ファイアーエムブレム風花雪月 異国のサムライ   作:戦国のえいりあん

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お待たせしました!
この休日を使って一気に書きました!
今回は原作沿いのストーリーです!
後、おまけも入ってますよ~!
是非、読んでみてください!!


第十章 ゴーティエ家督争乱

○翠雨の節

 

青海の節が過ぎ、今は翠雨の節。

前節"大司教暗殺事件"という重大な出来事が起こり大修道院は大変な騒ぎに陥ったが、セイロス騎士団と生徒たちの活躍により暗殺事件は未然に防がれ、さらにこの事件の首謀者も特定することができたのだ。

 

ロナート卿の反乱を扇動し今回の暗殺事件を画策していたのは西方教会だと言うことが捕らえた捕虜の証言から判明したのだ。大司教レアは大修道院にいた西方教会の関係する者をすべて処刑し、西方教会を根絶やしにするべくセイロス騎士団を派遣したのだ。

西方教会の勢力はそれほど大きな規模ではないが決して侮れない戦力で、今回の討伐軍にはセイロス騎士団の主力部隊を総動員して行われる大規模な軍事作戦となった。

 

セイロス騎士団の主力が大修道院から出陣し不在であるこの時、ファーガス神聖王国にてある事件が起きようとしていた。

 

 

・ガルグ=マク大修道院 謁見の間

 

 

「レア様、お呼びですか?」

 

「よく来てくれましたね。ベレス、あなたに依頼したいことがあります」

 

「依頼ですか?」

 

「生徒たちと共に王国領に赴き、ある賊を征討してもらいたいのです」

 

 

謁見の間に呼び出されたベレスにレアが依頼したのは、ファーガス神聖王国で暴れているとある賊の討伐だった。しかし、その賊は今までのようなただの賊の一団とは少し違っていた。

側にいたセテスが詳しい事情を話し始める。

 

 

「彼らはファーガス貴族のゴーティエ家から英雄の遺産"破裂の槍"を盗み出した。頭目の名はマイクラン…廃嫡されたゴーティエ家の子息だそうだ」

 

「…ゴーティエ家?まさかシルヴァンの…なぜ廃嫡されたのですか?」

 

「紋章を持たないためと聞いている。王国では特別珍しい話ではない」

 

 

ゴーティエと聞いてベレスが思わず反応する。

そう自身の生徒であるシルヴァンの実家の名であったからだ。彼にはマイクランという兄がいるという話を何度か聞かされたことがあったが、今回の討伐する賊はシルヴァンの親族ということになるのだ。

 

 

「紋章なき者に女神の力は振るえませんが、武器を振るうことならば可能です」

 

「英雄の遺産は人の手に余る強力な武器だ。相応の戦力を持って望まなければならない。しかし、騎士団の主力は西方教会の背信者どもを粛清するべく大修道院を離れている」

 

「…つまり」

 

「そうだ。英雄の遺産に対抗しうる武器…"天帝の剣"を扱える君が適任だと考えた」

 

 

今回の敵は英雄の遺産という強力な武器を所持しており、勢力は小規模であっても油断ならぬ相手なのだ。そこで騎士団の主力が不在の今、同じく英雄の遺産を扱えるベレスとその生徒たちであれば十分に対抗できると判断したのだ。

 

 

「天帝の剣を扱えるあなたならば、心配は無用と思いますが…生徒たちに危害が及ばぬよう、大修道院きっての手練れを同行させましょう」

 

「大修道院きっての手練れ?」

 

「フウカ、入ってくれ」

 

「…え?」

 

 

セテスの合図と共に謁見の間に入って来たのはなんとフウカだった。フウカはベレスの隣に立ちレアとセテスに一礼すると、笑顔でベレスに話しかけた。

 

 

「ふふ、大修道院きっての手練れ、フウカ=ミヤモト参上致しました。先生、此度はよろしくお願いしますね」

 

「フウカ?なぜ君が大修道院に…?騎士団と共に西方教会の討伐に行ったのでは?」

 

「…フウカには万が一時に備えて大修道院に残ってもらったのだ。フウカと強力して賊を征討してくれ」

 

「分かりました」

 

「承知致しました!」

 

「…改めて言っておくが、その剣を持つに相応しい振る舞いを心掛けてくれ。以上だ」

 

 

未だにベレスを信用していないのかセテスは釘を刺すようにベレスに言った。その後、謁見の間を後にしたベレスとフウカは話しながら大修道院内を歩いていた。

 

 

「フウカがいれば心強い。頼りにさせてもらう」

 

「はい!そういえば…皆様と共に行軍するのは初めてですね。足を引っ張らぬよう奮闘します!」

 

「ああ、こちらこそよろしく」

 

 

そんな時、歩いている二人の前に現れたのはディミトリだった。今回の任務を聞いたのか何か浮かない表情をしていた。

 

 

「先生、今しがた、今節の課題を聞いた。王国領内での賊討伐か…すまないな、迷惑をかけて…これは王国の問題だというのに」

 

「気にしなくていい」

 

「そう言ってもらえると、気が楽になる。ありがとう先生」

 

「ディミトリ殿、此度の任務、私も微力ながらお力添えします」

 

「フウカ?なぜお前が…とにかく理由はどうであれ頼もしい援軍だ。よろしく頼む」

 

 

三人が話していると、新たにもう一人別の人物が姿を現し、気さくに声をかけた。その人物の顔を見たディミトリは驚いていた。

 

 

「殿下、殿下ではありませんか。いや、ご無沙汰しております」

 

「…!?お前…ロドリグか!久しいな…二年ぶりになるか?」

 

「ええ、二年の間に見違えるほど大きくなられましたな、殿下」

 

 

面識のないベレスとフウカが思わずディミトリに尋ねる。彼の話によればこの男の名はロドリグと言い、王国領であるフラルダリウス領を治める領主で、フェリクスの実父でもあるのだ。ディミトリの父とは親友の間柄だったそうだ。父を亡くしたディミトリに対して本当の家族のように接して世話をした過去から彼からも強く慕われていた。

 

 

「おや?確かあなたはベレス殿でしたね。あなたのことは倅のフェリクスからも聞いておりますよ。そして、あなたのことも…」

 

「…え?」

 

 

ロドリグはフウカを見つめるとからからと笑いながら話し始める。

 

 

「フウカ殿ですな、あなたの武勇は王国領にも轟いていますよ。セイロス騎士団の"二刀流の剣豪"とね」

 

「そ、そんな…私などまだまだ未熟者、私ごときには過ぎたる名です」

 

「はは、"義に厚く、謙虚な人柄"ってのも本当みたいですな、倅もあなたを超えようと必死に鍛練を積んでいますよ」

 

 

聞けばフェリクスはフウカに勝つため黙々と必死に鍛練を励んでいることがロドリグの口から明かされた。ちなみに会話の最後にロドリグから"このことはくれぐれも倅にはご内密に…"とこっそり口止めを頼まれた。

 

 

「…ロドリグ、お前が大修道院を訪れたのは、やはり例の賊絡みか…?」

 

「ええ、もはやこの件はゴーティエ家だけの問題ではありません。奴らは我がフラルダリウス領に根城を構えて、村々で略奪を繰り返している」

 

「…一刻も早く、阻止しなければ」

 

「我々も強力は惜しみません。お三方、よろしくお願いしますよ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ベレスが任務を受けて数日後、ロドリグ率いるフラルダリウス軍の偵察により賊の正確な情報が大修道院に知らされた。報告によればフラルダリウス領内の北方にある廃塔・コナン塔を根城に近隣の村や町を荒らしているそうだ。特に頭目であるマイクランは英雄の遺産を手にしている影響か、凄まじい力を持っており追撃したフラルダリウス軍の兵士が何人も討ち取られたとの報告もあった。敵軍の勢力はおよそ二百で士気も高く、予想通り一筋縄ではいかない相手であることが考えられた。

 

 

 

・数日後 フラルダリウス領内 コナン塔周辺

 

 

「先生、そろそろ見えてくる頃合いだ」

 

「…見えた。あれがそうだね」

 

「賊が根城にしている廃塔…名はコナン塔だったな」

 

「ロドリグ殿からお聞きしましたが、あの塔は北方の異民族から防衛とその監視のために建てられたものだと聞きました。おそらく…堅固である可能性が高いですね」

 

 

フウカが聞いた話では、数百年前までこの地は大きな戦が起こっていたそうで北方の異民族の侵攻が最も激しかった時期だった。その対策のために要となる拠点が必要と考えられ、あのコナン塔が築かれたという訳だ。

 

すでに廃塔になっているとは言え、拠点としてはまだまだ使える状態だ。さらに最悪なことに今日は天候が悪く、辺りは曇り空の影響で薄暗くなり雨が降り始めている。戦闘が長引けば拠点がある敵軍が有利なってしまう。

ベレスたちからすれば、ここは少しでも早く攻略したい状況だった。

 

 

「…なあ、先生。道中、近くの村落の様子を見たか?」

 

「…ああ」

 

「あの賊たちに襲われたのだろう、酷い有り様だった。あれでは冬は越せないだろう」

 

 

ディミトリの言う通り、道中で何ヵ所か村落を通過したのだが、通過したすべて村落が賊によって壊滅していたのだ。家は燃やされ、畑は荒らされ、女、子供であっても容赦なく殺されていた。

 

 

「もし、彼らが今日を生きる糧のために略奪を働いているなら俺は彼らを攻められない。だが…あれは違う。あれは己の快楽のための略奪だ。どんな理由があったとしても、あのような行いが許されてはならない、…決して」

 

 

ディミトリは拳を握りしめ静かに怒りを露にしている。彼だけでなくベレスや他の生徒たちも同じ思いだろう。そんな時、怒りもせずに淡々と言葉を発したのはシルヴァンだった。

 

 

「あんな野郎のために怒るなんて馬鹿馬鹿しいだけだ。労力の無駄ってもんですよ、殿下」

 

「シルヴァン…賊の頭目は廃嫡されたとはいえ、お前の兄なのだろう」

 

「…奴は、もうゴーティエの人間じゃない。ただの性質の悪い賊の頭目です」

 

「…本当に後悔はないんだな」

 

 

するとシルヴァンは呆れたような表情で半ば笑いながら言葉を返した。

 

 

「…後悔だって?はは…ほんと今更勘弁してくださいよ。それに…駄目な兄貴の尻を拭ってやるのは、弟の仕事ですから」

 

「シルヴァン殿…」

 

「…分かった。先生、そろそろ軍義を始めよう。この雨、きっと嵐が来る。急ぐぞ。」

 

「ああ、皆、作戦は…」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その後、軍義を終えたベレスたちは早速、賊の根城・コナン塔の攻略を開始した。ロドリグのフラルダリウス軍からの援助もあり、生徒一人一人に少数ながら精兵が貸し与えられ、ベレス率いる青獅子の学級の部隊はフラルダリウスの援軍も含めておよそ数百に加え、フウカ率いるセイロス騎士団の数百の部隊と合わせて合計約三百の部隊となった。

 

軍義で話し合った結果はこうで。偵察したところコナン塔は数千の兵士で防衛することを想定した建造物であることから、数百程度の盗賊だけでは塔すべての要所を守ることは不可能だとベレスは睨んだのだ。

ベレスの予想では恐らく敵は全ての戦力を塔の最上階に集結させて、全軍でこちらを迎え撃つ算段だと考えたのだ。

 

しかし少数であっても籠城している分やはり敵軍に利があり、こちらはただ正面から突入することしかできない上にどのような仕掛けや罠が存在するのかまったく検討がつかなかったのだ。

だが慎重に行軍しても持久戦に持ち込まれてはこちらが不利になってしまう…ならばここは一か八かこちらも全軍で突入し、一気に殲滅するという作戦で全員の意見が一致したのだ。時間が限られている今、どちらにしても前に向かって進軍する以外に選択肢がないのだから。

 

 

・フラルダリウス領内 コナン塔 最上階

 

 

「…風を感じます。ここが最上階ですね。皆様、警戒を」

 

「賊とは言え、相手には英雄の遺産がある。くれぐれも気を抜くなよ」

 

「皆、焦らず戦おう!…シルヴァン、無理はするな」

 

「…俺に遠慮は要りませんよ、先生。兄上の悪行も……今日、ここで終わりだ」

 

 

ベレスの読み通り、コナン塔は数階の層によって構成されていたが、抵抗らしい抵抗も受けずにベレスたちの軍は最上階まで進軍して来たのだ。

…しかし難なく進軍出来たのも最上階までで、ベレスたちは予想外の苦戦を強いられることになった。

 

 

「お頭!騎士団の奴らが来やした!」

 

「来やがったか…野郎ども!今だ!奴らに矢の雨を降らせてやれ!」

 

 

すると突如ベレスたちの上層から賊軍が姿を現し、弓による一斉射撃を行った。突然の襲撃にベレスたちは動揺し部隊に大きな被害が出始めた。

 

 

「…くっ!皆、伏せろ!」

 

「しまった!伏兵かっ!」

 

「殿下!俺の後ろに!」

 

「きゃあ!!?」

 

「…チッ!忌々しい奴らめ!」

 

 

アッシュ率いる弓兵部隊が必死に応戦するが、賊軍にはまったく当たらない。そうこちら側の攻撃が当たらないのはこの塔の構造が影響していた。このコナン塔は広大な四角い螺旋階段状の構造になっていた。その上層からは敵を攻撃し易く、そして守り易い。それに対して攻撃を受ける側は一方的攻撃を食らい、反撃も届かない。

なぜ頭目のマイクランがこの塔を根城にしたのか、ベレスは改めて理解していた。

 

 

「騎士団の皆様!盾を頭上に!防御陣展開してください」

 

 

そんな中、動揺せず冷静に判断していたのはフウカだった。不幸中の幸いかフウカが率いていたセイロス騎士団はアーマーナイト中心の重騎士部隊だったのだ。フウカと騎士団はベレスたちの部隊を守るように全面に立ち矢玉を防ぐ。盾を持たないフウカは飛んで来る矢玉を見切り次々と刀で切り落とす。熟練した技量を持つフウカだからこそ出来る芸当だった。

 

 

「先生!今のうちに隊を整えてください!矢玉は私たちが防ぎます!」

 

「フウカ、助かる!皆、急いで陣を整えるんだ!メルセデス!負傷兵の回復を頼む!」

 

「ええ、任せてちょうだい!みんな行くわよ」

 

 

メルセデスとフラルダリウス軍の神官部隊が負傷した兵士たちを回復の杖で治療する。思わぬ奇襲を受けたが、部隊はまだ戦闘継続が可能な状態だ。そんな時、ベレスの側に身を伏せながらディミトリが近寄る。

 

 

「先生、どうする?このままで被害が出るだけだ」

 

「この地形では攻撃は避けられない。となると…」

 

 

ベレスは改めて周りの地形を見渡す。

よく見ると、塔の道幅は横にかなり広く、中央の壁から離れればある程度は敵の矢玉の被害を抑えられると思いついたのだ。

ベレスは迷わず生徒たちに号令する。

 

 

「皆!このまま中央の壁から離れるんだ!側壁に沿って行軍する!」

 

 

号令と同時に部隊は中央の壁からゆっくりと距離を離しながら行軍を開始した。ベレスたちの部隊の動きに合わせてフウカ率いるセイロス騎士団も動く。

部隊が塔の側壁に到着した頃には上層からの矢玉は減り部隊への被害も多少ではあるが減っていた。

 

 

「出鼻を挫かれたな…さすがはコナン塔と言ったところか、攻め難い」

 

「賊軍の数がもう少し多ければ、被害はもっと大きかったね…」

 

「皆様!お怪我はありませんか!」

 

 

敵の矢玉が落ち着いたのか、攻撃を防いでいたフウカがベレスたちの前に現れる。幸いにもディミトリを始めとした生徒たちに怪我はなく、その部隊もできる限り損害を抑えることができていた。

 

 

「ありがとう。フウカ、君がいなければどうなっていたか…」

 

「いえ、皆様が無事でよかったです。…でも先生、これからどう攻めます?」

 

「…とは言っても、あの矢の雨じゃ危険だ」

 

「あの高さじゃ、僕の弓も届きません…どうすれば」

 

「身を隠す場所もありません。やはり、強行突破するしかありません!」

 

「……」

 

 

ベレスたちの先には大きな階段が見えた。構造から考えて、おそらくこの広い幅の通路と階段が四角い螺旋階段のようになっているのだろう。

このまま進軍してもじわじわと戦力を削られて、最上階にたどり着く頃には、甚大な被害を受けているはずだ。

さらに悪いことは連鎖するのか、ベレスたちを追い詰める新たな事態が発生した。

 

 

「…む?下の階から音が?まさか…後ろから敵が?」

 

 

音に気がついたのはフウカで、下の階から階段を駆け上がる音が聞こえてしたのだ。このままでは頭上だけでなく、正面と背後から攻撃されてベレスたちは全滅してしまうだろう。

 

 

「…やられたな。先生、この采配…ただの賊とは思えない」

 

「まさか、私たちはすでに謀られたのですか!?」

 

「ど、どうしよう…このままじゃ…!」

 

「…おい!どうする!このまま全滅を待つつもりなのか!」

 

 

シルヴァンの言うとおりただの性質の悪い賊と侮っていたが、まさか頭目のマイクランがここまで指揮に優れているとは予想していなかった。

絶対絶命の危機に陥ったベレスたちだったが、肝心のベレスは動揺せずにじっと策を思案していた。

 

 

「……」

 

「先生、何か手は無いのか!?」

 

「先生!どうすればいいんですかっ!」

 

「先生!!」

 

 

生徒たちが皆、ベレスの言葉を待っている。

そしてついに彼女の口が開き、部隊に指示を出す。

 

 

「皆、一か八かだが…この作戦に賭けよう。よく聞いて欲しい」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方、塔の最上階に陣取り、戦いを有利に進めているマイクランとその一味は騎士団を嘲笑っている。

挟撃作戦も成功し、騎士団は絶対絶命の状態であり、勝利は間近だと有頂天になっていた。

 

 

「騎士団ってのも大したことないですねぇ」

 

「ああ、あっけないもんだぜ。…まあ、仮にここまで来れても、"破裂の槍"を持った俺様に勝てるわけねぇよ」

 

「お頭の力と英雄の遺産がありゃ、俺たちは無敵だぜ!」

 

 

そんな時、下層から騎士団の合図が聞こえ、それと同時に賊に向かって大量の矢玉と魔法攻撃の嵐が飛んで来た。

しかし、高低差と下層から攻撃が届き難い地形に攻撃こちらにはまったく当たらない。

 

 

「ぎゃはは!当たるわけねぇだろ!てめぇらやっちまえ!」

 

「なんだ?絶望して特攻してくんのか?敵の大将もとんだ間抜けだぜ!」

 

 

お返しと言わんばかりに盗賊たちは下層にいる騎士団に再び矢の雨を降らせる。しかし、優位に立って慢心していたのか、マイクランたちはこの時、重大なことを見落としていた。

 

その頃、下層にいたベレス率いる部隊と騎士団は身動きが取れずに釘付けにされていた。フウカとセイロス騎士団の防御陣形により何とか持ちこたえているが、確実に少しずつ被害が出ている。その時、背後を強襲しようとさらに下の階から上がって来た賊の援軍が姿を現した。

 

 

「行くぞ!お前ら!敵の背後を突いてやれ!」

 

「「おおっ!!」」

 

 

下の階から上がって来たのは、五十人ほどの賊で本来の戦場であればこの程度の数など騎士団にとって恐れるに足りない戦力なのだが、上部から攻撃を受けている時に横槍を入れられては少数であってもかなり効果的だ。

早速、五十人の賊たちは騎士団に攻撃を仕掛けようとするが…

 

 

「いくぞ…野郎どもつづ…ぐあぁ!?」

 

「な、何だ!?」

 

 

先頭を切って斬りかかろうとした賊が急に悲鳴を上げて倒れる。倒れたその先には二本の刀を持った人影が一つあった。

 

 

「…ここは通しません。通りたくば…私を倒して行ってもらいましょう」

 

「ひ、一人で何ができるってんだ!やっちまえ!」

 

「うおおっ!!」

 

「……参ります」

 

 

賊の前にたった一人で仁王立ちしていたのはフウカだった。相手は五十人ほどだが、これまで幾度となく集団戦を経験してきたフウカにとって手慣れたものであり次々と迫り来る賊を斬り捨てていく。

 

 

「…三十…三十一…」

 

「ぎゃあぁ!!?」

 

「ぐへぇっ!?」

 

 

表情一つ変えず一太刀で次々と斬り捨てて行くフウカの姿に賊たちは恐怖と動揺を隠しきれなかった。その姿はまるで殺人鬼、鬼そのものだった。

瞬く間に残っている賊はいつの間にか指で数えられる人数にまで減っていた。

 

 

「ち、畜生っ!!ば、化物め…」

 

「…逃げるのなら、追いません。どうします?」

 

「な、舐めんな!!うおおっ!!」

 

「…四十八」

 

「ぐああぁぁ!!!?」

 

 

フウカに斬りかかった賊は腹部を豪快に斬られ、上半身と下半身が斬り離された。フウカの前に残ったのは残り二人だが、二人は完全に恐怖で錯乱状態に陥り、逃げ出していった。

 

 

「ひぃっ!に、逃げろ!」

 

「こ、こんな化物に勝てるわけねぇ!」

 

 

その後、フウカは刀の血のりを払うと大急ぎで騎士団の元へと駆けて行った。

 

 

(先生!背後はもう大丈夫です!後はお任せします!)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その頃、マイクランと盗賊たちは休むことなく下層にいる騎士団に攻撃を続けていた。重騎士により防御を固められているが、確実に敵の戦力を削っている。このままいけば勝利は目前だった。

しかし、この時マイクランは何か違和感を感じていた。

 

 

(おかしいぜ…背後に奇襲部隊を送ったのにまったく指揮が乱れねぇ……まさかっ!?)

 

「ぐあっっ!?な、何で…」

 

「なっ!?」

 

 

その時、マイクランの隣にいた盗賊が吐血して倒れた。

倒れた盗賊の心臓にはある物が突き刺さっていた。そうまるで骨のような形状をし、さらに鞭のようにしなる剣先が。その剣先は持ち主の合図で瞬く間に元の形状へと戻る。マイクランの視線の先にいたのはなんとベレスたちだった。

 

 

「…貴様がマイクランだな。覚悟してもらうぞ」

 

「てめぇら…どうやってここに…」

 

「こちらにも英雄の遺産があることを忘れていたな。お前の敗けだ、マイクラン」

 

 

ベレスが考えた一か八かの作戦が成功したのだ。

まず最初に対策を考えたのが背後からによる奇襲であり、この奇襲を何としても防ぐ必要があったのだ。しかし数百人の戦力しか持たない彼らが奇襲部隊にそれほど人員を回せる余裕はないだろうと読んだベレスは部隊の中で一騎当千の実力を持つフウカに無理を承知で単騎で背後の奇襲部隊の殲滅を頼んだのだ。

 

次に考えたのは上層からの敵の攻撃だ。これで背後から奇襲される危険は減ったが、今だに不利な状況であることに変わりはない。

そこでベレスが目をつけたのは優位に立っている賊の油断と自身が持つ"天帝の剣"の存在だった。

 

ベレスは弓兵部隊を率いるアッシュに加え、すべての部隊の采配を指揮に優れたアネットに任せ、ベレスたちと残りの生徒たち数人だけで正面から強行突破する作戦に出たのだ。

 

ベレスの読みは当たり、賊はアネットとアッシュのみが率いる下層の部隊ばかりに意識が集中し、こっそりと部隊を抜けるベレスたちに気が付かなかったのだ。

後は正面の敵を突破し頭目であるマイクランの元に突き進むだけだが、ベレスとディミトリと言った生徒たちのみで残った正面の賊を突破するのは困難に思われたが、ベレスの予想以上の力を持っていた天帝の剣の活躍で見事に突破することに成功したのだ。

 

この天帝の剣は、レアやセテスが言ったように強力な武器であることをベレスは改めて実感することになった。一振りすればまるで鞭のように剣線が伸び、多数の敵を凪ぎ払う…この奇妙な剣をベレスは持って間もないにも関わらずまるで手足のように使いこなしていた。

 

結果、ベレスの作戦は成功し、こうして賊とそのマイクランを追い詰めたのだ。下層の騎士団に集中し過ぎた影響と油断で今度は賊軍が不利な状況に陥る。

 

 

「先生は頭目を頼む!あの英雄の遺産である"破裂の槍"に対抗できるのはその"天帝の剣"だけだ!」

 

「分かった。自分に任せて!」

 

「周りの賊は俺達に任せてくれ!皆!いくぞ、先生を援護する!」

 

「……行くぞ」

 

「先生の邪魔はさせません!」

 

「…ふん、残らず斬り伏せる!」

 

 

ディミトリの号令でドゥドゥーやフェリクスたちが残った賊に斬りかかる。周りで激しい戦闘が繰り広げられる中、ベレスとマイクランは武器を構えて睨み合う。持っているのはお互いに戦況を覆すほどの力を持つ英雄の遺産だ。

 

 

「お前が奪った英雄の遺産を返してもらう」

 

「貴様も、俺から槍を奪おうってのか…殺してやる…全員、ぶっ殺してやる!」

 

「…先生、俺も加勢しますよ」

 

「…シルヴァン?」

 

 

ベレスの隣に武器を持って現れたのは、何とシルヴァンだった。マイクランは弟の姿を見ると、激しい憎悪と怒りを露にする。

 

 

「…何しに来やがった、紋章持ちの"お嬢さん"がよう…!」

 

「…破裂の槍を取り返しに来たんだよ。尻を拭かされる俺の気持ちにもなってくれ」

 

「…ふん、さっさ死ね!貴様さえ…貴様さえいなけりゃ…」

 

「その台詞は、もう聞き飽きたぜ。…そろそろ黙って貰おうか。兄上」

 

 

それと同時に戦闘が始まる。

先に行動したのはベレスで、天帝の剣で突きを放った。技を放つと同時に剣が変形し鞭のようにしなりながら剣先がマイクランに向けて猛スピードで飛んで行く。

 

 

「…くっ!?」

 

 

あまりの速さに驚いたが、マイクランはなんとか盾で防御する。少しでも遅れれば剣先はマイクランの頭部に直撃していただろう。

 

 

(…チッ!なんて威力だ…)

 

 

剣先なんとマイクランの持っていた分厚い鉄の盾を貫通していた。天帝の剣の一撃がどれほど強力なのかを物語っていた。

最初一撃を防がれたベレスはすかさず次の一撃を放つ。今度は横凪ぎの一撃だ。マイクランとしては回避したいところだが、自身がアーマーナイトであるにベレスの素早い攻撃を何度も回避することは難しい、相手の武器は盾を貫くほどの威力を持っている。となれば一気に近づいて勝負決めるしかなかった。

 

 

「しゃらくせぇ!」

 

 

何度かベレスの攻撃を防いだマイクランの盾はすでにボロボロになっており、もう防御はできないと判断したマイクランは盾を投げ捨てて破裂の槍を構えるとベレスに向かって疾走する。

 

 

「おらぁ!」

 

「くっ!?」

 

 

一気に距離を詰めたマイクランは槍による鋭い突きをベレスに放つ。ベレスほどではないにしろマイクランの持つ破裂の槍も英雄の遺産であり、もし当たればベレスと言えども無事では済まない。さらに剣と槍の性質の関係でベレスは不利であり、速さでは勝るが力ではやや劣っていた。何とかマイクランの攻撃を回避していたベレスだが一瞬の不覚を取り槍がベレスの右腕をかすってしまった。

 

 

(しまった!?)

 

「終わりだ!死ねぇ!」

 

 

止めを刺そうと槍を振りかぶるが突如、目の前に飛んで何かに咄嗟に気づいたマイクランは思わず身体を反らしながら後ろに後退する。

見ればマイクラン目掛けて飛んできたのは手槍だった。

 

 

「先生!大丈夫ですか!」

 

「シルヴァン、ありがとう!」

 

「この野郎…邪魔しやがって…!!」

 

 

危機に陥ったベレスを救ったのはシルヴァンだった。

攻撃目標を瞬く間にシルヴァンに変更したマイクランはすぐさまシルヴァンに攻撃を加える。しかし、マイクランの手の内を知り尽くしているシルヴァンは簡単に技を見切り、攻撃を受け止めると激しい鍔ぜり合いが発生する。

 

 

「ははっ!…ずっと前から貴様をぶっ殺してやりたかったんだ!」

 

「…奇遇だな、俺もだよ」

 

 

お互いに一歩も譲らず一進一退の攻防が続いたが、決着は付かずにお互い距離を離す。重装備で激しい動きをしていたことからマイクランは息切れを起こしており、動きが鈍くなっていた。ベレスも傷を負ったがかすり傷で戦闘に支障はなかった。再び睨み合うベレスとマイクランだったが突如、戦場に異変が起こった。

 

 

「へへっ…ガキの分際で、やるじゃあないか…」

 

 

すると突然、マイクランの持っていた破裂の槍が禍々しい光を放つと同時に槍から黒い形をした"何か"が溢れ始めた。その黒い何かはマイクランの腕から徐々に身体を飲み込んでいく。

 

 

「うわっ…!な、何だ!!?ぐ、ぐわあああー!!」

 

 

必死に振りほどこうとするがその何かは瞬く間にマイクランの身体を飲み込み、果てには完全に取り込んでしまった。そして、マイクランを取り込んだ"黒い何か"は少しずつ肥大化しおぞましい物へと変形していった。

 

 

「な、何だよ…何だよこれ…!」

 

「い、いったい何が…」

 

「う、うわああ!!?」

 

 

気がつけばその黒い何かは禍々しい外見をした異形の怪物となっていた。人間など容易く粉砕するであろう大きさの禍々しい形の腕、まるで鎧のような石の外殻で全身に身を包み、眩いほどに光る赤い目…

その姿はまさに本物の化物だった。

 

 

「ギィィアァァァ!!」

 

 

その凄まじい咆哮で搭内部に大きな地響きが広がる。

マイクランは異形の怪物、"黒き獣"へと姿を変え、かつての仲間だった賊たちを無差別に惨殺していく。

 

 

「あの怪物はいったい…」

 

「お、おい…冗談だろ…!?あの化け物が、兄上だってのか…!」

 

「これが、英雄の遺産の力なのか…?こんな禍々しい化け物が…」

 

 

その時ディミトリたちの背後に下層で敵の注意を引き付けていた後続の部隊がようやく追い付き、指揮を取っていたアネット、アッシュ、フウカもベレスたちに合流した。

 

 

「う、嘘…な、何なの?あの怪物は…」

 

「こ、これは…いったい何が…!」

 

「先生、お待たせしました。フウカ、これより加勢致します!」

 

 

あまりにも想定外な状況にベレスたちは動揺を隠せなかった。この正体不明の怪物を相手にどう戦うべきかベレスは懸命に思案していた。

その時、ベレスの影から謎の人影が飛び出した。

 

 

『…おぬし、そやつのような相手と戦うのは初めてじゃな?わしの話を心して聞け』

 

(…その声はソティス?)

 

 

ベレスの影から出てきたのはソティスという少女で、ベレスとは幼い頃から付き合いだ。不思議な力を秘めており、なぜかベレス以外にはその姿が認識できないのだ。彼女はこの怪物の対策方法を知っているのか、大急ぎでベレスに話す。

 

 

「…へぇ、なかなかすごい獲物がいますね。これは狩りがいがありそうです」

 

「お、おい!フウカ!」

 

「フウカさん!危ないですよ!下がってください!」

 

 

誰もが戸惑う中ただ一人、動揺するどころかさらに闘志を燃やし、より奮い立つ者がいた。ディミトリたちの静止も聞かずに怪物の目の前に堂々と姿を現したのはフウカだった。

フウカは構えを取り戦闘体勢に入る。これまでの構えとは少し違い、より攻撃的な上段構えを取っている。

 

 

「…いざ参ります!」

 

『ほほう…驚くどころか自ら向かって行くとは、なんとも豪気な小娘じゃのう。ほれ、おぬしも負けておられぬぞ!』

 

「…そうだね、皆!作戦が決まった。指示通りに動いてほしい!」

 

 

ソティスから巨獣の対策を聞いたベレスはディミトリたちに指示を出す。これほど巨大な獣が相手となれば少人数で撃破することは難しい…しかし、軍隊であれば話は変わってくる。そこでベレスは部隊を用いた戦術で連携しながら巨獣を討伐しようと考えたのだ。

 

 

「フウカ!できるだけ化け物の注意を引き付けてくれ!」

 

「はい!お任せを!」

 

「ディミトリとシルヴァンの部隊は化け物の右側面に部隊で攻撃、イングリッドとフェリクスは左側面から攻撃してくれ!」

 

「分かった!」

 

「分かりました!」

 

「お任せください!」

 

「ふん…やってやる」

 

 

ベレスの合図と共にそれぞれ部隊が動き始める。この戦いで重要なのはいかにして化け物の注意を一点に集中させられるかがカギとなる。

つまり黒き獣から狙われているフウカの働きが戦況を左右するのだ。化け物は狙いをフウカに定め巨大な足で彼女を叩き潰そうとする。

 

 

「グオォォォォン!」

 

 

「…ぐっ!!…でいやあぁぁぁ!!」

 

 

なんと、フウカは黒き獣の強烈な一撃を受け止めたのだ。ガギィィンと大きな鈍い音が響き渡るが、フウカの刀はヒビ一つできていない。並大抵の武器であればその威力に耐えられずそのまま下敷きになっていただろう。

その直後、フウカは負けじと両腕に力を込め化け物の足を無理矢理押し返す。

相変わらずあの細腕のどこにあんな力があるのかと、フウカを見ていたベレスたちは驚愕していた。

 

 

「隙だらけです…せいっ!せいやぁ!!」

 

 

押し返した後、すかさず近付きフウカは黒き獣の足に二刀流による激しい連続攻撃を繰り出す。足は瞬く間に無数の刀傷で埋め尽くされ、どす黒い血液が周りに激しく飛び散る。

 

 

「ギャアァァァ!!」

 

「今だ!一斉攻撃!」

 

 

フウカが黒き獣の注意を引き付けている間に、右側面と左側面に回り込んだディミトリたちは合図ど同時に部隊で陣形を組み、黒き獣に向かって突撃する。

 

 

「突撃だ!」

 

「今が好機だぜ!」

 

「これが私の覚悟の証!」

 

「俺に遅れるな!」

 

「グオォォォォー!!!」

 

 

右、そして左側面から同時に突撃を受けた黒き獣はあまりのダメージに体勢を崩しその場に倒れる。この好機を逃さんとベレスさらに追い討ちを仕掛ける。

 

 

「アネット!化け物の頭上から共鳴魔法攻撃を仕掛けるんだ!アッシュも一斉射撃で援護してくれ!ドゥドゥーはこの機を逃さず化け物の正面に突撃してくれ!」

 

 

「わ、分かりました!みんな準備いい?」

 

「そこだ!みんな!一斉射撃です!」

 

「分かった…俺に続け…!」

 

 

アネットの魔法部隊とアッシュの弓兵部隊による追い討ち攻撃に加え、ドゥドゥー率いる重騎士の突撃。黒き獣はかなりのダメージを受けているようで、動きが鈍くなっている。

 

 

「いいぞ!効いてる」

「この調子なら勝てます!」

 

「あと一息だ!皆!頑張れ!」

 

『安心するのはまだ早いぞ、その命に陰りが見えた時こそが厄介じゃぞ!』

 

 

ソティスの言った通り、あれだけの攻撃を受けてもまだ立ち上がろうとしている。黒き獣のでたらめな生命力にベレスたちは驚いていた。しかし確実に体力を奪っている。もう一息で決着が着くはずだ。

 

 

「グオォォォォン!!」

 

 

すると突如、黒き獣が上に向かって咆哮をあげた。それと同時に黒き獣の背中に生えている無数の棘が上空に放たれそれが雨のように降り注ぐ。その攻撃範囲はほぼ塔全体でこの攻撃によって多くの部隊に被害が出てしまった。

 

 

「ぐわっ!?」

 

「くっ!なんて奴だ!」

 

「ま、まだこれほどの力が…」

 

「…皆!大丈夫か!怪我はないか!」

 

「あ、ああ…大丈夫だ」

 

 

しかし、先ほどの攻撃で部隊だけでなく何人かの生徒が負傷してしまい甚大な被害を受けたのだ。とてもではないが、この戦力で黒き獣を討伐するのはかなり困難だろう。これ以上は戦っても被害が出るだけだと、ベレスの脳裏に撤退の選択が浮かぶが、それを断ち切った者がいた。

 

 

「先生!こうなれば一か八かです!その剣で奴の額を貫いてください!私が活路を開きます!」

 

「フウカ…!危険だ!」

 

「ふふ、お任せを!我が剣を信じてください!」

 

 

苦難に陥ってもフウカの闘志はまだ消えていない。フウカは再び刀を構え、黒き獣に向かって疾走する。黒き獣はフウカに向けて再び無数の棘を連射するが、フウカはそれを斬り落としながら止まらず疾走する。

それ見たベレスも覚悟を決め、その後に続いて駆け出した。

 

 

「我が渾身の一撃…受けてみよ!でいやぁぁぁ!!!」

 

 

フウカは黒き獣の足を踏み台にして高く飛び上がると、黒き獣の頭部に向けて身体を捻りながら両手を用いて強烈な斬落とし攻撃を放った。落下による勢いに加え、フウカの剛腕による凄まじいその一撃に黒き獣の頭部は轟音と共に地面に叩き付けられる。

 

 

「せ、先生!今が好機です!ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

先ほどの一撃で身体の活動時間が限界を迎えたのか、フウカは片膝を付いて、吐血していた。

黒き獣はフウカから受けた一撃によって完全に混乱していた。フウカが切り開いた好機を無駄にはしない!とベレスは天帝の剣を構える。

 

 

「これで終わりだ!はあぁぁ!!」

 

 

ベレスは黒き獣の頭部にある紋章が刻まれた部分に天帝の剣による一撃を食らわせた。

 

 

「アガアアアアアアッ!!ギャア…!ガ…」

 

 

手応えがあったのか黒き獣は悲鳴をあげた後、しばらくして動かなくなった。それと同時にその体が崩れ始め、その崩れた残骸の中からマイクランの亡骸と破裂の槍が姿を現した。

 

 

「…ゴホッ!ゴホッ!…ふぅ、なんとか倒せましたか」

 

「皆!大丈夫か!メルセデス!皆の回復を頼む!」

 

「え、ええ!」

 

「終わったか…先生、手当てが終わったら槍を回収して引き上げよう」

 

「……兄上」

 

 

甚大な被害を受けたがベレスたちは頭目であるマイクランを討伐し盗まれた破裂の槍を奪い返すことに成功したのだ。しかしベレスや生徒たちは改めて英雄の遺産に秘められた強大な力とその恐ろしさを心に刻みつけたのだたった。

 

 

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おまけ 「フウカの人形」

 

 

・ガルグ=マク大修道院 フウカの部屋

 

 

時は青海の節。その末季のことだ。

ある日、フウカは自室である物を手に持っていた。持っているのは故郷で作られている"市松人形"という人形(リアルな物ではなく、ゆるキャラぽい感じのものをイメージしてください!)でフウカがとても大切にしている物だ。

 

 

「わあ…その人形、可愛いですね」

 

「そうですか?えへへ、そう言って頂けると嬉しいです」

 

「それがフウカの故郷の人形なんですね…特にこの変わった衣装がいいですね」

 

「その服装は"巫女装束"という着物なんです。いつかリシテア殿にも着させてあげたいですね」

 

「わ、わたしに似合うかな…?」

 

 

フウカの人形のデザインは赤髪の長髪で赤と白を基準にした巫女装束という服装をした市松人形だ。実は密かに人形趣味を嗜む友人のリシテアと意気投合し時折こうして人形について談笑したり、見せ合ったりしているのだ。

 

 

「そういえば、フウカはその人形をいつも大切にしてますけど…そんなに大事な物なんですか?」

 

「はい、これは私が故郷を旅立つ時に母上がお守り代わりにくれた物なんです。さすがにお人形遊びはもうしませんけど…こうしてたま眺めたり、ほこりを落としてあげるんです」

 

「へぇ…フウカのお母さんか…どんな人なんだろ?」

 

「いつも笑顔でとても優しい人です。それにこの人形は母上を模して造られたんです」

 

 

フウカにとってこの人形はお守り代わりであり時折、恋しくなる故郷と家族を思い出させてくれる彼女にとっては宝物とも言える大切な物なのだ。

すると突然フウカの腹の虫が鳴き始めた。

 

 

「あ、あはは…すみません。お腹が空きました」

 

「そうですね、じゃあ町にお菓子でも食べに行きません?」

 

「いいですね!行きましょう!リシテア殿!」

 

「あ!最初に言っときますけど…一人で食べないでくださいよ?」

 

「す、すみません…もう一人占めしませんから」

 

「…ならいいです、先に行っててください。自分の人形を片付けてから行きますから」

 

 

そう言うとフウカは嬉しそうに部屋から出ていった。リシテアもフウカに見せるために持ってきた自慢の人形を小箱に片付ける。

片付けを終えたリシテアは立ち上がろうとした時ふとフウカの人形が目に入り、持ち上げてじっくりと眺める。

 

 

「ふむふむ…丁寧に手入れされてるけど、首の所がちょっとほつれてるわね…今度直してあげなきゃ」

 

 

そう言い残すと、リシテアは人形をテーブルの上に置いて部屋を後にした。

そして、その数分後再びフウカの部屋を訪れる者がいた。その人物とは…

 

 

「フウカ?居るか?ハンネマン先生から頼まれた書類を持った来たぞ」

 

 

フウカの部屋を訪ねたのはディミトリで、ハンネマンから預かった重要な書類を届けに来たのだ。何度も部屋をノックするが反応は無い。ご存知の通り、フウカは先ほどリシテアと町に行ってしまった為に当然ながら不在だ。

 

 

「困ったな、必ずフウカに渡すように言われたんだが…」

 

 

また別の時間に出直そうと考えるが、今日はこの後、たまたまベレスと実戦訓練が控えているため、この時間を逃しては届けるのは明日になってしまう。

 

 

「……」

 

(…少しぐらい大丈夫だよな?何度か入ったことがあるし)

 

 

実はディミトリはフウカに訓練を依頼するために何度か部屋を訪れたことがあり、室内に入ったこともあるのだ。"少し入って書類を置くだけだ…"と決意したディミトリとそっと扉を開けて室内に足を踏み入れる。

ディミトリは足早にテーブルの前に行き、書類の束を置く。役目は済んだ、とばかりに素早くディミトリは部屋を後にしようとするが…

 

 

(それにしても…独特な物ばかりだな)

 

 

改めて部屋を見ると、室内はきちんと丁寧に整理されほこり一つ落ちていない。武器立てにはフウカの愛刀に自慢で持っている故郷の武器が立ててあった。その他には彼女の故郷で造られた食器である"茶器"や見たこともない珍しい物もたくさん置いてあった。

極めつけには壁には長い紙に達筆な字で"天下無双"と書かれた掛け軸なる物も飾られている。

…こう言ってはなんだが、とても女性の部屋とは思えなかった。

 

 

(…おっと、女性の部屋を覗き見するのはいけないな、さっさと退散するか)

 

 

慌てて部屋を出ようとするディミトリの目にある物が写った。

 

 

「ん?これは…人形か?なんだか可愛らしいな」

 

 

そう、それはテーブルに置いてあったフウカの大切にしていた人形だった。気になったディミトリは少し持って眺めて見ようと人形を手に取るがその瞬間…

 

 

ぶちっ!!

 

 

「………!!?」

 

 

なんと手で少し掴んだ瞬間、市松人形の首の部分が取れ、静かにディミトリの足元に落ちる。何が起こったのか理解できずディミトリはしばらく言葉を失ってその場から動けなかった。しばらくしてようやく我に帰った。

 

 

「い、いや…待ってくれ…俺は、その…人形を持っただけで…」

 

 

誰に対して言っているのか分からない必死の言い訳は無情にも誰にも聞こえない。ディミトリは必死に市松人形の頭を拾い上げ、胴体と頭を接着しようとするが何度やっても人形の頭は胴体に繋がらない。

さらに追い討ちをかける出来事がディミトリを襲った。突如、フウカの部屋の扉が開かれ、何者かが部屋に入ってきた。

 

 

「いけない忘れ物しちゃった…って、ディミトリさん?なんでここににいるんです?」

 

「あ、ああ…リシテアか、ど、どうしたんだ?」

 

「フウカの部屋に忘れ物をしたので取りに来たんです。それより…フウカの部屋で何してるんですか?」

 

「い、いや…俺は書類を届けに来ただけなんだ。ほ、ほら、あれだ!」

 

 

ディミトリは必死にテーブルの上に置いてある書類の束を指差す。一方のリシテアは怪しそうにディミトリを見ていたが、納得したのか警戒を解いた。

 

 

「ふーん…まあ、いいでしょう。用事が終わったならさっさと出ていってくださいね。女の子の部屋を勝手見るのは失礼ですよ」

 

「あ、ああ、すぐに出ていく」

 

「…ああ!!その人形!!」

 

「なっ!?に、人形…?そ、そうだな可愛らしい人形だな」

 

現在、ディミトリが必死に人形の頭と胴体を無理矢理くっ付けて持っている状態でリシテアから見ればディミトリが人形を乱暴に持っているように見えていた。

 

 

「その人形に触らないで!それはフウカの大切な人形なんですから!」

 

「そ、そうなのか…?」

 

「お母さんから貰った大切な物だって言ってました。そんなに乱暴に持ったら壊れちゃいます!」

 

「す、すまん!すぐに離す」

 

「とにかく、早く出ていってください!」

 

 

友人の宝物を乱暴に扱われて不機嫌になったリシテアはディミトリを怒鳴り付けた後、強引に扉を閉めて去っていった。どうやら幸いにも人形が壊われていることはリシテアにばれなかったようだ。

ディミトリはほっと胸を撫で下ろす。

 

 

「困ったな…どうすればいい」

 

 

それほど大切な物を壊してしまったとフウカが知ればきっと悲しむに違いない。または激怒するかもしれない…どちらにしてもフウカが戻ってくるまでにこの市松人形を元通りにする必要があった。

そんなディミトリが最初に思いついたのが…

 

 

「そうだ!メルセデスに頼めば…あいつならきっと大丈夫だ」

 

 

ディミトリは壊れた人形を手に大急ぎでメルセデスの部屋と向かった。しかし、彼の苦難の始まりはここからだった…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・ガルグ=マク大修道院 メルセデスの部屋の近辺

 

 

壊してしまった人形を直してもらうために、ディミトリは全力疾走でメルセデスの部屋へと向かっていた。しかし走っている最中、目の前から歩いてくる人物に声をかけられた。

 

 

「…殿下?そんなに慌てて、どうしたのですか?」

 

「ああ、イングリッドか…」

 

 

話しかけたのはイングリッドで必死の形相で廊下を走っているディミトリが気になって声をかけたのだ。

しかし、ディミトリからすれば今、無駄話をしている暇はなく一刻も早く目的地に向かわなければならなかった。

 

 

「す、すまん!イングリッド、少し急いでいるんだ」

 

「そうですか、引き止めて申し訳ありません…」

 

「いや、別に気にしなくていい。それじゃ…」

 

「…?殿下、その人形は…?」

 

「…あ、いや、これはだな…」

 

 

見つかってしまってはもう取り繕えないと判断したディミトリは事情をイングリッドにすべて話した。そして、自分が向かっている目的地についても包み隠さず打ち明けた。

 

 

「あの…言いにくいのですが、メルセデスは今、部屋に居ませんよ?」

 

「な、何?」

 

「どうやら、アネットと一緒に町に買い物に行ったみたいで…私もメルセデスに用があったのですが」

 

「メルセデスはいないのか。困ったな、誰に頼めば」

 

「あ!殿下、裁縫でしたらベルナデッタに頼んではどうですか?」

 

「…ベルナデッタに?」

 

「はい、ベルナデッタは裁縫が得意だと聞きました。事情を話せば協力してくれるのでは?」

 

「確か…ベルナデッタとフウカは仲がよかったな、よし彼女に頼んでみるか」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・ガルグ=マク大修道院 ベルナデッタの部屋の近辺

 

 

頼みにしていたメルセデスが不在だったため、やむを得ず他に裁縫が得意な者に人形の修復を依頼することになった。そこでフウカの友人で裁縫が得意だと言うベルナデッタに修復を頼もうとしたのだが…

 

 

「……」

 

「ベルナデッタ!今日こそ授業に出てもらうわよ!」

 

「ひぃぃぃ!!い、嫌です!だから私は授業なんて受けたくないんですよぉ!!」

 

「…まったく、貴女は何のために此処にいるの?学問と兵学を学び高い知識と教養を身につけるためでしょ?」

 

「違います!引き籠るためです!」

 

「…自信満々に言うことじゃないでしょう。とにかく、今日は何がなんでも授業に出てもらうわ。ヒューベルト、手を貸しなさい」

 

「…御意」

 

「嫌なものは嫌なんですぅ!いやあぁ!!だ、誰か!誰かベルに救いの手を~!!」

 

 

どうやら取り込み中のようで、引き籠っているベルナデッタを級長のエーデルガルトと従者のヒューベルトが無理矢理、連行しようとしていた。これではとても人形の修理を依頼するどころではない。

 

 

「…まずいな、どうすればいいんだ」

 

 

他に裁縫が得意な者を思い浮かべるが、心当たりのあるリシテアには先ほどの一件もあって頼みづらく、それ以外に裁縫が得意な者は思い浮かばなかったのだ。

万策尽きたと考えたディミトリは最後の賭けに出たのだ。

 

 

「仕方ない…やってみるか」

 

 

ディミトリは何かを決意し大急ぎで向かったのは、なんと自分の部屋だった。部屋に入るとディミトリは人形をテーブルの上に置いた後、タンスの中からあるものを取り出した。

…そうメルセデスから貰った裁縫道具だった。

 

 

「首を縫い合わせるだけなら俺にもできる…はずだ。メルセデスに教えてもらった通りにすれば…」

 

 

ぎこちない手つきで針を何本も破壊しながらディミトリは懸命に人形を修復し続けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

・数時間後

 

 

「ふぅ…なんとか形にはなったか」

 

 

ディミトリの言うとおり人形の首と胴体は何とか繋がったが、素人の突貫修理ならぬ杜撰な修復であり、糸の長さも均一ではなく今にもほどけて再び千切れてしまいそうなほど危険な状態だ。

 

 

「……」

 

 

やはり自分に裁縫は無理だと改めて実感したディミトリは自身の無力さを情けなく感じた。こうなったら正直に打ち明けて謝罪するしかないと考えたディミトリは人形を持ってフウカの部屋へと向かった。

 

 

・ガルグ=マク大修道院 フウカの部屋

 

 

フウカの部屋の前に再びやって来たディミトリは部屋をノックするが反応がない。おそらくまだ町から戻って来ていないのだろう。ディミトリは帰ってくるまで待つことにし、じっとその場で立ってフウカの帰りを待っていた。そんな時、思わぬ人物がディミトリが前に現れた。

 

 

「…あれ?殿下?こんな所で何してるんです」

 

「シルヴァン?なぜお前がここに?」

 

「そりゃこっちの台詞ですよ。…もしかして、フウカの部屋で茶でも馳走になろうとしたんですか?」

 

「…違う、お前と一緒にするな」

 

 

ニヤニヤと笑いながらディミトリをからかうシルヴァンだが、彼がここに訪れたのはディミトリと同じくフウカに用があったからなのだ。シルヴァンの手にはフウカに訓練指導の依頼をする受注書類があった。

 

 

「お前もフウカに指導を依頼するのか?」

 

「ええ、フウカは剣だけじゃなくて槍も一流だって聞いたもんですから、俺もちょっと指導してもらいたいなって思ったんですよ」

 

「そうか、普段、不真面目なお前にしては珍しいな」

 

「はは…まあ、俺もやる時はやるんですよ。…って、殿下、その手に持ってるのは?」

 

 

よほどディミトリが人形を持っている姿が似合わないのか会った人たちからことごとく同じ質問をされる。ディミトリはため息をつきながら事情を話そうとするが…

 

 

「誤解するなよシルヴァン、この人形はだな…」

 

「…分かった!分かりましたよ、殿下!さてはその人形をフウカにプレゼントしようってことですね!」

 

「は…?いや…何を言っている」

 

「いや~そうならそうと俺に話してくれれ相談に乗ってあげたのに、その人形ちょっと見せてくださいよ。殿下がどんな人形を選んだんです?」

 

「あ!お、おい馬鹿!!離せ!」

 

 

ディミトリが油断した隙を付き、シルヴァンはディミトリから人形を素早く奪い取る。そして人形を眺めようと手に取った瞬間…

 

ポトッ!

 

 

「……」

 

「…あれ?」

 

 

再び人形の首と胴体が離れ首が足元に落下した。

やはりディミトリが行った杜撰な修復では応急処置にすらならなかったようだ。

 

 

「殿下…こんなボロ人形をフウカに渡すつもりだったんですか?まったく、もっと女の子の気持ちを考えなきゃ駄目ですよ」

 

「……」

 

「ん?ちょっと殿下、俺の話聞いてます?」

 

「……」

 

 

なぜかディミトリは無表情のままその場から微動だにしない。心なしかその表情はどんどん青ざめている。その理由はシルヴァンの後ろにあった。

背後から凄まじい殺気を感じたシルヴァンは思わず後ろ振り返るとそこにいたのは…

 

 

「……」

 

「ひっ!!ふ、フウカ…お、お、落ち着いて…」

 

 

その背後にはちょうど町から帰ってきたフウカとリシテアの姿があった。一部始終を見ていたフウカは微笑みながらゆっくりとシルヴァンに近付いていく。ちなみに微笑んでいるが目は全然笑っていない…

大切な宝物を壊された彼女の怒りはもう誰にも止められない。あまりにも恐ろしいフウカの姿にリシテアはすでに涙目になっている。

 

 

「い、いや…!そ、その…これは…だな」

 

「……」

 

「そ、そう!この人形を殿下が君に渡そうとしてたんだよ!いや~まったく…殿下にも困ったもんだよなあ…はは…」

 

「……言いたいことはそれだけですか?」

 

「……」

 

 

その一言にシルヴァンは言葉を失い、何も言えなくなる。この時シルヴァンの本能が必死に危険信号を発していた。

 

この目はマジでヤバい、と…

 

 

「…そ」

 

「……え?ふ、フウカ?」

 

「その首…ヲイテゲェ!!!」

 

「うわぁぁぁ!!!?」

 

 

一瞬フウカが目の前から消えたと思えば、次の瞬間にはシルヴァンに襲いかかろうと猛スピードで飛びかかって来たのだ。

間一髪、シルヴァンは反射神経でそれをギリギリ回避した。フウカはそのまま壁を突き破って着地すると再びシルヴァンに向けて首をくるりと動かす。

 

 

「お、おい…冗談だろ?ま、待てって…!話せば分かる!」

 

「…ソノクビ、ヲイテイケ…」

 

 

今の彼女にもはや何を言っても聞こえない。

こうなってしまってはシルヴァンに残された選択は一つしかなかった。

シルヴァンは全速力でその場から逃走した。

 

 

「う、うわぁぁぁ!!だ、誰か助けてくれー!!」

 

「マァテェェェ!!!」

 

 

逃げるシルヴァンをフウカはいわゆる襲いかかろうするポーズでシルヴァンを凄まじい速さで追跡する。

その場に残されたリシテアとディミトリは唖然としたまましばらく動けなかった。

そして、そんな二人の姿を見ていたディミトリが一言。

 

 

(すまん、シルヴァン…情けない俺を許してくれ)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・ガルグ=マク大修道院 学院内

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「シルヴァンドノォ!カクゴォ!!」

 

「…っていうか、待て!いくらなんでも速すぎるだろ!?」

 

 

必死で逃げるシルヴァンだが徐々にフウカに距離を詰められ、あと少しで完全に追い付かれてしまう。何か手はないかと考えたシルヴァンの前に見えたのは…

 

 

「…お、おお!!フェリクス!ちょうど良いところに!」

 

「…ん?シルヴァン?何をやっている」

 

目の前からやって来ていたのはフェリクスだっだ。そして何を思ったのかシルヴァンはフェリクスの後ろに隠れると両手で肩を掴んで無理矢理、前に突き出した。

 

 

「お、おい、貴様!何をやっている!」

 

「必殺!ファーガスの盾!!」

 

「…なっ!!?」

 

 

どこからともなく"シャキーン"という効果音が聞こえてきた。

 

 

「ヲイテゲェ!!!きゃっ!!?」

 

「ぐわぁぁ!!」

 

 

身代わりにされたフェリクスと追いかけて来たフウカが激突しお互い豪快に転倒する。その隙にシルヴァンは大急ぎで逃げ出した。

 

 

「すまん!フェリクス…お前の犠牲は忘れないぜ!」

 

「くっ!貴様…ふざけるな!!」

 

「……」

 

「おい…!何のつもりだ貴様!急にぶつかって来るなどどういうつもり…だ…」

 

 

転倒したフウカはすぐさま立ち上がり、再びその後を追おうとするが、シルヴァンの姿がもう見えない。まるで獲物探す猛獣のような動きで辺りを見回す。

同じく立ち上がったフェリクスはぶつかって来たフウカに文句を言おうとするが途中で口が止まる。

 

 

「…シルヴァンドノハドコニイキマシタカ?ハヤクコタエテクダサイ!!」

 

「……向こうだ」

 

「…アリガトウゴザイマス。…マテェェェ!!!」

 

「……」

 

フウカは再び猛スピードでシルヴァンを追いかけていった。文句を言ってやろうと考えたが、一瞬でそんな気持ちはなくなった。今の彼女はとても普通ではない、フェリクスは瞬時に悟った。

 

"絶対に関わらないほうがいい"と…

 

 

「……見なかったことにするか」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

・ガルグ=マク大修道院 釣り池

 

 

「うむ、今日もいい天気だな」

 

 

釣り池で糸垂らし、釣りを楽しんでるのはセテスだった。堅物で真面目な彼が釣りをしているなど珍しい光景たが、本人はこうして釣り糸を垂らしじっと眺めているのが好きなのだそうだ。

 

 

「……」

 

 

こうして心を落ちつかせ今は亡き妻のことを思い出す。昔はこうしてよく妻と二人で釣りをしたものだと懐かしい数々の思い出が甦る。

 

 

「……」

 

そう、こうして耳をすませば…

 

 

「だ、誰か助けくれぇぇ!!」

 

「ヲイテゲェ!!」

 

「ひぃぃぃ!!?フウカさんが怪物にぃ!!?がくっ!」

 

「フウカ殿!お、落ち着いてください!!」

 

 

すると釣りをするセテスの隣をシルヴァンとフウカが凄まじい速さ走り去る。

 

 

「……。……む!?」

 

 

セテスは思わず二度見してしまう。

この状況は釣りどころではないと判断したセテスは急いで二人の後を追った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ついに追い詰められたシルヴァンは必死にフウカに言葉を伝えようとしていた。

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…た、頼む…少しだけでいい、話を聞いてくれ…!」

 

「…カンネンシテクダサイ。コレデオワリデス」

 

しかし相変わらずフウカらまったく聞く耳を持っていない。容赦なくシルヴァンに襲いかかろうとするフウカだったが、それは間一髪である人物によって阻止された。

 

 

「ジャマシナイデクダサイ!」

 

「アンタ、なにやってんだ!いいから落ち着け!」

 

 

フウカを羽交い締めにしているのは騒ぎを聞き付けて彼女を止めに来たカトリーヌだった。

 

 

「ハナシテクダサイ!ワタシハ、シルヴァンドノクビヲ…クビヲォォ!!」

 

「くっ!!なんて馬鹿力だ…!」

 

「おい!大丈夫か!」

 

「ちょうど良かった!シャミア!フウカを止めるのを手伝ってくれ!」

 

「…何を騒いでいるんだ。いいから頭を少し冷やせ」

 

「ヲイテゲェ!ヲイテ…うぐっ!?ゴフォア!!」

 

 

長時間の全力疾走と強い興奮により、いつも発作が起こりフウカは吐血して気を失った。間一髪で助かったシルヴァンは思わず安堵のため息を漏らす。

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…ふぅ~…助かったぜ…」

 

「…これは、何の騒ぎだ?」

 

「……」

 

 

…一難去ってまた一難とはまさにこのことだろう。シルヴァンとフウカは直ちにセテスの部屋へと連行された。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

・ガルグ=マク大修道院 セテスの部屋

 

 

「さて、何があったのか…全て話してもらうぞ」

 

「…はい、申し訳ありません」

 

「…すんません」

 

 

二人はセテスにすべての事情を話した。

やはりと言うべきかフウカはシルヴァンが人物の大切な人形を壊したと思っていたそうだ。

 

 

「人形…?」

 

「…はい。大切な私の宝物だったんです…」

 

「だとしても君の行動は限度を超えている。君ほどの者が感情を制御できないわけがないはずだ」

 

「…では、言わせていただきますが、もしシルヴァン殿にフレン殿が傷付けられたセテス殿は黙っていられますか?」

 

「………殺す…いや…それでは生温い…死よりも恐ろしい報いを…」

 

「いやいやっ!?何で俺を睨むんですかっ!ただの例え話でしょう!?」

 

「…はっ!し、しまった…フレンを傷付けるなど恐ろしいことを考えるとは…」

 

「…つまり私もセテス殿がフレン殿をとても大切に思っているように私も同じぐらいあの人形のことが大切だったんです…私の…大切な…」

 

「……」

 

「……」

 

 

フウカは切ない表情でポロポロと涙を流していた。彼女にとってあの人形はそれほどまでに大切な物だったのだ。心の底から悲しんで落ち込んでいるフウカ見ていたシルヴァンはいたたまれない気持ちになり、思わず彼女に謝罪する。

 

 

「…本当にすまない。そんなに大切な物とは知らなかったんだ。…あの人形は必ず直して君に返す、だから許してくれ…この通りだ」

 

「シルヴァン殿…」

 

「…すまない」

 

シルヴァンは何度も何度も頭を下げ続ける。

そんな姿を見ていたフウカはとても怒鳴る気持ちにはなれなかった。そんな彼にフウカはいつもの明るい笑顔で言葉を返した。

 

 

「いえ…こちらこそすみません。人形一つであなたに酷いことを…謝罪しなければならないのは私のほうです」

 

「君は何も悪くない。悪いのは全部俺さ…」

 

「いえいえ!私が悪いのです!」

 

「いや、俺が悪い」

 

「……ふふ」

 

「……はは」

 

 

その後、二人はセテスの長い説教を終えて改めてお互いに謝罪し仲直りしたのだ。ちなみに壊れたフウカの人形は友人のリシテアによって綺麗に修復され事なきを得たのだった。こうしてこの出来事は幕を閉じたのだが、しばらくディミトリが妙にシルヴァンに対して気を使っていたそうだ。

 

そして、この出来事をきっかけに修道院内である暗黙のルールが追加された。それは…

 

 

"フウカだけは絶対に怒らせないようにしよう"だった。

 




めっちゃ書きましたね…疲れました…
今回、シルヴァンの出番多いですね…
また、支援会話を書いてみましょうか?
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