転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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20.帰省

 わたしがしばらく帰省すると告げたら、案の定ショシャナはついていくと即答した。

 

 だけど現状、ルブルム商会は成長著しいとはいえまだ新興勢力の域を出ていない。経営陣は育ちきっておらず、そもそも人数もあまり足りてないのが現状だ。

 ついでに言うなら、パソコンやら携帯電話やらの文明の利器がないこの時代でモノを言うのはマンパワーだ。一人いなくなるだけで生じるロスは二十一世紀の比じゃあない。

 

 というわけで、わたしの返答は却下だったんだけど。そしたら彼女、号泣しながら留守を守ると宣言すると共に、近い将来絶対に商会を盤石にして会頭を辞めると力強く断言した。

 

 なんとなくそうなるような気はしてたけど、まったくわたしのどこがそんなにいいんだか……。

 

 それにしても、思えばショシャナを拾ってから今日まで彼女と離れたことがなかった。それを思うと、彼女の反応は親離れできない雛鳥みたいなものなのかも。

 だとしたら、わたしは育ての親としてちゃんと親離れできるようにしなきゃ。そう思って、心を鬼にして留守は任せることにした。

 

 そう、わたしは今回アメリカ大陸に戻る。その間カーズ様の下から離れることになるわけで、当たり前だけど彼がそれを許すはずがない。

 だからこそ、ルブルム商会だ。これが機能するようになった今、わたしが今までやっていた仕事のほとんどは彼らで代行できる。そう説明して、実演して見せたらちゃんと許可も降りた。ノルマをこなしてるうちは、カーズ様は寛大なのだ。

 

「人間も少しは役に立つようだな」

 

 ただ、そう言ってたのがとても不穏でしたけどね!

 

 さてそんなわけで、わたしはアメリカ大陸に戻ってきた。道中は身体のスペックにモノを言わせて全力でやってきたから、エジプトから陸路(ちょっと空路込み)でアメリカまで二ヶ月弱でたどり着くという頭悪い記録を叩き出した。

 なお、そのうち約一か月は北極圏の凍結待ちなので、実質五十日程度の到着だ。我ながらどうかしてる。

 まあ、そこから目的地までまだあるんですけどね。何せ行き先はメキシコ周辺なので。

 

 そう、メキシコ周辺。つまりはサンタナがいるところだね。当たり前だ。今回の帰省はサンタナに会うことが主な目的なんだもの。

 

 理由はもちろん、人手不足の解消のためにサンタナを迎えに行くこと。ただ、カーズ様は「え、こないだのあれ本気だったの?」って顔してたし、実際ほぼそのままのセリフを言った。エシディシも興味なさそうだったしなぁ……。

 ワムウはさすがに同年代だからか、わりと嬉しそうにしてたのがあまりにも対照的で……なんというかあの二人、つくづくサンタナへの当たりが厳しいのホントなんなんだろうね。

 

 仕方ないから、連れて帰らずとも久しぶりに会いたいからって言ったら、呆れられた。解せぬ。

 そうまでして会いたい相手かとカーズ様には言われたんだけど、いやわりと会いたいです。どうもわたしは、自分で思ってた以上にサンタナに愛着があるらしい。

 

 前世じゃあ好きなキャラの上位にいたわけでもないのに、なんでだろうね? 育児を担当したからなのかなぁ。それとも、カーズ様に虐げられてるところにある種の親近感でも持ってるのか……。

 

 ともあれそういうわけで、サンタナに会うためにアメリカまで来たけど……久々に足を踏み入れた北アメリカの大地は、記憶にある景色とさほど変化がなかった。

 とはいえこれは、当たり前とも言える。何せアメリカ大陸では、ユーラシア大陸のものと同じタイプの文明は発生しなかったんだからね。

 正確に言えばインカとかアステカとか、中南米には王権を擁する文明が生じるけど、それはまだかなり先のことだ。何より、北米にはそういうものがついぞ興らなかったんだから、景色がさほど変わらないのも当たり前なのだ。

 

 それでも人間はいる。いわゆるネイティブアメリカンと呼ばれる人々……の、祖先たちだ。自然と共に生き、死ぬ人々の営みは、文明によって劇的に、そして現在進行形で変わるユーラシア大陸に慣れた身にはすごく穏やかに見える。ここは時間が緩やかだ。

 もちろん、自然がそんなに優しいものじゃあないってことは、わかってるつもりだけど。

 

 そんな北米大陸を抜けて、メキシコ。そのユカタン半島の根元からまっすぐ西に行った辺りの台地の上にそびえ立つ建物が、わたしの目指す場所だ。つまるところ、スッピーがスト様に殺されかけたあの遺跡だね。

 原作だと管理するものがいなくなってかなり経ってたからか、色が落ちてあちこち朽ちていたけど今は真逆。装飾はおろか彩色まで残った外観はとても美しいし、すべて健在な外観はとても大きく……いや待って?

 ガチに原作で見たやつより大規模かつ豪華な気がする……ここってこんなに大きかったっけ? なんなら最後に見たときより大きくなってる気がするんだけど……あっれー?

 わたしの記憶違いかなぁ……? うーん、柱の一族でもド忘れってあるんだね。

 

 まあそれはそれとして、すごく歴史的に価値がありそうな外観ではある。ということで、時間に余裕があったらあとでスケッチしたいところ。

 

 そう思いながら入り口付近に飛んできたわたしは、その周辺で掃除をしていたらしい子供たちを見つけて驚く。

 

 なんとまあ、ここに人が住んでるのか。

 いやでも、確か原作でもミイラとかが出てきてたっけ。それならここは、全盛期の今は集落としても機能してるのかもしれない。

 

 それっぽい結論を自分の中で勝手に出して、わたしは着陸する。

 すると当然、そこにいた子供たちが一斉に驚いた顔を向けてきた。

 

 そりゃあそうだろうね……って言いたいところだけど、実のところ驚いたのはわたしも一緒だ。

 

 いやだって、この距離まで近づいたらさすがに違いがわかる。()()()()()()()()()()()()()

 だとしたらつまり、吸血鬼ってことになるけど……それだけならまあ、別にそこまでおかしくはない。サンタナにとって彼らは食料、かつ奉仕種族みたいなものだろうから。

 だけど何よりおかしいのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

「こんにちは。今、サンタナいる? アルフィーが来たって伝えてもらえないかなぁ」

 

 とりあえず黙ってても仕方ない。羽をしまいながらそう告げたところ、目の前の子供たちは「なんだこいつ」「通していいのか?」と相談し始めた。

 

 なんだろうこれ、吸血鬼の割にはずいぶん人間の子供っぽい態度だなぁ。話がまとまらずわちゃわちゃしてるところなんて、完全にただの子供だ。いや、子供の吸血鬼とかあり得るのかっていう疑問はさておきね。

 

 うーん、これどうすればいいんだろう。押し通ってもいいけど、それだと誤解を生むよなぁ……と思っていたら、

 

「姉さん!? どうしてここに!」

 

 普通にわたしを察知したらしいサンタナがやってきた。屋外にまでは出てこないのは、太陽が出てるから仕方ないとして。

 彼の登場に、子供たちが一斉に彼の名前を呼びながら彼に群がる。それはさながら、遊園地で着ぐるみに殺到する子供たちみたいで……。

 

 サンタナに笑いかけながら手を振ろうとしていたわたしは、殺されるぞと思って思わず顔を引きつらせた。だけど……。

 

「ええい邪魔だ、控えていろ!」

 

 驚くことに、サンタナはそう恫喝はしたものの特に手を出すことも、吸収することもなく、ただどかすだけに留めたのだ。

 そして言われた子供たちも、幼さゆえの緩さはあるものの、「はーい」と了承を返してその場に腰を下ろす。

 

 え……っ?

 

 いや、ええ!?

 

 ちょっとちょっと、この二千年の間に何があったサンタナぁ!?

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「久しぶりだな、姉さん。元気そうで何よりだ」

「……サンタナもね。安心したよ」

 

 立ち話もなんだってことで奥のパーティ会場みたいなところに案内されたわたしは、豪華な机(サンタナ作)に着いていた。机の上には美しい細工が施された諸々の食器(すべてサンタナ作)が並んでいて、それぞれに豊かな自然の恵みが絶妙な具合に調理されて配されている。

 そしてお互いの横には数人の吸血鬼が控えていて、ベテランの給仕さながらに甲斐甲斐しくそして勤勉に動いている。

 

「あ、ありがとね」

 

 その中の一人から差し出された立派な杯(サンタナ作)を受け取ってみれば、そこには琥珀色の液体が満たされている……。

 

 ……っていやいや! なんなのこれ!? ホントなんなの!?

 この時期のサンタナ(というか柱の男全般)がどこで何をしてたかは原作で何も描写がなかったけど、マジで何がどうなってるの!?

 ものすごく文化的というか、文明的というか、ナイフやフォークまであるし、なんならお箸まであるんですけど、確実にここだけローマ以上の文明度じゃあないの!?

 

「どうだい姉さん、その酒は。昔、姉さんが言っていたことを実践してみた結果なんだが」

「えっ、あ、う、うん……おいしい、よ?」

 

 ……お酒には明るくないけどこれはわかる、バーボンだこれ!!

 嘘でしょ紀元前のメキシコでバーボン作ってるのこの子……!?

 

「ていうか、え? サンタナ、そんな昔にわたしがちょっとだけした話からこれ作ったの?」

「? 作り方は姉さんが教えてくれたんじゃあないか」

「いや、それはそうなんだけど、にしてもちょっとした合間の休憩の数分で終わったような曖昧な説明だったはずだし、そもそもサンタナには作る必要がないじゃない?」

「暇つぶしにやってみたらできただけのことだ」

「ええ……」

 

 やだ何この子、天才なの? 天才技術者? いくらわたしたちが種族柄ハイスペックだからって、そんな……ああいや、ハイスペック種族に暇と知識を与えたらこうなるのかな……。

 

 そう考えながら、とりあえずバーボン(サンタナ作)を改めて口に含む。アルコールは感じるけど、酔いを覚えるような感覚はゼロ。うーん、これじゃあお酒の楽しさが半減だぞ。

 

 そう思いながらも味だけはと口の中で転がしていたら、

 

「それに、こいつらにも娯楽は必要だったからな」

 

 再びサンタナが爆弾をぶち込んできた。思わずバーボンを噴き出しそうになったよ。

 

 いやもう、もう!

 ホントなんなの君! どうしちゃったの!?

 

 なんか穏やかな微笑み浮かべてイケメン度増してる気がするし、その態度で乃村ボイスはズルすぎるぞ!

 

 おまけに周りの吸血鬼たちも、尊敬どころか信仰すら感じさせる眼差しを向けてるんだけど!?

 

 ホントもう、この二千年の間に何があったんだよぉ!?

 




そのとき特派員の見たものは!?(画面下のテロップ
あ、CM入りまーす。

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