Muv-Luv Alternative✖️機動戦士ガンダムOO 地獄に降り立つ狙撃手   作:マインドシーカー

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この小説は、ご覧の作者の提供でお送りいたします。

火星で発見された異星起源種によって引き起こされたBETA大戦。
地球外生命体BETAを駆逐するべく、異界からの戦士が立ち上がる!
(某ライダー冒頭ナレ風)

イメージOPは「Be The One」でいきましょう。

※火星で発見されたのはパンドラボックスではなくBETAです。

※2019年10月2日2223 国際情勢を描写した部分を修正


story03「横浜の魔女」

~1998年8月15日 帝国軍柏陵基地周辺海域~

 

漆黒の闇に包まれた海。

何も無いはずの海上に、波紋が生じる。

否、「何もない」というのは些か間違っている表現だろうか。

海上に浮遊しているのは、光学迷彩によって周りの風景に溶け込んだ1機の人型機動兵器だった。

"それ"は、この世界とは異なる概念と遥かに進んだ技術で製造され、この世界においていかなる兵器の追随も許さず、本来の世界においては「最強の機動兵器」の一角を担った「ガンダム」の名を関した濃緑の狙撃手―――――GN-002「ガンダムデュナメス」。

漆黒に包まれた海上を、デュナメスはゆっくりと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

―――――帝国軍柏陵基地。

 

横浜に造られた、日本帝国軍の軍事基地。

しかしてその実態は、人類を救うための4つ目の代替計画を執り行う中心の場だ。

その場所は、帝国軍より国連へ提供された軍事基地だった。

この基地に設置されたAL4(オルタネイティブ第四計画)占有区画の一角、そこにある専用に用意された部屋に、その人物はいた。

彼女の名は、香月夕呼。

「横浜の女狐、或いは魔女」、もしくは「極東の魔女」と呼ばれ、一部の人間には畏怖される女性だ。

 

「・・・・・」

 

いつものように、彼女は部屋に備え付けの座り心地のよさそうな椅子に座っていた。

片手に持ったコーヒーカップに注がれた熱々のコーヒーをゆっくりと啜りながら、執務机においてあった「ある報告書」に目を通す。

 

その報告書には、いくつかの写真も添付されていた。

 

写真に収められているのは、報告書に記述されている謎の戦術機(アンノウン)の姿。

明らかに既存の戦術機とデザインが異なるそれは、戦術機に比べれば遥かに「人間的」な外見をしていた。

「これ」が現れたのは、つい先日の事だ。

既に陥落した京都の防衛戦時、ならびに撤退戦時において複数回確認されたという。

 

報告書の記述をまとめると、『背部の動力部らしき部分や、腰部の跳躍ユニットらしき部分から緑色の粒子を放出。光線級のレーザーをも跳ね返す「光の障壁」と光線級が放つレーザーと同等の威力をもち、光線級以上のペースで、ほぼインターバルなく光線兵器を用いる、未確認の戦術歩行戦闘機。』と記載されていた。

彼女は京都防衛戦時にその目撃情報を掴むと、すぐさまその機体をマークするよう指示を出し、自分に情報提供をしてくれる「とある人物」が情報収集に奔走した結果、その戦術機の衛士が斯衛に身柄を拘束されていることを突き止めた。

それを知ると同時に、彼女は情報操作による手を打ちその戦術機を「極秘任務で、実地評価試験を目的に西日本某所山間部で最終調整作業を行なっていた際に戦闘に巻き込まれた」とし、その機体の衛士を彼女直属の部下としたのだ。

 

その連絡を送って数十分後、件の戦術機が柏陵基地へ向かった旨が、彼女自身に伝えられた。

 

あれからすでに何時間が経っただろうか?既に時刻は20時を回り、基地の周囲は闇夜に包まれている。

 

「さて、と・・・最低限のお膳立てはしたし、後はこいつが素直にここに来るか、よね。」

 

そんな事を、1人呟いた瞬間、基地内に緊急配備の警報が鳴り響いた。

 

「・・・ようやくね」

 

彼女は、「魔女」の異名を持つに恥じない笑みを浮かべながら部屋を後に基地の指揮所に向かった。

 

 

 

 

 

 

帝国軍柏陵基地。

今この基地は、ある異常事態に見舞われ、スクランブルが発令されていた。

サイレンがけたたましく鳴り響き、暗かった基地に明かりが灯されていく。

 

その「異常事態」とは------突如として、全ての電子機器が異常を起こし始めたのだ(・・・・・・・・・・・・・)

周辺警戒用の早期警戒レーダーの表示にはノイズが走り、通信設備はジャミングがかかったかのように各所に連絡がうまくできないような状態で、未知の事態に基地内は騒然としていた。

慌ただしい司令部とその中にある指揮所にて、その様子を眺めていた基地司令。

その後ろの自動ドアが開き、白衣を着た1人の女性が現れる。

招集をされるまでもなく、香月夕呼自らがこの場所に足を運んでいた。

 

「おお、香月博士。今お呼びしようとしていたところです。」

 

「いても立ってもおられず、自らここに来てしまいましたわ?基地司令殿。」

 

基地司令の言葉に、彼女はそう返すと慌ただしい指揮所に目を移す。

 

「HQより基地の全ての戦闘要員へ!第二種戦闘配備(コンディションイエロー)!基地を守備隊に緊急出動命令(スクランブル)をかけろ!」

 

オペレーターがインカム越しに基地各所へ直接スピーカーで命令を下し、基地全体が戦闘態勢に入る。

滑走路にもライトが灯され、滑走路に繋がる位置にあるハンガーエリアの戦術機格納ハンガーの扉が開いていく。

 

「第1、第2小隊は直ちに-----」

 

「第4小隊はハンガーにて待機せよ」

 

「MPはただちに基地各所の入り口を-----」

 

「第1小隊、2番滑走路に移動して-----」

 

各オペレーターが指示を出す中で、レーダー要員の1人が声を上げた。

 

「れ、レーダーに感あり!突然現れました!」

 

「場所は!?」

 

「座標は・・・当基地直上!既に、警戒エリアを突破されています!」

 

「・・・既に懐に潜り込まれたというわけか。」

 

ノイズが走るレーダーに、辛うじて映った反応の座標は基地直上。

司令官は、その報告を聞いて苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

ロックオンは、海上から柏陵基地へのアプローチに入った。

基地の上空に到達すると、一旦機体を制止させる。

 

無論、隠密巡航モードによる光学迷彩のオマケ付きで、だ。

 

眼下の軍事基地。

これが、目的の柏陵基地なのだろう。

 

「ここが、ツクヨミに教えられたヨコハマの基地か。」

 

直後、集音マイクで拾った音声が聞こえてくる。

それは、緊急事態を知らせる警報だった。

やがて、基地の照明がいくつも点灯し、基地全体が騒がしくなっているのが見て取れる。

 

「・・・まあ、そうだよな。GN粒子にはジャミング効果があるから、対策をしているならまだしも一切していないならこうもなるか。」

 

『仕方ナイ!仕方ナイ!』

 

溜息混じりにロックオンがそう言うと、ハロがフォローするように音声を発する。

 

CBの運用する兵器の大半は、GN粒子を用いたものばかりだ。

武装も、装甲も、機体の端まで動かすのにGN粒子を用いている。故に、このGN粒子による様々な技術のノウハウがなければ、再現不可能な技術。

これが、武力介入当初のCBの絶対的優位を保っていた要因であった。

 

ガンダムデュナメスの動力部もまた、言わずと知れたGNドライヴだ。そして、それが放出するGN粒子には通信機器などに異常をきたす特性がある。

隠密巡行モードとはいえ、散布されているGN粒子は、見事に柏陵基地の電子機器に悪影響を及ぼしていた。

 

「下の奴らにしてみれば、未知との遭遇ってやつだよな。」

 

彼はそう言いながらハロへと指示を出すと、GN粒子で構成されていた光学迷彩を解除され、基地上空に浮遊するデュナメスの姿が露呈される。

 

「さて・・・どう出るか、だな。」

 

夜間という条件も相まって、突然現れた自分の機体はかなりの興味を引くと同時に、不気味なのだろう。

そんなことを考えながら、カメラの方向を格納庫の方へ移すと、いくつかのハンガーブロックの扉が開いて、何機かの戦術機が出てくるのが見えた。

現れたのは、先日見た「瑞鶴」とはまた異なるデザインの機体だ。もう一つのハンガーからは、「瑞鶴」酷似したデザインの機体-----帝国陸軍正式採用の77式戦術歩行戦闘機「撃震」が出てくる。

 

ロックオンはまだ知らないが、最初に出てきた戦術機は、帝国軍仕様の|F-15C(イーグル)である89式戦術歩行戦闘機「陽炎」だった。

 

『守備隊ラシキ部隊展開中!展開中!』

 

「ま、どちらにせよあまりいい意味で歓迎はされていないだろうな。コウヅキって人間がどの程度影響力がある人間かは知らないが・・・」

 

そうして、ロックオンは機体をゆっくりと基地飛行場へと降下させていく。

 

「さて、ご挨拶だ。ハロ、武装はいつでも使えるように戦闘モードに移行させておけ。」

 

彼は相棒にそう指示を出しながら、愛機を基地滑走路にランディングアプローチをかけた。

 

滑走路方面に向けて移動中だった部隊の1つ。

国連軍所属の部隊である事を示すUNブルーの77式「撃震」に乗る衛士は、突然のスクランブルに戸惑いを隠せないでいた。

 

「なんだってこんなとこに・・・。BETAはまだここまできてないだろう?」

 

機体をゆっくりと前進させ、彼は簡単なやりとりを僚機としながら周囲の警戒をする。

先程から通信にはノイズが走り、それがさらに、彼に不安感を増長させた。

 

「“テロリストの襲撃”なんて事態だけは、勘弁してくれよ・・・?」

 

『ーーーザザッ。曹長、通信状況が悪い。これより、通信手段を外部スピーカに切り替えるぞ。』

 

「了解です隊ちょ-----」

 

彼がそう返そうとした瞬間、「ブチッ!」という音と共に通信が途絶した。

直後、網膜投影越しに映る滑走路上、先行している陽炎の部隊の目の前に、見たことのない一機の戦術機が降り立つ。

 

「な・・・!?」

 

ありえない光景に、彼は息を呑む。

勿論、その場にいる誰もが突然の未確認機の出現に驚いていた。

何せその機体は、彼にとっても誰にとっても忌々しい、光線級という存在によって奪われたはずの「空」から現れたのだから。

 

 

 

 

 

 

基地に備え付けられたカメラに加えて、戦術機による頭部カメラの視界。

そこに映る滑走路上に、件の戦術機が降り立ったのが見えた。

指揮所が一瞬だけザワつき、すぐに落ち着く。

彼女は、画質の悪い映像を目を凝らしてよく見ると、その機体の背中からは、暗くてもはっきりとわかるほどに綺麗な緑色の粒子を、微量ながら放出していた。

 

「一体何のつもりだ、これは。博士、これが貴女の言っていた私兵か?」

 

突如として現れた戦術機の行動が理解できていない基地司令が訝しげな声をあげ、夕呼を糾弾するように問う。

 

正直、彼女も同じようなではあった。

 

突如出現した未確認機が、強引にランディングアプローチをかけてきて、あまつさえ基地防衛のための展開中の戦術機部隊の前に単機で躍り出る。威嚇のつもりなのだろうが、これではいい的であり、挑発行為に他ならない。

しかしこうとも取れる。

 

これは、あの機体の衛士なりの自分に対する挑戦状だ。

 

「・・・やってくれるじゃない。」

 

呆れた、という風に彼女は溜息混じりに独り言を呟いた。

 

 

 

 

 

 

滑走路に着陸したデュナメスは、両肩に装備されているフルシールドをそれぞれの方向に展開し、腕部を露わにする。

GNスナイパーライフルは右肩部に懸架しており、他の武装も各武装ラックに格納していた。

 

着陸から1分。

既にロックオンの乗るデュナメスは、8機もの戦術機に包囲されている。

 

『そこの戦術機!所属と官姓名を述べよ!周囲は完全に包囲されている!』

 

外部スピーカ越しに警告を発するのは、先行していた陽炎の部隊の隊長機だ。

 

「・・・これで包囲か。まあ、普通の相手ならこの数でも十分だろうさ」

 

-----普通の相手なら、な。

 

その警告に、思わず彼はそう漏らす。

彼の乗る機体は単機でも一騎当千の性能をもつ「ガンダム」の名を冠する機体の1機だ。

故に、仮に目の前の機体がMSと同等の性能を持っていたとしても、ガンダムをこの数で止めることは不可能だ。

 

「・・・」

 

彼が基地上空に現れてから相手方が完全な戦闘態勢にを整えるまでにかかった時間は五分程。

完全な不意をついたとはいえ、ガンダム相手にそれは、余りにも行動が遅いと同時に、その遅さが「後方」であることを如実に表していた。

 

「ハロ、悪いがサポート頼むぜ?」

 

『了解!了解!』

 

そう言うと同時に、ロックオンはは操縦桿を動かしデュナメスの両腕を動かし、ふくらはぎ部分にマウントされた武装コンテナからGNビームピストルを抜く。

 

「そら、ここまでやってるんだ。早く止めないと、大変なことになるぜ?」

 

ビームピストルの銃口は上に向けた状態でいると、陽炎4機全機が手に持った突撃砲の銃口をデュナメスに合わせた。

それにならって、撃震4機も同様に突撃砲の照準をデュナメスに合わせる。

 

一触即発。

 

陽炎の衛士たちは、一様にデュナメスへの不信感を強める。

 

-----何のつもりだ、と。

 

デュナメスを包囲している陽炎4機に、撃震4機。それに加えて、撃震の小隊の後ろに新たな4機の撃震が現れたことで、彼我の戦力差は12対1だ。

普通に考えれば、彼のとった行動は愚行であり、自殺行為に他ならなかった。

 

そうして、一触即発の状態が続いた永遠にも近い5分間。

事態は、状況に耐えきれなくなり、威嚇射撃を行った1人の衛士の戦術機によって動く。

 

 

 

 

 

 

1機の陽炎の持つ突撃砲の銃口が、火を吹いた。

放たれた弾丸はデュナメスに命中しなかったが、それを皮切りに大きなアクションを見せるデュナメス。

 

「正面の4機を紛争幇助対象と断定。デュナメス、敵機の無力化に移る。」

 

『了解!了解!』

 

「悪く思うなよ。」

 

動き出したデュナメス目掛けて、陽炎4機が銃撃を開始する。

遅れて、少し距離が離れていた撃震も退路を塞ぐべく距離を詰め始めた。

 

『逃すな!こうなった以上、力ずくで拘束させてもらう!』

 

中心にいたデュナメスに、銃弾が次々に命中するが-----

 

『これだけの攻撃をまともに受けたんだ、無事でいるはずが・・・』

 

『た、隊長!奴は-----』

 

煙が晴れる。

 

『奴はまだ、生きています(・・・・・・)!』

 

そこには、無傷の濃緑の機体が、先程と同じ状態で立っていた。

否、先程とは違う部分がある。デュナメスの周囲を、淡い緑色の粒子が包み込んでいた。

 

『GNフィールド、正常ニ展開中!正常ニ展開中!』

 

銃撃は、全てGNフィールドによって阻まれたのだ。

GNフィールドは、実弾に弱いという弱点を持つが、この世界の突撃砲程度の威力では、GNフィールドを突破することは難しい。

 

そして、一方的な蹂躙が始まった。

 

 

 

 

 

司令部内は、騒然としていた。

カメラに映る滑走路上では、煙が立ち上っている。

煙を立たせているのは、地面に倒れ伏して行動不能にされた4機の戦術機。

その全てが、先に仕掛けた陽炎だった。

頭部を、腕を、脚を、あらゆる武器に変わる部位を瞬時に破壊され、スクラップ寸前といった有様。

4機が全機大破するまでにか、1分もかからなかった。

誰1人、デュナメスに触れることは叶わなかったのだ。

最後の1機が倒れると、デュナメスは「次はお前だ」と示すようにして、呆然としていて動けない撃震へ銃口を向ける。

 

『まだやるかい?』

 

外部スピーカ越しに、冷淡な声が発せられた。

デュナメスの構えたビームピストルの銃口には桃色の光が溜められ、今にも放たれそうに見える。

 

『さて。派手にやっちまったが、ここに来た理由は襲撃じゃあない。ある人間に会うためにきた。』

 

すると、突然ロックオンは誰かに話しかけるような口調で-----誰かに呼びかけるような口調で言葉を続ける。

 

『俺は、コウヅキユウコって人間に呼ばれて、ここに来たんだが?』

 

圧倒的な力を見せつけた上で、彼は自分の目的と要求を提示する。

それを見ていた夕呼は、相手がとった行動は、多少強引だが不利な状況におけるコンタクトの方法としては及第点ではあるということを悟っていた。

 

ただ、方法は悪手と言っても差し支えのないものだが。

 

不信感から始まる関係に良いものはない。

それは、やった本人が一番わかっている事であろう。

 

数秒して、指揮所にいる彼女は司令官に許可をもらうと、1人のオペレータに近づいていき、各国共通のオープンチャンネルで呼びかける。

 

「私のことを呼んだかしら?」

 

数秒して、彼女の耳におどけた様子の男性の声が聞こえてくる。どうやら、通信が繋がったようだ。

 

『ご本人自らが応じてくれるとは、感謝するよ。』

 

「話し合いをする態度ではなかったわね。もう少し礼儀正しくできなかったのかしら?」

 

芝居がかかったような物言いの夕呼に対して、ロックオンは「生憎、のんびりできる様な状況じゃなかったんでね。」と返す。

 

「とりあえず、ご苦労様とだけ言っておくわ?」

 

彼女がそう返すと、

 

『そいつはどーも。さて、俺はこれからどうすればいい?』

 

彼は、飄々とした口調で何事もなかったかのように、そう答えた。

 

 

 

 

 

 

「・・・ふぅ。」

 

夕呼は執務室へと戻り、座り心地の良さそうな椅子に座り込んでため息をつく。

とりあえず、あの戦術機の衛士を基地内に入れることに成功した。

隣の部屋には社霞を待機させており、後は彼を待つばかりだ。

 

『副司令、例の衛士をお連れしました。』

 

外からは、彼女の側近の1人であるイリーナ・ピアティフ中尉の声が聞こえる。

 

「いいわ、入って頂戴。」

 

私がそう答えると、ドアが開き、そこにピアティフが立っている。彼女に促され、執務室の中に一人の人間が入ってきた。夕呼からすれば、見たこともない奇妙な形状の衛士強化装備に身を包み、頭にはヘルメットを被っている状態で、ガラス部分はスモークがかかっていて素顔が見えない。

 

「ありがとう、中尉。もう下がっていいわ。」

 

私はピアティフにそう言い、彼女は部屋の戸を閉めると即座にその場から立ち去った。

しばらく、無言の時間が続く。

そして、それを破ったのはやはりという夕呼の方だった。

 

「最低限の礼儀くらいは、示して欲しいものね?」

 

夕呼は皮肉たっぷりに、正面に立つ無言のままの人物に話しかけた。

 

「悪いな。俺はまだ、あんたを信用しちゃいない。」

 

当然の返答ではあった。

お互いにお互いの事を知らないのだから、仕方がない事ではある。

 

「そうね。でも私は、それなりに信頼を得るための譲歩をしたつもりだけれど?せめて顔くらいは見せてくれないものかしらね。」

 

皮肉混じりに彼女がそう言うと、素顔を隠したままの彼は、一瞬考える素振りを見せる。

逡巡は一瞬で、彼はヘルメットに手を伸ばすと、それを脱いだ。

 

「へぇ・・・それがあんたの素顔?」

 

「ふぅ。なんだい?仮面の下は、イケメンダンディなおじさんが入ってるとでも思っていたのかい?」

 

態とらしい口調で、青年-----ロックオン・ストラトスは、夕呼へと返した。

 

「あんたには感謝してる。拘束状態だった俺を、外から助けてくれたんだからな?」

 

そう言うと、ヘルメットを腰に抱えながら続ける。

 

「だからこそ、ここからは俺としてもあんたと色々と話し合った上で行動方針を決めていきたいと思ってる。」

 

「賢明な判断ね?」

 

「さて・・・話し合いの前に自己紹介だ、ミス・コウヅキ。俺の名は、ロックオン・ストラトス。成層圏の向こう側だろうと、狙い撃つ男だよ」

 

口元に、不敵な笑みを浮かべながら、ロックオンは夕呼へと名乗った。

 

そして彼は、自分の身の上話を始める。

 

彼がどういう人間なのか。

あれがどういう兵器なのかを。

彼女を、自身の共犯者とするために、できるだけ情報を開示する。

 

「俺がいた組織の名は「ソレスタルビーイング」。「紛争根絶」なんて大それた事を基本理念に掲げた私設武装組織だ。」

 

「そして、ソレスタルビーイングは行動を開始すると同時に、世界を相手に喧嘩をふっかけた。ようは、紛争根絶を掲げて、代理戦争たる紛争や各国軍に対して「紛争幇助対象」と断じた対象を攻撃する」

 

ロックオンは、自らがやってきた所業を他人事のように説明していく。

 

「大抵の人間は、今言った組織の名前を聞くだけで目の色を変えるんだが、その様子じゃ知らないようだな?」

 

「「ソレスタルビーイング」なんて組織、この世界中どこを探したって聞いたことがないわ。」

 

彼の質問に、夕呼は「何を当たり前のことを」という様子で答える。

 

「だよな・・・じゃあ、MS(モビルスーツ)というジャンルの兵器は?」

 

「モビルスーツ・・・?それは、こちらでいう、さっきあんたがスクラップにした戦術歩行戦闘機(Tactical Surface Fighter)の事かしら?」

 

ここまで情報の齟齬が出るとは思っていなかったロックオンは、同時に理解した。

ここが、自分の世界とはあまりにもかけ離れた物だということを。

そして、彼の中の疑問は確信に変わる。

 

「・・・そうか。つまるところだが、今までのやり取りのズレ具合から察するに、俺はどうやら、未来か別の世界から、此処に来ちまったらしい。まるで、SF映画みたいな展開だ。」

 

降参、といった様子でおどけてみせる。

彼は、自分自信がこの世界にとって招かれざる客であるということだけは理解できた。

 

 

 

 

 

 

戦術機が格納されている格納区画(ハンガーブロック)

基地の中で、空きがある格納庫の一角に、それは起立していた。

それは、ガンダムデュナメスだ。

その中に残された球体型情報端末「ハロ」は、主人の帰りを待ちながら、危険を察知した際に即座に行動できる様な態勢で待機していた。

 

基地の整備班は、急に運び込まれた謎の戦術機ということもあり、機械好きな連中は特に興味津々といった具合だったが、「機密」という言葉によって、一切の干渉を禁止されていた。

 

デュナメスのカメラアイはその様子を捉えており、コクピットの中で、ハロは自分を「相棒」と呼んでくれる人の帰りを待っていた。

 

 

 

 

 

 

とりあえず、一通り話し終えたロックオンは、「次はあんただ」と言うような態度でいた。

彼の説明を終わると、執務室の中は、再び沈黙に包まれる。

 

彼自身、今現在の自分が置かれている状況は、余り良いものではないと思っていた。

何せ、機体を一時的とはいえ放置して、この場所まで生身の状態できているのだから、ロックオン自身は最大限に「敵意ない」という事を行動で示している形だが、もしも彼本来の世界で眼鏡をかけた堅物の少年にこれを見られたら「君はガンダムマイスターに相応しくない」と言われるくらいには、愚行であると彼自身が自覚していた。

 

ロックオンは、先ほどの説明に加えて、自分が知る限りの2307年現在の世界情勢を、なるべくかいつまんで説明していた。

 

2307年時点では、世界における石油などの化石燃料が枯渇しており、その影響もあり、原子力発電とは異なる新しいクリーンな動力として、既存の太陽光発電の技術を大きく発展させた発電システムが主流になったことで、化石燃料を消費して電力などを賄う火力発電は環境汚染も絡めた問題によって衰退の一途を辿り、その影響で中東は紛争が起こり、それに各国が介入する混迷の戦場になっているということ。

そして、太陽光発電システムを世界規模で普及させるために建造された「軌道エレベータ」を巡って、世界中では紛争や戦争が多発しているということ。

2307年現在では、世界は3つの勢力に分かれていること。

その、主な勢力図としては、ヨーロッパ諸国で構成されたAEU、アメリカ合衆国を中心とするユニオン、そして、ロシアを中心とした人類確信連盟z

他にも、ある程度言える範疇のことは全て彼女に説明した。

 

「・・・はぁ、なるほどね。それじゃああんたは、本当に「別の地球」から来たというわけね。」

 

「やけにあっさりと、信じてくれるんだな。胡散臭さ満載だろう?俺の話は。」

 

彼にとっては拍子抜けな程に、彼女は納得したようだった。

そして、彼女が納得した理由が彼女自身から告げられる。

 

「それはそうよ?だって今は、西暦2307年なんかじゃない。今は、西暦1998年の8月15日。つまり、あんたの世界との共通点は西暦であるという点だけなのよ。他は、何もかもが違う。」

 

「な・・・西暦、1998年だと・・・?」

 

ロックオンからしてみれば、過去どころか大昔の話だ。

 

「・・・つまりは、そのズレが決定打か?」

 

「いいえ。理由はもう一つあるけれど・・・今の貴方に、それを教える必要性はないわ。」

 

意味深な事を夕呼は言うが、ロックオン自身は深いところまで詮索せず、逆に夕呼へ今、「この地球」が、世界がどういった状況に置かれているかを聞いた。

 

そこから始まったのは、この世界の歴史についての話。

その話に、彼は驚きを隠せなかった。

 

「まず最初に。既にこの世界において、ヨーロッパは地球人類の勢力図には存在しなくなっているわ。この日本と太平洋上に存在するいくつかの島々、そして、北米大陸を除けば、その全てが一つの勢力の手に落ちている。」

 

「言わずと知れた、BETAよ。」

 

そこから彼女は、まずはじめに第二次世界大戦の終結から順を追って説明していく。

この世界の歴史は、彼のいた「本来の世界」で起こった第二次世界大戦の結末から変わっているようだった。

 

ロックオンの生きてきた世界における第二次世界大戦の終結は、1945年8月における日本の無条件降伏によるもに対して、この世界では1944年半ばで日本が条件付き降伏をしたのを皮切りに、事態は大きく加速し、ドイツに核が落とされた事で第二次世界大戦が終結した。

つまり、この世界において、最初の核被爆国となったのは、ドイツだったのだ。

 

その後、様々な分野における技術の発展は、ロックオンが元々いた世界よりも早く進み、1958年時点で、火星探査計画を実行に移すまでに至った。

そして、1958年の火星探査計画における無人宇宙船「ヴァイキング1号」が火星地表に降り立ち、火星表面の調査をしていた時に、未確認の存在と遭遇する。

 

一枚の写真を最後に消息を絶った無人宇宙船「ヴァイキング1号」。

その写真に写り込んでいたものは、後に研究者によって「Beings of the(人類に) Extra Terrestrial origin(敵対的な)which is Adversary(地球外) of human race(起源種)」と名付けられる存在だった。

 

「当時の学者連中は狂喜乱舞したわ。だって、地球とは別の環境の惑星で、生命体らしき物を発見したんだもの。」

 

でも、と区切り。

一拍置いてから、彼女は当時の学者を馬鹿にするような、どこか同族嫌悪するような口調で再び喋り出す。

 

「-----当時の人間が期待した「希望」や「理想」なんてものは、直ぐに幻想だということに気づかされる。」

 

1967年、月面において建設された国際月面恒久基地「プラトー1」で起こった事件。

基地所属の月面調査隊が、火星で発見された存在に似た生命体と遭遇した事を知らせる一報を最後に、消息を絶ったのだ。

ただちに捜索隊が編成され、消息を絶った現場に捜索隊は向かった。

そこで発見されたのは、変わり果てた調査隊のメンバーだった。

 

「そこからね。人類の歴史という歯車が狂い始めたのは。」

 

そして、その事件を皮切りに人類史上初めての地球外生命体との全面戦争-----第一次月面戦争の火蓋が切って落とされた。

 

「結果は惨敗よ。「月は地獄だ」っていうのは、当時の月面基地司令官が残した言葉。当時の人類に、宇宙空間でBETA相手に戦えるまともな装備なんてなかったわ。確か、原始的な投石器なんてものも持ち出して迎撃した事例もあったそうよ?」

 

人類は、宇宙における有効な攻撃方法を持ち合わせていない状況で、今現在地球上で行われている規模の戦闘を人類史上初めて経験したのだ。

資源もなければ、時間も、人員も、弾薬も何もかもが足りない状況で、それでも月面基地で戦った人類は孤軍奮闘し、BETAを押し留めた。

だが、どんなに人間1人1人が優秀だとしても、物量に敵うはずもなく、人類は敗北した。

 

「そして1973年。中国・カシュガル自治区に、月から投下されたBETAの着陸ユニットが降り立つ。」

 

そこから、本格的なBETAの地球侵攻が始まった。

 

「開戦当初、当時の中国政府は独自の軍事力をもって対応するとして国連や各国の支援を断ったの。実際、最初の頃は航空機による攻撃が有効であったから、圧倒的物量を空からの攻撃で蹂躙することもできた。」

 

しかし、人類が支配していた地球の空は、ある存在の登場によって永遠にも等しい形で喪われることになる。

 

「光線属種」の出現。

 

今現在は、「光線級」と呼ばれる、体内にレーザー発生器官を備えた生体対空兵器の登場により、中国空軍は壊滅。

時既に遅く、戦線は瓦解し、最初の落着地点に地球上最初のハイヴである「オリジナルハイヴ」-----甲1号目標「カシュガルハイヴ」が建設されるに至った。

そして、中国の敗退を皮切りに、人類は次々に故郷を追われていった。

 

そして現在。

1998年の時点で、ユーラシア大陸は9割がBETAによって支配され、ヨーロッパ諸国もイギリスやアフリカの植民地方面へ非難することを余儀なくされ、一部の国は南米大陸において租借した地で臨時政府を立ち上げる有様だ。

列強各国は、その殆どが亡国と化していたのだ。

かつては冷戦によってアメリカと肩を並べた大国ソビエトも同じ運命を辿り、北米におけるアラスカを租借地として臨時政府を立ち上げていた。

 

そして、日本もまた、その半分がBETAの支配地域に加わったという事は、記憶に新しい。

 

「ここまでが現在の世界情勢。人類は今、生きるか死ぬかの瀬戸際にいる。明日があるかもわからない中、それでも奪われたものを取り戻すために足掻き続けているわ。」

 

話し終えると、彼女はため息をつく。

そして立ち上がると、空のコーヒーカップにコーヒーを注ぎに行く。

 

「・・・・・」

 

想定以上に悪い世界情勢に言葉を失うロックオン。

 

「貴方が知っている知識、そしてあの戦術機・・・じゃなくて、モビルスーツ?あれに使われている様々な技術が流用可能であれば、老い先短いであろう人類の未寿命も、多少は伸びるというものよ。少なくともこれまでよりは、死者の数が減らせる。」

 

コーヒーを入れたカップ片手にデスクの方に戻ると、椅子に座りながら彼女はそんな事を口にした。

 

「・・・何が言いたい?」

 

ロックオンは、訝しげな視線を夕呼へと向けて問いかけた。

 

「あら、今のでわからなかったかしら。じゃあ、単刀直入に言いましょう。」

 

-----あの機体を寄越せ。

 

彼女は、直球でそう言った。

外見一つとっても、ガンダムデュナメスという存在は、彼女達が主に運用し、戦場の矢面に立たせている戦術歩行戦闘機とは全く違う概念、全く違う技術体系で作られていることがわかる。

 

そして、彼女が主導で行なっているある計画と、それに並行して行われている研究-----その研究において構築された理論における「太陽炉」と酷似した動力機関。

 

「そんな簡単に俺が「アレ」を明け渡すと思うか?さっきも言ったが、あれは俺がいた組織からすれば誰にも渡せねぇ代物だ。」

 

「でも、それは「貴方の世界」での話なのでしょう?」

 

そう。

あくまでも、ロックオンの言う「機密」という言葉自体は、屁理屈を言ってしまえばこの世界の理に当てはまるものではないのだ。

 

「・・・」

 

ロックオンは押し黙る。

 

「相応の対価は支払うわ。それでも聞けないと言うのなら-----」

 

そう言いながら彼女は机の引き出しに手を伸ばし、それを開けると中に隠されていたある物を取り出そうとする。

 

「やめときな。」

 

その時だった。

ロックオンは夕呼の動きを見て警告を発する。

 

「迂闊な真似はするもんじゃねぇ。それに、あんたみたいな美人の学者さんに銃は似合わねぇよ。」

 

銃を取り出そうとした時、彼女の顔面に銃口が突きつけられる。

 

「身体検査ってのは、完璧にやらないとな。でないと、こういう事になる。」

 

彼が手に持っているのは、それなりに大型のハンドガンだ。

その銃口は、真っ直ぐ夕呼の頭部を捉えている。

 

「どこに隠し持っていた、なんて野暮な事言うなよ?妙な真似をすれば撃つ。迂闊だったなぁ、ミス・コウヅキ。」

 

飄々とした態度を崩さず、ただ冷淡に言葉を続けるロックオンに、彼女はそれでも表面上平静を保ちながら返す。

 

「私が、他の連中を呼ぶって考えは浮かばないのかしら?」

 

むしろ、挑発するように。

口元には笑みさえ浮かべながら。

これは、狐の化かし合いだった。

どちらが先に、仮面を剥がされるか。

 

「悪いが、その時はあんたを人質にして逃げさせてもらうとするよ。それに、いた場所が場所だけに、潜入捜査はお手のもんだしな?」

 

「その自信はどこからくるのかしら?」

 

化かし合いは続く。

しかし、この状況は圧倒的に夕呼個人にとっては不利であった。

ここで殺されてしまえば、彼女が進める計画はご破算になり、次の計画がすぐに開始されてしまう。

 

「少なくとも、今のあんたたちの軍隊が束になってかかって来ても、あの機体には勝てないよ。わざわざ単身でここまで来て、保険をかけてないとでも思っていたのか?だったら、よっぽど腑抜けているんだな、ここは。」

 

一触即発の状況。

剣呑な雰囲気が、執務室を満たす。

夕呼は、性格上もそうだし、これまでも様々な人間を相手に得意の頭脳をもって制してきたが、力ずくとなると、目の前の男性には敵わないとわかっていた。

 

「ま、ここでそんなこと起こしても、俺には何の利益にもならんがね。」

 

進むことのない議論に終止符を打ったのは、ロックオンの方だった。

突然彼は、夕呼の頭に照準を合わせていたハンドガンの銃口を降ろし、飄々とした口調で肩を竦めのだ。

そしてロックオンは、夕呼が最初に望んでいた回答をする。

 

「協力してやるよ、ミス・コウヅキ。」

 

その言葉に、思わず驚いたような顔を浮かべてしまう夕呼に、ロックオンは罰が悪そうな表情で返す。

 

「だから、協力するって言ったんだよ。」

 

会話が、ようやく彼女が望んだ方向に転がり始めた。

 

「やけにあっさりと承諾してくれたわね?」

 

内心では安堵しながら、表面上は平静を装いながら皮肉混じりに返す。

 

「言っておくが、さっきの脅しは本当だ。と言っても、そいつは最悪の場合を想定しての保険だがね?協力する代わりに、俺には最低限の衣食住を提供してくれればそれでいい。この世界の人間でない以上、それ以上の事は現状望めないからな。」

 

「それだけ?」

 

「まぁ・・・本当にあんた直属の部下とでもしてくれれば、立場としても多少は自由が効くかい?」

 

彼は、逆に問いを投げかけてきたのだ。

「自分と協力関係を築く気はあるか?」と。

つまるところ、それは共犯関係の締結に他ならないわけだが。

 

「・・・いいわ。貴方の言う通りの事をしてあげる。」

 

「オーケイ、交渉成立だな。」

 

そうして、彼は夕呼へと握手を求めてきた。

 

「新たな共犯者の誕生に、ってな?」

 

冗談めかして言う彼に対して、夕呼は、

 

「地獄だろうとどこだろうと、付き合ってもらうわよ?」

 

と、不敵な笑みを浮かべながら返す。

ここに、魔女と狙撃手の契約は完了した。

 

 

 




必要な要素は何か?
勝つために必要なもの、それは力。
しかし、それだけでは勝つことはできない。
力を律する事が出来なければ、それは滅びの文明になりかねないからだ。
異邦の狙撃手と魔女。そして、もう一つの歯車を加えて、物語は進んでいく。
その出会いが何を意味するのか。

次回「もう一人の科学者」

人は、分かり合えるのだろうか?

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