転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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29.ホーリー&ブライトとザ・パヴァート 中

 小田原医院とやらはわりとすぐ見つかった。やっぱり名の知られた人みたいで、本当に行き先を尋ねた村人全員が場所を知ってたんだよね。口々に褒めてたし、評判もいいらしい。

 

 ただ、それとは別に気になることがある。

 レナータちゃんに出た症状……それに伴う足利二つ引の家紋も、村人全員が知っていたのだ。

 しかも小田原医院の先生はこれを治す方法を知ってるみたいで、なんと一晩のうちに治してしまえるとか。

 

 それを聞いて思ったことは、ただ一つだ。

 

「あからさまに怪しい」

 

 医院の中に入りながら、思わずつぶやく。

 

 うん。どう考えても怪しい。

 そりゃあ、確かに何も事情を知らなければ名医で終わるだろう。だけどわたしは、これがスタンドによるものだということがわかっているんだ。

 そんな症状を、たった一晩で治す? そんなの、マッチポンプにしか見えないじゃあないか。もちろん証拠はないから、今はまだ警戒するしかないけどさ。

 

 ただ、まったくわからないこともある。なんでスタンド攻撃を受けたときに出るのが、足利二つ引なんだろう?

 村の人たちから聞いた限りじゃあ、小田原医院の先生は足利どころか吉良とも血縁がないらしい。その他の足利の分家ともだ。

 

 なのになんで?

 スタンドの姿形や、能力のデザインなんて本人の意思でどうにかなるものでもないだろうけど……それでもまったく無関係ってわけではないし、何かしら理由はあると思うんだけど……。

 

「レナータちゃん、診察室へどうぞ」

 

 おっと。何はともかく、今はレナータちゃんだ。わたしとサチも、看護師さん(三十代くらいの女性だ)に促されて診察室へ向かう。

 恐らくはこの未知のスタンドの、ホームグラウンドと思われる場所だ。油断はしない。

 

「いらっしゃい。今日はどういう病気で?」

 

 対して、出迎えてくれたのはやはり三十代くらいの男性。小田原(よう)と名乗った彼はいかにもな白衣を着ているけれど、やや小太りに見える。

 にも関わらず、体格がいいからかパッと見ただけじゃああんまり太くは見えない。太目だけどがっしりした体格、ってなんか不思議だけど、ジョジョの世界なら別におかしくもない気がしてくるから不思議だ。

 

 それと診察室自体は、たぶんなんの変哲もない診察室なんだろうけど……何せ転生してからこっち、病気とは縁がない。おまけに前世とは時代が違うから、差がわからないなぁ。歴史好きとしては、素直な気持ちで眺めたかったよ。

 

「実は……」

 

 わたしが観察している間に、サチさんが説明をする。

 最初はカルテに書き込みながらうんうんと頷いていた小田原医師は、サチさんが「背中に家紋が……」と言った途端に確信に満ちた表情で言葉を遮った。

 

「なるほど、()()()だな」

()()()……ですか?」

「ああ。原因不明の熱病で、放っておけばやがて死に至るのだが……罹患したものには必ず身体のどこかに吉良家の家紋が出るのだよ。だから誰からともなくそう呼ばれるようになったというわけだ。別に吉良さんたちが原因というわけじゃあない」

「ですが、家紋が出てきているのは事実でしょう?」

 

 吉良さんも迷惑だろう、と付け加えた小田原医師に、看護師さんがキツめの口調で言った。

 

「そりゃあそうだろうが、証拠はどこにもないんだぞ。憶測をいたずらに吹聴するものではないぞ。第一この病気が見つかってから十年近く経つが、その間に吉良さんもだいぶ家計が苦しくなったと聞くぞ。評判を落として、おまけに財産も失うなんてまっとうな感覚の人間なら普通しない」

「いや、家計に関しては自業自得でしょう? 骨董狂のじいさんが派手にお金を使うからそうなんですよ」

「まあ、それもあるだろうがね……」

「そんなことよりッ!」

 

 雑談じみてきた小田原医師と看護師さんの会話を、サチさんが強引に遮った。その剣幕に二人は驚いた顔をしたけど、サチさんとしてはそりゃあそうなるよね。

 

「娘は、娘は助かるんですか!?」

「……助かるとも。大丈夫、特効薬があるから」

「ほ、本当ですか!?」

 

 なだめるように、けれど絶対の自信をにじませて断言した小田原医師を、サチさんはすかるように仰ぎ見た。

 

「もちろん。安心しなさい」

 

 さらに彼はそう付け加えたけど……わたしはまだ信じきれない。

 

「……本当ですか? あなたさっき原因不明って言ってましたけど、それなのに特効薬があるっておかしくないですか?」

「ああ……実は見つかったのは最近でな。まだ原理が解明できていないのだ。ただ、()()()()()()()()()()から、この病気が駆逐されるのも時間の問題だろうよ」

「……ですか」

 

 一応……おかしくはない、かな……?

 

 それでも、わたしは自分がジョースター一族やその歴代の敵対者みたく、とっさの機転とかに優れているとは思ってない。何か見落としてる可能性はある。

 だから仮に見つけられてないにしても、せめて警戒はしておこう。おかしな動きを見せたらすぐに踏み込むつもりで。

 

「では薬だが……実は注射でね」

「ちゅーしゃ」

 

 けれど小田原医師の一言に、今まで黙って成り行きを見守っていたレナータちゃんが引いた声でつぶやいた。

 半吸血鬼に注射の痛みが耐えられないはずはないだろうけど……これは理屈じゃあないやつかなぁ。

 

「それと、どうもこの特効薬は雑菌と簡単に反応して効果を失ってしまうようでな。処置は奥の無菌室で行う。保護者のお二人には申し訳ないが、こちらでお待ちを」

「……わかりました、娘をどうかよろしくお願いします!」

「もちろん。それが我々医師の使命だ。……蒔田、あとは任せる」

「はぁ~い」

 

 というわけでレナータちゃんは小田原医師に連れていかれ、わたしたちは蒔田というらしい看護師さんと待つことになったわけだけど……。

 

 恐らくはスタンド使いと思われる相手と、部屋の中で二人きり。誰の目にも危険だ。何かあったらすぐに踏み込めないかもしれない。

 だから、レナータちゃんにはもしものときは遠慮せず抵抗しろと伝えることにした。熱で弱体化しているとはいえ、彼女のスタンドは攻守に優れたスタンドだ。敵は二枚屋さんのアニマロッサと違って特殊なタイプではなさそうだし、わたしが助けに入るまでの時間は稼げるだろう。

 

 それでも心配は心配だけど……。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 小田原に連れられて無菌室に案内されたレナータは、熱と不安で終始落ち着かない様子であった。促されるまま椅子に座りはしたが、心細くてたまらない。思わず二人がいるであろう方向に目を向けてしまうほどだ。

 

 しかし、それでも彼女はルージュフィシューの末裔。がちゃりと()()()()()()()()()()()()に、緊張を強めて凝視する。

 

「……せんせい? なんで、カギかけたんですか……?」

「そりゃあもちろん、逃げられないように、だ。何せ小生、注射を嫌がらない子供を今まで見たことがないのでね」

「う……」

 

 ――そうだった。今から注射されるんだ。

 

 その事実に思い至ったレナータは、緊張を忘れて縮こまった。

 

 ……彼女は注射というものを、痛いらしい、ということしか知らない。あとはせいぜい、薬を体内に直接入れられることくらいか。病気をほとんどしないのだから、当然と言えば当然だが。

 半吸血鬼の彼女にとって、それは決して問題ではない。むしろ痛みなど、気になるものでもないのだが……同年代(この表現が正しいかは微妙なところだが)の子供たちからの伝聞でしか注射を知らないからこそ、より怖く感じるのだろう。

 あとはアルフィーが推察した通り、理屈ではないということもある。知らないからこその補正もありそうだ。

 

「さて、それじゃあ処置を始めるので……()()()()()()

「……ふえ?」

 

 しかしレナータは、予想とは異なる指示に注射への恐怖を忘れた。きょとんとした顔で、小田原の顔を見上げ……。

 

「聞こえなかったか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そこで、今までほとんど見たことのない――見たとしても、母にしか向けられたことのない顔をした男がいるのを見て、「ひっ」と悲鳴を上げた。

 

 齢三十を越えるとはいえ、精神的に幼いレナータはその表情の意味を理解していない。しかし不快だとは思っていたし、母の反応も同様だったから、ろくなものではないとは考えていた。

 

 それが今、まさに自分に向けられている。そう悟ったレナータは、逃げようとしたが……目の前で小田原がズボンも下着も下ろし、完全な臨戦態勢に入ったのを見て、その意思にくさびを打ち込まれて硬直してしまった。

 

「くっくっく……いいなぁ、やはり幼女は最高だ! 特に怯えで震える姿はこの世のどんなものより素晴らしい!」

 

 その様子を見た小田原は、呼吸も荒くにじり寄ってくる。性的な興奮で顔を醜く紅潮させて、レナータの服をひん剥こうと手をかける。動きに合わせて左右に揺れる男の一部が不気味だった。

 

「心配するなよ、痛いのは少しの間だけだ……最高の初体験をプレゼントしてやるから! さあ!!」

「い……いやああぁぁ!」

 

 あまりの恐ろしさに、悲鳴を上げるレナータ。もはやスタンドを出せる精神状態ではなかった。

 

「お、お母さん! アルフィーさまぁ! ()()()()()!!」

「くっくっく、叫んでもムダだ。ここは防音処理がしてあるからな……聞こえやしない。ま、完全なものじゃあないから漏れ聞こえることもあるだろうが……何せ小生がしようとしているのは注射だからな。

 そう、今からするのはただの注射、ただの医療行為だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()かもしれないがね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()、注射なのだよ。子供が注射を嫌うのは世の常、誰も気にしやしないさ……()()()()()()()……!」

「ひっ……」

 

 助からない。

 

 そう思ってしまったレナータの下半身が、じわりと不快な液体でにじみ始める。

 

「ああもったいない! 聖水がムダになってしまう! 大丈夫だよぉ、おじさんが全部飲み干してあげるからねぇ!!」

 

 だがそれを見た小田原は、大興奮に大歓喜を重ねて勢いよく距離を詰める。舌を猛烈な勢いで動かしながら、「ぺろぺろ! 幼女の聖水! ぺろぺろ!」などとわけのわからないことを言いながら、レナータの下半身を舐めようとしてくる。

 

 それを。

 

「や……やだああぁぁーーっ!!」

 

 レナータは。

 

「ドゥブッハアアァァァア!?」

 

 半吸血鬼特有の強靭な膂力でもって、思いっきりはたき飛ばした。

 

 ……読者諸君にとっては既知のことだが、半吸血鬼とは人間と吸血鬼の中間の形質を持った生き物である。それは膂力という点においても同様だ。

 そして吸血鬼は素手で、しかも格闘のイロハもわからぬごろつきの、無造作にすぎるパンチでさえ、レンガ造りの建物を容易に破壊することができる。

 そんな力、人間と混ざって半減したところで……怪力と表現するに何も問題がない。

 

 つまりどういうことかと言えば、

 

「……あ、あれ?」

 

 嫌なものを振り払うという本能に従った、何気ない幼女の無造作なビンタであっても、大の大人に対して致命打になりうる。それだけのことである。

 ただ、本人は突然の変態にそれを忘れていたのだ。だからこそ、ただの人間に押し負けそうになっていたのだが……。

 

「……そっか。そうだよね……わたし、人間じゃあないもんね……」

 

 その事実に改めて気づいたレナータは、少し寂し気に手を開いて閉じてを数回繰り返した。

 

 ――既に小田原への恐怖は消えていた。

 むしろ、これからやってくるだろう母たちに、少しとはいえ粗相をしてしまったことをどう伝えるべきか。そして伝えたら伝えたらで、どう怒られるだろうかと、まったく別種の恐怖にぶるりと身体を震わせるのであった。

 




戦闘回に入ると言ったな。あれは嘘だ(震え声
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