Muv-Luv Alternative✖️機動戦士ガンダムOO 地獄に降り立つ狙撃手   作:マインドシーカー

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この物語は、ご覧の作者の提供できるお送りいたします。

前回は予告ではああ言ったが、あれは嘘だ。
というわけで、前話の予告も変更します。事後承諾とか言って石を投げないで()

さて、今回も引き続き怠い話が続いていきます。
正直、この辺に関してはどう落とそうか今も考えている状況です。
なので、読んでいる方々にもいつも以上に「は?」と言われてしまうかもです()
それも踏まえた上で、読んで頂けると幸いです。
読みたくない方は正直ブラウザバックでもいいかも?

今回のイメージOPは特に考えていません!!!!!!!!!

それではどうぞ。


story04「もう1人の科学者」

―――――5年前。

 

未だ、戦火の渦中にあるユーラシア大陸。その真横にあるブリテン諸島。アイルランド北東部に位置する孤島に、一件の広壮な屋敷があった。

 

世界が破滅の危機に瀕している中で、その場所は波も風も穏やかで、やや陽射しは強いが、透き通るような青空は見る者を吸い寄せ、心に一瞬の空白を作り出してしまうほどに、深く、清く、美しかった。

 

その屋敷を訪ねる者がいた。

淡い黄緑色の髪の色が特徴のイングランド人だ。

屋敷の門を叩き、その屋敷の主人のいる部屋へと足を運ぶ。

そうして向かった先、屋敷の奥にある書斎に、一人の科学者がいた。

いくつものモニターに囲まれたデスクに座っているのは、40半ばは過ぎようとしている男性だ。

白衣を着て、眼鏡をかけたその男性が、この大きな屋敷の主人だった。

彼がいる書斎は、彼の研究室を兼ねているらしく、モニター群の前のデスクには書類と本が交互に山積みになっており、デスクの左側には、描きかけの油絵がイーゼルに立てかけられていた。

 

「やぁ、久しぶりだね。」

 

屋敷の執事が戸を開くと、書斎に先ほどの人物が入ってくる。

 

「・・・君は、レイか。」

 

科学者が「レイ」と呼んだ青年は、若くしてと共にある研究に従事していた人間だった。

 

エターナル・アラン・レイ。

 

それは、ロックオンのいた世界において、アレハンドロ・コーナーと行動を共にしていたリボンズ・アルマークと瓜二つの外見をしている青年だった。

 

 

 

 

 

 

科学者は、自分を訪ねてきた青年-----レイの顔を見る。彼は、かつてはその科学者と志を同じくする同志であり、研究者だった。

 

しかし、世界の情勢は彼から研究という物を奪った。

優秀だった彼は、混迷の中にある世界を救うため、戦場に身を投じたからだ。

死地へと向かおうとしている彼を、科学者は止めなかった、

そして今、彼は未だその命を散らす事なく生きており、国連軍の軍服を身に纏った立派な軍人になっていた。

胸には、衛士である事を示すウィングマークが輝いている。

 

かつては、才能を認め合い、競っていた者同士。

 

彼らは、共通の趣味がチェスであり、互いに好敵手である事から親交も深かったが、BETA大戦の折、戦火に包まれたイングランドを救うべく戦っていた彼は、暫くこの場所を訪れていなかった。

 

「座って、構わないかな?」

 

レイがそう言うと、科学者は書斎の一角にある椅子を指差し、彼はそれに座る。

再びモニターに向き合い始めた科学者の背中を見つめていた彼は、おもむろに口を開いた。

 

「・・・意識を伝達する新たな原初粒子の発見。そして、その特殊粒子を製造する半永久機関の基礎理論の構築、そして、新理論に基づく最新型の量子型演算処理システムの提唱と発明。」

 

彼が話し始めたのは、共に行なっていた「研究」の内容だ。

 

「どれも、今の人類に希望をもたらす大変な技術だ。でも、君は人間嫌いで、こんな場所に1人で引き引き篭っている。」

 

モニターに目を向けたまま、振り返りもせず科学者は青年へと言葉を返す。

 

「私が嫌悪しているのは、知性を間違って使い、思い込みや先入観にとらわれ、真実を見失う者たちだ。」

 

科学者は続ける。

 

「このような情勢にありながら、未だに世界は一つにならず、大国アメリカもまた、あるかもわからない戦後を見据えて大きなアクションは起こさない。人々は疑心暗鬼という名の魔物に支配され、やがてそれは不和を呼び、争いを生む。」

 

溜息混じりにそういう科学者は、レイの方へ振り向くと、こう締めくくった。

 

「分かり合わせたいのだよ、私は。人類を」

 

彼の独白に似た言葉は、今の世界情勢を如実に表していた。

 

事実、未だにアメリカは独自の意見を強硬に押し通し続け、ドイツは崩壊しているものの未だにその勢力は東西に分かれたままだ。

亡国と化したソビエト連邦もまた、その内部では互いが互いを牽制し合い、己の保身や昇進の為には例え身内と言えども蹴落とす。

 

科学者は、今は志を一つにして人類最大の危機に立ち向かい、危機を脱するのが第一だと考えていた。

 

「それが、君の求める理想なんだね。」

 

「人類は知性を正しく使い、進化しなければならない。そうしなければ、たとえ宇宙へ旅立ったとしても同じ結果を―――――新たな争いの火種を生む事になる。」

 

レイの言ったことに科学者はそう返す。

 

「それは、悲しい事だよ。」

 

彼の言葉に嘘がない事は、その表情が物語っていた。

眼鏡をかけた科学者の顔には、人類の未来を憂い、そこに生じるであろう戦乱と戦火の被害者たちを哀れむような、悲壮感が漂った表情をしている。

 

彼は、天才であるがゆえに、預言者のごとく人類の未来が見えてしまうのかもしれない。

 

スカイは彼に共感したように寂しげな笑みを浮かべて、科学者の名を呼んだ。

 

「・・・イオリア。」

 

科学者の名は、イオリア・シュヘンベルグ。

 

彼は、ロックオン・ストラトスが元いた世界において、「紛争根絶」を掲げ、「人類の総意の統合」を目的に私設武装組織「ソレスタルビーイング」を創設した人物だった。

 

「今日僕は、君にある計画に参加して欲しくて、それを言いに来たんだ。」

 

「・・・それは、私が大の人間嫌いだと知っての事かな?」

 

「わかっているよ」と言いながら、彼は立ち上がる。

 

「僕はメッセンジャーだよ。極東の島国、かつてのこの国の同盟国にいる人物が、君にコンタクトを取りたいと言っているんだ。」

 

彼はそう言うと、持ってきていた鞄から一つのファイルを取り出し、イオリアのデスクに置いた。

 

「これは?」

 

「まずは、知ってもらう。コミュニケーションの基礎だろう?」

 

そうして、彼はそのまま出口へと向かう。

 

「さて、僕はこれで失礼するよ。」

 

そうしてその場を立ち去ろうとしたスカイの背中に、彼は言う。

 

「―――――生きて帰ってこれたら、その時はまたチェスの相手をしてくれ。」

 

イオリアがそう言うと、レイは振り返り、こう返す。

 

「約束するよ。」

 

レイがそう言うと、ドアが開く。

 

「僕は、君と共に同じ道を歩める日がまた来るのを楽しみにしているよ。」

 

そうしてドアへと向かい、立ち去ろうとして、ふと、彼は歩みを止めた。

 

「イオリア、最後に一ついいかい?」

 

振り向く事なく言う彼に、「構わんよ」と返すイオリア。

 

「君は、奇跡と言うものを信じるかい?」

 

問いの答えを聞く事なく、彼はその場を去った。

残されたイオリアは、彼の背中を見送ってから再びモニターへと向き直る。

 

「奇跡、か。」

 

彼は、デスクにある一つの写真立てを手に持って、自嘲気味に呟いた。

 

「・・・私はまだ、人類の可能性を信じることはできない。」

 

彼は窓から外の景色を見る。

そこから、青緑の綺麗な色の鳥が羽ばたくのが見えた。

 

―――――これは、一つの挿話である。

 

 

 

 

 

 

「はい、というわけで。」

 

新入りの顔見せ、と称して呼び出されたAL4の面々は、ここ横浜における帝国軍白陵基地中にAL4占有区画に割り当てられたエリアの一角、そこにあるブリーフィングルームに集められていた。

 

「これから、新入りの紹介をするわ。」

 

まるで学校の、「転校生を紹介します」というような雰囲気で、AL4の総責任者たる香月夕呼が笑顔で言う。

 

「入ってちょうだい。」

 

すると、戸が開いて一人の男が入ってきた。

 

「さ、自己紹介なさい。」

 

「おいおい、気が早いなミス・コウヅキ。」

 

肘でつつかれながら、彼は姿勢を正すと直立不動の姿勢・・・とは少し言い難いが、それなりにしっかりとした姿勢で、不慣れな敬礼をして自己紹介を始める。

 

「この度、ご紹介に預かりました。香月博士直属の開発パイロットとして当基地に配属になった、ロックオン・ストラトス大尉(・・)であります。以後、お見知り置きを」

 

最後は笑顔でそう言ったのは、国連軍のBDUに身を包んだ青年―――――ロックオン・ストラトスだった。

その彼を見た時の第一印象は人それぞれだが、集められた面々の中にいた1人、神宮寺まりもが彼に対して抱いた印象はこうだった。

 

―――――少し「軽薄な」、男のように思えた。

 

後に彼は、神宮寺まりもに自身の評価を改められた際にそう言われ、1人ショックを受けるのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

ロックオン・ストラトスがこの世界に来てから既に数週間。

ロックオンがこの基地で夕呼とコンタクトを取ってから数日。

二人が最初に始めたのは、ハロのデータベースの洗い出し。

ハロの中に在ったデータは、ロックオンが知る以上に膨大なデータが入っていた。

今現在説明は割愛するが、それはロックオンが把握している範疇を越えていた。何が原因でそうなったかは分からない。

しかし、そこにはロックオンの世界におけるユニオン、AEU、人類革新連盟の主力兵器の詳細データも閲覧が可能であった。

無論、Eカーボンや最新の通信技術等のデータも入っている。

ただ、それは閲覧可能であって、それがこの世界において再現可能かは別の問題だった。

だからそのためにも、夕呼はもう一人、自分以外の天才的頭脳を欲した。

 

「イオリア・シュヘンベルグ・・・?まさか、イオリアの爺さんがこの世界に存在するのか・・・?」

 

「ええ。あまり表には出ていない、AL4におけるもう一つの計画。それはね、AL4の前の計画における理念を継承して行われている計画よ。それの主任が、シュヘンベルグ博士。」

 

ロックオンが驚くのも無理はない。

まさか、そんな都合のいいことがあるとは思っていなかったからだ。

そうして、夕呼と共にロックオンは、彼女の共同研究者たるイオリア・シュヘンベルグとコンタクトを取るべく、ある場所に向かった。

普段彼は、AL4占有区画にある彼専用の部屋から殆ど出ることはない。

余程のことが無い限り、彼は外界との接触を拒んでいたのだ。

 

そこにきて、彼が興味を引くものは何か?彼が話を聞くという、判断材料は?

 

その問いの正解を、夕呼は持ち合わせていた。

ロックオンという手札を得たことによって。

だからこそ、彼女は引き合わせたようとしたのだ。

ロックオンとイオリアを。

 

「失礼するわ。」

 

先にアポイントメントを取っていた彼女は、イオリア専用の部屋の戸を開けると、開口一番そう言った。

 

「・・・ほう。やっと来たか、香月博士。」

 

椅子に腰かけていた壮年の男性―――――イオリア・シュヘンベルグが、二人の方へと振り返り、視線を向ける。

 

「それで?私の興味を引くほどのプレゼントを持ってきてくれた、というのは本当かね?」

 

「ええ。貴方が欲しい物を私が提供する。そのかわり、私と彼がやろうとしていることに協力してもらう。いいわね?」

 

学会の異端児同士が向き合って喋る。

その様子は、さながら龍と虎だ。

 

「・・・いいだろう。まずは、話を聞こうではないか。では、そこの若者よ。よければ、君の名を聞かせてくれないだろうか?」

 

そうして、イオリアは自分の部屋への来訪者たる二人の内、ロックオンの方へと問う。

 

「そして君が、何者かを。」

 

ロックオンは、問いに対してこう答えた。

 

「ロックオン・ストラトス。成層圏の向こう側まで、狙い撃つ男だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

「資料には目を通させてもらった。あくまで、香月博士がこちらへ提供してきた報告書のみ、であるがね。」

 

イオリアはそう言うと、デスクにあった一つのファイルを手に取る。

 

「私が研究する特殊粒子と、それを有効活用するための技術。私のやっていることは、その粒子を用いたある計画の根幹たる「対話」の実現。」

 

ファイルを開き、そこに添付されていた写真を手に取り、ロックオンに見せる。

そこに写されているのは、数日前に横浜基地の滑走路上で行われた戦闘の際に撮影されたデュナメスの様子だった。

 

「君の機体が放出する未確認の粒子。これは、私の研究する粒子と酷似している。君が運用するのは、「太陽炉」と呼ばれる機関によって動く、粒子光線兵器を用いた機動兵器なのではないか?」

 

イオリアは、ロックオンを見据えながら単刀直入に問う。

 

「ああ、そうだ。アンタの言う通り、こいつは太陽炉を主機関にして動く機動兵器だ。俺たちは「モビルスーツ」と呼んでいるがね。そして、俺の機体―――――デュナメスが放出する粒子は「GN粒子」と呼称されている特殊な粒子だ。こいつのお蔭で、機動力も、戦闘力も、何もかも既存の兵器を凌駕してる。」

 

ロックオンの答えに、イオリアは頷く。

 

「それほどの高性能な機体を有する組織・・・。君は一体、何のためにあの機体を使っていた?」

 

「俺の世界の時代からは100年以上も前に存在した人間によって創設され、「ある目的」のために使われた。」

 

「ある目的?」

 

「紛争根絶。」

 

ロックオンの言った言葉に、イオリアは表情一つ変えない。

 

「余程の夢想家なのだろう、その人間は」

 

「それは貴方よ、博士。」

 

間髪入れずというか、まるで挑発するように、夕呼が口を挟んできた。

 

「彼の世界において、彼のいた西暦2307年から300年以上前に存在したイオリア・シュヘンベルグが提唱した「紛争根絶」を実現するためにソレスタルビーイングという組織が創設された。」

 

「ほう」

 

「ああ。俺のいた組織―――――ソレスタルビーイングは、世界中の紛争幇助対象を根絶するべく世界各地への武力介入を行うべく、俺の世界にいたアンタが創設した組織だよ。つまりは、俺の乗る機体も、動力炉たる太陽炉も、GN粒子も全て、アンタが俺たちに遺したものってことだ。」

 

それまで黙って聞いていたイオリアは、立ち上がると二人に問う。

 

「さて・・・それでだが、君たちが私に対して何かプレゼントがあるそうだが、それは何かね?」

 

そうして、彼はそう言った。

 

「それは―――――」

 

「アンタが研究する「太陽炉」の実物。」

 

夕呼が言う前に、ロックオンが答えた。

 

「ほう?」

 

興味を惹かれたのか、片眉を吊り上げて、ロックオンの方を見るイオリア。

 

「さっきも言ったが、俺の乗る機体には太陽炉が搭載されている。流石に取り出すことは特別な施設がなけりゃできないが、機体の実物さえあればある程度のデータ収集もできるだろう?」

 

「実物を見ることはできても、その構造を解明することは叶わないというわけかね?それでは、なんの意味もない。」

 

「それは、俺の機体が積んでいる太陽炉を作った並行世界のイオリアの爺さんと、アンタの研究が同じ道を進んでいるのなら、おのずと答えが見つかるんじゃないか?」

 

「俺には研究者ってやつの心情や考えってのはわからないがね」と付け加えて、一旦引き下がるロックオン。

 

「実物があるだけでも、貴方の研究が多少は進むのではないのかしら?」

 

黙ったロックオンの後を引き継ぐように、夕呼が言葉を続ける。

 

「博士、並行世界の貴方がどのような理由で太陽炉なんていう代物を作ったのかはわからないわ。彼の話では、彼の生きた時間からすれば過去の人間の貴方と会う機会も話す機会も無かったみたいだし、結局のところ分からず仕舞いだったようだけれど。」

 

「ああ、そういえばだが―――――」

 

ロックオンが唐突に、思い出したかのように話し始めた。

 

「俺たちが窮地に陥った際に、イオリアの爺さんはある切り札を俺たちに託していったんだよ。」

 

それは、ロックオンのいた世界において疑似太陽炉を搭載したガンダムであるスローネ3機を運用するスローネチームがアリー・アル・サーシェスに襲われ、そこへ刹那・F・セイエイの乗るガンダムエクシアが武力介入し、サーシェスがスローネチームから強奪したスローネツヴァイと交戦した際、防戦一方となり、撃墜されかけた時だ。

 

「映像データが俺たちに届けられた。それは、300年前のイオリアの爺さん―――――アンタが遺したメッセージだった。」

 

『人類は未だ戦いを好み、世界を破滅に導こうとしている。』

 

『だが、私はまだ人類を信じ、力を託してみようと思う。』

 

『世界は、』

 

『人類は、』

 

『―――――変わらなければならないのだから。』

 

そして、託された力。

それは、人類を変革と革新を夢見たイオリア・シュヘンベルグが遺した希望。

 

「一つは、言わずと知れた太陽炉。それと、その時に封印を解かれたシステムがあった。」

 

それは、太陽炉の能力を飛躍的に向上させる「トランザム」と呼ばれるシステム。

 

「俺たちがこのシステムを知った時点で、正確な用途は知ることはできなかった。ただ、こいつを発動すれば、一定時間は機体の能力を何倍にも増幅できる。粒子放出量を何倍にも跳ね上げて、オーバードライブさせることで機体のスペック自体を底上げするんだ。確か・・・素の状態から考えると、3倍ほど、だったかね。」

 

ロックオンが説明した「トランザムシステム」の一端であろう能力。

 

それは、イオリアが発見し発表した「ESPによる読心と思考転写に頼らない、全く未知の粒子の発見」と題された研究課題において、イオリア自身が考案したこの未知の粒子、つまりは「GN粒子」を用いた動力炉である「太陽炉」の能力の一つであることが容易に想像できた。

本来の用途。それはつまり―――――

 

「そうか。やはりそういうことか」

 

合点がいったように、イオリアは1人そう言った。

 

「トランザムと呼ばれるシステムは、意思を伝達するが如く使える粒子の増幅装置だよ。」

 

イオリアはそう呟く。

そして、突然立ち上がると自分のデスクに山積みになった書類の山を崩し、その下にあるいくつかのファイルを手に取って、それを捲り始めると中身に目を通していく。

 

「ああ、やはりそうだ。」

 

彼が見ていたのは、彼が特殊粒子と呼ぶGN粒子のことだ。

 

「君の言う「トランザム」とは、太陽炉に大量に蓄積された圧縮粒子を全面開放することによって太陽炉の能力を飛躍的に向上させる力を持っている。」

 

言葉を続けるイオリア。

 

「かつて、この計画の前に行われていた第3計画―――――AL3計画では、人工的に生み出されたESP発現者の大量生産、それを使ったBETAとの言葉を、或いは思考を用いた対話を試みることが大きな目的だった。対話の相手が、話の通じる相手なのか(・・・・・・・・・・)を確かめるために。」

 

「それは私も知っているわ。しかも、未だに計画から離脱した連中がソビエト連邦内で同じ研究を続けているって。」

 

夕呼がそう言う。

AL3計画。それは、AL4発動前に、ソビエト連邦主体で行われた、BETAとコミュニケーションを取るべくそこに心血を注いで行われた人類救済のための代替計画であった。

 

「そうだ。私は、そのような人間をもちいた非人道的な研究ではなく、別の方向からアプローチをかけて研究を行っていた。」

 

その過程で発見されたのが、GN粒子。

 

「私の発見した粒子が人体にどのような影響を持つのかがわからない。故に、動物実験を行った。その際に、偶然にも分かったことがあった。」

 

ESP発現者というのは、リーディングによる読心能力と、プロジェクションによる思考転写能力をやることができる。

ESP発現者は、そのリーディングの際に「色」によって人の感情を読む。色彩は様々だが、それによって感情を読み、思考を読める。

 

「生成された粒子内に長時間晒した動物の脳に、著しい変化が見られたからだ。」

 

最初は、それなりに高度な思考能力を有する犬で行われた。

次にそれに近い動物たち。

そして、霊長類に分類される猿や、それに類する動物たち。

 

「その研究からわかったのは、この粒子は動物の脳を活性化させ、「進化」を促すということだった。」

 

先ほど彼は「非人道的ではない」と言ったが、今の話を聞いていたロックオンからすれば十分に狂気に満ちた研究だった。

 

「そして、もう一つ。ある実験中に起きた事故によって、皮肉にもその粒子の能力の一端が分かった。」

 

実験中に起きた事故。

それは、彼が研究を行っていた施設内で起きた事故だった。

GN粒子が発見され、生成方法を突き止めた。しかし、問題があった。

それは、粒子を生み出すことはできても、満足に貯蔵可能なものが存在しなかったためだ。

その、貯蔵可能な容器ともいうべきものを作り出すために行っていた実験の際に起こった事故によって、見つかったのだ。

 

「それは、実験中に許容量を超えた粒子が漏れ出し、それによって起こった爆発事故が原因だった。」

 

幸い、イオリアはモニター越しに実験の様子を見ていたから何も問題はなかったが、実験を行った区画は違った。

観測するための部屋と別々になっていた簡易的な粒子発生器と様々な機械群、そして簡易的な粒子貯蔵タンク。

そこに囲まれた場所で起こった爆発事故は、偶然にも高濃度GN粒子による空間を作り出したのだ。

 

「奇跡だったよ。ESP発現者でもないのに関わらず、思考を読むことができた。」

 

普通なら届くはずのない声が届いたという事実。

 

「誰でも分け隔てなく、平等に意思の疎通をする。これはね、私の理想とする人類意思の共有を可能とし、願わくばあの化け物共とも対話が可能となる」

 

夢か幻だったはずの理論は、実証された。

 

「でも、そんな状況で人は正気なんか保てないでしょう?」

 

「そうだ。人間の脳には限界が存在する。だが、私の発見した特殊粒子には、あの事故によってESP発現者に似た能力を擬似的に常人にもたらすことを確認できた。その過程で私に協力してくれた研究者が、犠牲になってしまったがね。」

 

行き過ぎた技術が、その時代の技術力では御しきれないにも関わらず生まれることはある。

つまるところ、そういう危険な面も孕んでいたのが、このGN粒子だった。

 

「今現在の技術力では、この粒子を安定して人に有害にならぬように運用するのは非常に難しい。恐らくだが、君の世界における太陽炉も、生産数が少なかったのではないかね?」

 

その指摘は正しかった。

ロックオンが知る限りでは、既存の太陽炉は、GN-001「エクシア」、GN-002「デュナメス」、GN-003「キュリオス」、GN-005「ヴァーチェ」(ならびにGN-004「ナドレ」)と、最初のガンダムたる「Oガンダム」のものも合わせて計5基が存在していた。

しかし、オリジナルの太陽炉はそれしか存在しなかったのだ。

事実、それのデッドコピーである活動制限が存在する擬似GN粒子とそれを用いて動かす擬似太陽炉が存在したが、それも結局はCBの独自技術であり、ロックオンのいた世界の各国軍も、CBの裏切り者による擬似太陽炉の設計データと実物の提供があったからこそ運用ができた代物であった。

 

「ああ。俺の知る限りでは、俺が乗る機体を合わせると太陽炉は5基しかない。」

 

「やはりな。その数は、揃えられる限界数だったのだろう。君が言った300年前の私がいた世界では実現が難しかったはずだ。限定的な条件下・・・例えば、宇宙空間における特殊な条件の下、特殊な製造施設を使って製造された、と考えるのが妥当であろう。」

 

「そして、その製造には百年単位でかかるということね?」

 

だからこそ、CBが武力介入を行った時点で太陽炉は5基しか存在しなかったのだ。

 

「未だ、あの粒子を貯蔵して安定して保管することが可能な「容器」を開発するに至っていない。」

 

つまるところ、イオリアの出した結論は、「この世界において「太陽炉」の即時再現は不可能」というものだった。

 

「太陽炉を用いた兵器全てにそれが言える事だろう。現状、正確な製造方法がわからない限りは君の乗る太陽炉搭載機と同等の性能を持つ二つの要素を揃えることは不可能というわけだ。」

 

無慈悲な現実。

それを淡々と述べていくイオリア。

 

「・・・やっぱり、あの機体を使う以外に博士の研究をすぐに運用することはできないのね。」

 

再び八方塞がりであると、そう夕呼は考えた。

 

「なら、実現できる技術はどうだ?」

 

唐突に、発言した男がいた。

ロックオンだ。

 

「俺の相棒・・・っていうかだが、俺の所持する情報端末「ハロ」。そいつに、俺たちの技術の基本的な情報以外に、各国陣営の主力機動兵器の詳細な情報も入ってる。」

 

ロックオンは自分の考えを二人に述べていく。

 

「粒子の精製技術自体はあるんだろう?だったら、それをどうやって活用していくかだ。」

 

「だが、現状の技術ではすぐさまあの動力炉を作り出すことはできないと、先ほど結論が出たではないのかね?」

 

「前例がある。俺たちは、「疑似太陽炉」って呼んでいたがね。」

 

それは、組織の裏切り者によって国連へともたらされた技術だった。

 

「原理は知らねえが、あれはオリジナルの太陽炉と殆ど性能は変わらないが、恐らくは粒子の生成方法が異なる。俺たちの運用する太陽炉の場合は本体自身が核動力と同じで粒子を精製していくのに対して、その技術が解明仕切れてない状況で登場した擬似太陽炉は外部から粒子を精製して運用していた筈だ。」

 

「原子力発電は、調整するための様々な施設が必要だけれどその膨大なエネルギー自体は、自力で全てを賄う。それに対して、火力発電の場合には燃料が必要とされるのと同じ原理かしらね。」

 

「ああ。オリジナルのGN粒子を使っての動力炉製造、或いはそれをメインに使った武装や機体の再現は不可能。そいつは分かった。だけど、その技術を流用して、既存の技術力でできる範疇で、せめて劣化版くらいなら作れるんじゃないか?」

 

苦肉の策ではあるが、これが最善策なのではないか?と。

ロックオンは、二人にそう言っているのだ。

 

「ソレを実現するには、特殊粒子の原理をそれなりに理解していなければできない、ということかね?」

 

「ああ。粒子の能力解明には、俺のデュナメスを使えばいい。それこそ、アンタにとっちゃ願ったり叶ったりじゃないか?」

 

ロックオンのその提案に、イオリアは渋い反応を示した。

それもそうだ。

あくまでもそれは別からの技術提供なのだから、自分で解を求める生き物である研究者という人種であるイオリアが難色を示すのも無理はなかった。

 

「アンタは気に入らんかもしれねぇが、例えばSFでいう並行世界のアンタ自身が作ったものだ。それは決して、“ズル”ではないとは思うがね。さっきも言ったが、科学者の心情なんてのは俺にはわからんが・・・少なくとも、「イオリア・シュヘンベルグ」が作ったのには変わらないだろう?」

 

屁理屈。

しかし、イオリアという人間としては珍しく、彼は他人の意見に対して一部とはいえ納得しつつあった。

 

「・・・確かに、君の言うことにも一理ある。なればこそ、君の持つ太陽炉の実物は、あくまでも私の研究の参考資料として用いさせてもらおうか。」

 

「オーライ。じゃあ、この話はOKって事でいいかい?シュヘンベルグ博士。」

 

二人の話に珍しく置いてけぼりを食らっている夕呼に、イオリアが言う。

 

「素敵なプレゼントをどうも有難う、香月博士。さて、それでだが…今の件に関する見返りは、何を求めるのかね?」

 

壮年の科学者は、魔女とまで異名を取った若き女性科学者に問う。

 

「まったく・・・勝手に話を進めていながら、結局は私に意見を求めるのね?まあいいわ。科学者とか研究者っていうのは、そういう人種だもの。」

 

そうして、イオリアとロックオン。

二人を交互に見ながら言う。

 

「なら話は簡単よ。これから直ぐにでも、使える情報、技術の取捨選択をしていく。」

 

それに関して行うには、こればかりは彼女一人では無理だ。

だからこそ、彼女は二人に言う。

 

「それをするには、シュヘンベルグ博士とロックオン、貴方達二人の協力が不可欠よ。そして、これをやるには新たな部門も作らなきゃならないわ。」

 

今までの話のまとめに入っていくゆ夕呼。

 

「データの洗い出しと、使えるものの取捨選択をしていく。その上で使えそうな技術は流用可能なのかどうかの検証。その上で、博士には引き続き特殊粒子とその動力炉に関する研究を続けていく。それも踏まえた上で、既存の物のアップデートを図っていく…。欲張りなやり方ではあるけれど、これを並行してやっていかなければいけないわ。」

 

話を聞いていた二人は、その提案に頷いた。

 

ーーーーーこれが後の、特殊技術研究部の誕生である。

 

 

 

 

 

もう一つの歯車を加えて、大きな歯車が回っていく。

時計の針は徐々に動き出し、本来の世界からはズレ始めている。

本来の道筋を外れた未来は、果たして大きく変わることはあるのか。

或いは、何も変わらないのだろうか?

 

それは、誰も知る由もない。




戦火の渦中にある日本。
防衛戦は未だ終わることなく、終わりのない消耗戦は人から正気を奪って狂気を生み出す。
人類は幾度となく選択を迫られ、今この瞬間も選択を迫られていた。
否、選択肢は一つだけ。

次回「逃げる勇気」

犠牲の果てに見たのは、絶望か。
或いは、希望か。

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