前へ踏み込む。けれど踏み込みと床を蹴る挙動を悟らせないよう、体重移動を駆使して。いわゆる縮地というやつだ。
同時に背後に向けて管から空気を勢いよく噴射し、ジェットさながらの推進力を得る。
柱の一族としての力と、人間としての技術をここに乗せて、わたしは一気に攻め込んだ。【コンフィデンス】は一旦消して、神狼姫を両手で握る。
「
放ったのは、わたしたちの全能力を込めた一撃だ。致命となる急所のみを斬り裂く攻撃である。この技の前では、どんな防御もすり抜けて意味をなさない。
また、十分な力と技が合わされば、ただすり抜けるだけでなく防御を軒並み破壊しながら本命の急所をも攻撃可能という、シンプルに強力な技だ。
ゆえに相手がこれに対処できるのは、攻撃を受ける瞬間だけというなかなかに凶悪な技なのである。
……と、言えば聞こえはいいかもしれないけど、要は【アヌビス神】の能力を用いて全力で斬りかかっただけだ。まあ、その能力をフルで、しかも極めて慎重かつ繊細に扱うことでできるようになる技だから、「だけ」ってのはあまり言いたくないんだけどね。
それにもちろん、対処ができないわけじゃあない。わたし自身は別にすり抜けないから、つまるところわたしを狙えば防ぐことは可能だ。
けれど今はスキをついたところ。これなら行けるはず……!
と思う一方で、カーズ様ならきっと超えてくるだろうなというある種の信頼もあった。
間違いなくスキをついた致命の攻撃であるにもかかわらず、これでも終わらない可能性が高いとわたしの中の冷静なわたし……それと柱の女としてのわたしが、告げていた。カーズ様は、そういう男だと。
「――
実際、そうなろうとしていた。
カーズ様は一声吼えるとともに、全身から強烈な光を放ったのだ。
『光』の
この仕組みは、少し前にわたし自身が述べた通り。だけどカーズ様のそれは、わたしがやった見様見真似なんかとは文字通り格が違う。
「う……ッ!」
放たれた光は真昼の太陽にも匹敵するかのごとき、鮮烈な閃光。そんなものをこの至近距離で浴びせられてしまえば、目を閉じていても失明してしまうのではないかというほどの光!
そんな凍てつく輝きを浴びせられたわたしは、種族ゆえに失明はしない。だけど瞬間、完全に目をやられたことも事実だ。わたしたちは失明しないわけじゃあない。目が潰れても、それがすぐに再生するだけなのだ。つまり一瞬は失明し得る。
だからこそ、突然襲ってきた暗黒に対して、わたしの動きはどうしても乱れてしまう。
……っていうか、こんなにえげつないレベルの光出せたんですかあなた!? 聞いてないんですけど!!
『とまるなァァーーッ!! 攻撃は続行するゥゥーーーーッ!!』
神狼姫が思考リンクを用いて、乱れた動きを途中から補正。技はほとんど遅滞なく続けられたけれど……カーズ様にとっては、その「ほとんど」さえあればよかったのだろう。
急所を捉えた、と感触から察知した、その瞬間だった。
キィン、と甲高い音が響いた。神狼姫の刀身が、斬り飛ばされた音だった。
『うげぇーーッ!?』
「なん……だと……!?」
……そんなバカな! わたしを狙って防ぐならともかく、神狼姫を狙って防いだ!? それは急所を捉えられたにもかかわらず、一切動じることなく……しかもそのわずかな時間を的確に狙って、刀身に斬りつけたことになる! そんな、そんな大胆かつ繊細なこと……!
……できそうだなぁ。カーズ様だもんなぁ。どんな神業だよ……いやまあ神様みたいなもんだけどさ……。
と、そうこうしているうちにわたしの視力は回復したけれど……どうやら、カーズ様はいまだに全身から強く発光した状態らしい。これでは目を開けるわけにもいかない。
……さっきの攻撃で、どれくらいダメージを与えられただろうか。失敗したとはいえ、少なくとも切っ先は確実に体内まで入ってたはずだ。まさかノーダメってことはないと思うけど……。
「く……っ!」
ともかく今は、ワムウのマネをして風を感じて周囲を観察しよう。種族柄、目が見えなくてもわりと周りの様子はわかる。ここに風の感知を加えれば、だいぶマシになるはずだ。
あくまで見様見真似だから、大した助けにはならないだろうけどね。やらないよりはいい。
と、 神狼姫が斬られてからここまで、約一秒。にもかかわらず、わたしの五感は間違いなく横から襲い来る攻撃を察知した。
慌ててしゃがみこれを回避、次に正面から来る攻撃――これは蹴りかな――は覚悟を決めて身を丸め、身体で防御する。
蹴られた衝撃を利用してサッカーボールのように後ろに吹っ飛び、跳ね回る。さらに空気噴射で姿勢を制御。同時に、気配のする方へ【コンフィデンス】を斉射した。
これで稼げる時間も、一秒がせいぜい。わたしは意識を集中させると共に、神狼姫の誘導を受けて先ほど斬り飛ばされた刀身のほうへ走る。
そして走りながら、今まで試していた閃光対策がようやく完成する。如意転変により、目をサングラスのように光を軽減する膜で覆ったのだ。
よし見えるぞ……って!?
「シィッ!」
「……ここォ!」
いつの間にか横に並んでいたカーズ様が、再び斬撃を見舞ってくるところだった。
それに神狼姫のはばきを合わせ、防御する。狙った先は当然、刃ではなくカーズ様の腕そのもののほうだ。そちらの勢いを削ぐことで攻撃を防いだ。
とはいえ、すぐさま刃がぐりんと動いてわたしの首を刎ねようと迫ってくる。相変わらず、わけのわからない可動域の刃だ。
「む……!?」
わたしはそれを、【アヌビス神】本来のすり抜け能力を利用することで回避した。カーズ様の腕に当てている神狼姫を透過させて、彼からの反発を無視して倒れ込んだのだ。
「……やはり、物質を透過する刀か」
あまりにもわかりやすい使い方を目の前でしたことで、ごまかしようがないほど【アヌビス神】の能力は見抜かれてしまったけれど……神狼姫を斬られたときにはもうほぼ見抜かれてたっぽいし、ここは割り切る。
倒れ込みながら、【コンフィデンス】を再展開。先ほど同様、七本の矢を同時につがえて斉射する。
狙う場所は、バラバラだ。一つでもいいから、当たりさえすれば牽制になる。全部当たったとしたら、それはラッキーってだけ。
ただし、当たったかどうかを確認する余裕まではない。わたしは走っていた勢いそのままに倒れ、ギャグマンガみたいに派手に転がって周囲の調度品を諸共吹き飛ばしたからだ。
「無駄だ!」
そして当然のように、スタンドの矢を蹴散らすように突っ込んでくるカーズ様。ホントもう……人間ならこれだけで再起不能になってもおかしくない威力のはずなんだけどな……。
ともあれ、どうにか折れて飛んでいったほうの刀身は確保できた。今は左手で刀身を手にした状態で、片膝をついて立ち上がろうとしているところ。カーズ様との距離は、数歩分ほどだ。
一瞬で詰められる距離でしかない。そして
一応光量は落ち着いたみたいだけど……逆に言えばそれは、さっきのスタングレネードも真っ青な目潰し発光を使うタイミングをはかっているということでもあるはず。目の保護は外せなさそうだ。
そんな中、刀身の折れたところを合わせて癒合させる。【センド・マイハート】の効果があってもさすがに折れた刀身をそっくり生やすなんて芸当は不可能だから、折れたらこうしないと直せない。これでも十分すぎるほどに破格だけど。
「……なるほど。どうやら確かに、すさまじい剣のようだ」
かくしてすっかり
「それを鍛えたものが人間とはな……我が一族に、それほどのものを打てる鍛冶師などついぞ現れなかった」
「……そうでしょう? 人間だって、やるときはやるんですよ」
目を細め、わたしを射竦めるカーズ様に思わず胸を張る。
別にわたしが打ったわけじゃあないし、そもそも神狼姫の妖刀っぷりはわたしたちのスタンドのなせる技だ。わたし以外が扱っても、ここまで常軌を逸したことはできないだろう。
ただ人間に加勢している身としては、
「だがそれと貴様を殺すことは矛盾しない」
「…………」
「貴様はこの私を裏切ったのだ……私の手にかかって死ねることを光栄に思うのだな」
構えたカーズ様を見て、わたしも神狼姫を構える。
……今さらながらに思う。面と向かってそう言われるのは、やっぱりつらいものがあるなって。自分でこの人を裏切ると決めたのに、そう思ってしまうわたしはなんて中途半端なんだろう。
だけど、決めたことだ。わたしは人間として生きる。たとえ「太陽を克服する」という一点においてわたしたちが同志だとしても、その過程、そして目的を果たしたあとに目指すものが違う以上、わたしたちは最初からこうなるよう定められていたんだろう。
だから、思うだけだ。わたしはもう迷わない。つらくても、カーズ様との戦いをやめたりなんかしない!
「ここまで戦って……貴様の成長ぶりはよくわかった」
「……え?」
「どうやら……確かに
「か、カーズ様……」
あのカーズ様が……わたしを認めた……!?
嘘でしょ。カーズ様にとってわたしなんて、最後の最後まで道をふさぐ邪魔な石程度にしか思われないと思ってた。
くそっ、彼にそういう気持ちなんかないってわかってるのに、今は敵対して戦ってる真っ最中だって言うのに、褒められて喜んでるわたしがいる!
「かくなる上は、もはや手加減はすまい。正真正銘、全力だ……」
「……!?」
カーズ様の、全力……!?
原作でもまったく見せなかった全力……だと……? い、一体どんなことをしてくるんだ……!?
……いや。いや、待て。落ち着け。そう言いつつ意識を硬直させるブラフって可能性も……。
「アルフィー。
凄まじい殺気を放ちながら、カーズ様が距離を詰めてきた。腕から伸びる、光り輝く刃があまりにも眩しい。
光度は、今のところ変わる様子はない。目の前まで来た瞬間にピカッ! というのもあり得るだろうけど、それより差し迫った死の危険をなんとかしないとだ!
神狼姫を握る手に力が入る。
しかし、次の瞬間だ。彼の身体がぐにゃりとブレた。と同時に、彼の動いた軌道を縫うように、彼の身体がいくつも現れる。
「んな!?」
いくつもの分身が現れ、わたしを取り囲み始める。
これは……マンガやアニメではよく見る
けれどそうわかっていても、実際にそれと向かい合うことになったわたしには本物がわからなかった。
身体能力は聴覚や嗅覚なんかも含め、何もかもが前世より高いはずなのに。実際、何もなければ背後の人の動きを気配で察するくらいは、今のわたしにはできるのに。
それなのに、カーズ様の動きがまるでわからない! どこにいるかもわからない!
「……ッ、お、落ち着けわたし……この手の攻撃には――」
――お約束がある!
『右だッ!』
そう思った瞬間だった。神狼姫から警告が来た。
と同時に、ぞわり、と横から強烈な寒気を感じて、わたしは思わず後ろに全力で跳んだ。
直後わたしの目の前で剣閃が踊り、今思わずで動かなかったら上半身と下半身が分かれていただろうと理解する。喉の奥で、「ひえっ」と情けない声が鳴った。
「よくぞ避けた……だが、それがいつまで続くかな?」
奇妙なことに、いくつも折り重なった声があちらこちらから聞こえてくる。何か特殊な発声でもしているんだろうか。
いや違う、それは考えるな! 惑わされるだけだ!
見た感じ、これはルパインアタックや肢曲なんかと同じタイプの技だ。恐らく、
ならば、必ず攻撃の起こりはどう始まろうと一つのはず。どれだけたくさんに見えていたとしても、攻撃だけはカーズ様本人が直接するしかないはずだ!
見た目や声に惑わされることなく、カーズ様を感じるんだ。そうして、攻撃してきたところを迎え撃つことが正解のはず――
「――くう!?」
危ない! 鼻先を刃がかすめた!
だけど、今ので少し感覚はつかんだぞ。次はもっとうまくや――
「――っ!!」
かがむ! 上を通り過ぎていく刃!
だけどその瞬間、足元を刈られたらしい。わたしはぐるんと回転し、受け身をする間もなく背中を床に打ち付けられる。
くそっ、かがむのは悪手か! 覚えた!
そうして回避に専念すること、しばし。四回の攻防を繰り返したところで、遂にそのときは来た。
『あーもしもし、アルフィーさん? 伯爵さんから伝言だよ! 準備できたって!』
聞き覚えのない、あまりにも場違いなふわふわした男性の声が、わたしの頭の中に直接響いた。
落差が激しすぎて気が抜けそうになったけど、つまりこれがルベルクラクの切り札が起動した合図ってことなんだろう。もう少し他になかったのかとも思うけど……。
とはいえ、今まさにギリギリの攻防をしてる瞬間に言われても、すぐに動けるわけないんだよなぁ!
それに確かに離脱はしたいけど、ここでうまくやればカーズ様に大ダメージを与えられる可能性だってあるわけだし……。
『後ろから来るぞッ!』
「だね……!」
来た。五回目の攻撃だ。斜め後ろから、殺意しかない斬撃が猛スピードで襲ってくる。
今回は比較的早く気づけた。これなら返せる。最低限の動きで回避しながら振り向きざま、カウンターを決め――
「『――な!?』」
ようと思ったのもつかの間、わたしたちは揃って驚愕した。
なぜなら、わたしたちが感知した攻撃の正体は、回転しながら飛んでくる刃だったのだから。
「かかったな」
直後、真横からカーズ様の声が聞こえてきた。
思わず視線がそちらに泳ぐ。もちろん、そこにはカーズ様が潜り込んできていて。
「あ゛い゛……ったああぁぁーッ!?」
やられた。
わたしは神狼姫を握っていた両腕を、諸共ズバンと斬り落とされた……!
【悲報】アルフィー、OSR不足
ちなみになんですが、初稿では彼女が最初に放った技は「ジェット三段斬り」でした。
おかげと言っては何ですが、今更ながら彼女のイメージCVが固まりましたね・・・いや誰とは言いませんけど(星になったO田さんのピースサインを見ながら