カーズ様の見立て通り吸血鬼として蘇った男は、カーズ様に説明されてすぐに死のうとした。そりゃあそうだろうなぁ。
でもカーズ様が、
「お前が自ら死ぬのは自由だが、そうしたところで代わりの吸血鬼はすぐに用意できる。そいつがこの地でどう振舞うかは私にもわからんぞ? もしかしたら、この辺りの人間を根こそぎ食ってしまうかもしれんなぁ。
その点、お前が私の命令とその身体を受け入れていれば、少なくともこれ以上吸血鬼がこの地に増えることはないのだが……ま、私にはどちらでもいいことだがね」
なんて言ったものだから、比喩ではなくてマジで血の涙を流しながらしばらく葛藤した結果、しぶしぶ傘下に入ることを承諾した。
汚い……さすがカーズ様汚い……。
あれ、本当にどっちでもいいんだろうなぁ……。
わたしとしては、最期に約束したこともあって非常に気まずい。
「あの……」
だから、タイミングを見計らって声をかけた。
そしたら殺意満々の鋭い目で睨まれたので、めちゃくちゃ怖かったです。
「あ、あの、すいません本当に……! 約束したのに叶えてあげられなくて……!」
「……オマエがそうしたくてしたわけでは、ないのだろう?」
「それは、まあ、そうなんですけど……でも、破ってしまったことには変わりないですし……なので、代わりと言ってはなんですけど、吸血鬼について教えようかと……」
そこで言葉を切って様子を窺えば、殺気が引いた。どうやら、話は聞いてくれるみたいだ。
カーズ様がいつ来るかわからないから、わたしはひやひやしながら話を続ける。吸血鬼という存在について、今わかっていることをできるだけ。
「……というわけなので、他人の血を吸うことで理論上は永遠に生きていけます。ただ、日光を浴びたらほぼ即死なので気をつけてください」
「……よくわかった。教えてくれて、礼を言う」
「いえ……感謝されるほどじゃあないです。約束、守れなかったですから……」
説明しておいてなんだけど、この人吸血鬼になったのにめっちゃ思考がまともだな。そんな人もいるのか……びっくりだ。
ただ言うまでもなくこの人は例外なんだろうなぁ。精神的な要素も重要なファクターになるジョジョの世界だからこそ、高潔に生き抜いた人に正常な思考を残したのかもしれない。
でも、生前の意識がはっきりしていてよかったのかどうかはわたしにはわからない。いっそのこと狂っちゃったほうがよかったんじゃあないかって思ってしまうよね……。
「……オマエは、きっとそこまで悪いバケモノじゃないのだろう。短い間だが、戦ったからこそわかる。今も、オマエは誠実だ。だから、ワタシはオマエのことは許そう」
「……でも」
「それでもオマエが自分を許せないなら、……そうだな、これを」
ためらうわたしに言いながら男が差し出したのは、戦いでも彼が使っていたマカナだった。しっかり二本だ。
思わず受け取ってしまってから、彼の意図がわからなくて視線で問いかける。
「もう、ワタシは一族の戦士ではない。だからそれは、ワタシが持っていていいものではない」
「はあ……えっと、つまり?」
「それはワタシの、戦士の魂だ。だからワタシの代わりに、それを聖地に埋葬してほしい」
「……なるほど。わかりました、約束します。今度はちゃんと守ります」
「場所はわかるか?」
「わかりません。でも、この辺りで聖地って呼ばれてる場所があるらしいことは知ってます」
「ああ、そこで間違いないだろう。では、頼んだぞ」
「はい、任されました!」
それだけ交わして、わたしは彼と別れた。
……どうやってカーズ様に寄り道を進言しよう。約束したはいいものの、正直殺される気しかしないんだけど。
でもなぁ、約束しちゃったしなぁ……。一回は破っちゃってるし、今回ばかりはわたしの命が脅かされようともがんばらないとだよね……。
はあ、とため息をついて、託された二本のマカナを何気なく眺める。
大きい。わたしが飛びぬけて小さいのもあるけど、それにしたって大きい。このまま腰に提げたら地面を引きずっちゃうぞ。
仕方ない、急いで収納しちゃおう。
「【コンフィデンス】第二の矢、【スターシップ】!」
わたしはマカナを二本左手に抱えて、右手に矢だけを出現させた。その鏃には、
それからくるりと矢を逆手に持ったわたしは、その鏃を自分の腕に向けて……突き刺した!
痛い! でも別にリスカとかそういうんじゃないからねこれ!
だって……ほら、いつの間にか周りの景色が変わってる。夜の帳が下りた壊れかけの家から、色んなものが雑多に並べられた広い部屋に。
これこそ、わたしのスタンド【コンフィデンス】のもう一つの能力。この星の模様が施された矢で貫いたもの(と、条件はあるけどそれが接触してるもの)を、この部屋に収納する能力だ。大元は変わることなく別の能力を保持している【キラークイーン】にならって、第二の矢【スターシップ】と呼んでいる。
たどり着いたこの部屋は、十メートル四方くらいの広さ。窓はなくって、ドアとかもない。だけどなぜか一定の明るさに保たれている。
そしてここに並んでいるのは、今までわたしが記録したメモとか、描いたスケッチとか、あるいはなんとなくほしくなって手に入れたお土産とか、そういうのだ。ついでに例の矢もね。
原理はまったくわかんないけど、たぶんどこにもないどこでもない、現実から隔離された空間って感じかな。わたしはスタンド空間って呼んでる。
「カーズ様を説得できるかどうかわかんないけど、とりあえずすぐに取り出せる位置に置いとこう」
このスタンド空間に最初にたどり着くのは、ちょうど中央だ。その近くには仮置き用の棚を置いてあるから、ここにぽんとマカナを載せておく。
でもって外に出る。そう思った瞬間に、元いたところに戻っていた。もう慣れはしたけど、相変わらずスタンドって不思議だ。
ただ便利は便利なんだけど、対象に一定以上突き刺さらないと発動しないのが欠点なんだよねぇ。
突き刺さないといけないってことは、つまり傷をつけなくちゃあならないってことだ。おかげで最初の頃は本当に困ったよ。ちょうど初期の【ハーミットパープル】が、念写のためにわざわざポラロイドカメラを破壊する必要があったのと同じようなものだ。
接触してるものも収納するから今のままでもいいと言えばいいけど、そのたびに自分を刺さなきゃいけないのはちょっとしんどい。
だから絶賛訓練中で、少しずつマシになってきてはいるんだけど……それでも現状だと絶対に傷をつける必要がある。抜け道を使うにしてもワンテンポ遅れる。
さらにこの【スターシップ】。五部に出てきた【ミスター・プレジデント】と違ってスタンド空間から出られるのはわたしが出そうと思ったものだけで、しかも一旦中に入ってものを確認しないといけない。ゲームみたいに一覧が表示されればいいのにと思うけど、そう都合よくいかないのが現実なんだろう。
おかげでカーズ様からは便利アイテム扱いされつつも、ちょくちょく愚痴を言われてましてね。使い勝手は悪いけど便利ってわけです。
訓練は続けてるし、スタンドはできると思い込むことで本当にできるようになったりするから、いずれはと思ってるんだけどね……どうなることやら。
威力をゼロにする、でも矢は貫通させる。両方やらなくっちゃあならないところが幹部の辛いところだな。覚悟はいいか? わたしはできてる。
……っていうか、どっちにしても種族柄練習する時間は文字通り腐るほどあるから、そのうちなんとかなるだろうって思ってもいるけどね。
「カーズ様、お待たせしました」
「遅いぞアルフィー」
あ、カーズ様待っててくれたんだ。少し前までは置いてかれるか強引に連れていかれるかだったと思うんだけど。最近結構待ってくれますね?
もしかして、ちょびっとは気を許してくれてるんだろうか。それなら寄り道したいって言っても許されるかな。
「行くぞ」
「は、はい。……あの、遅いって言われたうえでこれ言うのは、とっても申し訳ないんですけど」
「なんだ、言ってみろ」
「この辺りに、色んな人が聖地と呼ぶ場所があるみたいなんです。そこに寄りたいんです」
「……そこは私の時間を使うだけの価値のある場所か?」
「わかりません。わかりませんけど……実はその聖地の周りには、不思議な力を使える人が何人かいるみたいなんですよ」
「ほう……? それは本当か?」
あ、なんか行ける気がする。疑ってる感じに見えて、ちょっとだけ目が好奇心で光ってる。
「それもわかりません。……でも、この村も、他の村でもそういう噂を聞きました」
「火のない所に煙は立たないということか」
「はい。なので、少し調べてみたいなって思って」
「ふむ……いいだろう。確かにそれは気になる、許可しよう」
「……! ありがとうございます、カーズ様!」
やった! 聞いててよかった噂話! 何事も無駄なものなんてないもんだね!
もしかしたら、スタンド使いは引かれ合う、の法則通りに色々鉢合わせるかもだけど、そのときはそのときだ!
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ってわけでやってきた聖地とやらなんですけども。
「あれ、なんだかここ見覚えありますね?」
「うむ。位置関係からして間違いない、ここは例の隕石が落ちた場所のようだ」
みんなでやってきた聖地の真ん中辺りから周囲を見渡して、カーズ様と二人で頷き合う。
すり鉢状になった地面は、あのときと違ってすっかり植物で覆われていて面影がほとんど残っていない。でも周りの景色の形状はほとんど変わってなくって、記憶力のいいわたしたちには昨日のことのように思い出せる。その記憶と、今の景色がほぼ一致していた。
「なるほど、大体わかった」
「はあ、と言いますと?」
いきなりどこかの破壊者みたいなことを言いだしたカーズ様に問いかける。
すると彼はピンと指を立てながらこっちを向いて、推理を披露してきた。
「ここが聖地と呼ばれる
あるいは、ここに赴いた人間がそれに目覚める儀式か何かがあるのかもしれん。だからこそ聖地というわけだ」
「はあー、なるほど。名推理ですね」
わたしが持ち上げると、ふふんと得意げに笑うカーズ様である。
うーん、つまりこの場所は、七部の悪魔の手のひらみたいな感じになってるのかな。あれは入った人間は死ぬわ、方位磁石効かないわ、流砂になってて場所が変わるわで、本気でやべーところだったはずだけど。ここはそんな雰囲気もなくて、落ち着いた平原って感じ。
もしかして、カーズ様が隕石をまるっと回収しなかったらそうなってたのかもしれない。あれが及ぼす効果は悪魔の手のひらのものに近いし。もしかして、七部以降の世界はまずそこで分岐した世界なのかも?
「……あの隕石の影響はあっても、それそのものがないならこのまま放っておいてもいいですかね?」
「そうだな。もしあれがそのままここに残っていたとしたら、どうなっていたのかという好奇心もなくはないが……」
「あれはもう全部鏃に加工しちゃいましたからねぇ」
「そしてそのほとんどはもう私には用のないものだ」
「そう言いつつ、今回は捨てずに持ってますよね?」
「ふん、一族を皆殺しにした結果人手不足になった教訓だ。これはいずれ、何かに使えるかもしれんからな」
とか言っておきながら、当の鏃はわたしが管理してるんですけどね。
「謎は解けた。行くぞアルフィー、もうここに用はない」
「あっ、すいませんちょっとだけ、ちょっとだけ時間をください!」
やることやってはいおしまい、とばかりに背中を向けたカーズ様にわたしは慌てて声をかける。
そして彼が返事をするより早く、【スターシップ】の矢で自分の手に刺した。
で、スタンド空間からマカナ二本をつかんですぐ外へ。
「どういうつもりだ?」
もちろん、すぐにカーズ様から声が飛んでくる。
「すいません、彼の誇りを腐らせたくなかったんです。どうしてもちゃんと、眠らせてあげたくて」
「さすが姉上、よくわかっておられる」
「まったく、お前はたまにワムウのようなことを言う。……ああいや、ワムウを育てたのはお前だったか」
「うーん……ワムウはわたしが育てなくってもたぶんこんな感じになったと思いますけど」
実際わたしのいない原作の彼は気高い戦士だけど、そのありようはこの世界の彼と大差ないし。
そんな風にとりとめのない会話をしながら、わたしはマカナを平原……隕石でできたクレーターの中央付近に埋める。
地面は手をスコップ状に変形させて堀った。なんだかこういうところだけ器用になっていくなぁ……。
「これでよし、と……。どうか安らかにお眠りください」
「……用は済んだか?」
「はい。すいませんでした、わたしのわがままで」
「構わん。お前は他の連中と違って、普段は滅多に自分の意思を出さないからな。たまにはこういうのもいいだろう」
「カーズ様……ありがとうございます」
なんだどうした、カーズ様がデレたぞ。
ああでも、原作でも目的達成の直前までは結構紳士っぽい行動してたか。花とか犬とかを、巻き込まないように動いたこともあったね。
なんていうか、仲間でいるうちはわりと仲間の行動を目立って否定しようとはしないんだよね、カーズ様。貫くべき自分の意思が関わらないところだと、わりと寛大っていうか……。
上手く言えないけど、落差の激しい性格な気がする。でもそういう差がはっきりしてる人は人間にもいるし、敵対しない限りは話通じるから、なんだかんだでわたしもカーズ様のこと嫌いにならないのかも。殺されたくないっていう打算ありきだけど、そういうところがあるから一緒に何千年もいられるのかもなぁ。
「……なんだその顔は?」
「んふふ、いーえなんでも。それじゃ行きましょうカーズ様!」
「はしゃぐなやかましい。それだからお前はいつまでもガキなのだ」
「んまー失礼な! わたしだってもう一万年以上生きてるんですよ、もう立派な大人ですとも!」
「お前が言っても説得力がまるでないぞ」
「むーっ!」
超上から目線で頭をぽんぽんされるとか、なんたる屈辱!
まったくもう、カーズ様はこのロリボディの魅力をご理解いただけないようで残念だよ!
……ご理解いただけても、それはそれでとも思うけど。
うーん、もしカーズ様がロリコンだったら、わたしはカーズ様とそういう関係になってたりしたんだろうか?
それは……まあ、それはそれで。
そんな風に思う辺り、わたしはすっかり馴染んでしまったみたいだ……。人生色々……。
コンフィデンス第二の矢:スターシップ
破壊力:なし(本体に依存) スピード:なし(本体に依存) 射程距離:B 持続力:A 精密動作性:C 成長性:A
(現時点のステータス。コンフィデンスと共通。500年経って弓を使わずとも矢だけを手元に出せるようになった)
矢で貫いたものとそれが接触しているもの(重量やサイズなどの制限あり)を、スタンド空間に収納する能力を持つ。
「矢で貫いたものとそれが接触しているものを収納する」能力である(大事なことなので二回言いました
星の模様が施された矢。同時に出せるのは一本だけで、大元の能力で出せる七本のうちの一本に数えられる。
まだ成長性Aなのはそういうことです。