ジョジョ原作の第一部ファントムブラッドを見たことがないという方はご注意ください。
おふろちょうきもちいい。
いやほんとほんと。何せ寝る直前がアレだったからね……そりゃもう、お湯が気持ちいいのなんのって。
ただ、子供が数人ついてきて、手取り足取りお世話してきたのには参ったよ。みんな本気でご奉仕しますって感じで、悪意どころか他意もなかったとは思うんだけど。こういう下にも置かない扱いってやっぱり慣れないんだよね……。根が小市民なもので……。
まあそんなわけだから、途中から遊ぶほうに持っていったけどね。子供たちも、見た目幼女な神様の相手なんて緊張するだけだろうし、こういうときはゆるーく行きたいじゃない?
決してまだまだ伸び代を感じる、だけど紀元前とは比べるべくもない石鹸の出来映えに感動して泡を作りまくったりしたわけじゃあない。子供たちと一緒になって泡作りに夢中になったりなんかしてない。
あと、個人的にはタオルにも感動したね。
確かタオルが世に出たのは、十九世紀の初めなんだよね。当然、これは紀元前には影も形もないわけで。今治のタオルにはそりゃあ劣るけど、それでもただの麻布に比べたら抜群の手触りだもの。
こういう文明の利器を見ていると、間違いなく世界は進んでるんだなぁ、って実感できて嬉しい。その歩みに寄り添えなかったのは残念だけど、逆にここから先はわたしも知らない時代がそのうちやってくるわけだから、そこを楽しみにしよう。
……その前に乗り越えなきゃいけない壁がいくつかあるけどね。
まあ、今はそれはともかく。
「お疲れ様でした。湯加減はいかがでしたか?」
「うん、よかったよ。ローマのお風呂を軽く超えてたよね!」
ローマのお風呂って、実は衛生観念ガバガバだからね! おかげで公衆浴場から伝染病が広がったりとかしてたというのは、ローマのお風呂文化の闇の部分だよね!
「ありがたきお言葉。……と、この喜びをしばらく噛み締めたいところですが、わたくしのことはさておき、食事にいたしましょう。この度は、今の我々に用意できる最高のものを揃えさせていただきました。どうぞ存分にお楽しみくださいませ」
「おおー」
ずらっと並んだ料理に、思わずぱちぱちと拍手をする。
いや、だってだいぶ豪華だよこれ。料理の歴史はさておき料理自体は詳しくないから、どんなものかはよくわからないけど……とりあえず、並んでるナイフフォークからしてフルコースなのは間違いなさそう。
言語が英語ってところが、正直一抹どころじゃない不安を煽るけどね。きっかり二千年寝たんだったら、たぶん今がメシマズの国イギリスの頂点な時代だろうから……。
イギリスじゃなきゃいいじゃないって思われるかもしれないけど、私見ではイギリスの植民地だったところって食事がまずい国が多いんだよなぁ……。
「まずは前菜からです」
けど、やってきたものを恐る恐る食べたわたしは……どうやら杞憂だったらしいと思い知らされた。
いやあ、なかなかどうして美味しいじゃない! 少なくとも、ローマのものよりは確実に上だよ! コショウは偉大だ!
聞けば、わたしにまずいものは食べさせられないと、長年腕を磨いたシェフが何人もいるらしい。ショシャナ並みの執念にちょっと引いたけど、美食の前にはかすんじゃうんだなぁ。
それからわたしは、しばらくの間二千年ぶりの食事に酔いしれるのだった。
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「さて、一段落したところで本題に入りましょう」
「うん、お願い」
食後に出された紅茶を楽しみながら、わたしは目の前の女性に頷いた。
うーん、イギリス流の紅茶だ。やっぱりここイギリスでしょ。お風呂と食事を見る限りそうは思えないけど、絶対そうだよ。よくよく聞いたらクイーンズイングリッシュだしこれ。
「と言っても、何から話せばよいやらですが……そうですね、やはりまずは今がいつか、でしょうか」
「うん、たくさん話題はあるだろうけど、そこが一番気になる」
わたしたちは二千年周期で眠るけど、絶対きっかり二千年、ってわけじゃないから誤差はあるんだよね。わたしの予定だと、十九世紀末くらい……1880年代くらいだと思ってるんだけど……まあ、狙いすましたタイミングで起きたとは思ってない。絶対何年かズレてるはずだ。
わたしがそう伝えると、彼女はまた目を大きく開いて驚いた。
「……我々から言わずとも、西暦をご存知でしたか。さすが神……」
「え。あ! いや、まあその、い、一応タネも仕掛けもあるんだけどね、まあうん!」
しまったぁ! ついいつもの癖で!
そりゃそうだ、二千年前とかキリストもいないんだから、世紀とかそこらへんの概念もないよね! くそう!
こういうことをうっかりやっちゃうから、知の神だとかなんだとかって祭り上げられるんだよな……! いい加減気をつけなきゃ……できるかどうかわかんないけど、次に寝て起きたらわたしの前世知識まったく使えないだろうし……!
……でも
ショシャナにはキリスト関係のものをできればサイン入りでお願いしてたけど、手に入ってるかな……どうかな……。
って、いや、それは今は後回しだよね! うん!
「それはともかく、実際のところどうなの? 今っていつくらい?」
「はい。今は
「へぇー、じゃあもう二十世紀に入ってるんだ。ってことは飛行機もばっちり飛んでる時代……で……」
答えを聞いてうんうんと頷いたわたしだったけど。
え。
いや、ちょ、ちょっと待って? 待ってよ?
1934年? せんきゅうひゃくさんじゅうよねん?
「……は!? 1934年!? うそ!? 二十世紀入ってる!? マジで!?」
理解するまで時間かかった! 理解できなかったよ!
そして理解すると同時に、わたしはテーブルをたたきながら立ち上がる。
その剣幕に、周りにいた全員がびくりと身体を震わせて顔をこわばらせた。
「え、は、はい……二十世紀ですが……あの、どうかなさいましたか?」
「そ、そんな……そんな……こんなのってないよ……あんまりだぁ……!」
だけど答えは肯定で……わたしは思わず頭を抱えて顔を伏せた。
だってそうでしょ!?
二十世紀に入ってたら!
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ジョジョの奇妙な冒険、という物語をここで少しおさらいしておこう。
物語の舞台は、
二人はそこから衝突しながらも青春時代を共に過ごすけれど、最終的にディオは石仮面によって吸血鬼となり、命を懸けた戦いを繰り広げることになる……と、言うのがジョジョの物語だ。
正確には、第1部ファントムブラッドのあらすじが、だけれど。
そう、ジョジョの始まりは十九世紀なのだ。断じて二十世紀じゃあない。1934年なんて、とうの昔に第1部が終わっている時期なのだ!
そしてこの第1部、なんと主人公のジョナサンの死によって幕を引く。しかも蘇ったりとか、そんな奇跡は何も起こらない。彼は淡々と、しかしすこぶる美しい最期を迎えて、物語を次に繋げていく。
……うん、そうなんだ。ジョナサン、死んでるんだよ。
わたしはジョジョの世界の犠牲者を減らそうと決意して、なんとかこの時代までやってきたっていうのに!
一番救いたい物語のメインキャラ、しかも劇中で明確に死亡して終わった一人であるジョナサンを救えない、だって!?
そんなの、そんなのあんまりすぎるじゃあないか!! 凹むなっていうほうが無理だよ!!
それだけじゃあない。ジョナサンは……ジョナサン・ジョースターという男は!
わたしにとって、一番推しのジョジョなんだ! 8人いる歴代のジョジョの中で、わたしが一番好きなジョジョ! 気は優しくて力持ちを地で行く、男らしいことは優しいことだと言うような生き様が大好きなのに!
彼は、彼だけはどうにかして助けたかった! エリナさんといつまでも仲睦まじく生きている彼が見たかったのに!!
なのに……なのに、寝過ごした!? バカじゃないのわたし!! いくらなんでもバカすぎる!!
「……あの、アルフィー様……一体何が……」
「……ごめん、ちょっと今すごくショック受けてるところだから……」
「はあ……申し訳ありません」
わたしは椅子の上で膝を抱えて、背もたれを前にしてどんよりしている。
なんで……どうしてこんなことに……。
やっぱり、大きなダメージを受けて眠りに入ったのがいけなかったのかな……。
前にもスタンドの矢で痛い思いをしたあとの眠りは、普段より長かったし……。日光を浴びて石化したんだったら、多く寝てもおかしくないよなぁ……。
カーズ様たちより少しでも先に目が覚めたのは、不幸中の幸いなんだろうけど……気休めにしかならないよ……。
ううう……。ジョナサンと話がしたかった……。
彼なら、大学で考古学を専攻してた彼なら絶対話が合うのに……。わたし昔のものいっぱい持ってるから、それをさかなに歴史トークがしたかったよぉ……。
なんで……どうしてこんなことに……。
はあ……。
……これからどうしよう。ジョナサンを助けてファントムブラッドを大団円にして、ジョースター家と一緒にカーズ様の復活に備えようとしてた案が、完全にポシャってしまった。
あわよくば日本に大量のテコ入れをして、第二次世界大戦の犠牲者も減らそうと思ってたんだけどな……今からやれることなんて、もうほとんどないよ……世界恐慌もとっくに始まってるし……。
ていうか、1934年ってもう第2部直前じゃあないか……。
だって第2部戦闘潮流の始まりは、1938年……四年後だよ。すぐだよ四年なんて。柱の一族的には一瞬だよむしろ。
四年……四年の間何をしてようか……。何かするには時間が足りないけど、何もしないとめっちゃ持て余すよなぁ……。というか、何ができる……?
だってあれでしょ……1934年ってことは、ジョナサンの息子でジョセフのお父さんであるジョージはとっくに死んでるでしょ。リサリサだって国際指名手配されて、イタリアに隠れてるはずだし、できることなんて何もないと思う。ジョセフの初飛行機墜落事件だって、多分終わってるだろうし……。
あとは……あれか、シーザーがグレるきっかけになったお父さんの出奔もとっくに終わってるよなぁ。なんならシーザーが波紋の修行を始めるきっかけになった、お父さんが死ぬ事件も終わってる可能性すらある……。
他に何か……と無理くりひねり出すとしたら、チベットの山奥まで行ってストレイツォを暗殺するくらい……? でもそれにしたって、実質2部の物語的にはそんなに影響ないしなぁ……。
はあ……ほんと……わたしってほんとバカ……。
はい、というわけで時系列発表。第二部直前の1934年です。なので今章は、第二部の前日譚的なお話を予定しております。これ以上プロットがエイヤハーしなければですけど。
と、ここからはオリジナル展開になった言い訳タイムなのですが、本当は作者もファントムブラッドから始めようと思ってたんですよ。作中でアルフィーが語っていたプランは作者のプランでもあるのです。
ただアルフィーをファントムブラッドにぶち込むと、どうシミュレーションしても冒険が始まらないんですよ。始まってもすぐ終わる。ファントムブラッドの段階だと、今のアルフィーでも過剰戦力すぎて。
あとそもそもの問題として、第一部を大団円で終わらせると第三部以降のジョジョが全部起こらないんですよね。その状態で無理にでも承太郎たちを出そうとすると、1988年から2011年までずーっと完全オリジナル展開を延々やることになるわけで。
二次創作としてそれはそれでありなのかもですが、それは作者の書きたい話ではないというか・・・そんなクソ長いオリジナル展開やるくらいならジョジョでやる必要なくない? ってなるんですよね。
まあ、戦闘潮流以降をやらずカーズ様倒しておしまい、って締めればそんなことで悩む必要なんてなくなるんですけど、一書き手としては挑めるなら挑みたいじゃないですか・・・。