はい、いつも通り大体五百年くらいが経ちましたそろそろ休眠期な約一万歳、アルフィーちゃんです。紀元前四千年前後だと思われ。
こないだ自信たっぷりに隕石から石仮面を作り上げて、テンション大マックスにそれをかぶったカーズ様は、やはりというかなんというか、特に何も変化することなく骨針が刺さっただけに終わった。
あのときのカーズ様の顔は、申し訳ないけど永久保存版だった。カメラがあったらぜひ残しておきたかった。それくらい、愕然としててひどい顔だったよ。
そこから百年くらいは、手を替え品を替えて色々試してたんだけど……結局全部ダメ。最後は隕石の中核の一番ウィルスがたくさん集まってる部分から
あわよくばスタンドに目覚めようと思ってたみたいなんだけど、それも残念ながら目覚めず。
そりゃ、原作のカーズ様たちはスタンド持ってなかったしね。スタンドの矢を作ったのがカーズ様なのにその当人がスタンドに目覚めてなかったんだから、残念ながらまあそうなるわな。
これに関しては、
「あの奇妙な力は、ウィルスに対する抗体のようなものだ。細胞が死の危険を感じ、それに対抗すべく変異を起こすからこそ生まれるものだろう。しかも全身どころか個人の能力に及ぶほど劇的で強大なものというわけだな。
しかしであればこそ、究極の生命に限りなく近い我々がそれに目覚めることはないだろう。何せ我々の身体はあらゆる害をはねのける。抗体を必要としていないのだ」
という結論を出しておられた。
つまり、あの隕石が持ち込んだウィルスは地球上の生物にとっては即死の危険があるほどの厄モノで、その感染に打ち勝った人だけがスタンドに目覚める。
ところがそんな地球外物質であっても、わたしたち柱の一族は別に命の危険を感じるほどのものではないから、抗体をわざわざ体内に作ることもなく対処できてしまう。
だからこそスタンドの発現は起こりえない、ってことみたい。
推測止まりだけどね。さすがのカーズ様も、自分はともかく身内であるワムウやサンタナで実験しようという気にはならなかったみたい。
……その優しさを向ける範囲をもうちょっと広げてほしいなってわたしは思うんだけど、十万年以上生きてるカーズ様がそこを改めることはないんだろうな。三つ子の魂百までって言うし。
ともあれそんなわけで、カーズ様の目論見は実に見事な空振りで終わった。
そして今回は、期待が高かっただけにカーズ様も結構ショックだったんだろう。自ら休眠期に入ってふて寝してしまわれた。昔わたしにそんなこと言っときながら、自分がそこにハマっちゃうカーズ様ったらお茶目よね。
そしてカーズ様が寝ちゃったら、わたしたちはやることがほとんどなくなる。仕方ないから休眠期に入るまでそれぞれが好きに動くことになったわけだけど……わたしは普段やってる観察とか文化調査以上にやってみたいことがある。
それは、ずばり
だってだって! ジョジョラーならスタンド使ってみたいってみんな思うでしょ! 一回や二回や三回や四回くらいはさぁ!
それに、わたしは知りたい。スタンドを使う、ということがどういう感覚なのかをね。
確かにドジこいたら死ぬかもだけど、好奇心があればわたしは少しだけ戦える。それだけが、元一般人のわたしに振り絞れるたった一つの勇気だもの。
……まあ、決意してから行動に移すまで五十年くらいかかったんだけど。それはなんていうか、大目に見てほしいなって……。
だって生きるか死ぬかなんだもん、躊躇くらいするでしょ。まったく何も問題が起きない可能性も十分あるけど、それはそれとして、ねぇ?
というわけで、みんなの目を盗んでこっそり鏃を持ち出して誰もいないところへ移動(これ自体は五十年くらい毎日やってた。ヘタレでごめんよ)。そこで手首に刺してみた。けど、特に何も起こらず。
これはなんとなくわかってた。カーズ様の推測は、やっぱり正しいんだと思う。その辺りについては、わたしかなりカーズ様を信じてるのだ。
だから次にわたしは、カーズ様が最後に作った一番ウィルスが多く含まれた特別製を使うことにした。
これは、最初にも言ったけど中身だけじゃなくて見た目も他と違う。この鏃には、
原作五部を読んだことがあれば、きっとピンと来るはず。
そう、
これはまさに特別製。他の鏃に比べて効果は高い可能性は高い。
なんだったら、わたしたちと同じく人間以上の肉体を持つ吸血鬼のDIO様がスタンドに目覚めることができたのは、これを使ったからなんじゃないかってわたしは思ってるくらいだ。
そんな特別製を使ってもなお、残念ながらカーズ様には今後ますますのご活躍をお祈りすることしかできなかったけど……ろくに鍛えることもないまま石仮面をかぶったわたしの究極生命体度は、カーズ様よりかなり低いはず!
とくれば、そう! ワンチャン行けるかもしれない!
いくぞ!
……い、いくぞ!
……ハァー、ハァー、い、行くぞぅ!
い……行くったら行くんだ!
せ、せーの!
……
「痛ったぁ!?」
うわ痛い! びっくりするくらい痛い! 痛みじゃなくて死ぬかどうかでビビってたのに、これはちょっと不意打ちが過ぎる!
というか、何千年もエシディシとかからボコされまくってて痛みには慣れてたはずなのに、我慢できないくらい痛いってヤバくない!? なんなら石仮面かぶってから感じた痛みの中で一番じゃあないかこれッ!?
……あ、いや、でもこの痛みなんとなく覚えがあるぞ。あれだ、夏の強烈な日光を浴びたときの痛みがこれくらいな気がする!
え? だとしたらこれ、マジでヤバいやつでは?
もしかしてオラオラですかーッ!?
……いや冗談言ってる場合じゃない、本当に意識が遠のいてきた。
ま、待って待って、嘘でしょ? こんな半端なところでわたし死ぬの?
や、やだな、まだ死にたくないんですけど!
あ、あ、ダメだ、眠くなってきた……も、もうダメだ……。
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おはようごさいます。
大げさに死ぬとか言ってたけど、単に久々の痛みがきっかけになってちょっとだけ早く休眠期に入っただけだったアルフィーちゃんおよそ一万二千歳です。紀元前二千年くらい? そろそろ各地ではっきりと文明が興ってる時期ですね。
いやうん、なんか、あれだよ。笑えよベジータ。
ふふ……自分でもびっくりするくらいバカだったね……。
でもホラ、一万二千年ぶりに感じた死の恐怖だったんだし、これくらい大目に見て……っていうかみんな忘れて! お願いだから!
何もなかった! いいね!?
忘れた? ならよしッ!!
というわけで、休眠期から明けたわけだけど、まだわたし以外みんな寝てる件。
いやね、わたしよりあとに寝ただろうみんなはともかく、わたしより先に寝たカーズ様はまだ寝てるんですね……ちょっとふて寝長くないですかね……。
でもまあ、逆に考えよう。これは色々試すチャンスだ、そう考えるんだ。
そう思いながら、わたしは一人意識を自分の中に集中させる。そして……。
「……
いつのまにか、
そしてそれを認識すると同時に、わたしは理解した。
これがわたしのスタンド。わたしの超能力の
頭ではなく、魂でそれを理解できた。
もちろん、使い方も。
何気なく、弓をそのまま引いてみる。すると、そこにどこからともなく矢が現れた。
うーん、どう見ても原作に出てくるあの矢と同じ形してますすね、これ。そういう深層心理なのかな?
とりあえずそれを、少し離れたところにいたウサギに向けて放ってみる。
矢は、まっすぐ飛んで行った。でも、わたしに弓道の心得がないからかな。残念ながら狙いは全然的外れ。これじゃあ当たるはずがない。
……んだけど。
「……うわ、
物理法則を無視して、矢は「グゥーン!」と曲がって狙った獲物の身体を貫いた。わたしの意思通りに。
「……【エンペラー】と同じタイプのスタンド、かな?」
地面に倒れたウサギを見やりながらつぶやく。
タロットカードの四番目、皇帝の暗示を持つスタンド【エンペラー】。三部の中盤から登場する、銃の形をしたスタンドだ。射程範囲内で、本体の視界の中にある限りは、本体の好きなように軌道を操れる暗殺向けのスタンドでもある。
使ってみて、最初に頭に浮かんだのはそれだった。
「これはあれかな。遠近両方に対応できるようになったってことかな?」
だとしたら……え、結構強くない?
欲を言えば人型のやつとか、会話が成立するやつとかがよかったけど、単純に戦力として考えたとき結構バランスよくない?
だって近距離の戦いなら、石仮面の恩恵あふれるスペックで大体ゴリ押せる。何せ柱の男一味って、生身のまま下手な近距離パワー型スタンドよりも力出せるし。わたしだってその足元に及ぶくらいの力はあるもん。
にも拘らず距離を離したら離したで対応できるやつとか、敵に回したらはっきり言って厄介の極みでは?
……ふふ、ふふふ、もしかしてこれは来てしまったかな……わたしの時代が……!
いやまあ、だからといってカーズ様に勝てる気はまったくしないんだけどね。ラスボスの貫禄ですよ。
でもとりあえず、思ってた通りにスタンドが手に入ってよかったよかった。細かい確認は追々やってこう。みんなが目覚めるまで、まだ年単位はかかるだろうしね。
なので差し当たってやるべきことは、
「……うへへ、なんて名前にしようかなぁ!」
うなれわたしの厨二
スタンド:???
破壊力:なし(本体に依存) スピード:なし(本体に依存) 射程距離:B 持続力:A 精密動作性:C 成長性:A
(覚醒直後のステータス)
実体を持たない矢を放つ道具型のスタンド。その軌道はエンペラー同様自在に操作できる。
威力およびスピードは、本体の弓の技量および腕力によって変動する。
デイリーランキング5位が嬉しかったので今夜もう一話更新します。