Muv-Luv Alternative✖️機動戦士ガンダムOO 地獄に降り立つ狙撃手   作:マインドシーカー

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この小説は、ご覧の作者の提供でお送りいたします。

はい。最近色々ガバってる作者です。
いっぱい指摘されながら、冷や汗かきつつ文章を書いてます()
今回のお話は、前回も最初に出てきたある機体のお披露目的なお話。

あとは、自分にとっての色んな確認も兼ねてるお話になります。

相も変わらずグダグダとしちゃってるんで、そこはご容赦を…。

ご指摘、修正点、ご要望など、設定関連に関してはメッセージなどで気軽に送って頂いて構いません。
勿論感想もすごくすごーく期待して待っています。
ほんといつも感想とかそういうのを感想欄に頂けるだけでも「見てもらえてる…!」ってなるんで。頑張れるんで。頑張れるんで。(大事なことなので2回ry)

※ただし作者は豆腐メンタルなので優しく対応してもらえると幸いです。

それでは、どうぞ。

イメージOP「Even...if(English Ver)」

追記
2019年11月3日 作戦概要の説明部分など、一部を修正



story09「前夜」

1999年5月某日。

 

『システムの起動を確認。指定ポイントへ向かって下さい。』

 

「ウルズ01、了解。」

 

『これより、F-14/AN4「ヘルダイバー」の動作試験を行います。滑走路へ移動を開始してください。』

 

暗闇に包まれた管制ユニット内。

複座になっているその中が、システムが立ち上がっていく事で各部に光が灯っていく。

 

「さて、こいつの初試験だ。いけるな、ハロ、ジーナ。」

 

ロックオンの座る上の座席のコンソール部分、右側にハロが接続されている。

前の座席には、ジーナが座っていた。

 

『初試験!初試験!』

 

「ええ、任せて!この子の初めてのお披露目よ。ふふ、まるでお忍びのお姫様みたい。」

 

「よっし、行こうか!」

 

全身をダークグリーンとモスグリーンの2色に染められた戦術機が格納庫から出てくる。

その機体は、F-14/AN3「マインドシーカー」の改修機。

型式番号は便宜上F-14/AN4。

機体名称は「ヘルダイバー」。

 

歴史の闇に消えた名機が再び表舞台に現れた瞬間だった。

 

 

 

『これが、“ヘルダイバー”ですか。』

 

演習エリアで先に待機していたウルズ小隊の一人、4号機「浜風」に乗っているクリスが、演習エリア内で動作試験を行うヘルダイバーを見ながらそう言った。

 

『そうみたいッスね。F-14ベースとはいえ、更に機体挙動が軽いし鋭い。ある意味じゃあ、アレは第3世代機すら超えてる可能性すらあるッスね』

 

ビルが密集した市街地を模した演習エリア内で、巨体に似合わぬ繊細かつ大胆な機動を描きながら飛び回るヘルダイバー。

元々、巨体でありながらその機動性は同じ第2世代機であるF-15(イーグル)すら超えていると言われていたF-14(トムキャット)

そこに改修を加えて電子戦能力その他を強化して運用されたのがF-14/AN3(マインドシーカー)であり、更にそこから改修を加えたワンオフ機がF-14/AN4(ヘルダイバー)だ。

 

『私たちの任務は、動作テストの観測。あの機体のテストデータで再現したシミュレータ上の同一機とは散々やりあったけれど、実機を用いたテストはこれが初めて。』

 

『わかってますよ。ちゃんとデータ収集もしていますから。』

 

「浜風」のカメラ越しに、動作データを収集していく。

暫く動作試験を行った後に、次に射撃試験へと移るヘルダイバー。

 

『流石は少尉。正確な射撃ですね』

 

専用の突撃砲を手に持ったヘルダイバーは、高速移動しながら演習エリア内に設置された標的を正確に打ち抜いていく。

 

「・・・・・」

 

その様子を、リーバーはじっと見つめていた。

正確無比な射撃は次々に標的を撃ち抜いていき、僅かな時間で近・中距離における射撃テストは終了する。

続いて行われるのは、狙撃のテストだ。

 

その武装は、肩部横の武装ラックに懸架されていたものだった。

 

デュナメスの持っていたGNスナイパーライフルを参考にし、更にはロックオンが提供した彼の世界での技術を応用して完成したのが、この「リニアスナイパーライフル(LNR)」である。

 

ユニオンが運用しているフラッグや、AEUが運用するイナクトが主に装備していたリニアライフルないしリニアキャノン。

そこから着想を得て、更にはワンオフというのもあって実現した戦術機用小型バッテリーにより、元々拡張性が高く出力もそれなりに高かったトムキャットの更に上をいく大出力を得たヘルダイバーは、これによって様々な武装を装備することが可能となっていた。

 

その一つがこのLNRだ。

 

大幅に進歩した通電技術によって、開発途上であり半ば頓挫しかけていたレールガン開発に加えて、様々な大出力兵器の実現が可能となり、その副産物としてこの武装が生まれた。

 

貫通力は折り紙付きで、突撃級であっても一撃で仕留められる程の威力を持っていた。

武装としては、狙撃用ライフルであるため装弾数を考慮した「狙撃モード」の他に、先ほども言った突撃級であっても一撃で仕留められる程の威力を発揮する「砲撃モード」が存在し、二つの要素を兼ね備えている。

 

狙撃モードの欠点としては、高速移動中でもハロの演算能力とジーナの高い空間処理能力に加えて、マインドシーカーよりも更に強化されたセンサー類により正確な狙撃が行える代わりに、砲撃モード程の火力は出せないというものだった。

と言っても、狙撃モードでも要撃級などは十分に対処でき、完全なアウトレンジからの攻撃が可能なため、距離と弾数が許すのであれば一定数は単機で狩れる程の威力がある。

 

反面、砲撃モードの場合には反動を軽減するための機体の固定や、大幅な電力消費が求められる上に装弾数が限られてくるため、現在実用化が急がれるレールガンなどの兵器類に比べると取り回しも汎用性も悪い。

そのため、初撃による進行停滞や、突破口を開く際など、奥の手や切り札といった要素の方が強いため、使われる場面が限られてしまうという欠点があった。

 

現在は基本的に用いる狙撃モードでの射撃テストだ。

 

頭部のヘルメット状のセンサーが下りて狙撃モードへと移行する。

鳥のような鋭利な頭部は、そのヘルメット状センサーによってまるでマッコウクジラのようなイメージを受ける頭部へと変質している。

膝立ちでの狙撃態勢を取るヘルダイバーがライフルを構えると、数秒して射撃が開始される。

 

『ヒュー。一発も外してないッスね。』

 

3発が発射され、その全てが標的中央を直撃していた。

続けられる狙撃のテストもすぐに終わり、次に格闘戦のテストに移行する。

 

『ウルズ02よりウルズ05、ウルズ06へ。これより、ヘルダイバーとの格闘戦における実機を用いた模擬戦形式のテストを行います。』

 

『ウルズ05、了解ッス。』

 

『ウルズ06、了解♪』

 

2機が動き出し、演習エリアへと入ると、指定されたポイントへと向かう。

 

「・・・・・俺ではないんだな。」

 

ふと、そんな言葉が漏れた。

 

『不服ですか?ウルズ04。』

 

「ああ、少しな。」

 

『相変わらずのその態度も、そろそろ改めさせなければいけないかしらね?』

 

軽い口調でそう返すリーバーに、ホークアイが少し苛立ちを含んだ声で返すと「失礼いたしました、小隊長殿」と言って受け流す。

 

「さて、お手並拝見だ。」

 

彼はそう言うと、始まった格闘戦テストの様子の記録を開始した。

 

 

 

 

 

「予想以上の完成度になりましたな、アレは。」

 

仙台基地の中にあるAL4占有区画。

そこの一角にある特技が使っている部屋で、テストの様子をモニターしている映像を腕組みしながらジッと見ている白衣の女性ーーーーー香月夕呼に話しかける人物がいた。

 

「あら、来ていたのね。」

 

彼女が声の主の方に視線を向けると、そこに立っていたのはピシッとしたスーツを着て、帽子を被っている英国紳士風の服装の男性だ。

帝国情報省第二課長という地位におり、表向きは帝国城内省付きの貿易商として動き回っており、多方面のおいて顔が利く数少ない優秀な人材であり、今現在は夕呼の共犯者の一人として、裏で暗躍を続ける人間ーーーーー鎧衣左近。

 

「ええまあ、果たして「人類の希望」と称される計画において行われている次世代兵器の開発と技術の評価・・・これを知る人間からは、「お遊び」とさえ評される行為が、どれほど価値があるのかをしかとその目で確かめねばなりませんからな」

 

はっはっは、とわざとらしく笑う彼に、夕呼はまるで厄介者を扱うような態度を向ける。

まあ、実際のところ、方々から便利屋扱いも厄介者扱いもされている彼にとっては、痛くも痒くもない上に、むしろそういう評価は褒め言葉や賞賛に近いものであった。

 

「さて、そろそろ行われる予定の、とある作戦の事ですが、少し博士のお耳に入れたい情報もありまして」

 

「何かしら?」

 

唐突にこんなところでそんな話を言い出す鎧衣だが、夕呼は特に止めるわけでもなく話を続けさせる。

 

「我々を常々快く思っておられない第五の方々が、現状を面白くないと考えているようで・・・」

 

「それで?」

 

「彼らは、このイベントを有効活用するために、とある贈り物を、横浜宛に宇宙から贈ろうとしているようです。」

 

「宇宙から」。

つまりは、国連宇宙総軍も一枚噛んでいるという事だ。

 

鎧衣が「第五」と呼んだそれは、AL4計画の予備案に当たるAL5計画推進派を指す言葉だ。

 

地球救済を急務とし、最終的にはオリジナルハイヴの攻略という夢物語を現実にしようと奔走するAL4に対して、AL5は人類の選定を行い、その切符を手にした者のみで構成された移民船団を新たな惑星へ移住させ、地球を捨てるという計画だった。

 

ある世界においては、AL4の失敗及び凍結に伴って同時に発動されたAL5計画。

その計画発動に伴い開始された地表のハイヴ一掃作戦「バビロン」。

これは、G弾と呼ばれる新型兵器の集中運用によってオリジナルハイヴ諸共、世界各地のハイヴを一掃する作戦だった。

しかし、この世界においてはG弾による被害を考慮していなかったため、地球に取り残された人類は人類同士で再び生存を賭けた戦争が勃発する羽目になったわけだが。

 

話が逸れた。

 

ようは、先程言ったG弾ーーーーー5次元弾頭を用いた新型爆弾の実戦投入が検討されている・・・というよりかは、既に決定事項に含まれている可能性が十分に考えられるという鎧衣からの警告だった。

 

「共同作戦でまともに戦う気があるのは、ウチの派閥側の国連軍に帝国軍、そして帝国に大きな借りと恩がある大東亜連合ってわけね。」

 

「それと、我が国にとって良い感情を持つ熱き合衆国魂に溢れる方々や、この計画を推進している方々も、ですな。」

 

夕呼の皮肉混じりの言葉に、鎧衣は苦笑混じりに付け加える。

 

「そういえば」と夕呼は思い出したかのように言う。

 

「この間搬入されてきた第3計画の忘れ形見(マインドシーカー)。あれも、そういう連中の協力があったから運び込めたのだったわね。」

 

「そうなります。無論、この鎧衣が身を粉にして奔走したという事が最も大きかったわけですが。」

 

わざとらしく大仰な言い回しをすつ鎧衣。

 

実際のところ、別の計画であるAL3の副産物たるF-14/AN3(マインドシーカー)を運び込むまでの段取りは、関係者との接触が可能であり、多方面に様々なパイプを持つ鎧衣がいなければ上手く段取りを組む事自体が正直なところ難しかった。

AL4の権限によって、と言ってもこちらは日本が主導しているのに対して、AL3の場合はソビエト連邦の管轄だ。

アメリカも一枚噛んでいたとはいえ、大きな隔たりは同じ計画の系譜内だとしても取り払いきれない物は多く存在する。

だからこそ、多方面外交が得意な鎧衣は重宝されるわけだ。

 

「まあ、普段の仕事に比べれば幾分か楽な仕事ではありましたがね?はっはっは。」

 

会話が続けられる中で、夕呼が視線を向けるモニター内では、1機で2機を相手に善戦するヘルダイバーの様子が映し出されている。

 

「成果は、とりあえずのところは次の作戦にて提示されるでしょう。ここで得られた成果が、如何に上の方々への良い交渉材料になり得るか・・・」

 

「結局のところ、貴方の言った通りこれから次第。幾ら準備をしたところで、必要な時に要求された範囲での結果が出なければ、そこで終わりだもの。」

 

「期待の星、ウルズ小隊。彼らの活躍を楽しみにしております。」

 

「あら、もういくのね?」

 

帽子を被り直すと

 

「はい。これでも多忙な身故に」

 

鎧衣はそう言うと、部屋を後にした。

ドアが開き、通路へと出る。

 

「おや、これはこれは。」

 

彼が外に出ると、彼を待っていた人間がいた。

夕呼ではなく、鎧衣左近という男を。

 

「城内省の方が、こんなところで基地の見学ですか?」

 

そこに立っていたのは、AL4計画において鎧衣とは別に、様々な人間とコンタクトをとっている人物だった。

 

「いえいえ。少し、見学も兼ねてお話をしていただけですよ。それで、貴方は?」

 

鎧衣がそう返すと、彼は自身の名を名乗る。

 

E(エターナル)A(アラン)・レイ。国連軍の諜報部に籍を置く者で、階級は中佐です。親しい者は、レイと呼びます。そうお呼び頂ければ、幸いです。」

 

その笑顔は、まるで男装の麗人のような印象を受ける。

 

「ほう?私のことはご存知でしたか。私もお初になります、レイ中佐。」

 

鎧衣は、特に反応を示すわけでもなく、いつもの調子でそう返した。

 

「お部屋を用意しました。立ち話もなんですから、そこで紅茶でも飲みながらお話をいたしませんか?」

 

スカイがそう言うと、少し訝しげな視線を向ける鎧衣。

 

「それはどのような?」

 

そう問いかけると、E・A・レイは薄い笑みを浮かべながらこう答えた。

 

「人類の、今後についてです。」

 

 

 

 

 

格納庫。

そこへ戻ってきたウルズ小隊の面々は、それぞれの機体を所定の位置に収めて機体から降りる。

 

「大尉、機体の調子はどうでしたか?」

 

機体の側に来ていた整備班長が、下から上のタラップを歩くロックオンへと聞く。

 

「ああ、問題ないよ。むしろ問題が無さ過ぎて無気味なくらいだったよ。」

 

ロックオンはそう答えると、ジーナと一緒にその場を後にする。

 

「どうだった、新型の感想は?」

 

歩きながらそう聞くロックオンに、ジーナは「とても良かったわ」と答える。

 

「私の思い通りに機体が動くの。ハロのサポートもあるけれど、なにより空間が広く正確に見渡せるのは大きいわ?」

 

ESP発現者は別に、空間認識能力に長けた人間ではない。

しかし、彼女の場合は最近判明した事ではあるが、常人よりも色々な「視野」が広い事がわかっていた。

そのため、急遽彼女のための機体が用意されたという背景もある。

元来より、戦術機の操縦センスではリーバーと互角かそれ以上の能力を持つ彼女がいればこそ、ヘルダイバーという戦術機は攻防一体で隙の無い機体に仕上がっていた。

 

『ジーナガ凄イ!ジーナガ凄イ!』

 

「ふふ。おだてたって、何も出ないわよ?」

 

彼女が抱えるハロがそう言うと、満更でも無さそうにそう言葉を返す。

 

ヘルダイバーの改修作業に加えて、実機が組み上がるまでの間に機種転換も兼ねてフィッティングテストを行うべく特注で作られた複座型のシミュレータ。

 

これによって、試験工程は実機で行う以外の物は一気に行う事ができるようになり、その過程でハロのサポート端末としての導入も決定。

シミュレータにおける仮想運用試験では、ハロも交えた実戦形式のテストも行われるに至っていた。

その時に、ジーナはハロと初めて対面し、今ではすっかり「友達」としてよく一緒にいる。

 

「実際、ジーナは凄いさ。新しい機体をああも使いこなすんだからな。あそこまで改修したら、最早別物って言っても違わないだろう?」

 

ロックオンが言うことは最もだ。

彼自身がいた世界の技術をふんだんに使用して改修されたヘルダイバーは、ベースはトムキャットのカスタム機であるマインドシーカーだが、最早別物の機体と言っても過言では無いほどの改修を加えられていた。

機体自体の動力部における出力の向上に加えて、従来の戦術機とは異なる武装の数々や懸架位置。

機体コンセプトとしては、ロックオンがいた世界における主力兵器であるモビルスーツに近いものに仕上がっているのだ。

ワンオフであるが故にの結果ではあるが、この機体に用いられた様々な技術は将来的に必ず既存の技術を飛躍的に向上させるだろうと予想されていた。

 

現状は、評価段階であるため、以前作成された新型OS等もまだ時間的な問題で量産段階には至っておらず、悲しいかな、ウルズ小隊以外には配備されていない代物だった。

 

「ええと、新型OSの名前・・・確か、「GOS」って呼ばれていたわよね。」

 

彼女が言ったのは、新型OSの便宜上の名称だ。

現在、戦術機において導入されているOSを遥かに凌駕する性能を持つもので、ベースにされているのはデュナメスに搭載されていたものの他に、予想外にハロに内包されていた情報の中にあったものを応用し、作り上げたものだった。

デッドコピーと言えば聞こえは悪いが、実際のところは言葉以上に高性能なOSであり、将来的にはこれを導入することで現在の損耗率を3割〜5割ほど軽減できることを期待されていた。

それほどまでに、画期的なOSだったのだ、これは。

 

大元はデュナメスのものであることから、ロックオンは「ガンダム」の綴りである「GUNDAM」の頭文字の「G」を取り、「G OS」と呼んでおり、これが特技研やそれに関わるこのOSを知る面々からもそう呼ばれるに至った経緯である。

 

「あれのお陰で、ユキカゼの時以上にあの子(ヘルダイバー)は動かしやすいの。まるで、自分の手足がそのまま動いているみたいに、私の思い描く動きがダイレクトにフィードバックされてる。」

 

「これもあのOSと、ハロのおかげね」と言いながら、ジーナはハロを抱きしめる。

 

「そいつは良かった。ある程度の項目はクリアできたからな。あとは、作戦に向けての追い込みに、機体の最終調整だ。」

 

ロックオンがそう言うと、ジーナは「わかっているわ」と答える。

 

「私たちの価値をここで示す。それで、コウヅキ博士の研究も、シュヘンベルグ博士の研究も、無駄では無いっていうことを証明するの。」

 

彼女は強い口調で言う。

 

「気負い過ぎるなよ、ジーナ。大丈夫だ、俺たちが力を合わせて奴らに対抗していくんだからな。」

 

ロックオンがそう言うと、ジーナは不安そうな表情を浮かべて言う。

 

「わかってる・・・だけど怖いの。何か悪い事が起こる気がする・・・」

 

歩みを止めて、ハロを抱えたままロックオンの背中に寄りかかるジーナ。

 

『ジーナ、元気ダセ!元気ダセ!』

 

「ハロは優しいね・・・」

 

ロックオンは振り返ると、ジーナを見る。

 

「大丈夫だ。」

 

ジーナを安心させるように、彼はそう言った。

 

「君は、俺が守る。任せておけって。これでも俺は、前に世界に喧嘩をふっかけた人間の一人だ。今更そのくらい、わけないさ。」

 

ジーナはその言葉を聞いて安心したのか、淡い笑みを浮かべこう言った。

ありがとう、と。

 

 

 

 

 

 

ヘルダイバーの実機を用いた初の評価試験から2か月ほどが経過し、いよいよ明星作戦を直近に控えた某日。

AL4占有区画の一角にあるブリーフィングルームに、デリング、ヴァルキリー、そしてウルズの面々が集められていた。

集められた面々を待っていたのは香月夕呼だ。

 

「態々皆を集めたのは他でもないわ。これから行われる明星作戦についてのお話よ。」

 

モニターに表示されるのは、攻撃目標を含めた横浜市を上から見た図と、立体的に見た図だ。

 

「既に5月に作戦開始が発令された甲22号目標、通称「横浜ハイヴ」攻略作戦では、その前段階として連日のように多摩川を境にして間引きが行われてきたわ。」

 

モニターにはこれまでの間引き作戦のデータと、これ以降の作戦概要が表示される。

 

「そして、8月5日に本格的な攻略作戦ーーーーー明星作戦が行われる予定よ。この作戦は、ハイヴ攻略のセオリーに従ってまず第一段階として国連宇宙総軍による装甲駆逐艦を用いた軌道爆撃が行われるわ。」

 

立体的に見た図では、衛星軌道上の国連宇宙総軍による軌道爆撃の爆撃ルートと、そこから極超音速の対レーザー弾頭弾を投下する。

 

「その後は、海上に展開する艦隊による艦砲とロケット砲による飽和攻撃を行う。勿論、レーザー級による対空迎撃は最初に行われる軌道爆撃に先に気付く筈よ。そこを逆手に取る。」

 

軌道爆撃に一早く気付いたレーザー級群は直ちに迎撃を開始するが、その際に発生するレーザー発射のタイムラグを利用して間髪入れずに艦隊による飽和攻撃を行う。

これによって、レーザーを弱体化させる重金属雲を目標周辺及び目標上空に発生させ、これ以降は徹底的な面による制圧攻撃を行うのだ。

 

「今回は、地上部隊による攻撃も同時並行で行われるわ。艦砲射撃に加えて、地上における砲兵部隊による面制圧砲撃。これで、地上のBETA群はレーザー属種も含め粗方掃除される筈よ。」

 

そして、作戦は第2段階の概略に入る。

 

「帝国海軍第二戦隊所属の水上打撃部隊が横須賀、横浜の二つの港を目指し突入。更に、東京湾内に封じ込められていた帝国海軍の艦艇群もこれに呼応して脱出も兼ねての突入を敢行するわ。」

 

そして、更に攻撃を行いながら海中からの「海神」を中心とした強襲上陸部隊の投入と、そして帝国本土防衛軍と帝国陸軍「ウィスキー部隊」(帝国陸軍機甲5個師団と戦術機甲12連隊で構成)による地上からの戦力投入を同時に行う。

これによって橋頭堡を確保し、ハイヴ本体から出てくる増援部隊を二つの方面に誘引するのだ。

 

「これが計画通りに成功すれば、作戦は第3段階に移行するわ。」

 

湾内に突入した艦隊による攻撃を行いながら、国連軍水上打撃群所属の「アイオワ」「ニュージャージー」「ミズーリ」「イリノイ」「ケンタッキー」及び第二艦隊第三戦隊「大和」「武蔵」による追加の制圧砲撃を行い、これに続いて機甲4個連隊と戦術機甲6個連隊を中心とした「エコー部隊」を太平洋側から投入。

上陸部隊の支援を行いながら、誘引したBETA群を迎撃しつつ戦線を押し上げていく。

 

「このエコー部隊投入に呼応して、A-01所属のヴァルキリー中隊・デリング中隊を投入。ヴァルキリー中隊はそのまま戦線に参加。デリング中隊は戦線投入後に各戦域の観測任務を主として戦場に展開、戦場の状況を逐一収集して頂戴。デリング中隊の場合には、戦闘だけでなく、この先のハイヴ攻略に役立てるよう、どんな些細な情報でも持ち帰ってもらうわ。」

 

続けて、作戦の第4段階の説明に入る。

 

「そして、これまで説明した状況が都合よく現実にすることができたら、お次は爆撃を終えた後に衛星軌道上を周回中の宇宙総軍による軌道降下兵団の投入よ。」

 

衛星軌道上からの軌道降下兵団による戦術機甲2個中隊をハイヴへ直接投入し、(ゲート)部の確保を行った後、ハイヴの地下茎構造内へと突入し、ハイヴ最奥部にある反応炉を目指し、最終的には攻略を目指す。

 

「そして降下兵団投入に伴って、同時に地上から先行突入部隊を強行突入させる。ここで、地上からの先行突入部隊に呼応して、ウルズの連中を戦場に投入する。」

 

これが、彼女が語ったハイヴ攻略までのシナリオだ。

 

「以上がこの作戦の大まかな流れよ。」

 

彼女はそう言うと、モニターに映し出された作戦概要を背に、最後に付け加える。

 

「なにより、今回の作戦はかなり大掛かりなものになるわ。だからこそ、不測の事態(・・・・・)は必ず起こる。それを考慮した上で、臨機応変に対応してみせなさい。」

 

そうして、作戦概要の説明は締めくくられた。

話が終わると、彼女は白衣を翻したその場を立ち去ろうとして、「ああそれと」と独り言を呟きながらブリーフィングルーム内にいた1人の男性を呼んで言った。

 

「ストラトス、貴方には話があるわ。後で、私の執務室に来なさい。」

 

ロックオンはそれを聞いて、「了解」とだけ答えた。

 

 

 

 

夕呼はブリーフィングを終えるとすぐに自分の部屋へと戻って作戦計画書に再び目を通す。

そうして暫くすると、部屋の戸がノックされた。

 

「入って頂戴。」

 

彼女がそう言うと、国連軍のBDUに身を包んだロックオン・ストラトスが入ってくる。

 

「お邪魔するよ」

 

彼は入ってくると、適当な椅子を見つけて腰掛ける。

 

「それで、話ってのはなんだいミス・コウヅキ。」

 

そう問いかけるロックオンに、夕呼は返す。

 

「そういえば言っていなかったわね。昇進おめでとう、ストラトス"少佐"?」

 

態とらしく言う夕呼に、「おいおい。昇進祝いするために態々呼んだのかい?」と肩を竦めてみせるロックオンに夕呼は意地の悪い笑みを浮かべながら言う。

 

「違うわよ。本題はこっち」

 

そう言って、ある報告書を手に持ってぴらぴらとなびかせるのを見せる。

 

「今回の作戦、これまでとは比べ物にならない規模の作戦になるわ。それだけ大きな作戦になれば、」

 

「十中八九、色んな奴らの思惑が介在する作戦であり、戦場になる。」

 

夕呼が言い終える前に、ロックオンが言葉を重ねる。

「そういうこと」と言って、夕呼は続ける。

 

「私が上に計画責任者として具申してGOサインが出されたこの作戦。その背景には、第5の連中の影もあるわ。」

 

「・・・」

 

「多分だけれど、これだけすんなりとこの規模の作戦が行われるに至った経緯に関わっているはず。でなければ、こんなに積極的に米軍もアクションを起こさないわ。」

 

「いつの時代も、こういう時ですら色んな連中の思惑で割を食うのは現場の連中か。」

 

嫌気が刺すよ、と言いながらロックオンはあきれた様子で首を左右に振る。

 

「仕方がないわ。私だって、第三者から見れば同じ穴の貉と言われても否定できない部分はあるから。・・・話が逸れたわ。」

 

夕呼は説明を再開する。

 

「恐らくは、この作戦では第5の連中の横槍が入る筈よ。奴らが使いたくて使いたくて堪らない玩具を手に入れたから、それを見せびらしたくて仕方がないというわけ。」

 

夕呼は、呆れた様子でそう言う。

 

「それが、デリングの連中を観測に回した理由かい?」

 

そう返したロックオンに「そうよ」と答える夕呼。

彼女がデリング中隊を観測による情報収集に回したのは「新しい玩具(G弾)が使いたくて堪らない連中のせいでとばっちりは御免」だと考えたが故にだ。

 

「裏で手を引いている人間が、いつアレを使うかわかったものではないわ。敵を騙すにはまず味方から・・・奴らが米軍と国連軍以外を捨て駒にする可能性だって考えられる。」

 

ウルズ小隊投入のタイミングは、地上からのハイヴへの突入部隊がタイミングに呼応して行われる。

一番お膳立てをして貰った上で、一番危険な場所に自ら飛び込む。

だからこそ、一番強力な戦力を送り込むのだ。

 

「でも、不測の事態が起これば奴らはすぐにでも行動に移すはずよ。G弾の投下を。」

 

夕呼は以前から、作戦を行うにあたって帝国政府と米国政府との間で様々なトラブルが発生しているのを知っていた。

そして、A-01も含めて作戦参加メンバーにはG弾の存在を示唆しており、もちろん以前からロックオンにもその話はしていた。

 

「だからこそ、作戦において最も重要なタイミングで投入される貴方達ウルズ小隊には是が非でも戦果を上げてもらわなければ困るのよ。」

 

この作戦の理想像はG弾によるものではなく、決定打はあくまでも戦術機や通常戦力をもってハイヴを攻略しなければならないのだ。

様々なデータを収集するためにも、ハイヴは破壊という形ではなく、是が非でも人類の手によって占領(奪取)したいのだ。

 

「それは、例え通常戦力による攻略が失敗したとしてもよ。」

 

しかし、不測の事態は必ず起こる。

 

「残念ながら、私の影響外の人間まで止める術はない。だから、不測の事態が起こればG弾投下にすぐに繋がる可能性は十分にあるわ。」

 

夕呼は眉間を揉みながらあきれた様子で言う。

 

「だから、正直私は矛盾した思惑が飛び交う戦場にあんたたちウルズの連中を送り込むのは・・・」

 

「それ以上は無しだぜ、ミス・コウヅキ。」

 

彼女にしては珍しく、余計な事を口走りそうになったのをロックオンが遮る。

 

「俺たちは、ただ与えられた任務を全うするだけだ。なにより、俺にとっての今の戦いは、BETAという紛争幇助対象の殲滅にある。その為には、手段は選ばねぇ。もしも邪魔する奴がいるって言うんだったら、そいつらを逆に利用しちまえばいいさ。」

 

そして、いつも通りの飄々とした様子でそう言った。

 

「そういう腹の探り合いみてぇのは、あんたの得意分野じゃないかね?」

 

むしろ、夕呼を挑発するように言う。

 

「言ってくれるじゃない。」

 

そう言うと、夕呼は立ち上がってロックオンに詰め寄る。

 

「なら、有言実行して頂戴ね?」

 

言質はとった。

そんな風に、彼女は笑顔でそう言った。

 

 

 

 

夜は長く、夏だと言うのに冷えたように感じる。

格納庫の中、かつて大空を駆けた地獄からの死者と同じ名を冠された戦術機は、静かに決戦の刻を待つ。

 

「・・・・・」

 

それを、下から見上げる人物がいた。

長い銀髪が風に靡いて、月明かりに照らされる姿は浮世離れしたように映る。

 

「こんな時間に、何をしてるんだ?」

 

ジーナ・チトゥイリスカが、自身の機体である「ヘルダイバー」を見上げていると、彼女に声をかけてくる人間がいた。

 

「・・・リーバー少尉。」

 

少しだけ睨むような、鋭い視線を彼女が向けた先にいたのは、フレッド・リーバーだ。

 

「リッパーで良いって言わなかったか?まあいいさ。好きなように呼べば」

 

この2人は、同じ隊になってからあまり仲が良い方ではない。

どちらかといえば、ジーナが怖がっているのだ。

表面では平静を装っていても、出会った頃に根付いてしまった苦手意識は、そう簡単に薄れることはない。

 

「相変わらず、素っ気無いな?アンタは。」

 

そう言うリーバーに、ジーナは「別に、そんなことはないわ」と答える。

彼女自身、この対応の仕方が関係性のさらなる悪化につながっているのは分かっているが、まだ払拭できていない以上はどうしようもなかった。

 

「・・・少尉こそ、こんな時間にどうしたのよ?」

 

そう返すジーナに、リーバーはいつも通りの調子で答える。

 

「作戦開始が間近だからな。愛機の様子を見に来ただけさ。」

 

彼は、誰にでも大体はぶっきらぼうだが、それなりに対応するような態度を取る人間だった。

それはもちろん、ジーナに対しても同じで、別に差別するわけでもない。

だからこそ、尚更に彼女の自己嫌悪感を更に高めてしまっているわけだが。

 

「そう・・・」

 

片腕を抱えるようにして、伏せ目がちになるジーナに、リーバーは言う。

 

「次の作戦、突入部隊である俺たちは一番危険なポジションになる筈だ。特に、前衛の俺やクリス、リヒティは隊の中でも最も危険を犯さなきゃならない。」

 

「だから」と続けるリーバー。

 

「後ろは任せる。精々後ろから撃たない程度にな?」

 

最後は冗談めかして言うリーバー。

それにうまく返せなかったジーナは、「・・・言われるまでもないわ。」と言うと、暫くの間周囲の空間を沈黙が支配する。

やがて、リーバーは「先に寝る。あんたもあまり夜更かしはするなよ?まるで遠足前のガキみたいだ」と言ってその場を立ち去った。

 

その場には、「ヘルダイバー」と他のウルズ小隊所属機、そしてヘルダイバーを見上げるジーナだけが取り残される。

 

「・・・」

 

彼女もまた、踵を返すとその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

そして、決戦の幕は上がる。

 

 

 

 




イメージED「暗夜行路」

次回「明星作戦」

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