ファイアーエムブレム風花雪月 異国のサムライ   作:戦国のえいりあん

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お待たせしました!
やっと新作が書けました!
ロナート卿の反乱編です!
今回も私の自己解釈の部分が多いですが、読んで頂けると嬉しいです。


第八章 叛乱

○花冠の節

 

・ガルグ=マク大修道院 枢機卿の間

 

 

堅琴の節が過ぎ去り、季節は花冠の節。

野営訓練中の生徒の襲撃事件や、生徒を襲撃した盗賊団の討伐と立て続けに発生する解決すべき問題にセイロス騎士団は各地を東奔西走していた。さらに不幸は続き、休む間もなくセイロス聖教会に新たな問題が発生していた。

 

 

「…さて、諸君らに集まってもらったのは他でもない。実は新たな問題が発生したのだ」

 

 

ガルグ=マク大修道院二階の大広間にある枢機卿の間にセイロス騎士団の主な面々がセテスによって召集されていた。集められたのはフウカ、カトリーヌ、シャミア、アロイスといった騎士団の主将たちだった。

 

 

「問題…ですか?此度はいったい何が?」

 

「王国のガスパール領主・ロナート卿が我らセイロス聖教会に対して兵を挙げたとの報告が入った」

 

「な、なんと!!?」

 

「………」

 

 

セテスの話によれば、ファーガス神聖王国の小領地であるガスパール領を治めるロナート卿はかねてよりセイロス聖教会に敵意を示していたそうで真意は不明だが突如、聖教会に対して叛乱の兵を挙げたのだ。

シャミアたちの偵察によればロナート卿の軍勢は千にも満たない数で大した規模ではないと報告されていた。

約五千の精強なセイロス騎士団を擁するセイロス聖教会に対してそれだけの軍勢で叛乱を起こしても勝ち目が無いことなど誰の目から見ても明らかだった。

 

 

「それだけの軍勢でセイロス騎士団と戦うなど無謀です…!」

 

「ああ、どう考えても勝算は薄い。真意は分からないが、奴らは本気のようだ」

 

「しかし、府に落ちませんな…ガスパール領主のロナート卿と言えば、領民たちから名君と慕われるほどの人物と聞きますが…」

 

「そのような御仁が何故…」

 

「すでにロナート卿の軍勢はガルグ=マク大修道院に向けて進軍を開始している。我々も座して待っているつもりはない。敵を迎撃するぞ」

 

 

挙兵を早期に察知できたことが功を奏し、騎士団は敵が攻勢に転ずる前に奇襲を仕掛け一気に殲滅するという作戦で決まり早速、先遣隊の人選が行われていた。

 

 

「先遣隊はフウカに任せたい。頼めるか?」

 

「承知しました」

 

「君は五百の騎士団を率いて先行してくれ。先遣隊の後をアロイスとシャミアは二千の騎士団を率いて合流し敵軍を殲滅するのだ。ロナート卿の軍勢は少数だ、すぐに鎮圧できるだろう」

 

「心得た!お任せあれ!」

 

「分かった」

 

「………」

 

 

フウカは先ほどから気がかりになっていたのだが、何故かカトリーヌの様子が変だった。ロナート卿の話を聞いた辺りから何か浮かない表情をしているように見えたのだ。

 

 

「カトリーヌは以前に説明した通り、後詰めとして進軍し戦後の事後処理を頼みたい」

 

「…分かったよ」

 

「では、これにて解散だ。各自戦闘の準備を整えて待機しておいてくれ」

 

 

こうして会議は終了し騎士団は早速、戦支度を開始した。出陣の準備を整える騎士たちによってガルグ=大修道院の市場と兵舎が慌ただしい空気になっていた。だが騎士団の士気は高く騎士たちの闘志も万全であり、すでに勝ち戦のように思っている者もいた。先遣隊を任されたフウカも出撃の準備を整え正門へと向かっていた。その途中にカトリーヌの姿が見え、フウカは思わず声をかけた。

 

 

「あはは、今回はアタシの出番は無さそうだ。アンタなら問題ないな」

 

「…カトリーヌ殿、何かあったのですか?」

 

「………」

 

「すみません…先ほどから何やら元気がなさそうに見えたので」

 

 

やはり、何か事情があるのか空笑いをしていたカトリーヌの表情が一気に暗くなっていく。彼女ほどの猛者がこれほど思い悩むなどいったいどんな理由なのだろうとフウカは感じずにはいられなかった。

 

 

「あの、私でよければ相談に乗りますよ」

 

「…いや、いいんだ。アタシとしたことが情けない」

 

「カトリーヌ殿…!ですが…」

 

「これはアタシの問題だ。アンタが気にすることじゃないさ」

 

 

ほら、さっさと行ってきな!と背中を押されフウカはやむ得ずその場を後にした。その後、フウカを初めとした

五百の先遣隊は一足先に大修道院から出発しガスパール領に進軍を開始したのだった。

しかし、フウカは何やら胸騒ぎを覚えていた。普通に見れば負ける理由がないほどの有利な戦であるにも関わらず、心に感じる謎の不安にフウカは憂慮していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

・ガスパール領内 マグドレド森林

 

 

ガルグ=マク大修道院から出撃して二日後、フウカ率いる先遣隊はファーガス神聖王国領内ガスパール領に到着していた。現在、先遣隊がいる場所はガスパール領内にある森林地帯であるマグドレド森林で、森林地帯といってもそれほど深い森林ではなく道が敷かれ平地もそれなりに広がる場所だ。すでにセイロス騎士団がガスパール領に侵攻したことは敵側も察知しているはずたが、敵軍は未だに姿を見せてない。

 

 

「…変ですね、敵軍の姿が見えません」

 

「そろそろ敵軍と遭遇してもよい頃なのだが…」

 

 

先遣隊の目的は敵軍の出鼻を挫き動揺させることと偵察が目的なのだが、未だに姿を現さないガスパール軍にフウカや騎士たちは不穏な空気を感じていた。冷静に考えればこの森林地帯は伏兵を置くには最適な場所であり地の利も土地勘のある敵軍が有利なはずだ。幸いにも騎士団はまだマグドレド森林の入口におり、森林地帯には侵入していなかったのだ。

 

 

「…伏兵がいるかもしれません。警戒しましょう」

 

「分かった。慎重に行軍しよう」

 

 

軍を率いた経験は少ないが、これは戦慣れしたフウカの勘だった。全速力で行軍していた先遣隊は行軍速度を緩め周囲を偵察しながらゆっくりと進軍を始めた。聞いた話によれば敵軍のロナート卿は老練な歴戦の将軍と聞いており、それほどの将軍がただ正面から突撃するなどという単純な戦法を取るようなことはしないだろう。きっと何か策を仕掛けてくるはずだとフウカは警戒していた。

 

 

「…て、敵襲!!伏兵だ!!」

 

「…やはり、兵を伏せていましたか。皆様!戦闘体勢です!」

 

 

突如、辺りから鬨の声が沸き起こる。

フウカの読み通り森林地帯には伏兵が潜んでいたのだ。警戒しながら進軍していたおかげで騎士団は混乱することなく戦闘体勢に入り戦いが始まった。伏兵による奇襲を見破った今、この後の戦況を変えるのは兵の練度と兵力の差、そして士気によって決まるだろう。

五百と少ない先遣隊とは言え大きく練度で勝るセイロス騎士団に加え騎士団でも屈指の実力者であるフウカもいる布陣を容易く敗れることはないだろう。しかし、この時異常事態が発生していた。

 

 

(おかしい…何か変だよ…)

 

 

最初に異常に気付いたのはフウカだった。

騎士たちと共に迫り来る敵軍を迎撃していたフウカは何か違和感を感じていた。

それは敵兵の練度についてだった。王国軍にしてはあまりにも弱すぎる。いかに少数といえども歴戦の将軍であるロナート卿の率いるガスパール兵がこれほど弱いはずがない…

 

 

(この手応え無さ…まさか!!)

 

 

フウカは斬り倒した敵兵士の死体を確認するとそれを見た瞬間、驚愕した。

 

 

(兵士じゃない…!民兵…!?)

 

 

倒した敵兵は軽装の鎧を身に付けたガスパール領の民だった。このような無謀な戦であるにも関わらず、自身の命を省みずロナート卿の為に戦おうとガスパール領内の民たちが義勇兵としてガスパール軍に加わっていたのだ。以前にロナート卿は領内の民から強く信頼されている名君だと聞いたが、まさかこれほどまでに民に慕われていたなど予想していなかったのだ。

 

 

「ロナート様のために!おらたちは負けねぇぞ!」

 

「うおおお!!領主様を死なせるかあ!!」

 

「くっ!こ、こいつら…!!」

 

 

しかも民兵の数は予想以上に多く、その数はガスパール軍の数を上回っていたのだ。見渡しただけでも民兵は約数千の規模であり、いかに精強なセイロス騎士団でも五百の寡兵では苦戦は免れなかった。苦戦の理由は兵力差もあるが、それ以上に敵軍の異様に高い士気に加え敵兵が民であることに騎士団は動揺していたのだ。

 

 

「くそ…!何故これほどの民兵が…」

 

「いったいどうなっている!?敵の軍勢は少数ではなかったのか…!?」

 

「くっ…!た、民を斬るわけには…ぐああっ!!?」

 

 

思いもよらぬ援軍と不意打ちに先遣隊は完全に混乱しており、騎士団は劣勢となっていたのだ。多くの騎士が民兵を攻撃することに戸惑い大勢に囲まれ一人また一人と倒れていく。こうなってしまっては土地勘のある敵軍が有利でありこれ以上戦っても犠牲を増やすだけだった。そう判断したフウカは残った騎士たちに檄を飛ばした。

 

 

「皆様!撤退してください!殿は私が引き受けます!」

 

「フウカ殿…!しかし…」

 

「…残念ですが、この戦は私たちの負けです。こうなってしまっては一人でも多くの味方を逃しましょう!」

 

 

多くの騎士たちが動揺と憤りを感じる中、フウカは冷静だった。決して敵を侮ったつもりはないが、今回の戦はこちらの敗北だと認めていた。これまでほとんど敗北を味わったことの無いフウカは内心、断腸の思いだったが、ここでつまらぬ意地を張って仲間を無駄死にさせるわけにはいかなかったのだ。

 

"勝敗は時の運…兵家の常だ"

 

父から教わった言葉を噛みしめフウカは騎士たちと撤退の準備を始めた。

 

 

「すぐに後方の部隊に伝令を!至急救援を願いますと伝えてください!」

 

「承知しました!」

 

「援軍来るまで、必ず死守します!さあ、行ってください!」

 

 

先遣隊から伝令が出撃し、後方から進軍するアロイスとシャミアが率いる部隊に救援を頼むべく大急ぎで向かって行った。そしてフウカは僅かな騎士たちと共に敵軍の前に立ちはだかった。

 

 

「…これより死地に入ります、私の前に立つ者は容赦しません。命の惜しくない者は前に出よ!」

 

「この人数ならおらたちでもやれる!みんなやっちまえ!!」

 

「うおおお!!邪魔するなああ!」

 

 

民兵たちが一斉にフウカたちに向けて殺到するが、数人だと油断して襲い掛かったのが間違いだったと民兵たちはすぐに思い知ることになる。確かに人数は多いがそのほとんどは戦の経験の無い民兵であり、フウカから見れば素人が棒切れを振り回しているようにしか映らない。

 

 

「…はぁ!!せいっ!」

 

「ぎゃああああ…!!?」

 

「ぐぁっ!?う、腕が…腕があぁ!!」

 

 

たとえ相手が民兵であってもフウカは文字通り容赦なく次々と敵を斬り捨てる。一振りすれば腕や足が飛び、もう一振りすれば首が飛ぶ…フウカの周りに瞬く間に死体の山が築かれ、彼女の身体が返り血で染まっていく。

 

 

「ひっ…!ば、化物だ…!!」

 

「お、鬼だ…!!この人殺し!」

 

「………」

 

 

表情一つ変えず次々と敵を斬り捨てるフウカに民兵たちは畏怖し、恐れた民兵たちが必死にフウカを罵り始めた。人殺し、鬼、殺人鬼と一斉に民兵たちが罵詈雑言を浴びせるがフウカは全く動じない。そればかりか、より一層殺気を強くするとゆっくり民兵たちに向かって歩き始める。

 

 

「…戦場とはこういうものです。その覚悟も無い者が来る場所ではありません。刃を持って私の前に立つ以上、誰あろうと容赦はしない…」

 

「みんな!びびるな!領主様のためなら命なんていらねぇ!」

 

「うおおおおっ!!!」

 

 

一人の民兵の声を挙げると恐怖で動揺していた民兵たちが急に落ち着きを取り戻し、再びフウカたちに向かっていく。どれだけ斬り捨てても民兵たちは退かない。大勢の民兵が一挙にフウカたちに向かって突撃するその様子はまさに人海戦術そのものだ。

だがフウカは迫り来る民兵たちを無慈悲に斬り捨て続ける。

 

 

(くっ……!!どうして…なんで逃げないの?)

 

 

もう彼らには敵わない、誰が見ても明らかであるのに誰一人退こうとしない。犠牲を顧みず自身に特攻してくる民兵たちにフウカは疑問と若干の恐怖を覚えていた。彼らのロナート卿に対する思いはまるで狂信的だ。すると突如、敵の背後から一騎の騎士が姿を現した。

 

 

「皆!もうよい!ここは退け!無駄死にするでない」

 

「り、領主様!」

 

「ロナート様!!」

 

 

フウカの前に現れたのはガスパール領主・ロナート卿その人だった。白髪頭の老人だが威厳ある雰囲気とその顔付きはまさに歴戦の勇将だ。ロナートと号令と同時にこれではフウカに向かって突撃していた民兵たちが戦いを止めて撤退を始めた。

 

 

「…あなたがロナート卿ですね」

 

「いかにも。わしがロナートだ」

 

「ならば…答えて下さい!何故、このような無謀な戦いを…!!」

 

「黙れ!腐った中央教会は滅びるが運命!主も…我が息子もあの女狐の首を望んでいるのだ!」

 

「あなたの苦しみは私には分かりません…ですが、罪無き民までも犠牲するなど間違っています!!」

 

「多くの命を奪った女狐の眷属が何をぬかすか!わしは止まらぬ!…もはや止まれぬのだ!必ず我が息子の無念を晴らしてみせようぞ!」

 

 

そう言い残しロナートは手綱を返してフウカの前から去っていった。そして、後に残ったのはおびただしい数の民兵の死体と返り血によって真っ赤に染まったフウカの姿だけが残った。フウカは刀の血のりを払い刀を鞘に収めた後、ただその場に立ち尽くしていた。同じく生き残った殿の騎士たちも剣を収め安堵する。

 

 

(…………)

 

「ふぅ…なんとか撃退しましたな」

 

 

これまで多くの人間を斬り捨てて来たフウカだったが、これほど一方的に相手を斬殺したのは初めてのことだった。しかも斬り倒した敵のほとんどは罪も無き民でどんな理由があっても彼らに手をかけ命を奪ってしまったのは事実だ。

 

 

(…私…は…)

 

「…ん?フウカ殿?」

 

 

そんな時、フウカの脳裏にある言葉がよぎった。

 

 

『…貴様も私と同じだ。その心に宿る強い殺意と闘志』

 

『殺し合いが楽しくて仕方がない。貴様の本質は猛獣だ』

 

 

自身の心に言葉では表せない感情が沸き起こる。戦いと殺戮を好む自分自身がいる…そんな自身への嫌悪と取り返しのつかない罪悪感、その瞬間、身体全体が重くなり立っているのも苦しくなる。さらに体調にも異変が起こり最悪なことに激しい戦いの影響で発作も発症してしまったのだ。突如、口を押さえて咳き込み始め、手の間から血が流れていた。

 

 

「うぐっ…!!?ゴホッ!!ゴホッ!!」

 

「ふ、フウカ殿!?どうしたのですか!」

 

 

思わず近くの木にもたれ掛かりながら倒れる。

発作の影響でもはや立ち上がることができず消えていく意識の中、フウカは思っていた。

 

 

「フウカ殿!大変だ!急いで神官兵を…!」

 

(私の信念が…間違ってたの…?私は…ただの人殺しなのかな…)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・半日後 ガスパール領 街道

 

 

その頃、先遣隊より一日遅れて大修道院から出撃したアロイスとシャミア率いる二千のセイロス騎士団はガスパール領の入口にいた。しかし、先行したフウカの先遣隊から連絡が無いことに疑問を持ち、ひとまずこの地に陣を敷き状況を探っていた。

 

 

「妙だな…フウカ殿からの連絡が無い」

 

「ひょっとしたら何かあったのかもしれん、数人を先行させてこの先の状況を調査する必要があるな」

 

「うむ、あのフウカ殿が敗れることはないと思うが…」

 

「…そうでもないぞ、確かにあいつは強いが病気の影響で長期戦には耐えられない。万が一という状況もあり得る」

 

 

そんな時、二人の前に傷だらけになった騎士が仲間に支えられながら姿を現した。そう、やって来たのはフウカの先遣隊の騎士だったのだ。

必死に全速力でこの地まで駆けてきたのか、その騎士は息も絶え絶えで疲労困憊の状態になっていた。それでも騎士は無理矢理にでも声を出して自分の任を果たそうとする。

 

 

「…も…申し上げ…ます…はぁ…はぁ…」

 

「どうしたのだ!?いったい何があったのだ?」

 

「て…敵軍勢…多数… マグドレド森林にて…先遣隊が苦戦しています…フウカ殿が敵軍を食い止めるべく奮戦しています…どうか…救援を…!」

 

「なんだと…!」

 

「まずいな…いくらあいつでも長時間は耐えられん。すぐに出発だ、マグドレド森林に急行するぞ!」

 

 

シャミアとアロイス率いる騎士団は強行軍で進軍し、先にあるマグドレド森林へと急いだ。その後、騎士団の本隊がマグドレド森林に到着したのは急行して来た伝令と同じく半日後だった。その時はすでに深夜で辺りは漆黒の暗闇に包まれており、ようやくたどり着いた騎士団の本隊の前にあったのはフウカが率いていた先遣隊の陣営のかがり火だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・ガスパール領内 マグドレド森林

 

 

「皆の者!遅くなってすまぬ!」

 

「アロイス殿!シャミア殿!」

 

「すまん。無事か?」

 

「はい、負傷した者は多いですがフウカ殿のおかげで被害はなんとか抑えられました」

 

「…あいつは大丈夫なのか?」

 

「それが…」

 

 

騎士は下を向きながら一瞬、口をつぐむと申し訳なさそうに話し始めた。

 

 

「フウカ殿は激戦の影響で病が再発し倒れてしまいました…輸血は間に合いましたが、未だに意識が戻りません」

 

「…そうか、すまん。お前たちには苦労をかけたな」

 

「いえ!違います!我らが不甲斐ないばかりに…!」

 

「フウカ殿がいなければ我々はどうなっていたか…なんと情けない…!我々のせいでフウカ殿が…」

 

 

騎士たちを助ける為だったとはいえ数々の戦場で戦い抜いてきた自分たちセイロス騎士団が逃げることしかできなかったことに騎士たちは憤りを感じていた。そのせいで長時間の激戦に耐えられないフウカを頼らなけれならない状況に陥ってしまったことを後悔していたのだ。

 

 

「油断はしていませんでした…!しかし…」

 

「…もうよいのだ、貴殿たちは悪くない。しっかり身体を休めるといい」

 

「それでフウカはどこにいる?」

 

「こちらの陣幕に…どうぞ」

 

 

騎士に案内され二人はフウカがいる陣幕へ行くと、その陣幕の中から神官兵が姿を現し安堵の表情を浮かべていた。

 

 

「これはアロイス様、シャミア様」

 

「フウカ殿の様子はどうだ?」

 

「たった今、意識が戻られました。生命に異常はありません。ただ…」

 

「ん?ただ、どうしたのだ?」

 

「…とても鬱ぎ込んでいます。無理もありません、フウカ様が戦ったのはほとんどが民兵でしたから」

 

 

とにかくしばらくは安静が必要ですね、と言い残すと神官兵はほかの騎士の治療のために去っていた。シャミアとアロイスは一声かけた後、陣幕に足を踏み入れた。そこにはひどく落ち込んだ表情を浮かべたフウカが横になって寝ていた。

 

 

「…あ、シャミア殿、アロイス殿」

 

「大丈夫か?随分無理をしたようだな」

 

「あはは…すみません…私のせいで皆様が…」

 

「いや、君がいなかったら被害はこの程度じゃ済まなかっただろう。君はよくやったさ」

 

「その通りだぞ!フウカ殿!よく持ちこたえたな!」

 

「とにかく後は私たちに任せろ。君はゆっくり休め」

 

「え…?で、ですが…戦況は…」

 

「いいから君は休んでろ。神官兵からも安静にしていろと言われたはずだ、無理をするな」

 

「…は、はい…すみません…」

 

 

フウカが鬱ぎ込む理由を二人は聞かなかった。下手に言葉をかけてフウカに苦しい思いをさせないためだ。

しばらく安静にと言われた以上、フウカを戦闘に参加させるわけにはいかないと判断したシャミアとアロイスは残りの騎士たちだけでこの戦いを続行することになり、フウカは後方の陣営で待機することになった。

その後、アロイスとシャミアの主導で周辺の調査と敵軍の偵察、そして敵戦力の情報を行ったが驚くべき情報が騎士団の元に入ったのだ。

 

 

「なんと!それは本当か!?」

 

「はい、間違いありません。敵戦力はおよそ千二百!その大半はガスパール領内から集まった義勇兵のようです」

 

「予想以上に敵の戦力が多いな…」

 

 

当初、偵察した情報ではロナート卿の戦力は約五百ほどの兵しか確認されなかったが、まさかそれほどの民兵がガスパール軍に参加しているなど予想だにしなかったのだ。騎士団側が五百の小勢など瞬く間に鎮圧できると判断したことが裏目に出てしまったのだ。

 

 

「う~む…シャミア殿。如何しようか?」

 

「確かに戦力は大きいがほとんどが民兵だ、練度もこっちが大きく勝っている。戦況はまだこっちが有利だ」

 

「しかし、民兵が相手では…」

 

「こちらの士気に影響が出るのはやむを得ん、だがあいつらもその覚悟で戦に参加しているんだ。情けをかけるな」

 

「う、うむ…そうだな…」

 

「民兵を殺すのが嫌ならあんたも後方に下がるか?」

 

「…いや!教団に仇なす輩を見逃すわけにはいかん!私も戦うぞ!」

 

 

その後、騎士団側の方針は前方にいるガスパール軍を包囲する形で徐々に攻勢を仕掛ける作戦となった。何度か戦が発生したがシャミアの言うとおり練度で大きく勝る二千のセイロス騎士団が有利でガスパール軍が徐々に劣勢となっていった。初戦こそ不意打ちによる奇襲と予想以上の戦力に圧倒された騎士団だったが、やはり戦闘経験のない民兵を含めての戦闘は困難を極め、ロナート卿自らも奮戦したが戦況を押し返すことはできず、ガスパール軍は後退を開始したのだ。

 

そして、マグドレド森林にて両勢力の戦いが始まって二日経過した花冠の節の末日のこと。

戦場に緊急事態が発生した。

 

 

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・二日後 ガスパール領内 マグドレド森林

 

 

マグドレド森林での戦闘が始まって二日経ち、戦況は騎士団が優位になっていた。ガスパール軍の戦力は当初に比べると多く低下し士気も落ちている。戦慣れしていない民兵たちにも疲労が見え始め、このまま戦闘を続けていればガスパール軍を撃破することも容易だろう。予定よりも時間がかかった上に被害も少なくないが、これで無事にガスパール軍を鎮圧して任務は無事に完了となる。そんな時、病の影響で後方の陣営で待機していたフウカは陣幕で横になっていた。

 

 

(………)

 

 

すでに体調は万全であり指示があればいつでも出撃できる状態なのだが、フウカの気持ちを察したシャミアとアロイスはそのままフウカに待機を命じたのだ。

フウカは意識を取り戻したあの時からずっと悩み続けていた。

 

 

(…どうすればいいの?こんな気持ちになったのは初めてだよ…私は…私は…)

 

 

剣に生きると志した以上、相手の命を奪うのはやむを得ないことであり、もちろんその覚悟はある。しかし、数多の命を斬り捨てた先に何が見えるのか…罪なき者の命を奪って進んだ先にどんな未来があるのか…

 

 

(分からないよ…やっぱり私はただの人殺しなの…!?)

 

 

その時、外の陣営から何やら騒ぎが聞こえた。

気になって陣幕から外に出ると辺りが深い霧に包まれていた。霧の影響で視界は非常に悪くなっており先がほとんど見えなくなっている。しかしフウカは疑問に思った、昨日まで霧など発生しなかった上にこの地方での気温などから考えて突如、霧が発生するなどおかしいと感じたのだ。

 

 

「何故、急に霧が…?」

 

「分からない。だが、この視界では敵も我々も迂闊には動けないだろう」

 

「そうとは限りませんよ、逆にこの霧を利用して攻撃してくることも考えられます」

 

 

確かにこの辺りの地形を熟知しているガスパール軍ならばあり得る話でむしろこの霧を好機と考え、攻勢を仕掛けてくることも考えられる。もはや勝敗は目に見えているが、"窮鼠猫を噛む"という言葉の通り最後に必死の抵抗を見せるかもしれないのだ。

…しかし、それは直後に現実の物となった。

突如、陣営に伝令兵が慌てて駆け込んで来た。

 

 

「…て、敵襲っ!!敵軍に包囲を突破されました!後続部隊にも被害が出ています!」

 

「そんな…では、カトリーヌ殿が…!」

 

「はい!つい先ほど後続部隊が戦闘を開始しました。カトリーヌ殿とベレス殿が共に交戦しています」

 

「…え?先生も居られるのですか?」

 

そう、後続部隊を率いていたのは戦後処理を行うべく僅かな騎士と遅れて出撃したカトリーヌ率いる部隊だったのだ。そして、その部隊の中には大司教レアから特別任務を命じられたベレス率いる青獅子の学級の生徒たちも加わっていたのだ。予想外に事態でガスパール軍の撃破が遅れてしまったことで遅れてやって来た後続部隊も被害を受けていたのだ。

 

 

「後続部隊が危険です!私が救援に行きます!」

 

「し、しかし…フウカ殿…」

 

「…私なら大丈夫です!後をお願いします」

 

 

フウカは陣幕から刀を取り、後続部隊の跡を追った。

後続部隊がマグドレド森林に到着したのはつい先ほどだと報告があったことからこの陣営から距離はそう遠くないはずだ。先の見えぬ霧の中をフウカはただがむしゃらに走り続けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

フウカが陣営から出撃して数十分後、先から微かに聞こえる戦闘音を頼りに霧の中を進んでいた。すると驚くことに先ほどまで全体に発生していた霧が徐々に晴れ、周囲の様子が確認できるようになった。恐らくこの霧は敵軍の魔導師による撹乱だったのだろう。そして霧の晴れたその視界の先で戦が起こっていた。交戦していたのはカトリーヌとベレス率いる後続部隊とロナート卿が指揮するガスパール軍だった。

 

 

「我が息子を裏切った狂信者め!」

 

「アタシの名はカトリーヌだ、女神の僕たる」

セイロス騎士団の剣…その身で味わいな!」

 

 

なんとロナート卿とカトリーヌが戦っていた。特にロナート卿の怒りは凄まじく、他の者には目もくれずにカトリーヌに向かって疾走する。フウカと遭遇した時も激しい憎悪が感じられたが今の彼の怒りはそれ以上で、もはや彼の頭はカトリーヌを討ち取ることしか頭にないだろう。

 

 

「カトリーヌ殿!大丈夫ですかっ!!」

 

「フウカ…?なんでアンタがこんな所に」

 

「…話は後です!助太刀します!」

 

「ああ、助かるよ。アイツはアタシに任せな。アンタは先生やガキどもの援護を頼む」

 

「承知しました!」

 

 

そう言うとフウカはすぐ近くで同じく交戦していたベレスたちの支援を行うことになり、早速フウカは彼らに加勢する。ベレスの指揮で崩れずに戦ってはいるが、やはり敵軍が民兵だということに生徒たちは動揺していた。

 

 

「先生!!ご無事ですか?」

 

「フウカ?何故、君が…」

 

「それは後ほど…とにかく加勢致します!」

 

「ありがとう。助かる!」

 

「フウカの援軍とは頼もしいな。背中は任せるぞ」

 

「……心強い」

 

「フウカが居りゃ百人力だぜ!」

 

 

フウカの加勢にベレスやディミトリたちも奮い立つ。ガスパール軍の勢いに少し気押されていたベレスたちだったがフウカの参戦で流れが変わり始めた。しかし、それでも民兵たちとの戦闘は困難を極めていた。特にガスパール領出身でロナート卿の養子でもあるアッシュの心中は察するに余りあり、必死に民兵たちに向かって叫んでいた。

 

 

「みんな!!やめてくださいっ!!こんなこと…間違ってますっ!!」

 

「領主様のためなんだ…おらたちは負けられねぇんだ!」

 

「うおおお!領主様を死なせてたまるかああ!」

 

「…!アッシュ下がれ!」

 

 

襲われそうなアッシュをディミトリは肩を掴んで無理矢理引き寄せる。もはや自分たちが何を言ってもこの者たちに言葉は届かない、死ぬまで戦うことを止めないだろう…どうすることもできないのだと。

 

 

「…許せ」

 

「うおおおっ!!」

 

「はあっ!!」

 

 

ディミトリは襲いかかる民兵に向かって躊躇い無く攻撃を仕掛けた。戦闘経験の無い民兵の攻撃などディミトリにとって回避することは容易であり、攻撃をかわしてすぐさま敵兵に反撃の一撃を繰り出した。

 

 

「ぐああっ!?ろ、ロナート…様…どうか、生き延びて…」

 

「…くっ!…すまない…こんなことが、許されてたまるものか…!」

 

 

他の生徒たちも躊躇いながらもなんとか民兵を撃破していくが、生徒全員が苦悶の表情を浮かべている。

 

 

「うおおお、死ねぇ!!」

 

「きゃっ!?こ、来ないで…!」

 

「危ない!…っく!せいやぁ!」

 

「ぎゃあああ!!」

 

 

驚いて思わず目を瞑って無防備になっていたアネットをフウカが間一髪守り、襲って来た民兵を瞬時に斬り捨てる。転倒してしまったアネットに手を伸ばし、お互いに体勢を整える。

 

 

「ふ、フウカさん…ありがとう…」

 

「平気ですか?無理はしないでくださいね」

 

「すみません…でも、あたし…」

 

「………」

 

 

民兵を攻撃してしまったことがよほど堪えているのか、アネットの手が震えていた。無理もないだろう、実戦での経験も少ない上に相手が民兵であっては精神的な衝撃は計り知れないはずだ。

そんなアネットにフウカは笑顔で答えた。

 

 

「私に任せてください。私が少しでも多く倒します」

 

「えっ!?で、でも…フウカさん」

 

「アネット殿や皆様にこれ以上苦しい思いをさせたくありませんから。ここは私が…!」

 

 

そう言うとフウカは刀を構え、民兵へと向かって行った。しかしアネットは気づいていた。フウカの手も自分と同じように震えていたことに…

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「貴様だけは…貴様だけはこのわしが…!」

 

「アンタは正義をすっかり見失っちまったんだな。せめてアタシの手で送ってやるよ。主の御許へね……!」

 

 

一方、こちらではロナート卿とカトリーヌの一騎討ちが繰り広げられていた。両者ともに一歩も譲らぬ激闘が続き、激しい剣撃と火花が飛び交っている。さすが歴戦の将軍だけあってロナート卿はあのカトリーヌにも劣らぬ強さを見せつけていた。彼の強さを引き出しているのはカトリーヌに対しての強い殺意と憎悪だ。

 

 

「カサンドラっ!息子の無念を思い知るがいい!!」

 

「…もうアンタにかける言葉はない。悔い改めな!」

 

 

しかし、カトリーヌも負けておらずむしろ逆にロナート卿を押していた。激しい連撃を得意とするカトリーヌの剣技にロナート卿は徐々に押され始めた。そして、勝負の決め手になったのは疲労だ。いかに勇将であってもすでに老齢であることが影響し激しい動きに徐々に身体が追い付かなくなっていたのだ。

 

 

「…っく!!おのれ…おのれっ!」

 

「…終わりだ!おらぁ!!」

 

 

カトリーヌはロナート卿の一撃を見切ると雷霆で彼の槍を狙って強烈な一撃を放った。そう狙いは武器破壊で、それは見事に成功した。雷霆の凄まじい斬撃にロナート卿の槍は耐えられず粉々に砕け散ってしまった。隙だらけになった所にカトリーヌはすかさず雷霆の一撃を繰り出した。

 

 

「ぐあああっ!!…あ、あの女狐め……クリストフ…父を…許せ…」

 

 

その言葉を最後にロナート卿は力が抜けるように落馬し、事切れた。カトリーヌは無言で雷霆の血のりを払う。

 

 

「ロナート卿との因縁がこんな形で決着が着くとはな…」

 

 

その後、ロナート卿を失ったガスパール軍だが誰一人降伏する者はおらず、残った敗残兵は騎士団によって一人残らず討ち取られガスパール軍は全滅したのだ。

こうしてロナート卿による叛乱は鎮圧されたのだった。




ちょっと遅いですが、明けましておめでとうございます!不定期更新になりますが、頑張って続けます!
今回は書くのかなり手こずりました…
気分直しに支援会話とかおまけが書きたいです!
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