Muv-Luv Alternative✖️機動戦士ガンダムOO 地獄に降り立つ狙撃手   作:マインドシーカー

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この小説は、ご覧の作者の提供でお送りいたします。

長らくお待たせしました。
これにて、前日譚における一大イベントは終了となります。
お次はどんな話になるのか?

それはまあ、先に進んでからのお楽しみで。
され、悲しいお知らせですがここでため込んでいたものは事実上すべて吐き出してしまった次第です。

一応の区切りでもあり、前には終わらせられなかった話でもあります。

ではではどうぞ。

イメージOP「Believe/玉置成美」


story11-2「光の果てに 後編」

彼らは戦っていた。

戦術機と呼ばれる機動兵器を用いて、人類の敵と戦っていた。

勝利を信じて、戦い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

1999年8月5日16時頃。

同日0700より開始された「明星作戦」におけるハイヴ攻略戦開始から10時間余り。

そして、作戦の第4段階である軌道降下兵団(オービットダイバーズ)の投入に加えて、地上からのハイヴ突入部隊が地獄の釜へと飛び込んでから、約4時間余りが経過していた。

 

 

 

『ストライダー04よりストライダー01!前方で多数の反応を確認!』

 

ストライダー中隊所属機である12機のF-15Eが進む地下茎構造内。

彼らの進む先にある広間(ホール)部では、この直接突入した状況において最も遭遇したくない出来事が起こっていた。

 

『こ、こちらサベージ06!誰か救援を・・・うわぁぁぁ・・・・』

 

目標地点を目指して速度を上げ急行するストライダー中隊。

更新された戦域マップ上に表示されていた味方の光点が消えるのが確認できた。

 

「想定よりもまずい状況か・・・!」

 

『ストライダー04よりストライダー01。前方で戦闘している部隊を確認!包囲されています!』

 

ストライダー04から通信が入り、マップ上では散り散りになっている光点が散見された。

分断され、孤立した友軍を示す光点が次々に赤い点の塊に包囲され、1つ、また1つと消えていく。

 

「ストライダー01より前方の部隊。誰か応答しろ」

 

ストライダー01はオープン回線ですぐさま呼びかける。

 

『こちらドミノ01!ストライダー01、聞こえるかストライダー01?』

 

すぐに前方に展開する部隊―――――ドミノ中隊の隊長であるドミノ01から返答が返ってくる。

 

『こちらは現在、偽装坑から出現した新たなBETA集団と交戦中。広間部の通信中継器は放棄し、現在後退中だ。至急、援護を求む。』

 

「ストライダー01よりドミノ01。先ほど通信を傍受したサベージ隊はどうなっている?」

 

『既に壊滅状態だ。生き残りはこちらでなんとか持たせているが、恐らく時間の問題だろうさ。』

 

「了解。ストライダー中隊は、これより貴隊を援護する。」

 

短いやり取りの後、ストライダー01は全機に速度を上げるよう命令し、サベージ中隊の生き残りとドミノ中隊の援護に入った。

 

『ストライダー04、エンゲージ!』

 

突撃前衛のポジショニングにつくストライダー04他4機が、一斉に外側から包囲網を食い破りにかかった。

さらにそこへ、中衛の4機が援護に入り、包囲網をこじ開ける。

開いた道目掛けて、内側の残存機が全て退避行動に移った。

 

『サベージ10!』

 

通信から聞こえてきたのは、誰かの声だ。

 

『た、助けーーーーー』

 

逃げきれずに波に呑まれた者がいた。

 

『サベージ02よりドミノ01。後を頼みます』

 

『サベージ02!サベージ02!くそ!諦めるな!まだーーーーー』

 

跳躍ユニットが損傷し、退路を切り開くべく盾になり、散った者がいた。

 

『サベージ中隊機、全機ロスト!』

 

『そんな・・・!』

 

「悲しむ暇は俺たちにはないぞ。再度あのポイントを確保する。全機、部隊を立て直してーーーーー」

 

ストライダー01はそう言って、陣形を立て直そうとした時、

 

『CPよりストライダー01。聞こえますか?』

 

CPから通信が入る。

 

「ストライダー01よりCP。どうした?」

 

『突入部隊との通信途絶。司令部は、これをもって残存部隊の後退を決定しました。誠に遺憾ですが、直ちにその場から撤退してください。』

 

耳を疑うような内容だった。

さっきの部隊がああなった以上、もっと奥は酷い可能性が十分にある。

しかし、その逆もまた然りなのだ。

たとえ退路を絶たれたとしても、反応炉にさえたどり着けばーーーーー。

 

『作戦は、フェイズ4を失敗と判断し、フェイズ05へと移行しました。ストライダー中隊は直ちに指定のポイントまで後退を』

 

有無を言わせぬ様子で次の指示を出すCPに、反論する余裕がなかったストライダー01は了解の意を示す。

 

「ストライダー01、了解。ドミノ01、聞こえるか?」

 

すぐさまドミノ01に通信をつなげるストライダー01。

 

『こちらドミノ01!どうした、ストライダー01?』

 

「ポイント座標を送った。このまま元来た道を通って地上への脱出する。ついてこれるか?」

 

『ドミノ01、了解!いつでもいける!』

 

そうして、ドミノ中隊とストライダー中隊の脱出劇が始まった。

 

 

 

 

ドミノ、ストライダー両隊がハイヴ内部からの脱出を開始した丁度同じ頃。

 

米強襲揚陸艦「パウエル」に座乗するグッドマン准将の元へ、彼の上司にあたる人間から連絡が入っていた。

 

「それは誠ですか?」

 

『ああ。上は、本作戦におけるフェーズ4、つまりは「戦術機によるハイヴ攻略」を失敗と判断し、直ちにフェーズ5へ移行することを決定した。これは最終決定事項だ』

 

軌道降下兵団と、それに加えての地上部隊によるハイヴへの突入。

しかし、そのどれもが、想定を上回るハイヴの規模(フェイズ)と、BETAの物量によって作戦計画を台無しにされてしまった形になっていた。

通信が途絶したという事実、上層部はこれを突入部隊の壊滅、或いは全滅と判断し、作戦フェーズはこれを想定したものへ切り替わったのだ。

 

『合衆国政府、ならびに国連は旧ヨコハマへのG弾投下を行う事を決定した。国連宇宙総軍にも、既に投下準備に入るよう通達されている筈だ』

 

「潮時、というわけですな?」

 

『そうだ。我らが生み出した「神の火()」に変わる新たな灯火(G弾)が、忌々しい第四計画共々、ハイヴを葬り去ってくれよう』

 

そうして、通信が終了する。

 

「准将」

 

後ろでやり取りを見ていたサザーランドは、グッドマンを見ながら言う。

 

「無礼の承知の上で聞きますが、先ほどはどのようなお話を・・・?」

 

「・・・ふん、まあいいだろう。私は今、とても機嫌が良い」

 

そうすると、グッドマンは得意げに話し始める。

 

「貴官はとても幸運だよ。今この瞬間、歴史の転換点に立っていると言っても過言ではない。」

 

「・・・どういう、意味でしょうか?」

 

「上は、新型兵器の投下を決定した。奴らでは為し得なかった事を、我々がやり遂げるのだ。」

 

グッドマンは得意げに、サザーランドに言う。

 

「国連軍全部隊に通達しろ。これより作戦はフェーズ5・・・つまり、G弾によるハイヴ直接攻撃を行う、とな。」

 

「それでは、突入部隊に含まれている国連軍の将兵は見殺しに、ということになりますが?」

 

「サザーランド大佐。貴官は何か勘違いしているようだが・・・通信が繋がらない以上、可能性が低い方に賭けるよりも、高い方に賭ける方が賢いとは思わんかね?」

 

まるで最初からそこにはなにもなかった。

そんな言い回しで、グッドマンはサザーランドの問いに答える。

 

「・・・小官は、それに関する答えを持ち合わせてはおりません。」

 

軍帽のつばを手に、表情を隠すようにして目深にかぶる。

 

「わかれば良い。」

 

上層部からの命令は直ちに通達され、「パウエル」から各部隊へ周知するべく通信が行われる。

 

「そうだ。この一撃が、歴史を変えるのだよ。」

 

そして、G弾と呼ばれた史上最悪の兵器投下の秒読みが始まった。

 

 

 

 

 

 

『CPよりヴァルキリー01へ。聞こえるか?』

 

旧横浜市街地。

その中で、戦闘を行う部隊の1つ―――――ヴァルキリー中隊の隊長である桐生瑞樹に、CPから通信が入った。

 

「こちらヴァルキリー01。CP、どうした?」

 

『先ほど入った情報です。』

 

「・・・?」

 

『ハイヴへ直接突入した部隊との連絡が取れなくなりました。恐らく、何らかのトラブルが発生した可能性が有ります。』

 

凶報だった。

 

「突入部隊との通信が途絶・・・?」

 

瑞樹がそう独り言を呟いていると、秘匿回線での通信が彼女に入る。

 

『桐生、聞こえる?』

 

聞こえてきたのは、彼女の直接の上司の立場である香月夕呼の声だった。

 

「副司令・・・?どうかなされましたか?」

 

少し焦った様子の夕呼の声を聞いて、何かを察する瑞樹。

 

『悪い知らせが2つ。1つはさっき伝えた通り、突入部隊との連絡がつかなくなったわ。』

 

「そのようですね。」

 

『もう1つは、もっと最悪よ。』

 

「もっと・・・?」

 

『今現在、米国政府と帝国政府で揉めているそうよ。直接の原因は、さっき起こった突入部隊との通信途絶。』

 

そこから彼女が瑞樹に開示した情報は、およそ信じ難いものだった。

 

突入部隊との通信途絶。

外洋にて戦場を傍観していた米国艦「パウエル」に座乗している国連軍の高官から上層部へとそれが伝わり、実質の最終決定権を持つ米国政府は日本帝国政府にG弾の投下を通達。

それに反発した帝国政府は米国政府に抗議しているが、既に投下されるまでは時間の問題ということ。

彼女の不知火に、投下された際の被害予想図などのデータが共有される。

 

「これは・・・!」

 

『そう。奴らは、この場所をG弾がどの程度使えるかの実験場にしようとしている。デリング中隊の隊長である大和田にもこの情報は伝えたわ。』

 

「第5の者達は、我々をなんだと思って・・・!」

 

『それ以上は無しよ、桐生。まずは生き延びて、それから。』

 

話を聞いた桐生は憤慨するが、夕呼がそれを宥めるように言葉を続ける。

 

『気がかかりなことが1つ。大和田に通信した時もそうだったけれど、恐らく重金属雲の影響で通信状態が不安定になっている。』

 

「はい。この長距離通信も、我々がいる場所が比較的重金属雲の濃度が薄い場所だからこそここまでクリアに繋がっているわけですから。」

 

『そういうこと。恐らくだけれど、観測任務でバラけたのが原因でこちらから通信を試みても応答がない機体がいくつかあるわ。あんた達ヴァルキリー中隊は、すぐにデリング中隊各機の所在を探し出すのと、後退を促して。』

 

「ヴァルキリー01、了解です。」

 

『それと、この情報は国連の一部の連中には伝えられているけれど、帝国軍と大東亜連合軍には恐らく知らされていない内容よ。』

 

「・・・国連上層部、ひいては米軍は、今この戦場にいる部隊を丸ごと囮にする気、ということでしょうか?」

 

『作戦はフェーズ04を飛ばしてフェーズ05に移行。それが全てよ。こちらもなんとか通信を試みるけれど、最悪の場合は、突入部隊諸共見捨てる事になる。』

 

最後の方は、考えたくもないという言い方で夕呼は言う。

 

「ヴァルキリー01、任務変更の旨を了解致しました。」

 

瑞樹はそう答えると、「お願いね」と夕呼は言い残して通信を切る。

 

「・・・政治というのはこうも、面倒なものなのね」

 

溜息一つ、瑞樹はそう愚痴を零した。

 

 

 

 

 

『駄目です。通信、繋がりません。』

 

ハイヴ内、地下茎構造と共にいくつも存在する広間(ホール)部。

通信が絶たれたため、後方に敷設された中継器の状況を確認するのと共に、部隊の再編を行うため一時的に突入部隊は後退していた。

1度通過したその場所に集結した突入部隊のうちの何機かがなんとか外部との通信を試みていたが、聞こえてくるのはノイズ音ばかりだ。

 

『恐らく、更に後方の安全確保したはずの地下茎構造ないし広間部でアクシデントが起こったとしか・・・。』

 

『そうか・・・』

 

「・・・・・」

 

各中隊の機体同士での通信に耳を傾けながら、ロックオンは管制ユニットの中で無言のまま思考を巡らせていた。

彼の脳裏に、作戦前に夕呼に言われたことを思い出す。

 

―――――残念ながら、私の影響外の人間まで止める術はない。だから、不測の事態が起こればG弾投下にすぐに繋がる可能性は十分にあるわ。

 

そして、通信が途絶する寸前に聞かされた内容。

 

「(奴らはG弾とかいう新型兵器の投入を決定。あの情報が確定情報なら、今現在孤立状態の俺たちは全滅と判断されてすぐにでもそいつが投下される可能性は十分にあるわけだ。)」

 

このままここにいれば、ロックオンを含めた自分たちは味方である筈の人間たちから後ろから撃たれて―――――死ぬ。

しかし、このまま進んでたとえ反応炉を確保できたとしても、撤退できる可能性は低い。

生存を優先するならば、最悪の場合は破壊を選択しなければならない。

この作戦における第一の目的は「ハイヴを攻略した上での占領」であって「ハイヴの攻略ないし反応炉破壊によるハイヴ機能の停止」ではない。

ある意味では、これは矛盾している要求とも言える。

ハイヴを攻略するためには、反応炉を停止、つまりは破壊しなければならないが、ハイヴ施設機能を奪取及び横浜基地の奪回ともなればそうもいかない。

 

「ロックオン・・・?」

 

不安そうな表情で、ジーナが彼の方へ振り返る。

勘が鋭い彼女は、ロックオンの様子が変わったことに気づいていたのだ。

 

「さっき、話をしていたこと・・・?」

 

不安げな様子でそう聞くジーナに、ロックオンはいつものように「大丈夫だよ」と返そうとして、やめた。

 

「ああ。ミッションプランは大幅な修正が必要になったらしい。」

 

ロックオンはそう言うと、副隊長であるホークアイに通信を繋ぐ。

 

「ウルズ02、聞こえるか?」

 

『ウルズ02よりウルズ01、感度良好。聞こえます』

 

網膜投影にホークアイの顔が移し出される。

 

「ミッションプランの変更だ。他の連中にも、お偉方にも悪いが、ここは俺の独断で決めさせてもらう。」

 

ロックオンの言ったことに、難しげな表情を浮かべるホークアイ。

 

『我々は、隊長の命令に従います。ですが、他の部隊がそうであるかは・・・』

 

「そうだな。無事な部隊は、再度進む事を選択するだろうさ。だがどうやら、お偉方は俺たちがハイヴ攻略を成し遂げたとしても、まとめて焼き尽くす気らしい。」

 

ロックオンの言うことの意味が理解できなかったのか、それとも遠回しな言い方で察したのか。

ホークアイはそのどちらとも言えない表情で「どういう意味でしょうか?」と聞いてくる。

 

「G弾。以前からミス・コウヅキから聞かされてた新型兵器だったか?そいつが、空からここに落とされる。」

 

ホークアイが浮かべた表情は、後者が正しいことを指していた。

苦い表情を浮かべながら、彼女は呻くように言う。

 

『それでは、我々は・・・!』

 

「そうだよ。ウルズ02、あんたの考えてる通りだろうさ」

 

だからもう、猶予がない。

そう続けるロックオン。

 

「残存機にこの情報を共有させる。ミッションプランはハイヴ最奥部への到達、ならびに反応炉の停止ではなく、逆に変更だ。折角入ったが、今度は脱出を最優先にする。」

 

『しかし、仮にこれを言ったとしても、他の部隊が信じるかは別です。』

 

「だとしてもだ。俺たちがいれば攻略に関して成功の可能性はあっただろうさ。だが、外部との連絡手段も絶たれた状態で前へ進み続ければ、成功の可否に関わらず落とされるG弾とやらのせいで、俺たちは諸共に天国への直行便になりかねない。」

 

「俺は地獄かもしれないがな」と、誰にも聞こえないようにロックオンは呟く。

 

『・・・・・!』

 

「戦いってのは、常に2手、3手先をってな。この場合は、すっ飛ばされた手を5、6手以上先を見越してやらなきゃならんがね。」

 

『・・・了解です。』

 

ホークアイとの通信を切ると、他の部隊の隊長機へ通信を繋げるための行程に入る。

 

「・・・ロックオン。私たち、見捨てられたのかな・・・?」

 

悲しそうな、震えた声で言うジーナ。

 

「作戦だから、軍人だから・・・こんなことで死んでもいいって、本当に思われてるのかな・・・?」

 

軍に入った以上は、上の命令は絶対だ。

たとえ理不尽な命令で死んだとしても、反論をすることは死んでも尚、許されない。

 

「大丈夫さ、ジーナ。俺は絶対に、そんなことは許さないし、認めねぇ。」

 

ロックオンは、いつもの飄々とした笑みで答えた。

 

「さて、やりますか。」

 

そうして、各隊長へと通信を繋げる。

 

「ウルズ01より、各部隊長へ。」

 

『どうしたウルズ01?』

 

すぐに回線が開き、各部隊の隊長の顔が映し出される。

 

「小官に1つ、愚策があります」

 

映し出された各部隊長を前に、ロックオンはそう言った。

 

 

 

 

 

 

旧横浜市街地。

残骸と更地が入り乱れたそこは、かつて日本に存在した神奈川県横浜市中心部の成れの果てだ。

先のBETAによる日本本土侵攻に伴い、西日本から東日本へと北上してきたBETAによって、日本の地図から消えた場所だった。

 

かつての故郷を奪われた者たちは、例え作戦が自分たちに不利に働いている現状においてもまだ諦めず、そして懸命に戦っていた。

 

1人、また1人と残骸の仲間入りをしていき、その数を減らしながら尚、退くことをしない。

 

国連軍に身を置きながら、日本人として、そして何より故郷である横浜を取り戻すために戦うのは、第四計画に属するA-01連隊・デリング中隊所属である鳴海孝之少尉だ。

彼は、日本帝国軍の将兵たちと同じ気持ちであった。

 

「邪魔だ!」

 

突撃砲のトリガーを引き、長刀による一閃で、周囲のBETA群を相手に戦うのは、彼が乗るUNブルーの94式「不知火」だ。

 

『デリング08、チェックシックス!』

 

「了解!」

 

最小単位(エレメント)での行動。

2機1組で戦場の観測任務に従事しながらも、戦闘行動を行なっていた。

 

「まったく、嫌になるな。突入部隊の状況もわからないんじゃ、終わりが見えない」

 

『そう言うなって孝之。とりあえずは、こっちにはBETAの野郎共は少ないんだ。』

 

そんな会話をしていると、戦域マップ上に接近する複数の反応が表示された。

 

『うん・・・?どこの部隊だ・・・?』

 

現れたのは、「撃震」や「陽炎」とは異なるデザインの機体だ。

そう、それは例えば、自分たちが乗る「不知火」に近いデザインをしている。

だが、所属はわかった。

 

「白に、青・・・帝国斯衛軍か?」

 

『おいおい。青って言ったら、五摂家の1つだぞ?』

 

2機の不知火の周囲に着陸したのは、クリムゾン中隊やホワイトファング中隊とは別の部隊の帝国斯衛軍の部隊だった。

先行型の武御雷で構成された部隊。

一番最後に目の前に着陸した武御雷が、孝之達の不知火を見据える。

 

『そこの不知火。ここは、我ら斯衛の戦区だ』

 

通信が入る。

聞こえてきたのは、女性の声だった。

 

「我々は国連軍の効果観測班です。戦区越境までは、1km程ある筈ですが?」

 

孝之は、そう淡々と答える。

 

『貴様・・・日本人か?』

 

少し驚いたような声。

 

「ーーーーーは。自分は、太平洋方面第11軍所属、鳴海孝之少尉であります。」

 

孝之はそう、自分の所属と名前を告げる。

 

『・・・そうか。先程、大東亜連合軍との戦区境で、流弾問題があった。皆、気が立っているようだ。』

 

「十分注意します。」

 

『それでいい。難しい立場だとは思うが、しっかりやってくれ。』

 

「ーーーーーは。」

 

『では、さらばだ。国連に属する同胞よ』

 

短いやり取りの後、通信が切られる。

そして、孝之と慎二の不知火2機を包囲するように展開していた武御雷は、再び上昇を開始するとその場を去った。

 

 

 

 

 

 

同じ頃、ハイヴの地下茎構造内。

その中を、かなりの規模に膨れ上がった戦術機部隊が出入口である門を目指して突き進んでいた。

 

『ぐぁ・・・!』

 

大隊規模にまで膨れ上がった部隊の前衛に位置するウィザード中隊。

それが、道を阻むBETA集団を排除しようとした時、中隊の1機が、突撃級の攻撃をまともに受けて吹き飛ばされる。

 

『くそ!ウィザード04が!』

 

ウィザード04のF-15Eが蹲る形で壁に叩きつけられ、行動不能になる。

 

『くそ、ここまでか・・・!』

 

ウィザード04の目に網膜投影によって映し出された機体状況を示す表示では、脚部や胴体ユニット部、そして跳躍ユニットなどが軒並み赤く染まった表示になっていた。

そこへ、突撃級の横から現れた戦車級が飛びかかり、群がっていく。

 

『ウィザード04より全機へ。後を頼む!』

 

そうして、ウィザード04が通信を切った。

 

『く・・・!』

 

ウィザード04が通信を切ったのは、戦車級によってゆっくり追い詰められていく自分の悲鳴を他に聞かせない為だ。

 

『う、ウィザード04!』

 

『ウィザード01より全機!振り向くな!』

 

ウィザード01が動揺した機体の衛士とそれを含めた全員に言う。

 

『ウィザード04の犠牲を無駄にするな!なんとしても脱出しろ!我々はまだ生きている!』

 

ウィザード01が、ウィザード残存機を叱咤する。

直後、ウィザード04の光点が消えた。

既にウィザード中隊はその数を7にまで減らし、それでも、突入部隊の残存機を含めて50機以上にまで膨れ上がった臨時編成の部隊。

これらが、反応炉到達ではなく、逆の脱出を目指してひたすらに元の道を戻り続ける。

 

偽装横坑(スリーパードリフト)です!新たなBETA群が出現!』

 

ギズモ03から通信が入る。

殿をつとめる位置にいたウルズ小隊とギズモ中隊の残存機と他の部隊の残存機が後方から迫るBETA群を迎撃する中、進路上の偽装横坑から出現した新たなBETA集団と彼ら殿よりも前を進む部隊と交戦状態に入る。

 

「ウルズ03よりウルズ01!先行している部隊の前方に多数の要塞級とその取り巻きが展開してる!この状況じゃ、いくらなんでも迎撃が間に合わない!」

 

「わかってる!ハロ、バッテリーのエネルギーは後どのくらいだ?」

 

『残リ、78%!戦闘継続可能!戦闘継続可能!』

 

「オーライ。ウルズ全機、LNRの砲撃モードで道を切り開く!邪魔な奴らを排除してくれ!このまま撃つ!」

 

「ロックオン、それじゃあヘルダイバーが・・・!」

 

ジーナの制止を無視して、システムを狙撃モードから砲撃モードへと変更し、LNRへのエネルギー充填を開始させるロックオン。

 

「ギズモ03!ギズモの残った機体で俺の機体の周囲を固めろ!射撃までの時間を稼いでくれ!」

 

『り、了解!』

 

「ウルズ各機は後方のBETAを足止めだ!」

 

『ウルズ04、了解!敵を蹴散らす!』

 

『ウルズ05、了解ッス・・・!』

 

『ウルズ06、了解です!』

 

移動しながらの射点確保は困難を極める。

しかもこれでは、挟み撃ちの状況だ。

 

『こちらクロウ03!』

 

突然、通信が入った。

 

『クロウ隊全機、ウルズ小隊並びにギズモ中隊の援護に入ります!』

 

前面に展開していた部隊の一部が、方向転換してウルズとギズモ他で構成された集団に近づいてくる。

そして、高速移動をしながら援護を開始した。

損耗した部隊とは思えない連携で壁を這いながら追ってくる戦車級の群れをミンチにしていく。

 

「クロウ03、援護感謝します!」

 

『何、いいってことですよ!』

 

「よし、ハロ!LNR砲身展開!砲撃モードだ!」

 

『砲撃モードニ移行!砲撃モードニ移行!』

 

高速移動中のヘルダイバーが少し減速し、手に持っていたLNRの砲身を展開させ、狙撃モードから砲撃モードへ移行させた。

 

『LNRヘノエネルギーチャージ中!』

 

『ウルズ04、前方のBETA群を駆逐する!』

 

リーバー機が、ヘルダイバーを追い抜いて後方から前へと全力での噴射跳躍をかけ、前方の部隊がやり合う集団の先鋒に突撃をかけた。

前衛で展開していた戦車級の一団をブレードトンファーによってミンチにし、リーバー機を追ったリヒティ機とクリス機が、リーバー機がこじ開けた穴へと入り込み、飛びかかろうとする戦車級を一掃する。

 

『チャージ完了!チャージ完了!』

 

「ハロ、制動頼むぞ!ジーナ、姿勢制御だ!」

 

『了解!了解!』

 

「言われなくても・・・!」

 

一時着地し、アンカーを地面へと突き刺すとLNRの砲撃モードを構える。

 

「射線上の友軍機は退避して!」

 

『ウィザード01より射線上の機体へ!散開(ブレイク)!』

 

射撃姿勢になったと同時に、ジーナが前方の部隊へと警告を発した。

 

「ヘルダイバー、進路上の敵を薙ぎ払う!」

 

ロックオンがトリガーを引くと同時に、発射に同調して噴射ユニットを後方へと噴射させるジーナ。

LNRから放たれた砲弾は、密集することで道を塞ごうとしていた22体もの要塞級と何百体もの中型種、小型種諸共に吹き飛ばした。

 

『進路開けました!』

 

ウルズ02から観測報告が入る。

 

『援護感謝する!ウィザード全機及び残存各部隊へ通達!食い破れ!』

 

一時的に勢いを削がれていた前面部隊が、ヘルダイバーがこじ開けた風波に飛び込んでBETA集団の陣形を食い破っていく。

 

「砲身冷却!ポイントを移動して、再度LNRによる砲撃をやる!」

 

ロックオンの命令に、LNRの砲身冷却時間を考えたジーナが反論した。

 

「そう何度も撃ったらLNRもヘルダイバーのバッテリーも長くは持たなくなってしまうわ!?」

 

「まずは脱出が最優先だ!LNRを失ったとしても、こいつはまだ戦えるだろう?」

 

こちらを向いて喋りかけてきたジーナに、ロックオンは真剣な眼差しで言う。

 

『ウルズ04よりウルズ01へ。前面の安全は確保されたが、偽装坑がさっきから多いのが気になる。』

 

『ウルズ02よりウルズ01。こちらも、既にいくつかの振動を検知。隊長が具申した通り、戦闘は最小限に、脱出を最優先としてこのまま進むしかないです。』

 

リーバーとホークアイ、2人から通信が入る。

 

「・・・わかった。」

 

ロックオンはそう言うと、通信が切れる。

 

「ハロ。このまま冷却は続行。バッテリー残量を考えて、後1射が限界だが、そいつは外に出れた時用にとっておこう。」

 

『了解!了解!』

 

「ロックオン・・・」

 

「悪かったな、ジーナ。少し熱くなり過ぎたみたいだ。」

 

ロックオンはそう、ジーナに謝った。

そしてすぐさま機体の操作を行なって、砲身展開状態のまま腰部ラックにLNRを固定する。

 

「さて、ここから外まではジーナに任せたい。照準補正とかはこっちでやるから、気にせずにやってくれ。」

 

「わかった!」

 

肩部武装ラックに懸架されていた2丁の専用突撃砲を抜き、固定用アームを解除して格納すると、ヘルダイバーは再び前進を開始する。

 

『ギズモ03よりウルズ01。機体状態に問題は?』

 

心配したギズモ03のF-15Eが接近してきて、通信機越しに聞いてきた。

 

「ああ、問題ない。このまま一番近いはずの門を目指して前進続行だ。頼りにしてるよ、ギズモ03。」

 

『クロウ03よりウルズ01。先程の援護射撃、非常に助かりました。このままうまくいけば、脱出も現実ですね』

 

更にもう1機。

国連軍カラーのF-16Cが接近してきた。

クロウ中隊の機体だ。

 

「こっちこそ、感謝するぜクロウ03。お陰で安心して撃つ事ができたからな?」

 

『ありがとうございます、ウルズ01。必ずこの地獄から抜け出してみせましょう。』

 

「オーライ。クロウ03、ギズモ03、頼りにしてるぜ?」

 

ロックオンがそう2人に言うと、「了解!」と威勢よく返ってくる。

そうして、3機を含めた脱出部隊は門を目指して進む。

 

G弾投下まで、残り僅か。

 

 

 

 

 

 

既に時刻は17時を過ぎ、空は重金属雲によって8月にもかかわらず真っ暗になっていた。

 

『ダメだ。この先の門周辺の部隊と通信が繋がらないぞ』

 

「こっちもだな。肉眼で確認できる限りでは、まだ戦闘は行われてるだろうが、今のところ確認できる範囲ではレーダー上に友軍の反応がない。」

 

観測地点につき、戦域情報の収集を始める2機。

現在は、門周辺の安全確保のために展開している部隊の状況と、突入部隊がどうなっているかどうかを確認するべく、ハイヴに近い場所で2機は観測を行なっていた。

 

『ーーーーーちら、・・・ング01。聞こーーーーー・・・』

 

しばらくすると、恐らくはデリング01からの通信であろう音声が聞こえてきたが、ノイズ混じりで聞き取ることができない。

 

「恐らく大尉からだ。こちらデリング08。通信状態が安定していない」

 

『ーーーーー・・・収だ。・・・・弾の・・・が・・・・・・こち・・・入って・・・・・度の高い・・・報だ。米軍との・・・ーーーーー』

 

「こちらデリング08。デリング01、通信状態が安定していない。指示が聞き取れない」

 

ブツッという音がして、通信が途切れる。

 

「くそ、通信が途切れた。慎二、聞き取れたか?」

 

『ダメだ、重金属雲の影響だろうな。殆ど聞き取れなかった。どこか通信状態の良いところに移動しよう。』

 

通信が途切れたため、比較的通信がし易い重金属運の濃度が低いエリアへ移動しようとした直後、通信が入った。

 

『ーーーーー・・・ちら、ヴァルキリー03。デリング08、09、聞こえるか?』

 

聞こえてきたのは、2人にとっては聞き覚えのある声だ。

 

『こちらヴァルキリー03。デリング08、09、聞こえるか?』

 

「こちらデリング08。感度良好です、ヴァルキリー03。」

 

すぐに対応する孝之に、ヴァルキリー03ーーーーー伊隅みちる中尉から安堵の声と共にある事が告げられる。

 

『どうやら呼び掛けた価値はあったようだな。先程、司令部からある通達があった。国連と帝国政府が揉めているらしい。原因は、国連ならびに米軍からの一方的なG弾投下の決定だ。』

 

「な・・・!?」

 

『突入部隊との通信が途絶し、上はこれを突入部隊の壊滅或いは全滅と判断したようだ。司令部からは投下された際の被害予想図が送られてきた。共有しておく』

 

そして、網膜投影に映し出された被害予想図は、自分たちがいる地点を含めて旧横浜市全体をハイヴを中心に放射状に覆っていた。

 

「こんな・・・これは・・・!」

 

『これじゃあ、横浜は、俺たちの白陵は・・・!』

 

状況を把握した2人は、自分たちの置かれた状況と共に横浜が、自分たちの故郷がこれから辿る末路を想像して戦慄する。

 

『我々は1度、相模湾に補給に戻る。デリング中隊各機も直ちに後退し、合流しろ。すぐに動けるようにしておけ。これは副司令からの命令だ。』

 

そう言って、みちるは通信を切った。

 

「・・・なぁ、慎二。」

 

『・・・嫌な予感がするが、一応聞いておくぜ?』

 

「今の話、帝国の奴らは知ってるんだろうか・・・?」

 

孝之は、即座に疑問を口にする。

 

『俺たちと伊隅中尉のいるA-01所属の部隊は副司令直轄の特務部隊扱いだ。他所の部隊に比べれば、情報のレベルも遥かに上だろうさ。俺たちにわざわざこの話が聞かされたのも、ようは副司令お付きの部隊だからだろうよ』

 

すぐに慎二は冷静に言う。

 

「だったらーーーーー」

 

そう言いかけた孝之の言葉を慎二は遮った。

 

『聞いたな。聞いてたよな?だったら、大和田大尉と通信をとってすぐに後退だ。』

 

「さっきお前も言っただろう。これを知っているのは一部を除けば俺たちだけだ。このままじゃ、作戦成功を信じてまだ戦ってる連中は全員見殺しになっちまう・・・!」

 

『孝之・・・』

 

「そんなのは、御免だ。これ以上、俺たちの街で好き勝手やられてたまるかよ・・・!今からなら、まだ間に合う筈だ。1人でも多く、助けるんだ、俺たちで。」

 

孝之はそう言うと、機体をハイヴ方面へと向ける。

 

「慎二、お前は撤退しろ。俺だけでーーーーー」

 

『水臭ぇこと、言いっこ無しだぜ孝之。』

 

慎二の機体もまた、同じようにハイヴを向く。

 

「・・・すまねぇ、慎二。」

 

『はは!今更だろ?それにな、お前だけ死にでもしたら、それをあいつら2人に伝えるのは俺の役目だぜ?そんな面倒な役、御免被るね。だからさ・・・』

 

生き残ろう。

慎二はそう言って、気さくな笑みを浮かべる。

今から死地へ赴こうというのに、2人の男は笑い合っていた。

 

「ああ。じゃあ行くぜーーーーー!」

 

そして、2機の不知火が同胞達を救うために飛び立った。

 

 

 

 

 

「戦術機の残骸がある・・・」

 

『恐らく、戦闘の痕跡でしょう。やはり、通信途絶の原因はこれでしたか。』

 

機体を前進させながら、ジーナがそう呟くと、通信を繋げたままにしていたホークアイが答えた。

 

「だろうな。多分ここの部隊が襲撃を受けて、やられたんだろうさ。」

 

『ウルズ06よりウルズ01、ウルズ02。この広間部とその先にも、いくつかの偽装横坑や縦抗が出現した跡が見受けられます。』

 

『こちらウルズ05。こっちでもいくつか確認できました。連中はもういないですが、ここからいつ増援が現れるかもわからないッスね。』

 

ロックオンの網膜投影に映る周囲の状況では、震動センサーなどは異常値を示してはいない。

つまり現在は、偽装抗の兆候も、空いた穴からの増援の出現も無いと言う事だ。

しばらくすると、前面に展開する部隊の1つから通信が全機に入った。

 

『こちらアバランチ02。後方の部隊、聞こえますか?』

 

『クロウ03よりアバランチ02。どうかしましたか?』

 

気づいたクロウ03が聞き返す。

 

『我々よりも前面に進出していた部隊から通信が入りました。地上部隊との通信が繋がったとのことです。』

 

通信状況は悪いですが、と付け加えるアバランチ02。

これは、朗報だった。

孤立無縁だと思っていた人間が大半だった中で、それでも諦めなかった。

その先にあった、一筋の光。

 

『ウィザード01からの話では、門の確保のために未だ戦闘状態のストライダー中隊と通信が繋がったとの事です。』

 

ストライダー中隊は、1時間ほど前に地上へ戻った部隊だった。

 

『これで、我々がまだ生きている事を知らせる事ができました。あとはーーーーー』

 

そう言葉を続けようとした時、ロックオン達の周りから突然異常震動が検知される。

 

「周辺警戒!このままこの場所を突っ切る!全機続け!」

 

ロックオンは即座に前進命令を出し、その指示を聞いたウルズ小隊の機体に、ギズモ・クロウ両隊の中隊機が続く。

後方で、彼らがいた真下がいきなり崩れ去り、中から多数の要撃級が現れるのが確認できた。

 

『危ねぇ・・・!』

 

リーバーの危機一髪といった様子の声が聞こえる。

 

「後ろを見るな!追いつかれるぞ!」

 

「ダメ、ロックオン!」

 

ジーナが焦った声を上げた。

 

前にも偽装横抗が(・・・・・・・)!」

 

直後、彼らの前に新たなBETA群が出現した。

 

 

 

 

 

突入部隊が外との通信を成功させた同じ頃。

戦場を2機の不知火が駆け抜けていた。

先ほど聞いてしまった事実。

前へ前へ前へと進んで、途中で何度か衝突を起こしながらも1人でも多く助けるために、彼ら2人は突き進んでいた。

彼らの意思を体現したかのように突撃を続ける不知火は、まるでその身に狂気を纏ったかのように突撃する。

そうして進み続けたところで1度動きを止めて、進軍の足を緩める。

弾切れのマガジンを交換。

 

「残りの弾倉は・・・あと3つってとこか。」

 

孝之は1人呟くと、息を吐いて深呼吸1つ。

自分自身が焦っているのは、孝之が一番よくわかっていた。

だけど、今この瞬間は自分だけが戦っているわけじゃない。

 

『ったく。お前、伊隅中尉に似てきたんじゃないのか?』

 

傍らに立つ平慎二の不知火から通信が入る。

 

「ハンッ。言ってくれるじゃねーか慎二。ヴァルキリーズの次の「鉄の女」候補と俺が似てるだって?」

 

『慎重に見えて、時々こういう派手な無茶をやらかすんだとさ!案外、お前と気が合うんじゃねーの?』

 

「勘弁しろよ。ああいうのは、速瀬一人で十分・・・!」

 

それにな、と付け加えて俺は慎二に言う。

 

「俺は冷静だよ。だから、大丈夫だぜ?」

 

『・・・ああ。その調子で頼むぜ、相棒?』

 

そうして、2人は乗騎を駆りながらハイヴとの距離を縮めていた時だった。

 

警告音。

 

『なんだ・・・?』

 

突然、広域最優先警告を示す耳障りな警告音と赤いウィンドウが網膜投影越しに映し出される。

 

「コード666・・・!即時退避命令だと・・・!?」

 

網膜投影越しに彼ら2人の目に表示された「CODE:666」の文字。

コード991などの警告とは別の警告。

それは、「現戦闘エリアからの即退避命令」の意を持ったものだった。

考えを巡らせる間も無く、自動翻訳の機械的な音声が通信に割り込んでくる。

 

『-----国連宇宙総軍より、H:22周辺展開中の全軍、ならびに全部隊に次ぐ。ただちに退避せよ-----』

 

『やばいぜ孝之。こいつはさっき中尉が言ってたやつだ。』

 

国連宇宙総軍(UN-SPACECOM)・・・!もう投下準備は終わっちまったってことか・・・?」

 

孝之が不知火のカメラ越しに空を見上げて歯噛みする。

このままでは、本当に間に合わなくなる。

 

『我々は、新型の対ハイヴ兵器の使用を決定した。データリンク上に示した有効範囲より、直ちに退避せよ。繰り返す、我々は-----』

 

自動翻訳で流れてきた内容は、司令部から聞かされた内容とほぼ同じだ。

上層部の勝手な思惑で投入が決定されている新型の対ハイヴ兵器。

それはつまり、G弾ということだ。

戦場の渦中の中で、彼ら2人はいよいよどういう身の振り方をするかの選択を迫られる。

 

『CPよりデリング08、09へ。』

 

それでも尚、前進を続ける中。

重金属雲の濃度が薄い場所に来たところで、CPから通信が入った。

 

「こちらデリング08。」

 

『やっと繋がりましたね?デリング中隊全機には撤退命令が出ています。直ちに撤退してください。』

 

冷静なCPの声。

即時退避命令に加えての、撤退命令。

 

『直ちに前進を中止し、相模湾に展開中の艦隊に合流して下さい。』

 

CPの冷淡な声。

だが2人は、それでも引くことは選択しなかった。

 

「デリング08よりCPへ。俺たちの2機は少し突出し過ぎたみたいだ」

 

『直ちに撤退を。』

 

そこで初めて、感情を露わにしたかのような女性CPの非難の意味を込めた返事が返ってくる。

 

「これよりデリング08、09は、2機1個分隊(エレメント)を維持しつつ、進出。撤退中、ならびに撤退指示が届いていないであろう他の帝国軍部隊の救出に向かいます。」

 

孝之は、反論されるのを分かった上でそう具申する。

 

『デリング08。それでは命令違反になります。承服できません。直ちに撤退を―――――』

 

続けるCPの声を遮るようにして、通信を一方的に切る孝之。

 

『あーあ。これで命令違反成立かね?』

 

慎二が「やりやがったな?」と言いたげな様子で話しかけてきた。

 

「・・・悪いな、慎二。」

 

『いいさ。さーて、行くか。お姫様を助ける白馬の王子様みたにな?』

 

「お姫様ってのは、遥みたいな奴が似合う言葉さ。・・・さ、今更退くなんてできねぇぞ。飛ばすぜ―――――!」

 

『行くぜ、孝之―――――!』

 

互いの機体の動きに一切の淀みはない。

これで残弾も推進剤も気にする必要がないとばかりに、噴射ユニットを連続跳躍(ジャンプ)から敵頭上を掠める水平跳躍(ブースト)へと移行。

進路上に展開するBETA集団目がけて突撃を開始する。

 

「死なせたくない・・・―――――」

 

誰が求めたのか。

誰を対象としたのか。

孝之の口から自然と漏れた言葉だった。

 

「俺はただ、俺たちの街で・・・-----」

 

かつて見捨てることしかできなかった故郷。

色々な思い出があったその場所で、沢山の人が死んでいく。

 

「これ以上、死なせたくないんだぁーッ!!」

 

孝之が吼える。

その咆哮に応えるようにして、孝之と慎二の駆る2機の不知火が、鮮烈な青が、混沌の中心へと突進する。

その心に抱くのはただ1つの思い。

たった1つの、単純な、それ故にあまりにも遠く、だが命をベットするに値する気高き祈りだった。

 

 

 

 

 

 

孝之と慎二の乗る不知火が地上で激闘を繰り広げる中、衛星軌道上に存在する宇宙総軍の司令部の中では、地上より発せられた命令を遂行すべく人々が奔走していた。

 

「司令。」

 

指揮所に立つ司令官の横に、副官が表れて話しかけてくる。

 

「再突入型駆逐艦への突入殻の搬入、完了いたしました。あとは、座標の上空に差し掛かったところで攪乱用に同時に投入する軌道爆撃隊と同時に投下するのみです。」

 

宇宙総軍の司令部の中で、既に投下間近のG弾を積んだ再突入型駆逐艦の突入準備が終わったことを副官が司令官と呼ばれた男性に伝える。

 

「この一撃で、今度こそあの忌々しい塔を崩す事ができる。宇宙で何年も待ち続けたのだ、この瞬間を。」

 

司令官は、投下予定時刻に迫った時計の時刻を見ながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

結果的に、ウルズ小隊を含めた突入部隊は門からの脱出に成功した。

現れたBETA集団の増援によって一時的に前と後ろで分断された突入部隊であったが、不幸中の幸いか、命令を無視して門周辺の安全確保にあたっていたストライダー中隊を含めた3個中隊が門へと再突入し、新たなBETA集団を分断された後方の部隊と挟撃した事で退路を確保し、脱出。

ここで、彼らに宇宙総軍からの通信が入る。

 

『―――――国連宇宙総軍より、H:22周辺展開中の全軍、ならびに全部隊に告ぐ。直ちに退避せよ。我々は、新型の対ハイヴ兵器の投入を決定した。データリンク上に示した有効範囲より、直ちに退避せよ。繰り返す―――――』

 

新型の対ハイヴ兵器の投入に伴う被害予想図と、投下まで僅かしか時間がないということが全軍へと通達されているのが確認できた。

ようやく地上に出れたことで、地上部隊の状況がデータリンク上に共有され、数時間ぶりに戦域データリンクが更新される。

展開する部隊の動きから、門周辺の安全を確保するために踏ん張る部隊と、撤退し始めた部隊が確認できた。

 

『上の連中、やっぱり俺たちの安否なんてどうでも良かったんだな。』

 

ヘルダイバーの傍らに着地したリーバー機。

通信機越しに、呆れた様子のリーバーがそんな愚痴を零す。

 

『ですが、幸いにもまだ間に合ったようですね。この警告が流れているということは、まだ投下されてはいないということです。直ちに撤退行動に移りましょう』

 

ホークアイがそう具申する。

直後、ロックオンに通信が入った。

 

『やっと繋がったわ。』

 

聞こえてきたのは、夕呼の声だ。

 

「数時間ぶりだな、ミス・コウヅキ。』

 

網膜投影越しに映し出されたのは、安堵の表情を浮かべた夕呼の顔だ。

 

『状況は分かってるわよね?脱出ルートを送るわ。そこが確保できるギリギリのラインであり、最も短い時間でたどり着けるルート。』

 

「同時に、一番危険でもあるんだろう?」

 

『そうよ。詳細はCPから聞いて頂戴』

 

そう言って、夕呼からCPへと通信相手が変わる。

 

『CPよりウルズ01へ。先程の戦闘エリア全域に発せられたコード666により、戦場に展開する部隊に少なからず混乱が出ています。』

 

共有されたリアルタイムでの戦況。

芳しくないことはすぐに察することができた。

 

『これにより、先程から散発的に部隊の一部が独自の判断で後退を開始しています。これにより、脱出ルートの安全が確保できない状況です。』

 

追加でデータリンクに新たに共有された情報の中に、G弾による詳細な被害予想範囲と、先程夕呼が言っていた「最短の脱出ルート」が表示される。

 

『副指令からも聞いたと思われますが、既に投下まで残り僅かです。危険ですが、このルートを強行突破して相模湾の友軍艦隊を目指して下さい。』

 

「強行突破ねぇ・・・このタイムリミットだと、結構ギリギリってところか。」

 

『はい。なので、すぐにその場から撤退を開始して下さい。』

 

「ウルズ01、了解だよ。」

 

そう返すと、再び相手が夕呼へと戻る。

 

『そういうことよ。無事に辿り着くのがまず先決。突入部隊が無事とあれば、功を焦ってG弾投下を強行した連中が少なからず不利益を被るはずよ。』

 

「そこからは、あんたの出番だな?」

 

戦闘に入る前に交わした会話。

戦場ではロックオンが、交渉やそういう手合いは夕呼が。

 

『これで、予定よりもG弾の威力が低いなんて話になったら、尚更つけ込めるってものよ。』

 

「頼むぜ、ミス・コウヅキ。こんな風に扱われたんじゃあ、先に逝っちまった連中が浮かばれねぇからな?」

 

そう会話を交わすと、通信を切る。

 

『ウルズ02よりウルズ01へ。既に撤退行動に移った部隊を除くと、残っているのは門周辺の部隊と我々脱出してきた部隊のみのようです。』

 

「OK。オープン回線で呼びかける。いつでもいけるようにしておけ。」

 

『了解です。』

 

そうして、ロックオンはオープン回線にすると同時に喋り始める。

 

「既に全員わかってると思うが、ここには上から新型の対ハイヴ兵器とやらが降ってくる。よって、現ポイントを放棄し、離脱する。」

 

そう言うと、ロックオンは各部隊のデータリンクに脱出ルートを共有させる。

 

「残った部隊は俺たちの部隊に続け。上が決めた出来レースみたいなことで死にたくはないだろう?強行突破して、帰るぞ。俺たちの家に」

 

有無を言わせぬ態度で、ロックオンはそう言うと最後にこう付け加えた。

 

「帰ったら祝杯だ。生き残ったやつが、勝者なんだからな?」

 

そうして、決死の脱出劇の幕が今度こそ上げられた。

 

 

 

 

 

 

やがてウルズ小隊を含んだ一団が安全圏へと達した頃。

横浜の地にG弾を搭載した再突入型駆逐艦が到着し、突入殻が分離された。

地上に出現した光線級を含んだ新たなBETA集団によってレーザー対空射撃が開始され、攪乱のために同時投下された軌道降下爆撃による突入殻だがレーザーがそれらを破壊していく。

しかし、レーザーはG弾を抱えた突入殻に直撃することはなかった。

そうして、起爆装置が作動。

少しして臨界状態に達したG弾が突入殻から解放され、横浜ハイヴへ落ちていく。

やがて出現する巨大な2つの紫と黒の大きな球体の塊。

それは、地表構造物を破壊し、周囲の何もかもを巻き込み、呑み込んでいった。

 

1999年9月5日2000。

 

この日、人類史上初めてハイヴの攻略に成功した。

多大な犠牲の先に、人類は初めてハイヴの攻略に成功した。

 

しかしそれは、様々な思惑が絡み合った先に得た結果だった。

 

この結果が、何を生むかはわからない。

 

ただわかっていることは、横浜ハイヴは陥落し、人類は初めて奪われた地の奪回に成功したということだった。

 

 

 

 

 

 

物語はここに、1つの終わりを示し、同時に1つの始まりを示す。

先に待つのはどのような結末か。

それは誰にもわかりはしない。

 

狙撃手が得たものはなんであったのか?

 

それは、この先を見てみなければわからない。

さあ進もう、次の舞台へ。




正直、2週間近くにわたって書いたものとしては大きく心残りが残るものに。
どうにもうまくまとめられず、時間軸や戦場の模様などの描写はおざなりになってしまいました。
正直なところ、ここが前に頓挫した一番のネックな部分でありました。
なんとかしましたが、なんとかなってないのが現状です。
多分、今回もまたいろいろな意見がもらえるでしょうか?
そうしていただけると、幸いです。厳しい意見も優しい意見も、もらえるというそれだけでもすごく感謝していますから。

あまり長くなってもアレなので、(勝手な)恒例の次回予告パートと行きましょう。
ではどうぞ!


犠牲の先に得たものはなんだったのか。
人の思惑というのは、必ずしも当事者の思い通りにはいかない。
故に人は、それをうまくいかせるための段取りを行う。
陰謀渦巻く戦場で、狙撃手は何を見たのか。

次回「対外折衝」

政治とは、彩り代わる万華鏡。

イメージED「罠/THE BACK HORN」

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