Muv-Luv Alternative✖️機動戦士ガンダムOO 地獄に降り立つ狙撃手 作:マインドシーカー
いつも感想をくれる方、ありがとうございます。
さてさて、準備のまとめ回?となります。
前回から時間は少し経ってます。
今回は、OOから2人、それにあるキャラクターを2名ほどチョイスして登場させています。
正直、一人の人選は狙いました。
何を狙ったかは、読めばわかりますよね?ね?
イメージOP「ゴールデンタイムラバー」。
追記
2019年11月19日一部内容修正
それではどうぞ。
追記
2019年10月18日 0302 タイトルを07→08へ変更
人々は反撃の時を待つ。
次の地は、横浜。
突き立てられた楔を突き崩すべく、牙は研がれる。
第二帝都・宮城県仙台市。
そこに在る帝国軍仙台基地において、帝国政府から国連軍へと提供されたAL4計画占有区画。
その一角にある格納庫では、ある機体の搬入作業が行われていた。
「こいつがアンタの言っていた、「とっておき」ってやつかい?」
ハンガー内へ搬入用トラックの荷台に載せられた戦術機が入ってくる。
「ええ、そうよ。これが、
前の計画―――――オルタネイティブ第三計画。
かつて、AL3計画を主導していたソビエト連邦が中心となって行ったヨーロッパにおける一大反抗作戦「スワラージ」。
その作戦に従事したAL3が編成した戦術機部隊に配備されたのが、アメリカ合衆国が開発した当時最新鋭であった第二世代戦術機、F-14「トムキャット」の改修機。
「型式番号はF-14/AN3。名称は「マインドシーカー」よ。」
ソビエト軍では「ロークサヴァー(ミミズク)」の愛称で呼ばれた機体。
その、現存していたものの1機を夕呼が裏から手をまわし、この基地へ搬入させた。
ロックオンがいた世界において人類革新連盟が極秘裏に進めていた「超兵計画」。
その際に生み出された人工の改造人間が「超兵」だ。
CBのメンバーであったアレルヤ・ハプティズムは、その超兵計画によって生み出された実験体の一人であった。
その彼から提供された情報では、人革連の超人機関で特別な訓練・調整を施され育てられた兵士であり、「脳量子波」を用いる事によって常人以上の反応速度を発揮し、また兵士としても超人的な能力を有する兵士を生み出すのを目的とした計画であった。
それに似た経緯で生み出されたのが、ジーナ・チトゥイリスカという少女である。
AL3計画の遺児の1人である少女の専用機として、歴史の闇に消えた機体をチョイスしたと分かれば、それこそ悪趣味と言われても仕方ない。
「彼女に1番合う機体を探していたんでしょう?」
そして、ロックオンが構想した複座の戦術機であり、それなりの性能を持つという条件に合致していたのがこの機体であった、というのも理由の一つだ。
そして、明星作戦に間に合わせるべく急遽搬入され、これから本格的な改修作業に取り掛かる。
改修内容は以下の通りだ。
ロックオンからの技術供与によって開発された新型の試作型
装甲を従来の物から、この世界における「Eカーボン」に類似した強化型装甲への外装の換装。
そして、様々な動力部の改修と、各部関節部の強化が行われた。
更には、ジーナという少女の能力―――――ESP能力を最大限に活かすために電子戦能力の強化を行い、完成像は元の機体とは別物と言っても過言ではない。
机上データでは既存の第2世代機を遥かに凌駕し、更には第3世代機たる不知火と同等かそれ以上の性能を発揮する可能性も秘めていた。
そしてもう一つ。
改修用に用意された「吹雪」の調整が終わり、97式改1号機である「雪風」に続いて、97式2号機「初風」、そして2号機のデータをベースに3号機「磯風」、4号機「浜風」がつい先日ロールアウトしたばかりだ。
それらは、AL4計画におけるロックオンが指揮する特技研付き戦術試験部隊「ウルズ小隊」に配備されることになっていた。
香月博士直属の
そして、1998年3月現在。
仙台基地敷地内、AL4占有区画の一つであるシュミレータールームにて、ウルズ小隊の連携訓練のために、
戦闘シミュレータ上で再現された廃墟の都市。
その中を駆け抜ける影があった。
94式戦術機「不知火」。
今現在、この模擬戦は二つの理由で行われていた。
最近、ヴァルキリー中隊に配属された新参の衛士達の育成と、ウルズ小隊へと配属された新たなメンバーとの小隊における連携訓練。
中隊12機に対して、小隊4機。
明らかに数の上で不利な条件が故に、ヴァルキリーズのメンバーの大半は油断していた。
だから、まさか模擬戦開始早々にこのような事態になるなど、想像できていなかった。
『発砲音・・・?ヴァルキリー07、避けろぉ!』
直後、小さな発砲音とともに、
『え?』
彼女たちの視界の中で、ヴァルキリー07の不知火の跳躍ユニットが被弾するのが見えた。
『な・・・!?』
そうして、模擬戦の幕が上げられた。
『じ、跳躍ユニット被弾・・・!?』
ヴァルキリー07と呼ばれた女性衛士の網膜投影越しに表示される機体状況では、跳躍ユニットが損傷したことを示す警告が表示される。
その影響で、片側の跳躍ユニットを失った形になったヴァルキリー07の機体は、大きく動きを制限されて最早動く的になってしまった。
『く、ぅ・・・!』
強引に後退をかけるヴァルキリー07の不知火だったが、更に2発目の狙撃を残った跳躍ユニットに直撃させられ、バランスを崩して倒れこむ。
『ヴァルキリー04より前衛全機、07のフォローに入る。私が抱える!後退の時間を稼げ!』
『ヴァルキリー05、了解!』
『ヴァルキリー06、了解。』
バランスを崩して倒れたヴァルキリー07の不知火の周囲に突撃前衛の3機の不知火が着地し、うずくまるヴァルキリー07の不知火にヴァルキリー04の不知火が近づいていく。
『動けるか、三原。』
三原と呼ばれたのはヴァルキリー07のコールサインで呼ばれる新参衛士の一人だ。
『は、はい、先輩・・・!』
ヴァルキリー04の不知火に肩を貸され、立ち上がる三原機。
そこに迫る影がいた。
「急速接近する反応・・・?ヴァルキリー04、危険だ!」
中隊メンバーの一人であり、ヴァルキリー03のコールサインを持つ伊隅みちる中尉が、ヴァルキリー04へ警告する。
『単機での突貫・・・!?』
『速い・・・!』
『弾幕を張れ!奴を止めろ!』
中衛の不知火数機がオレンジ色の機体へ弾幕を張るが、突撃砲から放たれる弾丸は全て機体後方に置いていかれるばかりだ。
『この・・・!』
ヴァルキリー05とヴァルキリー06の不知火が間へと割り込んで進行を阻もうとするが、
『な、ぁ・・・!?』
弾幕の中真っすぐ突進してきたオレンジ色の機体は、2機から少し離れたところで跳躍すると、ヴァルキリー06の不知火の肩を踏み台にして軽々と突破する。
『舐められたものだ!』
三原機に下がるよう指示を出し、ヴァルキリー04の乗る不知火が臨戦態勢に入った。
『ヴァルキリー04!単機で突撃してきたとはいえ、他の機体の位置取りが未知数だ!態勢を立て直すために―――――』
『もう遅いですよ・・・!』
隊長であるヴァルキリー01がヴァルキリー04へ退避指示を出すが、急激に距離を詰めたオレンジ色の機体によって、動きを封じられる。
『この私相手に単独とは、良い度胸だね・・・!』
オレンジ色の機体が引き抜いたのは、特殊な形状の長刀だった。
それが、不知火が引き抜いた長刀とぶつかり合い、弾かれる。
『くぅっ・・・!』
態勢を立て直して正面のオレンジ色の機体を探すヴァルキリー04。
一瞬、彼女の背筋に寒気が走る。
「ヴァルキリー04!狙われているぞ!」
みちるが、ヴァルキリー04に叫んだ。
『ーーーーー』
直後、ヴァルキリー04の機体が狙撃され、崩れ落ちた。
『ウルズ03よりウルズ01へ。敵機への狙撃命中を確認。良い腕ですね?』
『おー、崩れたッスよあの不知火。ああ、周囲のは派手に弾幕を展開するッスねぇ。ウルズ02はヴァルキリー中隊の被弾機2機との距離を詰めてます。あ、墜とした。』
仮想空間における廃墟の都市群。
その中に、身を潜める3機の戦術機がいた。
全てが、試作機であることを示す
ウルズ03のコールサインを持つ衛士が、戦況をモニターしていた。
オレンジ色の機体―――――ウルズ02のコールサインを持つ衛士が乗る機体は、吹雪の改修機の1機である「雪風」が、狙撃を食らった2機を平らげて一気に距離を引き離していく様子をモニター越しに眺めている。
「そう、それは良かったわ。では、次の行動に移りましょう。物事は何事もスマートに、ですから。」
それを聞いたウルズ小隊の隊長たるウルズ01は、すぐに次の指示を出していく。
『ウルズ03、了解。』
『ウルズ04、了解ッス。』
少数精鋭による奇襲攻撃。
戦闘の第1段階は終了した。
狙撃姿勢を解いて、立ち上がるのは同じオレンジ色のカラーリングの「初風」だ。
立ち上がると狙撃用のライフルを腰部武装ラックにマウントし、背部武装ラックから専用の突撃砲をマニピュレータで掴むと構える。
『こちらウルズ02。所定のポイントまで後退完了。次の指示を待つ』
ヴァルキリー中隊を振り切ったウルズ02の雪風が、ポイントについたことを知らせてくる。
「上々よ。では、このまま畳み掛けましょう。
『連携コードは?』
「“ウルズ・ストライク”。パーティの始まりです。」
短い会話を交わして、残ったウルズ小隊の3機は移動を開始した。
『ヴァルキリー04、行動不能!ヴァルキリー07も撃墜されました!奴ら、最小単位で私ら相手にここまで・・・!』
ヘッドセット越しに聞こえた僚機の衛士の悲鳴に似た声。
それを聞きながら、みちるは仮想シュミレーター内で再現された市街地の中で乗機である94式戦術歩行戦闘機「不知火」を走らせていた。
『ヴァルキリー01よりヴァルキリー各機へ。既にこちらは先制攻撃による奇襲攻撃で2機が落とされた。しかも、
耳に届くのは、現在のヴァルキリー中隊の隊長である桐生瑞樹大尉の声だ。
『悔しいが、この状況はこちらの慢心が招いた結果だと認めざる負えない。特技の連中だからといって、甘く見たツケが回ってきたという事だ。』
遮蔽物に身を隠した隊長機の横へとみちるは自分の機体を着地させる。
「申し訳ありません。迎撃後衛のポジショニングからでは、後方からの狙撃の位置を正確に割り出すことは距離の問題もあってできませんでした。申し訳ありません」
『気にするな、伊隅。隊長、まずは一度陣形を立て直しましょう。二人の抜けた穴を埋めないと。数で勝っているのは依然こちらですから、その利点を最大限に活かすようにして。』
そう言ったのは、ヴァルキリー02のコールサインを持つ副隊長の女性衛士だ。
『ああ、そうだな。前衛の補填はヴァルキリー02が埋めろ。やれるな?』
瑞樹がそう指示を出し、ヴァルキリー02は指示に従って前衛にポジションチェンジを行う。
『一時的に全体のラインを下げる。』
彼女の指示で、ヴァルキリー中隊の残存機は一時的に後退していく。
「(やはり、只者ではないということか。)」
ヴァルキリー中隊の面々は当初、この模擬戦で圧倒的に不利な状況で行われるという内容に若干の不満を抱いていた。
勝負を挑んできた形の特技研所属の試験部隊「ウルズ」のメンバー数は、ロックオンを入れて6名。
そして、彼女たちの現在の相手はジーナとロックオンを除いた4名を相手に行われていた。
ヴァルキリー中隊は、全て同じ不知火で構成されている。
武装タイプは違えど、帝国軍制式採用の不知火は優秀な機体だ。
吹雪の改修機で構成されたウルズ相手にここまでは苦戦するなどとは毛程も思っていなかった筈だ。
『ヴァルキリー01よりヴァルキリーズ各機へ。陣形を組み直す。ヴァルキリー04、07の抜けた穴をヴァルキリー02が埋める。残りは当初の構成のままで再度部隊を展開。中衛は前衛の援護だ。やれるな?』
『ヴァルキリー09、了解。』
『ゔ、ヴァルキリー11、了解!』
『ヴァルキリー08、了解であります。』
前衛が前面へと展開し、それを援護するように中衛が展開していく。
短い時間での陣形立て直しは、流石ヴァルキリーズと言うべきか、迅速に行われた。
前衛の位置に戻ったヴァルキリー06から全機に通信が入る。
『な・・・!?た、単機でまた突っ込んでくるやつがいます!』
戦域マップに1つの反応が現れる。
『さっきの奴ね・・・!三原の仇、取ってやる!』
『あまり熱くなるなよ、ヴァルキリー05?』
『わかってますよ。頭は冷静ですからね?』
『こちらヴァルキリー02。ヴァルキリー05、06と共に前方の敵機を迎撃する。先程と同じ手が通じないということを思い知らせてやれ!』
『了解・・・たっぷりと可愛がってやりますよ!』
ヴァルキリー02の原山礼子中尉の号令に応じて、ヴァルキリー05の水野奈緒中尉が吠える。
だが、彼女たちの思惑は、息を潜めて射点についていた狙撃手に狂わせることになる。
『そこのオレンジ色!さっきの借りを返させてもらうわよ!』
オレンジ色の機体ーーーーー先程と同じ、雪風が前衛とコンタクトし、それ目掛けて後方から援護を受けながらヴァルキリー05の不知火が肉薄する。
『今度こそ、ヴァルキリーズの
血の気の多いヴァルキリー05の不知火が、ジャンプと同時に下方へ跳躍ユニットを噴射させ、ブーストダッシュの要領で単機突撃してくる吹雪の改修機目掛けて突撃砲による掃射をしながら攻撃を仕掛けた。
「同じ手は二度も食わない。そう思っている・・・」
機体を突撃させながら、ウルズ02のコールサインを持つ青年が呟く。
「残念だよ。同じ手を通用させるために、こちらも戦術パターンをいくつも用意してるんだ。」
『そういうことだ。ウルズ02、そのまま前衛を引き摺り出せ』
「ウルズ02、了解。」
そうして、青年ーーーーーフレッド・リーバー少尉が、突撃をしたことによってヴァルキリー中隊の前衛が彼の乗る雪風目掛けて攻撃を仕掛けてくる。
突撃砲による掃射を行いながら、距離を一気に詰めてきた。
「そんな攻撃、当たらない。」
機体を横に逸らして、着地も考慮した回避運動をして格闘戦に持ち込ませないように絶妙な距離を保つ。
しかし、単機が故に完全に自由とはいかない。
リーバーの機体を包囲するように、別の前衛の不知火が動く。
「そうやって俺に気を取られると、怖い奴に刺されるぜ?」
反撃せずに回避に徹する彼の機体が、ついに捉えられた。
『そこだぁ!』
「オープン回線・・・!?」
斬り掛かってきた不知火に、ようやく剣を引き抜いて迎撃を行う雪風。
雪風のマニピュレータが逆手に持っているのは、専用の格闘専用武器だ。
ブレードトンファー。
腰部にマウントされている武装の一つ。
持ち手の部分にはマニピュレータで操作できるスイッチが仕込まれており、これによってある“隠し機能”を発動可能だ。
『妙な武器ね!さっきはうちのをよくもやってくれたじゃない?今度は私が可愛がってあげる・・・!』
「なんだ。戦闘中にお喋りするのが好きなのか?怖いな。逆ナンってやつかね。」
軽口を叩いてオープンで話しかけてきた相手の衛士に返すリーバー。
『ああ。そう取ってくれても構わないわよ?まあ・・・どっちにしろアンタはここで落とす!』
不知火と雪風の刃が再び交じり合い、弾かれる。
「ハッ。そいつはいいが、あんた余所見してて大丈夫か?」
『何が・・・よッ!』
再び交じり合い、弾かれる刃同士。
「ああ・・・悪い悪い。お節介ってやつだよ」
ーーーーー馬鹿の一つ覚えを正すためのな。
雪風が横へ飛ぶ。
隙だらけの跳躍。
『ふふ・・・もらったぁ!』
次の瞬間、
『ヴァルキリー05!回避しろ!』
『え?』
『奴の狙撃だ!』
ヴァルキリー05の管制ユニット部が撃ち抜かれた。
模擬戦が終了する。
結果は、ヴァルキリー中隊の辛勝だった。
「まあ、結果としては上々か。」
記録されていた模擬戦の映像を観ていたロックオンは、1人そう呟いた。
「ご覧頂けましたか、少佐。」
ロックオンの座るデスクの後ろ。
彼の背後に一人の女性が現れる。
「ああ、アンタか。」
そこに立っていたのは、鮮やかな金色の髪を後ろで結い上げた少し鋭い目つきの女性ーーーーーリザ・ホークアイ中尉だった。
「今回の模擬戦、それなりに有意義なものになりました。未だ未熟なヴァルキリー中隊の面々も、教訓を得る良い機会になったでしょう。」
淡々と今回の模擬戦における自分なりの分析を述べていくリザ。
「手厳しいねぇ、うちの副官は。あと、まだ俺は少佐じゃあないぜ?」
軽口を叩くロックオンに、彼女は「そろそろ辞令が下る頃でしょう?」と返す。
「次の作戦においては、隊長も戦闘に参加すると聞きました。その際には、貴方の階級を少佐に、私を大尉にと。博士から、直接聞かされているはずですが?」
「わかってるからそんな怖い顔をしなさんな。それで、2号機の調子はどうだ?他の連中と、他の3機の調子もだ。」
話題を切り替えようと、今回の模擬戦における機体と衛士の状況を聞いていく。
「まだ実機による訓練は数える程しかできていません。大体が、シミュレータを用いた訓練ばかりですからね。ですが、補充の2人もよくやってくれています。特に、雪風に乗っているフレッド・リーバー少尉に関しては。」
フレッド・リーバー少尉。
特技研において、「マインドシーカー」の改修にロックオンとジーナが回ったため、増員が求められた際に、配属されてきた衛士のうちの1人が彼だった。
ヨーロッパ戦線で戦っていた衛士だったが、「かつての上官が自分に殺意を抱いていたという理由で、上官を殺した」という前科があり、そのために優秀な衛士であるにも関わらず干されている状況だったため、特技に拾われた形となっている。
その彼が任されたのが、かつてジーナが調整を行った近接戦特化型の「雪風」だった。
「先程の模擬戦でも、相手の突撃前衛を3人も食いました。いくら私の援護があったとはいえ、です。」
模擬戦においてウルズ小隊が披露した「ウルズ・ストライク」と呼ばれる連携攻撃は、雪風による敵機の誘導の後、誘き出された敵機を初風が狙撃。ヒビが入った陣形を、背後に控えていた「浜風」「磯風」とともに「雪風」が食い破って乱戦に持ち込み、敵を殲滅するための陣形だった。
早い話が、「穴をあけて、広げる」。
しかし、人数が少ない上に体良く2機を序盤に屠ったとはいえ、その後に強引に行った連携パターンは初見だったのも幸いしてヴァルキリー中隊を半分にまで減らし、最終的には3機になるまで追い詰めたが、惜しいところで敗退した。
しかし、開始当初は3倍もの戦力差だったのを一瞬でも覆したという事実は大きかった。
「機体の性能もさることながら、彼の操縦技術にも目を見張るものがありますね。」
「これでとりあえずは、第3世代機相手に十分以上にやり合えるってのがシミュレータ上でとはいえ、証明できたな?」
「その通りです」と彼女は言うと、腕に抱えていた報告書を彼のデスクに置く。
「というわけで、こちらに目を通しておいてください。今回見受けられた改善点の他に、彼らの動きに合わせた改修案です。試作機をそのまま前線に投入するという話ですから、それなりの調整は必要です。時間も押していて大変でしょうが、まずはこちらに目を通して頂けると幸いです。」
それでは、失礼します。
「・・・結構な量があるな、これ。」
2、3cm程の暑さの報告書を横目で見ると、ロックオンは小さくため息を吐いた。
仙台基地内の一角にあるPX。
昼時というのも重なって、その場所にはかなりの人数が昼食をとりにきており、賑やかだった。
その中を、衛士であることを示すウィングマークと、その上に特技のマークのバッジをつけた3人組が歩いている。
「相変わらず、この時間帯は騒がしいねー」
周囲の様子を眺めながら、間延びした声でそう言ったのは、ウルズ小隊の一人であり、模擬戦ではウルズ03のコールサインで呼ばれていた女性の衛士だ。
クリスティナ・シエラ。
階級は少尉で、ヨーロッパ戦線において戦っていた衛士の1人。
ロックオンのいた世界においては、同じ組織に属しており、悲劇的な最期を迎えた少女と同じ名前、同じ外見をしている。
部隊内では、「クリス」の愛称で呼ばれていた。
「仕方ないッスよ。数少ない憩いの時間ッスからねぇ」
軽い口調でクリスにそう返したのは、国連軍のBDUを着崩した格好で着ている青年だ。
リヒテンダール・ツェーリ。
クリスと同じく階級は少尉で、特技研に配属される前は彼女と同じ部隊に所属していた。
こちらは、「リヒティ」の愛称で呼ばれている。
「・・・・・」
何も喋らないまま、一定の距離を保ちつつ二人の後ろを歩いているのはリーバーだ。
3人は長蛇の列になっているカウンターの方へ行くと、列に並ぶ。
「それにしても、さっきの模擬戦。惜しかったッスねー」
「だったねー。でも、折角追い詰めたのにリヒティがトチるから囲まれちゃったんだよ?あれ。」
二人が会話をしている内容は、さきに行われたヴァルキリー中隊とウルズ小隊との模擬戦の時の状況についてだ。
「あれは仕方なかったんスよー。リーバー少尉が突進していくから、それをフォローしようとしてですねー。」
「別に俺は、フォローしてなんて頼んでないが?」
「わーかってますって。いつも通りにやれば良かったのに、ちょっと欲出した自分も悪いッスから・・・」
トホホ、という様子で言うリヒティ。
さきに行われた模擬戦において、連携攻撃によってヴァルキリー中隊をあと一歩のところまで追い詰めたウルズ小隊だったが、リーバーのフォローに入ったリヒティの機体ーーーーー4号機である「磯風」だったが、生き残っていたヴァルキリー中隊の2機が彼の動きをマークしており、セオリー通りに動いてしまったがために、彼は自ら渦中に飛び込んでしまったのだ。
高速移動するリーバーの雪風。
その後ろを追いかけるように動き回る磯風。
その動きを予想していたかのように、味方に甚大な被害を出しながらも冷静に息を潜めて隙を伺っていたヴァルキリー中隊の不知火2機。
網にかかった獲物を逃さないように、確実に数を減らすためにリヒティの機体は着地の一瞬の隙を突いた高台からの奇襲攻撃がリヒティ周囲の瓦礫を崩した。
想定外の事態に上昇を図ったリヒティの磯風だったが、上昇の際に無防備になる一瞬を突いて高台で待機していた2機に両方向から蜂の巣にされ、撃墜された。
「それに、クリスだって僕がやられちゃったあと、直ぐに撃墜されてたじゃないッスかー。」
そこから、ただでさえ数が少ないウルズ小隊の陣形は崩され、磯風撃墜に動揺を見せたクリスの乗る3号機「浜風」が迎撃後衛の不知火に狙撃され、行動不能に。
それによって陣形は崩れ去り、数で勝るヴァルキリー中隊残存機に包囲され、1機を道連れにリーバーの雪風が撃墜され、残ったホークアイの乗る初風も狙撃によってさらに1機を削ったが、接近戦に持ち込まれ撃墜された。
「そ、それは仕方ないじゃない。まさかあんなあっさりと落とされるなんて思ってなかったもの」
「リーバーさんは凄いっすよねー。あの状況で1機道連れにしたんスよね?」
「ああ。まあ・・・あれくらいでも、俺なら一機なら道連れにできるってことだよ。」
そんなことを話しながらしばらくすると、自分たちの番が回ってくる。
リヒティ達が自分の分の食事を頼むと、リーバーも続いて頼み、自分の分を取る。
「あれ?一緒に食べないでいいんスか?」
別の席で食べようと、別方向に歩き始めたリーバーに、リヒティが話しかける。
「ああ、大丈夫だよ。俺は寂しがりではないからな。それに、痴話喧嘩の邪魔をするわけにもいかないだろ?」
そう言って背を向ける。
後ろからリヒティではなくクリスの抗議する声が聞こえた気がした。
時間は刻一刻と迫っていた。
そして今、誰にも知られていない場所である会議が行われていた。
それは、パレオロゴス作戦やスワラージ作戦のような過去に行われた大規模作戦以来、久しぶりに行われる一大犯行作戦―――――明星作戦についてだ。
「第四の連中、最近は特に調子に乗っているようだな。」
「あんな夢物語を信じている人間の気が知れませんな。」
その場にいたのは、「ある計画」に賛同せず、水面下において「ある兵器」を主眼においた殲滅作戦と地球を放棄した後に選ばれた人間のみで外宇宙における地球に類似した惑星へ逃げるための計画―――――通称「第五計画」を推進する者達だ。
彼らにとって、自分たちの利権が全てであり、それを邪魔するものは何であろうと排除する。
「我らには、神の火に変わる新たな灯があります。新たな世界を開くための鍵が。」
彼らの手にあるのは、作戦計画書の他にもう一つ、「ある兵器」の資料も添付されていた。
「5次元弾頭弾。BETA由来のG元素を用いた決戦兵器。これを使えば、あのオリジナルハイヴとて殲滅は容易であろう?」
彼らはその兵器を切り札に、今回の作戦で覆しようのない結果をもたらすことで「第四」と呼んだ者たちを葬り去ることを画策していた。
その様子を、会議室の端で眺めている人間がいた。
特徴的な金髪をしっかりとセットし、清涼感を体現したかのような鮮やかな淡い水色のスーツに身を包んだ人物。
彼の名は、ムルタ・アズラエル。
ブルー・コスモスと呼ばれる組織の盟主であり、この第五計画への出資者の一人としてこの会議に同席していた。
「(ああ、まったく。この人たちはいつも変わらず、わが身可愛さのお話ばかりですか。)」
議論を行う老人たちと他の「第五」のメンバーを冷めた目で眺めながら、そんな考えを巡らせる。
彼は、当初は良いビジネスとしてこの計画への出資を認めていた。
だが、時間が経つにつれてわかってきた「目的」に対して、彼は少し失望の念を抱いていた。
そしてついに、今日を最後にすることを決めた彼は、そっと立ち上がると退席しようとする。
「どうした、アズラエル。どこへ行く?」
それに気づいたメンバーの一人が、彼に話しかけてくる。
「いいえ。皆さん、議論に熱が入っておられるようなので、そろそろ僕は退席しようと思ったまでですよ。」
そう言って彼は部屋を後にする。
外へ出ると、少しネクタイを緩めると、襟元に指を入れて窮屈だった首周りを緩めていく。
「(残念です。もう少し夢がある話だと思いましたがね。僕は、この
そうして、外に待たせていた車に乗り込む。
「お待ちしておりました、代表。」
車に乗っていた男性が、アズラエルへと話しかける。
「ああ、ありがとう。では、行きましょうか。宇宙人どもを、地球上から駆逐するために。」
アズラエルがそう言うと、車が動き出す。
「はい。」
―――――青き清浄なる、世界のために。
アズラエルと共に車に同乗している人物―――――E(エターナル)・A(アラン)・レイが、薄い笑みを浮かべながらそう言った。
まさかの人も登場。
これに関しては、最近改めて構想を練った際にちょい役で出してみた大物として考えていました。
ほら、この人政治面じゃめっちゃ優秀だと思うんですよ。
そんなキャラじゃない?それは、僕が決める事です(断言)←オイ
では次回予告をどうぞ。
何を信じ、何を求め、人は戦うのか。
悪魔の集団によって奪われた大地を取り戻す。
それは仇か、或いは復讐か。
非情な現実を覆すための反撃の準備は、着々と進められていく。
反撃の時まで残り僅か。
次回「前夜」
夜闇を切り裂け、ヘルダイバー!