転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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33.ペル・アスペラ・アド・アストラ 4

 ショシャナとトナティウにお願いすることはたくさんあるけど、それぞれにだけ伝えたいことがあって、それは分けて書き記しておいたからあんまりお互いに詮索しないでおいてくれると助かります。

 ……というわけで、ここから先はトナティウにだけのお話。あなたがこれを見てどう思うか、わたしには……想像はできても確信はできません。それでも、せめてわたしのお話に目を通してくれたら嬉しいです。

 

 では本題に入りましょう。わたしが二千年の眠りについたあとのこと。世界がどうなるかはまだわからないけれど、それはこの際気にしません。

 ただ気がかりなのは、ショシャナのこと。彼女が狂ってしまいやしないか、わたしはそれが心配です。

 

 いえ、寂しさに耐えかねて死を願うようになるのであれば、まだいいんです。それは悲しいけれど、でも受け入れることができます。

 

 だからわたしが心配してるのは、ショシャナが吸血鬼としての衝動に呑み込まれて、人を人とも思わない、殺しをいとうことのない化け物になってしまうこと。それが心配なのです。

 あの子は今も昔も、極端から極端に走る子です。生まれ育ちに不幸があって、それも仕方がないとは思うのだけど、それでもしたことをなかったことにはできません。それが悪いことなら、なおさら取り消すわけにはいかないのです。

 

 もちろん、自分以外から生命をいただくこと自体は、この世界に生きとし生けるものすべてが行なっていること。ですから、命を繋ぐために必要な分だけというのであればわたしは何も言いません。

 だけど……そうじゃなくて。たとえば自分の快楽のために。たとえばいわれのない復讐のために。そんなことのために多くの人を殺すようであれば、それは見過ごせません。

 

 ですから、もしショシャナがそうなってしまったときは、トナティウ。どうか彼女をとめてあげてください。そのために彼女が死ぬことになっても構いません。いえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……本当は、彼女を吸血鬼にしてしまったわたしがそれをしなければいけない。いっときの感情に流されるまま、石仮面を使ったわたしにはそうする義務があります。

 それを、眠ることをいいことにあなたにお願いしてるわたしは、ひどく身勝手で、傲慢で、浅ましいやつだなと思います。どれだけ罵られても、それは正当なものでしょう。

 

 ですが……それでも、伏してお願いします。どうか、どうかあの子に間違いを犯させないでほしい。

 どうか、どうか……。

 

 

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 ローマの街に突如現れ、その大部分を包み込む強烈な日光からかろうじて身を隠したトナティウは、近くから聞こえる戦いの音に耳を傾ける。

 その脳裏によぎるのは、主人から受け取った自身宛の手紙の内容。ショシャナの行く末をひたすらに心配する優しい主人の切実な懸念は、まさに今現実となっていた。

 

 テルティウスから日光を浴びせられたショシャナは。

 今もなお、高笑いをしながら戦い続けている。日光をものともせず、吸血鬼としての力を振るって破壊をもたらし続けている。

 

(光を浴びた端から全部発射し続けるなんて……いくらなんでも力技すぎですよ!)

 

 そう。ショシャナは自身が浴びた光を即座に発射し返し続けることで、無理やり日光を乗り切っていた。

 

 確かに彼女のスタンドには「触れたものを発射する」能力があり、光とて接触することで作用するものであるからには能力の対象になるだろう。だがそれは常にスタンドの力を全開にし続けているに等しく、いかな吸血鬼と言えど簡単なことではない。

 

 しかし吸血鬼であれば、不可能でもない。他人の命を、血液を介して奪う吸血鬼ならば。

 

 それはすなわち、必要以上に命を奪う行為に他ならず……トナティウは、ショシャナが派手にスタンドパワーを使い続けるその様を察して、主人が残した懸念は確実なものとして改めて認識した。

 

「WWWWWWRYYYYYY!!」

 

 今もまた、ショシャナの攻撃でインスラが一つ破壊された。傍目には謎の発光体が建物に突っ込んで破壊したようにも見えるが、それはともかく。

 

 壊れると同時に散弾のように吹き飛ぶインスラから距離を取りながら、トナティウは決意する。

 今ショシャナがしていることは、トナティウにとっても許容できない。だからこそ、ショシャナをとめる。たとえそれがテルティウスを助けることになるとしても、と。

 

 幸い、ショシャナは日光の対処に全スタンドパワーを割いているからか、発射を攻撃に使う気配はない。

 いや、現状は発射に専念している状態ではあるのだが、絡め手として戦いの要所要所に織り込むような使い方をしていない。それに伴ってか、動きも鈍い上にあの防御力もやや落ちているように見える。

 何せ、テルティウスがどこからともなく調達してきた槍がわずかとはいえ刺さったのだ。やりようはあるだろう。

 

 そう判断したトナティウは、あるものを求めてこの場を一時離脱することにした。ルブルム商会のローマ支店に行けばあれがあるはずだ。そう考えて。

 

 一方ショシャナと対峙するテルティウスは、己の命を顧みない捨て身の攻撃を続けていた。攻撃を回避しない、というような次元ではない。己の命を薪にくべて、スタンドパワーを全開にし続けているのだ。

 もちろん、吸血鬼でない彼がそんなことをすれば、死ぬ以外の道はない。だがそれを、彼は受け入れた。刺し違えて目の前の吸血鬼を打倒する。その一念であった。

 

 これによって、テルティウスは一度に顕現できるスタンドの枠を一時的に増やしていた。今は全盛期の頃同様に、五体の【ペル・アスペラ・アド・アストラ】を一度に繰り出せる状態にある。

 それらを駆使して、今までストックしていた様々なものを惜しみなく使い潰し、ありとあらゆる手段でショシャナを攻撃するのだ。

 

 傍目には、テルティウスが押しているように見えるだろう。何せ、そのほとんどの攻撃をショシャナは回避しないのだから。光の反射に力を注いでいる分、動きも鈍くなっているのである。もちろん、後々に響くだろうものは的確に回避しているが。

 しかし、この攻勢が長く続かないことをショシャナは見抜いていた。自身もまた急速に疲弊していることはわかっていたが、それでも先に力尽きるのは己ではないと確信していた。そしてそうなれば、もはや目の前の相手に一切の余力が残らないことも。

 

 それは相手を見くびっているというような話ではない。生命としての形の違いから来る、客観的な事実だ。

 

 だからショシャナは、守りを堅くする。どのみち、光を反射し続けているためにスピードなどは犠牲になっている。ただ時間を稼ぐだけで確実に勝てるのだから、下手に力を浪費しようとも思わない。

 

(何よりエネルギー切れになってくれたほうが、色々とできそうだしねぇ! 絶望した顔を拝んであげるわぁ!)

 

 ショシャナは、力尽きた相手を自身が思いつくありとあらゆる拷問でいたぶる気満々であった。彼女にとって、テルティウスはそうされるべき相手だった。

 

 そんなショシャナの嗜虐心を認識しながら、テルティウスは網を放る。戦いながら移動するさなか、拾ったものだ。

 もちろんただの網ではない。既に波紋の性質が付与されており、これに絡め取られればショシャナは大ダメージを余儀なくされるだろう。

 

 とはいえ、こんなあからさまな危険物は当然ショシャナももう受けない。だからこそ、テルティウスにとっては当たれば儲けもの程度でしかない。

 

 すぐさま次の攻撃を放つ。後ろ手に隠していたナイフを、回避の動きを取っているショシャナ目がけて投げた。

 

 だがこれは、あっさり腕で弾かれ明後日の方向へ飛んでいく。目標を失ったナイフは、そのまま転がっていた木箱の残骸に刺さった。

 

 それを確認するより早く、テルティウスは前に出る。猛然とショシャナに肉薄し、年齢に釣り合わない鋭い正拳突きを放った。

 

「あはははははは、あはははははは!! 効かない、効かないわッ!!」

 

 それらを当然のように受け流しながら、ショシャナは嗤う。かなりの波紋が乗った攻撃でありながら、それはほとんど効いていなかった。

 

 何せ、光すらも触れた瞬間に発射して無効化しているのだ。波紋も同じ道を辿ったにすぎない。

 そしてそれを操るテルティウスの身体もまた、能力によって強引にショシャナから引き離される。もはや何度も繰り返された光景だ。

 

 だが、今回は違った。

 

「いや、これでよい」

 

 テルティウスはにやりと笑う。攻撃が一切通じなかったにもかかわらず、不敵に。

 

 その態度が、ショシャナは気に入らない。この男は彼女にとってできるだけ惨たらしく死ぬべき相手で、そんな相手がいまだ負けるつもりがないことに苛立ちを覚える。

 

「ふん、いい加減諦めればいいものを!」

 

 地面を転がりながらも立ち上がるテルティウスをよそに、ショシャナは瓦礫の中に飛び込む。

 今の彼女は全自動発射装置だ。触れたものを片っ端から乱射する。瓦礫もまた、その大小に関わらず一気に発射され、またしてもいくつかのインスラが傾いていく。

 

「もちろん……諦めるはずがなかろう!」

 

 その間をすれすれでくぐり抜けて、テルティウスが再度ショシャナに迫る。

 手には、先程あっさり弾かれたナイフ。転がったときに拾い上げたそれには波紋に加えて波紋の性質そのものまで与えられていて、黄金の輝きを放っていた。

 

 光とはまた若干異なるその光彩に、ショシャナも警戒を強めて身構える。これにだけは触れるわけにはいかないと判断して、今しがた崩れ終わったインスラの瓦礫の山に踏み込む。

 

 再び、大量の瓦礫が無数の弾丸となって発射された。テルティウスはもう一度、その隙間を潜り抜けようとするが……今度は完全にはかわし切れず、手にしていたナイフを撃ち抜かれ取り落としてしまう。

 彼はそれでも、前に進むことをやめない。ここで立ち止まったり、背中を向けようものならその瞬間無駄死にするということを理解しているがゆえに。

 

 しかし、現実は非情だ。痛打を全身に負いながらも気力で瓦礫の弾丸の雨を潜り抜けたテルティウスの身体から、急速に光が消え始めた。スタンドによって付与された日光が、遂に底をついたのだ。

 

 ショシャナが暗く嗤う。死と隣り合わせの綱渡りをするかのようなギリギリの前進をなんとか切り抜けたというのに、ここまで来て頼みの綱を失うという相手の間の悪さに、心底愉悦を感じながら。

 

 その顔のままで、彼女はこれまでの守勢が嘘であったかのように一転攻勢に出た。光の対処に割いていた力を、テルティウスの発射に振り分けるべく姿勢を整え、猛烈な力を腕に込めて振り抜ける。

 

 果たしてその一撃はテルティウスの身体を捉え、……そして、その感触にショシャナは顔色を変えた。

 

 今まで殴ったことのない硬さだった。【ラ・ラガッツァ・コル・フチーレ】をまとった身では、一度とて感じたことのない強烈な硬さ。()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

「どうやらぎりぎりで間に合ったようじゃな……ふふ、わしは悪運が強い」

 

 吹っ飛んだ先から戻ってきたテルティウスは、無傷だった。

 その姿を見て、ショシャナも察する。

 

「まさか、貴様……! ()()()()()()()()!」

「おっと、気づいたか。左様、左様。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして一撃を食らう直前に、それを自分に入れたということじゃ」

「いつの間に……!」

 

 その言葉を受けてもう一度にやりと笑い、テルティウスは己のスタンドを一体繰り出す。現れたリスのような姿のそれは、今までと違い注射器のような尻尾に何も入っていなかった。

 

 そのスタンドが、今しがた戻って来るときに拾っていた剣に尻尾を突き立てる。すると、その尻尾の中に剣の形をした陽炎が現れた。

 

「そうか……さっきまで、私の防御も少し弱まっていたから……!」

「その通り。槍が少しでも刺さるくらいであれば、我が幽波紋はその真価を発揮できる」

 

 テルティウスのスタンド、【ペル・アスペラ・アド・アストラ】。その能力は性質の付与だが、そのためには一度、付与する性質を何かから調達する必要がある。

 今見せた行為こそそれだ。対象から、性質を抽出する。これで今、テルティウスは剣の性質である【特定部位に触れたものを切断する】性質を一つ獲得した。

 

 とはいえ、対象から性質を抜き取り空にすること……つまり性質を完全に奪うことはできない。抽出とは言っても、その実態は転写のようなものだからだ。

 

 しかし、それでも。

 

「さて、これでようやく五分かのう。いい加減決着をつけようではないか」

 

 ショシャナが持っていた、絶対的な防御力。そのアドバンテージが崩れた。

 




あけましておめでとうございます(震え声
今年もよろしくお願いします(震え声

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