それからしばらくの間、何回かに分けてジョースター家の様子を探ってたけど、ジョセフはほぼ原作通りだったので安心した。お調子者で、ずる賢くて、でも家族想いで、筋の通らないことは嫌いで、やるときはやる男。それがジョセフだ。
ただ、原作との違いはほとんどなかったけれど、第2部の四年前の現時点でローマの基準で言う真ん中手前くらいの腕前があるのは普通にヤバいなって思う。
だってまだ十三歳でしょ彼。それであれって絶対ヤバいよ。たぶんだけど、原作の戦闘潮流開始時点くらいは普通にある気がする。ここからまだ伸びるだろうことを考えると、どこまで行くことやら。さすが生まれつき波紋が使えた申し子、心強い。
それからこのジョースター家調査の間にわかったこととしては、SPW財団の今についてもある。
スッピーは原作通りテキサスで単身油田を見つけて大富豪になっていて、設立した財団で色んなことをしてるようだ。けれど今も、ジョナサンとは友人として親交がある。
原作ではジョナサンが死んでるからこそ、あれだけジョースター家に親身になってる……と思ってたけど、この世界でも普通に親身だ。普通に家族ぐるみの付き合いがあって、あなた本当にアメリカに住んでる? ってくらいの頻度でジョースター家に来てる。
おまけにイギリスに戻ってきてるときは、必ずジョースター家に泊まるくらいには仲がいいらしい。ジョセフからも普通に家族みたいな扱いをされてた。この世界でも独身らしいけど、それはなんでだろうね?
そして重要なこと。スッピーはジョナサン健在なこの世界でも、ちょくちょくアメリカに来ないかってジョースター家を誘ってる。どうやら例の資産没収などで、ジョースター家の立場がイギリスにおいてあまりよくないことを気にしているらしい。
ジョナサンはそれでも故郷を離れがたいと考えているようで、アメリカ行きには消極的だった。尽くすタイプの女性であるエリナさんは彼に同意で、ジョセフは昨今成長著しいアメリカに興味津々、って感じかな。
どうやら戦闘潮流に至る流れはちゃんとあるらしい。あとは、四年後に彼らがアメリカに行くことになるかどうかだけど……ここで大丈夫そうだって思うのは油断だろうな。
うん、伯爵に頼んで裏から手を回してもらおう。そうだな、ジョナサンは考古学者だから……アメリカの一流大学に教授として引き抜き、辺りが一番違和感がないかな? 帰ったら相談してみよう。
そう思いながら、今日の盗ちょ……調査はこれくらいで終わっとこうかなー、なんて思ってたら。
明らかに人を避けた様子のジョナサンとスッピーが、書斎に入っていくのを見てしまった。
あやしい……あれは絶対何かあるやつだ。
だからわたしは、できるだけその書斎の近くまで寄って彼らの会話を聞くべく耳をそばたてる。
すると聞こえてきたのは……。
「どうだいスピードワゴン、
「安心してくれジョースターさん、誰にもバレちゃあいないぜ!」
「それならよかった」
んんんんん!? エア・サプレーナ島!? それって波紋の修行場があるところでは!?
なんでジョナサンがそれを……いや、そうか。リサリサ……イギリスによって国際指名手配を受けたエリザベスをかくまい、その痕跡を徹底的に消したのはこの世界でもSPW財団だった。
そしてその総帥は、スッピーだ。ジョナサンが生きてるなら、この件をジョナサンには伝えていてもおかしくないか……。
そしてだとするなら、彼が1920年以降に研究テーマを古代ローマに移してるのも納得だ。現地調査って名目で何度もローマに足を運んでるようだったけど、つまりこれは義理の娘に会うためのカムフラージュってことか。
……エリナさんはこのこと、知ってるんだろうか。原作だと、ジョナサンがいないからほとんど知らされてたみたいだけど……。
……いや、この件については下手に触らないでおこう。藪をつついてヘビを出すことになりかねない。
「ジョースターさん、それで次はいつ頃イタリアへ?」
「行きたいのはやまやまだけど、今度学会があるからね……あまり長時間国を離れるわけにはいかないんだ」
「しまった、それがあったか! こいつはうっかりだ」
スッピーがなんかうっかり八兵衛みたいなこと言いだした。
ていうかスッピー、ジョセフとかがいるところだと2部通りの穏やかな老人って感じなのに、ジョナサンといるときだけ1部のチンピラ口調になるのなんなの? 腐った人たちが見たら絶対勘違いされるやつだから、気をつけたほうがいいよ本当……。
「そういうわけだから、
「合点ですぜッ!」
んんんんん!?
ま、ちょ、ちょっと待った! 今ジョージって言った? え? 嘘?
もしかして、まさか、まさかだけど、ジョージ二世、生きてる!? 話から言って察するに、エア・サプレーナ島にいる!?
こ、こ、こ、これは……緊急調査案件だー!!
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というわけで、大急ぎでイタリアにやってきた。行先はもちろん、エア・サプレーナ島だ。
この島、前世には存在しない。タルカスやブラフォードもそうだったけど、荒木先生っていかにも存在するっぽいけど存在しないものを出すのが上手いよね。
だけどこの世界には存在する。場所は原作と同じく、ヴェネチアから船で北東に進んで約三十分。この辺りではちょっと見ない塔があるから、空から見てもわかりやすかった。
「うわあ、本当にエア・サプレーナ島だ。すごい。マンガの世界にいる。今更だけど」
海鳥に変身した状態でそこに降り立ったわたしは、思わず感動していた。
今いるのは、原作でジョセフとエシディシが戦った針山があるほう。ここから少し離れたところに橋でつながっているほうが、この島の本土とも言うべき場所だ。
そちらを確認するために、改めて空に上がる。そうしてちょっとだけ飛んで……おっと、人が修行してる。時期的には、メッシーナとロギンズ辺りかな……。
「まだまだ踏み込みが甘いぞ
「はい
むせた。思わずむせた。
いや、だって、えぇ!? おかしい、絶対おかしい! こんなのありえない!
シーザーがいるのはいいよ。ジョジョで何度も見た、だけどちょっと幼いシーザーを遠目にでも見れたのは感動すらある。
だけど彼が今組手してる相手! 相手が問題だよ!
ジョージだ! どこからどう見てもジョージ二世! なぜかジョニィって呼ばれてるみたいだけど、それはまあ、たぶん偽名だろう。
なんでわかるかって? だって顔がジョナサンやジョセフにそっくりなんだもん! あれで赤の他人ですなんて言われても、普通は信じないね!
しかもジョージ、波紋に目覚めてる……。リサリサと一緒にこの島にいる時点で、もしかしてとは思ってたけど……ガチだったか……。
ローマの基準で見る限り、今のジョージは並より上。少なくとも、そこらへんの吸血鬼くらいは余裕で倒せるくらいには使いこなしてる。すなわちジョセフより普通に格上。
なんてことだ……。波紋戦士側がめっちゃ強化されてる……。ジョナサンが生き残ってると、ここまで歴史は変わるのか……。
いや表の歴史に変化はないんだけど、裏の……これちょっとひどくない? ちょうちょ羽ばたきまくってるじゃん……。
それにしても、なんでジョージも生きてるんだろう? そりゃあ死んでいてほしかったはずなんてないけど、今までの情報で言えば間違いなく死んでるはずなのに。
……何かがあって、助かったのか。そして生きていると色々と問題があるから、死んだことになった……?
うーん、これはなんとかして当時の状況を知りたくなってきちゃったな……。でもなぁ……作中でジョージが殺された場所がわからないから、知るとなると【ネヴァーフェード】するしかない。
でも生きてる人間から記憶を取り出すのは、できればしたくないんだよなぁ。それやったら、なんかプッチ神父に近づくような感じするし……。
なんて、海鳥の姿でわたしが考えてたときだ。一人の男性がやってきて、組手をしている二人に声をかけた。
「おーいジョニィ、シーザー。そろそろ休憩の時間だぞ」
「おお
「ありがとうございました!」
……待って。
待って待って、これ以上わたしを混乱させないで!?
マリオ? マリオって、あのマリオ?
いや、
シーザーの!
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そのマリオさんだった。普通にシーザーから父さんって呼ばれてた。嘘やん。
つまりなんだい。この世界では、ジョナサンもジョージも、おまけにシーザーの父マリオまで存命と仰るか?
おまけにマリオ、ジョージと同じくらいには波紋の技術があるっぽいぞ。波紋戦士として十分に一人前だ。
そしてメッシーナとロギンズも普通にいた。しっかりリサリサの召使いしてる。してる上で、二人もジョージやマリオと同じくらいの力量がある。
うん……完全に戦力過剰では?
いや、いくら波紋戦士として一人前とはいえ、あれくらいではまだカーズ様たちを相手する場合は力不足なんだけど。少なくとも、吸血鬼の群れ相手には苦戦しないだろう。嬉しい誤算が過ぎる。
そしてな……シーザーがマリオと仲良く食事してるシーンがな……尊みあふれて死ぬかと思ったんじゃ……。原作ではすれ違うだけだった親子が、ああして笑顔を見せあって……ふふ……死ねる……。
あとジョージとリサリサが仲良く食事してるシーンでもな……死ぬかと思ったんじゃ……。思わず拝んだ……ありがとうブッダ……。
いやしかし、本当なんでこんなことになってるんだろう。すごく気になる。これはちょっと調べてみよう。
放っておいても構わないと言えば構わないけど、これはさすがに原作と乖離しすぎてる。ジャイロのように、納得がすべてに優先するとまでは言わないけど、これは納得してから先に進みたい。
幸い、というかなんと言うか。マリオが原作で死ぬ場所は、ジョージと違ってどこかはっきりとわかっている。だからそこに行って、【ネヴァーフェード】で土地の記憶を引き出せば真相もわかるはずだ。
……かくしてわたしは、慌ただしくエア・サプレーナ島を後にした。
次の行先は決まってる。イタリアの首都、古の遺跡が多く眠るローマだ。そこの地下にある共和政ローマ時代の遺跡が、マリオが死ぬところになる。
そしてそこは、カーズ様たちが眠っている場所でもある。
彼らがこの段階でどうなっているのか……それを知るのも兼ねているなら、無駄なことじゃあないだろう。
……まだ起きてないよね? 既に起きてるなら、わたしが呼び出されないのはおかしいはずだし。でもこれだけ原作と違う状況が連続してると、かなり不安になるよね……。
というか、実のところ最悪なのは今このタイミングでカーズ様たちが目覚めることかな。こんな中途半端な時期に目覚められたら、考えてることが全部吹っ飛んじゃう。
どうかまだもう少し寝ていますように……! わたしはそう思わずにはいられなかった。
ジョージは助からなかったと言ったな。あれは嘘だ。
いや単に、表向き知られてる情報だけでは調べきれなかったってことなんですけど。
書いていて「イギリス王室にすら影響力のあるPMCであるルベルクラク家の情報網に引っ掛からないレベルで隠ぺいしきったSPW財団」って実は超やべー組織なのでは? とは思ったけど。
ともかくジョージはおろかマリオも生存しています。
うん、ぶっちゃけジョースター家&ツェペリ家そろい踏みが書きたかったんだ。この作品はそれが書きたくて始めたと言っても過言ではない。
次はここにジョナサンとジョセフを加えて、全員がずらっと並んでカーズたちと相対してるシーン書くんだ・・・いつか書くんだ・・・プロットが円環の理に導かれない限りは書けるはずなんだ・・・。