ファイアーエムブレム風花雪月 異国のサムライ   作:戦国のえいりあん

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第六章完成しました!
赤き谷ザナド編ですよ!


第六章 赤き谷

 

時は過ぎ、月日は堅琴の節の末日。

セイロス騎士団に出撃の命令が下され、騎士たちはガルグ=マク大修道院より出陣しある場所へと行軍を開始していた。騎士団が向かったのは"赤き谷ザナド"…かつて訓練中に襲撃してきた盗賊団の討伐が目的だった。

 

だが騎士団の活躍によりかなりの勢力を持っていた盗賊団も各地で討伐され弱体化し、残った残党は赤き谷ザナドと呼ばれる地に逃亡したのだ。

残党の数も少なく士気の差も歴然であり、勝敗はすでに決しているといってもよいほどに騎士団が盗賊団を追い詰めていた。

そして、討伐隊の中にはフウカの姿もあった。

 

 

・堅琴の節 末日

 

・赤き谷ザナド 谷の入り口付近

 

 

「せいっ!はぁぁ!!」

 

「ひいぃ!!に、逃げろ!」

 

「た、助けてくれ!!」

 

 

先陣を切って賊に斬り込んでいるのはフウカだった。フウカの二刀の剣技の前に盗賊たちは次々と倒れていく。恐怖した盗賊たちは戦意を喪失して我先に逃げ出していくが、すでに周りは騎士団によって包囲されており盗賊たちに残された逃げ道は谷の奥しかない。しかし、その谷の最果ても断崖絶壁の行き止まりであり、事実上すでに逃げ道は無いに等しかった。

 

 

「さすがだな!フウカ殿!いつもながら見事な腕前だ!」

 

「ふぅ…こんなものでしょうか」

 

「はい、盗賊は残りあとわずか…後は生徒たちに任せましょう」

 

 

ここで盗賊団を全滅させることもできたのだが、今回の任務は盗賊団の弱体化で討伐軍の後続部隊としてやって来る生徒たちが戦い易い状況を確保することが目標だ。ここまではうまくいったが油断はできない、生徒たちが残党を討伐するまでが任務であり、それを見届けるまで安心するのはまだ早い。

 

 

「それでは、後続の部隊が来るまで私達は谷を包囲して待機しましょう」

 

「すでに大修道院に伝令を送ってある。まもなく到着するだろう」

 

 

フウカと騎士団は谷を包囲し、生徒たちで編成された後続部隊が来るまで待機することになった。今回、討伐部隊に選ばれたのはベレスが担当する青獅子の学級の生徒たちだと聞かされていた。その後、すぐに後続部隊が到着しベレス率いる青獅子の学級の生徒たちが姿を現した。

 

 

「フウカ、待たせた」

 

「先生!お待ちしておりました」

 

「状況を聞かせてくれないか?」

 

「はい、盗賊団は谷の奥に敗走。頭領以下の僅かな残党が残るのみです」

 

「ありがとう。後は自分たちに任せて」

 

「はい。先生ならば心配ないと思いますが、敵は背水の陣…決死の覚悟で向かってきます。くれぐれも用心してください」

 

「大丈夫だ。誰も死なせない」

 

「後、谷の奥を少し調査しておきましたが、どうやら谷の西側には裏道があるようです。奇襲に使えるかもしれません」

 

「分かった」

 

 

そう言うとベレスは騎士の案内で谷の奥へと向かって行き、生徒のディミトリたちもその後に続く。実戦訓練を経験しているとは言え、今回の任務が初陣である生徒もいると聞いており、生徒たちも緊張しているのか多くの者の表情がこわばっている。

 

 

「フウカ!お前も来ていたのか」

 

「はい、ディミトリ殿。ここから先は皆さんにお任せします」

 

「ああ、俺たちと先生ならきっと大丈夫だ。必ず勝つ」

 

「ですが、油断大敵ですよ。どうかお気をつけて」

 

「…ふん、盗賊など相手ではない。すぐに終わらせてやる」

 

「おいおい、フェリクス。それを油断って言うんだぜ?甘く見てると足元をすくわれるぞ」

 

「その通りよ、何か罠を仕掛けているかもしれない…慎重に行きましょう」

 

「やっぱり緊張するな…でも、訓練通りにやればきっと大丈夫!頑張らなきゃ!」

 

「ええ、今の私たちならきっとやれるわ、それに先生だっているんだから」

 

「そうですよ、皆で力を合わせて盗賊を討伐しましょう!」

 

「……俺は殿下を守る、それだけだ」

 

 

ディミトリたちはそれぞれ武器を持つとベレスに続いて谷の奥へと入っていった。訓練を通して彼らの強さはよく分かっている、あの程度の盗賊であれば負けることはないだろう。しかし、あのベレスがどのような戦法で盗賊を打ち破るつもりなのかフウカは無性に興味が沸き始めていた。三学級の模擬戦でも見事な采配で他学級を圧倒したと聞いている。是非ともその采配を見てみたいと考え、フウカはわずかな騎士たちと谷の高台に上がりその結末を見守ることにした。

 

 

・赤き谷ザナド 最奥

 

 

赤き谷の最奥にたどり着いたベレスと生徒たちは早速、戦況を確認する。谷の最奥は断崖絶壁と多くの古い遺跡が広がり、眼前にはその断崖絶壁を繋ぐ石橋があった。その先には騎士団によって追い詰められた盗賊の残党がいる。すでに士気は低く数もそれほど多くない、これならば実戦経験の浅い生徒たちでも十分に勝機があるだろう。

 

 

「ここが、赤き谷…立ち入るのは初めてだな。…何はともあれ、始めよう先生」

 

「ああ、まずは作戦を決めようか」

 

「フウカの話によれば、西側に裏道があるんだったな。うまく使えないだろうか?」

 

「裏道から奇襲すればきっと敵も驚くんじゃないかな?」

 

 

今回の戦はこの裏道が戦況を左右するだろうとベレスは考えていた。背後から奇襲することができれば必ず優位に立つことができるはずだと。

 

ベレスがいるこの場所からでは敵全体を俯瞰することはできないが、恐らく正面の橋に残った兵力を集中させているはずだ。谷には石橋が二本あるそうで、眼前の橋を渡ればもう一本の石橋がある、敵はそこを重点的に固めているだろう。橋は防衛においては有利な地形で、狭い橋の上では大軍は意味を成さない、僅かな兵力で大軍を防ぐにはうってつけだ。

 

 

「…よし、作戦が決まった。皆、聞いてくれ」

 

 

生徒たちはベレスの前に集まり、その作戦を聞く。学級対抗の模擬戦でも有効な戦法で青獅子の学級を勝利に導いた彼女の戦術に皆が期待を膨らませていた。

 

 

「まずは、眼前の橋を全軍で突破し、その後、隊を二つに分ける。恐らく敵はもう一つの橋に戦力を集中しているはずだ。本隊は正面の敵に全力で攻撃を仕掛け、敵の本隊を橋に引き付けている間に別動隊は裏道を通って手薄な敵の背後を突き、盗賊の頭領を討つ」

 

「…なるほど、頭領を討った後、本隊と挟撃して殲滅と言うわけか」

 

「ですが、橋を攻める部隊がちょっと大変じゃないです?」

 

「その通り、だから別動隊は少人数にする必要がある。そこで別動隊は自分とフェリクス、ディミトリにしたい。残りの皆は本隊として橋を攻めてくれ」

 

「分かった。任せてくれ」

 

「ああ…」

 

「本隊はドゥドゥーとシルヴァン、イングリットを主力に戦い、アッシュ、アネットは背後から弓と魔法で援護してほしい。負傷者が出たらメルセデスは回復を頼む」

 

「……任せろ」

 

「うっし!分かりました」

 

「承知しました」

 

「任せてください!」

 

「はい!頑張ります!」

 

「ええ、任せてちょうだい」

 

「…皆、必ず勝とう!」

 

 

ベレスの一言に生徒全員が頷く。それぞれ武器を構え、戦闘体勢になる。青獅子の学級の初陣であり、最初の戦いが始まろうとしていた。

 

 

・赤き谷ザナド 高台

 

 

予定通り、盗賊団を谷の最奥に追い込むことに成功したフウカはその後、最奥が一望できる高地に登りベレスたちの戦局を見守っていた。万が一、彼らが窮地に陥ったとしても背後には騎士団の後詰めが控えているため、いざという時の備えも万全だった。これで背後を気にせずに存分に戦うことができるはずだ。

 

 

「…先生の采配、拝見させて頂きます」

 

 

すると早速、戦局が動き始めた。まずは彼らの正面に架かる石橋を渡ることを優先したのか、全軍で橋に向かって一斉に攻撃を開始した。ディミトリ、ベレス、フェリクスを先頭に盗賊に斬り込み、立ちはだかる盗賊を次々と撃退していく。先陣を切る三人は見事な強さで、その戦いぶりは騎士団にも劣らないものだ。特にベレスの強さについてはルミール村でも少し見ていたが、さすがはあの"壊刃"ジェラルトの娘だけあって彼女の剣術は優れた生徒たちの中でも飛び抜けていた。

 

ベレスたちは瞬く間に一つ目の橋を突破すると足を止めずに進軍を続ける。すると部隊を分けるつもりなのか、ベレスと一部の生徒が隊から抜け、西側へと走っていくのが見えた。恐らく調査した裏道を使うつもりなのだろう。

 

 

「なるほど、本隊で敵主力を引き付けている間に別動隊が敵大将を討つという作戦ですね」

 

 

そして本隊が二つ目の橋に差し掛かり、再び戦闘が始まった。予想通り、盗賊は二つ目の橋に戦力を集中させ絶対死守の構えを取っている。今度はドゥドゥー、シルヴァン、イングリッドが先頭に立ち盗賊たちと交戦していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

二つ目の橋での戦闘は激しく、生徒たちと盗賊団の戦いは一進一退の攻防が続いていた。盗賊団も必死なのか、死に物狂いで橋を死守しようと踏ん張っている。何度か押し返されそうになるもドゥドゥーの活躍により戦局は五分五分になっていた。

 

 

「どけぇ!ダスカー人のクズがぁ!!」

 

「…ふん!」

 

「ぐはぁ!?」

 

 

ドゥドゥーは盗賊たちの攻撃を盾で難なく防ぎ、得意の斧で盗賊をなぎ倒していく。その剛腕から繰り出される一撃は凄まじく、そして数多の攻撃も彼の持つ盾によって容易く防御されていた。ベレスが本隊にドゥドゥーを配置したのも彼が攻守に優れていたからだった。

 

 

「…次はどいつだ?」

 

「やるな!ドゥドゥー!背中は俺に任せな!」

 

「援護しますよ!ドゥドゥー!」

 

 

ドゥドゥーの奮戦に負けじとシルヴァンやアッシュ、イングリットらもそれに続き、その背後からアネット、メルセデスが魔法でそれを援護する。彼らもまた迫り来る盗賊たちを討ち倒していく。

 

 

「ぐあぁぁ!!こ、この…ガ…キ…」

 

「…ま、仕方ないこった。恨むなよ」

 

 

生徒の多くはこの戦いが初陣であり、やはり初めての殺人に感じるものがあるのか、生徒の誰もが険しい表情で戦っている。

 

 

「…躊躇したら、僕たちが殺される。…これが戦い」

 

「せめて、主の御許で安らかに…」

 

 

今は何とか互角に戦っているが、やはり勢いは盗賊団がわずかに勝り、地の理も有利だ。実戦経験の少ない彼らではそれほど長く持ちこたえられないだろう。

 

 

(…先生!殿下!まだなのですか!このままでは…)

 

(……殿下は無事か?)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

場所は移り、谷の最奥にある遺跡。

僅かな部下たちと共に頭領がそこにおり、頭を抱えていた。何とか橋を死守しているが、どう足掻いても自分たちに勝ち目は無いのは明らかだ。

 

 

「くそっ!!何でこんなことに…!」

 

「お頭、もう逃げましょうよお!騎士団の奴らに勝てっこないですよおお!」

 

「馬鹿野郎!!今更どこに逃げるってんだ!」

 

 

退路も絶たれ、前方にはセイロス騎士団…どう考えても八方塞がりだ。自分たちに残されているは死の運命だが…盗賊である以上、死ぬことは恐れないが頭領はそれよりも後悔していることがあった。

 

 

「…ちくしょう!!あんな奴の口車に乗せられたせいでこんな…!クソォォォ!!」

 

 

そんな自分たちの未来に絶望している頭領たちだったが、その未来はすぐに訪れることになった。突然、頭領の前に血だらけになった部下が這う這うの体でやって来た。

 

 

「…お、お頭…」

 

「ど、どうした!?何があった!!」

 

「て、敵…襲で…ぐあぁ!!?」

 

 

突如その盗賊は背中を何者かに斬られ事切れた。そして、そこに立っていたのは…

 

 

「…ふん、斬り甲斐ない。この程度か!」

 

「て、てめぇ!!どこから!!」

 

 

頭領の前に現れたのはフェリクスだった。そして、残っていた頭領の部下たちはいつの間にかベレスとディミトリによって残らず討ち取られていた。別動隊として裏道を進んだベレスたちは見事、敵の背後への奇襲に成功し頭領のいる遺跡にまで迫ってきたのだ。そんな驚く頭領の前にディミトリが現れ、槍を構えた。

 

 

「お前が、賊の大将だな。覚悟してもらうぞ!」

 

「何だ?騎士団じゃなくてガキか?ガキをぶつけてくるたあ、俺様もなめられたもんだぜ!!」

 

 

もはや考えるのも無意味と感じたのか、頭領は側に置いてあった愛用の斧を手に取るとディミトリに襲いかかった。さすが盗賊団の頭領だけあってその腕前はなかなかのものでディミトリと激しい攻防を繰り広げていた。

 

 

(クッ!…なかなかの力だ。だが…!)

 

 

ディミトリは頭領の攻撃をかわしながら動きを観察していた。頭領は渾身の一撃を何度も繰り出すが、その一撃はまったく当たらない。その時、ある言葉がディミトリの頭によぎっていた。

 

 

『まだまだ技が力任せですね、それに勝負を焦って自分で隙を作ってしまっています』

 

 

(あいつの一撃に比べれば、大したことは無い!)

 

 

そうフウカが自分に言ってくれた一言だった。目の前の頭領の戦い方がまさにそうで、気持ちが焦って自ら隙を作ってしまっている。勝負を決めようと頭領は大きく斧を振りかぶるが隙だらけになっていることに気づかない。その隙をディミトリは見逃さず、強烈な突きを放つ。

 

 

「もらった!はあぁぁ!!」

 

 

ディミトリの突きは頭領に命中し、その威力は凄まじく槍が頭領の身体を貫いていた。

 

 

「ぐふっ!?あ、あんな奴の…口車に乗ったのが……間違いだった……がはっ…」

 

 

その言葉を最後に頭領は事切れた。ディミトリは槍を抜き取ると、顔に付着した血を拭った。

 

 

「…盗賊とはいえ、何度もやっても慣れないものだな」

 

 

頭領を討ったにも関わらず、ディミトリは浮かない表情をしていた。ディミトリとフェリクスにとって今回の戦いは初陣ではなく、ベレスと同じく実戦の経験があり他の生徒のように動揺しなかったが、そんな彼の表情が気になったのかフェリクスが皮肉まじりに声をかけた。

 

 

「…何を情けない顔をしている猪。血と殺戮を好む貴様が今さら何を言っている」

 

「…いや、なんでもない、お前の言うとおりだ。さあ、行こう」

 

「……チッ!」

 

 

するとそこに残った盗賊を討ち倒したベレスがやって来た。頭領を討ち取ったことでこの戦いはほとんど勝利したも同然で後はこのまま残った敵の背後を突き、本隊と挟み撃ちにすれば盗賊を完全に討伐できるだろう。

 

 

「ディミトリ!大丈夫か?」

 

「先生、頭領は討ったぞ。奇襲は成功だ」

 

「ああ、ディミトリや皆のおかげだ。たが、まだ終わっていない。残った盗賊を討伐しよう」

 

 

その後、本隊と別動隊の挟撃によって盗賊団は完全に討伐された。戦闘不能になるほどの負傷者も出ず、盗賊団討伐の任務は無事に成功したのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

・ガルグ=マク大修道院 玄関ホール

 

 

任務完了後、騎士団と青獅子の学級は大修道院へ帰還していた。無事に初陣を終えた生徒たちは胸を撫で下ろし、自分の活躍などを話す者や未だに実戦での空気が忘れられずに浮かない表情をしている者などさまざまだった。騎士団も事後処理を済ませ大修道院に帰還すると、セテスに成果を報告するために謁見の間へ向かうフウカの姿があった。その途中、今回の盗賊討伐の功労者であるベレスとディミトリが二人で話していた。

 

 

「先生!ディミトリ殿、お疲れ様でした。先生の見事な采配と皆さんの獅子奮迅の活躍に感服しました」

 

「ありがとう、でも今回の勝利は皆のおかげだ。自分は何もしていない」

 

「いや、先生が指揮してくれたから俺たちは勝つことができたんだ」

 

「ふふ、お二人とも謙虚ですね。きっと大司教殿やセテス殿もお喜びになりますよ」

 

「後、お前にも礼を言わなければなフウカ。騎士団の活躍がなければ盗賊討伐は成せなかった。ありがとう」

 

「いえ、私は命令に従っただけです。賊を討伐したのは皆さんなのですから」

 

「それに…お前の教えがとても役立った。本当に感謝している」

 

「ほ、本当ですか?あはは…ありがとうございます」

 

 

頭をかきながら、フウカは気恥ずかしさを感じていた。自身が教えたことを意識し、こうして役立ててくれることが何よりも嬉しかったからだ。その後、二人と別れるとそのまま謁見の間へ行き、レアとセテスに報告し任務は完了した。次の任務まで待機を命じられたフウカは自室に戻ろうと大修道院を歩いていた。

 

 

(この後、暇だなあ…)

 

 

無事に任務は完了したが、実はフウカは若干、物足りなさを感じていた。次の任務までの間、どう時間を過ごそうかと考えていたのだ。そんな時、何か閃いたのかフウカのアホ毛がピンと上を向いた。

 

 

(そうだ!たまには釣りでもしようかな!)

 

 

暇な時は釣りをするのもフウカにとって大修道院内で時間を過ごす娯楽の一つだ。以前も故郷の料理である"寿司"を作るために溜め池で大量に魚を釣ったこともあった。そう決めるとフウカは早速、釣り池へと向かった。

 

 

・ガルグ=マク大修道院 釣り池

 

 

「よーし!今日は大物を釣るぞー!」

 

 

釣りをしようと釣り池にやって来たフウカは籠に差してある貸出用の竿を手に取ろうとするが突如、その手が止まった。その理由はフウカの眼前に写るある人物のせいだ。

 

 

「………」

 

 

ただ無言で池の前に立ち、じっと動かない男。その男はフウカと同じ特異な出身でありながらセイロス騎士団の騎士に抜擢された謎の仮面剣士、イエリッツァだった。寡黙で不気味な雰囲気から生徒たちからも怖がられているが、聖教会が抜擢しただけあって武術の腕前は確かなものであり、滅多に見かけないが生徒たちに剣術を教えていることもあった。

 

何度か会っただけで、あまり交流がなかったことからフウカも彼についてはまったく分からず、そもそも話したことも無かったのだ。いい機会だから少し話してみようと考えたフウカはイエリッツァに声をかけた。

 

 

「あの、すみません」

 

「………」

 

「えっと、イエリッツァ殿ですよね?」

 

「……何だ」

 

「いえ、あなたとはあまり話したことがなかったので。ひょっとして、あなたも釣りをしに来たのですか?」

 

「……いや、空気を吸っていただけだ」

 

「そ、そうですか…」

 

「………」

 

「………」

 

 

彼が寡黙で人を拒絶するという噂は本当のようで、それからイエリッツァは全く喋らず黙ったままだ。これでは取り付く島もなく、フウカはどうしてよいか分からずに困惑していた。

 

 

(…ど、どうしよう!?お願いですから何か喋ってください~!!)

 

 

「………おい」

 

「は、はいっ!な、なんですか!?」

 

「……暇を持て余しているのか?」

 

「え、えっと…そうですね、暇かと言われれば暇ですけど…」

 

「……なら、俺と死合え」

 

「……へ?」

 

「……貴様は相当腕が立つようだ。その力、見せてみろ」

 

 

やっと言葉を話したと思ったら、なんとイエリッツァからとんでもない一言が飛び出してきた。死合いとはまさに殺し合いという意味だ。まさか、いきなり決闘を申し込まれるなどと思っていなかったが、挑まれてはサムライとして受けないわけにはいかない。真剣勝負だと思ったフウカは少し殺気を放ちながら答えを返した。

 

 

「…構いませんが、よろしいのですか?」

 

「……ただの手合わせだ」

 

「……え?ええっ!!?なんですかそれ!!だったら普通に手合わせしたいって言ってくださいよ!」

 

「………」

 

「えっと、手合わせならば喜んで付き合います。あなたさえよければ今からでもいいですよ」

 

「……ああ。それで構わん」

 

「…私もあなたとはお手合わせしたいと思っていました。よろしくお願いします」

 

 

その後、フウカとイエリッツァは訓練場で手合わせすることになった。これが二人の謎多き強者同士の奇妙な邂逅であり、長く続く因縁の始まりでもあった。

 




ぶっちゃけ原作では空気だった、イエリッツァにスポットを当ててみました!これも自己解釈になりますが、頑張って書いてみます!
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