ファイアーエムブレム風花雪月 異国のサムライ 作:戦国のえいりあん
女神再誕の儀の話です。
騎士団側の話なので原作とは違って今回は戦闘はありません。
○青海の節
月日は流れ、時は青海の節。
ガスパール領主・ロナート卿の叛乱を阻止したセイロス騎士団はその後、戦後処理を済ませるとガルグ=マク大修道院に帰還したが、同時に目を疑う情報を持ち帰っていた。
"大司教レア"の暗殺…
それはロナート卿が所持していた書簡に記されていた情報で信憑性も疑わしく差出人も不明という証拠不十分な書簡ではあるが、真意がどうであってもこのような重大な情報を捨て置くわけにはいかず、その情報は直ぐにレアやセテスの耳に入り、セイロス騎士団を初め生徒たちは驚愕することとなった。
・ガルグ=マク大修道院 枢機卿の間
「レアの暗殺を企てる輩がいるとは、なんとも許し難い…」
「大司教暗殺など許せん!!必ずや阻止するぞ!」
直ちにセイロス騎士団の主将たちが召集され今後の対策を協議していた。書簡によれば青海の節に行われる"女神再誕の儀"という儀式の日に大司教であるレアを暗殺すると記されていたのだ。この儀式はガルグ=マク大修道院でも重要な行事の一つでその名の通り、人々に数々の恩恵を施した天上の女神に感謝しそれを祀るのだ。それは大修道院の"女神の塔"で行われるのだがその際、塔に入るのは大司教であるレアとセテス、フレンの三人だけで他の者は入ることを禁じれていた。
「現実性の薄い計画だが、仮に実行するとなれば恐らく狙われるのは私達が女神の塔に入る時だ」
「確かに、私が暗殺者ならその瞬間を狙うな」
「とにかく、用心するに越したことはない。儀式当日は警戒を特に厳重にするつもりだ。大司教の指示で生徒たちにも警備に協力してもらう。諸君らも気を引き締めて事に当たってもらいたい」
「ああ」
「承知いたした!!」
「分かったよ」
「………」
「む?フウカ?」
誰もが声を上げる中、一人だけ声を発しない者がいた。思わずその場にいた一同の顔が同じ方向に向く。その人物はフウカであり浮かない表情で下を向いたままだ。隣に座っていたカトリーヌが軽く肘でフウカを小突いた。
「おい、フウカ、アンタ聞いてるのかよ?」
「…え?あ…す、すみません…」
「まったく、こんな時に何やってんだ…しっかりしなよ」
「も、申し訳ありません。少し寝不足で…あはは…」
「………」
その後、さっそく儀式の日に向けて護衛作戦が計画されセテスを主導に騎士団が次々と配置されることになった。特に危険だと思われる女神の塔周辺には大規模な部隊が配置され、当日はさらに大修道院内の警備が強化される予定だ。ちなみにフウカが配置されたのは女神の塔の入り口付近であり、カトリーヌも同じくその場所に配置される手筈になっていた。
かつて無いほどの厳戒体制が敷かれ日々騎士団が慌ただしく大修道院内を行き来しており、生徒たちも戸惑いと不安を隠せなかった。それほどまでに大司教であるレアの暗殺を聖教会は恐れていたのだ。
◯青海の節 中旬
大司教暗殺の情報をセイロス聖教会が手にして半月ほどが過ぎた時。大修道院内の警備が厳重になる中、騎士団は新たな行動を起こしていた。
黒幕の解明…つまりこの暗殺計画はいったい誰によって描かれたものなのか?騎士団の主将たちは警戒する一方でこれらの黒幕の捜索を開始していた。
「さて…問題は誰がレアさんの暗殺を狙ったのかだ」
「ロナート卿があの書簡を持っていたとなると…黒幕はロナート卿と繋がってる可能性が高いね」
「しかし、腑に落ちんな。あれほどの情報を容易く敵に渡すとは考えられん」
「その黒幕から書簡を受け取った直後だったんじゃないのか?多分、ソイツがロナート卿を唆したんだろ」
集合して話していたのはカトリーヌ、シャミア、フウカの三人で今回もフウカの部屋で情報を整理していたのだ。いつからかこの三人はよく集合しお互いに情報を交換するようになっていたのだ。しかし今回の事件は難航しており、手がかりはほとんど無い。
今、分かっているのは書簡を持っていたロナート卿は何者かと繋がっているのでは?と予想するぐらいだ。
「そもそも、あの書簡も怪しい。…ひょっとしたらわざと騎士団に奪わせる為に持っていたんじゃないか?」
「でも、そんなことして何の意味があるんだ?はあ、理解できないねぇ…」
なあ、アンタはどう思う?とカトリーヌが隣のフウカに尋ねる。しかしフウカは何も答えない。半月前からずっとこんな調子であり相変わらず浮かない表情で黙り込んだままだった。
「………」
「おい、フウカ!」
「は、はい…!な、何ですか?」
「ちゃんと聞いてるのか?さっきから何も喋ってないじゃないか」
「…す、すみません…」
明らかフウカの様子が変だった。
そんなフウカの心境を察したシャミアは突如、話を打ち切りこの場をお開きにしようとする。
「…今日はここまでにしよう。とにかく新たな情報が必要だ、二人ともまた後日に話そう」
「そうだね、今日はお開きだな」
「あ…で、でも…」
慌てるフウカに対して、シャミアがそっと近づきひっそりと声をかけた。
「考えすぎるな」
「……え?」
「あの義勇兵たちは自分の意思で戦っていた。君は悪くない」
「………」
フウカが悩む理由が最初から分かっていたのか、そう言ってシャミアはフウカの部屋から去って行った。しかし、カトリーヌは部屋から出ずにフウカの隣に座ったままだ。そんな黙り込んだフウカにカトリーヌは遠慮なく声をかけた。
「あはは、いつぞやとは逆になったね」
「………」
「なあ、アンタいったいどうしたんだ?」
これまでただの寝不足だとはぐらかされていたが、どう見ても寝不足などではない。カトリーヌが思うにフウカの様子が変になったのはロナート卿を討伐して大修道院に帰還した時からだ。
いつも明るい彼女がこんな表情をするなど余程の悩みを抱えているのだと、カトリーヌは思った。
「アタシでよければ話を聞くぞ?」
「カトリーヌ殿……」
「遠慮するな、吐き出しちまえば楽になる事もある」
口にするか悩んだが、フウカは意を決して口を開いた。これまで誰にも話せず一人で抱えていた自身の大きな悩みを吐き出した。
「カトリーヌ殿…私は…殺人鬼なのでしょうか?」
「…はあ?」
「私は…血も涙もない、ただの人殺しなのでしょうか?」
「………」
「分からないのです…これまで己の信念を信ずるままに剣を振り、強き意思を持ち数多の強者を打ち破りさえすればいつか分かると思っていました…」
その姿は剣豪フウカではなく、一人の少女として悩む姿だった。あの強者であるフウカが手を震えさせながら苦悩を打ち明け続ける。
「あの戦で私はたくさんの民兵を斬りました…罪もない人たちを何人も…そんな人殺しが斬り開いた道の先にどんな未来があるのでしょう…」
「………」
「あの日以来、あの光景が頭から離れません…夢の中でも聞こえるのです…彼らの断末魔が」
あれからフウカは寝る度に悪夢に悩まされ毎晩うなされているそうなのだ。夢はあの時の戦場に立つ夢で迫り来る民兵たちを次々と斬る瞬間だ。そして斬り捨てる度に何度も繰り返される罵詈雑言と断末魔…フウカに斬られる者すべてが憎悪に満ちた目で叫ぶのだ。
人殺し、殺人鬼、血も涙も無い悪魔と…
「カトリーヌ殿…教えてください…私は…私は…」
「何を悩んでたと思えばそんなことか」
「…え?そ、そんな…こと…?」
苦しむほど必死に悩んでいるのに…信頼していた友人から発せられた言葉は"そんなこと"…自分の悩みをくだらないと言われた気がして、フウカは一瞬、殺気を込めてカトリーヌを睨み付けた。
「そんなこと…ですか…そうですよね…カトリーヌ殿にとっては所詮他人事…そういうことなのですね…」
「…そうじゃない、アンタは大切なことを見失ってるよ。少し頭を冷やしな」
「…私が何を見失っていると言うのですかっ!!カトリーヌ殿に私の気持ちなんて分からないですよ!!」
普段、穏やかな彼女が珍しく怒号を放つ。思わず感情的になってしまうほどにフウカは思い悩んでいるのだ。だがカトリーヌは気にせずに話し続ける。
「見失っているさ。じゃあ言わせてもらうが、アンタは何の為に剣を振るんだ?」
「…そ、そんなの決まっています!私は父上にも負けない強い剣士に…サムライになるためです!」
「…だったら、斬り捨てた相手のことなんて考えるな。相手が誰であっても倒してただ進む…アンタが目指しているのはそんな道だ」
「……あ」
頭では分かっているがそれを受け入れられない自分がいる…思えばその言葉は父にも言われてた言葉だ。何の為に自分は剣士として剣を振るのか、何を目指して進むのか…いつの間にか自身の信念と目標さえも見失ってなっていたことに気づいたのだ。
「相手のことなんて考えるだけ無駄さ、戦いってのは殺し合いだ。そんなことでいちいち悩んでたら身体が持たなくなるよ」
「………」
「最初の頃のアンタの剣には迷いが無かった。目標に向かって真っ直ぐ突き進むアンタの姿は羨ましいとも思ったよ。でも今のアンタは悩んでる、自分の信念と目標が正しいのか…進む道が間違ってるんじゃないかってね」
今まさに思い悩んでいることを言い当てられて、感情的になっていたフウカは落ち着くと再び黙り込む。
「どうだ、少しは目が覚めたか?」
「…はい。カトリーヌ殿…申し訳ありません…私、怖かったんです…私が相手を斬るのは、人を斬りたいからではありません…私より強い者を打ち破り、さらなる高みを目指したいだけなのです…自分は人を斬るのを好む殺人鬼だと認めたくなくて…」
「それでいいんだよ、自分が納得するまで悩めばいい。アンタはまだ若いんだ、しっかり考えて答えを見つけな」
「あ、あの…カトリーヌ殿にはあるのですか?自分の答えが」
「おっと、それを言っちまったらアンタのためにならない。そいつは自分で考えるんだ」
「…!そうですね、申し訳ありません、私が未熟でした」
「そうだ、しっかり悩みな。それがいつか必ず自分の成長に繋がるはずさ」
「カトリーヌ殿…ありがとうございます。私、少し楽になりました」
「あはは、そりゃ何よりだ。そう言えばアンタ最近、ろくに飯を食ってなかっただろ。付いてきな奢ってやるよ」
「ほ、本当ですかっ!?ありがとうございます!実は安心したらお腹が空いたんです。よーし!今日は倒れるまで食べますよ!」
「…奢るのは三人前までだからな」
「えっ!?そ、そんなあ…」
「当たり前だ。アタシの財布を空にする気か?」
カトリーヌの言葉で何かが吹っ切れたのか、先ほどまでの暗い表情は消え去りいつもの明るい彼女に戻っていた。その後、調子を取り戻したフウカは騎士団の捜査と警備に協力することになった。
ちなみに相当空腹だったのか、あの後フウカは食堂で約六人分の食事を容易く平らげたそうで、そんな彼女を見たカトリーヌは苦笑いしていたそうだ。
◯青海の節 儀式当日
時が過ぎ、儀式が行われる末日。
情報によれば今日この日に大司教レアを暗殺するべく何者かが刺客を送り込む手筈になっているそうだ。大修道院内には厳重な警戒体勢が敷かれ、多くの騎士たちが修道院内を忙しく歩き回っている。そんな中、女神の塔の前には儀式を行うために塔に入ろうとするレア、セテス、フレンの姿があった。
・ガルグ=マク大修道院 女神の塔の入り口
「では、塔の警備は任せましたよ。カトリーヌ、フウカ」
「はい、塔には誰一人近づかせません」
「塔の守りは私達にお任せを」
「二人とも頼んだぞ。これだけの厳重体勢だ、刺客など潜入できるはずが無いと思うが警戒を怠らないでくれ」
「お兄さま、フウカさんとカトリーヌさんならきっと大丈夫ですわ」
そう言うと、三人は女神の塔の中に入っていた。カトリーヌとフウカは予定通り、女神の塔の入り口周辺を警備することになり、二人は騎士たちと共に塔に繋がる門の前に立っていた。
「しかし…本当に刺客など現れるのでしょうか?」
「さあね、塔周辺は特に厳重に守りを固めてある上にアタシらもいる。少なくとも見つからずに塔に入るのはまず無理だ」
「では…」
「ああ、よほどの命知らずじゃない限りここに入り込もうとする奴はいないだろ」
これだけの警備を掻い潜って塔に侵入するのは凄腕の暗殺者でもかなり困難で、これで大司教を暗殺するのはほぼ不可能に近い。その言葉通り、書簡に記してあった期限はとうに過ぎ、儀式もそろそろ終わりの時間を迎えようとしている。恐らくこの厳重体勢に刺客は暗殺を断念したのかもしれないと騎士団は考え始めた。しかし、腑に落ちない何かを感じたフウカはふとカトリーヌに尋ねた。
「あの…騎士団のほとんどは女神の塔周辺を警備しているのでしたね?」
「ああ、レア様の安全が第一だしな」
「では、他の場所は手薄になっているのでは?」
「それなら心配いらない、実は今回の警備には生徒たちにも協力してもらってる。先生の学級や他の学級の生徒には手薄な所を固めるように言ってある」
「しかし、やはり妙ですね。暗殺の情報がこちらに漏れた時点でこうなるのは目に見えていました。…もしや、敵には他に何か目的があるのでは?」
「…あり得ない話じゃないな。暗殺の予定時間はとうに過ぎてるし、そもそもあの書簡をロナート郷が処理せずに持っていたのも怪しい」
そんな時、二人の元に一人の騎士が慌てた様子でやって来た。
「カトリーヌ様!フウカ殿!い、一大事です!」
「あん?どうかしたのか?」
「大修道院地下の聖廟に敵襲!数は不明です!」
「何!?」
「なるほど、敵の本当の狙いは地下の聖廟でしたか…」
やはりあの書簡は騎士団の注意を警備に向けさせるために仕組まれた偽装だったのだ。敵が侵入したとされる聖廟には教団にとって最も重要と言える貴重な物が隠されているそうなのだ。恐らく敵の狙いはその貴重な何かに違いない。
「やられたね…お前らすぐに聖廟に向かうぞ!」
「はい!参りましょう」
「先ほどの報告によれば現在、聖廟周辺を警備していたベレス殿の学級が侵入者と交戦しているとのこと!」
「え?先生と皆さんが…?」
「…そう言えば、アイツら敵の本当の狙いを探るとか言いながら修道院内を歩き回ってたな」
ベレスたちの青獅子の学級は以前から大司教暗殺が偽装であることを見抜いていたらしく、敵が狙いそうな場所や目的などを推測して独自に対策を考えていたそうだ。
そこまで考えていたとはベレスによって導かれた青獅子の学級の生徒たちは想像以上に優秀な生徒が多いのだと、フウカは改めて感心していた。
「さすがは先生と皆さんですね」
「大したガキ共だ…よし、すぐに向かうぞ!」
その後、塔の警備を他の騎士に任せるとカトリーヌとフウカは数十人の騎士たちと共に地下の聖廟へと急いだ。
・ガルグ=マク大修道院 地下聖廟
敵が侵入したとの報告を受けて二人は騎士たちを率いて大急ぎで地下聖廟へと駆けつけたのだが、そこには以外な光景が広がっていた。
「侵入者はここかっ!…って、あれ?だいたい片づいてんな」
「驚きました…まさかこれを先生と皆さんが?」
なんと侵入した敵兵のほとんどはベレスたち青獅子の学級によって撃退されており、聖廟はほとんど荒らされずに被害は軽微だった。その中に負傷しただけで、まだ生きている敵兵も少なからず存在していた。
「お前ら!生き残ってる侵入者どもを残らずふん縛れ!」
「ははっ!」
「…先生?あれはいったい…」
フウカの視線の先に大きな棺のような物が見え、その前にベレスが立っていた。赤い光を放つ奇妙な形状をした剣のような物を持って。
「先生、やったな!ん?先生…その剣は?」
「…自分にも分からない。いったい何だろう?」
「で、でも…!さっき炎を斬ってましたよね?ひょっとして敵の狙いはその剣だったんじゃないですか?」
ベレスが持っていた剣にディミトリたちも興味津々で珍しそうな目でその剣を見ていた。聞けばその剣は元々棺の中に封印されていた物だったらしく、敵に奪われそうなところをベレスが取り返したのだ。その後、ベレスたちの活躍によって侵入者は見事に撃退され事なきを得たのであった。後に聞いた話によればあの奇妙な形状の剣は"天帝の剣"と呼ばれる物で、あの英雄の遺産と同じ強力な力を秘めている神器なのだそうだ。天帝の剣はその遺産の中でも特に強い力を持っており、その力ゆえに大修道院の地下聖廟に封印されていたのだ。
さらにその剣は選ばれた者にしか扱うことができない代物だったらしいのだが、それをベレスは見事に使いこなしたのだ。それを聞いた大司教レアを初め、教団の多くの者が驚愕することになった。
そして捕縛した敵の捕虜に問い詰めたところ、この一連の陰謀に西方教会が大きく関わっているという真実が発覚し、騎士団は直ちに西方教会を討伐するべく行動を開始したのだった。
実は、またおまけを書いてみたいと思ってます!どこかの本編で入れるつもりなのでお楽しみに!