転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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13.おしおき

 どうにかこうにかみんなのところに戻ったら、ものすごく怒られた件。

 なお内容は「心配させるな」ではなく「人間に苦戦しすぎ」である。解せ……解せるなぁ。まったく申し開きようもない。

 

「どれ、俺が少し喝を入れてやろう」

「えっ」

 

 で。平謝りし続けてやっと解放されると思ってたら、エシディシがそう言った。

 にまりと笑いながら近寄ってくる彼の手には、試験管っぽい管が。材料はガラスじゃあないみたいで、中身は見えないけど。

 それを見たワムウは小さく首を傾げ、カーズ様は面白そうに笑う。

 

 え、何? 嫌な予感しかしないんですけど?

 

「今、空いた時間にカーズとちょいと工作をやっててなぁ。波紋使いと遊ぶためのものなんだが」

「はあ……?」

「人間の体内で一定時間が経過したら溶けだす入れ物に、こいつを入れて連中に押し込もうと思ってる。そうすりゃあ、いつ死ぬかわからない恐怖に怯えながら過ごすしかなくなるってぇ寸法よ」

「え……、えげつないですね……」

 

 ごくりと生唾を飲み込む。

 

 うん……つまり「工作」ってのは毒薬作りで。その入れ物はまだないみたいだけど、いずれ死のウェディング・リング(結婚指輪)になるってことですね? 原作だとジョセフがワムウとの再戦から逃げないため打った楔扱いだったけど、本来はそういう使い方だったと?

 いや、ワムウがまっとうな方向に使っただけってことなのかな……。致死毒にまっとうも何もないとは思うけど……。

 

「で……あの、つまりそれをどうしようと」

「おう、つまりだアルフィー。()()()()()()()()()()()

「わたしに死ねと!? 人間相手に苦戦したのってそんな重罪ですか!?」

「安心しろ死にゃあしねぇーよ。ま、ちょいと苦しいかもしれんが、そんなもんだ。効果が切れるまでの間、反省すりゃあいいんだよ」

「…………」

 

 ど、どこにも安心できない!

 あれでしょ、あなたたちの「死にはしない」ってのは翻訳すると、「死ぬほど苦しむ」ってことでしょ!?

 

「お、そうだ。いきなり飲めって言われても納得できんだろうから、一分の間逃げきれたら飲まなくっていいってことにしようか。うーん、俺ってば優しいねェ」

「い、いいんです? わ、わたし逃げるのは得意ですよっ?」

「くっくっく、安心しろよ。それくらいハンデがないとすぐに終わっちまうからなぁ~」

「い、言いましたねっ? 約束ですよ! 一分! 一分逃げきれたらわたしの勝ち!」

「おう……っと、例の能力で隠れるのだけはナシな。あれやられるとさすがにどうにもならねぇーからな」

「……わ、わかりました」

 

 ちっ、開幕【スターシップ】で逃げ切ろうと思ったのに。さすがにダメだったか。

 

「ルールはわかったな? それじゃあスタートだ」

 

 エシディシの宣言と同時に、わたしは全力で後ろに逃げた。身体を反転させる余裕なんて絶対ないだろうから、小さな跳躍に合わせて下半身をぎゅるんっと百八十度反転させて走る。上半身を合わせるのは逃げながらでいい!

 

 と思ってたら、一歩目でいきなり地面から火が上がった。それをほとんど真正面からかぶってしまう。

 

「ぅあっつぅ!?」

 

 よく見たら、そこには血管が横たわっていた。火に見えたのは、高温の血液だったのだ。くそう、いつの間に!

 

 高温と言ってもエシディシのそれは五百度くらいがマックスで、火に比べて決して高すぎる温度ってわけでもない。わたしも普段ならそこまで反応しなかったと思う。

 でも! 今はちょっと無理だよ! だってわたし、太公望との戦いのキズ、まだ全然癒えてないんだよ!? 左手なんて修復中でまだないままだし! なのにここまでするかな普通!

 

「さすがにこれくらいはかわすかァ。だがそうでなくっちゃあなぁ~!」

 

 そうこうしているうちに、エシディシが横に回っていた。そりゃそうだ、このくらいのスキを見逃すほど生易しい性格はしてないもんね。

 

 ぐわっと、勢いよく彼の手がわたしに向かって伸びてくる。腕力差がある上にわたしは負傷してるんだ、あれに捕まったらおしまいだ。

 かといって、普通に避けたら絶対何か追撃が来るはずだ。となるとここは……!

 

「【コンフィデンス】!」

「おっ?」

 

 その手を、【コンフィデンス】の正面部分……和弓で言うところの鳥打で殴って受け止めてやる!

 使い方がおかしい? そんなことない、前世の特撮オタクの友達が言ってたもん! 弓は近接武器だって!

 

 そう思ったんだけど。気合いを入れすぎたのか、それとも友達の語る弓のイメージが斬撃だったからか。

 

 ザクリ、と音が響いた。

 エシディシの手のひらに【コンフィデンス】が当たり、そのまま切り裂いてしまったのだ。

 

 あ、まずい。すぐにそう思った。

 

 いや、普通ならいい反撃になったって思うんだろうけど。

 相手は「炎」のエシディシ! 彼の流法(モード)は熱だから! 下手に裂傷をつけちゃうと……。

 

「ありがとよォ、血管を出す手間が省けたぜェェ!」

 

 ほらなぁ!

 

 切り裂かれた傷口から、数本の血管が出てきてわたしに絡みつく。同時にそこからは血液がじわじわとにじみ出ていて、景色が揺らぐほどの熱気がわたしを襲った。

 

「ぅあああぁつうぅぅーーい!!」

 

 しかも傷口に熱が染みる!!

 

 くそう、でも負けてたまるか! 絶対逃げきってやるんだい!

 わたしも傷口から血管を出して、反撃だ!

 

 流法(モード)行くぞ! 「如意転変」!

 

「おっ? へぇ、お前の 流法(モード)、無機物にも変身できたんだなぁ?」

「あくまでも『っぽい』だけですけどね! カーズ様の見よう見まねです!」

 

 わたしが出した血管は、体外に出る過程で刃に変身していた。これでエシディシの血管を切って、拘束から抜け出る!

 

 と同時に、手のない左腕から血管を飛ばして近場の木の枝に引っ掛ける。どこぞの考古学者のように脱出……!

 

「だ?」

 

 と思ってたら、急に身体から力が抜けてわたしはぱたりと前に倒れた。そのままろくに受け身も取れず、顔面から地面に激突する。

 

「な……なんで……? て、いうか……身体……しびれ……?」

「残念、惜しかったなぁ」

 

 そんなわたしの顔近くにエシディシがしゃがんで笑う。手にはさっき見せた試験管みたいな道具。その口を、ぐるりと地面に向けた。

 ……んだけど、そこから毒らしいものが落ちてくる様子はなかった。

 

「ま、さか……」

「おう、最初っから空っぽだぜ。中身は最初浴びせた血の中に混ぜておいた。もちろん俺は解毒剤を服用済み。つまり、最初の一発で既にお前は毒を摂取してたってぇわけだ」

「う、うう、う~~……!」

 

 やられたー!

 くそう、逃げようとするところから挑発に乗るところまで、何から何までわたしはエシディシの手のひらの上だったってことじゃあないかー!

 

「さすがだな、エシディシ」

 

 とそこに、カーズ様が近づいてきた。

 

「ふん、この程度でさすがと言われてもそう嬉しくもねぇなぁ」

「それもそうか。……おい、どうだアルフィー。得意だと思っていた分野で負けた気分は?」

「…………」

 

 むきー! と普段なら言うんだろうけど。

 ダメだ、もう毒が全身に回ってるんだろう。口をぱくぱくと動かすのもままならないぞ。

 

 え、ちょっと。エシディシ? これ、本当に大丈夫なやつ? 本当に死なずに済むの? このままあの世に行ってもおかしくないくらいな気がするんですけど!?

 

「……ふむ、第一段階の神経毒作用は問題なさそうだな。我々でもこの即効性、実に素晴らしい。いい実験になったな」

「あとは経過観察だなぁ。調合がうまくいってりゃあ次は出血毒に効果が変わって、最終段階になると体内体外を問わず様々な症状を発現させて死に至るはずだがー……」

「そうだな。ここから先がどうなるか……さて見ものだな?」

「だなぁ。第一段階だと即効だが、そこからさきはじわじわと効くようにしてるからなぁ!」

 

 ちょっと……ちょっとちょっと、ねえそこのお二人さん!

 

 物騒な実験トークで盛り上がるのはいいですけど、わたし今まさにその症状で出血がひどくなり始めてるんですけど!?

 なんだか全身の痛みも鋭くなってきてるし、これ本当にヤバいんじゃ?

 

 簡単な実験台になるのは慣れてるけど、今回は一万年以上の付き合いの中でもトップクラスにヤバい反応がもう出てるんですけど!? ねえちょっとぉ!?

 

 

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 三日三晩苦しんだ。いやホント、マジで死ぬかと思った。前世で死んだときに匹敵するくらい死ぬかと思った。

 

 結局、わたしの苦しみ方が尋常じゃあないってことで、見かねたワムウが途中で止めに入ってくれなかったらもっと長引いてたと思う。いやもう、ワムウありがとう本当ありがとう。お姉ちゃん嬉しい。

 

 なんかエシディシの想定より効果が激しかったってあとで聞いたときは、本当お前お前お前……って感じだったけど、毒が抜けた直後の身体で抵抗なんてできるはずもなく。

 それでいて、苦しみ抜いたわたしにカーズ様とエシディシは「鍛え方が足らん」「これに懲りたらもっと強くなれ」だもんなぁ。鬼畜の所業だよもう。令和だったら絶対パワハラとかモラハラで訴えられてますよこんなの!

 

 とまあそんな感じで日常に戻ってきたんだけど、なんとか療養と身体の再生が終わるころには十日くらい経っていた。

 

 うーんあの毒、苦しませるだけでなく治癒力まで奪うとは恐るべし。もう二度と飲みたくないです!

 

 そうして落ち着いて、ようやく動けるようになったわたしはある日なんという気なしにスタンド空間に入ったんですけどね。

 

「うえぇぇ!? なんでまだいるの!?」

 

 わたしの目に飛び込んできたのは、棚に飾った太公望のサイン竹簡に半分埋まった【四不象(スープーシャン)】の姿だった。

 

 待って? これは緊急調査案件では!?

 

 

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 ってわけでまた五百年くらいがすっ飛んで、わたしきっと一万三千五百歳くらい! 紀元前六世紀を迎えましたアルフィーちゃんです。

 この五百年ほどは、主にスタンド空間へのスタンドの収納について調べてた。いや、ある程度の当たりをつけるまでこれくらいかかったんだよ。そもそも人口の少ないこの時代に、スタンド使いと出会う確率もそんなに高くないからさぁ。

 

 結論から言うと、【スターシップ】によるスタンドの収納は、普通にしてたら生物と同じように一日で外に弾かれる。

 

 じゃあなんで太公望の【四不象(スープーシャン)】が残ってたかというと、これは恐らく太公望に所縁の深いものが空間内にあったからだ。つまり例のサイン竹簡だね。あれがどうも、本体の代わりのような効果を発揮してるみたいなのだ。

 他のスタンドでも、本体と何かしら関わりのあるものが中にあった場合は同様にそれに引っ張られたから、たぶんこれは間違いない。

 

 それじゃあわたしの意思でスタンドを空間から出すとどうなるか。答えは本体のところに即戻る、だった。【四不象(スープーシャン)】もこれでちゃんと返しました。

 ただし、それができるのは本体がまだ生きてる場合に限るらしい。本体が死亡してる場合、外に出したスタンドは完全に消滅する。

 

 例外として、空間内で媒体になってるものと一緒に出せば消滅は免れるんだけど……。これってつまり、媒体になるものがあれば、スタンドだけ引き剥がして本体を殺害することで半永久的に他人のスタンドを保持できるってことになる。

 

 正確に言うと、【アヌビス神】のようなアイテムに宿った本体不在型のスタンドに作り変えられる、のほうが正しいかな。

 唯一の救いは、単にそのアイテムを持たせただけで誰もがスタンド使いになる効果はない、ってことか。スタンド使いに持たせても能力が使えるようになるわけでもなかったから、安心は安心だけど……。

 

 将来そうならない保証がないんだから、どっちにしてもヤバい。そんなことあっていいのか。

 これでもしも他人にスタンドの移植ができるようになったら、それ完全に【ホワイトスネイク】じゃん。ラスボスじゃん。わたしそのポジションだけは本気で遠慮したいんですけど……。

 

 まあそんな感じで検証はここらで一旦終わりにしようと思うんだけど、さてどうしよう。この空間内に並んだスタンドつきのアイテムたち……。

 

 どれも紀元前の文物だから、史料としての価値はいずれ青天井に上がり続けるだろう。かと言って、万が一のことを考えると人に譲渡するとあとのことが心配すぎる。

 このままスタンド博物館みたいな感じで、空間内を維持していくしかないってことなんだろうか。それはそれでもったいないような気も……うーん。

 

 あ、ちなみになんだけど、この五百年間で実験に巻き込むことになったスタンドは、いずれも強引に奪ったわけじゃあないことは付け加えておきたい。幼いころの花京院みたいに、他人に見えない何かを持ってることに悩んでたりその力を持て余してる人から、同意を得て譲ってもらったものだ。

 中には制御しきれなくて暴走してたスタンドを譲ってもらったこともあるんだけど、それはスタンド空間の中でも暴れたからもう二度としない。あのときはそこまで害のあるものじゃなかったものの、それでも貴重な史料がいくつか壊れちゃったから……。

 




え?
いや、弓は近接武器でしょう?
何もおかしなことはない、いいね?

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