ファイアーエムブレム風花雪月 異国のサムライ   作:戦国のえいりあん

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今回は本編は短めです。
実は知り合いからもっと"おまけ"を書いてほしいと言われたので書いてみました!
…結果、本編とおまけストーリーの温度差が激しくなってしまいましたけどぜひ読んでみてください!


第七章 信義の武と狂孤の武

・ガルグ=マク大修道院 訓練場

 

 

イエリッツァと稽古をすることになったフウカは早速、二人で訓練場に向かい準備を始めていた。これまで彼と戦ったことはないが、その只ならぬ雰囲気から只者でないことは明らかだ。いったいどれほどの腕前なのか…とフウカは強者との出会いに心を躍らせていた。準備を済ませるとフウカは訓練用の剣を二本手に持ちイエリッツァの前に立った。

 

 

「では…始めましょうか。よろしくお願い致します。イエリッツァ殿」

 

「………」

 

 

無言で頷くと、イエリッツァは訓練用の剣を構える。

フウカもまた二刀の構えを取り、無言のまま二人の手合わせの火蓋が切られた。お互いに構えて睨み合いながらゆっくりと円形に少しづつ歩き続ける。

 

そして先に間合いに入ったのはフウカだった。まずは小手調べにとフウカは右手の剣でイエリッツァの喉をめがけて素早い突きを放つが、それをイエリッツァは剣身で軽く受け止め、剣を弾き返しながらフウカに反撃した。彼の反撃の一撃は非常に速く、大抵の相手ならばこれで勝負が着いたはずだがフウカは違った。反撃を見切ったフウカはその一撃を左手の剣で防ぎ、弾かれた右手の剣で再び剣撃を繰り出す。だが、その攻撃も予測していたのかイエリッツァは軽く後ろにステップしてそれをかわした。そして再び間合いの奪い合いが再開された。

 

 

(速い…カトリーヌ殿と同格、またはそれ以上ですね…)

 

(……見事な太刀筋だ)

 

 

次の瞬間、動いたのはイエリッツァだった。素早く間合いに飛び込みフウカの首を狙って強力な横薙ぎの一撃を繰り出した。凄まじい速さにかわせないと瞬時に判断したフウカは両手の剣でその一撃を防御するが、一撃の重さにフウカは少し体勢を崩されてしまった。その一瞬の隙を見逃さずイエリッツァは素早い剣撃をフウカに繰り出す。しかし、体勢を崩されたフウカは瞬く間に体勢を立て直し、既の所でこれを防御した。その直後、イエリッツァは激しい剣撃の嵐をフウカに放つが、その剣撃は全くフウカに当たらない。

 

 

(……クッ!二刀流とは厄介だ…)

 

 

そうイエリッツァの攻撃がフウカに命中しないのは、二刀というフウカの戦闘スタイルが影響していた。二刀の利点は手数が増えることが挙げられるが、本当の利点はその防御の固さにあった。防御に徹すれば相手は攻撃する部位を見つけ出せず隙が無くなってしまうほどだ。強固な防御力こそが二刀の最大の利点であり真髄なのである。

 

 

(…隙あり!)

 

 

フウカはイエリッツァの一撃を左手の剣で受け止めると、そのまま剣を押さえつけてその動きを封じた。剣を押さえつけられたイエリッツァの動きが止まり、すかさずフウカは右手の剣で首をめがけて剣撃を放った。イエリッツァはなんとか身体を仰け反らせてそれをかわすが、その影響で体勢は完全に崩れていた。そして、押さえつけていた右手の剣を外し両手の剣で強烈な両手突きをイエリッツァ胴体めがけて繰り出した。

 

 

(…もらった!!)

 

 

あの体勢では避けることも出来ない、完全に技が決まったと確信したフウカだったが、勝負はまだ終わっていなかった。体勢を崩されていたイエリッツァはなんとか踏み止まりながら押さえつけられていた剣を左下から右上に斬り上げ、フウカの突きの軌道を無理矢理反らしたのだ。

 

 

(…!?あの体勢でかわすなんて!!)

 

 

両者は再び間合いを広げ、睨み合う。

 

 

(強い…これほどの強者がまだ教団に居たなんて)

 

「…フッ、大した剣技だ。…お前なら、私を殺せるかもしれんな…」

 

「…え?」

 

 

すると突如、イエリッツァは剣を下ろした。どうやら彼にこれ以上戦う気は無いようだった。まだ稽古を始めてわずかな時しか経っていないにも関わらず剣を納めるイエリッツァにフウカは思わず尋ねた。

 

 

「…あの、もう終わりですか?」

 

「……これ以上戦えばどちらかが死ぬことになる。此度はここまでだ」

 

「……」

 

 

フウカはふとイエリッツァの手を見た。なんとその手は震えている。だがその震えが恐れや恐怖などのもので無いことはすぐに分かった。あれは戦い衝動を必死に抑えているのだろう。

 

 

「……はっきり言おう、今、私は貴様を斬りたくて仕方ない。貴様ほどの腕前の強者と邂逅できたのはまさに逸楽だ…」

 

「…そうですね、私もあなたほどの強者に出会えて嬉しいです。そして…いつかあなたと本気で立ち合ってみたいものです」

 

「…だが、今はまだその時ではない。お互いな…」

 

 

そしてフウカもまた剣を下ろす。先ほどまで発していた殺気も息を潜め、その表情はいつもの明るいものに戻っていた。するとフウカはイエリッツァに向いて深々とお辞儀をした。

 

 

「お手合わせ感謝致します。あなたの腕前、拝見させて頂きました」

 

「……ああ」

 

「それでは、堅苦しいのはやめにして…イエリッツァ殿!この後、一緒にお食事でもどうですか?」

 

「………断る」

 

「…ええっ!?何故ですか!一汗かいた後の食事はとても美味しいのですよ!共に行きましょう!」

 

「…大勢の中での食事は好かん」

 

 

無愛想にそう言うとイエリッツァは訓練用の剣を武器立てに戻し早々に訓練場から立ち去ろうとする。そんな後ろ姿をを見てフウカはふとイエリッツァに声をかけた。フウカはずっと気になっていたのだ、彼が漏らしたあの一言が…

 

 

「あの…イエリッツァ殿」

 

「……なんだ?」

 

「…よろしければ教えてください。もしや、あなたは死に場所を探しているのですか?」

 

「………」

 

 

イエリッツァは何も喋らない。だが剣を通じて彼の心情がフウカには分かっていたのだ。彼の剣はうまく言えないがどこか衝動的で、まるで己の命をぶつけているような気持ちが伝わって来たのだ。

 

 

「……否定はしない。私はすでに死んでいるようなものだ」

 

「…何か事情があるのですか?」

 

「…貴様には関係のないことだ。私はただ強者と死合えばそれでいい…」

 

「……」

 

「…強者と生死を賭けた戦い、それだけが私の生きる理由だ」

 

 

強者との殺し合い…戦いにしか生の充足を感じられないのがこのイエリッツァという男の本性なのだろう。ただ独り、強さと強者を求め突き進むその生き様は孤独であり狂気に満ちていると言えるのかもしれない。そして、フウカは考えた、それならば自身も彼と同じなのではないかと…

 

 

「…貴様も私と同じだ。その心に宿る強い殺意と闘志…殺し合いが楽しくて仕方がない。貴様の本質は猛獣だ」

 

 

フウカは否定することが出来なかった。確かに戦っている時に言葉では現せぬほどの高揚感と猛り狂うほどの衝動を感じることがある。先ほど彼と稽古をしていた時もそうだった。自身の心のどこかにも彼のような強者との殺し合いに悦びを感じている自分がいるのだと言われているような気がしていた。

 

 

「そう…ですね…確かに私の心には戦いを悦ぶ自分が居ます。私もあなたと同じなのかもしれません…でも、私は死ぬために戦うのではありません。生きるために私は戦うのです」

 

「……生きるためか」

 

「私が戦う理由は一つ、最強のサムライになることです。そのためには多くの強者を打ち倒し、勝ち残った者こそが最強なのでしょう」

 

「……」

 

「でも、強くなるだけなら誰にでも出来ます。それは本当の強さではなくただの蛮勇です。真の豪傑は強き信念と強き心を持つ者だと私は思います。武と心を極めし者が真の強者になるのだと私は信じています」

 

「……戯れ言だな。それほどの腕前を持ちながら、情けない。強ければ勝ち、弱ければ負ける…それだけだ」

 

「何と言われようとも私はこの生き方を変える気はありません。私は私の信念のままに剣を振るのです。これが私の生き様なのですから」

 

「……貴様とはいずれ再び剣を交える時が来るだろう、その時まで誰にも殺されるな。…貴様は私が殺す」

 

「…ええ、どちらの道が正しいのか…いつか決着を着けましょう」

 

 

そう言い残すと、イエリッツァは訓練場から去って行った。一人残されたフウカはその場に立ち尽くし、イエリッツァから伝えられた言葉を思い出していた。これまで自分の信念を信じて剣を振り、多くの戦場を戦い抜いた中で何度も考えたことだ。

 

…自分の信念は正しいのか?

 

だが人の信念に本当の答えなどは存在しない、人によってそれぞれ考え方も全く異なるのだから。しかし、彼から伝えられた言葉はこれまでの生き様を否定された気分だったのだ。

 

 

『…貴様も私と同じだ。その心に宿る強い殺意と闘志…殺し合いが楽しくて仕方がない。貴様の本質は猛獣だ』

 

 

偉そうに言っておきながら、自分は彼と何が違うのか?この手でどれだけの敵を斬ってきたのか?自分も孤独で狂気にかられた殺人鬼なのでは…?と考え始めたのだ。

 

 

「…本当の強さって何なのかな…?父上…私は…」

 

 

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・おまけ 「大食い勝負!わんこパスタ対決」

 

・ガルグ=マク大修道院 食堂

 

 

時は過ぎ、季節は花冠の節の16日。任務を終えたフウカはいつものように食堂で食事をとっていた。今、フウカが食べているのは"ダフネルシチュー"で今日の食堂のメニューだ。その隣に戦友のカトリーヌが料理を持って腰かけた。

 

 

「よう、フウカ。隣座るぞ」

 

「カトリーヌ殿!どうぞ、座ってください」

 

「さぁて、食うとするか。腹が減ってたんだよな」

 

「あれ?今日のメニューはシチューじゃありませんでしたか?」

 

「ああ、たまには別の料理を食うのもいいと思ってね。美味いって聞いたから頼んでみたんだ」

 

 

カトリーヌが持ってきた料理は"ゴーティエチーズミートパスタ"だった。ミートパスタの上に有名なゴーティエチーズを粉にして振りかけたパスタ料理だ。贅沢に振りかけられた粉チーズと山盛りにかけられたミートソースからは香ばしいハーブの香りが漂ってくる。見るからに美味しそうな料理だが、なぜかフウカは引きつった表情でその料理を見つめていた。

 

 

「………」

 

「あん?どうしたんだ?そんな顔して。アタシがパスタを食うのがそんなに珍しいか?」

 

「い、いえ…その…私、パスタはしばらく見たくないんですよ…」

 

「…はあ?」

 

 

しかもフウカだけでなく他の席に座っている生徒たちもなぜか浮かない表情をしていた。事情がまったく分からないカトリーヌは思わずフウカに理由を尋ねた。

 

 

「いったい何があったんだ?まさか調子乗って食い過ぎて腹でも壊したか?」

 

「………」

 

「…おいおい、本当にそうなのか?」

 

「え、え~と、話せば長くなるのですが…」

 

 

事の発端は、現在から2日前に遡る。最初は小さな言い争いから始まった事だったが、それが他学級も巻き込んだ壮大な出来事になるど誰も予想していなかった。

 

 

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・二日前 ガルグ=マク大修道院 食堂

 

 

時は二日前に遡り、花冠の節の14日。午前中の授業が終了し生徒全員が食堂で昼食をとっていた時、フウカは青獅子の学級の生徒と共に食事をしていた。フウカと共に食事をしていたのは、ベレス、アネット、イングリット、メルセデスの五人のグループだった。

 

 

「先生!あたし、今日は理学がうまくできたんですよ!」

 

「あら~実は私も調子がよかったのね~なんだか理解がとても深まったのよ」

 

「ああ、二人ともよく頑張っているな。特にアネットは上達が早いし、よい成果を見せている。でも結果に驕らないようにね」

 

「もちろんです!今の結果に満足せずにもっと頑張って先を目指します!」

 

「はあ…アネット殿は凄いですね。私は理学や指揮についてはさっぱり分かりません」

 

「そうですね、フウカ殿は以前、先生から指揮の講習を行った時に頭から煙を出しながら講習を受けていましたね…」

 

「何と言うか…そういう話を聞いていたら眠くなってしまうんですよ…子供の頃もよく父上に怒られたものです…」

 

「ええっ!フウカさんが?意外だなあ…」

 

「ふふ、でもやっぱり人には向いてる事と向かない事があるわ~。それにフウカにもいい所があるでしょう?」

 

「メルセデス殿…そうですね!私は剣で頂きに立てばよいのです!理学などは諦めます!」

 

「…自信満々に言い放つ事じゃないぞフウカ。勉学は大切だ、機会があればまた講習を受けて貰うから復習を忘れないように」

 

「そ、そんなあ…先生、もう許してください…」

 

 

そんな和気あいあいに食事を楽しんでいた一同の近くをある人物が通りかかった。その人物は学級の生徒の中でも一番の巨漢で金鹿の学級の生徒であるラファエルだった。その見た目通り大食漢でいつも大量の料理を食べているのだ。

 

 

「おおっ?先生じゃねぇか!」

 

「やあ、ラファエル」

 

「ん?先生…そんだけで足りんのか?よかったらオデのやるぞ?」

 

「いや、大丈夫。自分はこれだけで十分だ。それはラファエルが食べればいい」

 

「そうか…しっかり食っとかねぇと力がでねぇぞ!先生」

 

 

食ベることが好きな彼はこの時間はとても幸せそうな顔をしていた。早く食べようとラファエルは嬉しそうに席に座ろうとするが、食堂が一番混み合っている時間帯なのか席のほとんどが他の学生に座られていた。そんな困った顔で席を探している彼に声をかけた者がいた。

 

 

「ラファエル殿、私の隣が空いてますよ。よかったら座ります?」

 

「おおっ!!フウカさん!ありがとよ!」

 

 

そう言うとラファエルはフウカの隣に腰かけた。大食漢と呼ばれるだけあってその量は三人前ほどの量だった。席に着くとラファエルは豪快に料理を頬張り始めた。

 

 

「ん?フウカさん、今日は少ねぇなあ。ひょっとして身体が悪いのか?」

 

「ふふ、そんなことありませんよ。これでも四人前ですから」

 

「おおっ?そうなのか?よーし、オデも負けてられねぇな!今日は腹減ったし、もっと食うぞ!」

 

 

同じ大食い同士ということもあってフウカとラファエルは仲がよく、好物や美味な料理の話などで盛り上がっているのだ。二人の大食いぶりは生徒や騎士団でも有名な話だ。

 

 

「私もまだお腹が空いているので、もう一人前は食べられますよ!」

 

「ええっ!?フウカさん、まだ食べるんですか!」

 

「もちろんです!しっかり食べなければ力が出ませんし、身体も育ちませんよ!」

 

「そうだぞ!よく訓練して、しっかり飯を食わねぇと強くなれねぇぞ!」

 

「それは、フウカ殿とラファエルだけでは…」

 

「ふふ、私が本気を出せば六人前は食べられますよ!」

 

「オデだって本気を出したら七人前は食えるぞ!」

 

「……ふ~ん」

 

 

その時、場の雰囲気が一変した。ラファエルの一言を聞いたフウカはジト目で彼を見ながら話し始めた。

 

 

「…七人前なんて私でも簡単に食べられますよ、もっと頑張れば私は八人前食べられるんですから!」

 

 

その一言を聞いたラファエルもまたジト目でフウカを見つめながら言葉を返した。

 

 

「はっはっは!!フウカさん!八人前なんかまだまだだなあ、オデは十人前食ったことがあんだぞ?」

 

「………」

 

「………」

 

 

二人は真剣な表情で睨み合う、ここで引き下がっては大食いの意地が許さない。お互い一歩も譲るつもりはないようで、どちらが最強の大食いなのか決着をつけるまでは二人の闘争心はもはや収まらないだろう。

 

 

「…決着をつける必要がありますね、ラファエル殿。どっちが本当の大食いなのか…このフウカ、あなたに勝負を所望します!」

 

「おお!!受けて立つぞ!フウカさん!食うことなら誰にも負けねぇぞ!」

 

 

突如、始まったフウカとラファエルの大食い対決にベレスやアネットたちは困惑していた。だが二人はすでにやる気満々のようでその一部始終を眺めていた周りの生徒たちが二人に注目していた。

 

 

「…ほほう、面白そうなことになってきたな」

 

「だ、大丈夫かなあ、ラファエルくん…」

 

「へぇ、フウカとラファエルの大食い勝負か…面白そうだね!」

 

「フウカ先生!私、応援します!」

 

「はあ…くだらないわね」

 

 

多くの生徒たちが勝負の行く末を見守る中、自信満々に勝負を引き受けたラファエルはどんな勝負をするのかフウカに尋ねた。

 

 

「それで、どんな勝負をするんだ?オデはなんでもいいぞ!」

 

「いざ…"わんこそば"で勝負です!!」

 

「……ん?わんこそば…?なんだそりゃあ?」

 

 

聞いたこともない勝負方法に首を傾げるラファエルだが、それを聞いていた周りの生徒たちも疑問に感じてざわついていた。するとフウカは目を輝かせながら雄弁に説明し始めた。

 

「説明しましょう…!わんこそばとは、一口で食べられる大きさのそばを一杯ずつ食べるんです。それを限界になるまで続けるのですよ!私の故郷の大食い勝負方法なのです!」

 

「うーん…やり方は分かったけど、ソバってなんだ?オデ、そんな食い物聞いたことねぇぞ?」

 

「…ああっ!?そうでした!この国にはそばがありませんっ!…むむ、どうしたものでしょうか…?」

 

 

難しそうな表情で思案していたフウカだったが、何か閃いたのか頭のアホ毛がピンと上を向いた。

 

 

「そうです!!ならば同じ麺のパスタで代用しましょう!名付けて"わんこパスタ"です!!」

 

「お、おう…なんだかよく分かんねぇけど、パスタの大食い勝負だな!受けて立つぞ!」

 

「…なあ、お前ら勝負するのは構わないが、今からその大量のパスタを注文する気か?そろそろ講義が始まっちまうぞ」

 

 

話をすべて聞いていた金鹿の学級のクロードが二人に声をかけた。彼の言うとおりすでに昼の休憩時間が終わろうとしており、学生たちは講義に戻らなければならない時間帯になっていた。

 

 

「ええっ!?もうそんな時間なのか、悪いなフウカさん、勝負はまた今度だぞ」

 

「…そうですね、ではラファエル殿、明日のこの時間に食堂に来て下さいませんか?私が勝負の準備をしておきますから」

 

「明日か?いいぞ!オデ、ぜってぇ負けねぇぞ!」

 

「…へぇ、面白そうだな。なあフウカ、俺も行っていいか?」

 

「いいですよ!是非、クロード殿も来て下さい」

 

「…皆、勝負するのは構わないが、くれぐれも騒ぎを起こさないようにね」

 

「はい!分かってます、先生。よろしければ先生も来て下さいね!イングリット殿も是非!」

 

「…え?そ、そうですね…考えておきます」

 

 

こうして明日の15日に勝負することが決まり、その場はお開きになった。

 

 

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・翌日 ガルグ=マク大修道院 食堂

 

 

翌日の15日、勝負を挑まれたラファエルは食堂に向かっていた。その後ろにはクロードや金鹿の学級の生徒たちもおり、彼らもフウカとラファエルの大食い勝負を見物しようと向かっていたのだ。

 

 

「よーし、今日はぶっ倒れるまで食いまくるぞお!!」

 

「このために朝飯を抜いて来たんだろ?まあ、ほどほどにしとけよ、午後の講義に響くぜ」

 

「あまり無理しないでくださいね、ラファエルくん」

 

「うーん、どっちが勝つだろうなあ…?二人ともよく食うしなあ」

 

「ちょっと楽しみかも。ねぇ、マリアンヌちゃん」

 

「……え?そ、そうですね…」

 

「大食い勝負なんてくだらないです。…お菓子の大食い勝負ならよかったのに」

 

「全くもってくだらないな、食事は静かにするものだ。低劣な庶民の趣向など僕には理解できないな」

 

 

食堂へ向かう金鹿の学級の生徒たちだったが、その時食堂の方から何やら美味しそうな香りが漂ってくる。その香りはまさしくミートソースの香りだった。

 

 

「…お?なんか美味そうな匂いがするな」

 

「ミートソースの香りですね。きっとフウカさんが用意してくれたんですよ」

 

「ホントだ!いい香り…あたし、ちょっとお腹が空いて来ちゃったかもー」

 

 

気になった金鹿の学級の生徒たちが食堂へ足を踏み入れるとそこには巨大な皿の上にまるで山のように積み上げられ、こぼれ落ちてしまうほどのミートソースがかけられたミートパスタがあった。あまりの量にクロードを初めとした生徒たちは唖然としていた。

 

 

「…す、すげぇ!!これ全部パスタか!!?」

 

「…おいおいマジかよ、さすがに多すぎないか?」

 

「…なんと言うか、ここまでたくさんあったらパスタって気がしませんね」

 

「…す、すごいです……!」

 

 

度肝を抜かれたように立ち尽くす生徒たちの前に食堂の奥からフウカがやって来た。この時までパスタを作るのを手伝っていたのか、身に付けていたエプロンはミートソースだらけで鼻先や頬にもソースが付着していた。

どうやってこれだけのパスタを作ったのかというと、懐に余裕のあるフウカが昨日の間に自腹で大量の小麦粉を購入し食堂のおばちゃんの協力もあってなんとか準備することに成功したのだ。

 

「ふふ、驚きましたか?皆様!」

 

「お、おう…よくこんなに作ったな」

 

「ちょっと大変でしたけど、これで準備は整いました!いざ勝負です!ラファエル殿!」

 

「おう!勝負だ!フウカさん!」

 

「よーし!それじゃ、司会は俺にやらせてくれないか?しっかりこの場を盛り上げてやるよ」

 

 

そう言うとクロードはノリノリで司会役を買って出た。するとクロードの司会とパスタの香りに誘われて食堂に多くの生徒や騎士たちが集まり始めた。気がつけば食堂は人で溢れかえっていた。その人混みの中には騒ぎを聞きつけてやって来たベレスや青獅子の学級の生徒たちや黒鷲の学級の生徒たちの姿もあった。

 

 

「…!殿下お気をつけを」

 

「おっと…!すまん。それにしても、すごいな…いったい何の騒ぎだ?」

 

「殿下は知らないんです?フウカとラファエルが大食い勝負をするそうですよ」

 

「フウカとラファエルが…?ああ、なるほどな…」

 

「…何を騒いでいるのかと思えば、くだらんな」

 

「す、すごいですね。まるでお祭りみたいですよ…!」

 

 

予想外の盛り上がりに、騒ぎを聞いてやって来たベレスやアネットたちも驚きを隠せなかった。そんな彼女は現在、生徒や騎士たちの人混みの中でにもみくちゃにされていた。

 

 

「み、皆、盛り上がるのはいいが、少し落ち着くんだ…!」

 

「きゃあ!ち、ちょっと押さないで!」

 

「あらあら~すごい人ね」

 

「ま、まさかこんなことになるなんて…」

 

 

そんな大勢にもみくちゃにされているベレスたちを見つけたフウカは笑顔で手を振りながら声をかけた。

 

 

「あ!先生~!来てくださったのですね!とても嬉しいです!」

 

「まったく…騒ぎ起こさないようにと言ったはずだが」

 

「あはは…なんだか知らない間に大騒ぎになってしまって…でも、こんな集まってもらえるなんて嬉しいです!」

 

「ああ、やっぱり心配だったからね」

 

「…あ!そうです!よろしければ先生も共に勝負しませんか?パスタもたくさんありますし!」

 

「…え?自分も?」

 

「お!面白そうだな。そういえば先生もよく食べるよな、二人にも劣らないんじゃないか?」

 

「いや、自分は…」

 

 

断ろうとしたベレスだったが、あることを閃いてその口が止まる。その閃きとは「生徒たちと交流を深められるいい機会かもしれない…」と考えたのだ。有能な教師としてすでに生徒たちから頼りにされているが、未だに教師となって日が浅い。人付き合いが不慣れな自分が他者と親睦を深めるよい好機かもしれないと考え、ベレスは快く勝負を引き受けた。

 

 

「分かった。自分でよければ参加させてほしい」

 

「本当ですか!嬉しいです、先生!」

 

「ん?先生も食うのか?よーし、先生が相手でも負けねぇぞ!」

 

 

ベレスが参加すると聞くと他の生徒たちも名乗りを上げ勝負に参加する者たちが現れ始めた。黒鷲の学級から名乗り出たのはカスパルで、青獅子の学級からはイングリットが勝負に参加することになった。

 

 

「うおおっ!オレもやってやるぜ!カスパル様の底無しの胃袋を見せてやる!」

 

「先生が出るのでしたら私も…け、決して空腹という訳ではありませんよ!」

 

「ふふ、挑戦者は大歓迎ですよ!」

 

「まあ、でしたらわたくしも参加させてくださいません?」

 

 

一同の視線が一斉に声のした方向に向いた。そこにいたのはセテスの妹のフレンだった。彼女もまた活気にあふれた食堂の雰囲気に誘われてやって来たのだ。彼女はこういった催し物が好きなのか、見ているうちに自身も参加したくなったのだろう。

 

 

「わたくしも食べることには自信があるんですの!先生や皆様にも負けませんわよ!」

 

「フレン殿!もちろんいいですよ!さあさあ、こちらに座ってください」

 

「ええ、では失礼しますわ」

 

「おいおい…大丈夫か?後でセテス殿にどやされるんじゃ…?」

 

 

クロードが心配するが本人はすっかりやる気で生徒や騎士もフレンの参加を歓迎していた。若干、不安を感じながらもクロードは司会を再開した。

挑戦者も揃い踏み、食堂の盛り上がりも最高潮に達しようとしていた。

 

 

「よーし、準備はできたな。これから、この六人の挑戦者による大食い勝負を始める!…早速だが挑戦者達の意気込みを聞いてみたいと思う」

 

「必ずや勝利します!!故郷で"大食いわんこ"と呼ばれていた私の実力をお見せしましょう!」

 

「ぜってぇオデが勝つぞ!!がんがん食いまくるぞお!」

 

「絶対にオレが勝つぜ!」

 

「いいえ!勝つのはわたくしですわよ!」

 

「皆、食べ過ぎて体調を壊さないようにね」

 

「そうですね、限界に注意して楽しみましょう」

 

「はは、みんなやる気だな。さて、意気込みを聞いたところで…」

 

 

そう言うとクロードは指を鳴らした。するとヒルダとイグナーツが六人の前に一口分のパスタが乗せられた皿を運んできた。いよいよ勝利が始まると食堂内に緊張が走る。そしてクロードの号令と共についに大食い対決が始まった。

 

 

「それじゃ…始め!!まずは一皿目だ」

 

 

開始と共に六人が同時に一枚目のパスタを口に入れた。当然、一皿目なので全員まだ余裕の表情だ。

 

 

「美味しいです!」

 

「…美味ぇけど、オデはやっぱり一気に食いてぇなあ」

 

「全然、余裕だぜ!」

 

「うん、美味しいね」

 

「まあ、パスタってこんなに美味しいのですわね!」

 

「まだまだ余裕ですね」

 

「まあ…一枚目だし当然だな。よーし、それじゃ二皿目だぞ」

 

 

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・八皿目

 

 

「よし、八皿目だ」

 

「いただきます!!」

 

「…美味えなあ!!」

 

「次だ次!どんどん来い!!」

 

「次を頼む」

 

「まだまだ、この程度は朝飯前ですわよ!」

 

「いただきます」

 

「さすがにまだ余裕そうだな」

 

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・二十皿目

 

 

「ほれ、おかわりだぞ」

 

「ふふ、余裕ですね」

 

「まだまだ足りねぇなあ!」

 

「うおおっ!!」

 

「おかわりをお願い」

 

「わたくしもお願いしますわ」

 

「私もお願いします」

 

「状況は未だに五分五分…さて、どこで勝負が動く?」

 

 

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・三十皿目

 

 

「ほら、じゃんじゃん」

 

「おかわりです!」

 

「オデにもくれ!」

 

「オレにもだ!!」

 

「ま、まだ大丈夫ですわ!」

 

「フレン、無理はしなくていい」

 

「そうです、無理は禁物ですよ」

 

「お?フレンの調子が悪くなってきたな、果たしてどうなる…?」

 

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・四十二皿目

 

 

「もう一杯だ」

 

「おかわりをお願いします!!」

 

「もう一杯くれ!」

 

「ま、まだ大丈夫だぜ、どんどん来い!」

 

「ご、ごめんなさい…わたくし、もう食べられませんわ…」

 

「ああ、フレンはもうやめたほうがいい」

 

「わ、私もそろそろ限界かもしれません…」

 

「おっと、ここでフレンが脱落だ。イングリットとカスパルもつらそうだな…さて残りの挑戦者は五人だぞ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・五十四皿目

 

 

「五十四皿目だ。みんな頑張れ」

 

「いただきます!」

 

「まだまだ、こんなもんじゃねぇぞお!!」

 

「よく食べるね、二人とも」

 

「…も、もう食えねぇ…吐きそうだぜ…」

 

「わ、私も…これ以上は無理です…」

 

「お?ここでカスパルとイングリットが脱落だな。残りはフウカとラファエルと先生の三人だ」

 

 

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大食い勝負もいよいよ大詰めで、三人は激しい勝負を繰り広げていた。三人のテーブルの上には山のように皿が積み重ねられている。ついに六十八皿目に突入したが三人の表情は険しくなっていた。手に汗握る激戦に食堂は熱気と激励の嵐で包まれていた。

 

 

「ま、まだ大丈夫ですよ!私は負けません!」

 

「お、オデだって負けねぇぞ…!」

 

「…少しきついかな」

 

「いよいよ大詰めだな…さあ、三人とも頑張れ!!」

 

 

クロードの激励と共にそれを見守る生徒や騎士たちが三人に激励を送る。

 

 

「ラファエルくん!頑張ってください!」

 

「ラファエルくーん!ファーイト!!」

 

「フウカ殿!!頑張ってください!!」

 

「フウカ先生!もう少しです!頑張る、です!」

 

「先生!頑張れ!!」

 

「先生~!!頑張ってください!」

 

 

苦しそうな表情をしながらも三人は同時に六十八皿目のパスタを口に入れた。そして六十九皿目に到達しようとした時、ついにラファエルに異変が起き、口を押さえながらテーブルにうつ伏せに倒れた。

 

 

「…も、もう駄目だ…もう食えねぇよ…」

 

「…ついにラファエルが脱落だ!残ったのはフウカと先生…勝負はどうなる?」

 

 

ここでラファエルが脱落し、勝負はフウカとベレスの一騎討ちになった。ベレスの予想以上に健闘にフウカはもちろん生徒たちも驚いていた。ここで挑戦者のベレスに負けるのは大食いの意地が許さないが、両者ともに限界が近づいていた。

 

「お、お見事です…先生…まさか、ここまでとは…」

 

「…顔色が悪い、もう止めたほうがいいと思うよ」

 

「あはは…先生のほうこそ…勝負はここからですよ…!」

 

 

その後、二人はさらに食べ続けついに七十四皿目に突入した。食堂に生徒たちと騎士たちのフウカコールとベレスコールが響き渡っている。しかし、ついに激闘の大食い勝負に決着の時が訪れた。

 

 

「…うぐっ!?…もう…無…理…」

 

 

七十四皿目のパスタを食べようとしたフウカだったが、ついに限界を迎えたのか、席から崩れ落ちるように倒れてしまった。顔色も悪く、白目をむいて完全に気絶していた。

その瞬間、食堂内に歓喜の声が巻き起こった。

 

 

「勝負あり!勝者は先生だ!教団一の大食いは先生で決まりだな!!」

 

「…少し複雑な気持ちだけど、これも皆の応援のおかげだ。ありがとう」

 

「「「おおおお~!!!」」」

 

 

なんと大食い対決を制したのは、挑戦者のベレスだった。生徒たちと騎士たちから嵐のような歓声を受け、大勢がベレスに詰め寄せる。こうして勝負は無事に終了したと思われたが…

 

 

「……諸君、これは何の騒ぎだ?」

 

「「「…………」」」

 

「ま!お、お兄さま!」

 

 

食堂の入り口にまるで大魔王の如き雰囲気を発しながら仁王立ちしていたのはセテスだった。あれだけ大騒ぎしていればセテスでも気になって見に来るのは自明の理だ。食堂に居た全員の表情がどんどん青ざめていく。

 

 

「…さて、説明してもらおうか?」

 

「え、え~と…俺は用事が…」

 

 

すると身の危険を感じたクロードがこっそり食堂から退散しようとするが、そんなクロードを見かけたセテスが静かに一言発した。

 

 

「クロード、どこへ行く?」

 

「…あ、あの~これはですね…」

 

 

あまりの威圧感にクロードはまるで蛇に睨まれた蛙のように動きが止まり、さらに食堂にいた生徒たちからもただならぬ視線を感じた。

 

 

(クロードくん~!一人だけ逃げる気~!!)

 

(クロード…!卑怯者め!貴族の風上に置けないな!)

 

(…おい、クロード。今回ばかりは俺も同感だ。一人だけ逃げるなど許さんぞ)

 

 

凄まじい威圧感と罪悪感にさすがのクロードも耐えかねたのか、引きつった表情で頭を掻きながら一言。

 

 

「あはは……その…すんません」

 

「すぐに戻れ」

 

「…はい」

 

 

その後、食堂にいた者全員がセテスにみっちり説教を受けることになった。ちなみに説教の時間は二時間で全員、一日自室での謹慎処分を命じられたがフレンの必死のとりなしで特別に厳重注意で事態は収束した。これ以降、わんこパスタは禁止になったという。

そんな一部始終を食堂の外から見ていた、黒鷲の学級の級長エーデルガルトとその従者のヒューベルトは呆れていた。

 

 

「まったく…呆れるわね」

 

「くく、その割にはずいぶんと熱心に先生を応援していたようですが?」

 

「ち、違うわ!…少し気になっただけよ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

・現在 ガルグ=マク大修道院 食堂

 

 

「…と、いうことがあったんです」

 

「…アタシがいない間に何やってんだよ」

 

「だ、だって…あんなことになるなんて思ってませんよ!」

 

「はあ…これに懲りたら食い意地を張るのはやめるんだね」

 

「うう…すみません…深く反省しております」

 

 

こうしてひょんな事から始まった大食い対決は幕を閉じたのであった。

 

 

 




そういえば、風花雪月のアップデートでイエリッツァや様々な機能が追加されましたね!イエリッツァの性格や真相が明らかになったので、すごくありがたいです!
…サウナの機能は面白いですね!!
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