杜王村の後始末には、それなりの時間を要した。
何せあの二人、およそ十年の間に数えきれないほどたくさんの子供に手を出していたんだよ。調べれば調べるほど被害者がぼろぼろ出てきて、これが泥沼かと思ったくらいだ。
しかもただの犯罪じゃあない、性犯罪だ。それだけの被害者がいれば、いくら被害者が子供とはいえ、妊娠してしまった子もそこそこいて……。
おまけにタチの悪いことに、彼女たちからは被害の記憶がほとんど残されていなかった。あのスタンド、そういう能力も持っていたらしい。まさに犯罪にうってつけのスタンドだったわけだ。
それでどうなったかといえば、彼女たちにしてみれば何にも身に覚えがないのにある日突然妊娠した、という怪現象に見舞われていたって形になってたんだよね。完全に薄い本案件だ。呆れてものも言えない。
だけどそんな妊娠を素直に受け入れられる人間なんて、そうはいないわけで。いくら二十一世紀よりは性的に奔放な時代とはいえ、謎に包まれた現象には忌避感を抱くのが人情だもの。こればっかりは仕方ない。
仕方ないけれど、結果として悲惨な末路を辿った子供たちのなんと多いことか。これが吐き気を催す邪悪というものかと、頭が沸騰しそうになったよ。
そんなわけでわたしたちは犯人二人には然るべき
でも後悔はしてない。わたしの過ぎた力は、誰かを助けるためのものだから。……まあ、社会的な力はあんまりないから、そこはサチさんたちルージュフィシューに助けてもらったわけだけどね。
そんなわけで諸々済ませてやっと東京に戻ってきたわたしたちは、そこからさらに連れてきた子たちに関わる諸々の処理もやることになったから……えーと、一か月くらい? この件に関係したことに忙殺されてたわけだよ。そういう意味でもあの二人、許すまじ。
まあでも、アヌビス神の打ち直しが終わるまではどっちみち日本を出るわけにはいかなかったし、この辺は結果オーライだろう。時間があったらあったで、どうせ観光しかしないだろうし。
で、六月も終わりに近づいたある日。イギリスに戻る手配をしていたわたしたちに、二枚屋さんからアヌビス神の打ち直しが完了したという知らせが届いてね。これはすぐさま取りに行かねばということで、わたしは再度米花町を訪ねることになった。
なったんだけど……駅を出て少ししたところで野次馬に囲まれた建物と、彼らをさばくお巡りさんたちの姿を見て、わたしはスンッと真顔になった。
「何かあったのでしょうか」
「米花町だし、
サチさんの問いに答えて、ため息をつく。
……あ、うん、今回はサチさんたちも一緒だよ。目的だった遺跡の鍵は手に入れたし、彼女たちと別行動する必要もないからね。
ともあれ、その辺りにいた人にそれとなく聞いてみたら案の定、殺人事件らしい。喫茶店で人が殺されたんだとか。
なんというか、さすが米花町って感じだよ……。こうもポンポン人が死ぬとかホントもう……もうねぇ……。
まあでも、巻き込まれなかっただけよしとするべきなのかなぁ。うっかり容疑なんてかけられようものなら、どれだけ拘束されるかわかんないもんね。【ネヴァーフェード】があれば犯人は捜せるだろうから、最悪の事態にはならないだろうけど、それでもねぇ。
……実を言えば今回、二枚屋さんを訪ねるに当たってアポの時間ちょうどくらいに到着するよう、調整してやってきたんだよね。わたしとしては早めに行動したいんだけど、迂闊に米花町で時間を潰すと何かしら事件に巻き込まれると思ったからさ。
最初は考えすぎかなぁって思ってたんだけど、結果としてその予測は見事に当たってしまった。喫茶店とか、時間潰しの選択肢として十分じゃあないか。立地的にも二枚屋さんちへの道中だし、早く来てたらわたし絶対ここで時間潰してたと思う。当たっても全然嬉しくないけど。
……人が亡くなってることに対しては、思うところもある。でもそれにしたって、既に警察がこうして大々的に動いてる状況で一般人がしゃしゃり出るのはお門違いだ。亡くなられた方のご冥福は祈るけれど、この場はスルーさせていただくとしよう。
「
「知らないわよ。本人も知らないんじゃあない? さすが死神って感じよねぇ」
「怖い怖い。あいつの周りにいたら命がいくつあっても足りゃしないぜ」
……野次馬の後ろを通り過ぎる途中、気になる単語が聞こえた。
死神、死神かぁ。まさかとは思うけど、コナン君みたいに行く先々で事件が起こるような人がいるんだろうか。この時代に既に? 探偵さんとかだろうか?
……いやでもそれより、コナン世界ならともかくここはジョジョ世界だ。この世界で、行く先々で事件に巻き込まれてるんだとしたら、それはもはやスタンドを疑うべきだよね。
そもそも、こんな頻繁に事件が起こるのがまずおかしいんだ。前に来たときも思ったけどこの街、やっぱり何かしらあるんじゃあないだろうか。
個人のスタンドなのか、現象としてのスタンドなのか。あるいは何らかの意図があるのか、ないのか。それらによって対応も変わってくるけど……もう少ししたらイギリスに戻らなきゃいけない。すぐにできることはないよなぁ。
でも、いずれしっかりと確認したほうがいいかもしれない。人の死にまくる街とか、普通に嫌だもん。
まあ、原因がわかったところで解決できるかどうかはまた別なんだけどね。カツアゲロードの【オータム・リーブス】みたいな自然現象系のスタンドだと、どうにもならない可能性すらある。この辺はフタを開けてみないとわからないんだよなぁ……。
……と、そうこうしてるうちに、目的地に到着だ。前回と同じく、女性に案内されて鍛冶場に入る。
「おォ、アルフィーさんいらっしゃい。ようこそおいでなすったねェ」
出迎えてくれた二枚屋さんは、以前見たときより少し痩せたようだった。だけど目の力はむしろみなぎっていて、前より輝いて見える。
「こんにちは、二枚屋さん。調子はどう?」
「へへッ、おかげさまで絶好調でさァ。相棒も前より動きが良くなったし、今はもう刀をこさえるのが楽しくて仕方ねェ」
そう言って笑う彼の様子は、どこからどう見てもヤバい人だ。見た目で損してるというか、見た目に頓着がないからこそなんだろうけど、普通の人はなるほど妖刀の専門家だって納得しかしないだろう。
一方、初めての鍛冶場にサチさんとレナータちゃんは興味深そうに周りを見渡している。特にレナータちゃんは、持ち前の好奇心で目がキラキラしてる。うんうん、その気持ちは今後も持ち続けてほしいもんだね。
さて、それはともかく。
「それじゃあ二枚屋さん、見せてもらえる?」
「へィ! ……こちらでございやす!」
わたしに応じて二枚屋さんが出してきたのは、漆によるのか美しい黒で彩られた鞘に納まる一振りの刀だった。
その鞘には、手の込んだ繊細な金細工が施されている。細工自体は少なく、その範囲も規模もささやかではあるけれど、その実態はとてつもない技術がいるだろう繊細なものだ。実に日本らしい美意識を感じる。
柄も同様に黒いけれど、覆う柄糸は鮮やかな赤だ。それは間違いなく糸のはずなのに、まるで宝石のように輝いて見える。これは間違いなく、名の知れた職人の仕事だろう。
これらの装飾に合わせたのだろう、鍔は柄と鞘の間を取るような……いや、とり持つような穏やかな風合いだ。派手ではない。ないけれど、装飾は鞘よりも凝っている。カーバンクルらしき文様の地透かしは人の目を惹くだろう。洗練された構図に垣間見える確かな技術が光っている。
これだけでも、いかにこの刀に力が入れられているかがよくわかる。わかるけれど、やっぱり刀の主役は刀身だ。
「名付けて『
二枚屋さんの説明もほどほどに、わたしは引き寄せられるように、けれど静かに、丁寧に刀を……神狼姫と新しく名付けられたこの刀を抜いた。
「おお……」
「わあ……きれい……」
途端、サチさんとレナータちゃんが心を奪われたように嘆息した。
無理もない。それだけこの神狼姫は美しかったのだ。
見た目の印象で言えば、三日月宗近が近いかな? やや細身で、反りが高め。踏ん張りも強いようで、立ててかざして見るととても優美な姿をしている。
けれど刃文は宗近と違って三本杉で、波打つ乱れは三本ごとに高さが飛び出すような文様となっていた。
これが光を受けて、カーズ様の輝彩滑刀のような輝きを放つのだ。見た目は間違いなく、満点と言えるだろう。前世からそれなりに知識のあるわたしだって言葉を失ったんだもの、サチさんたちはなおさらだよね。
いやそれにしても、元のアヌビス神も輝くばかりに光を反射する名刀だったけど、生まれ変わったこの刀も負けていないぞ。趣が日本刀のそれになったから、単純に比べにくいというのもあるけどね。
『アヌビス?』
抜いた神狼姫を構えながら、スタンドを通して問いかけてみる。しかし返事はなかった。なかったけど……。
なんでかな。彼がそこにいる、ということはなんとなく確信できた。不思議な気分だ。
眠ってるのかな? まあいいや、いるのが間違いないなら、とりあえずは。
次は神狼姫を振ってみる。わたし自身は剣術の心得はほとんどないから、それっぽく、だけど。
それでも、柱の一族の腕力に負けずぴたりとついてくる。いい感じだ。この力に負けるようじゃあ、実用はとてもできないもんね。
と、そこに二枚屋さんが和紙をふわりと空中に巻き上げた。薄い、向こう側がほとんど見えるほどに薄い紙だ。
それを見たわたしは、なるほどと一人納得しつつ、その和紙へ刃を振り下ろす。
すると和紙は、音もなく真っ二つになった。すさまじい切れ味だ。思わず「おお」って言っちゃったよ。
「……すごいね。これは元のアヌビス神を超えたかもしれない」
「ふふふ、今のおいらァが出せる全力でこしらえましたぜ。当然っちゃァ当然でさァ!」
満足したわたしは、刀を納めて改めて二枚屋さんに向き直る。彼はあの修羅のような笑みを浮かべて、けれど自信たっぷりに頷いてくれた。
「ちなみに、宿ってたスタンドは……?」
「今は休眠中でさァ。転写されたアルフィーさんの魂と同居できるくらいに馴染めば、自然と目覚めるはずですぜ。それまでは、なるべくアルフィーさんがこいつを持ち歩いてしっかり馴染ませてやってくだせェ」
「なるほどね。よくわかったよ。ありがとう二枚屋さん、素晴らしい仕事だった」
わたしの掛け値なしの賞賛に、二枚屋さんはあの笑顔のまま頭を下げる。
そんな彼を前に、わたしはサチさんに目で合図した。
彼女はすぐに応じて、持ってきたケースからお金をすべて二枚屋さんに差し出す。これで本来の報酬に、さらに色をつけた額だ。
念のため多めに持ってきて正解だね。それだけの価値があるって確信できる出来栄えだった。これで出し渋るなんて、ただでさえ威厳のないわたしの沽券にかかわるもの。ここは大盤振る舞いだ。
「……確かに、頂戴いたしやした」
かくして、アヌビス神は生まれ変わったのだった。
スタンドとしての新生アヌビス神はもうちょっとあとで。
たぶんエピソード:ルベルクラク中では出てこないと思う。
ところで私事で恐縮なんですけども、割烹のほうに一つ報告があります。
もしよろしければ読んでいただきまして、さらにもしよろしければ購入していただけると幸いです。
打ち切りは食らいたくないんや・・・(切実