太公望の構えに応じる形で、我流だけどわたしも構える。逃げる気満々なので、初手は譲る。
色んな効果がある波紋だけど、遠距離攻撃手段に乏しいことは欠点の一つだ。接触しないと相手に流せないからね。
波紋で遠距離攻撃をしようと思ったら、何かしらの工夫が絶対に必要になる。少なくとも、スタンドみたいにノーモーションで弾丸が飛んできたりとかはないはずだから、ここは様子見だ。そして動いたのを見計らって逃げよう。
そこに、太公望がゆらりゆらりと近づいてきた。ぱっと見はものすごく遅くて、全然近寄ってきてない気もするけどこれは違うと思う。仮にそうだとしても、迂闊に波紋使いには近づけないからまだまだ様子見。
するとある程度近づいたところで、太公望の姿が急にブレて増えた。もちろんそんなことは現実には起きてなくて、特殊な歩法か何かかな。思考の間を縫う位置を常に取ることで錯覚を呼び起こしてるとか、そんな感じ?
そしてさらに近づいたところで、彼はふわりとジャンプ。そのまま近寄って来たときと同じような緩やかな動きで、両足の蹴りを向けてくる。
こっ、これは……ッ!
ゼミでやった問題だ!
じゃない!
間違いない、これはダイアーさんの
ダイアーさんも放つこの攻撃、原作一部を知ってる人ならここからどう来るかわからないはずがない。この攻撃を、手で受けてはいけない!
……受けたくなっちゃうのはジョジョラーの悲しいサガかなぁ。でもだからって命に関わるところで試してみるほどわたしの神経はずぶとくないので、素直に回避させてもらおう。
ついでに言うなら、相手が空中にいるのはチャンスだ。空中では自由に動けない。
よし。ぐっと下半身に力を入れて、ほとんど四つん這いになるくらいの勢いで今空中にいる太公望……の、真下をくぐり抜ける形でダーッシュ!
そしてそのまま逃走だぁーッ!
「むう、ある意味潔い!」
残念だけどわたしあなたと戦う気ゼロですから! この戦いのわたしの勝利条件は、倒すことじゃなくて逃げ切ることだもんね! そう決めたから!
よってこれは戦いから逃げてるわけじゃあない! 勝利への転進なのだ!
そして一度走り始めれば、人外のわたしはかなりの速度で走れる。しかも長時間だ。百メートル走の速度でフルマラソンくらいよゆーよゆー。逃げ切ってみせるッ!
「うーん、年寄りに走るのはつらいんだが……のう!」
「……そんな気はしてた! してましたとも!」
なんで同じ速度で走れるのかとか、そういうことは聞かない。波紋は色んな面のある技術だけど、特に肉体操作や治療などに顕著な効果のあるもの。折れた腕が治るくらいの効果があるんだから、走る疲労を極限まで軽減してもわたしは驚かないね!
さすがにフルマラソンしたら多少は響いてくると思うけど、数キロくらいならそんなに影響は出ないだろう。そもそも普通のマラソンなら何十キロ走っても呼吸が乱れないのが波紋使いだしね!
そのまま並走する形になるけど……さすがにここから攻撃する余裕はあまりないみたいで、しばらくは追いかけっこを……。
「そいや!」
「やだこの人、なんの躊躇いもなく目潰しを!?」
いつの間に手に砂を! しかも結構な量だぞこれ!
おまけになんかいい具合に風が吹いて的確に目に飛んでくるんですけど!? 幸い生物じゃないから波紋は流れてないけど……いや流れてるな、ちょっぴりだけど流れてるな。
一族最高の日光耐性があるわたしにはこの程度の波紋は効かないみたいだけど、向こうもこれで倒そうとは考えてないだろう。
となるとこれは単純に目潰し。その手には乗らないぞ!
片腕で砂を振り払い、目に入るのを防ぐ!
「うむ、これくらいは対処できて当然と言った様子だのう。ならばこれはどうかのう?」
「ゲェーッ!? そっ、それはまさか!?」
走りながら太公望が懐から取り出したのは、鞭だった。もしかしてあるかもとは思ってたけど、本当に出てくるとは思わなかったよ!
ヤバい、あれはヤバいぞ。そんなに長い鞭ではないけど、それでも離れたところに攻撃ができることには変わりない。
そして波紋使いが武器を使うとき、それに波紋が乗っていないなんてことはないと見るべきで。
「
「うひゃあっ!?」
慌てて横に飛びのけば、直後にその場を鞭が打ち据える。
同時に、鞭の胴体全体を覆う黄金の輝きが見えた。間違いない、波紋たっぷりの劇物ですよあれは!
波紋の性質から考えれば、電撃鞭みたいなものじゃあないか! タチ悪いぞ!?
もしも
「疾! ちっちっ、ちーッ!」
「だっ、もう、やめてやめて! わたしあなたとだけは戦いたくないんです!」
「ほっほっほ、残念ながらそれはできんのう!」
振るわれる鞭を、なんとか紙一重のところで避けていく。聞こえる音が、鞭の風切り音じゃなくて波紋の音ってのが何より恐ろしいわ!
一応全身厚着してるけど、天然素材しかないこの時代、服は当然のように波紋をよく流すものしかない。一発足りとも食らうわけにはいかない!
「げっ……! やばい、河だ……!」
視線の先に現れた河を見て、思わず舌打ちしてしまう。
跳んで渡ればいいかもだけど、どう見ても川じゃあなくて河なんだよぁ! さすが大陸、河幅が広い! さすがにこれは飛ばないと無理!
かといって何も考えず跳び込んだら即死しかねない。いや、泳げないわけじゃあないよ。
じゃあなんでって、波紋は水によく通る。太公望はどう見てもかなりの使い手なんだから、河岸から波紋を流すくらいわけないだろう。普通に泳ぐくらいの速度だと、それで追いつかれる可能性が高い。
となると、普通じゃない手段しかないか……!
「おっと、手癖の悪いお嬢さんだのう」
「あなたには言われたくないですねぇ!」
そこらに転がっていた岩にすれ違いざま手を突っ込んで砕き、掴んだ石をさらに手の中で砕いて小石の山にする。
それらを散弾みたいにぶん投げて牽制したけど、なんで鞭で全部はたき落せるんですかね? わけがわからないよッ!
そうこうしているうちに河にたどり着いてしまった。
くそう、仕方ない。できればこの前に対処したかったけど、もう四の五は言ってられないな!
「むう!?」
太公望がやっと驚いた声を出した。
これはさすがに無理もないだろう。なにせ、河に飛び込むべく地面を蹴ったわたしの身体が、
着水は、河の中ほど。そしてそのとき既に、わたしの身体は完全にイルカに変じていた。
ふっふっふ、これこそわたしの
そう、我が
水の中を高速で泳ぎながら、そうドヤ顔をしてみる。もちろん見てる人は誰もいないけど。
まあ実際にはありとあらゆるものだなんて不可能で、制約は色々ある。一定以上のサイズ変更はできないとか、相当量の知識が必要とか、色々ね。
それでもやれることは大幅に増える。部分的な変身もできる。それはカーズ様の指示に従って人間社会に入り込むためには必要なことだった。
なにより、それとは別にわたしはきっと、人間社会に本当の意味で溶け込みたいんだろう。だからこそ、たどり着いたのがこの境地なんだと思う。
ちなみに服はわたしの身体じゃないから、今回みたいに劇的に身体を変えると普通に脱げる。場合によっては膨張に耐え切れなくて破れる。それはスムーズじゃないので、変身時はそのまま身体の中に取り込んで収納してる。
つまり元の姿に戻ったとき、わたしは全裸になるんだけど今はそんなこと言ってる場合じゃあない。
わたしの後ろから、波紋が伝わる音が聞こえてきた。やっぱり撃ってくるか。そりゃそうだよね。
でも、だからこそイルカに変身したのだよ!
とーう! イルカジャンプ!
「波紋は電気みたいに跳躍したりはしない! それなら媒体から離れればいいってことだよね!」
さらにさらに、ジャンプと同時にわたしは身体を変化させる。今度は鳥だ。それも、速度の出せるツバメ!
まあ技の制約上、ツバメとは到底かけ離れたサイズになっちゃうんだけど。それでもかなりの速度が出るのには変わりない。高さも稼げる。いいことづくめだ。このまま一気に突き放させてもらうッ!
ちらりと鳥の視界で見てみれば、さすがの太公望もこれには手が出せないらしい。
ふっふっふ、どうやらこの勝負、わたしの勝ち……。
「ぴゃあ!?」
慌てて軌道を変えて、飛んできたそれを回避する。
目標を見失って飛び去っていくそれは……風の刃だった。
「……ええ……? 嘘でしょう……?」
恐る恐る下を見てみれば。
なんと太公望の背後に、龍の姿が浮かんでいた。
えっと。
まさかとは思いますけど。
太公望さんあなた、波紋使いでありながらスタンド使いでもあらせられる?
普段より文字数が少ないけど、ちょうどキリがいいので今回はここで切ります。
うん、あれだけそれっぽく設定をクロスさせたならここまでやらないとね。
ってことで次は太公望とのスタンドバトルですが、当然彼のスタンドは風を操るスタンドです。