Muv-Luv Alternative✖️機動戦士ガンダムOO 地獄に降り立つ狙撃手 作:マインドシーカー
正直、この展開を持ってくるかどうかは迷いました。
今回のイメージOPはピロピロいきましょう、ピロピロ。
僕、案外この曲好きなんですよ。
なんであんなに酷評されるんでしょうね?
目指していきましょう、TOPを。
命など安いものだ。
戦争であれば尚更に、それこそ人に無意識に踏まれて命を落とす蟻のように。
そんな世界でも、人は懸命に生きようとした。
地獄がそのまま現実になったような世界で、人々は今日も戦い続ける。
多くの屍を、積み上げながら。
明日のために、と。
『これより現ラインより移動する。この先は平地だが、低い高度を維持しながらであれば、問題はない。』
ここは、京都の市街地より少し離れた場所に位置する場所だ。
そこに、嵐山補給基地より出撃した帝国斯衛軍所属の嵐山第二中隊はいた。
その部隊の殆どが、まだ若い10代の少女達であり、隊長である赤い衛士強化装備を纏った衛士もまた、まだ年若い女性だった。
帝国斯衛軍制式採用の戦術機である82式「瑞鶴」で構成された第二中隊は、新米ばかりで構成されているにも関わらず、奮戦していた。
数名の犠牲者は出ていたものの、それでもまだ中隊の「形」は保ち続けていた。
戦闘を行なっていたエリアから移動を開始し、田畑が広がる平地を低い高度で飛行を行っている時に、「それ」は唐突に現れる。
『隊長ォ!』
背後から、隊長機の赤い瑞鶴が、何かに貫かれた。
近くでそれを見ていたのは、部隊の生き残りの1人である山城上総だ。
彼女の悲鳴に似た叫びの直後に、力を失ったかのように失速した赤い瑞鶴は、そのまま地面に足を擦りつけ、バランスを崩して地面へと転がる。
落下と回転の衝撃耐えきれなくなった機体のフレームはバラバラになり、残っていた燃料ごと跳躍ユニットが誘爆を起こして爆散した。
『れ、
誰かが、絶望に満ちた声で呟く。
直後、彼女たちの眼に映る網膜投影に「レーザー警報」の文字が表示され、瑞鶴の管制ユニット内に、光線級の存在を告げる警告音が鳴り響いた。
『なんで光線級が…!』
『レーザーの射角が開けたんだわ…!』
パニックに陥る生き残りの少女たち。その中で、未だ冷静さを保った人間がいた。
この中隊の大半を構成する白の瑞鶴に乗る上総だ。
『唯依!貴女が指揮を引き継ぎなさい!早くしなければ、全員死ぬ!』
未だ混乱の渦中にある衛士達の中で、彼女の同期であり黄の瑞鶴に搭乗している篁唯依へ上総は言う。
斯衛には古くからある伝統に則り、最上位の「紫」の色を除いて(これはそもそも前線に出てくることがないため)、青→赤→黄という順に、色による序列が定められている。
赤の人間が死んでしまった今、次席に位置する唯依が指揮を引き継ぐのは自明の理であった。
だからこそ、上総は言ったのだ。
―――――お前が命令しなければ、この場の全員は死ぬと。
『いやぁぁぁ!』
後方から光線級の標的にされている現実に耐え切れなくなった中隊の1人が、パニックを起こしてあらぬ方向へ向かおうとする。
『な・・・!?隊列を崩すな!余計に的に―――――』
上総がその瑞鶴の衛士を叱責しようとした瞬間、その機体は白い光に貫かれた。
レーザーだ。
胴体の中央を貫かれ、管制ユニットごと衛士を焼かれた瑞鶴は、直後に空中で爆散する。
『は、早くなんとかしてよ!唯依!』
中隊員の一人である、上総と唯依の同期の能登和泉が涙混じりの声を上げた。
だが、この戦闘が初陣の者ばかりである中隊の中で、武家の階級のみで次席指揮官となってしまった唯依に、現状を打破して反撃に打って出るような能力は無い。
だから、合理的に判断した。
『次の照射が終わると同時に
今できる最良の判断は、逃げ続ける事。幸い、光線級との距離は近くはない。
射角が開けたことによる攻撃は、逆を言えば地形を利用すれば回避もできる。
正面には山がいくつもあり、高度に気を付けながらそれを盾にすれば撒けると判断したのだ。
だが、後方からのレーザー照射を避けながらそこを目指して全員逃げ切るのは不可能だった。
『前方に尾根がある!距離は120!』
『残存全機は、
平地の先にある尾根にさえ辿り着ければ、そんな希望を抱かせることによって、光線級出現によるパニックを一時的にでも抑えようとした。
だがそれは、甘すぎる目算だ。
現実は非情であり、光線級によるレーザー照射で、1機、また1機と撃墜されていく。
そして-----照射が一度止んだ。
『対光線煙幕弾発射!』
肩部ユニットに内蔵された対レーザー用の煙幕弾が発射され、進路方向の前側で炸裂した煙幕弾が煙のカーテンを作り出す。そして、煙のカーテンに残存機が正面から突っ込んでいった。
既に残存機は5機にまで減っており、煙を抜けた直後に再開された無慈悲なレーザー照射によってまた1機、爆散する。
極限状態での逃走劇は、更に彼女たちの精神をすり減らしていく。
『あと少し・・・!』
目前に尾根が迫ったところで、またさらに1機が撃墜された。
残るは、黄色の瑞鶴一機に、白の瑞鶴が二機。
『もうダメ・・・!』
『諦めないで!』
『距離、50・・・!』
和泉の諦めに似た声。
それを奮い立たせようとする唯依の声。
その直後、彼女たちを死の世界へ引きずり込もうとしていた光線級群が爆風に包まれた。
『・・・砲撃・・・!?』
『連合、艦隊・・・』
それは、琵琶湖に展開する帝国海軍連合艦隊の第二艦隊による艦砲射撃だった。
琵琶湖の水上。
そこに、連合艦隊の主力である第二艦隊は在った。
旗艦「尾張」艦橋で、直立不動の状態で静かに燃える京都を見ているのは、艦長である小沢だ。
本来は、国家に仇為す仇敵を打ち砕くべく建造された戦艦。
本来は、国家と、国土と、国家元首と、兵士たちと、何より臣民達を守るために使われるはずの戦艦群。
戦艦「尾張」に備え付けられた、世界最大規模の海上兵器たる46cm3連装主砲3基9門全ての矛先が、京都市街地に向けられていた。
「尾張」麾下の水上打撃群の主砲もまた市街を向いており、次々と砲撃が行われている。
着弾と同時に、1000年の都が崩れていく。
「・・・長官の心中、お察しいたします。」
副官である安倍が、沈痛な面持ちで言う。
「・・・我々の任務は、我が軍の兵士を、ひいては帝国臣民をを守る為にある。」
小沢は、そう言った。
放棄が半ば決定した状況で、撤退を支援するためには艦砲射撃が最も適切だ。だが、京都への砲撃は、つまるところ日本の首都へと、征夷大将軍がいる場所を焼くことになる。
それはなんとしても避けたかった。
だが、今この瞬間にも砲撃が行われている理由は、小沢による独断だった。
撤退する部隊と、避難する住民たちを逃がすためには、市街へと侵入してきたBETA群を、敢えて市街諸共攻撃することによって足止めをする。
そしてこの行動は、後に多くの人間を救うことになる。
だが今この瞬間、誰しもが思っていた思いがあった。
「なぜ」、と。
だが彼は、それでも決断したのだ。
守るべきものを守るためには、国土すら焼くのも辞さない。
「・・・」
彼は静かに、火に包まれていく京都の町を見る事しかできない。
「砲撃の手を緩めるな!」
砲弾の装填を終えた「尾張」の主砲が動き出し、46cm砲による艦砲射撃が再開される。
-----彼女もまた、涙を流しているようだった。
京都市内。
既にその殆どが機能を失い、無人の街と化したその近くに、「それ」はいた。
闇の中に、近づけば辛うじて見えるほどに周囲の景色に溶け込んでいるのは、膝立ちの姿勢の巨人だ。
それは、GN粒子による保護膜を纏うことで光学迷彩を展開し、夜間という条件を利用して暗闇に潜むガンダムデュナメスだった。
ロックオンは、そのコクピット内で様々な機器とハロを使い、今の自分を取り巻く周囲の状況を把握すべく、情報収集を行っていた。
そうして集めた情報を統合していった結果、ここが「自分のいた地球」ではないという、確信を得るに至った。
そして、断片的な情報からわかったのは、彼が援護した部隊の所属が「日本帝国軍」だということと、それと敵対する勢力、或いは戦っていた怪物を「BETA」と呼んでいる事だった。
現状の日本を取り巻く状況は、西側の大半がその、BETAと呼ばれる存在の攻撃に遭い、陥落したことで京都へと侵攻が進んできているといったものだ。
『アイツラ、気持チ悪イ!気持チ悪イ!」
本土が戦場になっており、実質のジリ貧状態の日本と、その元凶たるBETAという化け物。
無論、これだけの被害が出ているのだから、死者もかなりの数に昇るだろう。
「胸糞悪い戦場だな・・・。現状の日本帝国軍とやらの戦力じゃ、無理だろうよ。ここを守って、進軍を押し留めるのは。」
掴んだ情報の中でわかったことだが、現在展開中の部隊には京都の守護を目的に結成された部隊によってこの京都の死守を目的に戦っているようだった。
だが、わかっている限りの布陣と状況ではここを守るのではなく放棄するのが妥当な判断だ。
しかし、どうにもこの軍は
しかし、ロックオンには理解ができていなかった。
そこまでして、何を守りたいのかを。
どんなに重要な拠点といえども、立地条件などで放棄せざるをえない場合もある。
その決断が遅ければ、被害は拡大していく一方であり、いずれそれは組織の崩壊をも招く可能性がある。
『Eセンサーニ反応!Eセンサーニ反応!』
Eセンサーが動体反応を捉えたことで、ハロが反応する。
「こいつは・・・」
センサーで検知した反応は、少し前に戦ったBETAの小規模群があらゆる方向から接近してきている事を示していた。
その証拠に、簡易的にマッピングデータを作り急場凌ぎで作った戦域データ上では、反応が現れては消えていたり、BETAであろうものを示す
そして、小規模群の中に、ある場所を目指して動いているものがあった。
「ハロ。こいつらの進路上に、何か見えるか?」
『更ニ先ニ、動体反応ヲ検知!動体反応ヲ検知!』
ハロが表示した簡易的な戦域データ上に、その群体が向かう先の地図が表示される。
そこには、大きな駅があった。彼は知らないが、そこは無人となった京都駅であり、その近くに3つの光点が向かっていたのだ。
その近く、3つの反応に気づいたのであろう動きを1つの光点が移動しているのがわかった。
『敵接近!敵接近!』
戦況を傍観していると、ハロが警告を発した。
京都市街に展開していたBETAの一団の一部が、こちらへ向かってきていたのだ。
その証拠に、光点の塊の一部が、こちらの方角へ向かってきているのが確認できる。
『見ツカッタ!見ツカッタ!』
「なに・・・!?いくら優秀なレーダーがあったって、こっちに気づけるはずがねぇ・・!」
ロックオンは後々知ることになるが、BETAという生物は、高性能な情報処理端末を搭載したものを好んで襲う習性がある。
例を挙げるなら、戦場で動き回る戦術機、海上における戦艦や戦域管制を司る旗艦機能を持った巡洋艦、そして、様々な軍の基地司令部や、国家の中心的な都市など。
ようは、簡単な話が高性能なコンピュータが餌になっているという事だ。
デュナメスは、戦艦などの大型兵器を除けば最も優秀な情報処理端末を搭載した人型機動兵器であるため、その条件に当てはまってしまっていたのである。
それでも、BETAの展開の仕方を見ると、GN粒子の影響でデュナメスを捉え切れていないような動きをしているのがわかった。
「・・・チッ。」
歯噛みするロックオン。
既に彼は、以前の戦闘でBETAを「紛争幇助」の対象として攻撃してしまっている。
つまりは、独断で「武力介入」を行っていたのだ。
CBの理念は、「紛争の根絶」。
その理念に反してはいないが、無用な武力介入は逆に争いを生み、自分自身が「紛争幇助」の対象になってしまう。
だがしかし、この世界におけるCBは自分だけかもしれないのだ。
なら、もう1回も2回も変わらないのではないか?
「降りかかる火の粉は、自らで払え、か…。オーライ、ハロ。隠密行動モードを解除しろ。」
『了解!了解!』
「デュナメス、戦闘モードに移行だ。GNドライブの出力を戦闘可能レベルまで上げろ。」
機体のシステムを戦闘モードへと移行させながら、ハロへと指示を出すロックオン。
「この前と同じように、GN粒子は電波妨害をしない程度にな?ちょうど良くってやつだ。できるな?」
『合点承知!合点承知!』
最低限のGN粒子でも、この世界における兵器や、こちらへ向かってきているBETA相手でもそれなりにやれるだろう。
「空を飛べばあの目玉野郎に狙われて面倒だ。あくまで限定的な空戦をこなせる程度だぞ」
『了解!了解!』
「さて・・・再度、紛争幇助対象である「BETA」への武力介入を開始する。」
光学迷彩を解除し、膝立ち状態だった機体を起立させるとツインアイが光を放って機体が動き出し、やがて浮かび上がる。
「ロックオン・ストラトス。迎撃行動に移る!」
デュナメスのマニピュレータが、太腿の部分に懸架されている格納部からGNビームピストル2丁を抜き、構える。そして、ロックオンは、向かってくるBETA群へとデュナメスを突入させた。
―――――要塞級!?
―――――こんなところになんで・・・!
―――――うあぁぁぁぁ!
―――――駄目よ唯依!さっきの戦闘でのダメージが・・・
―――――機体の蓄積ダメージが・・・!?
―――――唯依ぃぃぃ!
意識が戻る。
眼を開くと、再び網膜投影による機体状況が表示された。
唯依の乗る瑞鶴は、管制ユニットも含めたすべての部位が限界を迎え、大破した状態だった。
辛うじて生きていた生命維持装置と、電力が管制ユニット内を最後の砦として機能させていたが、恐らくは瓦礫の中に擱座した状態の機体の中にとどまり続けるのは自殺行為。
故に彼女は、コンソールパネルを操作して管制ユニット前面部のパージを行い、管制ユニット内からの脱出を図った。
前面部が地面へと落下し、落下と同時に鈍い音と煙が立つ。
「和泉、山城さん・・・無事でいて・・・!」
管制ユニットから這い出ると、地面に着地し、ライト付きのハンドガンを手に歩き出す。
ここは、先ほど近くにあった京都駅だろうか?
この場から仲間と共に早く逃げなければ。
そうしなければ、待っているのは「死」しかない。
「和泉、山城さん・・・?二人とも無事なら返事をして」
通信器で呼びかけ、二人の安否を確認するが、返事は帰ってこない。
聞こえてくるのは、ノイズだけだ。
通信が繋がらないということは、二人ともそれぞれに何かがあった可能性が高い。
怪我をしていて話せるような状況にないのか、それとも、通信機器が既にダメになってしまっているのか。
或いは―――――
最悪の展開が、脳裏をよぎる。
だが、戦場では当たり前の話だ。なにせ、小型種のBETAそれだけで危険なのだから、既に二人が食われてしまっていてもおかしくはない。
しばらく歩いていると、何かの物音が聞こえた。
「山城さん・・・?和泉さん・・・?」
物音のする方向へ静かに近づいていくと、ライトに何かが映った。
それは、白い瑞鶴の部品の一部だということがすぐにわかった。
ライトの方向を上へ向けると、唯依の瑞鶴と同じように、機能を停止して擱座した瑞鶴が照らし出される。
胸部を見れば、すでに前面部は無かった。
瑞鶴の胸部に這い上がると、管制ユニット内は目立った損傷はなく、そこに誰もいない。
ということは、和泉か上総、どちらかは既に脱出し、近辺に潜伏している可能性が高い。
―――――では、先ほどの物音の正体は?
嫌な予感がして、音がする方へさらに近づいていく唯依。
やがて、駅の地面が陥没している発見した。
そこへゆっくりとライトを向けると、地面には赤いなにかと、その上をなにかが引きずられた跡がある。
そして、更に奥を照らすと―――――
「
何かに群がっている、闘士級の群れ。
聞こえていた物音の正体は、闘士級が何かに群がる音だったのだ。
だが、何に群がっている?何がそこに在る?
―――――奴らは、
「・・・っ・・・」
悲鳴をあげそうになるのを必死にこらえる。
そこにあったのは、
「和泉・・・!」
変わり果てた姿の、能登和泉だった。
闘士級が立てていた音は、何かを咀嚼する音。
食われていたのは、彼女の死体だった。
悲鳴を上げることなく、彼女は殺されたのだだろう。
力なく横たわる彼女の身体は、何の感慨も抱く事を許さないがごとく、貪られる。
「山城さんは・・・?」
彼女は即座にその場を後にすると、上総の捜索に移る。
「山城さん、どこ・・・?」
だが、通信はさっきからノイズばかりで繋がることはない。
突然、何かの音がした。
鈍い音と、振動。
まるで、何かが戦闘を行っているような。
しかも、音が段々と近づいてくる。
瓦礫から埃と破片が落ちてきて、周囲に散らばる。
『・・・・・篁、さん・・・?』
突然、通信器から声が入る。
「山城さん・・・!?」
『・・・っ・・・まだ、生きているみたいね・・・』
ノイズ混じりであるが、上総の声が聞こえた。
唯依は、少しだけ安堵する。しかし、予断は許さない状況だ。
小型種がいるということは、彼女にそれらが迫っていてもおかしくはない。
「体は無事?機体の損傷状況は?」
『・・・体は、うまく動かないわね。恐らく墜落した時の衝撃で色々と怪我をしたみたい・・・。機体状況は・・・ああ、完全にお釈迦ね。』
同じ状況で、擱座した機体から脱出できるような状況ではない。
尚更、彼女の場所をすぐに見つけないといけない。
直後、大きな振動が起こり、唯依は態勢を崩して地面に倒れこむ。
「な、なに・・・?」
そして、目の前に「それ」が現れた。
「な・・・!?」
無人の京都駅の壁を突き破って、何かが倒れこんでくる。
それは、要撃級の死骸だった。
小刻みな振動音とともに、ゆっくりとこちらへ近づいてくる「何か」。
「あれは・・・」
姿を現したのは、二つの目とV字の角が特徴的な見たこともない戦術機だった。
「ここは、さっきの連中が向かってた場所か。」
小型種をしこたま屠り、中型種の要撃級をビームサーベルで相手しながら動き回っていたデュナメスは、いつの間にか唯依達のいる京都駅まで来ていたのだ。
「・・・ん?」
メインカメラで周囲を見渡すと、黄色い見覚えのないノーマルスーツを身に纏った人間が見えた。
身体の凹凸が出るような恰好をしていて、身体特徴的に女だというのがわかる。
拡大して彼女の顔を見ると、まだ幼い女の子だった。
自分が知る中では、身近にいて歳が近いのはフェルトだっただろうか?
通信モードを外部スピーカに変更し、呼びかける。
「無事かい、お嬢さん。」
きょとんとした表情を浮かべる彼女に外部スピーカ越しに話しかけるが、返事はない。
「とりあえずそっちに行くよ。」
機体を操作して、駅の中へと入っていく。機体をしゃがませて、少女の方へ機体の手を差し出した。
「こっちに乗り移れるか?」
そう言うと、少女は頷き、すぐさまデュナメスの手に乗った。
そしてコクピットの方へ近づけると、ロックオンは躊躇なくコクピットを開けて彼女に姿を見せる。
素顔は見せないように、ヘルメットにはスモークをかけていた。
「ああ、悪いな。任務の性質上、素顔を晒せないんだ。」
訝し気な視線を向けてきた少女に、飄々とした雰囲気で返しおどけてみせる。
「・・・き、救援感謝します。自分は、帝国斯衛軍所属の篁唯依少尉です。」
「OK、ユイ。さて、質問だ。生き残りは何人いる?」
彼はすぐに本題に移った。
先ほどから気になっていた、ここへ向かっていた反応。
そのうちの一つが、恐らく彼女だろうと考えていたロックオンは、だからこそ聞いた。
「・・・既に、一人は死にました。もう一人は、擱座した機体の中に負傷して閉じ込められたままです。」
「動けない状況ってことか。恐らく、怪我を負っているということだな。」
察するに、動けない状況でこのまま放置し続ければ、死を待つばかりなのだろう。
「場所はわかるか?」
「・・・いえ。わからないです」
唯依は、和泉を探している時から大体の候補を考えながら動いていたが、人の脚では行ける範囲に限界がある。
『動体反応検知!動体反応検知!』
ハロが、センサーで捉えた場所をモニターに表示させた。
「こいつはまずい・・・!」
戦域データで、光点が一点に集まっていくのが確認できる。
恐らくそこに―――――
「悪いがあんたをコクピット内に入れることはできねぇ。暫く、こいつの手にしがみついていてくれ!」
「え・・・!?どういう―――――」
唯依が何かを言い終わる前にコクピットを閉めると、機体を立ち上がらせると機体を一旦外へと出して反応が終結している場所を外から目指す。
「間に合ってくれよ・・・!」
すぐにその場所の近くに到達すると、GNビームピストルで壁を撃ち、脆くなったところをタックルで突き破って中へと入る。
そこは、開けた空間だった。
『あ、あれ・・・!』
集音マイクが、彼女の声を拾った。
ロックオンが中へと視線を向けると、デュナメスのメインカメラが擱座した瑞鶴を捉える。
「まずい・・!」
既に、瑞鶴には赤い小型種―――――戦車級が迫っていた。
「おい嬢ちゃん!あの機体のコクピットは外部から開けられるのか!?」
『は、はい!外部の操作部を動かせば、管制ユニットの前面部をパージできます!ですが、あそこまでどうやって・・・!』
「わかった!こいつらをしこたま排除したら、機体をその白いのに近づける!ハロ!」
『了解!了解!』
もう片方の手にもGNビームピストルを持たせ、2丁拳銃の要領で周囲の小型種を排除していく。
瑞鶴の周囲の一時的な安全を確保すると、ロックオンはデュナメスを瑞鶴へと寄せて、手に乗せたままの唯依を近づけていく。
「急げ!長くはもたせられねえ!」
いくらデュナメスといえども、限定的な状況なうえに人命救助という場面においては、周囲のフォローをしなければいけない状況では、ある程度の危険が伴う。
無視してやっていいのであれば、問題はないかもしれないが、彼の背後には少なくとも二人の人間がいる。
「くそっ・・!集まってきやがった・・・!まだか、ユイ!」
『い、いまやっていますけど・・・うまくパージできない!』
焦った様子の唯依の声。彼女が外から前面部のパージをしようとしたが、開かない。
それは、墜落した際の衝撃で管制ユニット前面部が歪んでしまっていたのが原因だった。
「くそ・・・!少し離れてろ!」
右手のビームピストルを格納すると、腰部武装ラックに懸架されているGNビームサーベルを引き抜き、ビームを展開させると管制ユニット前面部を横から切り裂く。
『山城さん!』
管制ユニットにかけよる唯依。
ユニット内には、怪我と出血で動けなくなっている上総がいた。
「よし、これで・・・」
だが、一瞬気を緩めたのがいけなかった。
壁を突き破って何かが入ってくる。
そこにいたのは、大きな前腕を振り上げた要撃級だった。
『敵接近!敵接近!』
GNフィールドをこの距離で張れば、後ろの二人をフィールドで覆いきれず、逆に被害を及ぼす可能性があった。
だからこそ、彼は次の動きに躊躇してしまったのだ。
「くそったれ!邪魔だ!」
振り下ろされる前に前腕を切り裂くが、もう片方が追撃とばかりにデュナメスの肩部シールドユニットに直撃する。
それなりに強度を持つシールドだが、前腕の攻撃でデュナメスが狭い空間のなかで壁に叩きつけられた。
「ぐっ・・・!」
『二人ガ危険!二人ガ危険!』
「しまった・・・!」
モニター越しに見えたのは、擱座した瑞鶴に群がる戦車級だった。
唯依は、急いで上総をユニット内から引きずり出そうとしていた。
しかし、上総はぐったりとしている。
上手く体が動かせないようだ。
「山城さん、しっかりして・・・!」
「くっ・・・篁、さん。もう、私は動けないわ・・・どこか、骨折しているみたい・・・腕も足も動かなくて・・・」
「諦めないで・・・!今、私達を助けるために戦ってくれている戦術機がいるの!」
もうすでに体を動かせるような状況でない上総は、唯依に対して暗に自分を見捨てるよう促す。
しかし、唯依は諦めなかった。
「まだ・・・!まだ、貴女だって、生きてる・・・!生きてる限りは―――――」
ユニット内に体を入れると、上総の肩を担いで引きずり出そうとする。
しかし、彼女を担ぎ出そうとしたところで、大きな衝撃音と振動が起こる。
「えっ・・・?」
管制ユニット内から身を乗り出すと、要撃級に吹き飛ばされる先ほどの戦術機が見えた。
直後に、こちらへ何かが次々と近づいてくる。
「
「ふぅ、・・・けほけほっ・・・!」
肩に担いだ状態の上総が呻いた。口から血を吐き出して、浅い息を吐く。
早く治療をしなければ、彼女は死んでしまう。
だが、
「篁、さん・・・。」
群がってくる戦車級を見て立ちすくんでいる唯依に、上総が話しかけた。
「や、山城さん・・・?」
「私を・・・捨てて、いきなさい・・・。」
改めて、上総は唯依に言う。
「でも・・・!貴女を見捨ててなんて・・・!」
「私を担いだままで、逃げ切ることなんてできない・・・!だから、私はここへ置いていって・・・!」
上総は、強い眼差しを唯依へと向けた。
そして、彼女は唯依が持つハンドガンを見る。
「でもその前に・・・貴女が、私を終わらせて。」
「・・・上総・・・!?まさか貴女・・・!」
唯依は察してしまった。彼女が何を求めているのかを。
「私はもう、自分で自分を終わらせることはできない・・・だから、お願い。」
その言葉を聞いて、唯依は首を横に振る。
そんなことはできないと。
「で、でも・・・!」
「私を終わらせられるのは、今あなたしかいない。だからお願い。撃って、唯依・・・!」
迫る上総に、唯依はそれでも撃つことが出来ないでいる。
「貴女は斯衛の軍人でしょう・・・!覚悟を持ってここにいるのでしょう、篁唯依!」
声を張り上げて、懇願する上総をゆっくりと下ろすと、銃口を向ける。
「・・・ありがとう、唯依。」
力なく微笑みかける上総。
「・・・・・・っ・・・」
引き金を引こうとした瞬間、管制ユニットごと機体が揺れた。
「きゃっ・・・!?」
唯依はその衝撃で管制ユニットから投げ出され、上総は再びシートに体を叩きつけられる。
それは、更に現れた要撃級に瑞鶴の胴体が殴り飛ばされたのが原因だった。
「うぐっ・・・!」
もう、動けない上総を撃ってくれる者はいない。
「上総ぁぁぁぁ!」
立ち上がり、管制ユニットに近づこうとする唯依。
しかし、影になっている場所にいる上総を唯依が撃つことはできない。
そしてまた、唯依自身にも戦車級が迫っていた。
「あっ・・・」
ゆっくりと近寄ってくる戦車級。
大きな口を開けて、彼女を食わんと迫ってくる。
恐怖で足がすくんでしまって、逃げることができない彼女に、大口が食らいつこうとした瞬間。
戦車級が、上から何かに撃ち抜かれた。
「あぐっ・・・!」
衝撃で吹き飛ばされる唯依。壁に撃ちつけられ、直後に彼女に生暖かい液体が降りかかる。
それは、戦車級がミンチになった際に飛び散った血飛沫だった。
「う、く・・・」
眼を開けると、上から何かに照らされた。
それは、新たな戦術機だった。
唯依を助けたのは、青い戦術機だった。
その機体の名は、「武御雷」。
その先行量産機だった。そして、武家においては紫を除いて最上位を示す「青」。
評価試験中に偶然京都駅での戦闘を発見し、救援に駆け付けたのだ。
京都駅の壊れた天井から駅の中へと入り、擱座した瑞鶴の横に着地する。
そして、懸架ユニットから74式長刀を左手で抜くと、群がってきた戦車級を一閃。
続けて右手に持つ突撃砲で別方向から迫る戦車級をハチの巣にしていく。
それから、一方的な蹂躙が始まった。
華麗に舞う武御雷によって、次々とBETAの屍が積みあがっていく。
「・・・・・で。この状況、どうするかね、ハロ」
その様子を、先ほど自分を吹き飛ばし覆いかぶさってきた要撃級の下に隠れながら、ロックオンは見ていた。
タイプは異なるが、恐らくあれは帝国軍所属の機体だろう。
機体の特徴が、先ほど見た白い戦術機に似ている。
『逃ゲルガ吉!逃ゲルガ吉!』
「だよなぁ・・・」
折角助けに入ったのに、不注意で化け物の不意打ちを防ぎきれずにこんな体たらくを晒している上に、あの少女―――――ユイの様子から察するに、こんな機体は見たことがないはずだ。
そんな状況で、あの機体に拘束されでもしたら面倒なことになる。
「仕方ない。この場からずらかるぞ。まあ、多少の援護はしてやるとするかね」
正面の化け物の死骸を押しのけて機体を起き上がらせると、GNビームピストルのトリガーを引き、青い機体に背後から迫っていた小型種を撃ち抜いて沈黙させる。
「離脱する。後は頼んだぜ、ヒーローさん」
誰にも聞こえないが、彼は青い機体にそう言いながら、先ほど叩きつけられた際に穴が開いた壁から外へと出る。
そして、機体を離翔させるとまだ闇が深い空へ消えていった。
混迷を極める戦場。
状況は最悪の展開を迎え、国の未来は明るくない。
そんな中でも、守りたいモノのために戦う。
その先に何があるのか、わからぬままに。
そんな世界で、彼は迷いを抱えたままに戦場へと身を投じる。
燃え盛る京都で、濃緑の狙撃手は何を成すのか?
次回「地獄に降り立つ狙撃手 後編」。
狙い撃つ相手、それは―――――