Muv-Luv Alternative✖️機動戦士ガンダムOO 地獄に降り立つ狙撃手   作:マインドシーカー

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この小説は、ご覧の作者の提供でお送りいたします。

幕間的なお話。
前回投稿したお話では説明不足なところもありそうだったので、ある人が来る経緯的なお話を前日譚07として間に挿入させてもらいました。

イメージOPはブラックラグーンより「Red fraction」。

ではどうぞ。

追記
2019年10月18日2151 文章構成及び内容を一部変更


story07「ウルズ結成」(2019年10月18日追加)

特殊技術研究部。

通称「特技」。

 

何かの技を極めたとか、何かの「特技」があるとかそういう意味合いではなく、純粋にこの部署の略称だ。

そこでは、日夜様々な「特殊な技術」の研究に取り組んでいる。

その部署が中心となって行われていたのが、既存の戦術機の改修だ。

 

この部署は、かつて横浜に本拠地を置いており、今現在はその本拠地を臨時で帝国軍仙台基地に置いているAL4計画に所属している部署だった。

 

その特技において、特別技術顧問兼開発衛士として籍を置いているのが、ロックオン・ストラトスだった。

 

 

 

 

 

仙台基地演習エリア。

その一角にある市街地を模した場所で、2機の戦術機が模擬戦を行っていた。

 

片方は、試作機であることを示すオレンジ色(テストカラー)の機体。

 

もう片方は、既存の第三世代戦術機「不知火」だ。

 

この2機は現在、テストカラー機側の実証試験のために実機訓練を行っていた。

 

 

 

「速い・・・!」

 

絶え間なく続く攻防の中で、不知火の衛士は相対する戦術機の動きを見て、歯噛みしながらそう呟いた。

相対する機体の名は、「雪風」。

97式高等練習機「吹雪」の改修1号機だ。

 

「やるじゃないか・・・!久々に心が躍る・・・!」

 

獰猛な笑みを浮かべながら、彼は退くよりも前進を選んだ。

 

「久々に食い甲斐のある奴とやり合える!」

 

不知火の衛士―――――上官殺しと呼ばれる青年、フレッド・リーバーは、正面の雪風に猛然と斬りかかった。

 

 

 

「あいつが、「上官殺しのリッパ-」か。」

 

模擬戦をモニターしている指揮車の中で、ロックオンが指揮車の隣で待機している戦術機ーーーーー「初風」に乗る衛士である自分の副官に話しかける。

 

『はい。フルネームはフレッド・リーバー。階級は少尉。元イギリス軍で、所属していた部隊の上官への反逆罪で軍刑務所に収監されていたそうです。』

 

副官―――――彼女の名は、リザ・ホークアイ。階級は中尉で国連軍所属の衛士であり、特技の2番目の追加メンバーとして、ここに配属されてきた人間だ。

黒い衛士強化装備に身を包んだ彼女は現在、模擬戦の監視役としていつでも動けるように待機していた。

ロックオンの傍にはファイル置かれており、そこには先ほどのリーバーの今までの経歴が全て記載されている。

 

「腕は立つが、性格や素行に難あり。上官殺しってのも、このご時世じゃあ果たして本当かどうかってところかね。」

 

『そうは言いますが、危険な人間なのには変わりありません。』

 

通信機越しに彼女はロックオンへそう返す。

 

「英軍時代は、殴り合いが絶えなかったほど荒れていたわけね。」

 

ファイルに記載されている経歴には、部隊内での争いが絶えず、その度に何かしらの処分を受けていたとある。

 

ーーーーーフレッド・リーバー。階級は少尉です。

 

だが、最初にここへ連れてこられた時の彼への印象としては、およそ人を殺すような人間ではないように見えた。

まるで、何もかもに希望を見いだせないような、気力のない表情を浮かべていたからだ。

まあ、実のところはそう思うだけであって、実際は違う可能性もあるのだから、ここで結論を出すのは早計なのだろう。

ロックオンは、とりあえずは結論を先送りにし、演習場内に設置された様々な場所から様子を見ることが可能なカメラ映像と、模擬戦を行っている当人達の機体のカメラ越しの映像が映るモニターに視線を戻す。

 

「まあ、うちのお姫様をあそこまで振り回すんだ。大したものじゃないかね?」

 

モニターには、およそ既存の戦術機では考えられないような柔軟でアクロバティックな動きをする雪風と、それに追い縋る不知火が映し出されている。

 

視線が交差する瞬間、不知火が左手に持った突撃砲を撃ち、それを回避する雪風。

 

回避運動の着地を狙ってすかさず右手の長刀で斬りかかる不知火。

 

その斬撃を空中で噴射させた跳躍ユニットの勢いで雪風は空中で身を翻す。

 

逆に反撃に転じた雪風の突撃砲による射撃。

 

それを横方向への跳躍ユニットの噴射で回避し、片脚で着地と同時に後方へ跳躍を行う不知火。

 

そこに前への跳躍ユニットでの噴射で距離を詰める雪風。

 

「誘われたな。」

 

ロックオンがそう言った瞬間、肉薄した雪風が銃口を向けるのとほぼ同時に、不知火が姿を消した。

 

 

 

「な・・・!?」

 

突然の出来事。

ジーナの視界から、不知火が消えた。

直後、激しい衝撃に、彼女は襲われる。

 

大きくバランスを崩して吹き飛ぶ雪風。

 

刹那の間に、眼前にいたはずの不知火は後方へ噴射をかけることで雪風と地面の間にするりと入り込み、真下から見上げる形で並走すると、あろう事か雪風の胴体部を不知火の脚で蹴り飛ばしたのだ。

 

「う、くぅ・・・!」

 

ビルに機体を叩きつけられ、想定外の出来事に一瞬の動揺を見せるジーナ。

 

唐突に、嫌な気配が全身を包み込んだ。

 

背筋に冷たいものが走り、本能的に機体を即座に前へと転がす。

前転しながら叩きつけられた場所から離れてすぐに、不知火が現れ、その場所に長刀を突き刺す。

 

「よくも・・・!」

 

不知火の頭部がこちらを見る。

まるで、獲物を追う肉食獣のような気配。

 

本能的に感じた感情はーーーーー殺意。

 

「あ・・・」

 

恐怖が、全身を支配した。

 

「あ、あぁぁぁぁああ!!!」

 

次の瞬間、彼女は激昂し、雪風は主の命令に従って不知火へと襲い掛かった。

 

 

 

「ハハッ・・・!」

 

リーバーは、歓喜の中にいた。

自分をここまで楽しませてくれる衛士とこんなにもやり合える。

己の全てを賭して挑んでも、軽々といなしてくる相手。

自分を全てぶつけても壊れない。

 

こいつなら、殺しにかかっても大丈夫そうだ。

 

そんな思考を浮かべてしまったのが、彼の失敗だった。

 

「ーーーーー・・・ッ」

 

動きが、変わった。

 

彼がそんな事を思った瞬間、有り得ない速度で雪風が彼の乗る不知火の真横に着地し、その勢いのままに後ろ回し蹴りを放つ。

 

「ハッ・・・!」

 

笑みさえ浮かべて、彼は機体を操縦する。

突き刺さったままの長刀を放し、機体を宙返りさせて蹴りを回避。

回避の勢いを利用して距離を取ると右手に持っていた突撃砲を左手に持ち替え、武装ラックから予備の長刀を右手で引き抜こうとする。

 

だが、引き抜こうとした長刀は何者かによって奪い取られ、明後日の方向に投げられた。

 

「な、に・・・!?」

 

犯人は、いつの間にか頭上にいた雪風だった。

雪風の手が、不知火の手が長刀を持つよりも先に長刀を掴んで投げ飛ばしたのだ。

網膜投影からカメラ越しに映った光景は、不知火の頭上で並走する形になった雪風が、いつの間にか持っていた打突可能な棒状の武器を思い切り不知火の顔面に叩き込んで地面へと叩き落とすまさにその瞬間だった。

 

「・・・が、ぁ・・・!?」

 

打突武器を頭部にまともに食らった不知火は、態勢を崩し、そのまま頭から地面へと激突する。

激しい衝撃に襲われ、体がその衝撃で大きく揺れた。

 

「やってくれる、な・・・!」

 

強くレバーを握り、今にも投げ出されそうな衝撃に必死に耐える。

目を開けると、機体情報を示す表示に頭部損傷を示す情報が追加され、各部も正常な色から異常をきたしている黄色へと変わっていく。

 

「くそ!視界が・・・!」

 

更には、先程の攻撃で頭部カメラユニットが損傷し、視界がブラックアウトした状態に陥っていた。

機体の態勢を持ち直しながらカメラの再起動を待つ。

 

カメラの復帰直後に映った映像は、猛然とこちらに斬りかかってきた雪風だった。

 

 

 

『た、大尉。これは・・・!』

 

あまりにも一方的な戦いを前に、ホークアイは困惑の色を隠せない声音で話す。

 

「動きがおかしいな・・・あれじゃあ、不知火が大破する。」

 

彼はそう言うと即座に雪風へと通信を繋げた。

 

「おいジーナ、いくらなんでもやり過ぎだ。模擬戦は直ちにーーーーー」

 

彼が最後まで言いかける寸前に聞こえてきたジーナの声。

それは、思いがけない一言だった。

 

『殺してやる・・・!』

 

「ジーナ・・・?」

 

『絶対に、殺してやる!』

 

焦燥に駆られたジーナの声。

 

「ホークアイ中尉!」

 

『もう行っています!』

 

危険だと判断したロックオンが指示を出すよりも先に、ホークアイの初風は動いていた。

 

 

 

「チトゥイリスカ少尉!」

 

ジーナ機である雪風に通信を繋げてホークアイが叫ぶ。

機体を指揮車の横から現場へと向かわせる為に一度跳躍し、そこから全力噴射で現場へと急行する。

 

「それ以上は不知火が持ちません。ただちに戦闘を中止なさい!」

 

『あぁぁぁあああ!』

 

叫び声を上げて攻撃の手を緩めない雪風の真後ろに自身の機体を着地させると、振り上げた腕部を掴んで強引に動きを止めにかかる。

 

「大尉からの命令です。模擬戦は中止よ、ジーナ。」

 

努めて冷静に、そう喋るホークアイの声を聞いて、ようやく動きを止める雪風。

 

『はっ・・・はっ・・・!』

 

通信が繋がり、網膜投影越しにジーナの顔が表示された。

彼女は、一方的な戦闘をしていたにも関わらず、まるで追い詰められ、弱った獣のように浅い息を吐き、顔は青ざめている。

 

「リーバー少尉、無事ですか?」

 

『・・・う、く・・・』

 

呻き声が聞こえて来る。

幸い、バイタルは危険な数値を示していないが、先程の猛攻で気絶した可能性が見られた。

 

『ホークアイ中尉。二人とも(・・・・)無事か?』

 

通信機から、ロックオンの声が聞こえた。

 

「チトゥイリスカ少尉は、体は無事なようです。リーバー少尉の方は、返事が返ってきません。恐らく先程ので気絶した可能性が。」

 

警戒状態を解かず、まだ攻撃姿勢のままの雪風を一旦下がらせると、壁にめり込んだ形で蹲っている態勢の不知火へと近づき、機体の状態を確認する。

 

「(よくて中破・・・これだと最悪大破ね。)」

 

不知火は酷い有様だった。

頭部ユニットを殴打された影響で、左側のブレードアンテナは消失しており、カメラアイのゴーグル部も割れ、中のカメラアイが露出している。

跳躍ユニットも損傷しているのが見て取れ、肩部や脚部、その他全体的に、表面装甲の損傷が激しいように見えた。

 

「チトゥイリスカ少尉、大尉の方へ方へ行きなさい。彼が待っているわ。」

 

『・・・はい。』

 

不知火に銃口を向けたままだったジーナの雪風にホークアイが命令すると、銃口を下ろし、その場から離れていく。

 

「大尉。回収班と、医療班を読んだ方が良いかもしれません。」

 

『ああ。もう手配したよ。』

 

機体状況を鑑みてホークアイがそう言うと、ロックオンはそう言われる前に既に基地に連絡し、機体の回収と医療班の出動を要請していたようだった。

 

「それにしても、あれは一体・・・」

 

ジーナの暴走。

疑問を胸に、彼女は不知火を見下ろしていた。

 

 

 

 

「これ、どういうことかしら?」

 

ドアを開けると同時に、特殊技術研究部に割り当てられた部屋。

ロックオン達が帰ってくるのを待ち構えるようにしてそこにいた女性―――――額に青筋を立てた夕呼が、ドアを開けて最初に入ってきたロック音の目に入る。

 

「おっと。どうしたんだい、ミス・コウヅキ?」

 

飄々とした態度で返すロックオンに、彼女は言う。

 

「どうもこうもないわよ!さっき行われてた新入りのテストも兼ねた雪風と不知火との模擬戦の事。分かってるでしょうね?」

 

彼女の前では、記録された模擬戦の映像が流れており、彼女の手にはある書類が握られていた。

 

「耳が早いねぇ、ミス・コウヅキ。それで?模擬戦がどうしたって?」

 

「耳が早いねぇ、じゃないわよ!やりあった不知火、ほぼ大破状態じゃない!」

 

そこにあったのは、模擬戦で痛めつけられた不知火の被害状況。

 

「あ、ああ、なるほど。それね、はいはい・・・」

 

視線を逸らして明後日の方向を向きながら言い訳を考えるロックオンに、声を荒げていく夕呼。

 

「どうしてくれるのよ!ある程度動くって言っても、限度ってものがあるでしょう!?」

 

「ほ、ほら、歓迎会も兼ねてたし、多少は目を瞑ってやってくんねぇかな・・・?」

 

「・・・誰かそこにいるのかしら?」

 

先ほどから少しロックオンの動きがぎこちなく、入り口から一歩も動かないのでそこに気づいた夕呼はゆっくりと彼の後ろを覗き込む。

 

「(ふるふる)」

 

そこには、子犬のように震えているジーナがいた。

まるで、やってはいけないことをバレた子供のようになっている。

 

「・・・はぁ。大体察したわ。これのことね、うちの社が言っていたのは・・・」

 

「・・・察しが良くて助かるよ。」

 

がくがくぶるぶると震えているジーナを横目に、二人の大人は何かに納得する。

 

「事情は大体察したわ。とりあえず、始末書は書きなさい。話はそれから。あと、あの新入りは念入りに指導しておきなさいよ?」

 

「オーライ。」

 

そう言うと、「それじゃ私、忙しいから戻るわ」と言って夕呼はその場から立ち去った。

 

「あ、の・・・」

 

残ったのはまだ涙目で震えているジーナと、苦笑混じりに彼女を様子を見ているロックオンと、あとはこの部署に属する職員達だ。

 

「ああ、とりあえず気にするな。今日みたいなことがそう頻繁にあるわけじゃない。リーバー少尉も直に戻ってくる。そこで改めて顔見せして、あとは反省文を兼ねた始末書の作成すればいいさ。ミス・コウヅキだって、ある程度は許してくれるさ」

 

そっと、頭を優しくぽんぽんとしてあげながら、ロックオンはジーナをなだめる。

こくこく、とジーナは頷いた。

 

 

 

 

『貴様のような者がいるから悪いんだ!』

 

ーーーーーあいつはそう言って、俺に銃口を向けた。

 

それは、彼が人としての道を踏み外す決定的な瞬間に起きた出来事。

 

彼はかつて、イギリス軍の戦術機部隊に所属していた。

 

彼は、親が小さい頃に他界し、幼少期は親戚の家に預けられたが、その場所ではかなり酷い扱いを受けて過ごしていた。

鼻つまみ者として、邪魔者として扱われ、やがて彼は早期から自立を目指し、兵士になる道を選ぶ。

やがて兵学校へと入学した。

しかし、入った直後からトラブルは絶えなかった。

向かってくる者には容赦せず、格闘訓練や、実機を用いた訓練でもそれは変わらず、その度に周囲と衝突を繰り返す。

 

初めて実戦に出た瞬間は、まるで自由になったかのような気分だった。

 

彼の周囲の状況は、一変する。

それは、人間相手では出来なくて、BETA相手ではできることだ。

 

殺すことを許される。

 

彼は、天性の操縦センスを持った衛士だった。

初陣では、新米衛士があげる戦果ではないスコアを叩き出した。

だが、自分が戦果を上げれば上げる程に、周囲からは敬遠されていく。

 

それは、彼の戦闘スタイルが原因だった。

 

初陣で多大な戦果を上げたことで、戦場では花形とされる突撃前衛のポジションに早くからつき、最も危険な位置にいながら生還し、戦果も上げる。

化物相手には天敵のような動きをするが故に、それをフォローする周囲の危険度が跳ね上がる。

BETA相手の戦場では、1人の能力が突出していても周囲が追いつけなければ犠牲が出る可能性は十分にあった。

 

そしてもう1つ、彼が不幸だったのは、優秀な上司に恵まれなかった事だ。

彼が所属した部隊の隊長は、自分よりも1か2期上の先輩格かつ、その期では主席であり、エリートコースに乗ろうと躍起になっているバリバリの野心家。

 

さて、ここにきて天性の才能を持った人間が現れ、自分よりも多くの戦果を上げて自分の出世の妨害する可能性がある人間が現れるとどうなるだろうか。

ましてや、それに危機感を抱く人間が物凄くプライドが高く、自分が常に1番でなければ気が済まない人間であったなら?

 

答えは簡単だ。

排除しようとする。

 

結果的に彼は、突撃前衛という立ち位置を利用され、ある戦場で孤立するように仕向けられた。

しかし、その身勝手な行動によって、彼が所属する部隊はリーバーという強力な駒を捨てようとしたせいで、全滅の憂き目に遭う。

 

『貴様のような者がいるから悪いんだ!』

 

網膜投影越しに映し出された隊長である人間の歪んだ顔。

 

『私は悪くない!貴様が全ての元凶だ!この事態を招いたのも貴様のせいだ!』

 

そう言って、自分を盾にしよう銃口を向けた時の、隊長の歪んだ笑みは、今でも忘れられない。

 

責任転嫁も甚だしい一言で、戦場では盾にされかけ、そんな人間のスケープゴートとして死ぬ事を命じられた時、彼の中で何かが切れた。

 

『そうか。だったらアンタが死ねばいい。その方が、アンタも俺も楽に済むだろうさ』

 

引き金を引くのに躊躇はなかった。

直後に放たれた突撃砲の銃弾は正確に跳躍ユニットを撃ち抜き、破壊する。

 

『ウチの隊長殿は、戦闘中に不幸にも跳躍ユニットを損傷。離脱不能になったため、勇敢なアンタは、俺たちを助けるために殿になり、名誉の戦死を遂げる。よかったな?肩書きだけの大尉殿も、二階級特進で中佐だ。』

 

リーバーはそう言い放って、残存機と共に隊長機を残してその場を離脱しようとする。

 

『き、貴様ぁ!この私を見捨てるというのか!だ、誰かこの愚か者を撃て!立派な反逆罪だぞ!』

 

だが、聞く耳を持つ者はいなかった。

断末魔の悲鳴を誰に聞かれるわけでもなく、離脱を開始し安全圏に辿り着く頃に、背後で小さな光が現れて消えた。

 

リーバーは帰還後、この時の行動を問われ、軍法会議へとかけられる。

そして、彼を敬遠していた同僚達に告発される形で、彼は上官への反逆の罪に問われ、軍刑務所で投獄されるに至った。

その罪によって、実質の飼い殺しという状況に陥った彼の下に、「ある人間」が現れた。

その人間は、どのような経緯で自分を知ったかは知らないが、突然現れて、面会を求めてきたのだ。

 

『初めまして、“上官殺し”のフレッド・リーバー。』

 

やけに芝居がかった喋り方だったのを覚えている。

 

『本題ですが・・・どうでしょうか?一度捨てた人生です。それを、我々が「買う」、というのは。』

 

その人物はまるで買い物でも行くような喋り方でそう言った。

 

腕も命もまとめて買ってしまう。

 

人身売買の意ではないが、転属という形で、刑務所から出して戦う場を用意する代わりに、全てを捧げてもらう。

彼は迷わず、その話に乗ることにした。

 

そうして訪れたのは、極東の最前線ーーーーー日本列島。

 

そこで、彼は日本のある場所にある、「ある計画」における「ある部署」に転属するように命ぜられた。

 

そして転属してきてすぐに、歓迎会と称して、模擬戦が行われることになった。

 

そして、彼はーーーーー。

 

 

 

 

 

「・・・・・っ!」

 

バッと飛び起きる。

周囲を見回すと、知らない部屋だった。

体を動かそうとすると、鈍い痛みが体全体に走る。

 

「痛っ・・・!ここは・・・」

 

さっきまで模擬戦で自分は不知火を動かしていて、それで、

 

「ここは、帝国軍仙台基地の医務室です。ようやく目を覚ましましたね、リーバー少尉。」

 

状況を確認しようとしていると、頭の上から声がした。

顔を上げると、そこには金髪の女性が立っている。

 

「リザ・ホークアイよ。階級は中尉。体の調子はどうですか?」

 

まるで鉄面皮のように、硬い表情でホークアイはそう言う。

 

「・・・お陰様で。」

 

少し不機嫌そうな声で彼はそう返す。

 

「そう、それはよかった。もう体は動かせそうかしら?だったら、これから少しするとデブリーフィングが行われるから、ブリーフィングルームへ来て欲しいのだけれど。」

 

そう言われ、リーバーは二つ返事で「問題ない」と答えると、ホークアイは「10分ほど待ちます。すぐに着替えなさい」と言って外へ出てしまった。

 

「おいおい、俺は怪我人だぜ・・・?ったく・・・」

 

ぶつぶつと彼はそう言いながら、ベッドから起き上がると着替え始める。

10分ほどして着替え終わると、入り口の外で待っていたホークアイと合流する。

 

「では、行きましょう。」

 

そうして、二人はブリーフィングルームへと向かった。

 

 

 

「お、やっときたな。」

 

ブリーフィングルームへ入ると、模擬戦の前に少しだけ合わせた顔がいた。

 

「それじゃ、始めるとするか。」

 

これが、彼が転属された場所であり、新たな職場だ。

 

「改めてだが、特技へようこそ。俺はロックオン。ロックオン・ストラトスだ。よろしくな、フレッド・リーバー少尉。」

 

国連軍における秘密計画「オルタネイティブ」計画の4番目の計画である「オルタネイティブ第4計画」。

そこに所属する、様々な技術の研究と開発・実用化を目指す部署「特殊技術研究部」。

 

「フレッド・リーバー。階級は少尉。俺の周囲のやつは俺をこう呼ぶ。」

 

そこの試験部隊が、彼にとっての新しい戦いの場。

 

「”リッパー“ってな。」

 

特に格好をつけるという理由などもなく、彼はそう自己紹介をした。

 

 

 

これが後に、特技研所属の戦術機試験部隊「ウルズ小隊」の初期メンバーであり、この日にこの部隊は正式に結成された。

 

やがて「ウルズ」の面々は多方面においても戦場で名を馳せる存在になるが、それは別の話だ。




何のために戦う。何故?何と?
それでも人は未来(あす)のためにと歩みを止めない。
来るべき反抗の時に備えて、牙は研がれていく。

手に入れた力。それはなにかを守るため、何を成すために。

次回「研がれる牙」

運命を切り開け、雪風!

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