転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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5.第四の矢

 ……聞こえてるんだよなぁ。あいにくと普通の身体してないもので……。

 

 まあでも、わたしを観察……監視? してることはわかってた。そういうつもりじゃない人間が大多数だろうけど、ちょこちょこそういうつもりの人間も紛れ込んでる。そういう気配を察することができるくらいには、わたしも人間じゃあないんだ。

 

 とはいえ、それを咎めるつもりはない。むしろ好ましく思ってるくらいだ。

 だって二千年前、ルブルム商会の人たちはそのほとんどが盲目的にわたしを信じてくれていた。信じてくれることが嫌だとは言わないし、命を助けた人たちがルブルム商会を作ったんだから、無理もないとは思う。

 けどやっぱり、わたしは小市民なのだ。憧れを一身に集めるのは、居心地が悪い。わたしは超常の存在として憧れを集め君臨するより、理解できる身近な隣人として笑い合っていたいんだよね。つくづくそう思う。

 

 いや、伯爵の言葉でそう気づいた。

 だからこそ、わたしを見極めようとする今のルベルクラクの人たちのありようは、わたしにとっては好ましい。わたしという存在を盲目的に信じようとはせず、どういう存在なのかを見極めようとしている。それはわたしという人格を見てくれていると感じられる行いだ。

 

 ……ショシャナやトナティウたちとも、そういう関わり方をするべきだったんだろうか。わたしは家族だと思ってたし、そう接してたつもりだけど。彼女たちの神聖視を積極的にやめさせようともしていなかった。そういうところなのかもしれない。

 実際のところどうなのかは、今となってはもうわからないけど。

 

「それにしても、サンタナ王国はわたしたち柱の一族に対して否定的なのかな? それは、……まあ、人間としてはある意味正しいあり方にも思うけど」

 

 あれほどサンタナを信仰していた土地で、サンタナ信仰が薄れているらしいという話は、にわかには信じがたい。

 けど、何世代も経れば考えが変わるのは当たり前のことだし。サンタナ王国であってもそれは変わりないってことなんだろう。

 

 わたしとしてはむしろ、ルベルクラクが今でもわたしに対して好意的なのがびっくりだ。伯爵たちは色々思うところがあるみたいだけど、それでも決して嫌われているわけではないらしいし。今までそれだけの利益を享受できたってことなんだろうか。

 

「……いやでも、それはそれとしても、伯爵がそっちの道の人だったとは」

 

 視線にまったくいやらしいものがなかったから、気づかなかった。視線からは父性しか感じなかったんだけどな……ここら辺、わたしはやっぱりワムウたちにはかなわないんだろうな。

 まあそれはいい。仮に伯爵がわたしに手を出そうとしたところで、波紋使いでもなければスタンド使いでもない彼にわたしをどうこうできるはずもない。はず。普通の銃火器でもわたしたちを殺しきるのはできないしね。

 

 問題は、彼が養子にしたあの子供たちだ。まさかとは思うけど、あの子たち性的な被害を受けてたりしないだろうね?

 あるいはそういう裏稼業に手を染めたたりとかしないだろうね?

 

「ちょっと調べてみるかぁ」

 

 そんな不安に駆られたわたしは、スキを見計らって伯爵を調べてみることにした。

 

「こちらがアルフィー様のために仕立てましたドレスです」

「うわぁお姫様みたい」

 

 まあ、それは少し後回しだ。今は着せ替え人形の仕事が先決だね。

 オタクだったとはいえ、わたしだって女の子だ。こういういかにもなドレスには憧れてたんだよね。幼児向けのドレスってのが気に食わないけどそこは仕方ない。

 

 ……こういうのが用意されるのは、ある程度の身分がある人たちと顔を合わせる機会に備えてのことだろうか。伯爵の趣味……ではないと信じたい。切に。

 

 

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 無事着付けも終わって、わたしは与えられた部屋に戻った。ということで、早速調べていこう。

 

 と言っても、人を使って調べるなんてできっこない。わたし一人でやれることにも限りがある。

 部屋の外にはいつでも万全に準備を整えた使用人の人たちが待機してるけど、調べる対象が対象だけに彼ら彼女らの力を借りるわけにもいかない。

 

 じゃあどうするか? 答えは一つだ。

 

「【ネヴァーフェード】」

 

 手元に弓と矢が現れる。ルビーのような光沢を持つ赤い弓は、二千年ぶりのスタンド【コンフィデンス】。そして出てきた矢は、眠りにつく直前に生まれた四つ目の矢。

 鏃に刻まれた紋様は、雫だ。この矢をつがえ、わたしは屋敷に撃ち込んだ。

 

 けれど、屋敷に物理的な衝撃は伝わらない。この矢には攻撃能力は一切ないのだ。その点では、回復能力である【センド・マイハート】と同じと言える。

 だけどこの矢の効果は、回復じゃあない。わたしは屋敷に刺さった【ネヴァーフェード】に歩み寄って、しばらく様子を見たあとそれを引っこ抜いた。

 

 鏃を顔に近づける。そこにある雫の紋様の色が変わっていた。黒だったそれが、白く。

 

「えぇ……こんな短時間で終わるの。【ムーディーブルース】が涙目じゃあないか……」

 

 そうひとりごちながらも、わたしは【ネヴァーフェード】を自分の頭に突き刺した。

 するとその瞬間、わたしの脳裏に記憶が流れ込んでくる。【ネヴァーフェード】が抽出した、ルベルクラク伯爵邸の記憶だ。

 どうやら制御がまだうまく行かないみたいで、この屋敷が建てられたところから今日に至るまでの記憶が一気に流れ込んできた。あまりにも大量の記憶が一気に来たものだから、頭痛が走って思わず頭を押さえる。

 

 ……これ、わたしが人間だったら頭パンクしてたんじゃあないだろうか。物理的に。これでもかなり条件を絞った記憶だけを抽出したつもりなんだけどな。物理攻撃力はないってさっき言ったけど、訂正しよう。使い方次第では攻撃手段になるかもしれない。

 ……でも怖いなぁこれ。検証してみたくはあるけど、何が起こるかわからない。申し訳ないけれど、小動物で検証するところから始めたほうがいいんだろうな。

 

 と、そうこうしてるうちに記憶の流入が終わった。【ネヴァーフェード】を抜くと、そこにある雫の紋様は黒に戻っていた。

 

「……うーん、シロだなぁ。なんで伯爵はあんなこと言ったんだろう?」

 

 その記憶によれば、伯爵は別に子供に対して性的な虐待はしていない。というかこの屋敷が建てられて三百年ほどが経ってるみたいだけど、その間この屋敷の中でそういう非道が行われた形跡はなかった。

 わたしの勘違い……というか、伯爵の言い方が悪かっただけなんだろうか。

 

 ……いや、そう決めつけるのはまだ早いぞ。ルベルクラク伯爵家の不動産は他にもまだまだあるはず。つまり他の場所でそういうことが行われてる可能性はあるはずだ。

 他の場所に行き機会があったら、そこも調べて行こう。うん、そうしよう。

 

「それにしても……これまたわたし得な矢ができたなぁ」

 

 手元から【ネヴァーフェード】を消しながら、思わずつぶやく。

 

 いやだって、わたしの記憶を他人に与えたり、射貫いたものから記憶を引き出せる。しかもその対象はわたし自身も含まれるんだよ? そんなの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 建物に使えるってことは土地にも使えるだろうし、道具にだって使えるはずだ。つまり、それらが歩んできた道のりを、追体験できるってことで。

 完全にわたし得がすぎる……!

 

 いやうん、わかってる。眠る直前、大ダメージを受けたときに生まれた能力だから本質はそこじゃあない。この能力の本質は、あくまで情報の伝達のはずだ。

 これさえあれば、口で説明しなくても見たもの聞いたものをそのまま伝えられる。敵の情報だって一瞬だ。事件が起きたら、犯人をすぐに見つけることだってできるだろう。

 あるいは、パスワードとか知られちゃいけない隠し場所とか、そういうのを暴くのにだって使えるだろう。悪用しようとしたらいくらでも使える能力だと思う。

 

 ……でもなぁ、悲しいかなこの能力の持ち主はわたしなんだよなぁ。もうね、手に取るようにわかるよ。未来のわたしが、大英博物館の展示品に片っ端から【ネヴァーフェード】する光景が……!

 

 

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 それからさらに数日。わたしは色んな方法で【ネヴァーフェード】の検証を行った。

 方法は割愛するとして、わかったこととしてはこの能力、記憶を抽出するためには対象に矢を撃ち込む必要があるんだけど、自動では戻ってこない。だって刺さって止まってるもの。軌道も操れない。

 つまりしっかり記憶を取り込みたいなら、自分で取りにいかなきゃいけない。おまけにちゃんと情報を受け取るには、頭に刺さないとほとんど効果が出ない。

 なんというか、妙なところで使い勝手が悪い。おかげで博物館では使えないだろう。とっても残念だ。

 

 ただ、情報の伝達手段としてはものすごく優秀な能力だ。何せ抽出する記憶の選定はかなり細かく条件付けして取り出せるのだ。適当に「性的虐待」で検索かけるだけでも十分絞り込めるんだよね。人に伝える場合も同様で、スタンドが法廷での証拠能力を認められたとしたらものすごくヤバいスタンドに早変わりするだろう。

 まあまだそんなに多く条件はつけられないんだけど、訓練を積めばなんとなくできそうな気がする。スタンドでできるって思うのは大事なことだ。

 

 そして懸念していた攻撃能力についてだけど、使えないことはないけど微妙、って感じかな。

 

 この世界には、限界というものがある。特に生き物には、それが顕著に存在する。

 記憶も例外じゃあない。覚えていられる記憶には限度というものがある。世の中にはサヴァン症候群なんてのもあるけど、それはともかく。

 

 ところが【ネヴァーフェード】は、この限界を短時間で一気に飽和してしまうだけの記憶を対象に与えることができる。できてしまうのだ。

 するとどうなるか。これが恐ろしいことに、懸念した通り頭が物理的にパンクする。

 

 するんだけど……さっきも言った通り、しっかり情報を渡すためには頭に刺さないといけない。これは攻撃に使おうと思っても同じだ。つまりヘッドショットできないとパンクはしない。

 でもね、普通の生き物は【コンフィデンス】の通常の矢でも、頭にぶち込まれたら大体死ぬんだよ。なんならわたしが全力で放つ矢は普通にコンクリートを破壊できるから、お腹に当たるだけでも致命傷に持っていける。わざわざ【ネヴァーフェード】という別の能力を使ってまで、頭を破裂させる必要性がなさすぎるんだよね。

 

 さすがに一万年以上生きてるわたしの記憶を全部ぶち込めば、頭以外のところに刺さっても多少効果があると思うけど……それにしたって普通の矢を射ればいいわけで……なんていうか、攻撃能力としてはすこぶる微妙ってわけだ。

 これを攻撃として使うメリットって言ったら、傷跡が外傷じゃなくて中から破裂した形になる分、殺人と思われにくいってくらいじゃあないだろうか。でもそれにしたって、スタンドを使えばいかりゃく。

 

 まあ、現状でできないからってあんまり嘆くことでもない。スタンド能力は成長するのだ。もしかしたら、もっと使い勝手がよくなっていくかもしれない。

 そのためには、スタンド能力の修行も欠かせない。今までもやってはきたけど、しばらくは【ネヴァーフェード】に比重を置いて訓練していくことにしよう。

 

 と、そう決意したところで、いよいよロンドンに行けることになった。

 

「おおー、これがこの時代の車!」

 

 そのための足は、自動車だった。

 自動車の歴史はそこまで詳しくないんだけど、大衆車が広まるきっかけになったフォードのT型が確か二十世紀初頭の製品だ。1930年代ともなれば相応の進歩をしていて、見た目は前世のわたしが生きてた頃のデザインにかなり近くなっている。なんなら博物館で見たことがあるやつだ。それが実際に動いてるところを見れて、しかも乗れるなんて感動だ!

 

「初めてお乗りになるでしょう? ドライブを楽しみながらゆるりと参りましょう」

 

 まあ、伯爵と一緒に後部座席に並んで座ることになったときは、どうしようかなとも思ったけどね。でも何もなかった。

 

 そんな感じで、カーディフからロンドンまで車で揺られること……えーと、何時間だったかな。1930年代の風景をずっと眺めてテンションぶち上げてたから、そこらへん曖昧なんだよね。

 なんだか周りからはとても微笑ましいものを見るような目で見られてたような気もするけど、それは気のせいだと思いたい。でもあとでカメラは買ってもらおう。

 

 というわけでやってきたロンドンのルベルクラク別邸。本邸にも劣らない随分と立派な建物だったよ。

 門の近くではためくルベルクラクの紋章入りの旗が印象的だ。あ、ちなみにルベルクラク家の紋章はカーバンクルがモチーフだ。そのものずばりって感じだね。

 

「アルフィー様に於かれましては、こちらのお部屋をお使いください」

 

 案内されたのは、歴代の嫡子が使ってきた部屋……ではなく、ゲストルームだ。

 嫡子の部屋とかそんな内外に明確な意味を持つ部屋を使うなんて、あとあと絶対面倒なことになりそうだったからね。わたしとしては書斎でもよかったんだけど、それは伯爵が申し訳ないってことで、間を取ってゲストルームに入ることになった。普通の部屋は、子だくさん(前にも言った通り全員養子だけど)なこともあって埋まってるんだよね。

 

「……ゲストルームってレベルじゃあないよね。もしかしなくても一番いい部屋なんだろうなぁ……」

「もちろんでございます」

 

 というやり取りもあったけど、これはもう慣れるしかないんだろうな。既にわたしは、世間的にはイギリス貴族の一員なわけだし。

 

「長距離を移動してきましたのでお疲れでしょう。お風呂と食事の用意をいたしますので、しばらくお待ちください」

「いつもありがとうねぇ」

「いえいえ、それが我々の存在理由ですので。……では何かありましたら、本邸と同じく使用人を控えさせておりますのでそちらまでお願いいたします」

「ん、わかった。また食事の席でね」

「はい、お待ちしております」

「さて……」

 

 ばたん、とドアが閉じて伯爵が消えた。

 広い室内を見渡す。見える範囲では特に気になるものはない。耳で聞こえる範囲も。

 

 では、早速この屋敷の記憶も確認させてもらおうかな。伯爵が何も悪いことをしてないと信じて……!

 

「【ネヴァーフェード】!」

 

 そしてわたしは屋敷から記憶を取り出し、いつものように自分に移す。

 だけどやっぱり、伯爵が悪事を……性的虐待をしているような記憶はどこにもなかった。歴代においても同様だ。まあ、たまにゲストルームに泊まった別の貴族がそれっぽいことをしてたのは、見なかったことにするとして。

 

「……やっぱり、わたしの勘違い? いや、勘違いだとしたら伯爵も言い方が悪いよなぁ……」

 

 ちょっとむくれた顔をしながら、わたしは【ネヴァーフェード】の鏃をジト目で見つめる。

 

 なんだろうな、この肩透かし感。いや、いいことなんだけどね。いいことなんだけど。

 




コンフィデンス第四の矢:ネヴァーフェード
破壊力:なし スピード:なし(本体に依存) 射程距離:B 持続力:A 精密動作性:C 成長性:B
(現時点のステータス。【センド・マイハート】と共通。射程距離以降は他の能力とも共通)
矢で貫いたものの記憶、あるいは自身の記憶を鏃に宿し、それを次に射貫いた相手に転写する能力を持つ。ただし十全な転写は頭を射貫く必要がある。
渡せる記憶は柔軟に取捨選択が可能で、ものすごくピンポイントに絞り込むこともできる。
情報の抽出は比較的短時間で行えるが、条件をつけるなど複雑な取り方をすればするほど必要な時間は増えていく。
一応攻撃に使えないこともないが、本文中にあった通りこれを攻撃に使うくらいなら普通に矢を射るほうが楽だし早い。
雫の模様が施された矢。記憶を宿した状態の模様は白く、そうでない状態の模様は黒い。
【スターシップ】同様、同時に出せるのは一本だけで、大元の能力で出せる七本のうちの一本に数えられる。

ぶっちゃけほとんどメモリーボムですね。攻撃に使えないこともないこととか、一度に一発しか射れないとか、生き物以外にも使えるとか、違う点もありますけど要点としては大体同じ。

ちなみに伯爵は本当にロリコンじゃないんですよ。ただ言い方が悪かっただけで。

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