刃を受けて、どれだけその刀が耐えられるだろうなぁ!」
けれど、どうやらカーズ様の直近の狙いは武器破壊のようだ。雨あられと襲い掛かる斬撃の弾幕は、確かにときに受けることも必要。それを繰り返せば、いかに神狼姫が素晴らしい刀であったとしてもいずれは壊れてしまうだろう。
だけど……実のところ、それは想定の範囲内だったりする。
――【センド・マイハート】!
真正面からの斬り合いが始まる直前に、わたしは第三の矢を放っていた。向かう先はわたしの身体と重なっている【アヌビス神】だ。
そうしてハートの紋様が描かれた矢を受けた【アヌビス神】は、わたしの生命エネルギーを注がれることでわたし同様の自己治癒力を一時的に獲得した。
加えて、外からエネルギーの供給を受けたことでスタンドパワー自体も向上し、動きや攻撃力に磨きがかかる。実のところ、達人二刀流はこれがないと使えない荒業だ。
けれど、このコンボ最大の強みはそれじゃあない。
なぜなら、二枚屋さんによる打ち直しによって、スタンド【アヌビス神】の本体はキャラバン・サライではなくなっているのだ。
今や彼女の本体は、この刀たる神狼姫。すなわち、今の【アヌビス神】は通常のスタンド同様、「本体とスタンドのダメージを共有する」という法則が正常に働いている。
これは神狼姫が破壊された場合、【アヌビス神】もまた同様に再起不能となることを意味する。だけどそれは、「
……言ってるわたしもそんなバカなってちょっと思うけど、他ならぬ神狼姫ができるって思ってるんだからできるのだ! 当然だと思ってるならスタンドはそうなるんだろう! きっと!
そう、つまり【センド・マイハート】とのコンボは! ただでさえ強力な武器である神狼姫に、自動修復機能を与えることに他ならない!
「……バカな!?」
どれほど刃を叩きつけても、刃こぼれしない(正確にはした端から修復される)神狼姫に、カーズ様が目を剥く。
さしものカーズ様と言えど、この瞬間にわずかながらスキができることは避けられなかった。わたしたちは、そこを見逃さない!
「そ……こ……だぁーーッ!!」
スタンド:アヌビス神 本体:冥刀・神狼姫
破壊力:B スピード:B 射程距離:E 持続力:C(A) 精密動作性:C(E) 成長性:B(C)
※カッコ内は原作でのステータス
原作第3部、スターダストクルセイダースに登場するスタンド。タロットカードの起源とも言われるエジプト九栄神の一つ「アヌビス神」の暗示を持つ。
二枚屋刀語のスタンド【アニマロッサ】により、アルフィーの魂が転写されたことで変化した姿。
スタンドとしての像は黒毛の狼獣人といった風貌に変わり、赤い宝玉があしらわれた黄金の装身具を身につけた扇情的な姿を取る。ケモ度はだいぶ高い。
アルフィーの魂の影響で像の性別が女に変わっているが、アルフィーとは似ても似つかぬ高身長。また、その胸は豊満であった。本人は斬れればいいので、この変化は気にしていない。
スタンドとしての本体が、キャラバン・サライから神狼姫に変わったことも変化の一つ。
【アヌビス神】の意思は刀に定着しており、神狼姫=【アヌビス神】である。
結果、刀自体の意思によってスタンドを操る形になっている。このため分類するならば、近距離パワー型の傾向を持つ本体同化型スタンドと言ったところ。
これによって、ある一定の条件下のみだが自立行動が可能になった他、本体とスタンドのダメージ共有が正常になされるようになった。
のだが、スタンドのルールを説明された【アヌビス神】側は、スタンド像が治れば本体も直ると信じ込んでしまった。
このためか、【アヌビス神】に【センド・マイハート】など回復系の能力を行使すると、自動で修復される本物の妖刀に化ける。
能力的には、元から持っていた「周囲の生き物を操る」「戦えば戦うほど学習し、戦闘能力が強化されていく」能力と「自身を持ったものを本体にする=刀を破壊されない限りは何度でも再戦可能」な能力は
また現状正規の持ち手と認識しているアルフィーとのみ、思考をリンクさせるという能力が使用できる。これにより、物質透過攻撃をアルフィーの任意で使用可能だったり、彼女が身体を動かせないほど負傷や疲労、あるいは狼狽などしていても、【アヌビス神】の任意で強制的に戦闘を続行できる他、達人二刀流のような戦い方が可能になる。
このときの意思決定権は基本的にアルフィーに優先権があるため、戦闘中に意見が食い違って動けなくなるとかそういうことはない。
ただし上記の能力は普段は使えず、極めて頑丈で切れ味のいい刀でしかない。能力を発揮するためには、持ち手が解号「裁け【神狼姫】」を告げ、【アヌビス神】がそれに応じる必要がある。
これによって【アヌビス神】は本体と(持ち手がアルフィーの場合彼女とも)同化し、本体の装飾が増えたり刀身が黒くなったりして能力を使用可能となる上、刀としての本体の性能が向上する。
戦闘時はこれによって攻撃力を確保しつつ、人間では不可能な剣術(柱の一族的にもスタンド的にも)で戦うことになる。
なおこのいわゆる始解は、別に持ち手がアルフィーである必要はない。ただしその場合、アヌビス神は全力で戦えなくなる。
この他、アルフィーがするに限るが、持ち手の呼びかけに応じて自立行動ができる。このときに限り、神狼姫は勝手に鞘から抜け出たり、一人でに空中を移動することができる。
この能力は、新【アヌビス神】の能力の中で唯一始解していなくても使用可能なものとなる。
【アヌビス神】に無事(?)ナーフが入りました。説明長くて申し訳ない。あと、もはや別物ってのは言わないお約束よ。
まあ、これでもだいぶ強いことには変わりないんですけど。一応アルフィーが使わないと真価を発揮できない仕組みになっているのでね多少はね?
成長性がBに上がったのは、もちろん皆さんお察しの通り卍解を残しているからです(するとは言ってない