転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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20.ロンドンのジョセフ・ジョースター 下

「――で、どうするよ?」

 

 夜闇の中、駆け続けるジョセフとルパン二世。絶賛逃亡中の彼らだが、当然闇雲に逃げているわけではなかった。

 

「任せてくれ。あの目からの光線は大体察しがついてンのよ。凝縮した体液を目から一気に発射ッ! 実際に昔あれを見たおじいちゃんが言ってたんだ、間違いないだろ!」

「ほう、それで?」

「体液だぜ? ()()()()()()()()()()()()()()。だからわざとあいつに撃たせて、凌いだスキを狙う! これで決まりだぜーッ」

 

 作戦を話し合いながら、ジョセフ主導でスラムを疾走する。

 

 今のところ、二人に目立ったダメージはほとんどない。何度か追いつかれ、その度に二世がスタンドを駆使してあしらい、を繰り返している。

 攻撃の軌道を()()()()させる【リヴァジョン】は既に稼働限界まで使われ、最低でも向こう一日は使えない。そういう制約のあるスタンドなのだ。

 だが、汎用性については恐らくスタンドの歴史の中でも随一だろう。やりようはいくらでもある。

 

 今もちょうど、あの小さくなる力を発動させて吸血鬼をまいたところだ。最初のときは自分たちに使ったが、今回は吸血鬼が対象である。これなら簡単に逃げられるというわけだ。

 効果範囲外まで出てしまえば元に戻ってしまうので、再度小さくするにはもう一度影響下に置く必要がある他、その範囲がそこまで広くないのは欠点だが、それでも数十メートルはほぼ一方的に離せるのだから十分と言えよう。

 

 ちなみに、「小さいならこれで瞬殺だぜーッ!」と調子に乗ったジョセフは、踏みつけようとした足を空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)で貫かれ浅からぬ怪我を負った。小さくなっても、その威力は人を殺せるレベルであった。

 むしろ小さいからこそ攻撃の瞬間を認識できなかったわけで、逃げに徹するほうが正解と言えた。小さくとも吸血鬼は伊達ではないということだ。

 

 まあ、波紋戦士であるジョセフにとって痛みはごまかせるものなので、走る分には支障はないが。

 

「スキを狙うのはいいが、俺じゃあいつに致命打は出せねえぞ。頼みの波紋も気化冷凍法とやらで封じられてる。どうするつもりだ?」

「おいおい二世さんよ、そこは()()の使いどころってもんじゃあねーか!」

 

 問われたジョセフはニヤリと笑い、自身の頭を人差し指で軽く叩く。

 

「俺のおじいちゃんは、自分が着けてた手袋を燃やしてあれを打ち破ったって聞いてる! ()()()俺ァ燃やせるものがある場所へ向かってるんだぜーッ!」

「マジかよお前のじいちゃん超ファンキーだな」

 

 普通思いついてもやらないだろ、と肉体的には普通の人間でしかない二世は閉口した。

 

 それについてはジョセフも、聞いたときは思ったものだ。けれど、続けられた祖父の言葉には、ジョセフも大いに納得した。

 

 偉大な祖父は、ジョセフが尊敬するあの紳士たる男は、言ったのだ。

 

『ここで気化冷凍法を破れなければ、ここでディオの野望を阻止しなければ、大切な仲間が、家族が……何よりなんの関わりもない無辜の人々が犠牲になってしまう。そう思ったら、自分のことは頭になかったよ』

 

 と。

 

 幼くとも、表面的な態度は違っても、ジョセフとて祖父と同じく黄金の精神を宿す男だ。同じ状況であれば、自分でもやりそうだと納得してしまったことを覚えている。

 

 しかし、だからと言ってジョセフがジョナサンと同じことをするかと言えば、厳密にはノーである。ジョセフはジョナサンを尊敬しているが、同時に考え方が古いとも思っているのだから。

 

 なぜって、その自己犠牲こそ、ジョセフが尊敬するジョナサンが敬愛する、大おじニコラスの死因なのだ。自己犠牲の精神はすごいとは思いつつも、いざというときはそうすべきと思いつつも、生きて帰って来れなければ意味がない、とも思っているのだ。

 

 ()()()ジョセフは策を練る。そのためなら、どんなに無様と言われようと敵前逃亡だってして見せる。残される家族を悲しませたくないから。

 

「とはいえ、俺だってできれば自分の手を燃やすなんてしたくねー。だからそいつは最終手段ってやつだ。その前に試せることは全部試すぜ!」

「そーね、それがいいだろうね……」

 

 断言するジョセフに、二世は「他に手がなかったらやるんだ……」と乾いた笑いを漏らした。

 

「というわけでここだ!」

「……酒蔵? ははあ、なるほど大体わかった」

 

 そうしてジョセフに連れて来られた建物を見て、二世はキリッと真顔に戻る。

 

 酒。つまりはアルコールである。アルコール度数の高い酒は、ときに燃料として用いられることもある。ジョセフはもちろん、二世もそのことを知っていた。

 

「で、それはいいけど鍵かかってるだろ。ここの蔵、知り合いなのか?」

「そこは泥棒さんの出番ってことで?」

「……あー、そういうことね。完璧に理解したわ」

 

 へいへい、と軽口を叩く二世。彼は懐から例の本を取り出し、さらにそこから大口径の拳銃を取り出した。

 

「……あの、二世さん?」

「覚えとけJOJO。いくら天下の大泥棒アルセーヌ・ルパンでも、()()()()()()()()()()()()()

 

 彼は軽い調子でそう言うと、鍵を無造作に撃ち抜き破壊する。

 

「うん、急いでるときはこの手に限る」

「Oh,my GOD……」

 

 さながらムンクの「叫び」みたいに両頬を手で押さえたジョセフが、信じられないと言いたげにこぼした。

 まあ、右手はいまだに凍りついているので、そちら側は不恰好だったが。

 

「で? どれを使うんだ? 燃料に使える酒ってなると、限られるぜ」

 

 だが、そう言ってずかずか中に入っていく二世の背中を、慌てて追いかける。

 そうだ、今は緊急事態なのだ。だから俺のせいじゃないもんね……と、自己弁護しながら。

 

「酒のことは詳しくねーけど、とりあえずロシアっぽいやつを探せばいいんじゃあねーかな」

「ああ……度数の高い酒と言えばウオッカ、ウオッカと言えばロシア、ってことね」

「そーゆーこと。……あ、あとついでにワイングラスとかあったら持ってきてくんない?」

「え、飲むの……?」

「飲まねーよ! 波紋ってのはなーッ、色々できるんだぜッ!」

 

 へへへ、と笑うジョセフに対して、二世はジト目で応じた。

 いかにも悪戯小僧、と言った様子だったせいもあってか、丸っきり信用されていないらしい。いや、戦力としては信用しているのだが、それとこれとはまた別の話である。

 

 ともあれ、酒蔵を物色すること数分。

 

「おいJOJO見ろよ、スピリタスがあったぜ! こいつで決まりだろ!」

「あ、悪ィ二世さん……そりゃ逆に度数が高すぎる」

「おォん!?」

 

 という一幕もあったが、何はともあれ50度ほどの酒を確保できた。ついでのワイングラスもだ。

 

 手に入れた酒を、酒蔵から出ながらグラスに注いだジョセフを見た二世は「やはり飲むのか……」と言いたげに、引いた顔をしていたが。

 

 しかしそれも、注がれた酒が波紋の呼吸によって生体レーダーと化したとき、すっと引っ込んだ。

 

「ヤロー、こっちから来てやがんな」

「マジかよ……吸血鬼も大概だけど波紋もわりとなんでもありだな……」

 

 奇妙な冒険に巻き込まれた男の顔には、やや哀愁が漂っていた。

 

 が、それも一瞬。彼とてプロだ、すぐに顔を引き締めると、渡されたボトルを懐に抱きかかえて、ジョセフについて再び街の中に溶け込む。

 

 グラスの中で渦を巻く酒は、特定のほうを示している。それは歩くにつれてだんだん激しくなり……。

 

「……! 左上!」

「あいよ……とぉ!」

 

 ジョセフが叫び、了承した二世ともども跳びのいたその場所を、人外のかかと落としが襲った。石畳は当然のように穴があき、いくつもの破片が派手に舞い上がる。

 

 同時にジョセフは、酒を吸血鬼に叩きつけた。無論、酒にはたっぷりと波紋が残っている。

 

 黄金の輝きを宿したそれを、吸血鬼は舌打ちしつつも回避せず空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)で蹴散らしながら、そのままジョセフを撃ち抜く行動に出た。

 波紋を宿しているとはいえ、所詮ただのワイングラスに注がれていた程度の量。二条の直線は小揺るぎもせず、一分の狂いもなくジョセフの喉へ殺到する。

 

 だが、吸血鬼はここで己の失敗を悟った。なぜなら、対面しているジョセフの顔が不敵に笑っていたから。

 

 そしてそれは、現実となる。

 

 いつの間にか、ジョセフはワイングラスを顔の前に構えていた。持ち手を逆手につかみ、グラスの口をまっすぐ吸血鬼に向ける形である。

 街灯の頼りない明かりに照らされたそれは、液体と波紋によって確かに光っていた。

 

「この俺に! 二度同じ手を使うことは既に凡策なんだよッ!」

 

 ジョセフが吠える。

 直後ワイングラスの中に吸い込まれた光線は、その形と宿った波紋の性質により破壊の力を解き放つことができないまま、ぐるんと向きを変えて吸血鬼の頭に着弾した。

 

「ば……」

「『そんなバカな』……と……言う!」

「そ……そんなバカな!」

「たとえ波紋が効かないとしても、目の前の波紋使いを放置するほどテメーはマヌケじゃあなかったな。だがな、一撃で仕留めようとするヤツが狙う場所なんて、大昔から相場が決まってんのよ! 受けるのは簡単だったぜッ! そしてッ!」

 

 ジョセフが前に踏み込む。彼の年齢に見合わぬ丸太のような太い足が、大地を踏みしめる。波紋の呼吸音が響き渡る。

 

 同時に、二世が懐に抱いていたボトルをアンダースローで放る。

 

 それを、ジョセフの左拳が――砕いた。

 中身をほとんど残したボトルから、大量の酒があふれ出す。ラベルに書かれたストリチナヤのロゴがアルコールに飲み込まれ、ちょうどそこを拳がくぐり抜けていく。

 

 そして大量の酒を浴びた拳は。

 

「ジョセフ・ジョースターッ! さすがジョースターの血を継ぐものと褒めておこう! ()()()()()! 気化冷凍法に波紋は――」

「食らえ! ブッ壊すほど……シュートッ!!」

「――がはぁっ!?」

 

 過不足なく、吸血鬼の右ひじを砕いた。波紋が通る衝撃音がこだまする。

 

()()……()()……!?」

 

 吸血鬼は目玉が飛び出すのではないかというほどに瞠目し、殴られた箇所を……ジョセフの拳を凝視する。

 

 波紋の輝きが、凍ることなく満ち溢れていた。凍らない不自然はあれど、普段通りだ。間違いなく、鍛え上げられた波紋が放つ光。

 しかしそれは黄金ではなく。

 

「赤、い……!?」

緋色の波紋疾走(スカーレットオーバードライブ)! 炎の波紋だぜーッ!」

 

 ジョセフが宣言する。その直後に、ようやく拳が凍り始めた。

 

「オタク、波紋についてわりと詳しいみてーだが、バリエーションまでは知らねーみてーだな! 緋色はな……()()()()()()! へへーん!」

 

 ニヤリと笑うジョセフ。手前に引いたその拳は、確かに凍りついている。しかし先に凍りついた右手に比べれば、明らかに小規模にとどまっていた。

 

 それが意味するところを正確に理解した吸血鬼は、しかし反論することができなかった。

 なぜなら、砕かれた右ひじから波紋が全身に回り始めている。このまま放っておけば、数分のうちに彼はこの世界から消えるだろう。

 

 だから、彼は即座に撤退を決めた。左手で手刀を作ると、右腕を自切する。

 同時にぼとりと落ち始めた腕を全力で蹴り飛ばし、ジョセフたちが対応したスキを見計らって近場の建物の上へと跳び上がった。

 

「おっ、なんだ逃げるのか?」

「……口惜しいが、今回は確かに我輩の負けだ。だが貴様に負けたわけではないぞ、蛙食いめ!」

「ハハハ負け犬の遠吠えにしか聞こえねえなあ!」

「抜かしおる……! だが今は仕方あるまい……我輩はここで死ぬわけにはいかんのだ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 マントを翻し、屋根の上から吸血鬼が声を張り上げる。

 

 そのセリフに、二世が反応した。

 

「カーズに……アルフィーだと? おいおい、マジかよ。まさかお前……」

「いずれ太陽の鍵は返してもらう! それまでせいぜい余生を楽しんでおくがいい!」

 

 それを最後に、吸血鬼はこの場から大急ぎで去っていった。

 残された二人は、しばらく相手が戻ってくるか、なんなら新手がまた出てくるのではないかと警戒していたが……やがて何も起きないことを理解して、どちらからともなくほっと息をついた。

 

「……どうやら終わったみてーだな。手、燃やさずに済んだな?」

「着火する前に決着ついてよかったよ。マッチは無駄になっちったけどなァ。……はー、つっかれたァ!」

「疲れたで済む怪我じゃないと思うけどな……」

「ああこれ? いや確かにそーなんだけど、なんかやらかしたときにやらされる()()()()()()()()()()()()()()()()に比べれば、フツーよフツー」

「波紋使いってやべーやつしかいねぇのか?」

「ンマー失礼なッ。俺なんておじいちゃんに比べりゃあひよこもひよこよ。普通の人間と変わりゃあしねーヨッ」

「あのねJOJO、よく考えて? 普通の人はね、両手凍った状態でそんな朗らかには笑えないと思うよ?」

「ハッ!?」

「英才教育ってのも善し悪しだねぇ」

 

 いい具合に緊張が抜け、からからと笑い合う二人であった。

 

「……まあなんだな。今回はマジで助かったぜ」

「そりゃどーも、どーいたしまして」

「できれば何か報いてやりたいところだが……生憎と追われる身でね。いずれまたってことで勘弁してくれよ」

「どってこたねーよ。感謝されたくてやったわけじゃあねーんだから」

「そうだろうけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()何もしないなんぞ、ルパンの名が廃るんでな。返礼には期待しといてくれよな」

「?? ……? よくわからんが、期待せず待っとるぜ」

 

 と、ここで二世は唐突に畏る。誰の目にも完璧な所作で一礼をして見せたのだ。

 

「JOJO、お前との出会いは間違いなく()()()()()()()()()()()()。これこそルパン一族最高のお宝だ、ありがとう」

「あー、おー、おう?」

「では……いつかどこかでまた会おうぜ、JOJO!」

 

 そして二世は踵を返し、一気に闇の中へと消えていく。

 

 ジョセフは遠ざかっていく彼の背中をしばらく眺めていたが……ふと気づいて腕時計を見てギョッとする。

 

「やッべ、もうこんな時間かよ!? ()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

 先ほどまで人外相手に大立ち回りを演じていた勇者は、か弱い老婆の叱責を恐れ蒼白になったのだった。

 




スタンド:トレジャー・オブ・タイム 本体:ルパンコレクションアルバム
破壊力:なし スピード:なし 射程距離:B 持続力:A 精密動作性:D 成長性:D
緋色の表紙に装丁されたアルバム用の本を本体とする、器物同化型のスタンド(アヌビス神の同類)。
スタンドが「世界一の大怪盗ルパン」と認めたものを本体とし、記録されたルパンコレクションに応じて様々な能力を使い分ける能力を持つ。
ついでにアイテムストレージみたいな使い方も可能。
ルパンコレクションの能力としての発動は、一度に一つまでだったり、時間制限があったり、クールタイムがあったりと制約も多い。
最大の特徴であるルパンコレクションは、ルパンと認められた現在の所有者が遭遇した輝かしい体験が凝縮され形を取ったもの。それは冒険であったり、推理であったり、統治であったり、戦闘であったり、様々である。
一度アルバムに記録されたコレクションは永遠に残り、ルパン一族が続く限りコレクションもまた共にあり続けるだろう。
現状ルパン二世が保持しているコレクションは、すべて父初代ルパンの足跡そのものと言える。
今回のジョセフとの共闘で、早速ルパン二世初のルパンコレクション【ラ・シャルール・エ・ラ(熱くなれ)】が登録された。分子単位で振動を操作し、温度を変える能力となるだろう(今後使う機会があるとは言ってない)。
なお、アルバムは能力以外はちょっと頑丈な普通の本。記録されたコレクションは写真と説明文が記載されていて、開けば誰でもルパンの冒険を振り返ることができる。しかしスタンドとして発動されたほうはスタンドの法則に従うので、スタンド使いにしか見えない。

ちなみに。
気化冷凍法を緋色の波紋疾走(スカーレットオーバードライブ)で突破したのは、波紋自体の熱に加えて酒の影響もあった、という設定になっております。
酒はアルコール度数が高いほど凍結点が低くなるので、接触してから波紋が流れるまでの時間を稼ぐことができた、という解釈。
ただし、アルコール度数が高くなると今度は波紋の伝導率も下がるので、スピリタスはアウトだった・・・という独自解釈も入ってます。
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