転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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10.中米の神・サンタナ 2

 サンタナが姿を消してしばらく。暗い雰囲気が漂う中、案の定武器の回収はさせてもらえなかったジョセフは、なぜここに至ってもなおサンタナが姿を見せないのかと考えていた。

 単に道に迷っている、などという希望的観測はしない。恐らく何か意図がある。あえて姿を見せない明確な理由があるはずだ、と。

 

(まずは相手の立場になって考えてみる……おじいちゃんのインストラクション・ワンだぜ。「もし自分が敵なら」と相手の立場に身を置く思考! 俺が奴なら……)

 

 伝承では、サンタナ神は二千年に一度眠りに就き、その後の二千年を眠って過ごすという。もしそうなら、今のサンタナはまさに寝起き。寝て起きたら見知らぬ部屋に閉じ込められていた、となれば……。

 

(そりゃあ状況を確認しようとするよなーッ。そこがどこかはさして重要じゃあないぜ……問題は閉じ込められていること! 普通、何の理由もなしに監禁なんてするか? しない! そこを知りたいと思うのは当然の心理ってやつだぜ!)

 

 だとしたら?

 今、サンタナが不自然なまでに沈黙を守っているのは……。

 

(……観察している? こちらの様子を見ているのか? だとしたら、あのアホ王の言うような簡単なやつじゃあ断じてねーぜ……ちゃんと思考ができるやべー相手だぞ!)

「おいッ! フィルムの現像はまだか!」

 

 だがジョセフの思考を遮って、王が声を上げた。遂に我慢ができなくなったらしい。

 しかしシュトロハイムが彼に応じるより早く、兵士たちが慌ただしく室内に飛び込んできた。

 

「ただいま現像が完了しました!」

「来たか!」

「よぉーし! すぐさま映写しろ! 準備はできておる!」

「はっ、ただちに!」

 

 そうしてシュトロハイムの号令一下、映像が壁に投影され始めた。全員がそこに視線を向ける。

 

 誰もが食い入るように見つめる中、始まった映像の中にはもちろん、少し前のサンタナがいる。微動だにしていなかった頃のサンタナだ。

 しかし彼はある瞬間、一瞬だけ上を見たかと思うと、突然壁に向かって走り出した。

 

「……なんだ? 壁に向かって走っていくぞ?」

 

 理解不能、とばかりに王がつぶやく。

 

 しかしジョセフと、それからシュトロハイムはサンタナの行動に思い当たるものがあった。サンタナが向かっている方向は確かに壁があるが、それ以外にも存在するものがあるのだ。

 たとえば、()()()()()()()()()()()()……。

 

「あ!?」

 

 映像の中で、サンタナが床を蹴った。跳躍する。そしてまっすぐに壁に飛び込んでいく形になるが……次の瞬間だ。

 

 彼の身体がグシャリと折りたたまれた。横に二つ折りになって細長くなった身体は腕を前と後ろに伸ばされてさらに細長くなり、次いで床を蹴った足を起点にもう片方の足がぐるりと巻き付いていく。

 最後にすべての骨という骨がバラバラにズレていき、形状が整えられる。それは頭蓋骨も例外ではなかった。

 

 そうしてサンタナの身体は、ほんの一瞬の間に平べったい布のようになってしまったのだ。

 だからこそ、

 

()()()()()()()()()!?」

「空気供給管にーッ!!」

 

 彼は壁にわずかに空いていた空気供給管の中へと消えて行くことができた。

 

「折りたたんで入っていったーッ!」

「あんな隙間にッ!? ほんの四センチ×二十センチ程度しかないはずなのに!」

 

 室内は騒然となる。

 

 その中で、ジョセフだけがサンタナの身体に何が起きたのか、正確に理解していた。

 

(あれは関節を外した程度でできることじゃあねーッ! あのヤロー骨格をバラバラにしてねじって自分の身体を変形させやがった! これがおじいちゃんの言ってた「身体は見た目通りには稼働しない」ってことかッ!)

 

 と同時に、彼はハッとなる。

 

「おい……おい待て、シュトロハイム! やべーぞ!」

「そんなことはわかっとる! 貴様は備えておけジョースター!」

「違う! そういうことじゃあねーッ! いやそれもあるが……! サンタナの野郎、あれからどこにも出てきてねーんだぞ! するってえと奴は! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! どこから出てきてもおかしくねーぞッ!」

「!!」

 

 ジョセフに指摘され、シュトロハイムもハッとなる。彼らの後ろで、ベルンハルトが既に白い顔でゼーゼーと荒い呼吸をついていた。

 

 彼を気遣う余裕はシュトロハイムにも既になかったが、それでも軍人だ。うろたえない。ドイツ軍人はうろたえないのだ。

 

「貴様らッ! 我々ドイツ軍だけではない、この場の全員だ! 全員、()()()()()()()()()()()! あの隔壁内からここまで繋がっている可能性が……」

「ぎゃあああーーっっ!!」

「!!」

 

 シュトロハイムの命令の途中で、雑巾を引き裂いたような野太い悲鳴が上がった。

 

 全員の視線が、そちらに集中する。そこには……なんと、空気供給管からはい出てきた平べったいものが、近場に立っていた王国兵の目から体内へズムズムと侵入しているところだった!

 

「う……っ、うわああぁぁーーっっ!?」

「で、出たァーーッ!!」

 

 場は騒然を通り越して混沌となり、けれどもサンタナが入り込んだ兵士から全員が一斉に距離を取る。このとき、どさくさに紛れてジョセフを盾にするように下がった王に、ジョセフは心底イラッとしたがそれどころではない。

 

 ぐりん、と兵士の首が九十度曲がり、()()()に顔が向いた。

 だがそこに、既に目はなかった。潰されたのではない。眼窩が空洞になっていたのだ。

 

「ああああ~~……な、何にも見えない……見えないよォォ~……! 明かり……明かりはどこですかァァ~~」

 

 兵士は震える声を上げながら、よろよろと歩き出した。両手を前に出し、それこそ暗闇の中を身一つでさまようかのように。

 

 そんな彼を見て、ジョセフは前に出る決意をする。波紋を流せば、まだ間に合うはずだと踏んで。そりゃあ目はもはやどうにもならないが、少なくとも命は助かるはずだと。

 

 しかし、彼よりも早く動いたものがいた。王である。

 

「え……ええええーい! 撃て! 構わん殺せッ! あいつの身体ごと撃って撃って撃ちまくれ!」

「は!? おい待てこのマヌケ……」

 

 王の命令は、近衛兵にとって絶対だ。日ごろの訓練で身体に刷り込まれた習慣に基づいて、彼らは一斉に銃を構え、ためらうことなく弾丸を発射する。

 

「やッ! やめろーッ!」

 

 ジョセフは手を伸ばすが、もはや遅かった。轟音が何発も連続し、無数の弾丸が哀れな兵士に殺到する。

 

「アアア~~」

 

 兵士の身体が吹き飛び、壁にぶつかった。普通なら、確実に死んでいる。

 

 だが……。

 

「オー……オー……オオオ~~……く、す、ぐ、った、いいィィ~」

 

 兵士は生きていた。身体に力は入らないようだが、それでも這いずって王のほうへ近づこうとしている。

 

 あまりにも非現実な光景だ。さながら映画のよう。だが、間違いなくグロテスクなどの規制もかかるだろう。

 それを目の前で見る羽目になった一同は、全員が程度の差こそあれドン引きした。

 

「ヒィ! な、なんだこやつは! なぜ死なん!?」

 

 そして王が悲鳴に近い声を上げる。

 

 しかし、なぜ、と言われても誰も答えられない。答えられるはずがない。人知を超えたおぞましい何かの影響としか言いようがなかった。

 

「いいや、この者は既に死んでいる……」

「!?」

 

 だが、そんな彼に答えるものがいた。

 這いずりながら、ゆっくり、ゆっくり……機械じみた動きで立ち上がった兵士が、声を発した。それまでとは明らかに異なる口調で。

 

「俺が中から操っているだけ……言うなれば、人形を繰り糸で操るのと同じことだ……」

 

 そしてなおも話す兵士の声が、少しずつ変わっていく。兵士の声から、もっと重厚で、太い、響く声へ。

 

「ま……()()()!」

「俺は悲しいぞ……。()()()()、あれほど固く俺の未来を誓った我が巫女の末裔が……よりにもよって俺を殺そうとするとは、な……」

「ば、バカな……! ()()! ()()()()()()()()()!」

「こいつ……! やはりただ黙って隠れてたわけじゃあないッ! 学習していたんだッ! 空気供給管の中で!」

「し、しかしジョースター、一時間も経っていないんだぞ! その程度で未知の言語が覚えられるはずがないッ!」

「バカヤローッシュトロハイム! 今目の前で何が起きたかも忘れたのかスカタンッ! こいつらを人間の尺度で語るなッ! それくらいできてもおかしくねーだろーが!」

 

 動揺がさらに広がっていく。さながら、波紋のようにゆるゆると……しかし確実に。

 

 その中で、操られた兵士が腕を前へ掲げた。手は親指と人差し指がピンと起こされていて、あとはたたまれている。それはさながら、ピストルのようで……。

 

「俺は悲しい……二千年前、あれほど目をかけたものの末裔が、叛逆するなど――」

 

 ドン! と銃声のような音が鳴り響いた。

 音源は、今まさに掲げられた指先。そしてそれと同時に、指先の肉を突き破って何かが発射された!

 

「うわあーッ」

「う、撃ってきた!? そんな!?」

「先ほどの弾丸だ! 雨あられと撃ち込んだ弾丸を、体内で集めて撃ち返してきたのだ!」

 

 シュトロハイムが言う。

 

 だがそれと同時に、兵士はさらに両手を前へ突き出して見せた。すべての指が立てられている。そしてすべての指先が、()()()を向いていて……。

 

「――ッ! ジョォォーースタァァーー!!」

 

 危機を察知した王が声を張り上げ、しかしそれよりも早くジョセフは先頭に躍り出た。

 同時に王の頭をつかみ、その頭髪をごっそり引き抜きながらだ。王の声は、「なんとかしろ」ではなく「いきなり何をする」という意味だったのだ。

 

「ちょいとばかり多めに髪の毛をもらっただけだ、ガタガタ騒ぐんじゃあねーッ!」

 

 そして整えられた波紋の呼吸の音が響くと同時に、兵士の身体が弾け飛んだ。周囲に肉片が雨のように散乱する。

 

 その中から、明らかに兵士よりも大きな男の姿が浮かび上がった。直前までの兵士と同様の、両手を前に突き出した姿勢で。

 ややウェーブのかかった金髪。たくましくも均整の取れた肉体の、堂々たる偉丈夫。

 

 サンタナ。このアメリカ大陸において、一時期最も信仰を集めた神。アメリカ大陸を代表する神格そのものが、まさに降臨した瞬間である。

 

「――俺は悲しい!」

「名づけるとしたら……波紋ヘアアタックッ! ってところかァ~~!」

 

 彼の前で、ジョセフは手にしていた王の髪を一斉にばらまいた。波紋が通り、極太の針と化した髪の毛が、しかし髪の性質はそのままにふわりと滞空する。

 

 直後に、再び銃声に似た音が生じる。併せてサンタナの指という指から、一斉に弾丸が放たれた。先ほどぶち込まれた弾丸すべてを、同じように乱射して返す魂胆だ。

 

 だが、それらの多くはジョセフが展開した髪の毛によって防がれた。空中で不規則に、かつ大量に漂う髪の毛は、いずれの弾丸も弾いて軌道を逸らしていったのだ。

 

 しかし、それでもジョセフの顔色は切った啖呵に反して芳しくない。

 なぜなら、すべてを防げたわけではないからだ。弾丸が通らなかったのは髪の毛が展開された場所から後ろだけで、それ以外の場所に飛んだ弾丸はそこにいたものたちを遠慮なく射殺してしまった。

 

 生き残ったのは、おおよそ半分くらい。だがこの瞬間に死んだものはいずれもサンタナ王国の兵士たちか、要人ばかりで……それは間違いなく、狙いすました行動だとジョセフには確信できた。

 

「…………」

 

 そしてそんな生き残ったものたちを、サンタナは観察するような目でじろりと睨んだのであった。

 




今回はほぼ完全に原作通りの流れながら、色々なことが原作と異なってます。
違うところを探してみるのも面白いかも?
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