少し時間は飛んで、十二月半ば。わたしはドイツのハノーファーにいた。
現在のイギリス王室、ウィンザー家の直接の祖たるジョージ一世の故郷にして当時の王朝、ハノーヴァー朝の始まりの場所だ。今回の作戦最大の目的地でもある。
ま、そこら辺の細かい説明は世界史の教科書に譲ろう。わたしが語ると長くなるからね。
というわけで、ドイツはザクセン地方の街ハノーファー。ライネ川沿いに建つこの街は運河が市内を走る交通の要とも言える場所で、鉄道の中継地点でもある。おかげで商工業の発達した、ドイツ屈指の商業都市だ。
そんなところにわたしがどうしているのかと言えば、ずばりこの辺りに例の遺跡があるからだ。正確に言うなら、遺跡から回収されたものの保管と調査をしている施設がここにあるから、だね。
とはいえ、ここにすぐに来たわけでもなければ、ここに来てすぐに行動を始めたわけでもない。
というのも、少し前までイギリス王室からどうやって赤石をいただくかの打ち合わせや手伝いで、あれこれやってたからね。わたしは主に資材の運搬とか、密会場所の提供を担当していた。
おかげでなんとか作戦のめどは立ち、年明けくらいに実行される予定だ。
内容は話すと長くなるから、割愛。たぶんドイツでの仕事が終わったあとの日本への道中で世界的な大ニュースとして大々的に報道されるから、そのときにでもってことで。
そんなわけで少し遅れてドイツまで来たわたし。今回はパスポートを使って正式に入国している。
となると当然、わたしはルベルクラク令嬢としての入国なわけで、使用人たちを従えての行動になる。
そんなわたしの表向きの目的は、ドイツの歴史や文化に関するフィールドワークだ。ドイツ国内の歴史ある地域を巡り、写真を撮ったり史料を探したり、そういう旅に熱中しているお嬢様という体裁になっている。
全力で趣味に走ってる自覚はあるけど、これなら目的地だったハノーファーに無理なく入り込めるし、長期間滞在しても言い訳が立つ。
あわよくばわたしも趣味に浸れて万々歳! ってわけだね! 一挙両得ってやつさ!
というわけで、北から船で入国したわたしは、キールやハンブルク、ブレーメンと言ったハンザ同盟で名を馳せた街を経由して南下して、ハノーファーまでやって来た。最高の旅ですね!
……いや、言い訳をさせてもらうなら、ハッスルしまくってて到着が遅れたわけじゃあないんだ。本当なんだ。してたのも本当ではあるんだけど。節度は守ってたよ。本当だよ。
実は今回目当ての遺跡……と、その調査をしている施設、ものすごく警備が厳重なんだよね。こないだ受けた報告は誇張でもなんでもなく、ドイツ軍がかなり厳戒態勢を敷いているんだ。
そこに潜入するに当たって、柱の一族の身体スペックならわりとなんとでもなるとは思ってる。スタンドもあるしね。
とはいえ、気づかれないほうがいいのは間違いないわけで。そのために、わたしはクリスマスを狙って潜入するつもりなのだ。
クリスマスは、キリスト教圏では非常に重要なイベントなのは誰もが知る通り。日本のお祭り全開なそれとは違うんだよね。
確か、昔のヨーロッパではこの日だけは戦闘行為を忌避する風潮があったはず。なんなら第一次世界大戦中でさえ、この日は一時休戦されたこともあったし。
……いや、一次大戦のあれはそんな微笑ましいものでもないんだけど、それはともかく。
そういうわけで、クリスマスは警備も緩むはず。それを狙って、スケジュールを合わせているのだ。
もちろん憶測で言ってるわけじゃあない。ちゃんと裏付けだって取ってる。クリスマス当日は、普段の七割くらいしか人がいないって調べはついているのだよ! それでも七割かよとも思うけど! まあだいぶマシだよね!
……というわけで、わたしはクリスマスを待ちつつハノーファーの観光に繰り出すのだ。そして写真を片っ端から撮りまくる!
観光施設なんてこの時代にはほぼない、だって? 正気ですか蛍原さん!? そこら辺に素晴らしい街並みがいくつもあるじゃあないですか!
現代のものもたくさんある? バカバカおバカ! 今のものと昔のものが融合してる景色も最の高でしょうが! どっちもおいしくいただけてこその歴史オタクだよ! この街を眺めてるだけでも半月は余裕で潰せるね!!
おまけにこの世界、コダックに先駆けてライカがカラーフィルムを一般に販売していたおかげで撮影がはかどるはかどる! もちろん驚いたけどさ、それ以上に喜んだよね。まったくもってツイてる。
まあ、ジョジョ世界のドイツはやっぱりなんかどこかおかしいんじゃあなかろうか、とも思ったけど……そこはドイツの科学は世界一ィィィィ!! だもんね。別におかしいことは何にもなかった。
うん、なかったったらなかった。
「……にしても、いい景色だなぁ」
パシャリという音が響いたのを確認して、構えを解く。
ここはハノーファーの街はずれ、現代的な建物がまだほとんどない地区だ。目の前に広がる歴史情緒ある石造りの街並みと、そこに付随する運河の音のない穏やかさがとても心地いい。しんしんと降る雪がまた、よりムードを盛り上げてくれてるぞ。夏にもぜひ来たくなっちゃうなぁ。
でもこの景色も、住んでいる人にはなんてことのない日常の風景なんだろうな。誰もが気にしない、名前のない瞬間。
けれど、わたしにとっては貴重な歴史の一幕だ。かつては絶対に見ることのできなかった風景であり、こういう名もなき人たちが生きる何気ない時間こそ、わたしが最も知りたいと望み学んだものなのだ。
もちろん有名な人たちの偉業も大好きだけど。歴史は、こういう何気ないものの積み重ねだというのがわたしの持論なのだ。好き。
……でもこの街、第二次世界大戦で三分の二が焼失するんだよなぁ。そういう意味でも、今のうちに写真残しとかないとね。
「お嬢様、もうフィルムが残り少なく……」
「またまたご冗談を」
「本当です。持ち込んだものはそれで最後です。そろそろご自愛くださいませ」
「そんな!? わたしに死ねと!?」
早くデジカメがほしい!!
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
結局フィルムは買い足すことになった。多めにお金持って来てて正解だ。まあ、わたしのお金じゃあないんだけど。
……うん、いつまでもお金を伯爵から恵んでもらうのは良心が痛むし、何かわたしも自分で稼げるようになっておきたいところだな。
なんて思いながらも、時間は過ぎてクリスマス当日。の、夜。
わたしは予定通り、一人ホテルを抜け出して問題の施設までやってきた。この街で一番高いビルで、周りは低い建物で囲まれてるから普通は上から入るのは難しいだろうな。
出入り口も、クリスマスにも関わらず厳重な警備が敷かれてるけど、わたしは飛べるので屋上から入らせてもらう。
見張り台みたいに改造された場所があって、そこにも兵士が歩哨に立ってたので、ごめんなさいしながらその人には気絶していただく。
そしてさらにごめんなさいしながら、服をひんむく。
別にそういう趣味があるわけじゃあない。単に変装用だよ。新品の軍服なら用意できるけど、そんなの変装用には向かないでしょ。
だからむきながらわたしはこの兵士に
……くさい。
それはともかく、真冬のドイツで、しかも夜のほぼ屋外なんてところに気絶したまま裸で放置したら間違いなく凍死するので、一旦スタンド空間に入って縛っておく。
ついでに記憶を読んで、符丁とか性格を把握して。後は見張り台に戻って交代に来る人を待つだけだ。
その交代も、一時間経たずにやってきたので何食わぬ顔で交代して建物の中に入る。
中の構造や人の行き交うルート、そのタイミングなどはハノーファーの滞在中に趣味に並行して大体集めてあるから、さくさく行こう。ここにシュトロハイムとか、知ってるキャラがいるなら寄り道も考えるけど見知らぬ人しかいないみたいだしね。
というわけで、人に見つからない最短のルートで収蔵庫に向かう。
「着いた」
あっさり行けたのは、やっぱり時代の差かな。これが二十一世紀だったら、コンピューター制御のとんでもないセキュリティとかあっただろうけど。いかにジョジョ世界のドイツとはいえ、まだそこまで理不尽な技術はないらしい。
そして収蔵庫にはかなり厳重な鍵がかけられていたし、扉も大きくて重くて、ものすごく頑丈な仕上がりになってたみたいだけど……残念ながら、空気供給管だか換気口だかをつけていたのが運の尽きだ。その程度の隙間があればわたしは中に入れてしまうのだ。
なんならわたし、元が小柄だからか、全力で身体を折りたためば二センチ半くらいの隙間にも入り込めたりする。エジプトのあの遺跡みたく、完全な密閉空間にしないとわたしの侵入は防げないぞぅ。
さて、それでは肝心なものはどこにあるかな?
暗い? 関係ないね、何せ元は夜行性の生き物ですので!
ふむ。見た感じ、中世初期の物品がかなり多いかな? しかも状態がいいとなると、これは相当考古学的価値は高いなぁ。
それにこの時代は歴史的には暗黒時代扱いされることもあるくらいで、なかなか当時の品がちゃんとした状態で見つかることって多くないから、その道の人に見せたら金に糸目はつけないんじゃないかな。正直わたしも、のどから手が出そうですね! でも我慢。今回はそれは目的じゃあないんだから。
他に目を引くのは、宝石類かな。加工の有無に関係なく、宝石……あるいはそれがあしらわれた品がかなり多い。それもルビーやカーネリアンのような、赤系統の宝石がやたら目立つ。単純に金銭的な意味でも、ものすごく高値が付きそうなものばっかりだ。
これはルージュフィシューの前身であるルブルム商会が、宝石を中心にした高級品を扱う商会だった影響かな。
赤ばかりなのも、そういうことなんだろう。エイジャの赤石を利用したアクセサリーなんかも、当然のようにあるみたいだし。
……石仮面は置いてないな。調べた限りだと、出土品の目録の中には石仮面もあったはずだけど。あれはちょっと方向性の違うものだし、他のところに回されたのかもしれない。
まあ、ないならひとまずは考えても仕方がない。今は目的のものだけに集中しよう。
「みっけ。覗いた記憶通りの形だなぁ」
そんな中から、わたしは目当ての赤石を手に取る。ちょうど原作のスーパーエイジャのような、表と裏双方がドーム状にされたダブルカボションカットの赤石。その片方に、稲妻の形が浮き上がるように彫られていた。
これこそエジプトで見つけた遺跡、その扉を開けるための鍵の一つだ。
これさえ手に入れば、もうここには用はない。早速スタンド空間に収納して、ずらかるとしよう。
……あ、でも石仮面がどこにあるのかは調べておきたいかな。ここにあるならここで破壊していくつもりだったけど、ないんだもんね。調べられるだけ調べておかなきゃ。
そう考えて、一時間ほどスニーキングミッションに精を出した結果、ベルリンの研究施設に運ばれたことがわかった。ここに詰めてる兵士たちは特殊な研究施設としか聞かされてないみたいだけど、まあ、十中八九不老不死の研究だろうなぁ。
そして場所も一部の人間にしか知らされてないみたいで、ここにいる兵士で位置を認識してる人はいなかったから、これでもう完全にここでの用事は終わったな。今度こそ帰るとしよう。
と、その前に気絶してもらってた兵士さんを返してあげないとね。まだ気絶してたから、仮眠室に寝かせておく。
「これでよし、と。それじゃ、てっしゅー!」
かくしてわたしは、至極あっさりと目的を達成したのだった。
どちらかというと日常回に近い仕上がりになった。またこの子はハッスルして・・・。
それにしても、この時代ではありえない科学技術を出す言い訳としてドイツが作ったって言えるのすごく便利すぎて癖になりそう。
でも戦争には負けるのだ・・・(無慈悲