転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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24.神が住む山

 恐ろしい研究は全力で見なかったことにしたわたしは、ひとまずしばらくの間サンタナの城に逗留しつつ、彼の国を見て回ることにした。

 色々と気になるワードも多かったし、いずれ歴史になるこの地域の今も見ておきたかったからね。

 

 というわけで夜はサンタナの案内を受けつつ、昼は自分の足であちこちを観光する形で過ごすことになる。

 

 だけど、昼間外に出られないサンタナに代わってわたしのお世話係としてつけられた子が、当たり前のように半吸血鬼だったから見なかったことにはできなかった。息をするように彼女が人間じゃないことをあちこちで見せつけられたんだよね……。

 

「下界に行くには、ここから飛び降ります!」

「どう見ても崖な件」

 

 その子、トナティウに連れられてやってきたのは、崖だった。普通にどこからどう見ても断崖絶壁で、これをどうしたら移動経路に設定できるのか。

 

 いやうん、普通の人間が簡単には踏み込めない場所だからこそ、神として崇められるサンタナがいる価値があるんだろうけどさ……。これをなんかあるたびに登り降りするのは、ちょっと……。

 江戸時代の城が軒並み平野に建てられてるのは、それだけの理由がちゃんとあるんですよ! 主に平時に毎日山を上り下りするのがしんどいって理由が!

 

「ここが一番安全なんですよ! それではお先に失礼しまして……」

 

 そうやってわたしがドン引いてるのをよそに、トナティウは無邪気にそこから飛び降りた。

 

「トナティウーーっ!?」

 

 慌てて顔を出して下を見れば、ちょっとした段差や取っ掛かりをうまいこと使って落ちる速度を殺しながら、順調に降りているトナティウの姿が見えて……。

 同時に、その身体から出ている人型の(ヴィジョン)に、目を疑う。見たこともない花が五つ、その人型の周りを公転するかのように回っていて……うん、なるほど、あの子半吸血鬼でスタンド使いか!

 

 やれやれ。ここでもスタンド使いは引かれ合うらしい。さすがにこっちの大陸で歴史上の偉人に会うことはないっぽいけど、だとしても毎度のことながら喜んでいいのか悪いのか。

 

「……とりあえず追いかけるかぁ」

 

 どんどん小さくなるトナティウの姿に、そう呟いて背中から翼を生やす。たぶんこの高さから落ちても死なないけど、わたしは紐なしバンジーをする趣味はないんだ。

 

「わあ!? さすがはサンタナ様のお姉様ですね!?」

 

 そうやって持ち上げられると普段なら調子に乗っちゃうわたしだけど、迂闊なことを言うとこの地域の神話に名前を刻まれる可能性がある。今回ばかりは曖昧に笑い返すだけにとどめたのはかなりナイスな判断だったんじゃあないかな!

 

 そうして到着したふもとの集落では、まず神殿を見ることにした。遠目から見ても、見事な装飾や壁画が施された大きな建物は、歴史クラスタの心をくすぐるのだ。

 

「アルフィー様! こちらがサンタナ様を祀る神殿です!」

「うわあ、めっちゃ祈られてる……」

「サンタナ様は偉大な神様ですからね!」

 

 ふふーん、と自分のことのように胸を張る(その胸は平坦であった)トナティウはさておき、サンタナは本当に崇められてるんだなってことがあちこち見たことでよくわかった。

 

 人間はほとんどが台地の下に住んでて、サンタナや吸血鬼とは明確な線引きがされてるんだけど、彼らは毎朝夜が明けるとまずサンタナの城がある台地に向かって祈りを捧げる。夜闇から人々を守る神という扱いみたいで、無事に朝を迎えられたことを祈る儀式が毎日絶やすことなく行われてる。

 わたしはこれを見学したわけなんだけど、決して広くはない神殿の中に老若男女が並んで、平坦ながらも確かな抑揚のある歌を奏でる様はまさに宗教行事って感じがして興味深かった。

 

 と同時に、改めて神様としてひざまずかれるのは性に合わないなとも思った。ちやほやされるのが嫌だとは言わないけど、やっぱり人間身の丈にあった生活ってあるよね……。

 

「……わたしのことは、神様扱いしないで適当にごまかしといて……」

「なんでですか? サンタナ様のお姉様となれば当然神様じゃあないですか!」

「それはその、ホラ、アレだよ。神様だってバレたら、普段の姿が見れないでしょ。わたしはありのままの姿が見たいだけだから……」

「な……なるほど! さすが神様がたは冴えてらっしゃいますね!」

 

 なんか、トナティウの後ろにぶんぶん振られる尻尾が見えるのは気のせいなんだろうなぁ……。

 

「ところで、あそこにある神殿とよく似たデザインの建物は?」

「はい? あ、あれですか。アレはですね、食料を下賜するための神殿ですね! 五日ごとに、吸血鬼の皆さんがあそこに食料を用意するんですよ!」

「ああ……あれベーシックインカム用の場所なのね……」

 

 サンタナから聞いてる。彼は自分の領土内ではすべての集落でこれをやってるらしい。有能か。

 

 おまけにこの配給、先天的な障害だったり精神的な疾患を持っている人であっても区別なく行われるそうだ。この時代であれば、真っ先に排除されるだろう人々もサンタナは等しく取り上げ、自分の民として差別しない。

 前世で何か大罪を犯したとか、神に嫌われたからとか、そんな迷信めいた差別を彼は許さない。だって障害がなんだろうと、食料とした場合のエネルギー効率は普通の人と変わらないもの。彼にとっては人間なんて、その程度の差しかないんだろうね。

 でも、人間にとってはそうはならない。どんな人間でも、サンタナの手が届く範囲にいれば生きていける。最低限の暮らしは保障される。つまり、ある意味で多様性が認められた社会として機能してるわけだ。

 

 その上で、様々な道具や知識も与えている。それが人々の暮らしを豊かにしているんだから、

 

「サンタナ様は素晴らしい神様なのです!」

 

 そりゃあ慈悲深い神様扱いも納得だ。祈られもするし、崇められもするよ。とりあえず、トナティウをよしよしして同意しておく。

 

「でもさ、サンタナは人間を食べるんだよ? それは怖くないの?」

「普通に死ぬならそう思うかもですけど、神様の血肉になれるなら怖くないです! それに、サンタナ様はそんなに頻繁に食事されるわけでもないですし!」

「そ、そっかぁ」

 

 他の人にも聞いてみたけど、みんな大体おんなじ感想だった。すごい、めっちゃ飼い慣らしてる……。

 

 ただ聞いた限り、ただ闇雲に名誉なことだって思ってるだけでもないみたいだ。どうもサンタナ、食べるのは主に「長きに渡る神への奉仕、功績の大なる人間」……つまり年寄りを中心にしてるらしい。しかもときには食べることなく、吸血鬼として眷属にする。

 となれば、人間なら懸念する殺されるという出来事も立派な慶事扱いになるわけで……よく考えてるよ、サンタナってば。

 

 城のある台地なんて、そのまま「神が住む山」って呼ばれてるもんなぁ。世界が違えばとんでもない信仰を稼いでる主神になっててもおかしくないレベル。

 そして彼に信仰を注ぐ人々の顔に、悲壮感はまったくない。二十一世紀の地球でも、これほど穏やかに暮らしてる人々が一体どれくらいいたことか。

 

 なるほど、これはわたしがどうこう言うのは完全にお節介らしい。それが、わたしの結論となった。

 確かにすべてを知っていれば、この人々は家畜の安寧を甘受するだけの存在に見えるかもしれない。だけど、彼らは幸せに日々を生きている。それを、部外者が違うって言うのはお門違いだよね。中からそう言う人が出てくるならまた話は別だろうけど。

 

 というわけで、あちこち見て回って納得したわたしは、帰省を終えてユーラシア大陸に戻ることにした。

 

「サンタナの国、堪能させてもらったよ。すごいね、直に見るとつくづくそう思う」

「姉さんにそう言ってもらえると、頑張った甲斐があったというものだ」

 

 サンタナが笑う。この間、決心を固めたからか今まで以上に表情が柔らかい。おかげで原作の彼と比べると別人感がすごい。

 

「次に会うのは、たぶん休眠期が明けてからになるだろうから……二千年くらい先かな」

「そうなりそうだな。俺がいない間、この国が保てばいいが……」

「それは難しいんじゃあないかな。人間の作る国が、二千年以上続いたって話はわたし知らないもの」

 

 地域の歴史として数千年以上続くところはあるけど、一つの王朝が大過なく千年、二千年続いたことなんて前世でも聞いたことがない。

 強いて言えば日本はそれに当たるかもだけど、それにしたって単に天皇家が続いてるってだけで、統治機構として考えれば他の国と大差ないもんね。そもそも、実在を確実視されてない人もいるし。

 

「……そのときはそのときだ。できる限りの備えはしておくが……」

「だよねぇ……」

 

 これについては本当にどうしようもないから、運否天賦に任せるしかないと思う。

 まあでも、千五百年後くらいに、ユーラシア大陸からコンキスタドールが来ることくらいは教えといてもいいんじゃあないだろうか。サンタナとしても、遠方から来た人間(コーカソイド)を自分と同類と誤認されるのは業腹だろうし。

 

「ふむ、確かに技術が進めばそれもあり得るか。なるほど。考えることが増えたが、備えられることを考えれば朗報とも言える。感謝するぞ姉さん」

「えへへ、どういたしまして」

 

 そんな会話を交わした翌日。わたしはいよいよ、メキシコを出立することにした。

 餞別としてサンタナが作った色んな道具をもらっちゃったから、これはショシャナたちへのお土産にしようと思う。

 

「姉さん、よければこれを連れていってくれ」

 

 ところが、そう言って差し出されたトナティウを見て、わたしは視線を限りなく遠くに向けた。

 この子を連れて帰っていいんだろうか。正直、嫌な予感しかしないんですけど。

 

 トナティウは、最初に言った通り半吸血鬼だ。それはもうこの際どうでもいいんだけど、聞けば今年でちょうど五十歳とのこと。つまり人間に当てはめると、大体高校生くらいなんだけど……要するに若い年頃の女の子なわけだ。

 

 さて問題です。そんな女の子を連れてわたしが帰ってきたら、果たしてショシャナはどういう反応をするでしょう?

 わたしには、修羅場になる未来しか見えないんですよぉ!

 

「あちらの大陸のこと、あたしこの目で見てみたいんです!」

 

 でもなぁ! わたしとほぼ同じ動機を語る彼女を無下にするのは、わたしのポリシーに反するんだよなぁ! これは断れない……!

 

「サンタナ、ホントにいいの? 人手はあんまり足りてないんでしょ?」

「構わない。姉さんのほうこそ、人手を求めてこっちに来たのに手ぶらで戻っては何を言われるかわからんだろう?」

「それはそうなんだけど……」

 

 というやり取りもあったしね……。うん、サンタナの完全な厚意だし、そういう意味でも断れないよね……。

 

 正直、ショシャナ関係で不安がある以外にも、検疫的な意味で大丈夫かなとも思ったりするんだけど……。これに関しては、柱の一族が行き来してる以上あんまり気にしても仕方ないかもだけどさ。

 

「……ええと、うん。移動は正直強行軍になるけど、そこは覚悟してねトナティウ」

「はいっ!」

 

 ショシャナとは逆に、根っからの元気っ子という感じのトナティウ。名は体を表すとは言うけど、もしかして世界共通なのかな。半分とはいえ吸血鬼に太陽(トナティウ)とか、よく名付けたなとも思うけど。

 

 そんなわりとどうでもいいことを考えながら、わたしは北に向けて走り始めたのだった。

 




二人目の家族枠。同じく期間は短いですが。
彼女のスタンドについては次の次あたりで。

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