転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

57 / 108
21.洋上〜日本上陸

 1935年も四月を目前に控えた今日この頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか? なんだか久しぶりのアルフィーちゃんです。

 

 今わたしがどこで何をしているかって言うと、香港を船で出発したところだ。

 でもって、年末のドイツから今まで何をしてたかといえば、ひたすら船で移動していた、となる。

 

 しょうがないじゃあないか、ヨーロッパから日本まで移動する手段なんてこの時代、船しかないんだもん。シベリア鉄道はあるけど、ソ連とは今色々と難しい時期だからさ……。

 

 いやまあ、飛行機による長距離移動がなかったわけじゃあないんだけどね。アメリカなんかはこの時代から既に航空機産業が盛んで、輸送手段として確立している。

 だけどそれは国内線の話だ。国際線の確立はまだ先の話になる。

 

 ヨーロッパに至っては、いまだに飛行船が空の主役だ。潮目が変わるのは、1937年のヒンデンブルク号爆発事件(飛行船の浮力を担保するガスに引火してえらいことになった事件)のあとからだから、こちらももう少し先の話。

 

 と、そんな感じだからこの時代……1930年代の飛行機は、一般的には贅沢な乗り物って認識だ。それはルベルクラクの周辺でも変わらない。

 一応、戦闘潮流後も見据えて、飛行機や空母に関する話はちらっと伯爵に伝えてあるから、たぶん史実よりはイギリスの航空産業の歴史も変わると思うけどね。

 

 だからほとんど後ろにしか攻撃できない、ブリティッシュジョークの塊みたいな戦闘機は出てこないはずだ。ギリギリ間に合ったはず。……そう信じたい。

 

 話を戻そう。

 

 そんなわけで船しか移動手段がなかったから、長々と三ヶ月近くかけて日本に移動中のわたしはぶっちゃけ暇だった。

 そりゃあ前世じゃ絶対できない船旅だし、補給とかで寄港した各地の様子は垂涎モノの光景ではあったけどさ。船の上となると話は別なわけだよ。

 

 一応、ルベルクラク伯爵家の娘が道楽で旅行している体なので、ちょこちょこ話しかけられる機会はあったけども。そういうのって、大体ルベルクラクのネームバリュー目当ての人がほとんどで、話してても面白くなかったんだよねぇ。

 むしろわたし自身がボロを出しちゃわないか不安だったから、大半は「わたしそういうのわからないから!」で押し通したよ。演技でもなんでもないから、真に迫っていた自信はある。

 

 褒められることじゃあない?

 

 うん……そうだね……。

 

 まあそれはさておき、そんなこんなで暇だったので、わたしは【スターシップ】のスタンド空間で写真の現像に精を出したり、スタンドの練習、あとはおつきの人たちに日本語を教えたりして時間を潰した。

 

 現像は、最初は失敗もあったけどそこは腐っても柱の一族。すぐに身体が覚えてくれたので、そこから先は楽しい時間だった。アルバムにするのもはかどったし、そこにつける解説文もめちゃくちゃはかどった。はかどりすぎて、全部終わらせてしまったのは想定外だけどね!

 

 スタンドはというと、あんまり進歩はない。スタンド空間内の光量を操作できるようになったのと、【ネヴァーフェード】で使い勝手のいい技を思いついたのと、センチ単位で各矢の射程距離が伸びたくらいかな。

 新しい矢が出来そうな気配は、ない。これに関しては今んとこ、欲しいと思う能力がないからかもだけどね。わたしの【コンフィデンス】に付随する各能力、いずれもわたしがほしいと思った結果生まれてるっぽいしさ。

 

 日本語の教育は……正直難航してる。やっぱり日本語は難易度の高い言語らしい。これについてはすぐにどうにかなるものでもないから仕方ないけど、多少なりとも日本語に触れた経験があるのは無駄にはならないはずだ。

 

 と、いう感じで船旅を過ごしていたわけなんだけども。それでも港から出てしばらくは、多少暇つぶしのネタがある。だから出航した直後の今は、そっちに没頭することになる。

 

 それが何かと言えばずばり、寄港地で買いつけた新聞の類だ。色んな新聞を集めて、ただのんびり読み耽ったり、それぞれを並べて読み比べたりするのだ。

 まあ、遠隔地のニュースはだいぶ遅れて掲載されてるから、そこはちょっと不満なんだけどさ。仕方ないから、それについては諦めてる。早くインターネットがほしいね。

 

「お……このニュースも遂に東アジアにまで流れてきたかー」

 

 で、香港で手に入れた新聞はどんなものかなって取った新聞の一面記事を見て、わたしは感心していた。

 

 書かれていた見出しは、「ルパン二世現る!」。

 そう、かの大怪盗、アルセーヌ・ルパンの二代目がイギリスに現れたのである!

 

 かつてヨーロッパをにぎわせた伝説の怪盗に二代目が現れるとは思われていなかったのか、このニュースは結構道中の寄港地でもちらっと聞く機会があった。イギリス植民地に寄港することが多かったからってのもあるだろうけど、それ抜きでも彼の登場は衝撃的だったんだと思う。

 わたしとしては、ルパンがいるなら二世がいても不思議じゃあないな、ってすっと納得できたんだけど……そこはまあ、わたしには前世があるからね。

 

 さてそんなルパン二世だけど、なんとも不遜なことに、バッキンガム宮殿の宝物庫から宝石を盗んでいったらしい。盗まれた宝石はレッドサンという名前で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だという。

 

 ……うん、自分で言ってて白々しいや。だってマッチポンプだもん。

 

 何を隠そう、ルパン一家にこの宝石を盗むように依頼したのは外でもない、ルベルクラク伯爵なのだ。盗まれた宝石はズバリあの遺跡の鍵の一つで、初代ルパンに何やら貸しがあったらしい伯爵が、それを理由にルパンに盗みの依頼を承諾させたことで実現した。

 ただし初代ルパンは既に引退を決めていたので、常々後継者として育てていた息子の襲名披露としてこの件を利用することになった……というのが今回の経緯である。

 

 そう。ただの茶番なのだ、この一件は。

 世間ではルパン二世に宮殿の警備や見取り図が筒抜けだったようだ、さすが天下の大泥棒、という風に話が広がってるけど当たり前。

 だって警備に関わってる傭兵の胴元はルベルクラクで、当主の伯爵は血縁関係もあって宮殿には普通に出入りできる貴族だ。どっちの情報も簡単に手に入る立場にある。そのルベルクラクがルパン二世の協力者なんだから、ねえ。

 初仕事とはいえ、ルパン二世にとっては朝飯前だったと思うよ。今頃は伯爵への引き渡しも完全に終わっていて、どこかで優雅に仕事上がりの一杯を楽しんでるんじゃあないかな。

 

 なんならヨーロッパを脱出して、アジアのほうに来てる可能性もある。というか、わたしとしては来ていてほしい。

 

 だって、ルパンがいて二世がいるなら、これは三世が生まれてこないとおかしいでしょ!

 

 ルパン三世の出生については作品によって設定が違ったりするものの、一般的にはフランス人の父二世と日本人の母親の間に生まれたハーフ、という形で知られている。二人がどこでどう出会ったか、なんて詳細なエピソードはないけれど、それでもフランス人と日本人がこの時代に出会うなら日本、どんなに範囲を広げても東アジア辺りが一番無難だろう。だからこそ「来ていてほしい」わけだよ。

 

 いやー、楽しみだなー。会ってみたいなー、ルパン三世!

 カリオストロ公国がこの世界にあるって知ったときからもしかして、って思ってはいたけど、実際にその可能性を見せられたとあっちゃあ一ファンとしてはやっぱりね、気になるよね! 太公望といいブッダといい、妙に他の世界との繋がりがあるっぽいこの世界なら、あってもおかしくないって期待しちゃうじゃあないか!

 

 え、お前はジョジョラーだったんじゃないのかって?

 

 それはもちろんイエスアイアムだけど、それはそれとしてルパン三世だって大好きだったのだ。自分の世界がある男の、流れ星のような美学。いいよね。いい。

 

 ……話、戻そっか。

 

 えーっと……ああ、そうそう。遺跡の鍵についてだね。

 

「これで懸念があるのは日本のやつだけってわけだ」

 

 後付けで、ふむー、といかにも真剣に考えていますみたいな感じであごに手を当てる。周りからは微笑ましいものを眺める視線が集中してるから、だいぶ手遅れ感あるけどそれはともかく。

 

 他の三つの鍵と違って、日本にあるやつはほとんど情報がない。今現在日本にあるかどうかも、はっきりとは断言できない。日本に賠償金代わりに流れた、までしかわからないのだ。

 だから日本自体は楽しみだけど、探し物が果たしてカーズ様たちが目覚める前に見つかるかどうか心配だよ。

 

 現段階では、スペインのやつも見つかってないだろうけど……そっちはジョナサンに任せておけば万に一つも問題はないだろうから、何も心配はしてない。だってジョナサンだし。初代ジョジョは伊達じゃあない。

 それに、そもそも学者としてはわたしより彼のほうが上だ。わたしは一万歳オーバーのロリババアだけど、キャリアは前世で院生だった頃の数年しかないからさ。ジョジョに対する信頼はもちろんだけど、単に学者としての信頼もあるんだよ。

 

 ともかくそんなわけで、わたしは日本でとってもがんばらないといけない。ルベルクラクのサポートも日本ではほとんど受けられないから、余計にね。

 だから日本を堪能するのは後回しだ。でもアヌビス神の打ち直しは、先のほうがいいかな? 刀の打ち直しは、刀身だけで終わるものじゃあないから時間かかるだろうし……。

 

 と、いうようなことをこの三ヶ月間でわりと両手で数え切れないくらい考えてたわけだけども。

 考えた通りにできるかどうかは実際やってみないとわからないんだし、これ以上考えてもどうにもならない。所詮は机上の空論だもんね。

 

 なのでわたしは、新聞の残りを堪能するべくページをめくるのだった。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 わたしが乗った船は、特に遅れることもなく順調に横浜港に到着した。インド洋の辺りではそこそこ天気が荒れたけど、太平洋は穏やかだった。これは運が向いてきたかもしれない。

 

 そんなことを考えながら、わたしは船を降りる。

 

 ……いや、降りようとして。直前、船上から見えた横浜の眺めに感動して思わず立ち尽くしちゃったよね。

 

 横浜は、江戸時代を通じてただの寒村だった。だけど幕末、外国人居留地を作ることになった幕府は江戸に近い神奈川にこれを作ることを避け、代わりとして開発されることになって運命が変わる。外国向けの港として整備された横浜は、そこから発展に向けて歩き始めたのだ。

 

 そんな経緯があるから、横浜、特に港の周辺は西洋風な建物がその多くを占めている。

 だけど……それはあくまで西洋「風」なのだ。完全に同じものじゃあない。一年近くイギリスで生活していたわたしにしてみれば、この光景はまさに「日本」だった。

 

 おまけにいまだ高層建造物も少ないこの時代、船から見える景色にはそんな洋風の街並みの向こうに続く和風の街並みも含まれている。これを見て、感動しないなんて無理だった。

 

 だってわたしは柱の一族に転生して、もう一万年以上生きている。だけどわたしの心はいまだに人間の形をとどめていて。

 柱の一族だからこその記憶力は、前世の記憶を風化させてくれない。今でも思い返そうとすればすぐに、しかも鮮明にあの頃のことを思い出せてしまう。

 

 この一万年で、一体何回白いご飯が食べたいと思ったことだろう。

 この一万年で、一体何回日本語で語り合いたいと思ったことだろう。

 この一万年で、一体何回……。

 

 そう、わたしは――生まれ変わってもなお、どうしようもなく日本人なのだ。良くも悪くも。

 

 その想いは、横浜の景色を見て確信に変わった。

 

 ああ、ああ!

 懐かしき我が心の故郷!

 

 わたしの記憶にあるものとは百年近く違うけど、前世で横浜に住んでたこともないけど、それでも!

 

()()()()()()()()()()!!」

 

 思わず日本語でそう叫んだわたしは、悪くない。絶対、悪くないんだ。

 




ルパン一家はルベルクラクと繋がってましたよっていうお話と、次への繋ぎ回でした。
波紋について知識があったりしたのも、そういうことですね。
まあもちろんルパン一家は柱の一族の詳細な話や、赤石については知らないのですが、それでも彼らの崇める神が復活したこと、その意思に従って何やら画策していることは察しています。
今後絡んでくるかどうかは予定にないですけどね!!(大の字

ちなみにレッドサン、最初はサンレッドだったんですけど普通に天体戦士なのでやめました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。