転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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28.ホーリー&ブライトとザ・パヴァート 上

 吉良吉尚(よしなお)さんちを辞したわたしたちは、すぐに東京へ帰る……ことはせず、もうしばらく滞在することにした。

 

 というのも、やはり吉良家と東方家について調べておきたかったからだ。前回言った通り六十年以上使わない情報にはなるんだけど、それでもここで何かしら情報なり伝手なりを手に入れておくことは無駄にはならないはずだ。

 そのためには戦闘潮流を生き残らないといけないけど……まあ、最悪何かあっても黄金の精神の持ち主たちなら活用してくれるだろうし。どっちにしても、まったくの無駄にはならないはずだ。そう思ってね。

 

 と言っても、そんなに大掛かりなことはできない。

 

 ……んだけど、この世界の東北地方で四神工業の名前はかなりの威力があるらしい。その創業家一族(違うけど違わない)のサチさんが持つネームバリューは相当で、多くの人がすんなり答えてくれた。

 

 あとはまあ、時代柄かセキュリティ方面が緩いってのもあったかな。二十一世紀だったら、戸籍関係の書類を恩のある企業の人間と言っても身内じゃない人に見せるなんてあり得ないよね。

 でもおかげで順調に調査を進められてるし、これはこれとして受け入れようと思う。

 

 と、いうことでわたしは、村役場で吉良家と東方家の戸籍情報に目を通していた。この時代の戸籍、文字が完全に手書きだから読みづらいんだけど……そこは前世で取った杵柄。平安時代とかより古い時代のはともかく、江戸時代から明治にかけての毛筆くらいは普通に読めるのだ。

 毎度のように、サチさんからは知の神扱いで大層持ち上げられたけどね!

 

 いやともかく。それはともかくだよ。

 

 吉良家の情報を読み込んでるときに、それは起きたのだ。

 

「アルフィー様、お取込み中に大変申し訳ないのですが……」

「ん? どうかした?」

「はい……ナートチカが熱を出してしまったようで……なにとぞお知恵を授けていただきたく」

 

 サチさんが困った様子でやってきた。腕の中には、ぐったりした様子のレナータちゃん……。

 

「……え? でも、あなた三十年子育てしてるでしょ。こういうときの対処法って……」

「いえ、それが……お恥ずかしながらよくわからなくて。半吸血鬼は身体が丈夫な分、今まで病気などなかったものですから……。それに私も人間だったのはもう三十年前のことですし、子供の頃のこととなるともっと昔であんまり記憶にないもので……」

「あー……」

 

 言われてみればそうか。半分とはいえ、吸血鬼の生命力を受け継いでるんだ。赤ん坊特有の様々な症状ですら、経験してないだろう。

 

「……アルフィーさまぁ……わたし……しんじゃうんですか……?」

「いやそんな。そりゃあ確かに熱病で命を落とす人はいるけど、それはよっぽどのことだよ。あなたは半吸血鬼なんだし、生半可な病気なんて……」

 

 ……待てよ?

 よく考えるとこの状況、おかしくない?

 

 わたしが今まさに言ったように、半吸血鬼は生半可な病気になんてかからない。ただの風邪なんて、生命力がかげる老年期に入っても絶対にかからない。インフルエンザだってかからないし……狂犬病にはさすがにかかるけど、それですら人間と違ってわりと治るんだぞ。かつてローマの時代、ケルト周辺に半吸血鬼を導入した張本人が言うんだから間違いない。

 それが、急に熱が出た? まさか……まさかとは思うけど、これ、スタンド攻撃だったりしないだろうな……?

 

「あ、あの……?」

「ああごめん、ちょっと別件で気になったことがあってね」

 

 おっと、いけない。それはそれとして、生まれて初めて発熱を起こして弱気になってるレナータちゃんの不安をあおってしまったようだ。

 ともあれ彼女をなでてあげて安心……うわ、これ結構熱出てるぞ。半吸血鬼でこんなに熱が出るって、ますますおかしい。

 

 そう思ってレナータちゃんの身体を念のため検めたところ……。

 

「……!」

 

 彼女の背中に、とある模様が浮かんでいた。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をしている。

 普通の人はこれを見ても、何かのマークとしか思わないかもしれない。だけど歴史マニアのわたしには、これが何を意味するのかがわかる。わかってしまう。

 

 足利二つ引。室町幕府を開いた、足利尊氏の一族が用いる家紋だ。

 

 問題なのは、この家紋が決して足利尊氏の嫡流だけが用いるものじゃあないということ。彼に端を発する、足利一族全体が用いたということだ。

 そして……その足利一族の中に。

 

 ――()()()()()()()()

 

 まさか? まだ吉良吉影のいないこの時代に、まさか……。

 いやでも、あの吉良家が歴史に出てくる吉良一族と関係してるとはまだ断定できないし……。

 

「アルフィー様? この紋章は一体……」

 

 思わずごくりと喉を鳴らしたわたしに、サチさんが問いかけてきた。

 

 いけない。嫌な想像を振り払って、彼女の言葉を吟味する。

 

 親として、日常的にレナータちゃんに接してる彼女が……なんなら昨夜も一緒にお風呂に入ってた彼女が、これを見たことがない?

 ということは間違いない、これは今日になって何者かからつけられたものだ。付け加えるなら、レナータちゃんは子供と言えど半吸血鬼。気づかれないようにこんなくっきりした家紋を背中につけるなんて、普通の人間には絶対に不可能。

 

 なら、これは。

 

「……二人とも気をつけて。たぶんだけど……()()()()()()()。誰から、どこから、あるいは動機も何もわからないけど、()()()()()()()()()()()()()

「えッ!」

「そ、そんな……」

 

 それぞれの態度で愕然とした二人に、わたしは追って問いかける。

 

「レナータちゃん、悪いけど。あなたの記憶を探らせてもらうよ。いいね?」

「はい……お願いします……」

 

 とろんとした目のレナータちゃんが頷くと同時に、わたしは【ネヴァーフェード】を取り出した。即座に彼女の頭に刺して、今日一日の彼女に範囲を絞って記憶を抽出。そしてそれを自分の頭に刺すことで獲得する。

 

 いつものように記憶が一気に頭の中を駆け巡る。身体のスペックでごり押しして、その中からスタンドに関わっていそうなものを探す。

 

「……これは」

 

 そして見つけた。

 

 村役場の書庫に案内されてる最中のわたしたち三人の中で、子供らしい好奇心で役場内のあっちこっちを興味深そうに眺めていたレナータちゃんが。

 

 壁――それも彼女くらいの身長の人間の視線と重なるくらいの低いところ――にとまっていた蝶を見つけて。

 見たことのない色と、例の足利二引きの家紋が描かれた羽をしたそれに、思わず手を出して。

 

 手を触れた瞬間――火の粉を散らすようにして、かすかな燐光がふわりと巻き上がり……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 記憶の中のレナータちゃんは、不思議そうに首を傾げていたけど……やがてわたしやサチさんと距離があいてしまったことに気づいて、慌てて追いかける。そんな彼女を尻目に、解放されたモンシロチョウはどこへともなく飛んでいく。

 

 ……これだ。恐らくこの蝶は、スタンドによって何らかの能力を与えられていた。

 

 この感じは、遠距離操作型……いや、自動操縦型の可能性もあるか。

 ともかく、純粋な戦闘力で勝負してくるタイプではない……はずだ。奇襲される側としては、近距離パワー型のほうがわかりやすくて少しだけやりやすいんだけど……よりにもよって、一番本体を探しづらいタイプとは。

 

「……レナータちゃん、今日ここに来る前に、不思議なちょうちょを触ったでしょ? わたしの【コンフィデンス】のような、宝石みたいな赤色の羽をしてて……その真ん中にそれぞれ丸の中に二本線がある感じの模様がついたちょうちょ」

「あ……はい……見たことのないちょうちょさんだったので、つい……」

「……アルフィー様、ではッ!?」

「うん、それが元凶だね。だけど記憶からはそれ以上はわからない。スタンドは基本、本体が意識しないと能力は解除されないから……このままじゃまずい。なんとかして情報を集めないと」

「情報ですね……! わかりました、すぐにッ!」

「あ……、待ったサチさん!」

 

 わたしの言葉を聞くと同時に、飛び出そうとするサチさんの手首をつかんでとめる。

 

「とめないでくださいアルフィー様! このままではナートチカがッ!」

「気持ちはわかるけど落ち着いて! まだ昼間だよ、吸血鬼のあなたが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「あ……!」

 

 わたしが指摘したことにようやく気づいたサチさんが、がくりと脱力する。

 

 そう、今は昼なのだ。吸血鬼のサチさんにとって、もっとも動けない時間である。

 にもかかわらず彼女がわたしと一緒に活動できるのは、ひとえにレナータちゃんのおかげだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、今日までの彼女の活躍はなかったと断言できる。

 

「サチさん、あなたはレナータちゃんと一緒に【スターシップ】の中にいて。それで、気化冷凍法を軽く使って彼女の身体を冷やしてあげるんだ。対症療法でしかないけど、無意味じゃあないはずだよ」

「し、しかし! それでは外にいるアルフィー様と連絡が取れません! 娘の容体が急変したら……!」

「う、た、確かに。でも、高熱に冒されてる今のレナータちゃんが、満足にスタンドを使えるなんて思わないほうがいい。あれは精神力で動かすものなんだから」

「う、ううう……!」

 

 どちらに転んでも、娘に危険が及ぶ。

 その事実に、サチさんは苦悩を深めて親指の爪を激しく噛みしめた。

 

「……だ、大丈夫だよ、お母さん……」

 

 そこに、ぐったりしたままのレナータちゃんが声を上げる。

 

「わたし、がんばる……だから、絶対大丈夫だよ……」

「ナートチカ……!」

 

 誰の目にも虚勢だってわかる笑みを浮かべたレナータちゃんに、サチさんが悲鳴に近い声を上げる。

 その腕の中で、レナータちゃんがスタンドを繰り出した。メカニカルな猫のような姿の、四つ足の(ヴィジョン)。わたしが【ホーリー&ブライト】と名付けたそれは、しかし普段と違ってはかなげに揺らいでいる。

 

 やっぱり、今のレナータちゃんの体調が思いっきり反映されちゃってる。これじゃあ普段のように、サチさんを日光から守れるかどうかわからない。

 

「影響受けちゃってるね。【センド・マイハート】でレナータちゃんの自己治癒力や免疫を強化しておくよ。わたしと同等の治癒力になるんだから、スタンド攻撃とはいえだいぶよくなる……」

 

 ……はず、だったんだけど。

 どれだけ経っても、レナータちゃんの症状がよくなることはなかった。

 

「ど、どういうことなのでしょう!? なぜ、アルフィー様のお力が効かないのです!?」

「これは……ウィルス系のスタンド攻撃じゃあないってことか……!」

 

 わたしの【センド・マイハート】は、本来生命力を譲渡するだけの能力だ。ただ、譲渡する生命力が柱の一族であるわたしだからこそ、驚異的な回復力を発揮するだけのことで。

 

 だから身体の免疫機能に由来する症状であれば、回復できる。つまりウィルスによるスタンド……発熱するものじゃあないけど、たとえば驚異的な殺傷力を持つ【グリーン・デイ】や【パープル・ヘイズ】であっても、ウィルスである以上即死しない程度には対抗できるはずなのだ。

 しかし逆に言えば、そうでない症状……たとえば、炎など高温の物質に接近したことで生じるただの体温の上昇は、()()()()()()。しいて言えば、身体が焼けてもすぐに治るのと、体力が補充されるから我慢できる時間が伸びるだけだ。

 

 この現象に対抗するには、基本的に一つしか方法はない。原始的で、しかしずっと人類がやってきた方法。

 

 つまり、物理的に外から冷やす。これしかない。

 

「……ッ、サチさん、気化冷凍法を! あなた得意でしょ? 体温を多少下げる程度に調整して、レナータちゃんを冷やしてあげるんだ。それで少しは上向く……はず」

「は! は、はい、畏まりました!」

 

 返事と同時に、気化冷凍法を開始したんだろう。彼女の身体からうっすらと冷気が漂い、レナータちゃんの顔色が少し上向いた。よかった、これでひとまずは動かせるかな?

 

 だけど気化冷凍法は、気化熱で水分を蒸発させることで行う技。レナータちゃんから水分を奪っていることには間違いないのだ。継続してかけ続けては、命にかかわる可能性が高い。

 そうなる前にあの蝶のスタンド本体を見つけて、決着をつけないと。

 

 わたしはそう決心して、何はともかく書庫を出ることにした。

 

「おや、どうされました?」

 

 書庫の利用を中断する旨を伝えに行った役場の職員さんが、不思議そうに聞いてきた。

 無理もない、まだ書庫に入ってそんなに時間が経ってないんだ。目的のものを見つけられたとは普通思わないだろう。

 

 ちなみに戻ってくる道中、レナータちゃんが例の蝶に接触した地点に【ネヴァーフェード】を使ったけど、案の定目ぼしい情報は手に入らなかった。恐らく、ただの蝶を媒介にしてるだけで本体はまったく関係ないところにいるんだろう。

 これで自動操縦型なら、なお面倒だ。あれは本体が状況を関知しない代わりに、無限に匹敵する射程距離を実現する。おまけにスタンドを攻撃しても、本体にダメージがフィードバックされない。仮に【スタープラチナ】が殴ったとしても、本体は毛が刺さるほどの痛みもない可能性が極めて高いのだ。

 

 くそっ、何もかもが面倒な相手だな! せめてスタンド使いがもう一人いれば……!

 

「いえ、実は娘が熱を出してしまいまして……」

「なんと、それは大変ですな。あ、ですがうちの村は小さいながら腕のいい医者がおります。まだ若いですが、東京で医学を学んだ方でして腕は確かですぞ」

「ありがとうございます。ですが……」

 

 いや、悔しがってる場合じゃあないな。早くなんとかしないと!

 

「サチさん、待って。……すいません、そのお医者様はどちらに?」

「アルフィー様?」

「はいはい、こちらが住所です。それと、うちの村の人間なら『小田原医院』のことは誰でも知ってますんで、何かあれば聞いてみてください」

「小田原医院……ですね、はい、ありがとうございます」

 

 職員さんから住所他、情報を受け取ったわたしたちは、急いで役場を後にした。

 

 そして今までとは逆に、わたしが車の運転席に入る。サチさんに運転させて、レナータちゃんの症状に影響したら困るからね。

 前世ではAT限定免許しか持ってなかったから、この時代の運転はまだ慣れてないんだけど……それでも多少練習はしたし、何より覚えが抜群にいい今の身体なら問題ないはずだ。

 

「その小田原医院に向かうよ」

「は……ですがアルフィー様、なぜ? この症状がスタンドによるものなら、医者にかかっても意味なんてないのでは……」

 

 熱に冒されながらも、光を制御して母親を守るレナータちゃんと、そんな娘に何もしてやれないことを悔やんでいるのか、ずっと苦しそうな顔をしているサチさん。

 そんな状況だからか、彼女は相当にテンパっているんだろう。思考がほとんど回ってないように見える。

 

「この症状は、パッと見ただけじゃあただの病気にしか見えない。それならもしこの村で他の同じ症状が出ていた場合、みんな医者にかかると思うんだ。で、どうせかかるなら腕のいい医者にかかりたいのが人情でしょ。たとえば、村の人間なら誰でも知ってるくらいの医者とかね。

 だからそういう医者なら、村のことには絶対詳しいはずだ。何か知ってるかもしれない。情報収集先としては、かなり信用できると思わない?

 ……あとついでに、場所を聞くために違和感なく、そこらへんの人にも声かけられるしね」

「な、なるほど……!」

 

 いや、これくらい誰でも思いつくと思う。というかわたしでも思いつくんだから、むしろ難しい話でもないと思うんだけど。

 心配なのはわかるけど……スタンドの脅威を知ってるからこそ、余計不安なんだろうけど……でも、今はふんばるところだよ、お母さん。

 

 大丈夫、わたしがなんとかする。してみせる。

 わたしはそのために、人間として生きるって決めたんだ。

 

 だからサチさん。

 ホリィさんが倒れたときのスージー・Qみたいに、どっしり構えて信じていてほしい。

 

 




杜王町の中・・・スタンド使いがいる・・・何も起きないはずがなく。
というわけで、戦闘回入ります。今回は二枚屋と異なりマジで戦闘回です。たぶん上中下回。
レナータのスタンド、【ホーリー&ブライト】については次回。
敵のスタンド名はあえて今回サブタイで既に出しましたが、こっちは次々回・・・上下回で済んじゃった場合はレナータのと同時になる・・・かな。
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