転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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9.そのとき何があったのか

 誰もいない夜の地下道を、音もなく歩く。

 そう、ここはローマの地下道だ。コロッセオから地下に下りる場所がわからなかったから、真実の口から入った。

 

 しばらく歩いたけれど、人の気配はまったくない。ないけれど、確か既にナチスはここを見つけてるはずだ。戦闘潮流の半分くらい、1939年の1月頃に「五年前に見つけた」という言及があったはずだから……そこから五年さかのぼると1934年の1月。今は同年の7月……うん、発見されてるだろう。

 

 実際歩いてると、ところどころに人が行き来した痕跡ははっきりと残っているのが見える。それも、かなり最近のものだ。つまり、誰かが定期的に出入りしていることは間違いない。

 そして、この真新しい痕跡を辿る形で歩くことしばし。わたしはそこにたどり着いた。ハーケンクロイツの旗がはためくその場所にいるのは……。

 

「……カーズ様」

 

 明かりは必要ない。暗闇を見通せる今のこの身体は、闇の中に沈む彼らをしっかりととらえることができる。

 原作通り、ダイヤモンドを手にした状態で壁に半身が埋まるカーズ様。そしてエシディシ、ワムウの三人がそこにいた。

 

 ナチスが作ったと思われる規制線をひょいと乗り越えて、そこに近づく。

 

「まだ……か。今ここで目覚めるってことはなさそうだな」

 

 目の前の三人の様子をしばらくうかがって、ふうと息をつく。わたしだって、今は彼らと同じ生き物。目が覚める直前の気配は、なんとなくわかるのだ。

 この様子なら、まだ覚醒には数年かかるはずだ。たぶん、四年半くらい。それは原作が始まる時期と大体一致する。

 どうやらその点に関しては原作通りのようだ。安心した。心底安心したよ。

 

「……それじゃあ、ここに来た目的の残り半分を終わらせようか」

 

 気を取り直して、わたしは【コンフィデンス】を取り出す。そして【ネヴァーフェード】の矢をつがえると、足元に向けて放った。

 無音で床に突き刺さる【ネヴァーフェード】。それを引っこ抜いて、躊躇なく自分の頭に突き刺した。

 

「……! これは……」

 

 すぐさま頭の中に、この場所の記憶が入り込んでくる。

 そこでわたしが見たものは……。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 静寂が支配しているその場所に、かつん、かつんと足音が響いてくる。

 音の主は、まだ若い少年だ。いや、少年と青年の狭間にあるもの、と言うべきか。

 

 ともかく彼は、周囲の様子をうかがいながら入ってきた。

 

「な……なんだ? ここは!」

 

 そんな彼の目の前に、()()()()()()()()()()()()()()()()

 まだそれに気づかない彼は、やはり周りを見回しながら踏み込んでいく。

 

「あの野郎どこに行った?」

 

 だが部屋の半ばも過ぎたところまで踏み込んで、彼は気づいた。そこにあるものに。

 そしてそれが、輝く宝石を抱えていることにも。

 彼はそのかすかな輝きに吸い寄せられるように、壁へと近づいていく。

 

「この壁の石像……光輝く部分があるぞ。ダ……ダイヤだ。ダイヤモンドが埋まっている!」

 

 宝石の眼前まで顔を寄せて、正体を察した彼は驚きと共に手を伸ばす。

 人として、当然とも言うべき感情。好奇心と少しの欲望。それに誘われるように……。

 

 が。

 

「危ない小僧! ここで何をしているッ! その壁面の宝石に触るんじゃない!」

「何!? 貴様!」

 

 そこに、壮年の男が一人飛び込んできた。とまることを考慮していない、全力疾走だった。

 それを受けて、少年は押し出されるように吹き飛ばされる……直前。壁に規則正しい亀裂が走り、どこからか銛のような刃を持ったワイヤーがいくつも飛び出してきた。

 

「な……なんだこの壁は!?」

「逃げろーッ!!」

 

 だがあわや、というところで少年は男に突き飛ばされた。

 結果、ワイヤーにからめとられたのは男一人となる。

 

「ぐあっ!!」

「ああっ!?」

 

 ワイヤーについていた刃は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし、この仕掛けは刃によって殺すものではなかった。刺さった刃は、銛のようになっている。それは貫いたものを離さないという意思の表れだ。

 その意思に従うように、刃はどれも抜けることなく残る。そしてワイヤー部分が、男の身体をがっちりをからめとったのだ。

 

 ここまで来れば、仕掛けは半分以上その目的を果たした。あとは()()を壁に引きずり込み、そこに眠る存在に捧げるのみである。

 

 そんな一瞬の出来事を、少年は突き飛ばされたままの状態でただ眺めていることしかできなかった。何が起きているのか、さっぱりわからなかったのだ。

 

 何より。

 

「ち……近づくなッ! こ……これはこいつらの()なんだ! 近づくものの好奇心を利用し、眠っている間の栄養分とする()なのだ!!」

 

 そう言い放つ男の身体が、壁に飲み込まれようとする様を見せられては。

 近づくなと言われようが、そもそも動くことすらできなかったのだ。得体のしれないものに対する恐怖が、彼の身体を縛っていた。

 

 そして男は、そのまま壁の中に取り込まれて命を散ら……さなかった。

 コオオォォ……と、特徴的な音が響いた。同時に、男の身体に黄金の輝きが走る。さながら電撃のような、力のあふれる輝き。

 

 これが男の身体を覆い、壁に取り込まれることを拒んでいた。今のままでは動けないことには変わりないが、それでも確かに、男が取り込まれるのはとまった。

 

「マリオ!」

「マリオ君!」

 

 そしてそこに、新たに二人の男が走り込んできた。

 二人は似た顔立ち、身体つきをしていた。しかし片方が男と同じ壮年の男なのに対し、もう一人は老年期に片足を踏み入れている。

 

()()()()! ()()()()()()()! すまない、()()()()()……」

「その話はあとだッ! まずはお前を引っ張りださねば!」

「少年、大丈夫だったかい? 何がなんだかわからないとは思うけれど、もう少しの辛抱だ」

「彼を今から助けたい。すまないが、少しだけ離れていてくれないか?」

 

 入ってきた二人は、混乱しっぱなしの少年を優しく抱き留めながらそう言ってくる。

 怒涛の展開にもはや言葉もなかった少年は、ただ何度も頷きながら後ろへ下がることしかできなかった。

 

 そんな彼の目の前で、二人の男が顔を合わせて立ち上がる。

 とても大きな背中だった。そして、二人の男の同じ場所に……うなじの部分に、星の形のあざが見えた。それがどうにも、輝いて見えて。

 

「父さん!」

「ああ、やるぞジョニィ!」

 

 次の瞬間、特徴的な音と共に二人の男の身体が黄金に輝いた。

 同時に、男たちの身体が躍動する。それはさながら、筋肉が膨張して身体が巨大化したように少年の目には映った。

 

「うおおぉぉーーッ!!」

「はああぁぁーーッ!!」

 

 そうして二人がつかんだのは、ワイヤーだ。

 

 少年には、とても頑丈そうに見えたワイヤー。実際頑丈なのだろう。ちぎれることはない。

 けれどそれは、やがて悲鳴を上げ始める。そのまま二人が力を籠め続けていると、果たしてワイヤーは早々に悲鳴を上げた。破滅的な音を響かせながら、ワイヤーが次々にちぎれていく。

 

 やがて最後の一本がちぎれて、男が壁面から落ちる。

 

「はぁッ! はぁーッ、はぁーッ、二人とも申し訳ない……助かった……」

「まったく、一人でいきなり走り出すから何事かと思ったぞ!」

「そう責めてはいけないよジョニィ。彼はきっと、この少年を助けようとしたんだ。そうだろう?」

「はは……面目次第もありません。大きな迷惑をかけてしまって……」

 

 汗を手でぬぐいながら、なんとか立ち上がる男。

 

 彼は二人を順繰りに眺めたあと、改めて自身が突き飛ばした少年に目を向ける。

 

「……まったく、危ないところだったな小僧。これに懲りたら妙なことに首を突っ込む……の、は……」

 

 そして、言葉の途中で言葉を切った。

 彼の顔は驚愕に染まっていた。目は大きく見開かれ、視線は目の前の少年に固定されている。

 

 彼の様子にあとからきた二人は怪訝そうに左右から顔を覗き込もうとする。

 

 が、それより早く、男は絞り出すように声を上げる。

 

()()……()()……? まさか、お前、()()()()()()()?」

「父さん! ……うう……うお……あ……ああああ!」

 

 二人の言葉を聞いて、後からきた二人の男も吃驚する。

 だが涙を浮かべて抱擁を交わす二人を見て、気を取り直すと視線を交わす。そして二人はしばらく、目の前で行われる親子の対面を眺め続けていた……。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「……オーマイガーッ!」

 

 思わずジョセフみたいなセリフが出た。

 いやもう、本当オーマイガーだよ。そんなことがあったなんて……。

 

 この時点で、既にマリオもジョージも波紋を身に着けていたのか。だからこそ、カーズ様の仕掛けにかかっても取り込まれずに済んだと。

 取り込んだ記憶は、このあと何が起きていたのか、何を思ってマリオが家族を捨てたのか。それを語ってシーザーと和解する様子が続く。

 

 そして、「こんなことに関わるな」と怒り、不器用な親の心情を発したマリオに対して、ジョナサンが「だから言ったじゃあないか、マリオ君。こういうことは、先に話しておくべきだったんだ。子供を巻き込みたくないという君の気持ちはわかるけれど、残された側の気持ちはしっかりと酌んであげないと」と諭していたのが印象的だった。

 ファントムブラッドの頃は若者らしいまっすぐさがあったジョナサンだけど、もう七十近い。年長者として、また親の先達として、あまりにも的確な言葉だった。

 

 その隣で、視線をずらして頬をかいていたジョージの姿もなかなかに印象的ではあったけれど。

 ともあれジョナサンの言葉を受けて、マリオはシーザーに対して「来るか?」とやはり不器用に誘い、シーザーもまた「じいさんや父さんの跡を継ぐ!」と宣言して、その手を取った。

 シーザーはそのままマリオやジョージと共にエア・サプレーナ島に引き取られて波紋の修行を始めたようだ。そこだけは原作通りだったわけだね。

 

 ちなみにその後の会話からして、マリオがこの時点で波紋を習得していたのはジョナサンのおかげらしい。家族を置いて出奔したマリオを、柱の一族について調べていたジョナサンがたまたま見つけて、ならばと修行に誘ったからだとか。おかげで原作では死ぬシーンでマリオは生存することができた、と。

 あまりにもファインプレーが過ぎる。さすがジョナサン、わたしにはできないことを平然とやってのける。

 

 いやーそれにしても、すごいものを見てしまった。感動だった。

 

「……それにしても。このイベントにジョナサンが絡んできてるってことは、彼は間違いなく柱の男を知ってるわけだよね」

 

 腕を組んで、カーズ様を見上げながらひとりごちる。

 

 ジョナサンが柱の男に気づいていて、対策を練っている(と思う)ってだけでも相当安心感があるなぁ。そりゃあ彼はもう全盛期ではないだろうけど、それでも彼なら……彼ならなんとかしてくれそうな気がする。

 

 ……いや、それはわたしが彼を一番推しているからかな。でもひいき目抜きに見てもジョナサンって肉体的、精神的にも一番強いジョジョだと思うんだけど……。

 

「いやうん、そういう話はあとにしとこう。ともかく今、戦闘潮流に三人のジョジョが参戦しそうだってことが確定したわけだ。それは間違いない。それはすごく大きいことだ」

 

 腕を組んだ状態で、誰にともなくうんうんと頷く。

 

 ここからどうやってカーズ様たちを追い込んでもらうべきか。彼らが復活してからは、わたしはあまりジョジョたちと一緒には行動できないだろうからね。決戦のときが来れば重要な局面で行動することになるけど、逆に言えばそれ以外の場面ではカーズ様たちの側として行動せざるを得ないわけで。

 となると……戦闘潮流が始まるまでに、準備を整えておかないといけないよね。それまでにわたしができることって言うと……。

 

「……そうだ! エイジャの赤石! あれが波紋増幅装置だってことは伝えておいたほうがいいよね!」

 

 なんならただの火の光ですら何倍にも増幅して、わたしたちの身体にダメージを与えられるレーザーに変えることすらできる。実際に食らったことがあるから間違いない。

 

 原作のエイジャの赤石は、石仮面の完成に必要なものでカーズ様たちが狙っているアイテム、としか基本的に描写されてこなかった。

 ジョセフが赤石を知ったとき、「破壊しちゃえばよーやつら泣いてくやしがるぜ」って言ってたけど、リサリサはこれを壊すと「やつら三人を倒せなくなるとの言い伝えがある」と答えて拒否した。

 けれどなぜそんな言い伝えがあるのか、までは伝わっていなくて……物語の途中でも明らかにならなくて。最後の最後でようやくそれが判明するんだけど……これを最初から知ってれば、他にも戦い方があったはずだ。

 たとえば、波紋使いは遠距離攻撃手段が乏しい。でもエイジャの赤石があれば、それを解決できる可能性があるんだよね。

 

 ……まあ、この世界ではその辺が普通に今まで伝わってる可能性もある。それならそのときは説明が省けたと思えばいいや。

 問題は、それをいつどうやって伝えるか、か。いきなり言いに行ってもなんだってなるだろうし、正体を明かしたとしても戦う羽目になるだろうし……。

 

「……一旦ロンドンに帰るか。ここに立ってたって名案が浮かぶわけでもないんだし」

 

 うん、とりあえず帰ろう。ナチスに見つかっても面倒だしね。

 

 そうと決まれば善は急げだ。わたしはそっと、だけど全速力で地下から抜け出すと、一気に夜の空に舞い上がるのだった。

 




ジョージがどうして生き残ってるか、どうやって生き残ったのかも描写したいんですが、する機会が今のところ来そうにない・・・原作で言うSPWがスモーキーにジョースター家の秘密を語るくらいまで行けば来るかもだけど・・・。

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